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学生の感情を表す語彙と情動スキルの変化

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Academic year: 2021

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学生の感情を表す語彙と情動スキルの変化

小玉 有子 1 )、齋藤三千政 1 )、戸来 睦雄 2 )

要   旨

現代の若者を取り巻く急激な環境の変化と、若者言葉の増加を踏まえて、本研究では、「感情・気分・

情動を表す語彙」の変化と「情動スキルに関する自己評価」の経年比較から、学生の特徴や課題を明 らかにすることを目的とした。A 県・B 県の大学 3 校の 2011 年・2012 年・2013 年度入学生を対象に、

情動に関する質問紙調査を行い、結果を分析した。感情・気分・情動を表す語彙数は、2011 年から 2012 年にかけて急激に増加しているが、省略された語彙や本来の意味とは違う語彙、多世代に共通認 識されない語彙が多く、「 1 人のみが表出した語彙」が年々増加していた。社会人による語彙の評価は、

2011年の語彙の評価が最も高く、また、辞書に基づく評価でも、2011年が他の群に比べて評価が高かっ た。一方、情動スキルに関する自己評価は、 3 群間で差が無かった。語彙は 2011 年から 2013 年にかけ て大きく変化したが、多くの学生が、自分の情動スキルに不安を感じていないことがわかる。

今回の調査期間が、スマートフォンの普及、LINE・SNS の利用者が急増した期間と一致しているこ とから、学生の語彙の変化には、このことが少なからず影響を与えていると思われる。また、学生の 日常のコミュニケーションスタイルは、今後も SNS・LINE の利用がさらに増加することが予想され、

対面コミュニケーションを苦手とする学生の増加が危惧される。学生の情動に関する能力 ・ スキルの向 上のためのプログラムを構築することが急務であると考える。

キーワード:感情を表す語彙、情動スキル、若者言葉、SNS

Ⅰ 緒言

感情は、生後 3 ヶ月頃には「興奮」から「快」と「不 快」に分かれ、発達するに従って分化が進むと考えられ ている。ブリッジスの情緒分化説では、 5 歳で「快」は 6 つに、「不快」は 9 つの感情に分化することになる。

また、プルチックの感情立体モデルから考えると、 8 つ の基本感情は人生の初期にすでに存在し、発達するにつ れて混合感情もしくは複合感情という複雑な感情が意識 されることになる。私たちは、自分あるいは相手が経験 している感情を理解し、言語的なラベルを貼る。さらに 感情状態を会話やメールなどで相手に伝えたり日記など に記録したりするためには、言語による表現が必要であ る。こうした感情経験の言語表現は、感情に関する知識 にささえられている1 )。しかし、青年期になっても、経 験している感情が言語的にどう命名されているのかを識 別できないと、たとえその感情を経験しても、体系だっ

1 )弘前医療福祉大学保健学部(〒 036-8102 青森県弘前市小比内 3-18-1)

2 )弘前医療福祉大学短期大学部 

た記憶としては残らない。活字離れをし、文学書が読ま れなくなり、映像やコミックばかりに親しんでいる現代 人とくに青少年たちは、感情や気分、あるいは人の気持 ちのデリケートな違いを、言語的に識別できるほど豊富 な語彙を持ち合わせない2 )

ここ数年、毎年「むなしい」「せつない」「やるせない」

の違いを学生に問うが、明確な答えが返ってくることは なく、感情の機微を表現する語彙を知らない学生が増え ていると感じる。また「やばい」「うざい」等本来の意 味とは異なる言葉が、日常的に使われていたり、簡略化 された表現が増えたり、表現された言葉の裏側に隠され た感情を読み取ることができなかったり、若者の感情表 現や情動の読み取り能力の低下が懸念される。若者言葉 は乱れているという認識は、いつの時代でも問題にされ る事項の一つであるが、文化庁が行っている「国語に関 する世論調査」の近年の結果を見ても3 )、国民の多くが、

若者言葉は日本語の乱れであるという認識を持っている

〔原  著〕

弘前医療福祉大学紀要 7(1), 25 − 32, 2016

(2)

ことがわかる。厚生労働省では、平成 19 年に医政局看 護課が看護学生のコミュニケーション能力の不足も指摘 し、教育課程においてもコミュニケーションに関する教 育内容の強化を指示している4 )。また、文部科学省は平 成 22 年「コミュニケーション教育推進会議」を発足さ せた。

現代の若者を取り巻く環境は、ソーシャルネットワー キングサービス(以下 SNS と記す)を含め、大きく変 化してきた。その影響を受け、若者の言葉は急速に変化 し、それに伴い情動スキルの自己評価の低下も起きてい るのではないかと予想された。

そこで、本研究では、 3 年間にわたって、学生の「感 情・気分・情動を表す語彙」の変化と「情動スキルに関 する自己評価」のデータを収集し、経年比較から、その 特徴や課題を明らかにすることを目的とした。

Ⅱ 研究方法 1  対象

A 県および B 県の医療 ・ 福祉系大学および短期大学 3 校に在籍する2011年度入学生189名(以下2011年と記す)、 

2012 年度入学生 260 名(以下 2012 年と記す)、2013 年度 入学生209名(以下2013年と記す)を対象とした。

2  調査期間

1 )2011年度入学生対象 2011年 6 月 1 日〜 6 月30日 2 )2012年度入学生対象 2012年 6 月 1 日〜 6 月30日 3 )2013年度入学生対象 2013年 6 月 1 日〜 6 月30日

3  調査方法

各年度、調査対象の学生には、共同研究者が大学別に 研究の趣旨および倫理的配慮について、口頭および文書 で説明し、協力を依頼した。研究協力を承諾した学生に 対し、筆者らが作成した無記名の選択肢式および自由記 述式併用の自記式質問紙を直接配付した。学生はその場 で記入し、記入もれがないか確認後に、回収箱にて回収 した。

4  調査内容 1 )  属性

  専攻と年齢。

2 )  情動に関するスキルの自己評価

  評定尺度は、豊田ら(2007)が作成した情動知能 尺 度 高 校 生 用 J-ESCQ(Japanese  Version  of  Emotional Skills & Conpetence Questionnaire)5 ) の 3 因子の内、因子負荷量の高い 5 項目ずつ計15 項目について、 5 件法による回答を求めた。項目

の内訳は、〈情動の表現と命名〉 5 項目(1.  4.  7. 

10. 13)、〈情動の理解と認識〉 5 項目(2. 5. 8. 11. 

14)、〈情動の抑制と調節〉 5 項目(3. 6. 9. 12. 15)

である。(後に、小中学生を対象に山田ら(2012)

が実施した情動スキルに関する調査結果6 )と、

高校生・大学生の情動スキルに関する調査結果を 比較検討するために、同じものを使用した。)

3 )  感情・気分・情動を表す語彙の調査

  感情・気分・情動を表す語彙を、喜怒哀楽別に、

普段使用している言葉も含めて、思いつく限りの 言葉「表出語彙」を記入してもらった。データは

〈一人当たりの表出語彙数〉〈表出した人数別語彙 数〉〈語彙の評価〉で整理した。

  語彙の評価は、二通りの方法で評価した。一つ は、社会人の語彙の認知度を評価するため、無作 為抽出した 30 歳・40 歳・50 歳・60 歳・70 歳代の 社会人 5 名に依頼して、2011 年・2012 年・2013 年が表出した全ての語彙を、 1 人ずつ評価しても らった。評価方法は、その語彙が、指定された感 情・気分・情動を表していると思われるものは 1 、 思わないものは 0 とし、 5 人の総点をその語彙の 評価点数とした。判断は各人に任せたが、年度に よって評価の違いがないように留意してもらった。

  もう一つの方法は、辞書に記載されている既知語 であるかないかで、広辞苑(五版)、明鏡国語辞 典の両方にあるいは一方に記載されていて、その 辞書で説明されている意味や用例と、ほぼ同じよ うに使用されている語彙を 1 、辞典に記載されて いない、または明らかな誤用や感情表現として不 適当と思われる場合を 0 とした。なお、辞典は、

学生の使用頻度が高い電子辞書(カシオ)に記載 されたものを使用した。評価は、研究対象とは無 関係な心理系大学院生 3 名のグループ(平均年齢 23歳)と、日本語表現法を担当する共同研究者(60 歳台)がそれぞれ行い、双方の評価結果を総合的 に判断したうえで決定した。総合的に見ても判断 が難しい語彙は 0 とした。

5  分析方法

分析には、Excel2013を使用した。

1 )  情動スキルに関する自己評価の比較は、f検定実 施後、スチューデントのt検定を行った。

2 )  喜怒哀楽を表す一人当たりの表出語彙数の経年比 較は、f検定実施後、2011 年− 2012 年、2011 年

− 2013 年、2012 年− 2013 年でスチューデントの t検定を行った。

3 )  2011 年 ・2012 年 ・2013 年の「 1 人のみが表出した

(3)

語彙」が全体に占める割合の経年比較は、f検定 実施後、 2検定を行った。

4 )  社会人による語彙評価の比較は、f検定実施後、

2011 年 − 2012 年、2011 年 − 2013 年、2012 年 − 2013年でスチューデントのt検定を行った。

5 )  辞書に基づく語彙評価の比較は、f検定実施後、

2011 年 − 2012 年、2011 年 − 2013 年、2012 年 − 2013年でスチューデントのt検定を行った。

6  倫理的配慮

対象者に、口頭および文書で、研究目的、調査協力の 任意性、不利益の有無、個人情報やデータの管理方法等 を説明し、同意が得られた学生にのみ、質問紙の記入を お願いした。本研究は、弘前医療福祉大学研究倫理委員 会の承認を得て実施した。

Ⅲ 結果 1  対象の属性

学生の専攻内訳、性別、年齢構成は、表 1 に示す。

2  情動スキルに関する自己評価

情動に関するスキルの自己評価では、2011年、2012年、

2013 年の 3 群間に有意な差は認められなかった。 3 群す べてにおいて、15項目中14項目が平均3.00以上であった。

最も得点の高かった項目は、「 6   誰かに誉められると、

もっと熱心に頑張ろうとする」で、 3 群とも平均 4.00 を 上回っていた。 3 群とも平均 3.00 に達しなかった 1 項目 は、「 4   自分の気持ちを、上手に言葉で説明することが できる」であった(表 2 )。

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表1 対象者の属性

表2 情動スキルに関する自己評価の比較

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(4)

3  喜怒哀楽を表す語彙数

学生が表出した喜怒哀楽を表す語彙数は、表 3 に示す とおりで、 1 人あたりが知っている平均語彙数は、2012 年が最も多くなっている。2011 年、2012 年、2013 年の 3 群間の検定を行ったところ、2011年と2012年では〈喜〉

〈怒〉〈哀〉〈楽〉全ての項目で有意差が見られた。2011年 と2013年では、〈喜〉〈哀〉〈楽〉で有意差があった。2012 年と2013年には差がなかった。

4  表出した人数別の語彙数

表出された語彙を、年度ごとに、「 1 人のみが表出し た語彙」「 2 人が表出した語彙」「 3 人が表出した語彙」「 4 人以上が表出した語彙」に分けて割合は比べた(表 4 )。

「 1 人のみが記した語彙」の割合は、〈喜〉では、2011 年 60.3%、2012 年 69.7%、2013 年 74.1%と、年々増加して いた。同様に〈怒〉では、2011 年 59.8%、2012 年 68.4%、

2013 年 73.4%、〈哀〉では、2011年 59.6%、2012 年 70.0%、

2013 年 74.9%、〈楽〉では、2011 年 58.1%、2012 年 76.0%、

2013 年 78.8%と増加傾向が見られた。そこで、 3 群間の

「 1 人のみが表出した語彙」と「 2 人以上が表出した語彙」

の割合を比較したところ、〈喜〉では差が認められなかっ たが、2011年の〈怒〉〈哀〉〈楽〉において、「 1 人のみが 表出した語彙」の割合が有意に少ないことがわかった

(表 5 )。「 1 人のみが表出した語彙」には、〈喜〉では「て へぺろ」「どどん波」、〈怒〉では「ぷんぷん丸」「ねえわ」、

〈哀〉では「ズドーン」「だるい」〈楽〉では「まじヤベエ」

「ペロペロ」等、若者言葉、オノマトペ言葉、意味不明 な言葉が多数見られた。 

5  語彙の評価

1 )社会人による語彙評価の比較

30 歳代から 70 歳代の社会人 5 人に評価してもらっ た合計点の平均と 1 語彙の評価平均は、表 6 に示す通 りである。 3 群間を比較すると、〈哀〉には有意な差 はなかったが、2011年と2012年で〈喜〉〈怒〉〈楽〉に 有意な差があった。また、2011年と2013年で〈怒〉〈楽〉

で有意な差があった。2012 年と 2013 年には、全ての 語彙で差が認められなかった。〈怒〉〈楽〉に関しては、

2011 年に記された語彙が、他の群に比べて社会人の 評価が高いと言える。

2 )辞書に基づく評価の比較

辞書に基づく評価の合計点の平均と 1 語彙の評価平 均は、表 7 に示す通りである。 3 群間を比較すると、

〈喜〉〈哀〉〈楽〉で有意な差が認められた。〈怒〉は、

2011 年と 2012 年では有意差があったが、2013 年とで

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表4 表出した人数別の語彙数の比較 㪉㪇㪈㪉ᐕ 㪉㪇㪈㪊ᐕ

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表3 喜怒哀楽を表す語彙数の比較

(5)

は差がなかった。2012 年と 2013 年には、全ての語彙 で差が認められなかった。

3 ) 2 つの評価法による評価結果の相違

社会人の評価も辞書に基づく評価も、表出語彙の評 価は、概ね 2011 年の評価が高く、2012 年と 2013 年の 間には差が認められなかった。しかし、〈哀〉に関し ては、社会人の評価では他の群に比べて 2011 年に有 意な差はなかったが、辞書に基づく評価では、2011 年の評価が他の群に比べて有意な差があり、評価が高 いと言える。

Ⅳ 考察 1  語彙数の増加と質の低下

若者が日常生活やSNS上で用いる若者言葉は、メディ アの影響もあり、非常に多くのバリエーションがある。

日々新しい言葉が生まれ、そして死語になるスピードが 速いのも特徴であるが、語彙は増加している。久保村ら はこれら若者言葉をタイプ別に分類し、省略型の若者言 葉を、辞書に登録されている語彙(既知語)に変換する 手法を提案しているが7 )、松本らは、若者言葉は、既知 表5 「1 人のみが表出した語彙」の割合の比較

表6 社会人による語彙評価の比較 表7 辞書に基づく評価の比較

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(6)

語の省略型、既知語に置き換えられない新しい概念、既 知語と同じ表記であるがまったく別の意味になる語も存 在し、感情を表現する語彙の場合、この方法の効果は期 待できないと述べている8 )

今回の調査でも、学生は日常的に、同世代や友人間だ けで通用する言葉や自分なりの表現等を使用しているこ とが多いと感じた。また、語彙数が 2011 年から 2012 年 にかけて急激に増加しているのは、若者言葉の特徴と一 致している。しかし、語彙数が増加するということは、

類似した感情経験であっても、個々によって表現が異な ることになり、感情・情動の共有が難しいという側面も ある。同世代間あるいは同じ環境にあるグループ内で は、特に問題にならなくても、異なる世代との間には違 和感が生じる可能性が高い。30 歳台から 70 歳台の社会 人が行った語彙の評価が、年々低下しているのも頷け る。また、松本らが示唆するように、本研究でも、既知 語への変換が難しい語彙が増えていることが実感できた。

このように、省略された語彙や本来の意味とは違う語 彙、多世代に共通理解されない語彙を、多くの若者が当 たり前のように使っていることで、世代間のコミュニ ケーションに弊害が見られたり、感情の機微を表現する 語彙が消失したりすることが危惧される。また、「 1 人 のみが表出した語彙」が増加し、共通の言葉から、個人 あるいは少人数のグループでのみ理解される言葉に分散 されていくように感じた。しかし、それは一定の年齢層 や、限られたコミュニティでのみ共通理解されるので あって、若者言葉の微妙なニュアンスは、高齢者や小児 には理解が難しいと思われる。

2  情動スキルに関する自己評価

「感情・気分・情動を表す語彙」は、2011 年から 2013 年にかけて大きく変化したが、「情動スキルに関する自 己評価」は、すべての項目で、 3 年間でほとんど変化が なかった。共通の語彙を知らない(あるいは使えない)

学生が増えたり、稚拙な表現や場にそぐわない表現を注 意される場面が増えたりしても、多くの学生が、自分の 情動スキルに不安を感じていないことがわかる。2011 年に小玉らが行った学生と社会人の情動スキルの比較で も、スキルの高い社会人より、スキルの低い学生の方が 自己評価は高かった9 )。学生集団にあっては、周囲に同 じような価値観を持つ者が多いため、価値観の異なる他 と比較して、客観的に自己理解・自己評価をする機会が 少ないということも、適切な評価に至らない一因かもし れない。

3  スマートフォン普及と SNS の影響

最近、スマートフォンの普及やオタク文化のメジャー

化により、10 代から 20 代前半の若者やネット住民が使 い始めた言葉が浸透する傾向が顕著になった。また、

LINE アプリケーション(以下 LINE と記す)により、

会話形式のやり取りが気軽に行えるようになり、スピー ディなやり取りのために、単語のみ、あるいは簡略化さ れた言葉でのやり取りが多くなる傾向にある。(例えば

「じわる」時間がたってからじわじわ笑えるような状態。)

今回の調査でも省略語が多く見られ、「了解しました」

が「り」、「本当です」が「まじ」と記されていた(感情 を表現する語彙としては不適切と評価した)。「やばい」

は喜怒哀楽すべてに表出されていて、ポジティブな場面 でもネガティブな場面でも、便利に使っていることがわ かった。

スマートフォンの普及率は、2011年は10%未満であっ たが、2012 年には 20%を超え、2013 年には 30%に達し ている(様々な機関からの報告があり、数値にも多少の 差があるため、おおよその割合を示した)。2015 年の調 査では、大学生の約 94%がスマートフォンを利用して いるという報告もあった。LINE は、本研究が開始され た 2011 年 6 月に利用開始となり、スマートフォンの普 及に合わせて利用者が増加した。世界のLINE利用者は、

2012 年 7 月末には 5,000 万人、2013 年 1 月には 1 億人、

4 月には 1 億 5,000 万人、11 月末には 3 億人と急激に増 加している。2015 年には、日本国内の 10 代・20 代の若 者の 8 割から 9 割が LINE を利用していると報告されて いる。また、大学生の 6 割前後がツイッターやフェイス ブックの利用者であるという報告もある10)

今回の調査期間が、スマートフォンの普及、LINE・

SNS の利用者が急増した期間と一致していることから、

学生の語彙の変化には、このことが少なからず影響を与 えていると思われる。

4  学生の情動スキルに関する課題

学生の日常のコミュニケーションスタイルは、今後も SNS・LINE の利用がさらに増加することが予想され、

対面コミュニケーションを苦手とする学生の増加が危惧 される。遠隔コミュニケーション優位の文化的・育成的 背景を反映していると言えよう。竹内は、遠隔 ・ 間接的 コミュニケーションの生活習慣を持つ学生が、スタッフ としてクライアント(患者や高齢者)の前に立つ場面で、

果たして自他が期待するレベルで活動できるのか、大き な不安があると指摘している11)。電子メールや LINE で は、文字情報だけでは伝えきれない感情や気分を、絵文 字・顔文字・スタンプ等で補っており、そのことでトラ ブルを回避している。しかし現実場面では、子ども・社 会人・高齢者の心情を、状況や言葉、非言語的情報等、

複雑な情報を基に判断し、適切なコミュニケーションを

(7)

とらなければならない。そのためには、様々な世代で共 通認識されている言葉の獲得と、それを適切に使用する スキルが必要である。本調査結果からは、学生の言語知 識は不十分であり、情動スキルに関する自己評価も適切 とは言い難い。学生が、社会で評価される職業人となる ため、特に対人支援を基盤とする医療や社会福祉、教育 の現場に就労するためには、「情動に関する能力やスキ ルの理解と習得」「実習を通しての体験的トレーニング」

「情動に関する自己評価の習慣化」が重要になってくる と思われる。大学側の課題としては、限られた教育課程 の中にあっても、学生の情動に関する能力 ・ スキルの向 上のためのプログラムを構築することが急務であると考 える。

Ⅴ 本研究の限界と今後の課題

情動スキルは、文字や言葉の情報からの読み取りだけ でなく、非言語的な情報からの感情の読み取りや状況判 断による感情の読み取り、相手の感情理解後の対応等多 くの要素がある。今回の調査では、限られた内容での比 較であったため、学生の能力やスキルを総合的に評価で きているとは言い難い。また、SNS・LINE 等の利用状 況に関しての情報収集が無かったため、語彙の変化と SNS・LINE 等の利用の関連性については、十分考察す ることができなかった。加えて本研究の対象者が、一部 の地域の限られた領域の学生であったため、資料に偏り がある可能性も否定できない。今後は、状況や非言語的 な情報からの読み取りに関する調査項目を検討するとと もに、もっと多岐にわたる情報を収集し、情動知能や情 動スキルを総合的に評価し、学生の課題をより明確にし ていきたい。また、現行の教育課程の中でも、学生の情 動スキルの向上のための教育内容の検討が必要であると 考えている。

Ⅵ 結論

A 県および B 県の医療 ・ 福祉系大学および短期大学 3 校に在籍する 2011 年度入学生 189 名、 2012 年度入学生 260 名、2013 年度入学生 209 名を対象に、情動スキルに 関する質問紙調査を行った結果、以下のことが明らかに なった。

1 .学生が使用している「感情・気分・情動を表す語彙」

は、2011 年から 2012 年にかけて、急激に語彙数が 増加し、2013 年はその状況が維持されている。し かし、年々「1人のみが表出した語彙」の割合が増え、

多世代に共通認識のある言葉から、個人あるいは少 人数のグループでのみ理解される言葉に変容しつつ

ある。

2 . 社会人による表出語彙の評価では、2011年から年々 評価が下がってきている。また、辞書に記載されて いない語彙や不適切な使用の語彙は、増加傾向にあ る。さらに省略された語彙や本来の意味とは違う語 彙、多世代に共通理解されない語彙を、多くの若者 が当たり前のように使っていることがわかった。

3 . 「感情・気分・情動を表す語彙」は年々変化してい るが、「情動スキルに関する自己評価」は、すべて の項目で、 3 年間でほとんど変化がなかった。多く の学生が、自分の情動スキルに不安を感じていない ことがわかる。

4 . 今回の調査期間が、スマートフォンの普及、LINE・

SNS の利用者が急増した期間と一致していることか ら、学生の語彙の変化には、このことが少なからず 影響を与えていると思われる。

Ⅶ 謝辞

本研究を行うにあたり、調査にご協力いただきました 学生の皆様に、深く感謝申し上げます。

(受理日 平成28年2月23日)

文 献

1 ) 楠見孝,米田英嗣:感情と言語 藤田和生(編)感 情科学の展望,京都大学学術出版界,55‒64, 2007 2 ) 福井康之,伊藤徹:感情の構造論からみた現代青年

の特徴,愛知大学教育学部紀要 教育科学,第34巻,

13‒15, 1986

3 ) 厚生労働省医政局看護課:「看護基礎教育の充実に 関する検討会」報告書http://www.mhlw.go.jp/shingi/ 

2007/04/dl/s0420‒13.pdf, 2007.

4 ) 文化庁:「国語に関する世論調査」報告書 http://www. 

bunka.go.jp/tokei̲hakusho̲shuppan/tokeichosa/ 

kokugo̲yoronchosa/

5 ) 豊田弘司,酒井雅子:高校生用情動スキルとコンピ テンス質問紙尺度の開発,教育実践総合センター  研究紀要 Vol. 17, 11‒14, 2008.

6 ) 山田洋平:感情に焦点を当てた SEL(社会性と情動 の学習)プログラムの開発,広島大学大学院教育学 研究科 学位論文,2012

7 ) 久保村千明,原田俊信,佐々木洋輔,山本義人,亀 田弘之:ブログ記事を素材とする若者語処理システ ム評価方法,信学技報 Vol. 105, 2006.

8 ) 松本和幸,任 福継:感情推定における若者言葉の

(8)

Transition of Vocabularies Expressing Emotions and Emotional Skills in Students

Ariko Kodama 1), Michimasa Saitou 1)and Mutsuo Herai 2)

1) Hirosaki University of Health and Welfare 3-18-1 Sanpinai Hirosaki Aomori Japan 036-8102 2) Hirosaki University of Health and Welfare Junior College

Abstract

  Based on the rapidly changing environment surrounding the current youth and increased number of youth language, the objective of this research is to clarify the characteristics of students and their future challenges from the transition of “vocabularies that express emotion and feeling” and comparison of “self-evaluation involving their emotional skill” from the past years. We conducted a questionnaire survey about emotion subjecting the first year students who started at one of the 3 universities in A prefecture and B prefecture in 2011, 2012, and 2013 and analyzed the results. The number of vocabularies expressing emotions and feelings has increased drastically from 2011 to 2012, but there are many words that re abbreviated, have different meaning from the original word, and are not recognized by many generations and “vocabulary expressed by one person” has been increasing every year. Evaluation of the vocabulary by the working population was the highest in 2011 and evaluation based on a dictionary was also the highest in 2011 compared to other groups. On the other hand, no difference was found for self-evaluation of emotional skill in 3 groups. It shows that although vocabulary showed a large change from 2011 to 2013, many students are not worried about their emotional skills.

  Since this research period was overlapping with the period when there was a large increase in smartphone distribution and LINE and SNS users, we presume that this gave some influence to the change in studentsʼ vocabulary. Furthermore, the daily communication style of students is projected to have more SNS and LINE use in the future, so there is a danger of an increased number of students who are not good at face to face communication. We consider that it is urgent to construct a program to improve ability and skills related to the emotion of students.

Key words: Vocabulary expressing emotions, emotional skill, youth language, SNS 影響,言語処理学会  第 17 回年次大会  発表論文集,

846‒849,2011

9 ) 小玉有子,奈良知子,戸来睦雄,齋藤三千政:医療・

福祉系学生の情動知能とスキルに関する研究,弘前 医療福祉大学紀要,5(1). 31‒38, 2014

10) 総務省:平成26年度版情報通信白書, 2015.

  http://www.soumu.go.jp/ 

11) 竹内美香:コミュニケーション訓練における会話過 程の分析−コンテンツと情動喚起の視点から教育指 導を考える,自由が丘産能短期大学紀要,第 39 号, 

37‒67, 2006.

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