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原料乳市場構造の変化メカニズムに関する研究

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Academic year: 2021

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     博 士 ( 農 学 ) 清 水 池 義 治 学 位 論 文 題 名

原料乳市場構造の変化メカニズムに関する研究

ー乳業資本および生乳生産者団体の市場行動に着目して―

学位論文内容の要旨

  酪 農 と 乳 業 は 原料 乳市 場 での 原料 乳取 引関 係 によ って 結節 し てい る。 酪農 にと っ て原 料 乳 市 場 は 自 己 の 生産 物で あ る生 乳を 販売 する 場 であ るの で、 原 料乳 市場 から の規 定 が強 い の は も ち ろ ん だ が、 乳業 資 本に とっ ても 原料 乳 調達 がで きる の は国 内の 市場 に限 定 され る た め に 国 内 市 場 から の規 定 が強 いこ とが 予想 さ れる 。酪 農船 よ び乳 業の 市場 行動 は 国内 の 原 料 乳 市 場 構 造 から いか な る規 定を 受け てい る のか 、そ して 両 産業 の市 場行 動に よ って 原 料乳市場 構造がいかなる変化をして いるかが問題となろう。

  本 論 文 の 課 題 は、 乳業 資 本お よび 生乳 生産 者 団体 の市 場行 動 によ る原 料乳 市場 構 造の 変 化 メ カ ニ ズ ム を 明ら かに す るこ とで ある 。特 に 、市 場構 造の 変 化の 過程 で原 料乳 取 引に 関 す る 一 制 度 で あ る「 用途 別 取引 」制 度が 果た し た機 能に つい て 注目 する 。原 料乳 に おけ る 用 途 別 取 引 は 、 同質 の原 料 乳で あり なが ら仕 向 けら れる 牛乳 乳 製品 用途 によ って 価 格・ 分 配 方法 とい っ た取 引条 件に 区 別を 設け る取 引方 式 であ る。 そして原料乳市場構 造の変化が、

乳 業 資 本 、 生 乳 生産 者団 体 をは じめ とす る関 係 主体 にど のよ う な意 味を 有す るか を 考察 す る 。 本 論 文 が 分 析対 象と す るの は、 酪農 およ び 乳業 の産 業組 織 が原 料乳 取引 とい う 点で 結 節 す る 原 料 乳 市 場で ある 。 その 点で 水平 的な 構 造( 競争 ・協 調 構造 )と 垂直 的な 構 造( 取 引 ・ 結 合 構 造 ) を明 示的 に 結び っけ たフ レー ム ワー クが 求め ら れる 。そ こで 本論 文 では 産 業 組 織 論 フ レ ー ムワ ーク を 援用 しつ っも 、わ が 国の 酪農 乳業 の 特性 を踏 まえ て修 正 を加 え たSCPア プ ロ ー チ を 用 い る 。 本 論 文 で は 、 市 場 構造 (広 義) を 企業 が直 接影 響を 与 える こ と ので きな い「基礎条件 」と「市場構造」(狭義)と に分離した上で、「基礎条 件」.「市場 構造」( 狭義).「市場行動」.「 市場成果」の4つの概念間に双方向的な因果関係を想定する。

ま た 、 乳 業 の 市 場行 動( 原 料乳 調達 戦略 )が 酪 農の 基礎 条件 で ある 原料 乳需 要を 規 定し 、 酪 農 の 市 場 行 動 (原 料乳 販 売戦 略= 価格 ・用 途 ・分 配戦 略か ら 構成 )が 乳業 の基 礎 条件 で ある原料 乳供給を規定するといった 因果関係で分析をおこなう。

  本 論 文 で は 以 上 の 課 題 を 明 ら か に す る た めに 分析 対 象の 限定 をお こな う 。第1に 北海 道 の 原 料 乳 市 場 を 主 要 な 分 析 対 象 と す る 。 第2に 、 主 と し て1990年 代 以 降 を 分 析 対 象 期 間 と す る 。 第3に 、 生 乳 生 産 者 団 体 の 分 析 対 象 事 例は 北海 道指 定 生乳 生産 者団 体ホ ク レン 農 業 協 同 組 合 連 合 会 ( 以 下 、 ホ ク レ ン ) と す る。 第4に、 雪印 乳 業株 式会 社、 森永 乳 業株 式 会 社 、 明 治 乳 業 株 式 会 社 の 大 手 乳 業 資 本3社 を 乳 業 資 本 の 対 象 事 例 と し て 取 り 上 げ る 。   本 論 文 で は 、 まず 生乳 取 引制 度( 不足 払い 制 度、 生乳 計画 生 産) と生 乳需 給の 展 開過 程 を 対 象 と し て 、 ー体 的な 需 給調 整メ カニ ズム を 明ら かに する 。 次に 牛乳 乳製 品需 給 につ い て1990年 代 以 降 に生 じた 変 化の 特徴 を述 べる 。 そし て、 北海 道 の原 料乳 市場 構造 を 変化 さ     ―1187―

(2)

せた規定要因のひとっと考えられる生乳生産者団体の原料乳分配方法に注目して、市場構 造の変化の特徴を検討する。続いて、ホクレンを対象に原料乳市場構造の変化を規定した 生 乳生産 者団体の 市場行動にっいて分析する。最後に、大手乳業資本3社(雪印乳業、森 永乳業、明治乳業)の事例を中心にして、原料乳市場構造の変化を規定した大手乳業資本 の市場行動について分析する。

  本論文の結論は以下の通りである。1993年、大幅な需給緩和によって大量の乳製品在庫 が発生した。ホクレンはこの需給緩和を受けて、特にバター在庫の削減ならびに加工原料 乳価の値崩れ防止のために、生クリーム等向け(液状乳製品向け)原料乳取引を促進する 生クリーム対策を実施した。ホクレンの生クリーム対策への反応は大手乳業資本間で異な っていた。まず雪印は乳製品過剰在庫を抱え、それは90年代を通じてそしてそれ以降も容 易に解消されなかった。バター・脱脂粉乳と代替性をもつ液状乳製品の生産は既存のバタ ー・脱脂粉乳需要を狭隘化させ自社の在庫負担をさらに高める可能性があった。よって、

バター;脱脂粉乳のトップメーカーである雪印には取り組むメリットは小さかったと言え る。一方、在庫負担が小さかった森永および明治は、生クリーム対策に原料乳購入量拡大 の方途を見出した。生クリーム対策で引き下げられた生クリーム等向けの乳価水準ならび に過去の購入実績に左右されなぃ必要量分配によって、両社は急速に取引量を増加させた。

90年代初めの時点でトップメーカーだった雪印が在庫によって企業行動が制約された以上、

新たな生クリーム等向け購入量の増加は在庫負担の小さい乳業資本によってでしかなされ なかったと言える。このことによって生クリーム等向けの増加が中位の乳業資本のシェア 上昇を伴い、原料乳市場構造の変化が起きたのである。1990年代以降の酪農と乳業の相互 作用関係は、まず酪農の市場行動が変化することによって乳業の基礎条件である原料乳供 給が変化した。それによって乳業の市場行動が変化し、酪農の基礎条件である原料乳需要 が変化した。その結果として酪農の市場構造(原料乳市場構造)が変化するという過程を たどった。特に、乳製品在庫の偏在によって酪農の市場行動に対応した乳業の市場行動が 不均一になり、それによって酪農の市場構造(原料乳市場構造)の変化が起こったという 点が特徴である。この市場構造の変化メカニズムから、酪農および乳業の市場行動を通じ て1990年代以 降の両 産業間に は互いに 一定の 利益を得させる協調的な相互作用関係が生 じていたと指摘できる。

  以上の結 論から以 下の点を指摘できる。第1に、輸入が困難な液状乳製品の増加は国産 乳 製品の 輸入乳製 品に対する抵抗カを増す効果があったと思われる。第2に、大手乳業資 本が購入量の大部分を加工原料乳として「持分比率」分配されることでなされてきた北海 道 の需給 調整構造 が変化 したと考 えられ る。特に2007年度でシェア2、3位の明治と森永 はその購入量の6割程度を必要量調達している。生乳需給の変動に伴う需給調整コストは、

依然として加工原料乳比率の高い雪印やよつ葉、そしてホクレンによって偏在的に負担さ れ ること になる。 第3に、1990年代以降の原料乳市場の発展内容が個々の生乳生産者に与 えた影響である。90年代以後、原料乳市場は乳価の継続的下落を伴った量的拡大の段階に 入った。これは規模拡大意向をもつ生乳生産者(大規模層)にとっては、規模拡大の前提 となる生乳生産枠の増枠確保を容易にした。ー方で、乳価の絶対水準低下は、現状維持意 向の生乳生産者にとっては生乳販売収入の減少を意味する。これは従来とは異なった方法 での酪農経営(放牧など)による生乳生産コスト低減、あるいは乳製品製造・販売など生 乳販売収入以外での所得確保を志向させるであろう。こういった一般的作用のもとで、生 乳生産者は地域農業(酪農)の条件に規定されて様々な形態の行動を取ったと思われる。

    ―1188―

(3)

学 位 論 文 審 査 の 要旨 主査   教授   飯澤,理一郎 副 査    教 授    出 村 克 彦 副 査    准 教授    坂爪 浩史

学 位 論 文 題 名

原 料 乳 市 場 構 造 の 変 化 メ カ ニ ズム に 関 す る研 究

ー乳業資本および生乳生産者団体の市場行動に着目して―

  本 論 文は7章 から な り 、図31、 表27を 含む125頁 の 和 文論 文 で 、別 に 参考 論文5編が 添えられている。

  本論文は、酪農と乳業とが結節する原料乳市場を対象に、酪農(生乳生産者団体)及ぴ乳 業(乳業資本)の市場行動が原料乳市場に如何なる構造変化をもたらしたのかを、産業組織 論、特にSCPア プローチ を援用 しっつ、 「用途別 取引」制度に着目して解明したものであ る。その際、主とした分析対象は原料乳供給で圧倒的シェアを占める北海道におかれ、その 関係で生乳生産者団体はホクレンに、また、乳業資本は牛乳乳製品市場で圧倒的シェアを占 める雪印・明治・森永の各乳業資本におかれている。

  第1章 では生 乳需給と 生乳取 引制度の 相互規定 的な展 開が解明 され、 第2章 では主とし て1990年代 以降の、 牛乳・脱脂粉乳・バター等の需要停滞と液状乳製品・発酵乳・チーズ 等の需要 増大を 特徴とす る牛乳 乳製品の 需給動向 の特徴が析出されている。第3章では原 料乳市場構造の変化が取り上げられ、液状乳製品などの「優先用途」向けの増加及び雪印・

よつ葉乳 業のシ ェア低下 と森永 ・明治乳 業のシェ ア増加が確認されている。続く第4章で は原料乳 市場構 造の変化 を規定 した生乳 生産者団 体の市場行動が、第5章では同乳業資本 の市場行 動が分 析されて いる。 第4章 では、生 乳生産者団体ホクレンが液状乳製品の潜在 的需要に着目し、それ向けの「相対的低乳価」を設定することによってその需要を拡大し、

原料乳市場構造の変化をもたらすとともに、全国的な減産=「計画生産」下でも生乳販売量 を拡大し 、プー ル乳価下 落を軽 減してき たことが 指摘されている。第5章では、乳業資本 は何れも利益率の高い液状乳製品への転換を試みたものの、液状乳製品と競合度合いの高い 脱脂粉乳・パター在庫を多く抱える雪印の転換度合いは明治・森永に比べて極めて低く、結 果として、雪印の受託乳量割合の低下、3社の拮抗状態を招いてきたことが指摘されている。

そ し て 終 章 で は 以 上 が 総 括 さ れ 、 以 下 の 結 論 が 導 き 出 さ れ て い る 。   乳製品市 場は1990年 代前半、大幅に需給が緩和した。特にバターの滞貨に膨大な量に達 し、このまま放置すれば乳価の値崩れ等すら起きかねない状況に立ち至った。パター生産の 抑制策及び乳価値崩れ防止策として、生乳生産者団体ホクレンによって実施されたのが「生 クリーム対策」と称された液状乳製品向けの特別の生乳取引枠の設定である。同取引枠は乳

1189

(4)

業資本ーの加工原料乳配分に先立って配分される「優先用途」とされるとともに、希望量の 配分が受けられ、しかも設定価格は相対的に見れば低価格であった。同対策への乳業資本の 対応は一様ではなく、雪印と明治・森永とでは著しく異なったものであった。雪印は乳製品、

特にバター在庫を大量に抱えていたこともあり、バターと競合関係にある生クリームの増産 には極めて消極的であった。生クリームの増産が更なるバター在庫の積み増しと在庫の長期 化を招く恐れが高かったからである。対して、明治・森永の対応は、在庫をそれ程抱えてい なかったこともあり積極的で、結果として原料乳の購入量を大きく増加させて、今や雪印と 並ぶところまできているのである。こうした過程を通じて、原料乳市場構造は大きく変化し てきたのである。以上のように、酪農(生乳生産者団体)と乳業(乳業資本)の相互作用関 係は、まず酪農の市場行動が変化し、それが乳業の基礎条件である原料乳供給構造に変化を もたらす。それが乳業の市場行動に変化をもたらし、酪農の基礎条件である原料乳需要構造 を 変 化 さ せ 、 結 果 と し て 原 料 乳 市 場 構 造 が 変 化 し て き た の で あ る 。   こうした総括を踏まえ、一っに液状乳製品は輸送条件等で輸入が困難なことから、その増 産は国産乳製品の輸入品に対する全体としての対抗カを増す効果があったこと、ニっに、そ れとも関係するが、液状乳製品の特別枠が設定されなかった場合、その分、輸入に置き換わ ったと考えざるをえないが、それが設定された結果、原料乳の「国内生産枠」が確保でき、

酪農の発展に寄与してきたこと、そして三っに、液状乳製品に対する取り組みが消極的であ っ た雪印な どに生 乳需給調 整に関 わるコスト負担が多くのしかからざるをえなくなってき たこと、が指摘されている。

  以上のように、本論文は原料乳市場構造の変化メカニズムを、産業組織論を援用しつつ、

両当事者である酪農(生乳生産者団体)と乳業(乳業資本)の相互規定関係を分析・検討し たものであり、これまでの同種の分析・検討がそれら一方に軸点をおき、相互規定関係とい うダイナミズムを描けなかったことからすれば、大きな前進であり、学問的にも高く評価さ れる。

  よって、審査員ー同は、清水池義治が博士(農学)の学位を受けるのに十分な資格を有 するものと認めた。

1190

参照

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