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試料から直接,25(OH) 濃度を測定できる試薬キットが日常検査法として一般に普及している.25(OH) 濃度は, 血中 25(OH) の総量 ( すなわち,25(OH)2 + 25(OH)3 の総和 :Total 量として算出 ) として定量されている. 一方, 25(OH) 測定については, 体

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はじめに

 ビタミン D は小腸,腎臓および骨におけるカルシウム 代謝調節に必要な脂溶性ビタミンである.1α, 25- ジヒ ドロキシビタミン D(以下,1α, 25(OH)2D)の働きは小 腸,腎臓および骨におけるカルシウム代謝調節作用であ り,その血中濃度はカルシウム濃度と副甲状腺ホルモン (PTH)によって調節を受け,ビタミン D 栄養状態を反映 しない.ビタミン D を考えるには,食事摂取量と皮膚産 生量の総和を反映する 25- ヒドロキシビタミン D(以下, 25(OH)D)の血中濃度が有効な指標とされる.  食事から摂取されたビタミン D(植物性食品由来の D2 と動物性食品由来 D3)は,小腸リンパ本幹で吸収されカイ ロミクロンに取り込まれ肝臓へ輸送される.また紫外線 B 波によって皮膚で合成されたビタミン D3もビタミン D

結合蛋白質(vitamin D binding protein:DBP)と結合し て肝臓へ輸送され,肝臓で 25 位が水酸化される.生成し た 25(OH)D(血中半減期は 2 ~ 3 週間)は,体内需要に応 じて腎臓で水酸化され,活性型の 1α, 25(OH)2D に代謝 される(血中半減期は 4 ~ 6 時間).活性型ビタミン D は 核内ビタミン D 受容体に結合して,ステロイドホルモン としての生理的作用(カルシウム代謝,がん細胞の増殖抑 制とアポトーシス)を惹起する.血中半減期の長い 25(OH) D が体内蓄積量を反映し,1α, 25(OH)2D は骨代謝の指標 としてこれまで広く用いられてきた.  近年,ビタミン D の代謝状態の評価には 25(OH)D 濃 度測定の有用性が数多く報告され1)-4),海外ばかりでなく わが国においても 25(OH)D 濃度測定が注目されるように なった5).体外診断用医薬品として 25(OH)D 濃度測定キッ トが 2015 年 4 月に製造販売承認が取得され,2016 年 8 月 よりビタミン D 欠乏症の診断の補助として保険適用され, ようやくわが国においても検査料の点数取り扱い項目と して実臨床での使用が可能となった.  本稿では,ビタミン D 代謝物の検査項目として知られ ている血中 25(OH)D 濃度について,保険適用の概略など も含めてその濃度測定と評価について概説する.

25(OH)D 濃度の測定

(表 1)6)-8) 1.測定の目的  一般的には,25(OH)D はビタミン D 栄養状態の判定, 1,25(OH)2D は生体内のカルシウム代謝調節を知るうえで 有用と思われる.特に,高カルシウム血症,低カルシウ ム血症,高リン血症,低リン血症,くる病・骨軟化症の 診断と鑑別診断を行う際に測定が必要となる.近年,25 (OH)D 濃度測定により,ビタミン D 欠乏や不足の可能性 を除外することは,骨粗鬆症診療には重要となってきて いる. 2.測定法  25(OH)D 測定は,試料を測定前に有機溶媒で抽出, 簡易カラムまたは高速液体クロマトグラフィー(high performance liquid chromatography:HPLC)で精製し, DBP などの干渉成分を除去する方法が一般的であったが, この方法は労力を要することから 25(OH)D 測定を自動化 し簡便に測定する方法が長らく望まれていた.最近では

三浦 雅一 佐藤 友紀

北陸大学薬学部 生命薬学講座 臨床解析学分野

骨粗鬆症の診断と治療における

25- ヒドロキシビタミン D 測定の意義

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がある.2016 年 8 月より 25(OH)D として保険適用(CLIA 法)となった,あるいは現在申請中,あるいは開発中の 25 (OH)D 測定試薬キットもそれぞれの測定試薬キット専用 の全自動免疫測定装置による簡便かつ短時間で高感度に 測定可能な免疫測定法である.  一方,日常検査法としてわが国ではあまり汎用されて いないが標準法(reference method)として,液体クロマ トグラフ質量分析技術を用いたタンデム型液体クロマト グラフ質量分析法(liquid chromatography-tandem mass spectrometry:LC-MS/MS 法)を用いた測定も可能とな り,各代謝物を特異的に測定できることも可能となっ ている(25(OH)D2と 25(OH)D3の定量解析が可能).最 近では,主要な LC-MS/MS による質量分析システムに 対応した ready-to-use の LC-MS/MS キットもある.ま た,微量なアイソトープをラベルしたビタミン D 誘導 体を生体内に注入し,尿中ビタミン D 代謝物質を定量 化することで生体内でのビタミン D 動態を検出できる アイソトープ希釈法 / オンライン固相抽出液体クロマト 試料から直接,25(OH)D 濃度を測定できる試薬キットが 日常検査法として一般に普及している.25(OH)D 濃度は,

血中 25(OH)D の総量(すなわち,25(OH)D2+ 25(OH)D3

の総和:Total 量として算出)として定量されている.一方, 25(OH)D 測定については,体外診断薬メーカーがアメリ カ食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA) への 510(k)申請と承認(clearance)取得を行っているた め,わが国でも厚生労働省への体外診断用医薬品の製造 販売承認申請および保険適用申請が行われている(表 1).  25(OH)D 測 定 法 と し て は,DBP を 利 用 し た 競 合 性 蛋白結合性分析法(competitive protein binding assay: CPBA 法),抗体を利用した各種免疫測定法として放射 免疫測定法(radioimmunoassay:RIA 法),酵素免疫測 定 法(enzyme immunoassay:EIA 法), 化 学 発 光 免 疫 測 定 法(chemiluminescent immunoassay:CLIA 法), 化 学 発 光 酵 素 免 疫 測 定 法(chemiluminescent enzyme immunoassay:CLEIA 法), 電 気 化 学 発 光 免 疫 測 定 法 (electro-chemiluminescence immunoassay:ECLIA 法)

CPBA:competitive protein binding assay, RIA:radioimmunoassay, EIA:enzyme immunoasaay, CLIA:chemiluminescent immunoassay, CLEIA:chemiluminescent enzyme immunoassay,ECLIA:electro-chemiluminescence immunoassay, LC-MS/MS:liquid

chromatography-tandem mass spectrometry. (筆者作成)

表 1 血中 25(OH)D 濃度の各種測定法(2016 年 9 月現在) CPBA RIA EIA CLIA CLEIA ECLIA LC-MS/MS オリジナル法(LSI メディエンス) Diasorin 25[OH]D125 I RIA

(DiaSorin:代理店 セティ・メディカルラボ) 25(OH)-Vitamin D direct day

(Immunodiagnostik:代理店 コスモバイオ)など リエゾン®25 水酸化ビタミン D トータル (協和メデックス)

ARCHITECT®Vitamin D(アボットジャパン) ADVIA Centaur Vitamin D(シーメンスヘルスケア) Access 25(OH) Vitamin D Total (ベックマン・コールター) Lumipulse® G 25-OH Vitamin D(富士レビオ)

IDS-iSYS 25-Hydroxy Vitamin D(IDS) Elecsys® Vitamin D total

(ロシュ・ダイアグノスティックス) Biocrates® Vitamin D kit

(BIOCRATES:代理店 キコーテック) 試験研究目的 (オリジナル法でキット化されていない) 試験研究目的 試験研究目的 体外診断用医薬品製造販売承認済・保険適用 開発中 体外診断用医薬品製造販売承認申請中 体外診断用医薬品製造販売承認申請中 開発中 試験研究目的(国内では未発売) 体外診断用医薬品製造販売承認申請中 試験研究目的 測定法 測定キット名(メーカー)など 備 考

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グラフィー / タンデム質量分析(isotope dilution/online solid-phase extraction liquid chromatography/tandem mass spectrometry:ID-XLC-MS/MS)法などより精度の 高い分離分析法も薬物動態学/ファーマコキネティクス (pharmacokinetics:PK)分野では使用されている.  表 2 と図 1 には,新規に保険適用となった CLIA 法に よる 25(OH)D 保険適用の概要(表 2)と全自動化学発光免 疫測定装置「リエゾン®XL」による測定試薬キット「リエゾ ン®25 水酸化ビタミン D トータル」の測定原理(図 1A)と 装置外観(図 1B)を示した.本測定法の特徴としては,測 定 範 囲 は 4 ~ 150 ng/mL(10nmol/L ~ 375nmol/L), 検 体必要量 25μL,測定時間は 1 検体あたり 35 分の処理能 力を有している. 3.測定のための試料と注意点  25(OH)D 濃度の測定試料としては,血清もしくは血漿 を用いる.日内変動はなく,食事(食後)などの影響も少 ない.生理的変動して,日照時間の影響で季節的変動を 伴うので注意が必要である.25(OH)D は,夏に高く,冬 図 1 「リエゾン®25 水酸化ビタミン D トータル」の測定原理(A)と装置外観(B) D D D D D D ①磁性微粒子に結合した抗25水酸化ビ タミンD抗体を添加すると,25水酸 化ビタミンDはその結合蛋白質から 解離してこの特異抗体に結合する. D-D D D D D D ②次にビタミンDとイソルミノール誘 導体の結合体を添加すると,未結合部 分に結合する. D-D D D D D D D D D D D D ③洗浄サイクルで遊離している未結合 試薬を除去する. D-④スターター試薬を添加し,イソルミ ノール誘導体を発光させ,光電子増倍 管 に よ り 光 信 号 を 相 対 発 光 強 度 (RLU)として測定する.光信号は25 水酸化ビタミンD濃度と反比例する. D-A B (協和メデックス社内資料より引用) (協和メデックス社内資料より引用) 表 2  「リエゾン®25 水酸化ビタミン D トータル」の保険適用 の概要 測定項目 測定方法 主な測定目的 点 数 保険収載月 検査料の点数の 取扱いについて 区 分 E3(新項目) 25- ヒドロキシビタミン D 化学発光免疫測定法(CLIA 法) 血清中の 25- ヒドロキシビタミン D 濃度の測定 (ビタミン D 欠乏症の診断の補助) 400 点 2016 年 8 月 25- ヒドロキシビタミン D は,区分番号 「D007」血液化学検査の「57」1, 25- ジヒド ロキシビタミン D3の所定点数に準じて算 定する. 本検査は,CLIA 法により,ビタミン D 欠 乏性くる病もしくはビタミン D 欠乏性骨 軟化症の診断時またはそれらの疾患に対 する治療中に測定した場合にのみ算定で きる.ただし,診断時においては 1 回を限 度とし,その後は 3 カ月に 1 回を限度とし て算定する.

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Force」による 25(OH)D 濃度の解釈例(表 3A)10),および 厚生労働省のホームページに掲載されている「厚生労働省  統合医療に係る情報発信等推進事業 統合医療情報発 信サイト」(「統合医療」情報発信サイトは,厚生労働省「統 合医療」に係る情報発信等推進事業に基づき,患者・国民 及び医療者が「統合医療」に関する適切な情報を入手する ために構築されたホームページ(http://www.ejim.ncgg. go.jp/pro/overseas/c03/17.html)に 公 開 さ れ て い る 25 (OH)D 濃度(表 3B)をそれぞれ示す.参考基準範囲(基準 値)については,地域や季節,患者の健康状態,食事,年齢, 民族性,ビタミン D サプリメントの使用,あるいは環境 により異なる可能性がある.各施設において独自の基準 値設定が望まれる.  薬剤の影響として 25(OH)D では,市販のビタミン剤の 大量服用などでは高値を示す.消化性潰瘍治療薬の腸内 リン結合薬(アルミニウム製剤),抗痙攣薬(カルバマゼピ に低い,同様の理由で,居住地の緯度により差異があり, 高緯度居住者は低値傾向を示す.このような日照時間の 影響による生理的変動は,25(OH)D で顕著に反映される ので注意が必要である. 4.測定データ判読,基準値と薬剤の影響9)  25(OH)D の基準下限値は,おおむね 10ng/mL 前後に 設定されている.基準下限値未満は,骨軟化症をきたす ビタミン D 欠乏症(成人では骨軟化症,小児ではくる病) と診断される.一方,100 ng/mL 以上ではビタミン D 中 毒症と診断される.また,25(OH)D 測定値が基準値範囲 内であっても低値の場合,ビタミン D 貯蔵量が不十分な 非充足状態のことがあり,このような状態をビタミン D 不足(insufficiency または inadequacy)と呼んでいる.表 3 には,参考までに Holick らにより報告された「Clinical Guidelines subcommittee of the Endocrine Society Task

(厚生労働省ホームページ「統合医療」情報発信サイト[http://www.ejim.ncgg.go.jp/pro/overseas/c03/17.html]より改変引用) 表 3 25(OH)D 濃度の解釈例 欠乏 不足 充足 上限 ビタミン D 状態 <20 20∼<30 30∼100 >100 25(OH)濃度範囲(ng/mL) <50 50∼<75 75∼250 >250 25(OH)濃度範囲(nmol/L) 一般に健常者が骨と全般的な健康を維持するのに十分であると 考えられている. 最新のエビデンスによると,このような高濃度,特に 150 nmol/L (60 ng/mL)を超えると,有害な影響をもたらす可能性がある. A 健康状態 30 未満 30 ∼ 50 50 以上 125 超 25(OH)濃度範囲(nmol/L) 12 未満 12 ∼ 20 20 以上 50 超 25(OH)濃度範囲(ng/mL) B ビタミン D が欠乏しており,小児ではくる病,成人では骨軟化症 を引き起こす. (欠乏状態) 一般に健常者が骨と全般的な健康を維持するには不足している と考えられている.(不足状態) (文献 10 より作成)

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ン,フェノバルビタール,フェニトイン,プリミドン), コレスチラミン,糖質コルチコイド,イソニアジド,リファ ンピシンにより低値を示す場合がある.  このため,25(OH)D 測定前後の患者指導として,総合 ビタミン薬(ビタミン D 製剤を含む)などの服用の有無を 確認しておくことを推奨される.

25(OH)D 濃度測定の評価

 25(OH)D 測定は,ビタミン D 欠乏症の診断および鑑別 診断には必須である.ビタミン D は,25 水酸化酵素によ り体内で急速に代謝を受け 25(OH)D に変換されるが,そ れ自体は生理活性をほとんどもたない.ビタミン D 自体 は代謝や脂肪組織への移行などにより血中濃度が大きく 変動するため,一般にはあまり測定されない.主にその 代謝物が測定されるが,特に 25(OH)D はその状態を反映 するので,ビタミン D の代わりに測定され,欠乏症など の栄養状態の診断にも用いられる.  通常ビタミン D は DBP と結合して血中を循環し,最 終的には胆汁中に排泄される.このため,肝疾患などに よる胆汁分泌低下や,25 水酸化酵素の活性低下により低 値になることがある.また,ビタミン D は脂溶性のため, 胆汁分泌不良では吸収障害のため低値となる.ビタミン D の作用は血中のカルシウム濃度上昇にあるため,ビタ ミン D 不足により,小児ではくる病,成人では骨軟化症 をきたす.種々のビタミン D 代謝異常症の正しい診断に は 25(OH)D 測定を行わない限りは不可能である. 1.ビタミン D 欠乏症とビタミン D 不足の場合  25(OH)D の測定が体内のビタミン D の充足状態を最も 正確に反映するものとして,近年,その測定の重要性が 世界的に注目を浴びている11).ビタミン D 欠乏症の診断 では,25(OH)D 測定値により行うことが重要であり12) 保険適用の意義は大きい.  ビタミン D 不足は,下肢運動低下などの関連も示唆さ れており,骨折の原因ともなる転倒との関連性も示唆さ れている13).すなわち,25(OH)D のビタミン D 不足によ り荷重骨の骨折率が有意に高く,QOL を低下されること から,ビタミン D を補う必要性も指摘されている.また, ビスホスホネート薬の薬物治療においては単独群に比較 して活性型ビタミン D3薬投与群では(エビデンスがある のはアレンドロネートとアルファカルシドールの併用), 単独群で新規骨折とベースライン時の危険因子との関連 とをみると,椎体骨折では既存椎体骨折数と BMD,非椎 体・荷重骨の骨折では BMD と 25(OH)D が関与し,活性 型ビタミン D3薬併用により有意な改善が認められると報 告されている14)15)  さらに,近年ではビタミン D 不足が,糖尿病,動脈硬化, 感染症,がん,サルコペニア,フレイルなどの種々の疾 患や病態と関連していることも示されている. 2.くる病・骨軟化症の場合  日本小児内分泌学会ビタミン D 診療ガイドライン策定 委員会より「ビタミン D 欠乏性くる病・低カルシウム血 症の診断の手引き」として,すでに 25(OH)D 測定の意義 が公表されている.ビタミン D 欠乏症の判定における 25 (OH)D 濃度については,20 ng/mL:50 nmol/L 以下(15 ng/mL:37.5 nmol/L 以下であればより確実)と報告され ている. 3.高カルシウム血症を呈する場合  天然型ビタミン D の過剰摂取で起こる古典的ビタミン D 中毒症では,25(OH)D 濃度は高値を示す.悪性腫瘍に よる高カルシウム血症の 25(OH)D 濃度は,ほとんど変化 が認められない. 4.骨粗鬆症の場合  米国では,股関節骨折を起こす高齢者のうち,血清 25 (OH)D 濃度が 12 ng/mL:30 nmol/L 未満の人が半数に ものぼっている可能性がある16).また,69 歳以上の女 性を平均 4.5 年間にわたり追跡調査した大規模試験では, ベースライン時の 25(OH)D 濃度が低め(20 ng/mL:50 nmol/L 未満)でも高め(30 ng/mL:75 nmol/L 以上)でも 脆弱化のリスクが増加することが観察されている17)  一方,国内における臨床研究では,25(OH)D 濃度低 値と骨粗鬆症性骨折の関連を示した報告が複数存在する. 大腿骨近位部骨折のために入院した 50 人の平均血清 25 (OH)D 濃度は 17.8 ng/mL であり,対照群の非大腿骨近

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 今後は,わが国においても 25(OH)D 測定は全自動免疫 測定装置を用いた測定法が中心となると思われ,試薬メー カーの違いによる測定キットの測定間是正のためにも標 準化作業の結果が待たれる.

今後の課題

 全自動免疫測定装置による 25(OH)D 濃度測定は,LC-MS/MS 法により測定された 25(OH)D 濃度と有意な相関 を示すものの,25(OH)D2との反応性以外にも健常人と比 較して測定試薬キットによっては妊婦,透析患者,集中 治療患者ではその値に差があることも報告されている8) その違いは,血中の DBP 濃度の違いによるものであり, 今後,25(OH)D の測定結果を解釈する場合,測定方法を 慎重に考慮する必要がある.このため,わが国において も 25(OH)D 測定の標準化が一刻も早く行われることが待 たれる.  ビタミン D 欠乏症はくる病以外にも,骨粗鬆症などの 多因子疾患や現代社会においてはまれではなく,その診 断のための 25(OH)D 測定は重要であり,再認識する必要 がある.また,ビスホスホネート薬の薬物治療においては, 活性型ビタミン D3製剤併用の有用性が確認され,その薬 物治療の適正使用のためにも 25(OH)D 測定は有用であ る.さらに,骨粗鬆症患者では 25(OH)D 濃度測定は,ビ タミン D 不足による骨折・骨密度低下のリスクが高い患 者の選択にも使用できるものと思われる.このため,25 (OH)D 測定については,骨粗鬆症での早期の保険適用の 実現化を目指す必要がある. 文 献

1) Holick MF, Binkley NC, Bischoff-Ferrari HA, et al : Guidelines for preventing and treating vitamin D deficiency and insufficiency revisited. J Clin Endocrinol Metab 97 : 1153-1158, 2012

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位部骨折入院患者 53 人の 25.8 ng/mL より有意に低値で あったことが報告されている18).また,大腿骨近位部骨 折で受診した 225 人の平均 25(OH)D 濃度は 16.3 ng/mL であり,同時期に新規椎体骨折で受診した 64 名の平均 25 (OH)D 濃度 18.1 ng/mL より有意に低値であったとの報 告がある19).さらに,整形外科を受診した未治療閉経後 女性 330 人において 25(OH)D 20 ng/mL 未満群では,20 ng/mL 以上群と比較して有意に既存椎体骨折が多い20) の報告,閉経後日本人女性 202 人を対象とし,既存骨折「あ り」群での平均濃度は 25(OH)D 14.6 ng/mL であり,「な し」群に比して有意に低値であるとの報告21)がある.  これまでの結果からも骨粗鬆症患者での 25(OH)D 濃度 測定は,ビタミン D 不足による骨折・骨密度低下の高リ スク群の検出に臨床的有用性が高いと思われる.成人に おける骨粗鬆症の補助診断(ビタミン D 不足による骨折・ 骨密度低下のリスクが高い患者の選択)として,25(OH)D 濃度測定の意義は大きい.

25(OH)D 測定の標準化

 日本臨床化学会栄養専門委員会および日本ビタミン標 準化協議会などが中心となって血清 25(OH)D 濃度測定の 標準化作業が行われている22).欧米にて治療に使用される ビタミン D2に由来する 25(OH)D2に対する反応性の不足 が報告されたことにより,アメリカ臨床化学会(American Association for Clinical Chemistry:AACC)か ら LC-MS/ MS を基準測定操作法として測定系の標準化が提唱され た.現在,アメリカ国立標準技術研究所(National Insti-tute of Standards and Technology:NIST)で 製 造 さ れ た血清材料をベースとした Standard Reference Material

972(SRM 972)標準品を用いて 25(OH)D2と 25(OH)D3濃 度について LC-MS/MS での値付けが行われている.一 方,標準法とされる質量分析法や一部の免疫測定法にお いて,特に幼児に高濃度で存在するとされる 3-epi-25(OH) D(C-3 epimer of 25-hydroxyvitamin D3 3)への交差反応性 の問題が指摘されている23)24).ビタミン D 栄養の正確な アセスメントには,これらを分別し,特異性および正確 性に優れた測定法を基準測定操作法として制定すること が求められている.

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C-3 epimer of 25-hydroxyvitamin D3 is present in adult

表 1 血中 25(OH)D 濃度の各種測定法(2016 年 9 月現在) CPBA RIA EIA CLIA CLEIA ECLIA LC-MS/MS オリジナル法(LSI メディエンス)Diasorin 25[OH]D125 I RIA

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平成 25 年4月5日、東京電力が地下貯水槽 No.2 の内側のシートと一番外側のシ ートとの間(漏えい検知孔)に溜まっている水について分析を行ったところ、高い塩 素濃度と

(1)乳酸(CH 3

 分析実施の際にバックグラウンド( BG )として既知の Al 板を用 いている。 Al 板には微量の Fe と Cu が含まれている。.  測定で得られる