悪 性 リンパ腫 治療 後 に 出現 した
急 性 骨髄 性 白血 病 の1例
石
原
吉
孝
林
毅
椿
本
雅
宥
作
田
正
義
長 谷 川
清*渕
端
孟**
緒
言
リンパ 性 組織 由来 の悪 性 腫 瘍 で あ る悪 性 リ ンパ腫 に は,そ の発 生 母 細胞 の違 い に よ り組 織 学 的 に,
Hodgkin病,濾
胞 性 リ ンパ腫,リ
ンパ 肉腫,細 網 肉腫 に分 け られ る。 過 去 の報 告 に よれ ば,欧 米 で
はHodgkin病
が最 も多 く,次い で リンパ 肉腫 が 多い 。 本 邦 に おい て は,細
網 肉腫 が過 半 数 を占 め
る とい わ れ て い る1-3)。
一 般 に,頭
頸 部 は悪 性 リンパ 腫 の好 発 部 位 とい われ てい る が,口 腔 外 科 領 域
で の 臨 床報 告 は 意外 に少 な く,そ
の 出現 状 態,臨
床 症 状 な ど につ い て は ま だ十 分 明 らか に され て い
な い2,4-8)。
一 方 ,造 血臓器 の悪 性腫瘍 で ある白血病 は,細 胞起源 に よつて リンパ性 白血病,骨 髄性 白血病,
単 球 性 白血病,プ ラ ズマ 細 胞 性 白血 病 な どに分 け られ,そ の症 状 や 増 殖 細 胞 の成 熟 度 に よつ て急 性,
慢 性 に区別 され てい る9,10)。これ らのい ず れ の 白血 病 も末 梢 血 中 に 病 的 白血 球 の 出現 を 認 め る こ と
に よ り診 断 され るが,時
に は,こ
れ らの病 的 細 胞 の浸 潤 に よ り各 種 臓 器 に腫 瘍 塊 を形 成 す る こ と も
あ る。 さ らに,比
較 的 若 年 者 で は,悪 性 リンパ 腫 の 白血 病 化 も稀 で は ない 。 しか し,こ の 白血 病 化
は 当 然 の こ とな が ら同種 腫 瘍 細 胞 の血 中 へ の 出現 で あ り,悪 性 リ ンパ 腫 を もつ 患 者 に 骨 髄 性 白血 病
が 出 現 す る こ とは きわ め て稀 な もの で あ る。 こ の よ うな症 例 の発 症 は,血
液 幹 細 胞 の分 化,さ
らに
は腫 瘍 化 を考 え る上 で興 味 あ る こ とで あ る。
我 々 は,34歳
の男 性 に,左
側 上 顎 犬 歯 か ら大 臼歯 部 に か け て の腫 瘤 を認 め,病
理 組 織 学 的 に悪 性
リンパ腫 と診 断 して,化
学 療 法,放 射 線 療 法 を施 行 した。 しか し,そ の処 置 経 過 中 に は,全
く白血
病 所 見 を認 めな か つ た に もか か わ らず,処
置 後 の経 過 観 察 中 に,突
然,急 性 骨 髄 性 白血 病 の出 現 を
み た 興 味 あ る1例 を経 験 した の で報 告 す る。
症
例
患 者:34歳,男
性
初 診:昭 和53年11月
主 訴:顔
面左 側 の腫 脹 お よ び大 臼歯 部 腫 脹
既 往 歴:特 記 事 項 な し。
Yoshitaka Ishihara, Takeshi Hayashi, Masahiro Tsubakimoto, Masayoshi Sakuda, 大 阪 大 学 歯 学 部 口 腔 外 科 学 第2講 座(主 任:作 田 正 義 教 授)
*Kiyoshi Hasegawa
大 阪 大 学 歯 学 部 付 属 病 院,中 央 臨 床 検 査 室 **Hajime Fuchihata
家 族 歴:特 記 事 項 な し。
現 病 歴:昭 和53年2月,左
側 頬 部 の小 指 頭 大 の 腫脹 に気
付 き,某 診 療 所 外 科 よ り紹 介 され 某 病 院 耳鼻 科 受診,上 顎
洞 炎 と して洗 滌 処 置 お よび 投 薬 を うけた が軽 快 せ ず そ の ま
ま放 置 した。10月 末,左 側 上 顎 大 臼歯 部 歯 肉 の腫 脹 の た め
某 歯 科 を 受 診 し,切
開 排膿 処置 を 受 け腫 脹 は 一 時軽 快 し
た。 しか し,そ
の 後1週 間 で 再 度 同 部 に 腫 脹 を認 めた の
で,紹 介 され て 当科 を受 診 した。
現 症:顔 貌 は左 右 非 対 称 。 左 側 眼 窩 下 部 よ り頬 部 にか け
て鶏 卵 大 の腫 脹 が あ つ た。 腫 脹 部 の圧 痛 は あつ た が 自発痛
は な かつ た(図1)。
口腔 内所 見 で は,6欠
損 部 を 中心 に3か
ら8部 にか けて
頬 側 よ り口蓋 側 に ま た が る鶏 卵 大 の腫 脹 が あつ た(図2)。
37は
打 診 痛 が な く健 固 で あ つ た が,45は
動揺 度 大 で,
打 診 痛 もあ つ た。 腫 脹 部 は弾 性 軟 で,鈍 痛 が あ る も の の圧
痛 は な か つ た。 腫 脹 表 面 は平 滑 で一 部 青 白色 にみ え る が ほ
ぼ正 常 歯 肉色 で あ つ た。 腫 脹 は 比較 的 限局 して お り,周 囲
図1初
診時の顔貌 写真
↓は左側眼窩下部の禰慢性腫脹 を示
す
の硬 結 は認 め られ な か つ た。 ま た,出 血 や潰 瘍 は なか つ た。 開 口障 害 が あ り開 口度 は1,9cmで
あ つ
た 。顔 面,口 腔 内 と もに知 覚異 常 は な か つ た。
顎 下 リンパ 節 は 左 右 と もに 拇 指 頭 大 の 腫 脹 が あ り 可 動 性 で あっ た が,左 側 のみ に 圧 痛 が あ つ た
(図3)。
腋 下 リンパ 節,鼠 蹊 リンパ 節 な ど他 の リ ンパ節 の腫 脹 は触 知 しな かつ た 。 ま た,肝 腫,脾
腫 な ど もな か つ た 。
体 格,栄 養 状 態 は とも に良 好 。 発 熱 もな か つ た 。
X線 所 見:左 側 上 顎 臼歯 部 は著 明 な 骨 破壊 像 を示 した。 上 顎 洞 の下 底 は完 全 に破 壊 され,上
顎 洞
内 に腫 瘍 の充 満 が疑 われ た。 また,眼 窩 下 縁 の 一 部 消 失,飾
骨 洞 下 壁 お よび 鼻 腔 側 の 肥 厚 な どが う
か が わ れ た(図4)。
胸 部X線
で は異 常 は認 め なか つ た(図5)。
全 身 的 な リンパ 管 造 影 で も,後 腹 膜 リンパ 節,胸 部 縦 隔洞 リンパ 節 な どで の変 化 を認 めな か つ た 。
図2初 診 時 の 口腔 内写 真 ↓ は左 側 口蓋 部 にお け る禰 慢 性 腫 脹 を示 す 図3↓ は右 側 顎 下 リ ンパ 節 の腫 脹 を示 す図4初
診時X線 所 見
↓は左側上顎臼歯部の骨破壊 像 を示 す
臨 床 検 査 所 見:初 診 時 の 臨 床 血 液 検 査 結 果 で は,血 血液 像 で リ ン パ 球 の 割 合 が 少 し高 い 他 は, 異 型 リ ン パ 球,白 血 病 細 胞 出 現 な ど の 異 常 を 認 め ず,肝,腎 機 能 な ど に も異 常 所 見 は な か つ た (表1)。 臨 床 診 断:左 側 上 顎 大 臼 歯 部 悪 性 腫 瘍 の 疑 い、。 病 理 組 織 所 見:左 側 上 顎 臼 歯 部 よ り試 験 切 除 を 行 な つ た 。 ヘ マ トキ シ リ ン エ オ ジ ン染 色 で は ,正 円 小 型 の 細 胞 質 の 少 な い'成熟 リ ンパ 球 が ビ マ ン 性 に 増 殖 し て 粘 膜 上 皮 直 下 に お よ ん で お り,個 々 の 細 胞 に は,異 型 性 お よ び 核 分 裂 像 が 多 数 認 め ら れ た(図6)。 鍍 銀 染 色 で は,好 銀 線 維 は 繊 細 で あ り,破 壊 さ れ た よ う な 短 い 線 維 が 認 め ら れ る。 し か し, こ れ ら線 維 の 増 殖 は 著 明 で は な か つ た(図7)。 病 理 組 織 学 的 に は,Rappaportの 分 類(1966)11) に 従 つ て,diffused lymphocytic typeで,well differenciatedのmalignant lymphomaと 診 断し た 。
図5初
診 時の胸部X線 写真
処置 および経過
臨 床 検 査 所 見 を 含 め て 本 悪 性 リ ン パ 腫 の 病 期 分 類 は,Ann Arbor分 類(1971)12)のstageII EAと し,化 学 療 法 ,放 射 線 療 法 を 行 な つ た(図8)。 化 学 療 法 は,Endoxan(100mg),Vincristine(2mg), Predonine(40mg)の3剤 併 用 投 与(COP療 法)を3ク ー ル 行 な つ た 。 顔 面 の 腫 脹 や 顎 下 リ ン パ 節 の 腫 脹 は 減 少 し た 。 そ の 後 放 射 線 治 療 を 行 な い',Lineacを 左 側 上 顎 に,正 面, 側 面 の2門,鎖 骨 上 部 正 面1門 の 計3門 で3,150rad照 射 し た 。 さ ら に 治 療 効 果 を 上 げ る た め,左 側 上 顎 に 正 面,左 右 側 の3門 で3,000radを 追 加 し,総 量6,150radを 照 射 し た 。 こ の 結 果,顔 面 お よ び リ ン パ 節 の 腫 脹 は ほ と ん ど 消 失 し,口 腔 内 の 腫 脹 も 消 退 し た 。X線 的 に は,骨 破 壊 像 の 進 行 は な く,初 診 時 よ り改 善 は み られ る が,bone formationは み ら れ ず 完 全 治 癒 と は い'い'難い 状 態 で あ つ た 。 胸 部X線 で は 特 に 著 変 は み ら れ な か つ た 。 放 射 線 治 療 後 の 副 作 用 と し て,中 等 度 のmucositisが み ら れ た も の の 全 身 的 に は 著 変 は み られ な か つ た。 臨 床 検 査 所 見 で も放 射 線 治 療 終 了 時 の 昭 和54年3月15目 の 末 梢 血 液 所 見 で,白 血 球 数2,600/mm3 ,血 小 板 数15.3万/mm3と 減 少 し て い る も の の 他 に異 常 所 見 は な か つ た 。
表1初 診 時 の 臨 床 検 査 所見 図6病 理組 織 像(ヘ マ トキ シ リ ンエ オ ジ ン染 色) 左 側 上顎 臼歯 部 よ り試 験 切 除(×400) 図7病 理 組 織 像(鍍 銀 染 色)部 位 は 図6と 同 じ (×400)
以 上 の 治療 に よ り治 療 効 果 は,木 村 に よ る治 療 効 果 判 定 で+2と
した13)。
放 射 線 治療 終 了後,経
過 観 察 を行 な つ て い た とこ ろ,3月29日
の 血液 検査 に て末 梢 血 に突 然,白
図8悪 性 リ ンパ 腫 な らび に 白血 病 に対 す る治 療 経 過,図 中 の(A)∼(J) は 表2の 月 日 を示 す 血 球 の 異 常 増 加 と 共 に骨 髄 芽 球54%を は じ め と す る幼 若 細 胞 が 出 現 し,異 常 所 見 を 呈 し た(表2)。 自 覚 症 状 は な か つ た が,白 血 病 の 合 併 が 疑 わ れ た た め,大 阪 大 学 医 学 部 第2内 科 と共 観 の 上,精 査 分 析 を行 な つ た 。 末 梢 血 液 の ギ ム ザ 標 本 で は,骨 髄 芽 球 を 含 む 幼 若 細 胞 が 出 現 し て お り,末 梢 血 の 骨 髄 芽 球 は98% に 上 昇 し た 。 位 相 差 顕 微 鏡 所 見 で は リ ン パ 芽 球 は み られ ず,PAS反 応 や ペ ル オ キ シ ダ ー ゼ 反 応 な ど の 諸 検 査 の 結 果 よ り,総 合 的 に 急 性 骨 髄 性 白 血 病 と診 断 し た(表3)。 白 血 病 の 治 療 に は,最 初Vincristine(1mg),Endoxan(100mg),6MP(50mg),Predonine (40mg)の4剤 併 用 投 与(VEMP療 法)を 行 な つ た が 効 果 が 芳 し く な か つ た の で,Daunomycin (40mg),Cyclo C(300mg),6MP(50mg),Predonine(40mg)の4剤 併 用 投 与(DCMP療 法)を 行 な つ た 。 一 時,175,000/mm3ま で 上 つ た 白 血 球 数 は 激 減 し て 効 果 が み られ た 。 しか し な が ら,幼 若 細 胞 は完 全 消 失 し得 ず,再 燃 傾 向 が み られ た の で そ の 後,DCMP療 法 を4ク ー ル 行 な つ た (図8)。
な お,こ の 間,鼻 出 血 や 皮 下 出 血 が 出 現 し 精 査 し た と こ ろ,DIC(disseminated intravascular coa-gulation syndrom,播 種 性 血 管 内 血 液 凝 固 症 候 群)の 併 発 を認 め た 。DICの 判 定 に は,松 田 に よ る 診 断 基 準 を 用 い て い る14)(表4)。DICの 治 療 に は,ヘ パ リ ン お よ びPRP(Platelet rich pmasma)の 投 与 を行 な つ た が 緩 解 し な か つ た 。5月 中 旬 か ら は,口 腔 内 各 所 か ら の 出 血 が 始 ま り消 化 管 出 血 に よ る 腹 部 の 緊 張 も出 現 した 。6月 に 入 つ て 不 幸 に も脳 出 血,消 化 管 出 血 に よ り死 亡 した 。
考
察
悪 性 リ ンパ 腫 は リ ン パ 組 織 よ り発 生 す る 悪 性 腫 瘍 で あ り,頸 部 リ ンパ 節 に 好 発 す る とい・わ れ る 。 顎 口腔 領 域 に 原 発 す る 悪 性 リ ン パ 腫 は,そ の ほ と ん ど が リ ン パ 節 以 外 の 臓 器 よ り生 ず る も の でex-tranodal lymphomaに 含 め られ る 。 谷 本15)の 報 告 に よ れ ば,リ ン パ 節 原 発 とextranodal lymphomaの 発 生 比 率 は3:1で あ り,表2 末 梢 血 液 所 見 の経 過(1)
末 梢 血 液 所 見 の 経 過(II)
表 中 のVはVincristine,EはEndoxan,Mは6-MP,PはPredonine,DはDaunomycin,C はCyclo Cを 示 す
Freemanら16)の 報 告 に よ る と,extranodal lymphomaの2%が 口 腔 悪 性 リ ン パ 腫 で あ る と し て い る 。 顎 口腔 領 域 に 発 生 し た も の が 原 発 巣 で あ る と 決 定 す る こ と は,必 ず し も 容 易 で な い か も しれ な い が,作 田 ら7)の 報 告 で も,戸 塚 ら8)の 報 告 で も 口腔 領 域 発 生 の 悪 性 リ ン パ 腫 で はextranodal lymphomaが 高 率 を 占 め て い る 。 悪 性 リ ン パ 腫 が 顎 領 域 に 原 発 す る 時,発 生 母 地 は,顎 骨 の 骨 髄 組 織 あ る い は 唾 液 腺 内 の リ ン パ 性 組 織 が 考 え られ て お り,歯 肉 歯 槽 部 は 一 般 に リ ン パ 性 組 織 を 欠 く部 位 と され て い る 。 本 症 の 悪 性 リ ―(523)―
表3
急性 白血病 の監別診 断
A.M.Lは 急 性 骨 髄 性 白血 病 を,A.L.Lは 急 性 リ ンパ 性 白血 病 を示 す
表4DICの 診 断 基 準(松 田 に よ る)
Total Points
4 DIC
3 DIC (suspected)
ン パ 腫 の 発 生 母 地 は 不 明 で あ る が,恐 ら く,骨,皮 膚,上 顎 軟 組 織 な ど に 散 在 し て い る リ ン パ 組 織 よ り発 生 し た の で あ ろ う。 本 症 例 は,当 初,口 腔 内 の 臨 床 症 状 や,X線 的 に 上 顎 大 臼 歯 部 か ら 上 顎 洞 底 へ の 瀰 漫 性 の 骨 破 壊 像 が み ら れ た こ と よ り上 皮 性 悪 性 腫 瘍 を疑 わ し め た 。 局 所 症 状 に お い て も,口 腔 領 域 の 悪 性 リ ン パ 腫 の 主 要 症 状 と い わ れ る知 覚 異 常 は 認 め られ な か つ た 。 ま た,前 医 に お い て,上 顎 洞 炎 や 歯 肉 膿 瘍 の 処 置 を 受 け た と こ ろ か ら 察 す る に,初 発 時 期 で の 炎 症 徴 候 が あ つ た と も考 え られ る が,来 院 時 に は 消 失 し て い た 。 病 変 の 拡 が り を み る 病 期 分 類 に つ い て は,AnnArbor会 議(1971)の 国 際 分 類 に よ つ て 本 症 例 はclinical stage IIEAと し た12)。 正 確 な 臨 床 病 期 分 類 が 治 療 の 手 段 の 決 定 や 予 後 と の 関 連 に 必 要 で あ る。Ann Arborの 病 期 分 類 をnon-Hodgkinリ ンパ 腫 に 適 用 す る 上 で の 欠 点 と してStageIII とstageIVと の 間 に 予 後 の 差 が み い だ さ れ な い こ とや,nodularと さ れ る も の に 関 し てstageの 如 何 に か か わ らず ほ と ん ど予 後 の 差 が な い と い う意 見 も あ る が17-19),し か し,stage I∼HとIII,IVの 間 に は,治 療 法 の 決 定 や 予 後 を 考 慮 す る 上 に 大 き な 差 異 が あ る。
ず れ か 単 独,あ るい は 併 用 療 法 を行 ない,stageIIで は,化 学 療 法 と放 射 線 治 療 の 併 用 療 法 が 行 な わ れ,さ ら に,Stage皿 以 上 で は,化 学 療 法 が 中 心 と な る 治 療 法 が 行 な わ れ てい る13,20-23)。 本 症 例 に おい て は,Vincristine,Endoxan,Predonineの3剤 併 用 療 法(COP療 法)を 行 ない, さ ら に,放 射 線 治 療 を6,150rad行 な つ た 。 完 全 寛 解 と ま でい か な か つ た が,木 村 に よ る 治 療 効 果 判 定 で は,+2と 判 定 し た 。 悪 性 リ ン パ 腫 の 病 理 組 織 学 的 分 類 を み る と,従 来 我 国 で は,Hodgkin病,細 網 肉 腫,リ ンパ 肉 腫,巨 大 濾 胞 性 リ ンパ 腫 に 分 類 され てい た が,最 近 で はHodgkin病 と,そ れ 以 外 を 総 合 し てnon-Hodgkinリ ン パ 腫 と に 分 類 す る傾 向 に あ る24-27)。
Hodgkin病 に つい て は,Rye分 類(1966)に よ り,lymphocytic predominance,mixed cellu-rarity,nodular sclerosis,lymphocytic depletionの4型 に 分 類 さ れ てい る 。 一 方,non-Hodgkin
リ ン パ 腫 に 関 し て は,細 胞 起 源 に 諸 説 が あ り現 在 ま で も 統 一 さ れ て い な い28)。 欧 米 に お い て は 従 来 よ りRapPaportの 分 類(1966)が よ く用い ら れ てい る 。 こ の 分 類 は,non-Hodgkin lymphomaの 予 後 の 予 見,治 療 成 績 と の 対 応 も秀 れ てい る とい わ れ,1970年 に入 つ て 病 理 学 的 に も臨 床 上 に も実 用 化 され て い つ た よ う で あ る 。 しか し,近 年 の 免 疫 学 の 進 歩 は め ざ ま し く,こ れ ら免 疫 学 的 手 技 を 導 入 し た リ ン パ 腫 細 胞 の 分 析 結 果 は,RapPaportの 分 類 に 対 して も批 判 の 目 を 向 け た 。 即 ち,no-dular typeの 独 立 性 に対 す る反 論,histiocytic lymphomaの 大 半 は 細 網 細 胞 由 来 で は な く リ ン パ 球 系 細 胞 由 来 で あ る こ と,さ ら に リ ン パ 球 の 幼 若 化 現 象 の 存 在 か ら み てwell differentiated type
とpoorly differentiated typeの 問 に は 本 質 的 な 違い は な い 等 々 で あ る 。 こ れ ら の 新 た な 種 々 の 知 見 を 基 に し てnon-Hodgkin lymphomaに 対 し,Bennettら29),Dorfman30),Kie131),Lukesand
Collins32),WHO33)の 組 織 分 類 が 発 表 さ れ,現 在い さ さ か 混 乱 状 態 に あ る とい つ て よい 。 し か し少 な く と もnon-Hodgkin lymphomaの 大 半 が リ ン パ 系 細 胞 に 由 来 す る腫 瘍 で あ る こ と は ほ ぼ 確 実 で あ る 。 今 回 我 々 の 症 例 の 病 型 分 類 に はRappaportの 分 類(1966)を 用い た 。 そ の 理 由 は,最 近 の 新 分 類 は 細 胞 起 源 を考 慮 し て い る 点 で は 十 分 検 討 の 対 象 に な る が,現 在,疾 患 の 予 後 の 予 見,治 療 効 果 な ど に 対 す る 臨 床 的 検 討 が 十 分 で き て お らず な お 臨 床 的 に 使 用 す る段 階 に 至 つ て い な い と考 え た か ら で あ る 。 さ て,本 症 例 で,悪 性 リ ン パ 腫 の 化 学 療 法,放 射 線 治 療 後 約2週 問 目 に 末 梢 血 中 の 白 血 球 の 増 加 が 突 然 出 現 し,急 性 白 血 病 を疑 わ せ た 。 増 加 し た 白 血 球 の 同 定 に つ き検 討 し た と こ ろ,メ イ グ リ ュ ン ワ ル ドギ ム ザ 染 色 で リ ンパ 芽 球 は み られ ず 骨 髄 性 を 疑 わ せ た 。Peroxidase反 応(一),位 相 差 顕 微 鏡 所 見 で は リ ンパ 芽 球 は な か つ た 。pAS反 応(一)で 急 性 リ ンパ 性 白 血 病 に 典 型 的 なblock-like-activityは み られ な か つ た 。peroxidase反 応 は,従 来,骨 髄 芽 球,単 芽 球 で は 陽 性 で,リ ン パ 芽 球 で は 常 に 陰 性 で あ つ た が,最 近 で は 骨 髄 芽 球 で も 陰 性 と な る場 合 が あ る こ と が わ か つ た 。PAS反 応 に お い て も リ ン パ 芽 球 に 強 い 陽 性 を 示 し 骨 髄 芽 球 で は 全 く陰 性 の 場 合 が 多 い が,骨 髄 芽 球 で も 微 弱 陽 性 で リ ン パ 芽 球 で も 反 応 の 弱 い こ と が あ る と の 報 告 も あ る34,35)。 ま た,墨 粒 貧 食 能 は ほ とん ど 骨 髄 球 に 貧 食 は み られ な か つ た こ と な ど か ら 総 合 的 に 急 性 骨 髄 性 白 血 病 と診 断 し た 。 急 性 骨 髄 性 白 血 病 の 治 療 に つ い て は,一 般 的 に,治 療 の た め に は 全 て の 白 血 球 細 胞 を 殺 す と い う total cell killと い う治 療 理 念 が 基 本 で あ る 。 寛 解 導 入 に おい て 抗 白 血 病 剤 の 投 与 を 行 な うが,最 近 で は,単 独 使 用 よ り,抗 白 血 病 力 の 増 強,併 用 に よ る そ れ ぞ れ の 抗 白 血 病 剤 の 副 作 用 の 分 散,単 独 薬 剤 で の 白 血 病 細 胞 の 耐 性 阻 止 な ど を 期 待 し て 併 用 療 法 が 常 用 さ れ てい る36,37)。
我 々 も最 初Vincristine,Endoxan,6MP,predonineのVEMP療 法 を 行 な つ た が 効 果 が 上 ら な か つ た の でDaunomycin,Cytosine arbinoside,6MP,PredonineのDCMP療 法 を行 ない 効 果 を 得 た 。 一 時 期 末 梢 血 の 白 血 球 数 も500/mm3を 下 ま わ る な ど寛 解 の 兆 し を み せ た が 再 発 し,そ の 都 度DCMP療 法 を4度 に わ た つ て く り か え した 。
さ ら に,鼻 出 血,歯 肉 部 出 血 な ど が 併 発 し,DICを 疑 わ せ た 。 血 沈 の 遅 延,血.小 板 の 減 少,フ ィ ブ リ ノ ゲ ン の減 少,F.D.P.(fibrin degradation product,フ ィ ブ リ ン 体 分 解 産 物)の 増 加 な ど が あ
り,松 田 の 診 断 基 準14)に よ つ て4ポ イ ン トを 得 た の でDICと 診 断 し た 。
DICの 治 療 に は,ヘ パ リ ン を 用い た が 元 来 存 在 す る 白 血 病 で の 出 血 傾 向 とDICの 出 血 が 重 複 し て き た た め か 完 全 止 血 が 困 難 で,platelet rich plasmaの 輸 注 も併 用 し た 。 こ れ ら の 治 療 に も か か わ らず,完 全 寛 解 は 得 られ な か つ た 。 そ の 後 も 出 血 傾 向 は 増 大 し,つ い に 脳 出 血,消 化 管 出 血 の た め 患 者 は 永 眠 し た 。
Lymphomaの 白 血 病 化 は 本 来 そ れ ほ ど稀 な も の で は ない 。Rosenbergら38)は,1269例 の1ympho-sarcomaを 検 討 し,97例(7.6%)が 白 血 病 化 した と報 告 し て い る し,同 様 の 報 告 は 少 な く ない 。 と
く に 小 児 に 発 生 す るlymphomaは 白 血 病 化 の 傾 向 が 強い とい わ れ る 。 し か し,こ れ ら の 白 血 病 化 は lymphoma cellの 流 血 中 へ の 流 入 に基 く も の で あ り,本 症 の ご と くnon-Hodgkin's lymphomaに 急 性 骨 髄 性 白 血 病 の 発 症 す る こ と は き わ め て 稀 な も の で あ る 。Zarrabiら39)の 報 告 に よ る と,ニ
ュ ー ヨ ー ク 州 に おい て 年 間 約900例 のnon-Hodgkin's lymphomaが 発 症 す る が,そ の う ちacute myeloblastic leukemiaの 合 併 す る 症 例 は1年 以 内 で 約33,000例 に1例(0.027)で あ り,そ の 後 の
7年 間 で は4,760例 に1例(0.189)に 増 加 す る と期 待 値 を 出 し てい る 。 ま た こ の 報 告 の 中 で,彼 ら 自 身 の 経 験 例12例 に 加 え1954年 以 来 の 同 様 の 他 症 例 報 告 を 集 計 して33例 を 加 え 計45症 例 を 文 献 的 に 検 討 し てい る 。 そ れ に よ る と,45症 例 中 男 性23例,女 性16例(不 明6),年 齢 は11歳 か ら83歳 に わ た つ て お り平 均47.9歳 で あ つ た 。 さ ら に,こ れ ら症 例 の 組 織 学 的 分 類 を み る と,histiocytic type ない しreticulosarcomaと 診 断 さ れ た も の7例,lymphocytic typeない しlymphosarcoma32例,
giant follicular lymphoma2例,mixedtype2例 で,圧 倒 的 にlymphocytictypeの も の に 合 併 が 多い 。 ま た,lymphocytictype32例 の う ち,poorly differentiated type18例,well differentiated type3例,不 明11例 で,poorly differentiated typeに 多 くみ られ た 。
我 々 の 症 例 はwell differentiated lymphocytic lymphomaで 年 齢 は34歳 の 男 性 で あ つ た 。 急 性 骨 髄 性 白 血 病 の 原 因 に つ い て は,内 的 要 因 と して の 遺 伝 的 要 素,外 的 要 因 と して の 環 境 因 子, あ る い は ウ イ ル ス に よ る も の な ど が あ る が,悪 性 リ ン パ 腫 の 治 療 後 に 発 生 し た こ と は 環 境 因 子 に あ る こ と が 示 唆 され る40)。 放 射 線 に 白 血 病 誘 発 能 が あ る こ と は 一 般 に 知 られ る こ と で あ る が,本 症 例 の よ う に 放 射 線 治 療 後 2週 間 で は,短 期 間 す ぎ 白 血 病 の 誘 因 と な つ た と考 え 難 い 。 ま た 一 方,悪 性 腫 瘍 患 者 の 抗 癌 剤 治 療 に よ る 白 血 病 の 発 生 も報 告 さ れ て お り,特 に,Hodgkin病 と 多 発 性 骨 髄 腫 の 治 療 後 に お い て,急 性 骨 髄 性 白 血 病 の 多 発 が あ つ た こ と は 注 目 さ れ る 。 入 野41)は, 卵 巣 癌 の 化 学 療 法 後 に 白 血 病 の 多 発 が あ つ た こ と,Hodgkin病 に 強 力 な 化 学 療 法 を行 な わ な か つ た 時 代 で は,白 血 病 の 発 生 が み ら れ な か つ た こ と,近 年 強 力 な化 学 療 法 あ る い は 放 射 線 療 法 と併 用 さ れ る こ と に よ り二 次 的 悪 性 腫 瘍 の 発 生 も 報 告 され て い る こ と な どか ら,白 血 病 の 発 生 と化 学 療 法, 特 に ア ル キ ル 化 剤 と の 問 に 密 接 な 関 係 が あ る の で は な い か と想 定 して い る 。 し か し な が ら本 症 例 に お い て,悪 性 リ ン パ 腫 の 治 療 に 際 し て の化 学 療 法,放 射 線 療 法 が 二 次 的 に
白 血 病 を 発 生 さ せ た とい う に は,少 量 で 短 時 日 に 効 果 を発 揮 し た こ と か ら 考 え て も あ り得 な い と思 わ れ る 。
本 症 例 の 場 合,最 初 か ら 白 血 病 が 存 在 し て い た,あ る い は 類 白 血 病 性 反 応 が 存 在 し て い た と す る に は,初 診 時 お よ び 悪 性 リ ン パ 腫 治 療 中 の 末 梢 血 液 所 見 な ど に 白 血 病 を 示 唆 す る も の が み ら れ な か つ た 。 従 つ て,あ ら か じ めacuteあ る い はchronic myeloblastic leukemiaが 存 在 し て お り,上 顎 部 に こ れ ら腫 瘍 細 胞 が 浸 潤 増 殖 し て 腫 瘤 を 形 成 し た,い わ ゆ るleucosarcomaと は 考 え に くい42-44)。 Zarrabiら39)の 報 告 に おい てlymphomaとleukemiaが6カ 月 以 内 に 合 併 し た 症 例 は45症 例 中 わ ず か に5例 の み で あ り,我 々 の 症 例 は き わ め て 稀 な も の と考 え られ る 。
本 症 例 は リ ン パ 球 系 腫 瘍 と骨 髄 系 腫 瘍 が お 互 い に 独 立 し た 重 複 腫 瘍 と考 え られ る 。 し か し最 近 の 造 血 幹 細 胞 の 研 究 で は,骨 髄 系 細 胞 と リ ン パ 球 が 共 通 の 幹 細 胞,す な わ ち,totipotential stem cell
を 有 し て い る と考 え られ る と の 報 告 が あ る45'47)。 我 々 の 症 例 も 臨 床 的 に 悪 性 リ ン パ 腫 と急 性 骨 髄 性 白 血 病 が 最 初 よ り重 複 し て お り,maskさ れ て い た 白 血 病 が 後 で 出 現 し て き た と も考 え られ る が, totipotential stem cell説 を 支 持 す る な らlymphocytic lymphomaと 急 性 骨 髄 性 白 血 病 の 関 連 性 が 十 分 に 理 解 され る と考 え て い る 。 結 語 我 々 は,左 側 上 顎 大 臼 歯 部 に 原 発 し た 悪 性 リ ン パ 腫 を経 験 し,化 学 療 法,放 射 線 療 法 を行 な つ た 。 治 療 施 行 中 に は 全 く 白 血 病 所 見 を 認 め な か つ た に も か か わ ら ず,経 過 観 察 中 に 突 然,急 性 骨 髄 性 白 血 病 の 出 現 を み た 。 悪 性 リ ン パ 腫 に 急 性 骨 髄 性 白 血 病 の合 併 機 序 が,化 学 療 法,放 射 線 療 法 に よ る 二 次 的 な 発 生 や, 悪 性 リ ンパ 腫 の 白 血 化 と考 え る に は,本 症 例 の 場 合 困 難 性 が あ る。 悪 性 リ ンパ 腫 と急 性 骨 髄 性 白 血 病 と が 重 複 し て お り 白 血 病 が 最 初maskさ れ て い た と も考 え られ る が,最 近 の 知 見 に よ る とtotipotential stem cellの 存 在 を 支 持 す れ ば,こ の 変 化 も臨 床 的 に 理 解 で き る も の と考 え る。 本 論 文 の 要 旨 は,第5回 日本 口腔 外 科 学 会 近 畿 地 方 会(昭 和54年10月,大 阪)に おい て 発 表 した 。 本 症 例 の 報 告 に際 し,大 阪 大 学 医 学 部 第2内 科,米 沢 毅 博 士,前 田恵 治 医師 の御 協 力,御 教 示 を賜 つ た こ と に 感 謝 の 意 を表 す る。
文
献
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