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注 意 の 瞬 き に 関 す る 基 礎 的 研 究

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(1)

注 意 の 瞬 き に 関 す る 基 礎 的 研 究

佐 藤 基 治 原 口 恵 **

はじめに

同時に複数の課題を遂行することは困難を伴う。それは、注意には容量に制 限があるからだと考えられている。たとえば車の運転をするときは、他の車や バイク、歩行者、信号や標識など、常に周囲に注意を向ける必要がある。それ にもかかわらず、携帯電話を使用しながら車の運転をしているドライバーはい まだに見受けられ、その困難さや危険性についてはあまり認識されていないよ うに思われる。そのような危険性を明らかにすることや、カーナビゲーション システムなどの車載情報機器を開発する際に、有効な情報の提示の仕方につい て研究するのは有益なことである。

心理学あるいは近接の領域でのこれまでの研究によって、空間的な注意の範 囲には限界があることが明らかになっている。さらに近年では、情動と認知が どのように相互作用するかという問題に関心が集まっており、感情を喚起する 刺激を用いた場合は有効視野が狭窄することが明らかにされている(野畑 , 箱

田 , 二瀬 , 2007 )。つまり、外界の情報を上手く利用するためには、視野中心

部でものを見ることが重要であるとされている。ところが、視野の中心に提示

福岡大学人文学部准教授

**

福岡大学人文学部文化学科

(2)

されたとしても、二つ以上の刺激が同時あるいは短時間に提示された場合、そ の同定には困難を伴うことがあり、それを実験的に検証したのが注意の瞬き研 究である。

注意の瞬き(Attentional Blink)とは、高速逐次視覚提示(RSVP)で提 示される妨害刺激の中に埋め込まれた二つのターゲット刺激を同定しようとす るとき、先行ターゲット(T1)の約 500 ミリ秒以内に提示される後続ターゲッ ト( T2 )の検知率が低下する現象のことである。注意の瞬きは Broadbent &

Broadbent (1987)によってその現象が報告されてから、ここ 20 年ほどの研

究によって様々な知見が得られているものの、はっきりとした生起要因やメカ ニズムについて、未だに見解の一致は見られていない。

本論文では、注意の瞬きに関する近年の主要な研究を概観すると共に、注意の 瞬きにおけるマスキングの有効性を、 2 つの実験を通して検討した。

注意の瞬きとそのモデル

高速逐次視覚提示( Rapid Serial Visual Presentation: RSVP )において、

先行提示されるターゲット(T1)に注意を向けると、その 500 ミリ秒以内に 提示される後続ターゲット( T2 )の処理成績が低下するが、 T1 を意識的に無 視すると T2 の成績は低下しない。このように、先行ターゲットの注意処理が 後続ターゲットの処理を困難にする現象を注意の瞬き(Attentional Blink)

という( Raymond, Shapiro, & Arnell, 1992 )。

Broadbent & Broadbent(1987)による現象の報告以降、注意の瞬きは、

さまざまな刺激を用いて調べられ、種々のモデルが提案されているが、完全な

見解の一致は未だ得られていない。例えば、注意の瞬きがどのレベルでの処理

不全なのかという疑問に対して、二つの立場がある。一つは、視覚入力段階で

の処理不全だとする初期選択的な立場で、もう一つは、入力が意識にのぼる手

前での処理不全だとする後期選択的な立場である。最近では、T2 がその後の

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刺激のプライムとして働くことを示した実験 (Shapiro, Driver, Ward, &

Sorensen, 1997; Maki, Couture, et al., 1997 )や、 T2 に対して N400 が生じ ることを報告した実験(Luck, Vogel, & Shapiro, 1996)など、後期選択的な 立場を支持する研究が多い。後期選択的な立場で注意の瞬きを説明するモデル の代表的なものとして2段階モデルがある。

河原(2003)は、代表的な注意の瞬きモデルとして、2 段階モデル、干渉モ デル、停留時間モデル、 PRP モデルの 4 つをあげている。2段階モデル( A two-stage model)は Chun & Potter(1995)によるモデルで、 RSVP 中に 呈示された刺激は 2 つの処理段階を経て意識可能な状態になるとしている。第 1 段階は呈示された刺激の中から必要だと思われる刺激を選択する過程で、非 常に容量が大きく、表象はすぐに失われ、第 2 段階での処理が必要とされてい る。第 2 段階は、選択された刺激を後で報告できる形にする段階である。第 2 段階は容量に制限があり、処理が非常に遅いので、 T1 を処理している間、 T2 は第 1 段階に留まることになり、そうやって留まっている T2 は、後続の刺激 に置き換えられたり、減衰したりする。干渉モデル( the interference model ) は Shapiro et al. (1994)による 3 段階構成のモデルである。呈示された視覚 刺激の知覚表象を生み出す並列的な段階、作られた表象とターゲットに関する 内的な鋳型とが照合される段階、視覚短期記憶の段階から構成される。ここで は視覚短期記憶での検索の容易さが検知率の高さとなるが、その容易さはター ゲットの表象とターゲットに関する鋳型との一致度によって決定される。 2 つ のターゲットを検出しようとするとき、ターゲットに関する鋳型が設定される。

T1 は鋳型と一致する刺激であるため、問題なく重み付けがなされるが、その とき、直後に現れる後続の妨害刺激にも重み付けがなされてしまう。そのため、

T2 に割り当てる容量が不足してしまい、T2 への重み付けがなされず、T2 よ

り大きい重み付けがなされた他の妨害刺激によって、視覚短期記憶からの検索

が 干 渉 さ れ て し ま う 。 停 留 時 間 モ デ ル (the attentional dwell-time

(4)

hypothesis)は、Duncan et al. (1997)によるモデルであり、注意が T1 の処 理のために停留している期間が注意の瞬きに反映されているという立場である が、Enns et al. (2001)の研究により、このモデルは否定されている。心理学 的不応期モデル(PRP model)は、Jolicoeur et al.(1999)によるモデルで あり、ターゲットの処理は、感覚符号化→知覚符号化→短期固定化→反応選択

→反応実行という流れで実施され、短期固定化と反応選択は中枢処理が必要で

あり、 T2 の固定化は T1 の中枢処理がなされている間は開始できず、 T2 は時 間とともに減衰するとするものである。

注意の瞬きと情動

伊丸岡ら(2006)は情動的刺激が注意に影響することは多様な実験パラダイ ムを用いた研究で確かめられているが、その影響の時間的な変化は未だ明らか にされていない部分が多いとしている。 Anderson & Phelps ( 2001 )は扁桃体 損傷患者には恐怖刺激による注意の瞬きの減少が見られないと報告している。

Trippe et al. ( 2007 )は、クモ恐怖症の患者と健常者を被験者とし、 T1 刺激

にニュートラル画像、T2 刺激にニュートラル、情動的(ネガティブ、ポジティ

ブ)、あるいは脅威的(クモ恐怖症患者へのクモ)な画像を使用し、 SOA144

ミリ秒で妨害刺激とターゲット刺激を提示する実験を行った。T2 は常に T1

の 2 つあと、すなわち lag2 で提示され、SOA は、一般的な注意の瞬きがもっ

とも起こりやすく、感情的な刺激による影響ももっとも大きいとされている時

間間隔に近い 288 ミリ秒であった。刺激提示後、被験者はターゲットがどのよ

うな画像であったかを口頭で報告した。結果は、どちらの群もニュートラルな

T2 よりも情動的な T2 の方が高い検知率を示し、クモ恐怖症患者の群は T2 が

クモの写真であるときに統制群と比較して検知率が高いこと、事象関連電位の

P300 がクモ恐怖症患者の群でより大きいことを明らかにした。

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単語を用いた実験

注意の瞬き課題において、情動を喚起するような刺激を用いた場合、その刺 激により多くの注意が向くという報告がなされていることは先に述べたが、

Arend & Botella (2002)は、注意の瞬き課題において、刺激の意味的な影響 と被験者の不安特性の影響とを明らかにすることを目的として、単語を用いた 実験を行っている。彼らは STAI-T を使用して不安特性が高い群と低い群に 被験者を分類し、さらに実験後に MAS を使用して、割り当てが正しかったか どうかを確認した。実験は呈示時間 83 ミリ秒、ISI33 ミリ秒の系列が、T1 だ けは白色で、他の刺激は黒色で、灰色の背景に提示されるものであった。実験 変数は lag ( 1 、 2 、 3 、 4 )と T1 のカテゴリ(情動的、中性的)であり、被験 者の課題は刺激提示後の T1 と T2 の再認であった。実験の結果は、不安特性 の高い被験者は、 T1 に情動的な刺激を出した場合、中性的な刺激を出したと きに比べて、 T2 の検知率が有意に高いということであった。すなわち注意の 瞬きが小さくなったということと、T1 に情動的な刺激が提示されると処理が 速くなり、 その後に出現した T2 も処理できるということと考察された。

Kihara & Osaka(2008)の実験では、ネガティブな T1 の直後に出現した T2 の検知率は低くなり、結論は、ネガティブな T1 に注意が向けられて、直後の T2 処理に出遅れてしまうからだというものであった。この Arend らの、情動 的な T1 は処理が速いので T2 の成績も上がるという結論と、木原らの結論と は矛盾するものだといえるが、 Arend らの結論は不安特性の高い被験者に限っ たものであるので、条件を統制した上での比較を行う必要があると思われる。

漢字刺激を用いた実験

漢字を用いた注意の瞬き実験も行われている。例えば、T1、T2 にネガティ

ブな漢字刺激を用いた場合( Ogawa & Suzuki, 2004; Kihara & Osaka, 2008 ) 、

T1 にネガティブな刺激を用いると T2 の処理成績が低下し、T2 にネガティブ

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な刺激を用いると T2 の処理成績が向上することが報告されている。Ogawa &

Suzuki は漢字 1 字を刺激として用いた実験を行った。 T1 にはニュートラル刺

激、T2 にはネガティブ、ポジティブ、ニュートラル刺激のいずれか、妨害刺 激にはニュートラル刺激を提示時間 70 ミリ秒、ISI20 ミリ秒で提示し、実験 変数は T1 報告の有無、 lag ( 1 、 3 、 5 、 7 )、 T2 のカテゴリ(ネガティブ、ポ ジティブ、ニュートラル)であった。その結果、lag3(挿入された妨害刺激 2 単語)において、ネガティブなターゲットの検知率が他の 2 つの条件と比べて 有意に高くなり、ネガティブな刺激は他の刺激を抑制して処理されると解釈さ れている。彼らは T2 として各カテゴリに漢字を1つずつ使用していたため、

第 2 実験として妨害刺激にネガティブ刺激を使用した実験を行い、その結果は、

T2 の条件による注意の瞬きの大きさに差は無かった。ゆえに、ネガティブ条 件での lag3 の T2 検知率が低下するものであり、第 1 実験の結果は T2 の視覚 的特徴によるものではないと考察している。

Kihara & Osaka は、漢字二字熟語を用いた実験をおこない、ネガティビティ バイアスを生じさせるには注意資源が必要だと結論している。第1実験は被験 者の半数をネガティブ条件、半数をポジティブ条件に割り振り、注意の瞬きに おけるネガティビティバイアスを検討することを目的とした。実験は T1 にニュー トラル刺激、T2 にネガティブもしくはポジティブ刺激、妨害刺激にニュート ラル刺激を使用し、呈示時間 80 ミリ秒、ISI 20 ミリ秒で T1 の前に 8~12 語、

T2 の後に T2 を含めて 8 語が出現する系列を刺激とした。実験変数は、 T1 報 告の有無、lag(1、3、7)、および、T2 の感情価(高、低、ニュートラル)で あった。ネガティブ条件群は高ネガティブ 5 語、低ネガティブ 5 語、ニュート ラル 5 語、ポジティブ条件群は高ポジティブ 5 語、低ポジティブ 5 語、ニュー トラル 5 語を提示された。結果はネガティブ条件群では、lag1 と lag3 におい て T1 報告の有無による検知率に差がみられ、 T1 の報告を求めた群において、

lag1 での T2 感情価による検知率に差がみられた。一方、ポジティブ条件群で

(7)

は、lag1 と lag3 における T1 報告の有無による検知率にのみ差がみられた。

この結果から、 lag1 でネガティブな T2 の検知率が上がったのはネガティビティ バイアスが生じたためであること、感情価の高低の差は僅かなものでしかない ことなどが明らかにされた。さらに、注意の瞬きにおけるネガティビティバイ アスが注意資源を必要とするのかを明らかにすることを目的として、ネガティ ブな T1 に注意が向けばニュートラルな T2 を見落とすはずであるという仮説 のもとに、第 2 実験が行われた。第 1 実験と異なるのは、 T1 にニュートラル、

高ネガティブ、低ネガティブ刺激を、T2 には T1 とは異なるニュートラル刺 激を使用した点である。結果は、 lag1 と lag3 において T1 報告の有無による T2 検知率に差がみられ、 T1 の報告を求めた群において、 lag1 では T1 がネガ ティブのときはニュートラルのときより T2 検知率が低く、lag3 では感情価に よる T2 検知率の差は見られなかった。これらの結果から、ネガティブ語を見 つけると注意がひきつけられるが、およそ 300 ミリ秒( lag3 )以上では感情価 による検知率の差がみられなかったので、300 ミリ秒以上では注意が解放され ていると考察している。さらに、第 3 実験では、 T1 と T2 の両方にネガティ ブ刺激を用いることによって、ネガティビティバイアスが注意資源を必要とす るか否かを検討している。これまでの実験と異なる点は、 T1 と T2 がともに ネガティブ、もしくは T1 と T2 がともにニュートラルの刺激を使用した点で ある。結果は、lag1、lag3 での 2 つの感情価での検知率に差が見られた。こ のことから、ネガティブ条件のときの lag1 の T2 検知率はニュートラルに比 べて低く、ネガティブな T1 が固定されるときに注意をひきつけ、後続する T2 の処理が妨害されると考察している。最後に各実験でのネガティブ条件 - ニュー トラル条件毎のネガティビティバイアスの大きさを求めると、 lag1 における 実験間の主効果があり、第 1 実験と、その他の実験での差が見られた。これは、

T1 がニュートラルのときだけ、 lag1 におけるネガティブな T2 の固定の強化

があることを示唆している。結論として、Kihara & Osaka は lag3 における

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ネガティブな T2 の優先的な処理はネガティブな T1 によって完全に無効化す ることはなく、それゆえに、意識に上る前のネガティブな刺激は意識的な探索 のために、注意資源を必要としていると述べている。

刺激の覚醒度による注意の瞬きへの影響

Keil & Ihssen(2004)は、刺激の覚醒度による検知率の差異を取り扱った 実験を行っている。第 1 実験は刺激として、快、不快、中性のドイツ語単語を 用い、T2 のカテゴリ(快、不快、中性語)、lag(2、4、6)を変数として実験 を行った。結果は、 lag2 では快および不快な T2 の検知率が中性的な T2 と比 べて高く、 lag4 、 lag6 のときはそのような違いは見られなかった。覚醒度は 中性語に比べて快、不快語が高かった。このことから、刺激の感情価と覚醒度、

またターゲットと妨害刺激の意味的な関係が原因として考えられた。第 2 実験 では、この結果が感情価によるものなのか、覚醒度によるものなのかを明らか にするために、覚醒度を統制した刺激が用いられた。というのも、刺激の覚醒 度に関わりなく、快刺激は同定の精度が高くなる報告( Pizzagalli, Regard, &

Lehmann, 1999)があるため、覚醒度が低くても、第 1 実験と同じような結

果が出るはずであるが、もし検知率が覚醒度に依存するならば、感情価による 違いは見られないはずである。覚醒度は同一で感情価の異なる単語が刺激とし て使用され、妨害刺激には中性語、ターゲットの T1 は中性語、T2 は快、不 快、中性の 3 水準の単語が使用された。結果は lag での主効果が見られ、 lag2 のときに最も検知率が低く、感情価による主効果もみられた。また、第 1 実験 とは異なり、すべての lag で快刺激のときに最も検知率が高かった。一方、中 性語と不快語には差がなかった。つまり、覚醒度が統制されているときは、快 刺激の検知率が高いことを示している。第 3 実験は、刺激間の意味的な関連性 による影響を検討している。第 1 実験の結果は、快刺激と不快刺激の T2 は、

よりまとまりのあるカテゴリに属するものとして知覚され、中性的な T1 や妨

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害刺激から区別しやすく、一方、中性的な T2 は、T1 や妨害刺激とは区別し にくいことを示唆している。第 3 実験は、 T2 が快、不快、中性語のときに、

それらの意味に基づいて容易に区別できるような課題を設定した。刺激は、

T2 は意味的にまとまりのあるカテゴリのものを使い、T1 や妨害刺激は同じ意 味カテゴリのものではなかった。 T2 の快刺激は内的欲求の行動 (例: to dance, to caress, to party)であり感情価が最も高く、不快刺激は攻撃的な行 動(例: to marder, to beat, to slaughter )であり覚醒度が最も高く、中性 刺激は道具を使う行動(to paint, to screw, to stamp)であり覚醒度も感情 価も様々であった。 T1 と妨害刺激は中性語で、 T2 で用いたような、道具を使 う行動の単語は除外されていた。結果はカテゴリでの主効果と、 lag とカテゴ リの交互作用を示し、lag2、lag4 のときの不快な T2 が他のカテゴリの刺激よ りも検知率が高かった。ゆえに注意の瞬きの変動は、個人の防御特性や欲求特 性に関わらず、刺激の覚醒度が関係すると考えられた。3つの実験を比較する と、T2 の覚醒度が最も低い第 2 実験のとき、T1 の検知率が最も低く、T2 の 検知率では、実験とカテゴリの交互作用が見られた。また、全ての実験で、

lag とカテゴリの交互作用が見られ、lag2 のときに、中性刺激よりも快、不快

刺激のほうが高い検知率を示した。一連の実験の結果は短時間で連続的に提示

される情動的-感情的なものは中性的なものと比べて優先的に選択されると考

察され、lag4 と lag6 で覚醒度よりも感情価の影響が見られたことから、比較

的大きい lag では、刺激選択において快刺激に対する敏感さが反映されている

と考えられた。彼らは、より細かな時間分解度で、感情による注意の瞬きの変

動、すなわち、覚醒度基準から感情価基準への移行の時間経過を調査すること

が必要であるとしている。この結果を 2 段階モデルから考えると、覚醒度は第

1 段階での刺激の選択をよりすばやく行わせ、第 2 段階へより容易に送ること

を促すと結論している。

(10)

マスキング

これまでに、注意の瞬きに関する様々な知見について言及してきたが、特筆 すべきは、ターゲットがマスキングされていると注意の瞬きが起こりやすいと いうことである。なぜならば、T1 の処理が困難になるほど注意の瞬きが起こ りやすいといわれているからであり、注意の瞬きに効果的なマスクの特性や提 示方法などを明らかにするのは重要なことである。これまで様々な研究が行わ れてきたが、マスク提示のタイミングやマスクのパターンなど、注意の瞬きを 生起させるような、また、注意の瞬きを変動させるようなマスクの特性につい ては、未だに意見の一致は得られていないが、河原によると、 T1 はマスキン グされている必要があるということが明らかになっており、また、 T1 のマス キングはどんなものでも有効であるということも言及されている。一方、T2 のマスキングに関しては、その必要性は明らかにされていないが、 Di Lollo et al. ( 2000 )が提唱したオブジェクト置き換え仮説によると、 T2 の表象を置き 換えるマスクが必要だとされている。

大山ら( 1994 )によると、マスキングは主に 2 つの原理で説明されるとして いる。一つはマスクが時間的、位置的にオーバーラップし、ターゲットの処理 を初期の段階で妨害する統合マスキングであり、もう一つはマスク刺激が先行 刺激の情報処理を後期の段階で中断する中断マスキングである。また、Marti

et al. (2006)によると、統合マスキングのときには注意の瞬きは生起せず、

中断マスキングのときには生起するといわれている。

また、大山らによると、比較的短時間(100ミリ秒前後)の SOA ではター ゲットとマスクの表象の統合が生じ、複合像が知覚されるといわれている。つ まり注意の瞬きで生じるマスキングは全て統合マスキングだと考えられ、

Marti et al. の見解も含めて考えると、これまでの注意の瞬き研究におけるマ

スクの効果と矛盾する。しかしながら、メタコントラストマスキングのように、

マスクがターゲットに重ならない場合、課題の困難度は変わるものの、初期的

(11)

な妨害としてはパターンやノイズによるマスキングと比べてさほど影響を及ぼ すことはないと考えられる。ここでは、注意の瞬きにおけるメタコントラスト マスキングの有効性を、2 つの実験を通して検討した。

第1実験

【目的】

注意の瞬きが生じるには、 T1 が妨害刺激によってマスキングされている必 要があると考えられている。また、マスクの特徴や提示方法によって T1 処理 の困難度が変わると、注意の瞬きの大きさも変わるといわれている。しかし一 方で、 T1 処理の困難度は注意の瞬きの大きさに影響しないという意見もある。

Marti et al.は、マスクの出現のタイミングや位置による注意の瞬きの大きさ の違いを検討し、同時オンセットマスキング条件でもメタコントラストマスキ ングは有効であると示した。彼らの実験では、二つの刺激が同時に提示され、

先にターゲットが消失し、妨害刺激が残るとき、その提示時間が長いほどター ゲットの検知率が下がるという結論を得ている。これは 2 段階モデルから発展 した、オブジェクト置き換え仮説に基づいている。オブジェクト置き換え仮説 では、ターゲットに注意が向けられていないときに、後から来たマスクによっ てその表象が置き換えられてしまうため、マスキングが起こると考えられてい る。Di Lollo et al. はこの仮説によって注意の瞬きも説明できると述べている。

つまり、 T1 に注意を向けることで T2 へ注意が向けられなくなるため、 T2 の 表象が後から来るマスクによって置き換えられてしまうということである。

Marti et al. によると、置き換えるマスクの提示時間が長くなるにつれて、 T2

の表象が失われ、マスクの表象と置き換わりやすくなり、また、置き換わるマ スクの種類によって注意の瞬きの大きさも変わると述べている。

しかし、この仮説はターゲットに注意が向けられていないことを前提にして

いる。ターゲットと妨害刺激が同時に提示され、なおかつターゲットに注意が

(12)

向けられている状況であれば、そのときに出現するターゲットにのみ注意を向 けるだけでよく、その後単独で提示されている妨害刺激に注意を向ける必要は ない。ゆえに、彼らの実験には妨害刺激の提示時間以外にターゲットの検知の 困難度に影響するような要因があったのではないかと考えた。そこで、彼らが 通常の照明の下で実験を行ったことに着目し、他に注意を向けることのない暗 室条件であっても同じような結果が得られるかどうかを検証した。

【方法】

刺激 ターゲットは白い直線の正方形(1辺の長さ:23mm、幅:1mm)で、

1 つあるいは 2 つの切れ目が入っていた。マスクは白い点線の正方形( 1 辺の 長さ: 19mm 、幅: 2mm )であった。

被験者 正常な視力、あるいは矯正視力をもつ大学生 8 名 (男性 4 名、女性 4 名)

実験装置 パーソナルコンピュータ NEC MY28V/L-E 、 CRT ディスプレイ MITSUBISHI RDF223H、心理学実験用ソフト E-PRIME

手続き 被験者は観察距離 57cm の位置に顎台によって頭を固定され、課題を 行った。背景を黒に設定した 22 インチ CRT ディスプレイの中央に白い+の

凝視点を 1000ms 提示した後に、ターゲットとマスクを提示した(図 1 )。ター

ゲットの提示時間は 94ms であった。マスクはターゲットと同時に提示され、

ターゲットが消えてからのマスク単独提示時間が 4 パターン (0ms, 59ms,

94ms, 188ms )あった。被験者は刺激を観察した後に、ターゲットの切れ目の

数が 1 つであったか 2 つであったかをキーボードのテンキーの 1 もしくは 2 の キーを押すことで反応することを求められた。本試行の前に練習試行を 24 試 行行った。本試行は、マスク単独提示時間条件でそれぞれ 60 試行ずつあり、

全 240 試行であった。これらの試行は全てランダムな順序で行われた。

(13)

【結果と考察】

ターゲット消失後のマスク単独提示時間 を要因とした 1 要因分散分析を行った。そ の結果を図 2 に示す。マスク単独提示時間 による主効果に有意な差は見られなかった

(F(3, 21)=.066, ns.)。

マスク単独提示時間が変わっても、課題 の成績に差は見られなかった。このことか ら、マスク単独提示時間によるマスキング

効果の変動は起こらないと考えられる。 Marti et al. の実験ではマスク単独提 示時間による影響があることが示されていたが、この実験ではそれとは異なる 結果となった。 Marti et al. の実験では通常の照明の下で実験を行ったのに対 して、本実験では照明のない暗室条件で行ったことから、注意をある程度分散 させた場合と、集中させた場合とで困難度に違いが出たと考えられる。

第2実験

【目的】

前述したように、注意の瞬きが生起する要因の一つとして、 T1 へのマスキ ングが必須とされている。ところが、T2 へのマスキングに関しては明確な結

図1:刺激の提示方法

図2:第 1 実験結果(a)と Marti et al の結果(b)

(14)

論が得られていないように思われる。そこで、第二実験として、T2 のマスキ ングによる注意の瞬き課題への影響を Marti et al. の実験の追試を行うことで 再検討した。

【方法】

刺激 第 1 実験と同様

被験者 正常な視力、あるいは矯正視力をもつ大学生 10 名(男性 5 名、女性 5 名)

実験装置 第 1 実験と同様

手続き 手続きは第 1 実験とほぼ同様であるが、本実験はターゲットとマスク が 2 回ずつ出現した。先行するターゲットとマスクを T1 及び M1 、後続する ターゲットとマスクを T2 及び M2 とする。ターゲットとマスクの提示条件は、

T2 (提示時間: 94ms )と M2 (提示時間: 224ms )が同時に出現する同時オ ンセットマスキング条件と、 T2 が消えた 35ms 後に M2 (提示時間: 94ms ) が提示される遅延オンセットマスキング条件の 2 つであった。T1 と M1 は常 に遅延オンセットマスキングであった。また、 T1 、 T2 間の時間間隔が 309ms

と 757ms 条件の 2 つであった。課題は第 1 実験と同様だが、本実験はターゲッ

トとマスクが 2 回出現するため、被験者にはそれぞれのターゲットについて反 応するよう求めた。本試行の前に練習試行を 24 試行行った。本試行は同時オ ンセットマスキング条件と遅延オンセットマスキング条件ごとに T1 と T2 の 時間間隔条件( 309ms 、 757ms )でそれぞれ 120 試行あり、全 480 試行を行っ た。これらの試行は全てランダムな順序で行われた。

【結果と考察】

T1 が正答だった場合の T2 の正答率を算出し、マスキング条件(同時オン セットマスキング、遅延オンセットマスキング)及び T1 と T2 の時間間隔条

件( 309ms 、 757ms )を要因とした 2 要因分散分析を行った。その結果を図 3

に示す。T1 と T2 の時間間隔の主効果(F(1,9) =16.110, p=.003)とマスク

(15)

の主効果(F(1,9)=16.059, p=.003)及びマスクと T1 と T2 の時間間隔の交 互作用( F ( 1,9 ) =8.451, p=.017 )が有意であった。また、交互作用に基づい て単純主効果の検定を行ったところ、同時オンセットマスキング条件でも遅延 オンセットマスキング条件でも、T1 と T2 の時間間隔が 309ms 条件の方が 757ms 条件よりも T2 の検知率が有意に低かった( p=.045; p=.002 )。さらに、

757ms 条件において、同時オンセットマスキング条件は遅延オンセットマス

キング条件よりも T2 の検知率が有意に低かった( p<.001 ) 。

単純主効果の検定の結果、いずれのマスキング条件でも二つの時間間隔条件 による検知率の差が見られたことから、 T2 が同時オンセットマスキングでも 遅延オンセットマスキングでも注意の瞬きは起こるといえる。 757ms 条件で 同時オンセットマスキング条件の方が遅延オンセットマスキング条件よりも T2 の検知率が有意に低かったことから、同時オンセットマスキングの方が強 いマスクとして機能するということがいえる。これらの点は Marti et al. の 見解と一致するものであった。

まとめ

本実験の結果、注意をある程度分散させた場合と、集中させた場合とでター ゲット検知の困難度に違いがあることと、注意の瞬きを変動させる T2 へのマ スキングは、遅延オンセットマスキングの方が同時オンセットマスキングと比

図 3:第 2 実験結果(a)と Marti et al の結果(b)

Percent correct T2|T1 Percent correct T2|T1

Inter-target lag (ms) Inter-target lag (ms)

100 100

90 80 70 60 50 90

80 70 60 50

309 757

CO DO

CO DO

309 757

(b)

(Marti et al.(2006)䉋䉍)

(a)

(16)

較して、より有効であるということが明らかになった。

最近では情動が注意の瞬きに及ぼす影響についての様々な実験が行われてい る。たとえば、Arend & Botella による、被験者の特性不安の違いが注意の瞬 きの大きさに影響を及ぼすことを検討した実験や、Most et al. (2005)による 犯罪の現場写真といった、情動を喚起させる刺激をターゲットとして使用した 場合の注意の瞬きへの影響を検討した実験などがある。特に最近では絵画や写 真だけでなく、感情価や覚醒度の高い単語を用いた実験が行われている( Keil

& Ihssen)。たとえば、Ogawa & Suzuki は、感情価の異なる漢字を刺激とし て用いた実験を行っているし、 Kihara & Osaka は感情価の異なる漢字二字熟 語を用いた注意の瞬き実験を行っている。これらの基礎的な研究を踏まえ、今 後はより日常的なシーンでの注意の瞬き実験を行う予定である。

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