東 京 地 区 の 犬 に み ら れ た 糸 状 虫 の 種 類
大石
勇*小 林茂雄*久
米清治*
(昭和47年6月2日
受付)
Dirofilaria Species Detected from Dogs in Tokyo
ISAMU OHISHI, S. KOBAYASHI
and S. KUME
(School of Veterinary Medicine, Tokyo University of Agriculture and Technology, Tokyo 183)
SUMMARY
Filarial larvae were collected from 110 dogs raised in Tokyo and examined morphologically by the ace-tone concentration method. All of them were
sheath-less and classified into two species on the basis of the shape, length, and width of the body. The larvae detected from 109 dogs were large in size and
identifi-ed as those of Dirofilaria immitis, and those from the
other dog were small in size and identified as those of
Dipetalonema reconditum. This dog was a hound
im-ported from Kentucky, U.S.A. It was for the first
time in Japan that this species was found in any
pre-fecture other than Okinawa.
緒 言
今 ま で に 世 界 各 地 の 犬 か ら検 出 さ れ た 糸 状 虫 はDiro-filaria immitis(犬 糸 状 虫), D.repens, D.striata,
Dipetalo-nema reconditum Dip. dracunculoides, Dip. grassii, Burgia pa-hangi, B.patei, B.ceylonensisの9種 で あ る.こ の う ちD. striata, Dip. dracunculoides, Dip.grassii, B.pahungi, B.patei, B.ceylonensisは 分 布 が 比 較 的 限 局 し て い る が,他 の3種 は 世 界 各 地 に か な り広 く分 布 し て お り,と く に 犬 糸 状 虫 は 熱 帯 か ら 温 帯 地 域 に か け て 広 く分 布 し て い る.本 邦 の 犬 か ら検 出 さ れ る 寄 生 種 は 犬 糸 状 虫 とDip.reconditumの 2種 で あ る.犬 糸 状 虫 の 流 行 度 は 本 州,九 州,四 国 に 高 率 で,北 海 道,沖 縄 に は 低 率 で あ る. Dip.reconditumは 沖 縄 に 分 布 す る こ と が 近 年 明 ら か と な っ た が18),他 の 地 域 か ら は 発 見 さ れ て い な い. 著 者 ら は 近 年 東 京 都 西 南 地 域 に 飼 育 さ れ,流 血 中 に 糸 状 虫 子 虫 を 保 有 す る 寄 生 犬 を 対 象 と し て 子 虫 の 形 態 的 調 査 を 行 な っ た と こ ろ 犬 糸 状 虫 以 外 の 子 虫 が 検 出 され た, こ の 子 虫 は 形 態 的 にDip.reconditum子 虫 と 同 定 さ れ た. 本 邦 で 沖 縄 以 外 の 地 域 か ら 本 種 が 発 見 さ れ た の は 最 初 で あ る の で,犬 糸 状 虫 子 虫 の 形 態 と 比 較 し て 調 査 成 績 を 報 告 す る. 調 査 方 法 調 査 対 象 は 東 京 都 西 南 地 域 に 飼 育 さ れ,本 学 附 属 家 畜 病 院 に お い て 流 血 中 に 糸 状 虫 子 虫 の 保 有 が 確 認 さ れ た 寄 生 犬 で あ り,雑 種33,日 本 犬14,コ リ ー12,シ ェ パ ー ド 11,ス ピ ッ ツ11,英 ・ポ イ ン タ ー1,ア イ リ ッ シ ュ ・セ ッ タ ー1,コ ッ カ ー ・ス パ ニ エ ル1,狆1の16犬 種110 頭 で あ る. 血 液 中 の 子 虫 の 形 態 を 観 察 す る に は ア セ トン 集 虫 法16) を 用 い,遠 沈 後 の 沈 渣 を 湿 層 法 に よ って観 察 した.子 虫 の 体 長 と体 巾 の 計 測 を 弱 ・中 等 度 拡 大 に よ って一 検 体 (頭)当 た り5∼12匹(平 均6)の 子 虫 につ い て マ イ ク ロ メー ター を 用 い て 実 施 した.頭 端 ・尾 端 の 観察 は一 検 体 当 た り31∼500匹 の 子 虫 に つ い て 行 な った が,100∼ 200匹 を 観 察 した 例 が 多 い.な お,少 数 例 に つ い て はR 細 胞(R-Cell)の 観 察 を 行 な った.す なわ ち 遠 沈 後 の沈 渣 を ス ラ イ ドガ ラス に 塗 抹 し,風 乾 後 バ ル サ ム 封 入 を 行 な って 油 浸 装 置 で 観 察 した. 血 液 子 虫 の 運 動 性,頭 鈎(cephalic hook)の 観 察 に は. 0.5%サ ポ ニ ン加 生 理食 塩 液 を 用 い て 集虫 を 行 な い,遠 沈 後 の 沈渣 を 湿 層 法 で 処理 して 得 た 生活 子 虫 につ い て 行 な った. 検 出 子 虫 と犬 糸 状 虫子 虫 とを比 較 検 討 す る 目的 で,剖 検 に よ って 右 心室 か ら得 た犬 糸状 虫 成 熟 雌 虫5匹 の下 部 子 宮 内 に 含 まれ る子 虫 を採 取 し,ア セ トン集 虫 法 と 同一 手 技 に よ り処 理 し検査 した.子 宮 内子 虫 の体 長 ・体 巾 の 計 測 に は10匹 を用 い,頭 端.尾 端 の観 察 に は500匹 を 用 い て血 液 子 虫 と同 様 に観 察 した. 成 績 110頭 の 子 虫保 有犬 か ら検 出 され た 子 虫 は 全 て 無 輪 で.体 長 ・体 巾か ら大 型 と小 型 の2種 類 に区 別 され た(写 真1).大 型 子 虫 は109頭 か ら,小 型 子 虫 は1頭 か ら検 出 され,両 型 の混 合 寄 生 はみ られ なか った. 体 長 と 体 巾 の計 測 値: 109頭 か ら検 出 した 大 型 子 虫652 匹 の 計 測 値 は 体長 が266.0∼359.1μ(304.0±13.43),体 巾 は5∼7.5μ(6.28±0.26)で あ った.1頭 か ら検 出 した 小 型 子 虫12匹 の計 測 値 は体 長243.0∼262.0μ(259.8± 8.24),体 巾 は4.8μ で あ った.大 型 子 虫 と小 型 子 虫 に お け る体 長 ・体 巾 の度 数 分 布 は 図1の ご と くで あ る.体 長 の 分 布 は 大型 子 虫 で は290∼319μ の間 に85%の 山 が *東 京 農 工大 学 農 学 部(東 京 都府 中市 幸 町3-5-8) ―60― 日獣 会 誌 26 60∼65 (1973)
大 石 勇 小 林 茂 雄 久 米 清 治 写 真1 自然 感 染 犬 の血 液 中 に み られ た 子 虫 a 大 型 子 虫 b 小 型 子 虫 図1 自然 感 染 犬 か ら検 出 され た大 型 子 虫 と小 型 子 虫 の 体 長.体 巾計 測 値 の 度 数 分 布 実 線:大 型 子 虫 n=52 点 線:小 型 子 虫 n=12 図2 自然 感 染犬 か ら検 出 され た大 型 子 虫 と犬 糸 状 虫雌 虫 子宮 内 子 虫 の体 長 ・体 巾 の 度数 分 布比 較 実 線:大 型 子 虫 n=652 点 線:犬 糸 状 虫 子 虫 n=10 あ り,小 型 子 虫 で は250∼269μ の 間 に75%の 山 が み ら れ た.体 巾 の 分 布 は 大 型 子 虫 で は96.3%が6∼6.9μ に あ り,小 型 子 虫 で は 全子 虫 が4∼4.9μ に あ った. 犬 糸状 虫雌 虫 か ら得 た 子 虫 と検 出子 虫 の計 測 値 比 較: 犬 糸 状 虫 子 虫10匹 の 体長 は292.6∼319.2μ(307.2± 9.29),体 巾 は6.6μ で あ っ た.ま た,体 長.体 巾 値 の 度 数 分 布 は 図2の ご と くで あ る.体 長 は全 子 虫 が290∼ 319μ の 間 に あ り,体 巾 は 全子 虫 が6∼6.9μ に あ った. 犬 糸 状 虫 子 虫 と大 型 子虫 の 計測 値 あ る いは そ の度 数 分 布 は 両 者 が よ く一 致 した(図2).犬 糸状 虫 子 虫 と小 型 子 虫 の 計 測 値 あ るい は そ の度 数 分 布 を比 較 す る と,両 老 に か な りの差 が あ り(図3),計 測 値 を平 均 値 で比 較 す る と小 型 子 虫 は体 長 が約50μ 短 か く体 巾は 約2μ 狭 い. 頭 端 と尾 端 の形 態:ア セ トン集 虫 法 で 処 理 した 子 虫 を 湿 層法 で観 察 す る と,形 態 は 写 真2の ご と くで あ る. 頭 端 は大 型 子 虫 で は 両 側 が 平 行 で な く先 端 が 先 細 りの 状 態 を示 した(写 真2-a).小 型 子 虫 は 両 側 が ほ ぼ 先 端 ま で平 行 す るた め に 前 端 が 角 張 って い る(写 真2-d). 尾 端 は 大 型 子 虫,小 型 子 虫 と も に 形 状 に よ っ て 二 型 に 区 別 さ れ た.す な わ ち 直 線 状 に 伸 展 す る も の と 鈎 状 に 曲 る も の と で あ る(写 真2-b, c, e, f).大 型 子 虫 が 検 出 さ れ た1.9頭 の う ち 尾 端 が 鈎 状 に 曲 っ て い る 子 虫 を 検 出 し た 頭 数 は62頭(56.9%)で あ っ た. こ の 鈎 状 子 虫 を 検 出 し た62頭 に つ い て1頭 当 た り 58∼500匹 の 子 虫 を 検 査 し て 鈎 状 子 虫 の 出 現 率 を み る と0.3∼6%(平 均1.9%)で あ り,約84%が 直 線 状 の 伸 展 子 虫 で あ っ た.犬 糸 状 虫 成 熟 雌 虫 の 子 宮 内 か ら 得 た 子 虫500匹 に つ い て 尾 端 の 鈎 状 子 虫 の 出 現 率 を み る と1.4%で あ っ て 大 型 子 虫 に み られ た 鉤 状 子 虫 出 現 率 と ほ ぼ 一 致 し た.大 型 子 虫 を 尾 端 の 形 態 か ら 直 線 子 虫 と鈎 状 子 虫 に 分 け て 体 長 と体 巾 の 計 測 値 を み る と,前 者 の 体 長 が266∼359.1μ(305.6 ±13,65),体 巾 が5∼7,81μ(6.29±0.28)で あ り, 後 者 の 体 長 は266∼332.5μ(296.1±11.23),体 巾 が 5.17∼6、25μ(6.22±0.11)で 両 者 に 有 意 の 差 が み ら れ な い.ま た,直 線,鈎 状 両 子 虫 の 計 測 値 の 度 数 分 布 は よ く一 致 し て お り差 は 認 め ら れ な い(図4). 小 型 子 虫 で は50%が 尾 端 が 鈎 状 に 曲 り,50%は 直 線 状 に 伸 展 し て い た.小 型 子 虫 に み ら れ た 直 線 子 虫 と鈎 状 子 虫 の 体 長.体 巾 の 計 測 値 を み る と 前 老 は 体 長253∼272μ(262,2±5.7),体 巾4.8μ,後 者 は 体 長243∼272μ(257.5±10.0),体 巾4.8μ で あ り, 両 者 の 計 測 値 は 一 致 し た. 0.5%サ ポ ニ ン 加 生 理 食 塩 液 で 集 虫 した 活 動 子 虫 を 観 察 す る と,小 型 子 虫 に は 頭 端 に 鈎(cephalicho-ok)の 存 在 が 明 瞭 で あ る が,大 型 子 虫 で は 不 明 で あ っ た(図5). R細 胞 の分 布 型: R細 胞4個 の分 布 型 は写 真3の ご と くで あ り,大 型 子 虫 に は いず れ も(1)-(2) (3)-(4)の型 が み ―61―
図3 自然 感 染犬 か ら検 出 さ れ た 小 型 子 虫 と犬 糸状 虫 雌 虫 子 宮 内 子 虫 の 体長 ・体 巾 の 度 数 分 布比 較 実 線:犬 糸 状 虫 子 虫 n=10,点 線:小 型 子 虫 n=12 られ,小 型 子 虫 に は(1)-(2) (3) (4)の型 が み ら れ,大 型 子 虫 と小 型 子 虫 で は 分 布 型 が 異 な って い た. 運 動 様 式: 0.5%サ ポ ニ ン加 生 理 食 塩 海 で 集 虫 した 子 虫 に は 活 発 な 運 動 を み るが, 大 型 子 虫 に は1ヵ 所 で くね る運 動 が み ら れ,小 型 子 虫 に は 蛇 行 状 の前 進 運 動 が み ら れ た. 今 回 自然 感 染 犬 か ら検 出 した子 虫 は 形態 か ら大 型 と小 型 に区 別 され,こ の両 型 の于 虫 は 異 な る種 で あ り,考 察 で 述 べ る理 由力 写 真2 頭 端 と尾 端 の 形 態 上 段 は 大 型 子 虫 a 頭 端 b 直 線 尾 端 c 鈎 状 尾 端 下 段 は 小 型 子 虫 d 頭 端 e 鈎 状 尾 端 ↓f直 線 尾 端 a b c d e f ―62―
大 石 勇 小 林 茂 雄 久 米 清 治 図4 自然 感 染犬 か ら検 出 さ れ た大 型 子 虫 の尾 端 直線 子 虫 と鈎 状 子 虫 の体 長.体 巾 度数 分 布 実 線:尾 端 直 線 子 虫n=545点 線:尾 端 鈎 状 子 虫n=107 図5 0,5%サ ポ ニ ン 加 生 理 的 食 塩 液 で 処 理 し た 子 虫 頭 端 aも a. 小 型 子 虫cephalichookが み ら れ るb. 大 型 子 虫 ab 写 真3 大 型 子 虫(a)と 小 型 子 虫(b)のR細 胞 の 分 布 ら大 型 子 虫 は犬 糸 状 虫 子 虫 と同定 され た,小 型 子 虫 はDip.reconditumの 子 虫 と 同定 され た. Dip.recon-ditum子 虫 が 検 出 され た 犬 は,米 国 ケ ンタ ッキ ー州 か ら輸 入 され た2才 の プ ロ ッ トハ ウ ン ドで あ る. 考 察 寄生 して い る糸 状 虫 の種 を 知 るに は 成 虫 の形態 的 特 徴 を 明 らか に す る こ とが 最 も正 確 で あ る.し か し,動 物 を 剖 検 し得 な い 臨 床 に お い て は 流 血 中 に 検 出 され る子 虫 の形 態 的 特 徴 か ら寄 生種 を 知 る 方 法 が 最 も一 般 に 行 な わ れ て い る. 今 まで に 犬 か ら発 見 され た 寄 生 種 は9種 で あ る.そ れ らの 種 に つ い て 鞘 の 有 無 と体 長 ・体 巾 の 特 徴 を 既 報 の文 献 か らみ る と表1の ご と くで あ る 1, 6, 8, 11, 12, 17, 22, 25, 27).今 回 著 者 らが 得 た 成績 を み る と,犬 糸 状 虫,雌 虫 子 宮 内 か ら 得 た 子 虫 は 無 鞘 で, 計 測 値 は 既 報 の 数 値 に 一 致 す る. 109頭 か ら 得 た 大 型 子 虫 は 無 鞘 で 体 長304.0±13.43μ,体 巾6.28±0.26μ で あ る こ とか 子 虫 の ら,こ の 形 態 は 犬 糸 状 虫 子 虫 とD,repens 計 測 値 に 近 い.し か し, D.repens子 虫 は 犬 糸 状 虫 子 虫 よ り も 大 き い と い わ れ4),今 回 得 た 大 型 子 虫 は 犬 糸 状 虫 子 宮 内 か ら 得 た 子 虫 と 計 測 値 の 分 布 が 一 致 す る こ と,ま た,犬 糸 状 虫 子 虫 の 他 の 形 態 的 特 徴 と し て 知 ら れ る 頭 端 の 先 細 り5, 9, 21, 27),多 く は 尾 端 が 直 線 状3, 5,8, 9, 12, 26, 27), R細 胞 の 分 布 形 式 が(1)-(2) (3)-(4) 5, 12, 14, 20, 21, 23, 24, 25, 27), 頭 鈎 が 不 明5, 21)な ど の 所 見 が み ら れ,ま た 運 動 形 式 も 犬 糸 状 虫 子 虫 と 同 じ く一 カ 所 で くね る 運 動5, 19, 26)で あ る こ と か ら 犬 糸 状 虫 子 虫 と 同 定 さ れ る. 1頭 か ら 検 出 し た 小 型 子 虫 は 無 鞘 で 体 長255.8±8.24 μ,体 巾4.8μ で あ る こ と か らDip.reconditum子 虫 の 計 測 値 に 一 致 す る.ま た, Dip.recond-itumの 特 徴 と さ れ る頭 端 が 角 張 っ て い る5, 9, 21, 27),多 く の 尾 端 が 鈎 状 に 曲 っ て い る3,5,8,19,21,26,27), R細 胞 の 分 布 形 式 が(1)-(2) (3) (4)を 示 す5, 12, 17), 頭 鈎 が 明 瞭 に 認 め られ る5, 21).視 野 を 横 切 る 運 動5, 26)な ど が 認 め られ る こ と か ら こ の 小 型 子 虫 はDip.recon-ditum子 虫 と 同 定 さ れ た. NEWTON et al (1956) 12)が 犬 糸 状 虫 子 虫 とDip.reconditum子 虫 の 形 態 的 な 差 異 点 と し て, (1)大 き さ, (2)尾 端 の 形 態, (3)子 虫 の 定 点 測 定 値 を 報 告 し て 以 来,両 種 子 虫 の 鑑 別 に つ い て 種 種 検 討 が 行 な わ れ て き た.既 報 の 成 績 か ら 一 般 臨 床 診 断 に 実 用 性 の 高 い 子 虫 の 大 き さ を 著 者 ら の 度 数 分 布 か ら み る と,体 巾 で は 両 子 虫 の 計 測 値 ―63―
表1 犬 に寄 生 す る糸 状 虫 子 虫 の体 長,体 巾計 測 値 *1無 鞘*2有 鞘*3 B .malayi:体 長220士20μ,体 巾5-6μ, TAYLOR(1960)猫 か ら の 子 虫 に重 複 は な く,犬糸 状 虫 子 虫 は96.3%が6μ 台 に あ り, Dip.reconditum子 虫 は 全 部 が4μ 台 に あ って,体 力 の差 が 明 瞭 で あ った.体 長 で は犬 糸状 虫 子 虫 の1.7%に み ら れ た260∼279μ 域 の計 測 値 がDip.reconditum子 虫 の計 測 値 の一 部 と重 複 した が,犬 糸 状 虫 子 虫 に は290∼319μ 域 に85%の 山が み られ, Dip.reconditum子 虫 に は250∼269μ 域 に75%の 山が み られ,両 種 子 虫 の 体 長 に 明 瞭 な差 異 が 認 め られ た. Joiner et al. (1970) 7)も犬 糸状 虫 子虫 の体 長 は73%が305∼320μ,体 巾 は全 部 が6∼7μ に あ り, Dip. reconditumと 思 わ れ る 子 虫 の 体長 は84%が245∼275μ, 体 巾 は89%が4∼5μ に あ った と し,著 者 らの 成 績 に近 い成 績 を報 告 して い る.子 虫 の 大 き さは 両 子 虫 の 鑑別 点 と して重 要 で あ る. 尾 端 の形 状 と して犬 糸 状 虫 子 虫 が 直 線 状 を 示 す こ とが NEWTON et al. (1956) 12)以来 知 られ て い る.著 者 らの 成 績 で は 検 出 され た子 虫 が 全 て直 線 状 で あ った のは 寄 生 犬 の 43.1%で あ り,56.9%に は い ろ い ろ な段 階 に 曲 った 子 虫 が 各 被 検 体 子 虫 の平 均1.9%に み られ た.犬 糸 状 虫 子 虫 に直 線 状 尾 端 で な い子 虫 が 検 出 され る こ とは 他 に も記載 が あ る が19,26),全検 出子 虫 の約84%が 直 線 状 で あ る こ とは犬 糸 状 虫 子 虫 の特 徴 と して重 要 で あ る. Dip.recon-ditum子 虫 が 鈎 状 尾 端 を 示 す こ とはNEWTON et al. (1956) 以来 知 られ て い る が,著 者 ら の成 績 で は 鈎 状 を 示 す 子 虫 は 検 出 虫 の50%で あ る こと を知 った が,他 に も同 様 な 報 告 が あ る19,26). Dip.reconditum子 虫 は多 くは 鈎 状 尾 端 で あ るが,直 線 状 尾端 を示 す 子 虫 もか な り出現 す るか ら 尾 端 の 形 態 の み で 鑑 別す るの は危 険 で あ る. 犬 糸 状 虫 子 虫 とDip.re6onditum.子 虫 の鑑 別 要 点 を 提 げ る と表2の ご と くで あ る.一 般 の臨 床 診 断 に は集 虫 法 に よ って 大 き さ(体 長.体 巾)を み るの が最 も確 か で あ り,さ らに 頭 端 や 尾 端 の 形態 を 参 考 に して判 定 す る のが 実 用 的 と考 え る.ま た,両 子 虫 の 鑑 別 に 形態 的 特 徴 以外 表2犬 糸 状 虫 子 虫 とDip.reconditum子 虫 の 鑑 別 要 点 に 生 体 染 色 法19),酸 性 燐酸 酵 素 活 性 法2)が 報 告 され て い るが,手 技 が 複 雑 で あ るた め 一 般 の 臨床 診 断 に は 不 向 き と考 え る. 本 邦 の 犬 に は 古 くか ら犬 糸 状 虫 の 寄 生 が知 ら れ て お り,そ の 寄 生 率 は 関 東 以 西 で は 平均34∼38%,東 北 で は ほ ぼ10%前 後,南 北 海 道4∼5%,沖 縄0.4%で あ る 15,28).近 年 まで 本 邦 に は犬 糸 状 虫 以外 の種 類 は発 見 され ず,寄 生 は な い もの と考 え られ て い た.し か るに,1964 年 にPENNINGTON et al. 18)は沖 縄 に お い てDip.reconditum の存 在 を 確 認 した.彼 らの 報告 は 本邦 に お け る最 初 の報 告 で あ り,し か も野 犬 を 主 と した 調査 で23%と 高 率 に 検 出 され た こ とは この 種 類 が 既 に 沖縄 に 広 く士 着 して い る こ とを 意 味 し てお り,疫 学 上 重 要 で あ る.沖 縄 以外 の 地 域 か ら犬 糸 状 虫 以 外 の種 類 を 検 出 した の は 著 者 らの 今 回 の報 告 が 最 初 で あ る.今 回Dip.reconditum子 虫 を 検 出 した犬 は 本種 の流 行 地 で あ る米 国10)から輸 入 した もの で あ り,輸 入後 数 日 しか 経 過 して い な い こ とか ら米 米 国 で 感 染 した も の で あ る. 近 年 諸 外 国か ら輸 入 され る犬 の頭 数 は7,300頭 に 達 し て お り13),こ れ らの積 出 国 の なか に は 犬 糸 状 虫 以 外 の糸 ―64―
大石
勇 小林茂雄 久米清治
状 虫 の流 行 が 知 られ て い る 国が 多 くあ り,と くにDip. reconditumの 流 行 地 で あ る 南北 ア メ リカ,太 洋 洲 な どか
らは 年 間 数 千 頭 が 輸 入 され て い る.従 ってDip.remditum は 既 に 国 内に か な り搬 入 され て い る も の と考 え られ る. 沖 縄 に はPENNINGTON et al.の 調 査 に よ ってDip.rem-ditumの 高 率 な 流 行 が 知 られ た が,1962年 に 島 袋18)が 沖 縄 で 行 な った 調 査 で は 犬 糸 状 虫 と考 え られ る寄 生 が 約 2%に あ った のみ で あ り,現 在 み られ るDip.reconditum の 流 行 は 戦 後 沖 縄 に 持 ち 込 まれ た もの が 士 着 して10年 弱 の 間 に 広 く浸 潤 す るに 至 った もの と考 え られ る.今 回 の 東 京 地 区 で の調 査 で 現 時 点 で は 自然 感 染 の み られ るの は 犬 糸 状 虫 のみ で あ るが,今 後 こ のDip.reconditumが 士 着 して 徐 々に 流 行 を示 す よ うに な るで あ ろ うか ら,臨 床 診 断 に お い て 在 来 種 で あ る犬 糸 状 虫 子 虫 との 鑑 別 を 要す る時 が 遠 か らず 来 る もの と考 え る.現 時点 で も犬 糸 状 虫 以 外 の 種 の 流 行 地 か ら搬 入 した 犬 に 子 虫 を 検 出 した な ら ば 種 の 鑑 別 が 必 要 で あ る こ とは 当然 で あ る.な お,本 邦 に は 研 究 目的 を も ってBursiapahangi(淋 巴 系 に 寄 生 し淋 巴 管 や 淋 巴 節 の障 害 を 引 起 こす)が 搬 入 され て い る30). これ が 寄 生 す る実 験 犬 は 厳 重 な 管 理下 に あ る と思わ れ る が,中 間 宿 主 が 蚊 で あ るか ら,外 部 へ の伝 播 に は十 分 注 意 さ れ ね ば な らな い. 要 約 本 邦 の 犬 に は 犬 糸 状 虫 が 広 くか つ 高 率 に 分 布 して い る が,他 の 糸 状 虫 は 沖 縄 を 除 い て は 未 だ 知 られ て い な い. 著 者 らは 近 年 東 京 都 西 南 地域 に飼 育 され る糸 状 虫 子 虫 陽 性 犬110頭 を 対 象 と し,ア セ トン集 虫 法 を用 い て子 虫 の 形 態 調 査 を 行 な った. 検 出 され た 子 虫 は 全 て 無 鞘 で,体 長 ・体 巾 の測 定 値, そ の 他 形 態 か ら2種 頼 に 区 別 され た.す なわ ち,109頭 か ら検 出 され た 子 虫 は大 型 で犬 糸 状 虫 子 虫 と同定 され, 1頭 か ら検 出 され た 子 虫 は 小 型 でDip.reconditum子 虫 と 同 定 され た.Dip.reconditum子 虫 は 米 国 ケ ン タ ッキ ー 州 か ら輸 入 した2才 の プ ロ ッ トハ ウ ン ドに 見 出 され た も の で あ り,本 邦 で は 沖 縄 以外 の地 域 に お け る最 初 の 報告 で あ る. 今 回 の 調 査 か ら 東 京 地 域 の 犬 に 一 般 に 見 出 さ れ る 糸 状 虫 は 犬 糸 状 虫 で あ る が,他 種 糸 状 虫 の 流 行 地 か ら 搬 入 さ れ た 犬 の 検 診 に は 犬 糸 状 虫 以 外 の 糸 状 虫 を 考 慮 し て 診 断 を 行 な う 必 要 が あ る. 文 献
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