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時 間 性 の 言 説 と し て の 宗 教 進 化 論 の 系 譜

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問題の所在   本論文は︑宗教進化論を﹁特有の時間的枠組みのもとで対象の分類や配列を行う言説﹂と定義し︑その十九世紀

から現在に至るまでの系譜を描写することを目的とする︒﹁進化論﹂という主題は︑これまで宗教研究の分野にお

いても度々扱われてきた︒だが︑その語が指すものは文脈によって様々であり︑そのために多くの混乱が生じてい

『宗教研究』90巻輯(2016年)

時 間 性 の 言 説 と し て の 宗 教 進 化 論 の 系 譜

藤   井   修   平

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る︒以下ではまず︑本論で扱う対象を限定するために︑﹁進化﹂の語に内在している三つの意味を明確化する︒   一般に﹁進化﹂という語から第一に呼び起こされるものは︑より良い形態への発展︑前進という意味内容だろう︒この語義は国語辞典においても確認されるもので 1︑幅広い分野で用いられている︒本論で分析の対象にするの

はこの意味での進化であり︑これを﹁段階的発展としての進化﹂と呼ぶ︒

  一方で︑進化論が提唱された場である生物学においては︑﹁進化﹂は前進的・発展的な含意を持たない︒生物学上の定義は﹁集団中の遺伝子頻度が時間とともに変化すること 2﹂であり︑同分野では進化とは進歩ではないという ことがしばしば言われている 3︒この意味での﹁進化﹂は宗教研究の領域においては︑進化心理学や認知科学が用い ている 4︒本論文で扱う宗教進化論は生物学的理論とは多くの点で異なっているが︑第一の差異はそれぞれが﹁進

化﹂の語に与える意味に由来している︒

  このような二つの意味に加えて︑宗教学の分野では﹁進化主義・進化論︵e 5volutionism︶﹂という語は宗教学史上

の一段階を指すものとしても用いられている︒この文脈では︑十九世紀後半から二十世紀初頭にかけての研究者が

進化主義的姿勢を有しているとされる︒例として︑L・ジョーンズ編﹃宗教学辞典﹄第二版では﹁進化主義とは︑一群の同種の理論︑ふつう宗教の起源と発展の説明を試みた十九世紀の人類学理論を指すのに用いられる用語であ

る 6﹂と述べられている︒同様の見解はE・エヴァンズ=プリチャードの一九六五年の著作﹃宗教人類学の基礎理

論﹄にすでに見られる︒彼はタイラーやフレイザーに対し︑彼らが宗教の起源と本質をきわめて原初的な社会に求めており︑それは彼らが有する︑単純なものから複雑なものが進化したという前提のゆえであったと批判してい

る 7︒この批判では︑進化論と宗教の起源の探求を不可分のものとして結び付けている︒こうした見解は広く見られ

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時間性の言説としての宗教進化論の系譜

るが︑そこでの﹁進化﹂が意味するものは明瞭ではなく︑宗教が呪術のような別の形態から進化したという宗教の起源に関する言説を﹁進化論的﹂と呼んでいることがうかがえる︒しかしこのような﹁宗教の起源・本質の探究の

言説としての進化論﹂とは重なり合わない領域においても宗教進化論と呼べるものは存在しており︑また一方で宗

教の起源についての主張がすべて進化論となるわけでもない︒換言すれば︑この第三の意味での宗教進化論は﹁宗教に進化したという論﹂であり︑﹁宗教が進化するという論﹂ではないといえる︒両者の差異は︑時間の経過に伴

う宗教の変容を認めるかどうかにある︒

  以上に示したように︑宗教研究の場における﹁進化﹂という語は﹁段階的発展としての進化﹂︑﹁ダーウィニズム 的進化﹂︑﹁宗教の起源・本質の探究の言説としての進化﹂という三つの意味に用いられており︑このことが異なっ た観点から﹁進化﹂の語を用いる研究者間の相互理解を妨げる原因となっている 8︒こうした状況においては︑様々

な﹁進化﹂に関する言説を︑その意味ごとにより分け︑混乱を解きほぐすことは有意義であると考えられる︒本論

文は︑ここに提示した三つの意味のうちで︑第一の﹁段階的発展としての進化﹂を論じた宗教理論を対象とし︑その歴史と現状を明らかにする︒

  宗教進化論という主題に対する先行研究としては︑﹃パーソンズ・ルネッサンスへの招待﹄に収録されている島

薗進の﹁﹃宗教の進化﹄を論じうるか││パーソンズ宗教論の限界﹂が挙げられる︒ここでは宗教進化論の歴史が概観された後に︑R・ベラーの宗教進化論と︑それに影響を受けたT・パーソンズの進化論が分析および批判され

ている︒島薗の主張は︑両者の宗教進化論は﹁宗教﹂概念の西洋中心性︑歴史事象との不一致︑キリスト教的な偏

向性の点において問題があるというものである︒この批判は宗教進化論が共通して有する難点を的確にとらえてい

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るが︑一方で前史として述べられる﹁エドワード・タイラーやハーバート・スペンサーの宗教進化論の枠組み 9﹂に

ついては明確ではなく︑また呪術から宗教への進化という言説のみが︑宗教進化論として理解されている︒だがスペンサーに加え︑ここで言及されているベラーもこのような呪術から宗教へという形の進化論は主張していないの

であり︑これは宗教進化論の概念化として不十分なものである︒また︑これまでの研究一般に不足しているものと

して︑生物学における進化論のもたらす影響について考慮されていないという点も挙げられる︒以下に示すように︑宗教進化論は生物学的進化論の変遷とともに姿を変えてきており︑とりわけ現代の宗教進化論を検討する上で

この観点は重要であると考えられる︒このような状況において本論では︑宗教進化論の定義を明確化した上で︑人

類学や生物学における進化論との関連を考慮に入れて︑宗教進化論の系譜の記述を試みる︒これにより︑これまで

光の当たっていなかった宗教学理論史の一側面が明らかとなるだろう︒

一  宗教進化論の定義   本論文では︑﹁宗教進化論﹂を︑特定の枠組みから宗教を取り扱う姿勢とみなす︒その枠組みは︑以下の四つの特徴によって定義される︒

1  通時的・通文化的な視点   宗教進化論の成立のためには︑前提として対象となる宗教が複数の時代や文化にわたって取り上げられていなければならない︒これは宗教進化論のみならず︑比較宗教学や宗教現象学など﹁宗教﹂一般について語る言説に共通

の要素だといえるが︑ここで重要なのは︑宗教進化論には時間軸が存在するために︑常に通時的視野を有している

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時間性の言説としての宗教進化論の系譜

点である A︒ 2  単一の進歩の尺度   進化論的言説においては︑諸要素はある程度歴史的発生順序に従って配列されるが︑それに加え︑独自の基準に

よって事象を理解している︒その基準となるのが︑進歩の尺度である︒宗教進化論は単一の尺度を設定し︑それに従って対象を配列する︒その尺度は論者によって様々であるが︑尺度が一つであるゆえに︑対象は一本の直線上に

配列が可能となり︑また相互間の優劣の比較も行いうるものとなる︒この点から︑宗教進化論の枠組みにおける

﹁進化﹂は前進・発展という﹁進歩﹂の意味を有しているといえる︒このような姿勢は︑生物学においては定向進

化論と呼ばれる姿勢に類似している︒

3  段階的な区分   宗教進化論は対象間の序列を明確にするために文化や社会をいくつかの段階に分け︑個々の事例をそのいずれか

に帰属させる︒設定される段階の数は︑しばしば三である︒以下に述べるように︑コントの神学的・形而上学的・実証的段階やパーソンズの原始・中間・近代など︑様々な三段階が考え出されてきた︒このような区分は社会類型

論の一種でもあるが︑進化論的類型に特徴的なのは︑それぞれの類型に時間的順序が設けられている点である︒

4  進歩の法則視   単一の尺度が存在するために宗教進化論はその基準となる要素の増大として進歩を語ることができるが︑しばし

ばこの進歩は必然であるとみなされる︒これは︑基準とされる要素の増大が歴史における法則として理解されてい

るがゆえである︒また︑ある要素が時間とともに増すことを不可避の法則とみなすことの帰結として︑未来の状態

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への言及が可能となる点も注目に値する︒すなわち︑その要素が今後も増していくことが見込まれているために︑

将来の予測を行うことができるのである︒この点において進化論は単なる歴史的事象の配列であるに留まらず︑社会に関与するための実践的な道具としても用いられうる︒

  以上の特徴のすべてないし大多数を備えているものを︑本論は﹁宗教進化論﹂として扱う︒この定義の中には

﹁進化﹂の語は含まれていないため︑進化論を自称しないものをこの枠組みに収めることも可能である︒例として︑島薗も述べているようにM・ヴェーバーの脱呪術化のテーゼは合理性を尺度とした宗教進化論の一種とみなせる B︒

また世俗化理論一般に関しても︑その宗教進化論との類似性はすでに指摘されており C︑本論文の提示する枠組みを

適用すれば︑宗教変容論のうち宗教の私事化などを進化の尺度として設定したものを世俗化理論とみなすことがで

きる︒このように宗教進化論の枠組みは文明論や宗教変容論を幅広く視野に入れることができるが︑本論文では議論の範囲を宗教の進化を語る言説に限定する︒これは︑そうした言説が宗教の変化を語る際に他の語を用いずに︑

進化という語を選択した点に何らかの意味が存在すると考えられるからである︒以下で論じるように︑生物学にお

いて示される生命観との共通点や相違の面から人間社会を考察する視点が︑他の宗教変容論には見られない宗教進化論の特徴である︒

  このような形で宗教進化論を概念化することには︑いくつかの利点がある︒第一に︑異なる意味において﹁進

化﹂について述べる言説との差異を明確にすることができる︒本論における宗教進化論は宗教起源論や本質主義を含みうるが︑必ずしもそれを前提としていない︒また︑宗教進化論が有する通時的な視点からは︑生物学的宗教理

論との区別も行うことができる︒第二の利点として︑宗教進化論はより一般的な枠組みを宗教に適用したものとし

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時間性の言説としての宗教進化論の系譜

て理解するために︑社会進化論︑文化進化論における﹁進化﹂の用語法との整合性を持たせることができ︑それらとの連続性を明らかにすることができる︒宗教進化論は文化・社会進化論の一側面として派生する場合もあり︑そ

の成立背景の把握のためには︑両進化論との連続性の理解は必須である︒

二  コント

スペンサーにおける進化論的枠組みの成立   この定義に基づいて︑以下に宗教進化論の系譜の記述を行う︒段階的発展としての進化論が定式化されるのは生

物学的進化論と同じく十九世紀であり︑それ以後は同様の図式が引き継がれている︒そのような図式の提唱者とし

て︑A・コントとH・スペンサーを挙げることができる︒まずは宗教進化論の枠組みが成立する端緒として︑両者の見解を取り上げる︒

1  コントの進化の法則   コントは︑前述の宗教進化論の要素をすべて取り揃えた図式を提唱した点で︑進化論的枠組みの範例を示しているといえる︒彼は一八二二年の論文﹁社会再組織に必要な科学的作業のプラン﹂において︑人間精神が通過する

段階として︑神学的・形而上学的・実証的段階の三つを提示したが︑後にこの移行を法則とみなし︑﹁進化の法則

︵loi de l’évolution︶﹂ないし﹁三段階の法則︵loi des trois états︶﹂と呼ぶようになった︒この法則には︑科学や宗教など人間のあらゆる制度が従うとされている︒宗教については︑﹃実証精神論﹄において神学的段階をさらにフェテ

ィシズム・多神教・一神教へと区分している︒コントの進化論に特徴的なのは︑各段階を不可避かつ必要なものと

理解している点である︒﹁人間のすべての思索は︑最初の発展期には必然的に神学的である︒それはおのずから︑

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最も解決の難しい問題︑どんな徹底的探究によっても到達できないような主題を特に愛好するという特徴を持つ E﹂

と述べられているように︑人間が万物の起源や究極原因などの問題を考える原初的欲求を有しているがゆえに︑誰もが最初に神学的段階を通過するとされている︒また︑コントは実証的段階を最上のものとしながら︑それ以前の

段階を捨て去りはせず︑それらが現在に及ぼしている影響を肯定的に評価すべきと考えている F︒コントの設ける進 歩の尺度は﹁実証性﹂であり︑実証的という語には法則定立的︑現実的︑確実といった意味が込められているが︑同時に実証精神は人間の制度や状況に対して相対的であるべきとし G︑事物の起源や究極目的に関しては不可知論的

態度をとっている︒

2  スペンサーの進化の図式   単線的な進歩の道筋の上に人間精神の発展段階を位置づけるコント型の進化論に対して︑スペンサーはダーウィン進化論やドイツ生理学を取り入れた結果︑より複層的な社会進化の図式を形成した︒彼は一八五七年の論文﹁進

歩について﹂において進歩︵progress︶とは分化であるとし︑﹁有機体の進歩が均質から不均質への変化であること は議論の余地がない H﹂と述べて︑有機体とみなされる社会の分化や複雑化の過程の考察を行っている︒ここでは生物や社会の進歩の事例を挙げながら︑生理学における有機体発展の法則が社会の発展法則ともみなしうると述べら れている I︒彼は後に社会の発展を進化の語で呼ぶようになるが︑スペンサーの理解する進化とは複雑化であり︑生 物学におけるこの概念と同様に低級から高級なものへの上昇でないことには注意すべきである J︒彼は﹃社会学原理﹄において﹁進化は一般的には︑万物が高次のものに変わる内在的傾向性を意味すると理解されている︒このよ

うな理解は進化の概念を誤解している︒あらゆる場合において︑進化は内的要因と外的要因の相互作用によって決

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時間性の言説としての宗教進化論の系譜

定される K﹂と述べており︑進化の過程は進歩と解消︵dissolution︶の双方の力の働きによって構成されるとしている︒

  このように︑コントとスペンサーは進化をそれぞれ単線的な前進と分化を伴う複雑化ととらえたが︑両者の枠組

みはその後も引き継がれ︑コント型︑スペンサー型に分類できる進化論者を生み出している︒

三  二十世紀中葉における文化

社会進化論   次に︑二十世紀半ばの社会・文化進化論の展開と︑その宗教進化論への派生について記述する︒この時期の人類

学に現れた新進化論の一派については宗教研究の分野ではこれまで扱われていなかったが︑彼らは二十世紀の進化論の枠組みの復興の原動力となっているのであり︑ここで取り上げる意義も大きいと思われる︒

1  人類学における新進化論   コント的な人類進歩の図式は︑人類学においてはL・モルガンなどがこれを用いていたが︑このような図式は十九世紀末から二十世紀前半にかけて︑F・ボアズによって手厳しく批判された︒そこでは西欧中心主義・進歩の法

則視・歴史的資料の無視といった要素が浮き彫りにされ︑否定されることになる︒しかしボアズの作り上げた進化

論批判の趨勢に反して︑二十世紀半ばの米国において﹁新進化論﹂と呼ばれる一派が生まれた︒その端緒といえるのはL・ホワイトが一九四五年に発表した論文﹁歴史︑進化論︑機能主義﹂である︒本論文でホワイトは︑進化論

が歴史的視点と機能主義的類型論を兼ね備えたものだとしてボアズへの批判を行った上で︑﹁人類学からの進化論

的視点の排除は︑ここ数十年の文化人類学のある学派に広まっていた反動的な反進化論哲学の反映である︒進化論

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は論理的分析の誤りだとして拒絶することは︑哲学の欠陥であり︑科学としての人類学への最悪の損害である L﹂と 述べている︒ホワイトの提唱する文化進化論は文明が単位時間あたりに利用可能なエネルギー量を進歩の尺度としており︑この観点からは主に道具の発明や改良が進歩とみなされる M︒

  これに加えてJ・スチュワードやG・チャイルドも進化論を展開し︑さらに彼らの弟子であるE・サーヴィスと M・サーリンズによって方法論が体系化された︒二者の共編による著作である一九六〇年の﹃文化と進化﹄では︑ホワイトの発展的進化論を﹁一般進化︵General Evolution︶﹂︑スチュワードの分岐的進化論を﹁特殊進化︵Specific 

Evolution︶﹂と呼んでいるが︑進歩によって高次の形態が低次の形態から生まれることを一般進化︑適応によって 多様性を生むものを特殊進化としている N︒このうち一般進化が含意するものについては︑

文化進化の特殊的側面を見るなら︑我々は文化相対主義者となる︒しかしこれは︑拡大され歪められた相対主義者の主張︑つまり﹁進歩﹂は一つの道徳的判断に過ぎず︑従って︑すべての﹁進歩﹂はすべての道徳と同様

に相対的なものだ︑という主張を正当化するものではない︒適応前進それ自体は相対的であり︑道徳と同じよ

うに多かれ少なかれ効果的な特殊化として判断できる︒しかし︑文化には一般的進歩も生ずるのであり︑これは絶対的・客観的に︑かつ道徳とは関係なしに確定できるものである O︒

と述べられているように︑ここでは文化相対主義が否定されており︑進歩は客観的法則として見出せることが示唆

されている︒また︑特殊進化については︑それが局地的な環境への適応を目指すものであるので︑むしろ一般進化を妨げるものとされている︒サーリンズらの設定する進化の尺度は利用できるエネルギー量および﹁より大きな適

応能力︵a Pdaptability︶﹂である︒この語は︑生物が困難な環境においても生き延びることができる能力を意味してい

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時間性の言説としての宗教進化論の系譜

る︒この尺度はこれまでの進化論には見られなかったものではあるが︑根本的な枠組みにおいては︑コントのそれと多くを共有している︒

2  パーソンズ︑ベラー社会学における進化論   このような新進化論の興隆を受け︑社会学の分野でスペンサーの進化論を取り入れ︑自らの理論体系に組み込んだのがT・パーソンズであった︒彼は後期の著作群に分類される﹃社会類型││進化と比較﹄および﹃近代社会の

体系﹄において︑社会進化論を展開している︒彼は社会を原始・中間・近代に区分し︑

われわれの視点は明らかに進化論的な判断を含んでいる︒たとえば︑中間諸社会は原始諸社会よりも進んでお

り︑ここでは検討できないが︑近代諸社会は中間諸社会よりも進んでいる︒私はいっそう一般的な適応能力を持つ体系を﹁進歩した﹂と呼ぶことで︑基本的基準を生物学理論で用いられているものと合致させるように努

めた Q︒

と述べている︒ここからわかるように︑パーソンズは社会ごとの環境への適応能力を進化の尺度としてとらえているが︑これはサーリンズの見解と共通するものである︒また︑パーソンズ研究者のR・ロバートソンによると︑パ

ーソンズはキリスト教の進化︑とりわけ経済的領域の分化が人類社会の進化に与えた影響を重要視していた R︒これ

はヴェーバー理論を進化論的に表現したともいえるが︑パーソンズの社会進化論に宗教の進化が組み込まれていたことが理解できる︒さらに︑彼の弟子にあたるR・ベラーもまた一九六四年に﹁宗教の進化﹂の論文を著し︑一般

に宗教進化論として知られる理論を確立している︒ベラーは進化を組織の分化と複雑性の増大というスペンサー的

な観点で理解しており︑﹁私は進化が不可避的︑不可逆的なものだとは考えていないし︑単一で特定の道筋をたど

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らねばならないという想定もしていない S﹂と︑進化の法則性︑定向性も否定している︒ベラーはこの論文において

宗教の段階を原始・古代・歴史時代・初期近代・現代の五つに区分しており︑それぞれの段階が有する特性を記述している︒

3  文化・社会進化論と生物学的進化論との関連性   このように︑人類学と社会学双方の分野で一九四〇年代から進化論復興の動きが起こり︑文化・社会進化論およびそこから派生した宗教進化論が生み出されていた︒これは︑生物学の発展とも無関係ではない︒西洋思想に対す

るダーウィニズムの影響を研究したP・ボウラーによれば︑現代生物学の主流理論である現代総合説が成立したの

が一九四〇年代であり︑彼はこれ以後にダーウィン関連の書籍が多数出版されるようになった状況を﹁ダーウィン

産業﹂と呼んでいる T︒現代総合説とはダーウィン進化論と集団遺伝学を統合したもので︑進化の過程は個体間の競争による自然選択と︑環境に対する適応であるという主張を根幹に置いている U︒適応の概念は新進化論やパーソン

ズの理論に取り入れられているが︑これはコントやスペンサーには見られない傾向である︒一方で︑この時期から

文化・社会進化論は生物学的進化論から切り離され︑独自の発展を遂げ始めたともいえる︒このことはサーリンズらによる一般進化・特殊進化の二分法に示されている︒彼らが重視する一般進化に対し︑特殊進化の概念は生物学

の見解を比較的適切に反映しているが︑彼らはそのような進化観念を持つ生物学を相対主義として批判の対象にし

ている V︒文化・社会進化論は生物学者が否定する直線的進歩という進化観を依然として保持するという点において︑生物学的進化論との差異を有しているのである︒

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時間性の言説としての宗教進化論の系譜

四  現代の宗教進化論   これまでは︑宗教進化論の枠組みがコントとスペンサーによって確立された後に︑新進化論やパーソンズによっ

て人間社会を扱う独自の理論として打ち立てられたことを見てきた︒そして二十一世紀においても︑同様の枠組みを有する言説は提唱され続けている︒そのことを示すために︑以下に三人の研究者による宗教進化論を取り上げ︑

なぜこれらの著作で進化論の枠組みが用いられているのかという点に重点を置いて分析を行う︒

1  スタークの神の把握能力の進化論   まずは︑二〇〇七年に刊行されたR・スタークの﹃神の発見││大宗教の起源と信仰の進化﹄を扱う︒宗教社会学者であるスタークは︑一九八七年の著作﹃宗教の理論﹄において︑社会の変動に伴い信仰される神も変化すると

述べ︑﹁こうしてわれわれは︑より大きな領域の神へ向かう進化的な傾向を推測することができる︒このことは歴

史的記録の中に一貫して見られる W﹂という宗教進化論を展開していた︒ここで彼の推定する進化の道筋は﹁神の領域︵scope of the gods︶﹂の増大であり︑雷などを司る個々の神から︑万象を統制する唯一神崇拝への変化が例とし

て挙げられている︒このような観点を有していたスタークであったが︑﹃神の発見﹄においては神の進化よりも発

見に重点が置かれている︒両者の差異は神が存在している可能性を認めているかどうかであり︑﹁発見﹂テーゼの場合︑﹁多くの宗教は真正な啓示に基づいているということが︑控え目に言ってもありうる︒その啓示は神が人間

の把握能力の限界内で伝えられたもので︑神の言葉は誤解され︑誤って伝えられてきた X﹂という見方をし︑そのた め﹁本書は人間の神へのイメージの進化ないし︑人間の神に対する把握能力の進化の研究だといえる Y﹂とされる︒

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ここから理解できるように︑本書でスタークは人間が神を把握する能力を進化の尺度としている︒彼は文化進化が

単線的ではなく︑また必ずしも進歩に向かって進むものではないとしているが︑人間はより大きな満足を提供する神のイメージを選択するという宗教の適者生存の視点を採用しているために︑﹁人間の神へのイメージはより小さ

な領域のものから︑より大きな領域を持つものへと進歩する Z﹂と︑定向的な進化の道筋が想定されている︒   このような枠組みに基づき︑スタークは﹁原初的﹂社会の宗教からシュメールやギリシア︑アステカ等の古代宗教 a︑そしてユダヤ教︑ヒンドゥー教︑中国宗教︑キリスト教︑イスラームまでを配列して記述している︒こうした

図式は︑タイラーらと同様の批判を被りうる古典的な進化論と見なしうるものである︒しかし本書は全体として

は︑必ずしも進化論的図式に従ってはいない︒社会進化の反例を提供しているA・ラングの高神概念に言及し b︑古

代ローマで多様な宗教が混淆している状況を描写しているなど︑個々の事例は必ずしも優れた宗教が劣った宗教を打破したという筋書きには沿っていない︒個別宗教を扱った章は以前に行われた講義の内容を再編したものである

という成立事情を考慮しても︑本書は宗教進化論に基づいているというより︑世界の諸宗教の解説に対し︑全体を

秩序付ける枠組みとして進化論を採用したと理解するのがふさわしい︒個々の事象の体系化という目的のために宗教進化論が用いられうることを︑本書は示しているといえる︒

2  ライトの寛容の進化論   科学著述家であるR・ライトは︑﹃三人の科学者と神﹄において社会生物学者であるE・ウィルソンを取材しているが︑そこではウィルソンの主張に対して批判的な姿勢を見せており︑二〇〇九年に著された﹃神の進化﹄はそ

れとは異なる視点から宗教の進化を語ったものである︒ライトが進化の尺度として据えているものは︑ゲーム理論

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時間性の言説としての宗教進化論の系譜

の用語からとられた﹁非ゼロサム性﹂である︒この語は集団に参与した人間の一方が搾取されるのではなく︑参与者全員が利益を得ることを意味しており︑﹁非ゼロサム性の確固たる成長は人類史の核心であり︑文化進化のエン

ジンそのものである︵⁝︶非ゼロサム性の成長は本書が進むに従って明確になるであろうし︑神の成長もそれに伴

う︒それは神の成長の背後にある原動力である c﹂と述べられている︒換言すれば︑これは宗教がもたらす博愛︑寛容などの道徳性が時代を経て増していくという進化論である︒そのため︑時代ごとの宗教の記述もその道徳性に焦

点が当てられている︒原初的社会においては︑﹁道徳的配慮のコンパスの狭さが狩猟・採集社会の特徴である︒普

遍的な愛でさえ││それは不和の状況でのみ称えられるにせよ︑多くの近代宗教に見られる理念である││典型的

な狩猟・採集社会の理念ではなかった d﹂のであり︑それは以後に語られる首長制社会や古代国家の時代を通して︑徐々に発達してきたものとされている︒ユダヤ教の記述においては︑単一神崇拝︵monolatry︶の段階では致命的な 不寛容を示しており︑そこから他の神が存在しないものとみなす一神教が生まれたと語られている e︒続くキリスト

教︑仏教︑イスラームの記述においても寛容やシンクレティズムが強調されている︒ライトが描写する宗教の進化はイスラームの登場で終わっているが︑全体を貫く進化の方向性を根拠に︑将来の宗教の展望が述べられているの

が本書の特徴である︒最終章では現代のユダヤ教︑キリスト教︑イスラームの間の宗教対立への言及がなされ︑

﹁それらの三つの信仰のすべてにおいて︑個々の宗教の境界を越えて道徳的イマジネーションを拡大するために活動した人がいたことはすでに見てきた︒明らかに︑さらなる進歩の余地はある︒事実︑それは急務である f﹂と︑宗

教間の寛容の必要が述べられている︒ライトが望むのは︑道徳性の進化がさらに進むことであり︑彼は宗教がそれ

を達成することが可能だと信じている︒ここから読み取れるように︑本書の主題である道徳性の発達という進化の

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図式は︑現代社会の問題を解決するために採用されたとも考えられる︒ 3  ベラーの多様性の進化論   ベラーは過去に定式化した宗教進化論の枠組みを長らく用いていなかったが︑ほぼ五十年の歳月を経た二〇一一

年に︑進化論的観点から宗教史を記述する﹃人類の進化における宗教﹄を著した︒彼はかつて宗教の展開に伴う複

雑性の増大という進化観を示していたが︑本書では進化という語から進歩主義的含意を取り除くために様々な配慮がなされている︒ベラーは現代生物学者︑とりわけ古生物学者S・グールドの﹁進化の歴史における進歩の観念へ

の異議 g﹂に言及するなど︑生物学の上でも進化は進歩ではないとされていることを示した上で︑ホイジンガを取り 上げて宗教の誕生における遊びの役割を強調している h︒これは︑進化から生存競争という意味を除こうとしている

のだと考えられる︒彼の述べる宗教の進化とは︑﹁宗教の進化はより悪いものからより良いものへの進歩を意味するわけではないということを強調する必要がある︒われわれは諸部族が有していた﹃原初的宗教﹄から︑われわれ

が有している﹃高級な宗教﹄に至ったのではない i﹂というものである︒とはいえ︑ベラーはかつて奉じていた宗教 進化論の一切を破棄したわけではない︒彼は﹁宗教には諸類型があり︑それらを進化的秩序の上に配置できると私は信じている︒その秩序は良さと悪さにではなく︑それぞれの類型の有する可能性に基づいている j﹂とも述べてお

り︑文化的多様性を進化の尺度としていることが読み取れる︒

  ベラーが本書において提示している宗教進化論は︑現代生物学における進化論の人間に対する適用への異論として理解することができる︒現代総合説が生存競争と適応を進化の原動力としていることはすでに述べたが︑二十世

紀後半に入るとE・ウィルソンの﹃社会生物学﹄やR・ドーキンスの﹃利己的な遺伝子﹄を中心とした︑現代総合

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時間性の言説としての宗教進化論の系譜

説を人間社会の研究に用いる動きが見られるようになる k︒これらは人間社会を本来的に競争的であるとみなすために各分野からの批判を招くこととなったが︑ベラーの著作もこうした批判の文脈に属している︒このことを示すた

めに︑﹃宗教とグローバル市民社会﹄に記録されている講演﹁進化・遊び・宗教﹂を取り上げる︒ベラーは本講演

の冒頭で︑ダーウィンやスペンサーによる進化論の発展とそれに伴う﹁社会ダーウィニズム﹂の成立や﹃利己的な遺伝子﹄について語っている︒ベラーによるとこれらの言説はみな生物の生存競争の面を強調するもので︑﹁この

ように詳述したのは︑進化論とは﹃歯と爪が血に染まる﹄︹テニソン︺自然というとらえ方に基づき︑種のあいだ

の︵個体間ではないとしても︶冷酷な競争だけを教えている︑という考えがなお根強く残っているからである l﹂と 述べられている︒これに対し︑﹁私が﹃人類進化における宗教﹄で取り組んだことは︑競争にせよ協力にせよ︑生 存という問題に直接かかわらない動物や人間の行動の諸相である m﹂とこの著作の目的が語られており︑生存競争と は離れた活動の典型例として遊びが挙げられている n︒このような論理の展開から︑彼の﹃人類進化における宗教﹄

の主眼が︑生存競争を強調する現代生物学に対して遊びという反例を挙げて批判することにあると理解できる︒ベラーが生物学的進化論とは異なるものとしての宗教進化論を再び提唱したのも︑そうした批判の一環であるとみな

せる︒

まとめと結論

  本論文では︑宗教進化論を宗教学上の学説の一つとして明確に概念化した上で︑その成立と変遷を描写してき

た︒進化論的枠組みは人類学や社会学においても使用されてきたが︑この枠組みは生物学における進化論とは独立

(18)

して発展を遂げている︒それは十九世紀特有の言説ではなく︑現代においても採用され続けている枠組みなのであ

る︒以下では結論として︑宗教進化論の学問世界における位置付けについて考察し︑今後の課題を導き出したい︒

  宗教進化論の枠組みは生物学的進化論とは異なるものであるが︑前者は後者との緊張によってその命脈を保って

いるともいえる︒すでに述べたように新進化論は現代総合説の成立に刺激を受け︑そこから適応の概念を取り入れ

る一方で︑生物学的進化を特殊進化と呼び︑それとは別の直線的進歩としての進化を主張していた︒また現代においても︑生存競争とは異なる進化の過程を提示したベラーに加え︑ライトの宗教のもたらす非ゼロサム性の進化と

いう見解も︑競争ではなく協力を強調しているものとみなせる︒このように︑宗教進化論は生物学の提唱する﹁進

化﹂の概念への異論として発展を遂げていると理解することができる︒その点で︑両者は相補的な存在となってい

る︒また︑スタークの例から理解できるように宗教進化論は個別の︑歴史的関連性を持たない宗教事象を結びつけ︑秩序ある体系として提示する役割を果たしてもいる︒この点において宗教進化論の枠組みは﹁宗教の一般理

論﹂の成立を後押しするものである︒加えて︑ライトの著作が示すように︑宗教進化論は未来を予測し︑社会に関

与することを可能とするため︑社会に対する規範的主張を行う際に用いられる道具でもある︒

  本論文で再定義した宗教進化論は︑旧来のそれの理解を引き継ぎつつ︑さらなる議論への道を拓くものである︒

すなわち︑宗教の変化には単一の方向性があるのか︑いかなる宗教をも含む共通尺度を提示することはできるのか

という問いに加え︑他の動物とは異なる人間独自の要素としての宗教という観点や︑現代の宗教変容はどのように進むのかという予測︑そして宗教史一般の記述方法についての問題と宗教進化論は関わっている︒これらの問いに

ついて検討していくことが︑今後進められるべき研究の課題となると考えられる︒

(19)

時間性の言説としての宗教進化論の系譜

︵ ﹁   1︶

︵   2︶寿

︵   3︶

﹂︵﹃︒   4︶﹁﹃

︒﹁︑ evolution﹂︵﹃︶︑︒ evolution, evolutionism, evolution[ary] theory, theory of evolution   evolutionism5︶︑﹁

︵ Lindsay Jones, editor in chief (Detroit, Macmillan Reference USA, 2005), p. 2913.   James Waller, Mary Edwardsen and Martinez Hewlett, “Evolution: Evolutionism,” in , 2nd ed. 6︶

︵   Edward Evans-Pritchard,  (Oxford, Oxford University Press, 1965), p. 16.7︶

“Does Talk about the Evolution of Religion Make Sense?” eds.,  (Santa Margarita, Collins Foundation Press, 2008)    Joseph Bulbulia, et al. 8︶ ︶︑︒   9︶﹁﹃﹂︵

参照

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