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返品調整引当金の貸借対照表上の性格

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(1)

返品調整引当金の貸借対照表上の性格

著者 松本 敏史

雑誌名 同志社商学

巻 58

号 6

ページ 217‑237

発行年 2007‑03‑15

権利 同志社大学商学会

ドウシシャ ダイガク ショウガッカイ

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000007371

(2)

返品調整引当金の貸借対照表上の性格

松 本 敏 史

はじめに

返品の会計処理と引当金 返品引当金の貸借対照表上の性格 返品調整引当金の貸借対照表上の性格

法人税法第

53

条は,返品の発生率が極めて高い指定事業(具体的には漓出版業,滷 出版に係る取次業,澆医薬品(医薬部外品を含む),農薬,化粧品,既製服,蓄音機用 レコード,磁気音声再生機器レコード又はデジタル式の音声再生機用レコードの製造 業,そして潺澆の物品の卸売

1

業)を営む内国法人が,(1)販売先からの求めに応じて,

その販売した棚卸資産を当初の販売価額によって無条件に買い戻すこと,(2)販売先は 棚卸資産が送付された場合に,その注文によるものかどうかを問わずこれを購入するこ

2

と,といういわゆる買戻特約を結んでいる場合(あるいは同様の慣習が存在している場

3

合),以下の計算

4

式によって求められる金額を限度として返品調整引当金を設定し,そ の繰人額を損金に算入することを認めている。

繰入限度額=(期末売掛金額又は期末

2

か月間の売上高)×返品率×売買利益率 返 品 率=(当期及び当期首前

1

年以内に開始する各事業年度の特約に基づく返

品高の合計額)÷(当期及び当期首前

1

年以内に開始する各事業年度の 指定事業の総売上高の合計額)

売買利益率=[当期の指定事業に係る純売上高−(当期の指定事業に係る売上原価+

販売手数料の額)]÷(当期の指定事業に係る純売上高)

ところで返品調整引当金が企業会計原則の引当金規定に最初に登場したのは昭和

44

────────────

法人税法施行令第99条。

同施行令第100条。

法人税基本通達11−3−13。

法人税法施行令第101条。なお,本文中の計算式は山本守之『体系法人税法』税務経理協会,2003 年,956−958ページによる。

421)2

(3)

年の修正案公表のときであ

5

る。しかしそれに先立つ昭和

40

年に,法人税法はそれまで の返品調整勘

6

定に代えて返品調整引当金を新設している。このような制度改正の経緯か らみて,企業会計原則の引当金規定が法人税法上の返品調整引当金を前提としているこ とは間違いないであろう。しかし返品調整引当金はもともと課税所得を算定するための 手段であり,この引当金に対して期間損益計算や財政状態計算上の機能が求められてい るわけではない。そのため,この返品調整引当金を一般会計に導入するとき,この引当 金がもつ期間損益計算上の機能や財政状態計算上の位置づけは極めて特異なものにな る。

まず期間損益計算における返品調整引当金の特異性である。返品調整引当金の対象で ある返品は,「売上高−売上原価=売上総利益」の計算式において,収益(売上高)と 費用(売上原価)の双方を減少させる取引である。したがって将来の返品を当期の損益 計算に事前に組み入れる場合には,本来,売上高と売上原価の双方を修正しなければな らないはずである。それによって売上総利益も減少する。ところが税法上の返品調整引 当金は収益と費用を修正するのではなく,利益だけを減額する方式である。そのため返 品調整引当金の設定は売上総利益の表示に歪みを与えることになる。

次に,返品調整引当金の貸借対照表上の性格(位置付け)が問題になる。通常,引当 金は費用(あるいは収益の控除)を相手勘定として設定され,その貸借対照表上の性格 は負債あるいは資産の評価勘定とされる。しかし返品調整引当金は「売掛金の減少」と

「戻り品の増加」を相殺した形で現れることから,その性格は負債あるいは資産の評価 勘定のいずれでもない。

小稿では返品に関する種々の処理方法を整理しつつ,そこで設定される二種類の引当 金を比較することで返品調整引当金の貸借対照表上の性格を明確にすることを目的とし ている。

返品の会計処理と引当金

1

返品特約付き販売と委託販売の異同 返品には,大きく分けて

────────────

企業会計原則注解修正案注解18(昭和4412月)

法人税取扱通達 直法1−31(例規)『返品および景品等に関する法人税の取扱いについて』(昭和35 3月)において,現行の返品調整引当金の基礎となった返品調整勘定の設定が認められている。山本氏 によると「現行の返品調整引当金が設けられる前には,返品予想額を確実な返品率によって推定し,売 上を修正する目的で『返品調整勘定』を取扱通達により認めるという時期もあった。(中略)(昭和38 年の税制調査会の)答申を受け,昭和40年の法人税法全文改正に際して,返品調整引当金が設けられ たものである。返品調整引当金は,返品調整勘定のように売上高の修正としてではなく,販売による売 買益は実現したという認識のもとに,返品による損失の見込額の引当金という性格を持つものとして規 定されているのである」(前掲書,954ページ)

同志社商学 第58巻 第6号(27年3月)

8(422

(4)

(1)種類あるいは数量違いによる返品

(2)顧客の不満による返品

(3)故障あるいは欠陥による返品

(4)再販不能の場合の特約にもとづく返品

がある。このうち決算時の修正が特に問題となるのは返品が当初の売上高に対して無視 しえない規模で発生する場合であり,通常それは上記の(4)の場合に限られ

7

る。そし てこの特約に基づく返品は,販売額の大きな部分が実質的に実現していない点で委託販 売に類似す

8, 9

る。であれば,その販売収益も,委託販売と同じく,その実現額が確定した 時点(返品額が確定した時点)で計上することもできるはずであ

10

る。ところが,返品特 約付き販売と委託販売では,法的な枠組みが異なる。

具体的に述べると,委託販売の場合,製品の所有権が移転するのは受託者が第三者に 製品を販売した時点であり,委託者が受託者に製品を発送した時点ではない。したがっ て委託者は製品を発送しても収益を計上することができない。これに対して返品特約付 き販売の場合は,販売元が製品を発送した時点で所有権が販売先に移転し,販売元は売 上債権を取得する。そのため返品特約付き販売の場合には販売高をそのまま実現収益と して計上し,そしてその金額から返品見積額(あるいはそこに含まれる利益額)を控除 することで,最終的に実現可能な収益額(あるいは利益額)を表示する処理を行うこと にな

11

る。ここに返品調整引当金を計上する根拠がある。

────────────

7 (3)の返品も製品保証契約にもとづき,販売後一定期間の間に相当の確率をもって発生する可能性があ る。ただしその場合の返品は製品保証会計の対象であり,ここでの返品調整引当金の対象ではない。わ が国の法人税法およびFASB基準書48号『返品権が存在する場合の収益の認識』(Statement of Financial Accounting Standards No. 48,Revenue Recognition When Right of Return Exists,June 1981.)が前提として いるのは(4)の特約に基づく制度的な返品である。

返品調整勘定について規定している先の通達『返品および景品等に関する法人税の取扱いについて』

も,「その実質が委託販売に準ずると認められる場合」という表現を用いている。

Kieso & Weygandtは次のように述べている。「ある種の会社では,返品の特権が実質的に消滅するまで

売上の報告を延期する必要がある,と考えるに至るほどの高率の返品を経験している。例えば出版業の 場合,返品率はハードカヴァーで25%,雑誌では65% にもなる。高率の返品を経験する他の業種に は,生鮮食料品の卸売業,小売店に販売している精肉の仲買や卸売業,レコードやテープ会社,そして オモチャおよびスポーツ用品の製造業者がある。これらの産業においては,返品はしばしば契約上の権 利として,あるいは売上保証(guaranteed sales)の協定や委託販売に関連した実務上の慣習として行わ れる。(Kieso & Weygandt,Intermediate Accounting 4th ed.,New York, 1983, p. 835)

0 上記のFASB基準書第48号付則A(APPENDIX A)パラグラフ16によると,この基準書の基礎とな ったAICPAの同名の『見解表明75−1(Statement of Position 75−1)(1975年)が公表される以前に は,(1)製品が無条件に受け入れられるまで売上を計上しない方法,(2)販売時点で売上を計上し,将 来の返品予想額に対して引当金を設定する方法,(3)返品に対する引当金を設定しないで売上を計上 し,将来返品が発生した時点でこれを処理する方法,の三つが代替的に用いられていた。

FASB基準書第48号パラグラフ6は,基本的に上記(2)の引当金の設定による収益の認識方式を示し ている。具体的には「企業が製品の販売に際し買手に返品の権利を与えた場合,この販売取引から生ず る収益は以下の条件がすべて満たされた場合にのみ,販売時点において認識されるべきである」と述べ ており,その条件とは,

「a.売価が販売日において実質的に確定しているか,あるいは確定可能であること。

b.買手がすでに支払を完了しているか,あるいは売手に対して支払の義務を負っていること。かつそ の義務が当該製品の再販売に依存した不確実なもの(contingent)ではないこと。 ! 返品調整引当金の貸借対照表上の性格(松本) 423)2

(5)

2

返品会計の

4

つの基本形

返品特約が存在する場合,委託販売と同じく当初の売上高のかなりの部分が実現しな い。したがって将来の返品を予測し,それを各期の損益計算に織り込む必要が生じる が,その方法は一様ではない。具体的には,「売上高−売上原価=売上総利益」の計算 式において,売上高と売上原価の両者を減額する「総額法」と,売上総利益だけを減額 する「純額法」がある。

一方,引当金についても

2

つの設定方法がある。ひとつは将来の返品見積額を繰り入 れる方法であり,いまひとつは返品によって減少する売上総利益を繰り入れる方法であ る。以後,前者によって設定される引当金を「返品引当金」,後者によって設定される 引当金を「返品調整引当金」と呼ぶことにする。

返品の会計処理をこのように整理するとき,両者の自然な組み合わせとして「総額法

−返品引当金」「純額法−返品調整引当金」の処理方法が想起される。しかし,両者の 組み合わせはこの

2

つだけではない。「純額法−返品引当金」「総額法−返品調整引当 金」の組み合わせも可能である。考察の便宜上,設例によってそれぞれの処理方法を整 理すると以下のとおりである。

【設例】

漓すべて掛取引,翌期に決済。

滷返品見積額と実際額が一致。返品額はすべて前期の販売分とする。

────────────

! c.売手に対する買手の義務が,盗難や物的破壊あるいは製品の破損によって変化するものではないこ

と。

d.再販売のために製品を購入した買手が,売手から提供されたものとは異なる経済的実質を有してい ること。

e.買手による製品の速やかな再販売の達成に対し,売手が将来これを援助すべき重大な義務を負わな いこと。

f. 将来の返品額を合理的に見積もることができること。

6つである。これらの条件の一つでも満たされなければ,収益の認識は,「返品の権利が実質的に消 滅するか,あるいは上記の条件が整う」まで延期されることになる。

FASB基準書第48号がこのような条件を提示して販売時点における収益の認識を制限しているの は,その実質が委託販売であるものにつき,その販売時点における収益の認識を否定することにあると 考えられる(もし実質が委託販売であれば,収益は製品の引渡し時点ではなく,買手が顧客に製品を販 売した時点で認識されるべきことになる)。また,AICPASOP 75-1は,先の条件dについて「買手 が,売手から提供されたものとは異なる経済的実質を有していること。すなわち買手が架空の団体ある いは抜け道(conduit)ではないこと」と説明しているが,この条件によって,実体のないペーパーカン パニーを用いた架空売上の計上が困難になる。

1 2

1,000 1,000

売 上 原 価 600 600

返品見積額 150 100

実際返品額 0 150

同志社商学 第58巻 第6号(27年3月)

0(424

(6)

(1)「総額法−返品引当金」の仕訳

12

〈第

1

期末:引当金の設定〉

(借) 売 上

150

(貸) 返 品 引 当 金

150

返品見込製品

90

売 上 原 価

90

〈第

2

期首:反対仕訳〉

(借) 返 品 引 当 金

150

(貸) 売 上

150

売 上 原 価

90

返品見込製品

90

〈第

2

期中:返品時〉

(借) 売 上

150

(貸) 売 掛 金

150

製 品

90

売 上 原 価

90

〈第

2

期末:引当金の設定〉

(借) 売 上

100

(貸) 返 品 引 当 金

100

返品見込製品

60

売 上 原 価

60

総額法によると,実際の返品による売上高と売上原価の減少が期首の反対仕訳と相殺 される。そのため過年度販売分の返品が各期の損益計算に影響しない。また,損益計算 書には実現可能な売上高(当初売上高−返品見積額)と,それに対応する売上原価が表 示される。

一方,貸借対照

13

表には返品見込製品(戻り品)が計上される。ただしこれは販売済み の製品であり,販売企業に所有権はない。この点は注意を要する。

────────────

Granofは次期の返品見積額を$10,000,その原価を$8,000として次の仕訳例を示している。まず決算時

点で,

(借) 売 上 戻 り 10,000 (貸) 返 品 引 当 金 10,000 返品見込製品 8,000 売 上 原 価 8,000 の仕訳をし,次期に返品が発生した時点で,

(借) 返 品 引 当 金 10,000 (貸) 売 10,000

8,000 返品見込製品 8,000

の仕訳をする。(Michael H, Granof,Financial Accounting 2nd ed.,New Jersey, 1980, pp. 255−256.)

3 図表の貸借対照表には直接関連する勘定科目だけを表示した(以下,同様)

損益計算書(第

1

期)

売 上 売上原価 総利益

850 510 340

損益計算書(第

2

期)

売 上 売上原価 総利益

900 540 360

貸借対照表(第

1

期)

売 掛 金 返品見込製品

1,000 90

返品引当金

150

貸借対照表(第

2

期)

売 掛 金 返品見込製品

1,000 60

返品引当金

100

返品調整引当金の貸借対照表上の性格(松本) 425)2

(7)

(2)「純額法−返品引当金」の仕訳例

〈第

1

期末:引当金の設定〉

(借) 返品見込製品

90

(貸) 返 品 引 当 金

150

返品調整利益

60

〈第

2

期首:反対仕訳〉

(借) 返 品 引 当 金

150

(貸) 返品見込製品

90

返品調整利益

60

〈第

2

期中:返品時〉

(借) 売 上

150

(貸) 売 掛 金

150

製 品

90

売 上 原 価

90

〈第

2

期末:引当金の設定〉

(借) 返品見込製品

60

(貸) 返 品 引 当 金

100

返品調整利益

40

この方法によると,期中の返品による売上高の減少(△150)と売上原価の減少(△

90)が期首の「返品調整利

14

益」(60)の戻入額と相殺されるため,過年度販売分の返品 が各期の売上総利益に影響を与えることはない。しかし,売上高と売上原価が過年度販 売分の返品によって減少する。

ところでここで示した方法と類似の処理方法を示しているのが

Meigs, Mosich &

Johnson

であ

15

る。その処理方法に設例の数値を当てはめると以下の仕訳になる。

────────────

4 「返品調整利益」という勘定科目は一般に使用されているわけではない。筆者が本章で便宜的に使用し ている。

Meigs, Mosich & Johnsonは平均的な返品率を期末売掛金の5%,戻り品の再販売時の実現可能額を売!

貸借対照表(第

1

期)

売 掛 金 返品見込製品

1,000 90

返品引当金

150

貸借対照表(第

2

期)

売 掛 金 返品見込製品

1,000 60

返品引当金

100

損益計算書(第

1

期)

売上 売上原価

返品調整利益 総利益

1,000 600 400

△60

340

損益計算書(第

2

期)

売上 売上原価

返品調整利益 総利益

850 510 340 20 360

同志社商学 第58巻 第6号(27年3月)

2(426

(8)

〈第

1

期末:引当金の設定〉

(借) 返品見込製品

90

(貸) 返 品 引 当 金

150

売 上

60

〈第

2

期首:反対仕訳〉

(借) 返 品 引 当 金

150

(貸) 返品見込製品

90

売 上

60

〈第

2

期中:返品時〉

(借) 売 上

150

(貸) 売 掛 金

150

製 品

90

売 上 原 価

90

〈第

2

期末:引当金の設定〉

(借) 返品見込製品

60

(貸) 返 品 引 当 金

100

売 上

40

────────────

! 価の60%(戻り品の補修費見積額は売上高から控除),期末売掛金の残高を$100,000として以下の仕訳

を示している。

(借) 製品(正味実現可能価額) 3,000 (貸) 返 品 引 当 金 5,000 売上戻り(売上から控除) 2,000

そして,次年度の期首に次の反対仕訳を行なう。

(借) 返 品 引 当 金 5,000 (貸) 製 3,000 売 上 戻 り 2,000 そして実際に返品があった時点で通常の返品処理を行うものとしている。

(借) 売 上 戻 り 5,000 (貸) 売 5,000

3,000 売 上 原 価 3,000

(Walter B. Meigs, A. N. Mosich & Chaeles E, Johnson,Intermediate Accounting 4th ed.,Tokyo(International Student Edition),1978, pp. 262−263.)

ところでFASB基準書第48号は「もし売上収益が認識されるならば,FASB基準書第5号『偶発事 象の会計処理』に従い,返品に関連して発生すると予想されるあらゆる費用あるいは損失を見積計上し なければならない」(para. 7)と規定している。この仕訳例で製品の製造原価を$3,500とし,この規定 に沿った仕訳を示すと次のようになるものと思われる。

(借) 売 上 戻 り 1,500 (貸) 返 品 引 当 金 5,000 返品見込製品 3,500

戻 り 品 損 失 500 返品損失引当金 500

つまり,Meigs, Mosich & Johnsonの仕訳にある売上戻り$2,000は,売上総利益部分$1,500と,返品 見込製品の評価損(戻り損)$500の合計額であり,返品見込製品$3,000は返品見込製品の製造原価$3,500 から返品損失引当金$500を控除した金額となっている。

損益計算書(第

1

期)

売 上 売上原価 総利益

940 600 340

損益計算書(第

2

期)

売 上 売上原価 総利益

870 510 360

貸借対照表(第

1

期)

売 掛 金 返品見込製品

1,000 90

返品引当金

150

貸借対照表(第

2

期)

売 掛 金 返品見込製品

1,000 60

返品引当金

100

返品調整引当金の貸借対照表上の性格(松本) 427)2

(9)

「売上高−売上原価=売上総利益」の計算式において,収益と費用の両者を減額する のが総額法,利益額だけを減額するのが純額法とするならば,この方式はそのいずれで もない。売上高を利益相当額だけ減額するこの方式は「変形純額法」あるいは総額法と 純額法の「折衷法」と称すべきものになっている。

問題はこの処理方法が売上高総利益率に与える影響である。すなわち設例の売上高総

利益率は

40%(=400÷1,000)であるにもかかわらず,第 1

期の損益計算書の売上高

総利益率は

36%(=340÷940)

,第

2

期は

41%(=360÷870)となる。このように比

率が変動するのは返品予想額に含まれる売上総利益を売上高から控除し,さらに各期の 売上高と売上原価から,過年度販売分の返品相当額を控除するからにほかならない。

(3)「総額法−返品調整引当金」の仕訳

16

例:

〈第

1

期末:引当金の設定〉

(借) 売 上

150

(貸) 売 上 原 価

90

返品調整引当金

60

〈第

2

期首:反対仕訳〉

(借) 売 上 原 価

90

(貸) 売 上

150

返品調整引当金

60

〈第

2

期中:返品時〉

(借) 売 上

150

(貸) 売 掛 金

150

製 品

90

売 上 原 価

90

〈第

2

期末:引当金の設定〉

(借) 売 上

100

(貸) 売 上 原 価

60

返品調整引当金

40

────────────

6 小澤康人教授は返品調整引当金をこの方法によって設定すべきであるとされ,次の仕訳例を示されている。

(借) 売 ×× (貸) 売 ××

返品調整引当金 ×× !

損益計算書(第

1

期)

売 上 売上原価 総利益

850 510 340

損益計算書(第

2

期)

売 上 売上原価 総利益

900 540 360

貸借対照表(第

1

期)

売掛金

1,000

返品調整引当金

60

貸借対照表(第

2

期)

売掛金

1,000

返品調整引当金

40

同志社商学 第58巻 第6号(27年3月)

4(428

(10)

損益計算書が各期の実現可能な売上高とそれに対応する売上原価を表示する点は(1)

と同じである。しかし(1)とは異なり,貸借対照表には返品見込製品が計上されな い。それに代えて,返品見込製品と売掛金の減少の差額相当分が返品調整引当金として 表示されることになる。

(4)「純額法−返品調整引当金」の仕訳例;

〈第

1

期末:引当金の設定〉

(借) 返 品 調 整 引 当 金 繰 入 額

60

(貸) 返 品 調 整 引 当 金

60

〈第

2

期中:返品時〉

(借) 売 上

150

(貸) 売 掛 金

150

製 品

90

売 上 原 価

90

〈第

2

期末:引当金の設定〉

(借) 返 品 調 整 引 当 金

60

(貸) 返 品 調 整 引 当 金 戻 入 額

60

返 品 調 整 引 当 金 繰 入 額

40

返 品 調 整 引 当 金

40

わが国の法人税法が規定する返品調整引当金がこれである。そしてこの処理方法にも 純額法に固有の問題が生じる。すなわち(2)の方式と同じく,返品予想額に含まれる 売上総利益相当額だけを調整し,さらに各期の売上高と売上原価から,過年度販売分の 返品相当額を控除するため,売上高総利益率の計算に歪みが生じる。

────────────

! (森田哲彌・岡本清・中村忠『会計学大事典 第四版増補版』中央経済社,2001年,955−956ページ)

貸借対照表(第

1

期)

売掛金

1,000

返品調整引当金

60

貸借対照表(第

2

期)

売掛金

1,000

返品調整引当金

40

損益計算書(第

1

期)

売上 売上原価 総利益

返品調整引当金繰入額 差引総利益

1,000 600 400

△60

340

損益計算書(第

2

期)

売上 売上原価 総利益

返品調整引当金戻入額 返品調整引当金繰入額 差引総利益

850 510 340 60

△40

360

返品調整引当金の貸借対照表上の性格(松本) 429)2

(11)

返品引当金の貸借対照表上の性格

1

評価性引当金説と負債性引当金説

返品引当金は,売上収益の実質的な未実現部分と,これに対応して過大に計上されて いる売掛金を決算で実質額に引き直す際,本来の仕訳である「(借)売上××(貸)売掛 金××」のうち,貸方売掛金に代わる項目である。そのため,Kieso & Weygandtが

「この引当金は資産の評価勘定(相殺勘定)であり,全売上債権から控除される。その 結果,債権は実現可能価額で表示されることにな

17

る」と述べ,Granofが「返品引当金 は,貸借対照表上,貸倒引当金とともに売掛金に対する控除項目として表示され

18

る」と し,また

Welsch, Zlatkovich & Harrison. Jr.

も「売掛金に対する評価勘定としての返品 引当

19

金」と述べているように,米国の会計学テキストでは返品引当金を売掛金の評価勘 定とすることが自明のようである。

もっとも,返品引当金が売掛金の評価勘定であるためにはひとつの前提がある。それ は返品相当額の売掛金が未回収のまま存在しているということである。もちろん買戻特 約付き販売のように返品が常時発生する場合,売掛金を全額回収することは非現実的で あり,仮に売掛金を全額回収した場合でも,別の販売分の売掛金が存在するなど,実務 上,返品引当金の控除の対象となる売掛金が存在しないケースはまれであろう。しかし それでも売掛金残高が返品額に不足する可能性がないわけではない。その場合を想定し て近山仁郎氏は次のように述べておられる。

「返品引当は当期の売上のうち次期以降に予想される返品に対して設けられたもので あるが,この売上に対する売掛金は期末までに回収されていることはありうる。返品は 回収されたか回収されていないかにかかわらず生じうるから引当は売掛金残高に無関係 に行わなければならない。返品高は売掛金から差引かれて支払われるため返品引当金は 売掛金の控除と考えられるが,これは負債性引当金である。(中略)結局評価性引当金 と負債性引当金とを区別する指標は,引当金計上を必要ならしめた資産が期末に存在す るかどうかである。もしそのような資産があればそれは評価性引当金であり,なければ 負債性引当金であ

20

る」。

────────────

Kieso & Weygandt,op. cit.,p. 294.

Michael H. Granof,op. cit.,p. 255.

Glenn A. Welsch, Charles T. Zlatkovich & Walter T. Harrison, Jr.,Intermediate Accounting 6th ed., Illinois, 1982, p. 786.

0 近山仁郎「引当金の純化」『産業経理』第21巻第4号,1961年,102ページ。

同志社商学 第58巻 第6号(27年3月)

6(430

(12)

売掛金が存在しなければ,返品は現金の支払あるいは代品との交換によって決済され る。したがってその場合の返品引当金は特定の資産項目に対する評価勘定ではなく,将 来の支出に備えた負債項目であるというのが近山氏の見解である。

2

国際会計基準と返品引当金

国際会計基準の中で,返品に直接触れているのは

IAS 18

号「収

21

益」であり,次のよ うに述べている。

「企業が所有に伴う重要なリスクを留保している場合には,当該取引は販売ではな く,収益は認識されない。企業は多くの方法により,所有に伴う重要なリスクを留保す ることがある。企業が所有に伴う重要なリスク及び経済価値を留保する状況の例として は,以下のような場合がある。(中略)

(d)買手が販売契約に明記された理由により購入を取り消す権利を有し,企業にとっ て返品の可能性が不確実である場合。」(para. 16)。

同基準書は続いて小売業で発生する通常の返品を取り上げ,「このような場合,売手 が過去の経験及びその他の関連要因に基づき,信頼性をもって将来の返品を見積ること ができ,返品に対する負債を認識することを条件に,収益は販売時点で認識される」

(para. 17,下線部は筆者)と述べている。

これらの記述を総合すると,返品の発生が見込まれる場合には,それに対する負債を 認識するとともに,相当額を売上高から控除する必要がある。具体的には引当金を設定 することになる

22

が,この点について

IAS 37

23

号は次のように述べている。

「引当金とは,時期又は金額が不確実な負債をいう。負債とは,過去の事象から発生 した企業の現在の債務で,その決済により,経済的便益を有する資源が企業から流出す る結果となることが予想されるものである」(para. 10)。

「引当金は,次の場合に認識されなければならない。

(a)企業が過去の事象の結果として現在の債務(法的又は推定的)を有しており;

────────────

IASB, International Accounting Standard 18,Revenue, 1993.(以下,訳文は,企業会計基準委員会『国際会 計基準審議会 国際財務報告書(IFRSsTM)2001』雄松堂出版,2005年,913−931ページによる) 2 引当金の計上によって売上高を間接的に減額するのではなく,当初の販売額から返品見積額を直接控除

した金額を売上高とすることも可能であろう。しかし通常の返品について負債の認識(引当金の計上)

が求められているのであれば,規模と確実性においてはるかに勝る買戻特約付き販売に対して引当金の 設定を拒否する合理的な理由はない。そのためここでは当初の販売額を売上高とし,引当金の計上によ って返品予想額を控除する間接控除法を前提としている。

IASB, International Accounting Standard 37,Provisions, Contingent Liabilities and Contingent Assets, 1999.

(以下,訳文は,同書,1525−1559ページによる)

返品調整引当金の貸借対照表上の性格(松本) 431)2

(13)

(b)当該債務を決済するために経済的便益をもつ資源の流出が必要となる可能性が高 く;かつ

(c)当該債務の金額について信頼できる見積りができる場合。

これらの条件が満たされない場合には,引当金を認識してはならない」(para. 14)。

この規定を返品特約付販売に当てはめるならば,そこには特約の締結という「過去の 事象の結果」として「法的」な債務が存在する。そしてこの場合には返品がほぼ確実に 予想されるため,「当該債務を決済するために」売上債権や金銭などの「経済的便益を もつ資源の流出が必要となる可能性」が極めて高い。したがって「当該債務の金額につ いて信頼できる見積りができる場合」には

IAS 37

号に従って返品引当金を設定する必 要がある。

その際,IAS 37号の次の規定に留意しなければばらない。

「資産の予想される処分による利得は,たとえ予想される処分が引当金を発生させた 事象に密接に関係している場合でも,引当金の測定において考慮してはならない。その 替わりに,企業は資産に関連した基準書が特定している時点で,資産の予想される処分 による利得を認識する。」(para. 52)

「損益計算書においては,引当金に関する費用は,認識された補頡金と相殺して純額 で表示してもよい。」(para. 54)

パラグラフ

52

の規定によると,返品見積額から返品見込製品の評価額(たとえば正 味実現可能価格)を控除し,両者の差額である利益減少額を引当金繰入額とする処理

(すなわち返品調整引当金の設定)は禁止されている。したがって

IAS 37

号に従うと き,売上総利益だけを控除する返品調整引当金を計上するのではなく,将来の支出(売 掛金の減少)総額を表す返品引当金を負債として計上しなければならない。それによっ て「引当金とは,時期又は金額が不確実な負債をいう」(para. 10)という規定と整合す る。

ここで再び返品引当金の貸借対照表の性格規定である。この引当金の統一的な解釈を 困難にするそもそもの原因は,近山氏が指摘しておられるように返品引当金を貸借対照 表上の特定項目に結びつけるところにある。もともと返品引当金は過大に計上されてい る対価の評価勘定の性格をもっており,その状態は返品額が確定し,その対価が返還さ れるまで続く。であれば返品引当金が評価の対象としている資産は特定の売掛金という よりも,その回収過程で現れるすべての資産,すなわち「売掛金⇒受取手形⇒現金」で あると解釈することもできる。いいかえれば対象となる売掛金がすでに回収されていて

同志社商学 第58巻 第6号(27年3月)

8(432

(14)

も受取手形や現金の形で対価が過大に存在していることにかわりはない。また返品は,

代替製品との交換や別口の売掛金と相殺されることもある。であれば返品引当金は,特 定の売掛金の評価勘定というよりも,流動資産全体に対する評価勘定,すなわち流動負 債の一項目と解釈することができよう。

3

返品引当金と返品見込製品(戻り品)

前節で整理したように,返品引当金を計上する場合には,借方に返品見込製品(戻り 品)が計上される。問題はこれの資産性である。まず収益費用中心観のもとで財政状態 計算を期間損益計算に従属させるのであれば,返品見込製品は売上原価を減額修正する ための相手勘定(総額法),あるいは減額された売上総利益と返品引当金の差額を補頡 する借方勘定(純額法)として説明され,返品見込製品の資産性は特に問題にされな い。

しかし資産と負債の変動にもとづいて収益,費用を認識する資産負債中心観では,買 手に所有権が移転している返品見込製品の資産性が問題になろ

24

う。この点に関する国際 会計基準の規定は明確ではない。仮にその資産性が否定されれば,先の(1)「総額法−

返品引当金」の会計処理,あるいは(2)「純額法−返品引当金」の会計処理は不可能に な

25

る。

返品調整引当金の貸借対照表上の性格

1

負債説(条件付債務説)

旧企業会計原則注解

18「負債性引当金につい

26

て」は返品調整引当金を例示項目に含

────────────

4 国際会計基準は一般的規定として資産を「過去の事象の結果として当該企業が支配し,かつ,将来の経 済的便益が当該企業に流入することが期待される資源をいう」(IASB,Framework for the Preparation and Presentation of Financial Statements, 1989, para. 49.同書,48ページ)と定義し,その認識について「資 産は,将来の経済的便益が企業に流入する可能性が高く,かつ,資産が信頼性をもって測定できる原価 又は価値を有する場合に,貸借対照表に認識される」(Ibid., para. 83,同書54ページ)と述べている。

はたして返品見込製品を「当該企業が支配し」ていると言えるか否か,微妙である。

5 仮に,製品見込製品の資産計上が認められないのであれば,以下のような処理を行わざるを得ない(設 例は第2節と同じ)

〈第1期末:引当金の設定〉

(借) 売 150 (貸) 返 品 引 当 金 150

〈第2期首〉

(借) 返 品 引 当 金 150 (貸) 売 150

〈第2期中:返品時〉

(借) 売 150 (貸) 売 150

90 売 上 原 価 90

この処理方法によると,返品見積額に含まれる売上原価相当額だけ利益が余分に繰り延べられ,売上 高と売上原価の対応関係が崩れる。当然,売上高総利益率にも歪みが生じる。しかし,資産負債中心観 のもとでは収益費用の対応は第一義的な問題ではない。

6 改正前の企業会計原則(昭和497月)注解18は,「負債性引当金」の例示項目として,製品保証 ! 返品調整引当金の貸借対照表上の性格(松本) 433)2

(15)

めていた。このことからも知られるように,返品調整引当金は一般に負債の一項目と考 えられている。しかし返品調整引当金がなぜ負債なのか,その根拠は必ずしも明確では ない。あえていえば返品調整引当金の背後に買戻特約に基づく条件付債務が存在してい ることを根拠と

27

し,「条件付債務=引当金」⇒「債務=負債」⇒「引当金=負債」の三段 論法でこの引当金を負債と規定しているものと思われる。

しかし返品調整引当金の背後に条件付債務が存在することと,返品調整引当金が負債 であることとは必ずしもイコールではない。なぜなら買い手が返品するまで売り手に対 価の返還義務は発生しないからである。もっとも返品調整引当金が設定される買戻特約 付き販売の場合は返品の発生が確実に予測されるため,ここでの条件付債務と支払債務 の間に実質的な差異はない。そのため,返品調整引当金は確定債務と同様に将来の支出 を表す負債項目として解釈されることにな

28

る。ただし問題は金額面に現れる。すなわち 返品調整引当金は返品引当金と異なり,その金額が将来の支出額(売掛金の減少額)に 一致しない。つまりこの引当金は金額面において負債の要件を満たすことができない。

2

評価性引当金説

では返品調整引当金を売掛金の評価勘定と考えることができるであろうか。もちろん この場合にも金額面に問題が生じる。なぜなら返品調整引当金は返品額のうち,売上総 利益部分を表しているにすぎず,その結果,「期末売掛金残高−返品調整引当金」の金 額は,売掛金の回収可能額(=期末売掛金残高−返品額)に一致しないからである。

ところで返品調整引当金の貸借対照表の性格規定が困難になるそもそもの原因は,返 品調整引当金が二つの要素を相殺する形で設定されていることにある。通常,引当金の 相手勘定は将来の費用(将来の収益の控除)であり,それには将来の資産の減少(評価 性引当金)あるいは負債の増加(負債性引当金)が対応する。ところがこの引当金の繰 入額は,返品に伴う売上高の減少と売上原価の減少を相殺した金額であり,財政状態計 算上は売掛金の減少と返品見込製品の増加を相殺した金額となる。このことが返品調整 引当金の貸借対照表上の性格規定を極めて困難にする。

────────────

! 引当金,売上割戻引当金,景品費引当金・「返品調整引当金」・賞与引当金,工事補償引当金,退職給与 引当金の7項目を列挙していた。これらはいずれも条件付債務の性格をもつ。

7 返品調整引当金を条件付債務=負債とする思考については,たとえば,新井清光『財務会計論〔増補 版〕』中央経済社,1975年,118−119ぺ一ジを参照されたい。しかしこのような思考に対して異論がな いわけではない(田中誠二『再全訂会社法詳論下巻』勁草書房,1982年,833ページ)

8 条件が成就する確率に関係なく,条件付債務を負債として認識し,債務が確定する確率(資源が流出す る確率)は負債の測定において考慮すべきであるとする考えもある。期待キャッシュ・フロー・アプロ ーチはこの思考に適合する測定方法である。この点については,例えばIASB,Exposure Draft of Proposed Amendments to IAS 37 Provisions, Contingent Liabilities and Contingent Assets and IAS 19 Employee Benefits, June 2005を参照されたい。特に,SUMMARY of MAIN CHANGES(IAS 37) Contingent Liabilities

Measurement ,para. 10−11, 23, 29−33.

同志社商学 第58巻 第6号(27年3月)

0(434

(16)

ところが武田隆二教授は返品調整引当金が評価性引当金であるとして次のように述べ ておられる。

「当期の売上高のうち

100(貨幣単位)が返品見込額であるとし,それに 20% の利益

率が見込まれているとする。この部分のみを引き抜いて仕訳形式で示せば,次のように なる。

(中略)貸借対照表上,引当金控除後の売掛金残高

80

は,実は,売掛金という名称をか りた販売品原価相当額であることに注意しなければならない。すなわち,損益計算書 上,販売がなかったかのごとく中和化するとともに,貸借対照表上,販売品が未販売の 状態で手元に残留しているかのごとく経理せられたことを意味するものである。このよ うにみてくると,返品調整引当金は(中略)売掛金からの控除項目として,すなわち評 価性の引当金として機能する。この評価性の引当金は,売掛金の回収可能性を評価する ための引当金ではなく,販売商品原価に相当する額に貸借対照表能力を与えるための引 当金であって,その対象が現象的には売掛金に求められているにすぎな

29

い」。

返品調整引当金の金額は返品製品の売上総利益に相当する。したがって返品見積額か らこの金額を控除すれば,残額は返品見込製品の原価を表すことになる。武田教授はこ の点に着目され,返品調整引当金を返品製品の原価を表すための評価性引当金と規定さ れているのである。

ところが問題はやはり表示面に生じる。なぜなら貸借対照表上の売掛金は返品分だけ でなく,その他の売掛金も含んでいるからである。つまり期末売掛金残高から返品調整 引当金を控除した金額は返品見込製品の原価部分だけでなく,それ以外の回収可能な売 掛金との合計額になるた

30

め,その金額から返品見込製品の原価を一覧することができな

31

い。

────────────

9 武田隆二「引当金の分類と本質」『税務セミナー』第18巻第3号,1973年,25ページ。

0 先の教授の設例で売掛金総額を500とすると,貸借対照表に計上される売掛金残高480[=売掛金500

−返品調整引当金20]は,売掛金の回収可能額400と,返品見込製品の原価80によって構成されるこ とになる。

(借) 売 掛 金 引当金繰入額

100 20

(貸) 売 上 引 当 金

100 20

損益計算書 貸借対照表

売上原価 引当金繰入額

80 20 100

売上高

100

100

売掛金 引当金

100 20 80

返品調整引当金の貸借対照表上の性格(松本) 435)2

(17)

このような表示上の混乱を避け,武田教授の主旨を生かすためには売掛金総額を回収 可能部分と返品対応部分に分け,後者については返品調整引当金を控除した金額を返品 見込製品の原価として表示する必要があろう。しかしその場合には売掛金の表示額と企 業が現実に保有している売掛金の残高が一致しない。また返品見込製品の原価を別個に 表示するのであれば,返品調整引当金を計上するのではなく,第

2

節で整理した(1)

「総額法−返品引当金」による方がわかりやすい(教授は,あくまでも返品調整引当金 の設定を前提として説明を展開されているのであり,返品引当金については異なる説明 を展開されるであろう)。

以上の点から,武田教授の説明には原理上大きな説得力を感じるものの,その処理方 法を一般化することにはやはり無理があるように思われる。

3

資本性引当金説

返品調整引当金は,将来の返品見積額に含まれる利益部分を控除するために設定され る。したがってその会計上の性格は割賦販売における「繰延割賦売上利益」と同様に,

処分可能な利益を限定するための一種の仮勘定の性格をもつ。この点に着目して,内川 菊義教授は次のように述べておられる。

「負債性引当金の他の例示項目(中略)は,いずれも,その負債と思考される金額の 全部が引当金として計上されているのであるが,この返品調整引当金の場合は,その

(中略)一部分のみが引当金として計上されているのである。(中略)売上原価に相当す る部分が引当金として計上されないということは,返品にともなう負債を表示するとこ ろに積極的意味があるのではなく,売上利益に相当する部分を引当金として計上するこ とによって,それの過大計上を防ぐというところに,それの積極的意味がある,と考え られる。(中略)商品掛売の場合において生ずる返品調整引当金についても,それの会 計上の性格を評価性引当金の項目としてとらえるよりは,むしろ,それの売上利益の過 大計上を防ぐために設定された引当金としての性格を前面に出して,その会計上の性格 を自己資本の一部に属する,その自由な処分の不可能なそれの使途を拘束された利益性 引当金の一項目,つまり,自己資本のうちこの引当金に相当する資産部分が,現金ある いは売掛金の形で次期以降において減少することを示す引当金として,とらえるべきで はないかと考え

32

る。」

────────────

1 それを知るためには一定の計算が必要である。具体的には漓引当金繰入額20÷売上総利益率20%=返

品見積額100,滷返品見積額100−返品調整引当金20=返品見込製品の原価80となる。売上総利益率

は,(売上高100−売上原価80)÷売上高100=20%。

2 内川菊義『引当金会計論〔改訂増補版〕』森山書店,1983年,179−181ページ。

同志社商学 第58巻 第6号(27年3月)

2(436

(18)

返品調整引当金が金額面において負債の要件を満たしていないことは前述した。にも かかわらず企業会計原則注解

18

がこの引当金を負債項目と規定してきたのは「剰余金

=処分可能利益」の基本公式を維持するためであり,そのためには実現不可能な利益部 分を表す返品調整引当金を剰余金から排除するために負債として計上せざるを得なかっ たものと思われる。

これに対して内川教授は負債項目を第三者に対する支払項目に限定し,その要件を満 たさない返品調整引当金を「自由な処分の不可能なそれの使途を拘束された利益性引当 金の一項目」として剰余金に含める思考を示しておられる。つまりそれは,返品調整引 当金の設定を「利益の減少−資本の増加」の取引として理解することになる。もっと も,現実に費用が発生し,あるいは収益が減少すれば,資本が増加することはありえな い。ところが返品調整引当金の対象は次期以降に生じる利益の減少であり,それを当期 の利益から事前に控除すればそれだけ企業内に資金(剰余金)がプールされる。それを 教授は「自由な処分の不可能なそれの使途を拘束された利益性引当金の一項目」として 捉えておられるわけである。ただし,教授のこの思考に従うとき,損益計算書上の当期 利益と,貸借対照表の剰余金の連

33

携(あるいはクリーン・サープラス関

34

係)が破壊され ることになる。

4

純資産の評価勘定としての返品調整引当金

ここで【設例】を用いながら,返品調整引当金の貸借対照表上の機能を再検討してみ よう。

【設例】資産額

1,000

万円,負債額

600

万円,売上高

700

万円,次期の返品予想額

200

万円,売上高総利益率

20%。

────────────

3 この点について,筆者はかつて資本性引当金説を非連携アプローチの一種として位置づけたことがある

(拙稿「阪本・番場・内川引当金論争の対立構造」『同志社商学』第42巻第2号,1994年,344ペー ジ)。内川教授は後にこの引当金を収益控除性の引当金と規定されている(内川菊義『引当金会計の基 礎理論』森山書店,1998年,21−24, 209−214ページ)

4 クリーン・サープラス関係を一言でいえば損益勘定の累積額から配当の累積額を控除した金額が利益剰 余金の残高に一致する関係をいう。中島教授はWilliam A. Paton & A. C. Littleton,An Introduction to Cor- porate Accounting Standards,American Accounting Association, 1940(AAA monograph No. 3, 1970, p. 103)

にあるクリーン・サープラス(clean surplus)について次のように説明されている。「クリーン・サープ ラス,『汚れていない剰余金』とは,包括主義損益計算書の立場をとった場合に,その剰余金勘定が経 常外項目による修正や加減を損益勘定ですませて差引の正味のみを加算または差引することから生まれ た言葉で,剰余金勘定のなかでいろいろな修正を試みる場合に対比したものである」(ペイトン・リト ルトン共著,中島省吾訳〔改訳〕『会社会計基準序説』森山書店,1958年,195ページ)

このクリーン・サープラス関係は特定の損益項目を剰余金に直接チャージする場合に破壊される。内 川教授の場合は引当金繰入額を損益勘定に振り替える点で損益勘定を回避するわけではない。しかし相 手勘定を剰余金に含めることで「損益勘定の累積額−配当の累積額」が剰余金の残高に一致しなくな る。

なおクリーン・サープラス関係については斉藤静樹『企業会計とディスクロージャー』東京大学出版 会,1999年,27, 148ページの説明がわかりやすい。

返品調整引当金の貸借対照表上の性格(松本) 437)2

(19)

返品調整引当金は,次の二つの貸借対照表項目を相殺したものとして現れる。

(借) 売 上

200

(貸) 売 掛 金

200

返品見込製品

160

売 上 原 価

160

つまり,(借方)売掛金△200+返品見込製品

160=

(貸方)返品調整引当金

40

の等式 に示されるように,返品調整引当金は,返品によって減少する売掛金と返品によって増 加する戻り品を相殺することから,この引当金は,資産の評価勘定,あるいは負債項目 としてのいずれの性格も喪失する。評価勘定説あるいは負債説に矛盾が生じる理由はこ こにある。

次に上記の等式に財産変動のタイミングを加えると,等式は次のように修正される。

次期の売掛金の減少

200+次期の返品製品の増加 160

=次期の純資産の減少

40=当期の返品調整引当金 40

つまり返品調整引当金は,次期の売掛金の減少と返品製品の増加を先取りした項目で あり,その金額は純資産

35

額(400万円)のうち,次期に消滅する部分(40万円)に対応 する。したがってこの引当金を資本の一項目として表示するとき,それは次期に消滅す る純資産部分,いいかえれば当期に過大に表示されている純資産額の評価勘定の性格を もつことになる(第

1

図)。内川教授の資本性引当金説はまさにこの点に着目したもの にほかならない。

────────────

5 純資産は,計算式で表せば,資産−負債=純資産となる。しかし,それが資産の負債超過額を意味して いるのか,それとも資産−負債=資本という場合の資本と同義なのか,この点をめぐる解釈は一様では ない。前者の立場を採るならば,純資産は借方概念となり,その持分関係を表すのが資本ということに なる(図漓)。そしてこの関係は「(借)純資産=(貸)資本」として表わされる。

これに対して,後者の解釈(図滷)を示しているのがFASB, Statement of Concepts No. 6, Elements

of Financial Statements 1985である。同書はパラグラフ49で「持分または純資産とは,負債を控除し

た後に残るある実体の資産に対する残余請求権である」と述べており(平松一夫・広瀬義州訳『FASB 財務会計の諸概念〈増補版〉』2002年,308ページ),その場合の純資産と資本の関係を等式で,示すと

(借)資産=(貸)負債+純資産(資本)」となる。

後者の場合,「返品によって失われる純資産」は「返品によって失われる資産の負債超過額」と読み 替える必要がある。

図漓 貸借対照表

図滷 貸借対照表

純資産(資本)

同志社商学 第58巻 第6号(27年3月)

4(438

(20)

ところで教授の資本性引当説に従うとき,その取引は「費用の計上(利益の控除)− 資本の増加」の取引となることから,損益計算書の純利益の金額(100万円)と純資産

(資本)の増加額(140万円)が一致しない。この点は前述のとおりである。しかしそ れは「純資産=資本」の関係を前提とする場合であり,「純資産」と「資本」を切り離 せば,そこには従来とは異なる表示方法が展開されることになる。

それを示しているのが企業会計基準委員会から公表された『財務会計の概念フレーム ワーク』(2006年

12

月)であ

36

り,その「第

3

章 財務諸表の公正要素」は次のように 述べている。

「純資産とは,資産と負債の差額をいう」(パラグラフ

6)

「株主資本とは,純資産のうち報告主体の所有者である株主(連結財務諸表の場合に は親会社株主)に帰属する部分をいう」(パラグラフ

7)

「資産総額のうち負債に該当しない部分は,すべて純資産に分類される。(中略)その 結果,純資産には株主資本に属さない部分が含まれることになる」(パラグラフ

18)

「純資産のうち,株主資本以外の部分には,子会社の少数株主との直接的な取引で発 生した部分や投資のリスクから解放された部分のうち子会社の少数株主に割り当てられ た部分,報告主体の将来の所有者となり得るオプションの所有者との直接的な取引で発 生した部分,投資のリスクから解放されていない部分が含まれる」(パラグラフ

20)

この思考はすでに企業会計基準第

5

号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計

────────────

6 周知のように,この討議資料『財務会計の概念フレームワーク』の原案は20047月に「基本概念ワ ーキング・グループ」の研究成果として公表されている。

1 純資産の評価勘定としての返品調整引当金 当期の貸借対照表(引当金を設定しない場合)

1000万円

400万円 600万円

(利益140万円)

当期の貸借対照表(引当金を設定する場合)

1000万円

400万円 引当金 40万円 560万円

(利益100万円)

次期の貸借対照表

960万円 400万円 560万円

返品調整引当金の貸借対照表上の性格(松本) 439)2

参照

関連したドキュメント

の資料には、「分割払の約定がある主債務について期限の利益を喪失させる

Source: General Motors Salaried Retirement Program Form 5500. 年金資産・債務に係る詳細な注記が

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点から見たときに、 債務者に、 複数債権者の有する債権額を考慮することなく弁済することを可能にしているものとしては、

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