大学生の学業成績・能力向上感と入試選抜方法の関 連
著者 西丸 良一
雑誌名 評論・社会科学
号 111
ページ 141‑155
発行年 2014‑11‑30
権利 同志社大学社会学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000013860
要約:本稿は,X大学Y学部を対象に,入試選抜方法と学業成績・能力向上感の関連を検 討した。分析の結果,基本的に各選抜方法のなかで,「一般・センター」で入学した学生の GPAにくらべ,「指定校・公募・AO」「内部推薦」「留学生・社会人・編入」で入学した学 生のGPAが低いということはなかった。また,選抜方法によって能力向上感に大きな差も みられないようだ。ただし,GPAと能力向上感にほぼ関連がない。大学教育において,学 生の勉学に対する評価がGPAなら,能力向上感と正の関連を示す方が望ましい。なぜGPA と能力向上感が関連しないのかに関しては,今後の大きな検討課題といえよう。
キーワード:GPA,授業に対する取り組み,遅刻,欠席
目次 1.はじめに 2.データ
2−1.使用するデータについて
2−2.X大学Y学部の入試選抜方法について
2−3.学業成績について 2−4.能力向上感について 3.分析
3−1.入試選抜方法と学業成績(GPA)
3−2.入試選抜方法と能力向上感 4.まとめと課題
1.はじめに
本研究は,X大学
Y
学部を事例に,各学生が入学時に利用した選抜方法によって学 業成績や能力向上感に差があらわれるのかを検討する。大学に入学する際の選抜方法は,大学進学の大衆化にともない,多様化する傾向にあ る。渡辺・福島(2008)や西群(2011)の研究があるように,選抜方法と入学後の学
────────────
†同志社大学学習支援・教育開発センター
*2014年5月7日受付,査読審査を経て2014年7月28日掲載決定
論文
大学生の学業成績・能力向上感と 入試選抜方法の関連
西丸良一
†141
業成績の関連を検討する大学は多いようだ。こうした研究は,多様化する選抜方法が妥 当か否か,学力選抜以外の方法で入学してきた学生は,留年・退学せず規定の修業年数 内で必要単位を取得し,大学を卒業することが可能か否かの検討を目的としているので あろう。
しかし,学業成績の良し悪しのみで,選抜方法の妥当性は測定しきれない。なぜな ら,大学の学業成績は,授業を経て学生が得た能力そのものをあらわしているとはいい 難いことが推察できる。大学における学業成績の評価は,各授業の形式によってさまざ まである。授業開講期間において何らかの知識・能力を養い,それを用いてテスト・レ ポートに取り組ませ,その結果のみで評価をおこなう授業がある一方,授業へ出席する こと自体を得点化し,学業成績を評価しているものもある。基本的に,どの授業を履修 するかは学生の自主性にまかされているため,学生は単位取得において負担の多い授業 を避けることも可能である。こうしたことを踏まえれば,学業成績のみによる入試選抜 方法の妥当性の判断は,やや不十分だといえる。
そこで本研究は,学業成績以外に「能力向上感」の指標も使用し,入試選抜方法の妥 当性を検討する。のちに詳しく述べるが,本研究で用いる「能力向上感」は,調査票調 査を通して得られた各学生の主観に頼る回答によって構成されている。そのため客観性 に欠けるといわざるをえない。ただ,大学教育において養われる能力を客観的に測る方 法は,現段階において多く存在しない。特に,金(2011)のあつかったような「論理的 思考・説明能力」といった大学教育においてもっとも中心的に養われる能力を客観的に 測定することは,おそらく不可能であろう(1)。
しかし,こうした主観にまかせる能力向上感の指標は,卒業後の進路満足度を規定す る。多喜(2012)は,こうした「論理的思考能力の向上」が進路満足度を規定すること を示す。多くの大学生は,短期的な就職活動を通して,漠然とした仕事のイメージと現 実のズレを埋めなければならない。このズレが埋まらないまま就職先を決定してしまう と進路満足度は低く,うまく埋めることができれば,進路満足度は高くなる。「論理的 思考能力の向上」はそうしたズレを埋めることに貢献していると多喜は解釈してい る(2)。
こうした研究を踏まえると,学業成績と同様に,能力向上感も選抜方法の妥当性を測 る上で重要な指標と考えられよう。
2.データ
2−1.使用するデータについて
本研究で使用するデータは,ある私立大学の社会科学系の学部でおこなわれた卒業時
大学生の学業成績・能力向上感と入試選抜方法の関連 142
調査から得られたものである。この大学は関西に立地しており,調査対象となった学部 に属する各学科の入試難易度は
60
前後となっている。データは
2012
年3
月と2013
年3
月の卒業式当日,その学部に所属する全学生を対象 に調査を実施したものである。回収状況は表1
に示したとおりである。当然ながら本調 査は,卒業が決定しているにもかかわらず,卒業式に参加していない学生をサンプル内 に含んでいない。また,すでに退学してしまった学生もこのサンプル内に含まれていな い。回収率は2012
年調査で79.2%,2013
年調査で84.9% であった。
また,本研究は経年的に結果をとらえるため,データの統合はおこなわず,各年で分 析結果を提示し,検討する。
2−2.X
大学Y
学部の入試選抜方法について学力のみによっておこなわれる一般入試がある一方,推薦入試は学力だけでなく,さ まざまな基準によって選抜がおこなわれている。そうしたなか,X大学
Y
学部の入試 選抜方法をもとに,本研究は「一般・センター」「指定校・公募・AO」「内部推薦」「留 学生・社会人・編入」の4
つに分類した。「一般・センター」は,X大学Y
学部が独自 におこなう一般入試と,大学入試センター試験の結果とX
大学Y
学部が独自に課す小 論文による入試である。「指定校・公募・AO」は,X大学の附属でない高校に推薦枠を 与える指定校推薦,公募推薦,AO入試を示す。これら選抜は,高校時代の評定平均等 をある程度課しているため,まったく学力を必要としないわけではないが,「一般・セ ンター」にくらべると,その比重はかなり軽減されているといえる。「内部推薦」は,X
大学の附属高校から進学する入試である。この入試も「指定校・公募・AO」と同様,「一般・センター」にくらべると選抜に必要とされる学力は,かなり軽減されていると いえよう。「留学生・社会人・編入」は留学生や社会人,編入学をあらわす。留学生の 場合,当然ながら言語の点で,単位取得が日本人の学生にくらべ,難しいと考えられ る。
表
2
は,X大学Y
学部に入学した学生がどのような選抜方法を利用して入学したか を性別で示している。各年とも,女性にくらべ,男性の多くは「一般・センター」を利 用して入学していることが確認できる。表1 データ構成
卒業者数 回収数
男 女 合計
2012年3月 2013年3月
442 436
160 163
190 207
350 370
大学生の学業成績・能力向上感と入試選抜方法の関連 143
2−3.学業成績について
学業成績は
GPA
を使用する(3)。GPAは調査票 に お い て,6段 階(1:「1.49未 満」,2:「1.50−1.99」,3:「2.00−2.49」,4:「2.50−2.99」,5:「3.00
−3.49」,6:「3.50
以 上」)で 質 問 し て い る。表3
は性別でGPA
を示したものであ る。各 年 と もGPA
が3.00
を超える比率は男性より女性の方が 高く,男性は2
割前後,女性は5
割弱となってい る。2−4.能力向上感について
本研究で使用する「能力向上感」の指標は,「①根拠を示し簡潔に書く」「②自分の考 えや意見を伝える」「③1つのことを複数の視点から考える」「④文献・資料を読み解 く」「⑤文献・統計資料を探す」「⑥数量的に分析する」「⑦外国語のスキル」に対し,
それぞれ「向上した〜低下した」の
4
段階で回答されたものを合算し,7で除している(2012年 調 査 の 能 力 向 上 感 の
α
係 数=.793, 2013年 調 査 の 能 力 向 上 感 のα
係 数表2 性別と入試選抜方法 入試形態
合計 N 一般・
センター
指定校・
公募・AO 内部推薦 留学生・
社会人・編入
2012 男 女
85.0%
53.7%
6.3%
10.0%
6.9%
28.9%
1.9%
7.4%
100.0%
100.0%
160 190
合計 68.0% 8.3% 18.9% 4.9% 100.0% 350
2013 男 女
82.8%
61.4%
5.5%
9.7%
8.6%
23.7%
3.1%
5.3%
100.0%
100.0%
163 207
合計 70.8% 7.8% 17.0% 4.3% 100.0% 370
表3 性別とGPA GPA
合計 N 1.49未満 1.50−1.99 2.00−2.49 2.50−2.99 3.00−3.49 3.50以上
2012 男 女
15.3%
1.1%
21.3%
3.9%
24.7%
23.9%
21.3%
26.7%
14.0%
37.2%
3.3%
7.2%
100.0%
100.0%
150 180
合計 7.6% 11.8% 24.2% 24.2% 26.7% 5.5% 100.0% 330
2013 男 女
7.1%
1.0%
17.3%
10.6%
32.7%
21.1%
21.2%
24.6%
18.6%
30.7%
3.2%
12.1%
100.0%
100.0%
156 199
合計 3.7% 13.5% 26.2% 23.1% 25.4% 8.2% 100.0% 355
表4 性別と能力向上感 平均値 標準偏差 N
2012 男 女
2.966 3.056
.455 .493
182 155
合計 3.008 .475 337
2013 男 女
3.000 3.053
.454 .456
205 161
合計 3.023 .455 366
大学生の学業成績・能力向上感と入試選抜方法の関連 144
=.767)。表
4
は,能力向上感の平均値を性別で示したものである。基本的に,性別で 能力向上感に大きな差はみられないようだ。3.分 析
(4)3−1.入試選抜方法と学業成績(GPA)
まず,入試選抜方法と学業成績の関連を検討する。図
1
は選抜方法ごとにGPA
の分 布を示したものである。これをみる限り,各年とも,もっとも高いGPA
を修得してい るのは,「留学生・社会人・編入」で入学してきた学生である。2012年調査の場合,x2=28.694 df=15 p<0.05 図1 選抜方法とGPA(2012年調査)
x2=15.346 df=15 n.s.
図2 選抜方法とGPA(2013年調査)
大学生の学業成績・能力向上感と入試選抜方法の関連 145
「留学生・社会人・編入」に次いで高い
GPA
を修得しているのは,「内部推薦」の学 生,そして「一般・センター」,「指定校・公募・AO」の順となる。ただし,こうした 傾向は2013
年調査ではみられず,選抜方法の間で大きな差は確認できない。経年的に みた場合,選抜方法と学業成績の関連は必ずしも一貫した傾向を示さないのかもしれな い。高い
GPA
につながるおもな要因として,学生の授業に対する取り組みが挙げられ る(5)。当然ながら,選抜方法の違いのみが直接的にGPA
を規定するとは限らず,授業 に対する取り組みは大きな媒介要因となっていることが考えられよう。まず,ここではGPA
と学生の授業に対する各取り組みの相関係数を示した表5
をみていこう。2012
年調査の場合,授業に対する各取り組みをまじめにおこなっていればいるほど,高い
GPA
につながることがわかる。とくにGPA
と「遅刻・欠席」との相関係数は高 く(−.347),遅刻・欠席が少ないほどGPA
は高くなる傾向が示された。また興味深い 結果としては,「興味より成績を重視した履修」をおこなうほど,GPAは低くなる傾向 を示す。こうしたことはおそらく,そもそも大学で提供される教育内容に無関心である ため,低いGPA
でも卒業に必要な単位さえとれればよいという意味で成績を重視した 履修を学生がおこなったということをあらわしているのであろう。ただし2013
年調査 の場合,「教員に質問・ディスカッションに参加」「夢中になった授業がある」「興味よ り成績を重視した履修」は統計的に有意ではないようだ。では,こうした要因をコント ロールした場合,選抜方法とGPA
との関連はどのように示されるのであろうか。次にGPA
を従属変数とした重回帰分析を用いて検討する。表
6
が2012
年調査を用いた分析結果である。モデル1
は,選抜方法,学科を独立変 数としたものである(6)。選抜方法のなかで,もっとも高いGPA
を修得しているのは「留学生・社会人・編入」であり,次いで「内部推薦」となっている。「指定校・公募・
AO」の学生は,基準である「一般・センター」で入学した学生とほぼ GPA
に差はないことが示された。
表5 授業に対する各取り組みとGPAの相関係数
2012 2013
GPA N GPA N
教員に質問・ディスカッションに参加 予習・復習をする
ゼミ発表の準備・卒論頑張った テスト・レポートの準備 夢中になった授業がある 興味より成績を重視した履修 遅刻・欠席
.228**
.212**
.204**
.272**
.172**
−.132*
−.347**
326 327 325 326 325 327 327
.060 .196**
.173**
.293**
.070
−.094
−.404**
352 354 352 355 355 354 354
**p<0.01 *p<0.05
大学生の学業成績・能力向上感と入試選抜方法の関連 146
モデル
2
は,モデル1
に対し,授業に対する各取り組みを独立変数として加えたもの である。「教員に質問・ディスカッションに参加」をよくする学生ほど高いGPA
を修 得すること,「遅刻・欠席」が少ない学生ほど高いGPA
となることが示されている。GPA
に対する選抜方法の効果に目を転じると,モデル1
で確認された「内部推薦」と「留学 生・社会人・編入」の正の効果は,弱まることが確認できる。こうした結果があらわす ことは,「内部推薦」「留学生・社会人・編入」で入学した学生は,授業に対する取り組 みが「一般・センター」で入学した学生よりもまじめであることによって,高いGPA
を修得していたということだ。モデル
3
は,モデル1
に対し,性別を独立変数として加えたものである。性別をあら わす「男性ダミー」の効果をみると,男性より女性の方が高いGPA
を修得しているこ とがわかる。選抜方法のGPA
に対する効果は,モデル1
のそれと比較すると,「内部 推薦」と「留学生・社会人・編入」が統計的に有意でなくなる。こうしたことは,表2
でも確認したように,「一般・センター」で入学した学生よりも,「指定校・公募・AO」「内部推薦」「留学生・社会人・編入」で入学した学生のなかに女性が多く,その女性が 男性より高い
GPA
を修得する傾向にあることを示す。モデル
4
は,モデル1
に,独立変数である授業に対する各取り組みと性別を同時に加 えたものである。GPAに対する選抜方法の効果は,「指定校・公募・AO」で負の効果 を示す。こうした分析結果から,「指定校・公募・AO」で入学した学生は,モデル1
に おいて「一般・センター」で入学した学生とほぼ同じGPA
であることを示したが,そ れはまじめに授業に取り組んでいること,女性が多いことによるものだと判断できる。また,「内部推薦」「指定校・公募・AO」についても,モデル
1
では「一般・センター」表6 2012年調査を用いたGPAを規定する要因(標準化係数)
モデル1 モデル2 モデル3 モデル4
(基準:一般・センター)
指定校・公募・AOダミー 内部推薦ダミー
留学生・社会人・編入ダミー
―
−.010 .128*
.172**
―
−.098 .056 .085
―
−.065
−.015 .103
―
−.135**
−.037 .040
学科ダミー ! ! ! !
教員に質問・ディスカッションに参加 予習・復習をする
ゼミ発表の準備・卒論頑張った テスト・レポートの準備 夢中になった授業がある 興味より成績を重視した履修 遅刻・欠席
.158*
.037 .073 .097 .003
−.084
−.330**
.169**
.026 .012 .091 .028
−.053
−.305**
男性ダミー −.366** −.310**
調整済みR2 .060 .240 .171 .316 N=321 **p<0.01 *p<0.05
大学生の学業成績・能力向上感と入試選抜方法の関連 147
で入学した学生より高い
GPA
を修得している結果を示したが,それもまじめに授業に 取り組んでいること,女性が多いことによるものだといえる。表
7
は2013
年調査を用いた分析結果である。モデル1
は,選抜方法,学科を独立変 数としたものであり,選抜方法のなかで,もっとも高いGPA
は,先に示した2012
年 調査と同様,「留学生・社会人・編入」であった。「指定校・公募・AO」「内部推薦」の 学生は,基準である「一般・センター」の学生とほぼ同じGPA
であることが示されて いる。モデル
2
は,モデル1
に,授業に対する各取り組みを加えたものである。ここでは「テスト・レポートの準備」をよくする学生ほど高い
GPA
を修得すること,「遅刻・欠 席」が少ない学生ほど高いGPA
となることが確認できる。選抜方法に目を転じると,モデル
1
で示された「留学生・社会人・編入」は,統計的に有意ではなく,その効果は 弱まることが確認できる。こうした傾向は2012
年調査においても確認された。モデル
3
は,モデル1
に対し,性別を加えたものである。性別をあらわす「男性ダミ ー」の効果をみると,男性より女性の方が高いGPA
となっており,2012年調査と同じ 傾向を示す。モデル3
において,「指定校・公募・AO」の効果は確認できない。男性に くらべ,GPAの高い女性が「指定校・公募・AO」に多いことを示すのであろう。モデル
4
は,モデル1
に対し,授業に対する各取り組みと性別を同時に加えたもので ある。モデル1
で確認されなかった「内部推薦」は,負の効果を示した。モデル2,モ
デル3
における「内部推薦」の係数の変化も含めて考慮すれば,これは「内部推薦」の 学生がまじめに授業に取り組んでいること,女性が多いことによるものだといえそう だ。「留学生・社会人・編入」は,モデル1
において「一般・センター」の学生より高表7 2013年調査を用いたGPAを規定する要因(標準化係数)
モデル1 モデル2 モデル3 モデル4
(基準:一般・センター)
指定校・公募・AOダミー 内部推薦ダミー
留学生・社会人・編入ダミー
― .011
−.029 .108*
―
−.040
−.063 .033
―
−.014
−.084 .091
―
−.065
−.112*
.013
学科ダミー ! ! ! !
教員に質問・ディスカッションに参加 予習・復習をする
ゼミ発表の準備・卒論頑張った テスト・レポートの準備 夢中になった授業がある 興味より成績を重視した履修 遅刻・欠席
−.005 .092 .027 .161**
.003
−.066
−.334**
.011 .120**
−.010 .179**
−.014
−.066
−.305**
男性ダミー −.269** −.246**
調整済みR2 .053 .231 .119 .284 N=348 **p<0.01 *p<0.05
大学生の学業成績・能力向上感と入試選抜方法の関連 148
い
GPA
であることを示したが,モデル2,モデル 3
の係数の変化を検討する限り,お もにまじめに授業に取り組んでいることによるものだと推測できる。3−2.入試選抜方法と能力向上感
では,選抜方法と能力向上感の関連を検討しよう。表
8
の分析結果をみると,各年と も統計的に有意な差は確認できないが,もっとも能力が向上したのは,「留学生・社会 人・編入」の学生であった。次に授業に対する取り組みと能力向上感の相関係数を検討しよう。2012年調査にお いて,表
5
で示された分析結果と同様に,授業に対する各取り組みと能力向上感は正の 相関を示す。ただ,「興味より成績を重視した履修」は能力向上感と負の相関を示して いる。GPAだけでなく,能力向上感に対しても授業に興味をもって取り組むことが重 要なようだ。「遅刻・欠席」は能力向上感に相関しない。しかし,2013年調査で「興味より成績を重視した履修」は能力向上感と正の相関を 示す。また「遅刻・欠席」に関しても正の相関を示している。これらに関する解釈は,
選抜方法など,他の要因をコントロールした上で検討しよう。
では,他の要因をコントロールした場合,選抜方法と能力向上感との関連はどのよう に示されるのであろうか。最後に,能力向上感を従属変数とした重回帰分析をおこな
表8 選抜方法ごとの能力向上感の平均値
2012 2013
平均値 標準偏差 N 平均値 標準偏差 N 一般・センター
指定校・公募・AO 内部推薦
留学生・社会人・編入 2.998 3.122 2.945 3.193
.491 .455 .430 .374
231 27 62 17
3.019 3.025 3.007 3.162
.461 .425 .445 .455
260 29 62 15
合計 3.008 .475 337 3.023 .455 366
n.s. n.s.
表9 授業に対する各取り組みと能力向上感の相関係数
2012 2013
能力向上感 N 能力向上感 N 教員に質問・ディスカッションに参加
予習・復習をする
ゼミ発表の準備・卒論頑張った テスト・レポートの準備 夢中になった授業がある 興味より成績を重視した履修 遅刻・欠席
.406**
.255**
.261**
.245**
.268**
−.129*
.076
336 337 336 336 335 337 337
.421**
.340**
.392**
.313**
.276**
.153**
.108*
363 365 363 366 366 365 365
**p<0.01 *p<0.05
大学生の学業成績・能力向上感と入試選抜方法の関連 149
い,これを確かめよう。使用する独立変数は,選抜方法と
GPA
の関連を検討した表6,
表
7
と同様,学科,授業に対する各取り組み,性別に加え,従属変数として用いたGPA
を使用する。表
10
は2012
年調査を用いた分析結果である。モデル1
は,選抜方法,学科を独立変 数としたものである。選抜方法において,もっとも能力が向上したと感じたのは「留学 生・社会人・編入」であるが,統計的に有意ではない。モデル
2
は,授業に対する各取り組みをモデル1
に対し,追加したものである。授業 に対する各取り組みにおいて,能力向上感を大きく規定する変数は,「教員に質問・デ ィスカッションに参加」「興味より成績を重視した履修」「遅刻・欠席」であった。表7
の分析と同様に,「教員に質問・ディスカッションに参加」するほど高い能力向上感が 得られている。また「興味より成績を重視した履修」をおこなうほど能力向上感は得ら れないことが示された。先にも述べたが,この変数は低いGPA
でも単位さえとれれば よいとすることをあらわす指標と推察できる。つまり,こうした分析結果は,高いGPA
の修得・単位取得に大きな負担があったとしても,興味のある授業にしっかり取り組め ば能力向上感が得られるということを示している。統計的に有意ではないが,他の取り組みに関しても正の効果を示していることから,
GPA
と同様に,まじめに授業に取り組むことが能力向上感に欠かせないといえる。た だし,「遅刻・欠席」の頻度が高いほど,能力向上感を高める結果を示しているため,これに限って,そうした解釈はあてはまらない。
モデル
3
は,モデル1
に,性別を独立変数として加えたものである。能力向上感に対表10 2012年調査を用いた能力向上感を規定する要因(標準化係数)
モデル1 モデル2 モデル3 モデル4 モデル5
(基準:一般・センター)
指定校・公募・AOダミー 内部推薦ダミー
留学生・社会人・編入ダミー
― .073
−.048 .110
― .054
−.069 .065
― .093
−.010 .133*
― .076
−.021 .089
― .076
−.021 .089
学科ダミー ! ! ! ! !
教員に質問・ディスカッションに参加 予習・復習をする
ゼミ発表の準備・卒論頑張った テスト・レポートの準備 夢中になった授業がある 興味より成績を重視した履修 遅刻・欠席
.293**
.072 .075 .070 .056
−.143**
.114*
.288**
.078 .106 .071 .044
−.159**
.101
.288**
.078 .106 .070 .044
−.159**
.101
男性ダミー .119 .161** .161**
GPA .001
調整済みR2 .020 .220 .029 .239 .236 N=316 **p<0.01 *p<0.05
大学生の学業成績・能力向上感と入試選抜方法の関連 150
する性別の効果をみると,女性より男性の方で能力向上感を得ているが,統計的に有意 ではない。その一方で,能力向上感に対する各選抜方法の効果は,「留学生・社会人・
編入」で統計的に有意となっている。また統計的に有意ではないものの,「指定校・公 募・AO」「内部推薦」の効果も,モデル
1
にくらべ,正の方向へ効果が強まっている。これは,先にも述べたように,「指定校・公募・AO」「内部推薦」「留学生・社会人・編 入」で入学した学生に女性が多いためである。モデル
3
で,男性にくらべ,能力向上感 が得られていないと判断する女性の効果がコントロールされたことにより,こうした結 果が示されたのである。モデル
4
は,授業に対する各取り組みと性別をモデル1
に加えたものである。大きな 変化として,能力向上感に対して「遅刻・欠席」が統計的に有意な効果を示さないこ と,統計的に有意に女性より男性の方が能力向上感を得ていることが挙げられる。こう した結果は,女性より能力向上感を得た男性に遅刻・欠席が多いことをあらわしてい る。モデル
5
は,モデル4
に対し,GPA
をコントロールしたものである。分析の結果,GPA
は能力向上感とほぼ関連しないことが確認できる。つまり,大学教育における学生の評 価基準であるGPA
は,各学生の能力向上感をあらわす指標と一致しないということが 明らかとなった。では,表
11
の2013
年調査を用いた分析結果を検討する。モデル1
は,選抜方法,学 科を独立変数としたものであるが,選抜方法において,「留学生・社会人・編入」の学 生は「一般・センター」にくらべ,やや高い能力向上感を得ているようだが,統計的な表11 2013年調査を用いた能力向上感を規定する要因(標準化係数)
モデル1 モデル2 モデル3 モデル4 モデル5
(基準:一般・センター)
指定校・公募・AOダミー 内部推薦ダミー
留学生・社会人・編入ダミー
― .011 .000 .074
―
−.061
−.032
−.038
― .015 .009 .077*
―
−.059
−.027
−.036
―
−.059
−.028
−.036
学科ダミー ! ! ! ! !
教員に質問・ディスカッションに参加 予習・復習をする
ゼミ発表の準備・卒論頑張った テスト・レポートの準備 夢中になった授業がある 興味より成績を重視した履修 遅刻・欠席
.254**
.089 .214**
.123*
.146**
.061 .113*
.253**
.086 .218**
.121*
.148**
.061 .110*
.253**
.087 .217**
.122*
.148**
.061 .108*
男性ダミー .044 .024 .022
GPA −.008
調整済みR2 .006 .311 .005 .310 .307 N=345 **p<0.01 *p<0.05
大学生の学業成績・能力向上感と入試選抜方法の関連 151
有意差は確認されない。
モデル
2
は,モデル1
に対し,授業に対する各取り組みを加えたものである。「教員 に質問・ディスカッションに参加」「ゼミ発表の準備・卒論頑張った」「テスト・レポー トの準備」「夢中になった授業がある」「遅刻・欠席」が能力向上感に対して正の効果を 示す。統計的に有意か否かに多少の差はあるものの,2012年調査と同様,授業に対し てまじめに取り組むほど,能力向上感が得られる傾向にある。しかし「遅刻・欠席」は,この限りでない。この点に関しても,2012年調査の分析結果である表
10
と同様の 結果となっている。モデル
3
は,モデル1
に対し,性別を加えたものである。性別による能力向上感の差 は確認できないが,「留学生・社会人・編入」は正の効果を示す。こうした傾向は,2012 年調査の分析結果である表10
においても同様の結果が確認されており,やはり男性よ り能力向上感を得ていない女性の効果がコントロールされたことで示されたものであろ う。モデル4
は,モデル1
に授業に対する取り組みと性別を追加している。ここでの分 析は,基本的に,モデル3
までに述べてきた検討とほぼ一致する。最後に,モデル
5
は,モデル4
にGPA
をコントロールした結果である。2012年調査 の分析でも確認されたが,ここでもGPA
と能力向上感は関連しないことが明らかとな った。また,さまざまな要因をコントロールしても,「遅刻・欠席」するほど能力向上 感を得ていることも示された。おそらくこれは,高い能力向上感を得た学生(もしくは そもそも能力が高い学生?)は大学の授業に多少遅刻・欠席したとしても,単位を修得 することができていると考えられる。ただ,GPAに能力向上感との間に関連がないこ とから,単位を修得した授業のGPA
は,必ずしも高いとは限らないだろう(7)。4.まとめと課題
本研究は,X大学
Y
学部を対象に,2012・2013年の卒業時調査のデータを用い,入 試選抜方法と学業成績・能力向上感の関連を検討してきた。分析の結果,以下のように 要約できる。①基本的に,各選抜方法のなかで,「一般・センター」で入学した学生の
GPA
にく らべ,「指定校・公募・AO」「内部推薦」「留学生・社会人・編入」で入学した学生 のGPA
が低いということはない。その要因は,「一般・センター」以外の入試で 入学した学生が,比較的,授業に対してまじめに取り組んでいること,女性が多い ことであった。つまり,選抜方法とGPA
の関連の一部を,授業に対する取り組み や性別が媒介しているということだ。大学生の学業成績・能力向上感と入試選抜方法の関連 152
②ただし
GPA
のように,選抜方法によって能力向上感に大きな差はみられない。選 抜方法と能力向上感の関連に対し,授業に対する取り組みや性別は,いくらか作用 しているようではあるが,ほとんど媒介していないといっていいだろう。①,②の結果から,X大学
Y
学部における入試選抜方法に大きな問題はないといえ る。ただし,本研究を通して,あらたに指摘すべき問題が浮き彫りとなった。それは学 業成績(GPA)と能力向上感にほぼ関連がないことだ。大学教育において,学生の勉学 に対する評価が学業成績ならば,やはり高い学業成績であるほど,高い能力向上感を得 ている方が望ましいといえる。こうした結果となった要因は,本研究における能力向上 感の指標が学生の主観にまかせたものであるため,うまく測定できていないことによる のかもしれない。ただし,先にも述べたが,学業成績の評価に対し,授業への出欠自体 を得点化していることがこうした結果を生じさせた可能性も考えられる。表6,表 7
に おいて,GPAに対し,遅刻・欠席の頻度が大きく規定している分析結果は,そうした ことを示唆しているのかもしれない(8)(9)。付記
本稿で使用しているデータについては,当該学部FD委員会の許可を得て使用している。
注
⑴ 金(2011)の研究における「論理的思考・説明能力」は,「根拠を示し簡潔に書く能力」「考えや意見 を他人に伝える能力」「物事を多面的に考える能力」「文献や資料を読み解く能力」の4つの合成変数 であり,本研究における「能力向上感」とその性質は近い。
⑵ 多喜(2012)の「論理的思考能力の向上」は,金(2011)の「論理的思考・説明能力」と同様の合成 変数である。
⑶ X大学は,各科目をA〜Fで評価しており,Aに4点,Bに3点,Cに2点,Dに1点,Fに0点を 与え,合算した得点を単位取得数で除し,GPA平均値を算出している。Fは単位未取得をあらわす。
⑷ 本研究で使用するデータは全数調査であるため,検定をおこなう必要はない。ただし,変数間の関連 の有無を示す際,何らかの目安が必要となる。そうしたことを踏まえ,本研究は,ランダムサンプリ ングによって得られたデータの分析と同様に,検定結果を示すこととする。
付表
付表1 授業に対する各取り組みの平均値
2012 2013
平均値 標準偏差 N 平均値 標準偏差 N 教員に質問・ディスカッションに参加
予習・復習をする
ゼミ発表の準備・卒論頑張った テスト・レポートの準備 夢中になった授業がある 興味より成績を重視した履修 遅刻・欠席
2.607 2.230 3.170 3.044 3.135 2.344 2.583
.758 .856 .724 .811 .864 .920 .897
342 343 341 342 341 343 343
2.695 2.299 3.277 3.125 3.238 2.351 2.698
.693 .853 .639 .749 .771 .904 .870
366 368 366 369 369 368 368 大学生の学業成績・能力向上感と入試選抜方法の関連 153
⑸ 授業に対する各取り組みは,4段階(あてはまる:4〜あてはまらない:1)であらわしている。各取 り組みの平均値は付表1のとおりである。
⑹ GPAに対する各学科の具体的な効果(標準化係数)は示せないが,分析結果をより正確にするため,
ここではコントロール変数として用いている。
⑺ この点に関しては,各年において同様の分析結果が示されたわけではないことから,今後の検討課題 となる。
⑻ 大学の学業成績,能力向上感に関する検討をする際,入学した大学が第一希望だったか否かは,重要 な要因である。ただし,本研究で用いるX大学Y学部の場合,「一般・センター」以外の選抜である
「指定校・公募・AO」「内部推薦」「留学生・社会人・編入」のほとんどの学生は,X大学Y学部を第 一希望だとしている。そのため,今回は第一希望か否かを分析に含めていない。
⑼ もちろん,大学の授業における出欠確認が,まったく意味のないことだということではない。
参考文献
濱中義隆,2013,「入試と入学後の学習」『IDE現代の高等教育』554 : 51−7.
金政芸,2011,「大学生の論理的思考および説明能力の向上感の規定要因」『第2回 社会学部 卒業生ア ンケート調査報告書』同志社大学社会学部GP評価委員会,1−9.
西群大,2011,「個別大学の追跡調査に関するレビュー研究」『大学入試研究ジャーナル』21 : 31−8.
多喜弘文,2012,「大学生の進路満足度の規定要因」『第3回 社会学部 卒業生アンケート調査報告書』
同志社大学社会学部GP評価委員会,11−23.
渡辺哲司,2005,「AO入試と大学における学習」『大学教育学会誌』27(1):146−51.
────・福島真司,2008,「公表データからみるAO入学者の評価−国公私立16大学からの追跡調査報 告書レビュー」『大学入試研究ジャーナル』18 : 131−6.
大学生の学業成績・能力向上感と入試選抜方法の関連 154
This case study investigated the relationship between entrance examinations and academic outcome/development of ability. This paper examines the above claim by using date on graduating survey (Y department at X university).
The results show that (1) admitted students by academic performance test is the same academic outcome/development of ability as students by admission on recommendation, (2) although academic outcome is not related to development of ability. The factor might not have been able to measuring development of ability, but that’s because academic outcome is recognized by take attendance.
Key words: GPA, attitude, tardy absence
University Entrance Examinations and Academic Outcome / Development of Ability
Ryoichi Nishimaru
大学生の学業成績・能力向上感と入試選抜方法の関連 155