Ⅰ 都市空間の捉え方
大型閉鎖店舗の再生は、それ単体ではなく、都市を 取り巻く環境変化や都市空間の変容など、都市全体の 変化動向の中で検討されなければならない。 ここでは、都市の成り立ちや基本的な空間構成、都 市を捉える各種指標等について概観するとともに、少 子高齢化や人口減少期への移行、都心回帰現象等の都 市を取り巻く環境変化について整理する。また、都市 における商業空間の役割を踏まえた上で、大型閉鎖店 舗再生における施設の立地特性と最適利用の考え方 や人口規模と施設需要についても概観する。Ⅰ 都 市 空 間 の捉 え方
1.都市を取り巻く環境変化と市街地の変容
中心市街地の衰退や大型閉鎖店舗の出現は、経済環境の変化や消費者意識・行動の変 化などの経済的・社会的要因が複雑に関連して生じており、都市を取り巻く環境変化の 諸要因が市街地の変容という空間的現象となって現れた一側面と捉えることができる。 これら問題への対処に際しては、問題となっている現象のみでなく、都市の空間的変化 を全体として捉え、今後の都市の動向や市街地の将来像に対して洞察することが必要と なる。ここでは、都市化の過程や市街地の変化について理解するための基礎的な知識に ついて解説し、近年の都市を取り巻く環境変化について概観する。 (1)都市の発達と都市指標 都市の起源を辿るためには、人間が集団生活を始めたところまで遡る必要があろう。 定住により形成された集落が、農耕技術の発達により生み出された余剰食糧を背景に、 非農業的な職に従事する人口を擁することが可能となるにつれ、政治、行政、商業、 手工業生産、防衛等の機能を有するようになり空間的にも拡大していく、このような 過程が初期の都市化の過程であったと考えられる。都市化が急速に進行するのは 19 世紀の産業革命以降、わが国では明治維新以降のことである。工業生産技術の発達と それを背景とする資本主義の発展は、都市への人口流入を加速し、大都市、巨大都市 を生み出す。交通手段の発達はこれをさらに加速し、「交通」が「居住」、「生産」、「休 息」と並び都市の4大機能と称されるようになる。 産業革命以前の段階では、都市と農村を対比的に捉えることで都市空間を規定する ことは比較的容易であったと考えられるが、急速な膨張の結果生まれた膨大なスプロ ール市街地の発生や都市と都市との連担、飛び地的な市街地形成などは都市の形態を 複雑化した。また、情報通信手段の発達の結果、農村の生活スタイルは都市と同一化 し、人口も常に流動しているなど、もはや単純な指標で都市を捉えることは不可能に なっている。都市を物理的、社会的、経済的など様々な側面から捉えるものとして、 図表Ⅰ− 1 のような都市指標がある。都市空間の実態やその変容を捉えるためには、 このように多面的な指標を用いて総合的に捉える必要がある。図表Ⅰ− 1 都市指標の例 都市の持つ特性 都市指標 人口密度の高い場所 密度(人口) 非農業地域 土地利用形態 土地の高度利用を図る高層建築物の集合場所 空間利用強度(容積率) 水平的に家屋の連担する場所 市街化度 人と物資の流動の中心 地域の中心性 第2次,第3次産業の卓越した場所 産業構造 多様な二次的(非血縁的)社会集団組織の存在 社会集団の特性 異質的,匿名的な人間関係と社会 人間関係の特性 (出典)「都市の計画と設計」小嶋勝衛監修,2002,共立出版 (2)都市の空間構成 ①都市の内部空間と都市圏 都市を空間的に捉えると、その内部空間は一様ではなく、機能や空間の利用度合(土地 利用強度)によって空間の分化が見られる。このような空間の分化は、都市の規模や発達 段階によって様々であるが、概略的にみると、都市を取り巻く周辺部分も含めて図表Ⅰ− 2 のような構成となっている。 図表Ⅰ− 2 都市の空間構成 周辺地域 (郊 外) 内部地域 (市街地) 中心地区 (都心) 外縁地域 (後背地) 他都市 都市圏 衛星 都市 スプロール 沿道市街地 副心 都市は建築物が連担して形成する市街地の広がりとして捉えることができる。一般 に「市街地」と呼ばれる範囲を内部地域(Inner City)といい、その中に人や物資の 流動の中心であり行政、商業、業務などの中心機能を持った中心地区(都心)がある。 この中心地区とその周囲の市街地の一部を含めて一般に「中心市街地」と呼ぶが、中 心市街地活性化法においては、①小売商業者・都市機能の集積がある、②空洞化の発 生またはその恐れがある、③市街地の整備改善と商業等の活性化による広域的な効果 がある、ことを中心市街地の要件として定義している。 内部地域の周囲には、農村的空間と都市的空間が共存した周辺地域(郊外)が広が る。都市化の過程において、市街地が周辺地域へ向けて拡大する現象をアーバン・ス
プロールというが、都市の拡大期においてはこれにともない無秩序な市街地形成など の都市問題が発生する。また、市街地の拡大と併行して市街地内部の空間の変容・変 質(高層化・高密化・機能変化等)も進行する。この過程において何らかの要因で空 間の更新が円滑に進まないと、中心部の空洞化といった諸問題(インナーシティ問題) が発生する。 都市には、その都市(母都市)と機能的に関連する範囲があり、これを都市圏とい う。都市圏の中には、通勤・通学などで母都市に依存する中小都市や、ニュータウン などの衛星都市も含まれる。大量交通手段の発達により都市圏は拡大し、大都市圏や 連担都市圏(メガロポリス)も形成されるようになるが、その一方で、モータリゼー ションの進展により、幹線道路沿道やインターチェンジ周辺など飛び地的な市街地の 形成も見られ、都市の郊外化も進行する。これらの飛び地的市街地の中には、あたか も独立した都市のような様相を呈するものもあり、エッジ・シティと呼ばれている。 このような郊外化の一因で商業環境に大きな影響を与えるものとして、商業施設の ロードサイドへの立地がある。図表Ⅰ− 3 をみると、1990 年以前は郊外幹線道路沿道 に立地する大型店は全体の 20%程度であったが、その後は 40∼50%を占めている。中 心市街地に立地する「ターミナル型」、「駅前・駅周辺型」、「商店街型」をあわせ、1990 年以前は約 40%であったものが 1990 年代中頃には約 10%程度に落ち込み、最近はや や増加傾向にあるものの、全体としては大型店のロードサイドへの立地傾向は衰えを 見せていない。このような状況に対して、土地利用秩序の形成の観点から大型店の立 地コントロールの必要性も指摘されている。 図表Ⅰ− 3 開店年次別・立地類型別大型店舗数(全国)の比率 0% 20% 40% 60% 80% 100% 2001-02年 1999-00年 1997-98年 1995-96年 1993-94年 1991-92年 1990年以前 ターミナル型 駅前・駅周辺型 商店街型 郊外住宅地型 郊外幹線道路型 その他 (資料)全国大型小売店舗総覧 2003、東洋経済新報社 上記のような、都市圏の拡大→都市間競合の激化→上位都市への機能集中という現 象の進行と郊外化による機能分散が中心市街地の衰退と深くかかわっていると考えら れ、小規模都市ほどそれが進行し衰退が深刻であることが理解できる。
②都市の範囲と人口集中地区 実態としての都市域とは別に、都市を自律して運営する単位としてみた場合の都市 の範囲は、行政体としての都市、すなわち市や町ということになる。地方自治法では、 市の要件として、(1)人口規模(5万人以上)、(2)人口集中(戸数の6割以上が中心 市街地内)、(3)産業(人口の6割以上が都市的業態従事者とその家族)、(4)その他(都 市的施設等)、の4点をあげている。また、都市計画においては、空間的な一体性や計 画意図を考慮して、その対象範囲である都市計画区域を「市又は人口、就業者数その 他の事項が政令で定める要件に該当する町村の中心の市街地を含み、かつ、自然的及 び社会的条件並びに人口、土地利用、交通量その他国土交通省令で定める事項に関す る現況及び推移を勘案して、一体の都市として総合的に整備し、開発し、及び保全す る必要がある区域」と定義し、複数の行政区域にまたがる場合もあるとしている。 このように、行政区域としての市や町には農村地域も多く含み、都市計画区域には 計画意図を反映して市街化を抑制するための緑地や市街化予定地も含む。一方で、行 政サービスの対象範囲を定める場合や消費需要を把握する場合には、人口の集中した 都市化地域のみを抽出してその範囲を明確にすることが必要になる。そのための統計 上の定量的基準として国勢調査に導入されている指標が人口集中地区(DID:Densely Inhabited District)である。その定義は、「市町村内で人口密度 40 人/ha 以上の調査 区が隣接して、人口 5,000 人以上の集団を構成する地域」であり、一定の人口密度を 持った市街地の広がりとして捉えることができる。 DID の全国的な動向(図表Ⅰ− 4)を見ると、昭和 40 年以前では DID 外人口が DID 人口を上回っており、都市域外に住む人口の方が多かったが、平成7年現在では DID 人口の全人口に対する比率が 64.7%と、人口の約 2/3 が都市域に住んでいること がわかる。 しかし、DID 人口の伸び率は低下してきており、わが国の都市化はほぼ終息期を迎 えているといえよう。その一方で、DID 面積の拡大とともに DID 人口密度は低下し てきており、市街地の拡大と低密化が同時に進行してきたことがわかる。都市の成長 段階は、集中・拡大期から郊外化・外延化期を経て逆都市化の段階に移行するともい われている。現在多くの都市は郊外化・外延化の段階と考えられるが、人口増加率の 鈍化にともない市街化圧力は急速に低下しつつあり、さらなる市街地の低密化や土 地・建物の遊休化も懸念されるところである。
図表Ⅰ− 4 人口集中地区(DID)の推移 (出典)建設白書 2000 (3)都市を取り巻く環境変化の諸要因と今後の動向 空間としての都市の捉え方と現在までの変化について概観した。さらに、今後の都 市空間の変化の動向を考える場合、都市を取り巻く様々な社会的、経済的要因を考慮 する必要がある。現在、または近い将来、都市に影響を与える環境変化に関するキー ワードの一例を図表Ⅰ− 5 にあげた。これらは全国的な傾向として捉えられるもので あるが、個々の都市においてはこれに地域的要因が加わる。また、今後の都市政策の 動向が大きく影響することは言うまでもない。分権化社会への転換により都市政策面 でも地域の独自性が強まるものと考えられ、都市を取り巻く環境変化の把握において も、地域独自のまちづくりの視点が欠かせない。 これらの環境変化要因の中で、長期的に大きな影響を及ぼすと考えられる人口の動 向について若干触れる。 図表Ⅰ− 5 都市を取り巻く環境変化(キーワード) 人口のピークアウト 高齢社会の到来 少子化の進行 経済のグローバル化 日本経済の長期低迷 地価下落 産業構造の変化 価値観の多様化 消費者意識の変化 消費行動の変化 物流構造の変化 モータリゼーションの進展 都市型社会の到来 環境問題への関心の高まり 資源エネルギーの制約 廃棄物問題の深刻化 都市間・地域間競争の激化 都心居住志向の広がり 分権化社会への転換 情報・通信ネットワークの広がり
①人口減少期への移行 日本の人口は、現在まで一方的に増加を続けてきたが、増加率は急激に鈍化しつつ あり、2007 年をピークに減少に転ずることが予測されている。都道府県別にみると、 平成 12 年現在で 23 道県で人口が減少し、今後全国に広がっていくことが予想されて いる。日本全体の人口が減少に向かう中で、都市人口もピークアウトし、人口減少に 転ずる都市が拡大すると考えられる。 図表Ⅰ− 6 都市圏の人口ピーク年次 (出典)建設白書 2000
人口のピークアウトの動向を、都市圏別に推計した図表Ⅰ−6のような結果も報告 されている。これをみると、全国 87 都市圏のうち 2000 年までに35の都市圏で既に人 口のピークを迎えており、その他の都市圏でも、多くは今後 10∼20 年以内にピークを 迎えることが予想されている。地方ブロックの中枢都市以上の大都市圏では、当面の 間、緩やかな人口増加が続くが、その他の中小都市圏では既に人口減少に入るかまも なく減少過程に入り、非都市圏では急速に人口が減少し、2030 年には現在の4分の3 程度の水準になるという予測もある。 ②少子高齢化の進行 このような人口の変化要因は、急速に進行した少子化と高齢化である。日本の高齢 化率(全人口に対する 65 歳以上人口の比率)は 2000 年で 17.2%に達し、既に高齢社 会を迎えている。高齢化率は今後も急激に上昇し、2015 年には全人口の4人に1人以 上が高齢者という超高齢社会が予測されている。また、未婚率の上昇と晩婚化・晩産 化による少子化もあり、都市の活力低下が懸念されている。しかし、少子高齢社会は 負の側面ばかりではなく、時間的・経済的ゆとりと多様な知識・経験を持ち、十分な 知力・体力・行動力を備えたシニア世代が地域活動を支える主役となることを考えた 場合、高齢者福祉施設や子育て支援施設だけではなく、都市空間に対する新たなニー ズが生まれることも考えられよう。都市におけるノーマライゼーション(障害者や高 齢者など社会的に不利を受けやすい人々が、普通の市民と同じ生活ができるような環 境づくり)などの物的環境の整備は当然であるが、都市交通システムの見直しなど少 子高齢社会に対応して抜本的に都市構造を変えていく必要性も指摘されており、これ らの動向を見極めながら、大型閉鎖店舗再生を考える必要がある。 ③都心回帰現象 近年、大都市の都心部で人口の回復傾向が明確になってきている。東京都心3区で は昭和 30 年代以降一貫して減少を続けてきた人口が平成8年中に増加に転じ、以降増 加を続けている(図表Ⅰ− 7)。これは、都心でマンション供給が活発化していること と関係している(図表Ⅰ− 8)。このような傾向は、東京以外の大都市でもみられ、地 方都市においても、マンション建設ラッシュが報告されている。これらの要因は、地 価の下落や建築の形態規制の緩和、居住スタイルの多様化など様々考えられるが、先 に述べた人口構造の転換による逆都市化の予兆とみることもでき、一時的な現象では ないと思われる。今後の中心市街地再生の手がかりとして、流入人口による新たな都 市型コミュニティの形成と市街地の再編をどのように誘導していくかという視点が、 大型閉鎖店舗の再生にも求められる。
図表Ⅰ− 7 東京都心3区(千代田区・中央区・港区)の人口
(出典)東京都の人口の動き,2001 年,東京都
図表Ⅰ− 8 分譲マンションの供給戸数の推移(東京都区部)
(資料)(株)不動産経済研究所「全国マンション市場動向」による。
2.都市における商業空間の役割
商業空間は、人の集まる場所、即ち交通の要所や都市の中心地区に発達してきた。 自動車交通の発達により人の集まりやすい場所が必ずしも都市の中心地区ではなくな り、郊外部や都市の外縁部へと拡散している状況については述べた。広義ではインタ ーネット上のショッピングモールも商業空間の範疇に属すると考えることもできるが、 ここでは都市の中心地区にある商業空間の特質とその役割について概観する。 (1)中心地区の機能と段階構成 都市の中心地区は、商業機能をはじめ様々なセンター機能が集積し、都心としての 役割を果たす。中心地区は、小都市の場合は1つの商店街程度のものである場合もあ るが、大都市になるにつれ、集積する機能も多様化し規模も大きくなる。大都市、巨 大都市になると、中心商業地区、中心業務地区を形成し、さらに商業地区と娯楽地区、 官公庁地区とシビックセンター地区・業務地区というように分化していく(図表Ⅰ− 9 参照)。これらの機能は、計画的に整備された都心においては空間的に明確に区分され ている場合もあるが、自然発生的に形成された都市の場合は混然一体となり複合的な 空間となっている場合も多い。中心地区における商業空間の役割を考える場合、買物 などの商業機能だけでなく、同時に政治、行政、文化、業務などの多様な機能・役割 を果たしていることを考慮する必要がある。さらに交通の結節点であり、歴史地区で ある場合もあり、都市のシンボル的な空間としての役割も果たしていることも忘れて はならない。これが中心地区の商業空間の魅力ともいえるが、逆に文化施設や、官公 庁など多様な機能の郊外化が商業空間の衰退の一因ともなっている。 図表Ⅰ− 9 都心地区の構成 (出典)日本建築学会編,建築設計資料集成9,P61,1983 また、中心地区は、中小都市においては一箇所の都心しかない場合もあるが、都市 規模が大きくなるにつれて副心や分心と呼ばれるサブセンターが形成されるようになる。巨大都市になると、さらに多核化し、段階構成をとるようになる(図表Ⅰ− 10)。 上位の段階になるにつれ、商業機能も最寄中心から買い廻り中心へと役割が異なって くる。 図表Ⅰ− 10 中心地区の段階構成 都心 副心 分心 (副都心) 地区中心 近隣中心 分区中心 政治,行政 行政,文教,厚生 行政,文教,厚生 文教,厚生 文教 交通,運輸 交通 交通 業務,消費 業務,消費 消費 消費 機 能 観興 観興 (観興) 出典:日笠端「都市計画」第 3 版 p196,1993,共立出版 地区中心、近隣中心、分区中心それぞれに対応する圏域をコミュニティ計画の単位 として住宅地を構成する考え方が近隣住区の考え方であり、このような考え方に基づ いて計画されたニュータウンは多い。近隣中心に対応する空間単位が基本となる近隣 住区であり、一般には 8,000∼10,000 人程度の人口を想定し、日常生活に必要な商業 機能が置かれる。しかし、交通手段の発達により人々の行動範囲が広がると、このレ ベルの中心地区では魅力が不足して維持が困難になり、上位の中心地区の機能をより 強化する考え方も生まれた。さらに上位の中心地区へと機能集中が進む中で衰退する 中心市街地を維持するために、公共交通機関の整備や高齢社会に対応した高密でコン パクトな市街地の形成なども提案されているところである。 (2)商業空間の多様な機能 都市の商業空間は、多様な機能空間と近接・複合して一体となって中心市街地を形 成しているが、商業空間のみに着目した場合でも、単に買物だけではなく、飲食、社 交、レジャーなど多様な機能が混然一体となり盛り場的空間を形成しているといわれ ている(図表Ⅰ− 11)。魅力のある商業空間を形成するためには、このような商業空 間の多機能性を、それぞれの商業中心の段階に合わせてバランスよく確保していくこ とが必要になろう。大型閉鎖店舗再生においても、これらの中で不足している機能を 踏まえながら、その機能の持つ空間的、時間的立地特性を考慮して導入機能を決定す る必要がある。ここで重要なのは、まち全体として回遊性が生まれるような空間構成 を目指す視点であり、その中で当該店舗の果たす役割を、その位置や規模により決定 していくことである。
図表Ⅰ− 11 盛り場の構成機能 施設および行事 余暇的欲求 消費レジャー行為 文化的機能 市民ホール,公会堂,美術館,講習会,文化 施設,各種学校,画廊,展覧会 教養文化的欲求 趣味学び的行為 商業的機能 専門店、食料品店、デパート,スーパーマー ケット,日用品店,ショールーム 買物的欲求 ショッピング的行 為 外食的機能 レストラン,食堂,すし,中華料理店,割烹, そばや,スナック,コーヒースタンド 食事的欲求 飲食的行為 社交的機能 会館,ホテル,広場,デパート,クラブ,ダ ンスホール,バー,キャバレー,喫茶店 社交的欲求 社交(交際)的行 為 レジャー的 機能 映画館,劇場,スタジアム,遊園地,サウナ, パチンコ,ゲームコーナー 娯楽ギャンブル 的欲求 アミューズメント 的行為 趣味 < ︱︱︱ 社交 ︱︱︱ > 道楽 享楽的性的 機能 つれこみホテル,同伴喫茶,ストリップ劇場, おとなのおもちゃ 性的社交欲求 セクシャル的行為 (出典)服部金圭二郎「盛り場 人間欲望の原点」,1981,鹿島出版会(一部省略) (3)商業空間とコミュニティ 商業空間が多様な中心機能を担っていることについて述べたが、居住機能も中心地 区の果たす役割の1つとして考える必要があろう。もともと中心地区は商店主や従業 員の居住地であり、彼らが祭りなど地域のコミュニティ活動を担ってきたが、居住機 能の郊外化により、商業空間の持っていたコミュニティ機能も脆弱化してきた。一方 で、わが国に高層・高密の居住スタイルが根付くにつれ、中心地区にもマンションが 建設されるようになり、最近では、先に述べた都心回帰現象と呼ばれる都心居住志向 も定着してきた。現状では、新たな都市居住者がどのような都市型コミュニティを形 成していくか明確ではないが、その居住スタイルやニーズは、都市の商業空間へのニ ーズとして今後の市街地再編に大きな影響力を持つようになると思われる。 現在まちづくりの分野では、コミュニティ・ベイスド・プランニングというキーワ ードがよく用いられるが、コミュニティの存在を基本に据え、もう一度まちづくりの あり方を見直していこうということであり、地域の持つ力を高めていこうという方向 性を持っている。中心地区においても、一定の人口の量と密度を確保しながらコミュ ニティの再構築を図ることがまちづくりにおける共通の目標像になりつつあり、その 中で商業空間の果たす役割について考える必要がある。具体的には、交流、福祉、教 育、地域文化の創造・発信などの機能を商業空間が果たすことが求められるであろう (図表Ⅰ− 12)。
図表Ⅰ− 12 多様な機能連携の例 (出典)集客施設を活用した中心市街地活性化調査研究報告書,平成 12 年3月,前橋市・(財)余暇開 発センター)
3.立地特性と最適利用の考え方
大型閉鎖店舗再生において施設の最適利用を考える場合、まず広域的にその商業中心 の持つポテンシャルを判断し、その上でミクロなまちの構造を捉えて施設の立地につい て判断し、これらの結果から施設の最適利用について判断することになる。ここでは、 そのための調査のおおまかな流れについて述べる。 (1)立地特性の把握 施設床の最適利用を考える場合、対象建築物が立地する地域の立地特性を正確に把 握する必要があり、そのための立地環境の調査・分析が欠かせない。対象建築物の規 模や導入を検討する施設の種類により立地環境を調査する必要のある範囲は異なるが、 ここでは都市レベルで地域環境を捉えるための調査項目と、施設の周辺環境を捉える ための調査項目について解説する。 ①都市特性の把握 第一段階として、都市全体について調査し、都市特性や都市構造を把握し、対象建 築物の立地する敷地の広域的な位置づけを明確化しておく必要がある。主な調査項目 について図表Ⅰ− 13 に示す。データソースとしては、国勢調査、事業所統計調査、 商業統計調査、工業統計調査などの統計調査報告を主に利用する。 必要に応じ、当該都市のみでなく、都市圏で調査したり競合都市についてもこれら の概況を把握しておくことも必要になる。これらの結果を基にその都市、および施設 の立地する商業中心のポテンシャルや将来動向などを判断する。図表Ⅰ− 13 都市特性に関する調査項目 調査項目 調査内容 地理的条件 位置、周辺都市との関係 人口 人口(夜間人口、昼間人口)、世帯数、DID 人口、圏域人口、年齢別人口、これらの増 減率、推計(計画)人口、人口動態、移動人口(通勤通学等) 産業経済 産業構造、主要事業所、商業販売額、小売吸引力 土地利用 市街地面積、中心市街地の範囲、土地利用現況・経年変化 交通 鉄道、道路、空港、港湾、バスルート 主要施設 官公庁、住宅団地、大型店 計画 総合計画、中心市街地活性化計画、再開発等主要プロジェクト 生活 所得、消費支出、自家用車保有率 その他 歴史、文化、観光資源 ②周辺地域特性の把握 第二段階として、対象施設の周辺環境を把握し、具体的な導入機能を検討する基礎 資料とする。主な調査項目を図表Ⅰ− 14 に示す。調査の対象範囲は、導入を想定す る施設の内容により想定する必要があるが、中心市街地に立地する施設の場合は、概 ね中心市街地の範囲となる。ただし、すべての調査項目を中心市街地全体について調 査するというよりも、まず中心市街地全体について概況を把握した上で、徒歩圏程度 の範囲や直接関係する区域について詳細に把握するという段階を踏むと効率的である。 調査については、統計資料等の利用のみでなく、現地調査や関連自治体、商店会、 自治体等へのヒアリング調査も必要になる。直接目で現地を見て状況を判断する現地 調査は特に重要で、時間帯や曜日による変化を把握するためにも何度も実施する必要 がある。土地建物利用現況等の結果については、1/1,000∼1/2,500 程度の地図上に表 現して分析する。 これらの結果から、その中心市街地の全体の空間構造を把握し、当該施設の立地に ついての条件整理を行う。図表Ⅰ− 15 に、調査結果の表現例を示す。 図表Ⅰ− 14 周辺地域特性の把握に関する調査項目 調査項目 調査内容 土地建物利用 建物用途別・構造別・階層別・建設年別現況、建築面積、床面積、売場面積、営業時間、 土地・建物の所有関係 交通 交通アクセス、鉄道(駅からの距離、乗降客)、主要道路網、自動車交通量、バス利用 状況、駐車場、自転車利用状況、歩行者交通量 計画・事業 都市計画マスタープラン(地域別計画)、市街地再開発方針、市街地再開発事業、まち づくり総合支援事業、中心市街地活性化事業、民間都市開発 法規制等 地域地区、地区計画、まちづくり条例、指導要綱 コミュニティ 地域活動関連NPO・市民団体、地域活動の状況、祭り等のイベント その他 防災・防犯上の課題、都市景観
図表Ⅰ− 15 立地特性把握の表現方法の例 小売業の推移(前橋市) 1977年駐車場(資料:住宅地図1977年) 1998年駐車場(資料:住宅地図1998年) 昭和60年5歳階級別中心市街地人口 平成7年5歳階級別中心市街地人口 5歳階級別人口の変化 商業施設密度の分布 施設分布の変化(駐車場) 大型店の分布(前橋市域) アンケート調査による移動経路の把握 (出典)集客施設を活用した中心市街地活性化調査研究報告書,平成 12 年3月,前橋市・(財)余暇開 発センター
(2)立地特性と最適利用 上記の立地特性把握の結果から対象建築物の床の最適利用を考える。その際の考え 方の流れを図表Ⅰ− 16 に示す。対象建築物の立地する都市と周辺地域の立地特性の 分析結果を用い、導入検討施設の種類を立地要件と規模要件の2つの観点から絞り込 むことにより、立地可能な施設を抽出する。施設には、立地特性上ふさわしい条件が あり、たとえば、駅前の繁華街に立地する建築物に適する用途と、駅から離れて住宅 地に近接する場合とは異なり、都市の規模によっても異なる。対象建築物が、導入を 検討する施設の立地要件に該当する立地であることが必要になる。次に、施設には適 する規模があり、一定の床面積が必要になる。例えば、大型書店の場合は駅前やロー ドサイド、ショッピングセンター内の立地が適し、適正規模は売場面積 200∼500 坪 (660∼1,650 ㎡)が適するというデータがある(図表Ⅰ− 17)。これが規模要件であ り、これだけの床が確保できないと立地要件は満足しても成立しない。これらの要件 から導入可能施設を抽出し、それぞれの施設需要を推計することで最終的に最適な用 途の組み合わせを決定する。 図表Ⅰ− 16 施設の最適利用判断の流れ 施設需要の推計 対象建築物周辺の立地特性の把握 導入検討施設の立地要件 導入検討施設の規模要件 導入可能施設の抽出 商業系用途 公共・公益系用途 その他(コミュニティ ビジネス等) 最適利用用途(組み合わせ)決定 都市の概況把握
図表Ⅰ− 17 業種別立地特性と適正規模 業種 立地特性 適正規模(売場面積) 地方百貨店 地方都市、SC の核として郊外へ 都心型では 3,000∼1,000 坪程度。1,000∼ 5,000 坪の小規模もある。 スーパーマーケット ロードサイド、住宅密集地、駅前 郊外 500 坪程度、都市 300 坪程度 総合ディスカウント店 ロードサイド、繁華街 2,000∼4,000 坪程度 コンビニエンスストア 住宅街、オフィス街、駅前 50 坪前後 ドラッグストア 駅前、繁華街、住宅地、ロードサ イド、SC 内 郊外 200∼300 坪、都市 50 坪程度 カメラ系家電量販店 都心駅前 1,000∼4,000 坪 家電量販店 ロードサイド、SC 内 500∼1,500 坪 スポーツアウトドア店 都心、SC 内 100∼1,000 坪 玩具・ホビー店 ロードサイド、SC 内 小型店 100∼300 坪、大型店 800∼1,000 坪 大型書店 駅前、ロードサイド、SC 内 200∼500 坪 CD ショップ SC 内、繁華街 100∼500 坪 家具 ロードサイド、SC 内 500∼2,000 坪、大型店 5,000 坪 インテリア・雑貨 SC 内、繁華街 100∼500 坪 カジュアル衣料 ロードサイド、SC 内 200∼400 坪 紳士服 都心、ロードサイド、SC 内 200 坪前後 婦人服 都心、郊外SC 50∼100 坪 ガーデニング店 ロードサイド、SC・HC 内、都心百 貨店内 150∼300 坪、50 坪の小型店や 1,000 坪以上 の大型店もある ペットショップ ロードサイド、住宅地、SC 内 50∼60 坪 カフェ・コーヒーショ ップ 都心繁華街、オフィス街、SC 内 20∼50 坪 ファミリーレストラン ロードサイド、オフィス街、SC 内 20∼50 坪 ファーストフード 駅前、繁華街、ロードサイド、オ フィス内、SC 内 80∼120 坪 都市型テーマパーク、 ゲームセンター 繁華街、SC 内、ロードサイド 都市型テーマパーク 1,000∼3,000 坪 ゲームセンター 200 坪前後 シネマコンプレックス 繁華街、SC 内 1,500∼2,000 坪、スクリーン数 6∼10、客 席数 1,000 席以上 パチンコ店 繁華街、ロードサイド 店舗面積 200∼400 坪(バックスペース含 む) カラオケルーム 繁華街、ロードサイド 100∼200 坪、40 ルーム/店 ボウリング場 繁華街、SC 内 800 坪前後 バッティングセンター 繁華街、ロードサイド 300∼500 坪、打席数 10 打席 フィットネスクラブ ターミナル駅前、SC 内 1,000∼2,000 坪 (出典)「都市・建築・不動産企画開発マニュアル 2002∼03」pp.94-97,(株)エクスナレッジ(一部抜粋)
4.人口規模と施設需要
(1)圏域人口の推計 施設需要を推計するためには、その施設を支持する人口の分布する範囲(利用圏) を設定し、その圏域内の人口規模を求める。この利用圏(商業系施設の場合は商圏、 公共・公益施設の場合はサービス圏と呼ばれる場合もある)は、施設利用実態調査か ら設定する。商圏の場合は、既往の広域商業診断、買物動向調査、来街者実態調査な どがあればそれらを参考に、競合する商業集積や大型店の分布、道路・公共交通機関 の整備状況などを勘案して設定する。ハフモデル(ある地区に対するある店舗の吸引 力は、その地区とその店舗の距離に反比例し、店舗の規模に比例するとするモデル) などのモデル式を用いることも多い(商圏の詳細については商業系テキスト 10 頁以降 を参照)。 (2)施設需要の推計 ①商業系施設 商業系の用途(物販、飲食、サービス、アミューズメント)については、商圏人口 に消費支出、吸引率(設定した商圏内においてどの地域からどの商業地にどれくらい の割合で買物をしているのかの比率)、販売効率(当該地域の売場面積当たりの販売額) 等を設定して図表Ⅰ− 18 に示すような流れで床需要を算定するのが一般的である。 消費支出、吸引率は、総務省の家計調査等の結果を用いて推計する。 これ以外にも、過去の実績のトレンドによる推計や、規模・売上と相関する各種要 因を用いた統計解析手法、人口規模・交通条件・商業指標等の特性が類似している他 都市との比較から推計する手法などもあり、複数の手法を併用することが望ましい。 消費者ニーズが多様化、個性化している実態もあり、また比較的短期での消費動向の 変化も予想されるので、消費者ニーズ調査や出店者、関連業界へのヒアリングなども 行い需要を予測する必要があろう。図表Ⅰ− 18 商業床需要の推計 a.圏域の設定 b.圏域人口の推計 c.消費支出の推計 d.潜在需要推計額(b×c) f.販売可能額の推計(d×e) e.吸引率の推計 h.余剰販売可能額の推計(f-g) g.既存施設の販売額 i.販売効率の想定 j.成立可能売場面積(h÷i) ・ 消費支出、吸引率は家計調査 等の結果から設定する。 ・ 販売効率=当該地域における 販売額÷当該地域の売場面積 ②公共・公益系施設 施設床への導入が予想される公共・公益系施設には次のようなものがある。 a.行政施設 b.教育施設 c.文化施設 d.社会福祉施設 e.保険・医療施設 f.スポーツ・健康施設 これらの施設は、サービス水準としての原単位(人口何人あたり1箇所または何㎡ といった値)があり規模計画、配置計画を行っているものが多く、都市計画など上位 計画でそれらが設定されている場合もあるので、自治体等の設置者、関連機関へのヒ アリングが必要になる。一方で、市民の自発的な活動での利用が多い文化施設などは、 文化活動人口を把握して直接そのニーズを捉えることが必要な場合もある。展示、講 演等不定期なイベントに利用する施設については利用頻度についても把握しておく必 要がある。 また、育児支援施設や高齢者福祉施設など、新たな需要が期待できそうな施設もあ り、最新の事例や市民のニーズに関する情報を収集しておくことが必要になる。導入 を検討する施設については、類似施設の利用実態を調査し、施設の具体的な利用特性 についてよく把握した上で需要を判断することが重要である。 ③その他の施設 施設床の需要として、NPO やコミュニティビジネスの拠点・オフィスとしての利 用も想定されている。これらの施設は、活動内容が当該建築物の利用者や利用圏域と かならずしも連動しているわけではなく、立地要求についても許容範囲が広く、需要 予測は困難である。商業施設や公共・公益施設と比べ、現時点では収益性が低く公的 助成もそれほど見込めないため経済基盤の弱いものが大部分と考えられるので、立地 条件よりも賃料に対する指向が強いと考えられる。直接活動主体と協議する中で需要
を把握し、掘り起こしていくことを考えることになろう。導入に当たっては、将来性 や建物全体のイメージと活動内容との関係などが判断基準となろう。