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中国の社会保障再編過程における財源政策に関する研究

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Academic year: 2021

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博士論文概要書 于 洋

中国の社会保障再編過程における財源政策に関する研究

―社会保険改革を中心に―

1978 年以降 20 数年にわたって、中国では社会と経済との両面において 2 つの大きな政 策が行われてきた。1 つは、経済の改革開放政策である。もう 1 つは、1 人っ子政策である。

改革開放政策は、計画経済体制を市場経済体制に転換させ、経済構造をも大きく変化させ ることとなった。経済構造の変化としては、所有制の多様化と労働市場の変化が挙げられ る。また、経済改革の過程で生じた財政制度の変化は、政府間の関係と政府企業間の関係 に大きな変化をもたらすことになった。1 人っ子政策は、有限な資源を効率よく使い、1 人当たりの経済成長を確実に向上させるためのものであったが、急激な人口増加を抑制し た反面、少子・高齢化の急速な進展と核家族の形成をもたらすこととなった。

このような経済と社会の変化のなかで、1980 年代半ばから年金・医療を中心とする社会 保険に関する改革が一部の地方で試されたが、1992 年頃から改革のスピードが速められた。

1990 年代末になって、社会保障再編の勢いは一段と強まり、新たな社会保険制度が続々と 作られるようになった。

筆者は、1990 年代半ば頃から少子高齢化問題と社会保障制度に関心を寄せ、社会保障制 度一般について勉強しながら、中国の社会保障制度改革を研究することに力を注ぎ、制度 を把握するとともに国際比較を行ってきた。その後、財政制度の変化と所有制の多様化が 社会保障財源の調達方法に与える影響に注目するようになった。中国国内外における社会 保障に関する研究が高まっているが、残念ながら財政学の観点からの学術的研究はほとん どない。このような状況の中で、筆者は中国の社会保障再編過程における財源政策を研究 テーマにした。

本論文では、筆者は市場経済化にともなって再編されつつある中国の失業保険・老齢年 金・医療を取り上げ、それらの改革の到達点と問題点を財源調達方式に力点をおきながら、

また、計画経済期の社会保障制度と比較しながら明らかにしようとしている。上記の事柄 は本論文を貫く研究課題である。この研究課題を解くために、筆者は財政制度を通して、

計画経済期と市場経済期における政府機能の違いを分析し、それによって社会保障制度の 変化を研究するというアプローチをとっている。このようなアプローチをとっているとこ ろに特徴があり、オリジナリティーがあると思う。

本論文においては、筆者は以下のことを主張した。①中国の社会保障制度は、経済体制 の転換とともに、制度の仕組み、制度の理念およびその財源調達の方法を変えてきた。② 中国における社会保障制度の変化は経済改革を軸に生じてきたが、国有企業改革および財 政制度改革が社会保障再編、とりわけ財源政策の変換を促した主要な原因であった。その

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ことを失業保険・老齢年金・医療保険という 3 つの主要制度の考察を通して明らかにし、

その上で、財源政策に関する一般論を用いて中国の社会保障制度の財源政策に関して検討 を行った。さらに、今後は、効率性を重視するとともに公平性にも配慮すべきであると指 摘した。

本論文は、序章、第 1 章から第 7 章までの 8 章から構成されている。序章では、問題意 識、研究課題、先行研究、特徴と意義、論文構成などについて説明を行った。

第 1 章では、まず、資本主義国でいう社会保障制度の概念を検討した。その上で、社会 保障の財源構成および財源政策に関する一般理論、特に財源調達方法およびその基準を検 討した。その上で、計画経済期および市場経済期における中国の社会保障制度の概念と仕 組みを概観した。ここで、計画経済期の社会保障は就業・生活保障であり、市場経済期の 社会保障が資本主義国でいう社会保障の性格をそろえたと主張した。

第 2 章では、まず、重工業優先発展戦略を遂行するために、統収統支の財政制度や戸籍 制度および低賃金・高就業の雇用制度がどのように形成されたかを検討した。その上で、

計画経済期における政府間・政府企業間の関係およびそれぞれが果たしていた機能を明ら かにした。国家による資源配分、国有企業を中心とする公有制の維持、就業に応じる生活 保障というような特徴があったからこそ、計画経済期において就業・生活保障型の社会保 障制度が形成されたと指摘し、計画経済期の社会保障制度の仕組み(特に財源調達と給付 方法)と特徴を明らかにした。

第 3 章では、市場経済体制への移行過程における制度改革がもたらした社会的・経済的 諸変化を検討した。とりわけ、国有企業改革と財政制度改革に対する分析を通して、政府 間および政府企業間の財政関係の変化を検討した。社会主義市場経済体制の特徴(一部の 公有制企業を基礎にした所有制の多様化の経済構造、市場による資源配分、市場任せ・効 率性重視)が形成されたことによって、計画経済期の就業・生活保障の社会保障制度が資 本主義国でいう社会保障制度へと転換されたと分析した。

第 4 章では、改革開放政策が実施されて以降の失業問題を概観し、失業対策としての失 業保険制度を分析した。1998年以降、中国は顕在的失業と潜在的失業に対して、失業保険 制度と再就職センターがそれぞれ対応し、互いに強い連帯関係を持っていると指摘した。

顕在的失業対策である失業保険制度において、企業から従業員個人へ、また、国有企業か ら国有・集団企業以外の企業および事業単位へ財源を移転したことと、潜在的失業対策で ある再就職センターによる基本生活保障制度において、政府財政および失業保険基金から 財源を調達していたことを明らかにした上で、中国の失業保険制度改革の過程は、国有企 業下崗職工対策の一部であることを示した。

第 5 章では、中国の年金保険制度の形成および1980年代以降の改革を含め、中国の年 金保険制度の特徴と問題点を取り上げ、その背景を分析した。また、基本年金保険制度に おける今後の課題をも指摘した。年金制度改革の背景に関しては、①財政制度改革による 企業財政制度の変遷、②国有企業の赤字拡大、③所有制構造および労働市場における変化、

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④急速な人口高齢化、⑤賦課方式の欠点、⑥限定された被保険者範囲による不公平、⑦担 当省庁の多角化による非効率、などの側面から分析を行った。

第 6 章では、中国の医療保険制度の変化、医療供給体制の転換を考察し、経済改革にと もなう基本医療保険制度の形成過程およびその実態を明らかにした。医療保険制度のほか に、医療供給制度に対する分析をも行った。計画経済期の中国では、医療サービスの供給 がほぼ完全に公的医療供給体制によって確保され、医療サービスの需要の大半も公的医療 保険によって保障されていたという結論を得た。市場経済期になってから、医療供給の市 場化によって公費・労保医療費が急増し、所有制構造と労働市場の変化にたいして対応が 遅れた医療保険制度においてはその普及率が低下した。これらの背景に、二重構造的な医 療保険制度自身の問題を加え、医療保険制度が改革されたと分析した。

第7章では、これまで検討してきた内容を踏まえた上で、中国の社会保障再編過程にお ける財源政策の変化を再点検した。最後に、応能原則の重視、企業の社会的責任の追及と 徴収体制の強化などの点から、中国の社会保障再編における今後の課題を提示した。

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