九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
学部生のための「ミクロ・マクロ双対性」とその周 辺の物理学講義 補講A2:双対関係と完全性関係
成清, 修
九州大学大学院理学研究院 : 准教授
http://hdl.handle.net/2324/4751325
出版情報:pp.1-3, 2022-01-28 バージョン:
権利関係:
学部生のための
「ミクロ・マクロ双対性」
とその周辺の物理学講義
九州大学理学部物理学科 成清 修
補講 A2 :双対関係と完全性関係
双対関係
補講A1では双対関係が登場しましたが、そこでの議論は正規直交基底 を前提としたような雰囲気で進んでいたかと思います。ここでは、正規 でも直交でもない場合を考えてみます。
簡単な具体例として、3次元の実ベクトルを考えます。線形独立1な基 底{|1⟩,|2⟩,|3⟩}があって、任意のベクトル|ψ⟩は
|ψ⟩=u|1⟩+v|2⟩+w|3⟩ (1) のように、斜交座標系で成分(u, v, w)をもつとします。
双対基底{⟨1|,⟨2|,⟨3|}を双対関係
⟨i|j⟩=δij (2)
を満たすように導入します(i, j = 1,2,3)。⟨1|の図形的解釈2を考えると、
|2⟩と|3⟩によって張られる平面の法線方向にあり、長さは⟨1|1⟩= 1とな るようにとったものということになります。
双対基底は
⟨1|ψ⟩=u (3)
のように、内積によって成分を取り出してくれます。
|1⟩⟨1|を|ψ⟩に作用させると
|1⟩⟨1|ψ⟩=u|1⟩ (4)
1長さが異なっていて、斜交しているとします。
22次元の図解は、例えば、北野「新版マクスウェル方程式」付録Bにあります。
1
のように、|ψ⟩の|1⟩方向への分解が得られます。|2⟩⟨2|と|3⟩⟨3|もそれぞ れの方向の分解を与えるので、
|1⟩⟨1|+|2⟩⟨2|+|3⟩⟨3|=I (5) のように単位の分解(1の分解)が成り立っています。
完全性関係
W次元のベクトル空間を考える3。すでに、式(5)にあらわれた単位の 分解(1の分解)は
∑W
i=1
|i⟩⟨i|=I (6)
となる。これを、完全性関係と呼ぶ。
演習
完全性関係4を使ってみる。(以下のAとBはW ×W 行列の表現をも つ演算子とする)
問 トレースの値は基底の取り方によらないことを示せ。
答 異なる基底{|i⟩}と{|j⟩}について5、完全性関係を挟んで抜いて6
∑W
i=1
⟨i|A|i⟩=
∑W
i=1
∑W
j=1
⟨i|A|j⟩⟨j|i⟩=
∑W
j=1
∑W
i=1
⟨j|i⟩⟨i|A|j⟩=
∑W
j=1
⟨j|A|j⟩
となるから。{|i⟩}と{|j⟩}の関係は何でもよい。
3言葉遣いを丁寧にすると、文章が長くなりがちで、勢いも削がれるので、荒っぽい 言葉遣いにシフトしてみる。
4サクライ「現代の量子力学(上)」には、完全性関係(完備関係式)の“有用性はい くら強調しても強調しすぎることがない”とある。
5いずれも線形独立であれば、正規でなくても、直交していなくても構わない。{|j⟩}
についても、完全性関係
∑W
j=1
|j⟩⟨j|=I
が成り立つ。
6この一連の操作が基底の取り換えになる。
2
問 ABのトレースとBAのトレースは同じ値であることを示せ。
答 やはり、完全性関係を挟んで抜いて
∑W
i=1
⟨i|AB|i⟩=
∑W
i=1
∑W
j=1
⟨i|A|j⟩⟨j|B|i⟩=
∑W
j=1
∑W
i=1
⟨j|B|i⟩⟨i|A|j⟩=
∑W
j=1
⟨j|BA|j⟩ となるから7。
共変・反変
2次元の実ベクトルを考え8、|1⟩ ≡e1、|2⟩ ≡e2および⟨1| ≡e1、⟨2| ≡e2 と書く。
任意のベクトルV は
V =V1e1+V2e2 =V1e1+V2e2 (7)
のように分解される。V1とV2を反変成分と呼び、V1とV2を共変成分と 呼ぶ。
3次元の実ベクトルについて、双対基底の向きの情報を含めて書くと
e1 = e2×e3
e1·(e2×e3) (8) である。
(2022-01-28)
7ABのトレースとBAのトレースは異なる基底で計算されることになるが、前問よ り、同じ値となる。
8このあたりは、フライシュ「物理のためのベクトルとテンソル」4章に詳しく図解 されている。反変成分は基底ベクトルへの“平行”な射影によって得られ、共変成分は 双対基底ベクトルへの“垂直”な射影によって得られる。前者は、基底ベクトル方向の 辺をもつ平行四辺形によるV の分解であり、後者は、双対基底ベクトル方向の辺をも つ平行四辺形によるV の分解である。
3