生徒の受容の傾向と学習意欲
米田明生*・江頭正晴**・木下信義***
(昭和57年10月31日受理)
A Trial of Improving Design Leaming(Part1)
一Pupils Receptive Tendencies and Their Motivation for Learning
Akio YONEDA,Masaham EGASHIRA and Nobuyoshi KINOSHITA
(Received,October31,1982)
1.はじめにく研究の目的〉
中学デザイン学習において,その限られた授業時数を有効に生かし,かつ高い学習効果 をあげるものとして,教材の精選とそれに対する学習指導法の検討などが行われてきてい る。さらに近年のさまざまな教育機器と教育工学的方法等の導入は,これが学習の効率化 と授業の改善を図るものとして,しだいに学校教育にとり入れられてきている。その中で 教育工学の美術教育への導入に関しては,最近その実施の試みもなされている(1》が,国語,
社会,数学,理科,英語などの他教科と異なり,その数値化やデーター化の問題が造形上 の感覚になじみ難いという理由から,その導入をためらったり,あるいは疑問視されたり
していたものである。したがって,教育工学を美術教育に導入することについては他教科 に比べその後進性は否定できなかったといえよう。
しかし、吉崎(2)らが行った児童による授業評価によれば,美術教育においても教育工学的 方法は子どもの鑑賞過程や創作過程の細かな分析が可能なことから,子どもの学習の実態 の的確な把握や教師の指導過程の問題点の解明など,授業改善のための重要な資料が得ら れるものとして期待されている。さらにこのような教育工学的方法の美術教育への導入は その授業改善の強力な推進体として,今後ますます増加すると同時に重要な教育手段とし ても重視されてくるものと考えられる。
そこで本研究においては上記した教育工学的方法を美術教育に導入することによってそ の授業改善を図ろうとする目的から,授業改善の要点を鮮明にするための基礎資料を得る ため,中学デザイン学習において調査を行った。調査はまず,生徒のデザイン学習への受 容の傾向とデザイン学習への意欲を左右する要因を解明することを意図したものである。
*長崎大学教育学部美術科教室 **長崎市立緑が丘中学校 ***長崎市教育委員会
2.調査方法
筆者らは中・高校で行ったデザインの授業において,授業に対する生徒の種々の受容の 状態が,完成された生徒の作品の評価と密接に関連している事実を多く体験してきた。こ のことは生徒の受容の傾向が生徒の学習意欲を大きく左右し,そのことが作品制作におけ る創作への追求心や集中心の持続などの創作意欲にも影響を与えていたものと考えられる ものである。また、このような生徒の受容の状態と学習意欲の関連については従来からも.
指摘がなされているが,ここで言う生徒の受容の傾向とはデザインの授業に対する生徒の 種々の反応の中で「好き・嫌い」,「楽しい・楽しくない」,「興味がある・興味がない」,
rうまく描ける・うまく描けない」などの生徒の情意的要素を多分に含むものである。そ してこれら生徒のデザインの授業に対する情意反応には多くの場合何らかの理由や要因が 存在するはずのものである。それ故これら生徒の受容の傾向とその要因を解明することは デザインの学習指導のために多くの示唆を得るものと予想される。
ところで,このようなデザイン学習における生徒の受容の傾向が生起する事項(要因)
の一般的なものとして次のような場合が考えられる。即ち、授業におけるデザインの題材
(課題)への興味や好悪など、授業展開の個々の過程(例えばスケッチ,単純化,構成,
彩色)での習熟や得意不得意などから起因するもの、また教師の性格や気質に関するもの や授業時の教師の言動などによるもの,さらに生徒個人の授業時の気分や生理,健康の状 態などである。
これらの中でデザインの学習指導のための授業改善に強く関わるものとして,題材(課 題)と授業の展開に関する問題がある。そして,これらの諸点によって起因する生徒の受 容の傾向は同時に生徒への興味の喚起や動機づけを含めた学習への導入と学習効果を高め るための指導の要点として把握されるべき問題でもある。この問題は生徒の受容の傾向が 学習意欲に及ぼす情意的要素として指適さると同時に,上記したその要因の解明によって デザイン学習により高い学習効果を求めるための授業改善の視点から,大いに注目されな ければならない問題と考えられる。
しかし生徒の受容の傾向に関するこの問題は美術教育における学習指導の本質に関わる 重要な要素を含むにも拘わらず,現在までこの面からは殆んど取上げられていない(3》。それ 故,今回のこの問題を調査検討することはデザイン学習の展開やその指導過程のために重 要な示唆を得るものと考えられる。さらにこの問題を検討することによって,つまづき生 徒や美術ぎらいの生徒などについてもその新たな指導の展開が期待できるものと考えられ
る。
したがって本研究においては先ず前述したデザインの学習展開における生徒の授業に対 する感想と自己評価を中心として,これを生徒の情意面を重視する資料を得るための調査 とした。調査内容は授業の進行に相応した質問項目に対して用意された答を選ばせた。例 えばスケッチにおいて「楽しくできましたか」の問に対して「A・楽しかった,B・楽し くなかった,C・どちらでもない」のいずれかを選ばせ,さらに「A」及び「B」の回答 者には必ず用意された理由を選ばせた。したがって調査の実施はその授業の終了時となった。
また調査は生徒の受容の傾向を把握する目的から今回は無記名とし,作品との相関は次 の段階で取上げることとした。
調査は長崎市内の平均的な公立中学校の平常のデザインの授業において行い,また実施 にあたってはこの調査を意識した教師の特別な指導,助言等は極力避けて,通常行われて いる授業によることとした。なお調査時の調査対象者は1年生徒5クラス206名(男子113 名,女子93名),2年生徒8クラス294名(男子162名,女子132名)である。
3.結果と考察
本調査の実施は,調査を行う中学校で既に決定されていた美術科年問カリキュラムのデ ザインの領域の授業で行うこととした。その対象となった授業は1年が 自然物の構成 , であり2年が 人工物の構成 である。これらの授業の概略は生徒が自然物(人工物)の スケッチを通して発見した美しい形をもとに単純化,強調などを工夫して再構成し,これ を彩色して作品とするものである。したがってこれらの学習の目標は次のようなものであ る。①自然物(人工物)の観察の態度と美の発見。②発見した美しい形をもとに,その特 徴を生かして,新しい形を構成する能力や態度を養う。③色の性質や面積を考えて美しい 配色をする。④観察から構成,彩色を通して全体の美的秩序を考えるなどである。また,
これらの授業はその取扱う題材が自然物か人工物かの相違だけで,学習の展開や生徒の制 作内容も同一であることから,1年と2年の比較検討のためには好事例である利点をもっ ている。なお、対象となった2年生は1年時に自然物の構成の授業をすでに受けている。
これらの授業はその授業の展開のうえから4つの大きな過程に分けられる。即ち、①ス ケッチ,②単純化,強調など,③構成,④彩色などである。したがって,前述した通り、
これらの過程における生徒の受容がどのような傾向をもつものかを調査するための内容の 質問項目と回答項目を用意した。また授業中に受けた教師からのアドバイス(教師の個人 指導)についてもその時の生徒の心情や反応が得られるように質問及び回答の項目をもう
けた。
なおこれらの調査結果の集計にあたっては,生徒の記入漏れと思われる無回答が質問項 目によっては2〜3%ほど散見されたが,全体の傾向把握のためには無視できる数値であ るので,図表示には省略した。
調査の結果と考察は次の通りである。
3−1 自然物(人工物)のスケッチについて
自然物(人工物)のスケッチについての集計結果を図1に示した。この図は「自然物(人 工物〉のスケッチは楽しくできましたか」の問に対して「A・楽しかった,B・楽しくな かった,C・どちらでもない」の回答項目の「A」及び「B」と回答した割合とその理由 について現したものである。即ち右方に「A・楽しかった」,「B・楽しくなかった」のそ れぞれの割合を示し,それらの理由については左方に示した。
この図によれば,1・2年共に同じ傾向を示していることがわかり,また,この相方と も半数以上が楽しかったとしている。またその理由を「好きだから」としたのが最も多く,
ことに2年生はこれに集中している感がある。更に楽しくなかった理由についても「うま く描けないから」に集中していて,この項目の回答者の48%(1年)と78%(2年)を示 している。これらのことから2年生については1年生に比べより1はっきり分化した考えや 心情に基づいていることがうかがえる。また「うまく描けないから」と描写の技術的理由
1年醗翻 年[ニコ
g.その他
.先生にほめられたから
.早くできたから
d はじめての経験だから
雛 c.新しい発見をしたから 羅
80 40
b.好きだから
A.楽しかった
a。うまくできたから
{ 一喰辱 瀞 一 瀞駆無髄
%)
B.楽しくなかった
40 8
(%
羅5顯濾
a.かいた自然物(人工物)がっまらなかった
.失敗したから
c.人より遅れたか.ら
曹鍛真 薦罵講 d.うまく描けないから
輝箪 e,見る角度がよくなかったから
.先生から注意を受けたから
.その他
(%)
図1 自然物(人工物)のスケッチは楽しくできましたか
によって授業の好悪や意欲が左右されていることを示していることから,この問題に対応 する技術指導の新たな検討が必要視されるとともに,このことが授業改善の一つの視点と なり得るものであろう。
3−2 教師の助言と注意について
スケッチの授業中における教師の生徒への助言や注意のようすと、教師の助言に対する
生徒の反応を見たものが次の図2である。即ちこの図は前図と同様に右方に教師から助言 や注意を受けたことが「A・ある」または「B・ない」の割合を示し,左方にそれらにつ いての生徒の心情を示したものである。この図によれば教師からの個人指導を受けた割合 は1年生では73%であり,2年生では85%と意外に高く,教師はたえず机間を巡視して個 人指導にっとめていることがうかがえる。また言助や注意をうけた生徒は「ためになった」
と回答しているのが最も多くその割合は圧倒的である。一方助言・注意を受けなかった生 徒については,何らかの意味で教師から話しかけてほしいと思っているのが多い。これら
(彩)
0
匿盤31年 ニコ2年
ミ
e.
︒C.
何も言われない方がよかった
れしくなかった
1れしかった 慧
b.
ためにならなかったa.
ためになった60 30
A.あ る
彩)
B.な い
30 60 90
(彩
a ,話しかけてほしい
b.
話しかけてほしくない図2 先生から助言や注意など話しかけられたことがありますか
のことから美術教育における個人指導がその全体指導に加えて大きな意義を有しているこ とが再確認されるであろう。それ故教師の的確な指導が最も必要視される部面でもある。
同時に,美術教師にとっての個人指導はその問題意識を最も有している部面でもある。
即ち,授業終了後「あの生徒にはこれでよかったのか?」と言うある不たしかな反省が常 に離れないのもこの個人指導においてである。その具体的なものとして,個々の生徒の感 覚の相違や個性の伸張と尊重に対する教師の教育目標を目指す意識とのくい違いやその軋 礫などはその最も大きな問題意識の一つであろう。したがって,現在でも教師の勘と経験
がそれらの指導の重要な要素であることは否定できず,ここに客観的な資料とその分析に 基づいた指導の体系(前述した教育工学的方法の導入)が強く望まれるところであり,か つ授業改善の大きなポイントとなるものであろう。
3−3 単純化,構成にっいて
自然物(人工物)のスケッチをもとに,その形態の単純化と強調による変形などの手法 を使って再構成する過程が構成である。デザイン学習の平面における構成は,文字通り作 品の構図や態様をきめる重要な過程である。また,同時に生徒のイメージ表現の美的要素 と構成のアイデアが生かされる知的要素の総合とその構成力が発揮されるプロセスでもあ る。したがって,現在中学におけるデザイン学習では,このような内容を含む学習を色彩 構成として,これがイラストやポスターなどへの基礎的過程として位置づけられ,広く行 われているものである。
また,自然物(人工物)の構成における単純化,変形などは表現にそれらの手法を用い ることで,物や形態の特徴をよりシンプルに明確に表し,かつその物のもつ美しさが強調 されることで,より鮮明に,しかも視覚的抵抗を少なくして,すっきり表現できることなど からその構成練習として行われるものである。このことはデザインに限らず,一般の造形 芸術にも多用され,また必要な方法とされているものである。
したがって,本授業において生徒はスケッチをそのまま,いわば生の形で作品とするの ではなく,上述の通り生徒が発見した新鮮で美しい形の特徴を生かして単純化,強調して 再構成しようとするものである。それ故,単純化,強調・変形の目的や再構成の意味の生 徒への理解がこの授業展開の大きなポイントの一つとなっていることは言うまでもない。
そこで,この過程において構成の目的や意味を生徒がどのように把握して制作にとりか かったかを中心内容とする調査項目を設けた。次の図3は構成の目的の理解と生徒が自己 の構成を評価した関係を見るための質問項目に対する集計結果である。
この図の右方の「よく理解していた」と回答した割合は,16%(1年)と4%(2年)
にすぎず,「少し理解していた」とする不完全理解が意外に高い。また,全く理解していな いのが1・2年共に予想より高い(1年・22%,2年・24%)。これらの中で「よく理解 していた」グループと,「理解していなかった」または「少し理解していた」グループ間 で,生徒が作品を自己評価したことに対しての結果を左方に示した。この結果によれば「う
まくできた」,「うまくできなかった」の項目で明らかな差がみられる。そこでこの結果を 両グループ間で有意差の検定をしたところ1・2年共に5%の危険率で有意差が認められ た(1年・垢=15.106,df二2,2年・垢=8.724,df=2)。つまり,この図から構成の目 的などを理解していたことがうまくできることにつながっていることがよく現れている。
なお,ここで言ううまくできた作品とは生徒の自己評価によるもので,これが教師の評価 と一致するとは限らない。しかし,うまくできたとしていることは生徒の創作表現への満 足感,充足感が伴っていることであり,またこれによって制作への意欲にも強い影響が惹 起されることは十分予想される。それ故教師は生徒への構成の目的の理解を図ることが授 業改善の大きな視点の一つと言えるであろう。
次に,構成のでき,ふできの要因について生徒はどのように思っているのか。それらの 集計結果が図4である。この図からは1・2年共に同じ傾向がみられるが,まず,うまく できた理由としては「よいアイデアがわいた」が最も多く(1年・29%,2年・46%),次
睡1年
[二ニコ2年年
60
C. まあまあのでき
60
b.うまくできなかった
a うまくできた
A.よく理解していた
v り
30 30
彫)
職灘
(%
B.理解していなかった
C,少し理解していた
星
『a うまくできた
b.うまくできなかった
C まあまあのでき
図3 新しい形に構成するのに,どうしてこのように構成するのか,そ の目的など理解して構成にかかりましたか
に高い割合を示したのが「構成のしかたを色々考えた」(1年・19%,2年・27%)であ り,ことに両項目ともに2年は1年に比べて著しい。また,うまくできなかった理由につ いては,アイデアとスケッチをその要因としてあげているのが多い。つまり構成のでき,
ふできにはアイデアとスケッチなどが大きく影響していることがわかる。それ故,教師は 構成についてそのアイデアを生徒からひき出すための示唆や暗示をはじめ,種々の手だて
を行うことが最も必要なことと考えられる。
次に,構成とその態様を左右する重要な方法とされている形態の単純化・抽象化,変形 などが生徒にどのように受容され,その概念がどのように理解されているかは,この授業 展開の重要なポイントとなるものである。このような形態の単純化などを生徒の創造的思 考の面からみれば「単なる組み合わせ」や「一度分割して組み合わせなおす」水準のもの とみられている(4)。そして本授業の場合,大部分が前者の水準であると考えられるし,また この時期(中学1・2年生)は創造性の発達傾向のうえから一時期でも創造性の低下現象 が見られるとも指適されている(5)。更に竹内はこの時期の生徒は「形に関して対象を客観的 に認知し,再現しようとする意識が強いため,ひとにわかるように単純化するということ にかなりの抵抗を示す」(6)とも言っている。それ故,これら単純化,変形などは造形上重要 かつ必要な手法であるが,これが中学生にとってはその発達の段階から容易な課題ではな いと言える。このことは次の表1によく現われている。即ち,前掲の図3と同様,不完全
うまくできた理由
翻1年
灘講糠
g。その他
.構成は得意ですきだから
[ニコ2年
灘灘騨顯、謬、轡灘認購 e.構成のしかたを色々考えた
禦議脚臓、 d.友だちの助けをかりたから
繊騰犠懸剛羅鱗欝羅轍鰯籍緊、醍 c.よいアイデアがわいた
『襯購購臓悪誠 b。先生の注意のとおりにした
義獄懸騒繋騨簾綴蝋雛欝 a.スケッチがよかった
0(%)
a.スケソチがよく描けていなかった
b.先生の注意の通りにしなかった
繋灘i鰭鞭耀懲鯉轍鎌購轍彰蜻撚麟轍騰難c.よいアィデァがなかった
うまくできなかった理由
欝難 翻顛簑 d 構成の意味がよくわからなかった
e.構成のしかたがよくわからなかった
f.構成はにがてだから
懸 g,その他
図4 構成がうまくできた理由,うまくできなかった理由
な理解や把握が50%をこえていて意外に高い。また図3と殆んど同じ傾向を示しているこ とは,生徒が単純化,変形などの意味や方法が即ち図3の構成の目的の理解と同質に考え ているからに他ならない。それは図4においても,「よいアイデアがわいた」,「構成のしか たを色々考えた」などの理由に集中していることはこれらを生徒は 単純化,変形のアイ デア として,また 単純化,変形のしかたを色々考えた と受けとっているとみてもさ しつかえないであろう。つまり,生徒は単純化,変形などがうまくできれば,そのことが よいアイデアがわき,よい構成ができたと受けとっている傾向が強いことがわかる。
したがって,本授業の単純化,再構成の過程における生徒の受容の傾向と学習意欲など の面から,この授業改善の重要なポイントが形態の単純化,強調,変形などの指導におか
れなければならないことが強く指摘で 表1 構成のやり方について,単純化・抽象化・
きるものである。 変形などの意味や方法がわかりましたか 3−4 彩色について
1年(%) 2年(%)
前述した構成が作品の組み立てやそ の態様を決定する過程であるのに対し て,彩色はこれによって作品の最終的 な印象を左右し,また色彩による情動 を伴うことから情意的要素を多く含む 重要な過程であると言える。
このような彩色の過程は,本授業に おいては次の諸段階があげられる。そ
れは①配色(色調)計画,②混色,③着色であり,この中でも混色と着色についてはその 材料と用具の使用がともなうものである。これらの段階における生徒のなまの感想として 思うような色がつくれない きれいに塗れない などがよくきかれる。また多くの場 合,これらの理由が原因して彩色がイヤになり,学習の意欲が急速に減退していくことが
よく見かけられる。
それ故,生徒が上記した彩色の段階においてどのような受容の傾向をもつものか,また これを指導と授業改善のポイントとしてどのように生かすことができるかを検討するため,
それらに対する質問項目を設け以下の結果を得た。
まず図5において「彩色(色ぬり)は楽しくやれましたか」の質問に対する生徒の反応 を右方に,その理由を左方に示した。この図の右方のために用意した回答はA・楽しかっ た,B・楽しくなかった,C・どちらでもないの項目であるが,AとBの項目を重視して
これを図示した。
この図によれば「楽しくやれた」が44%(1年),34%(2年)と意外にもクラスの半数 にも達していない。しかし,その理由として 彩色はすきだから が,1,2年共に回答 者の60%ちかくを示している。つまり楽しくやれた生徒の多くは彩色はすきであることを 現している。また「楽しくやれなかった」が26%(1年),27%(2年)と共にクラスの%
をこえていることは,その理由の解明はもとより,学習意欲のうえから大いに注目されな ければならないし,また指導の要点としても考慮される必要がある。
楽しくやれなかった理由として 失敗した , 彩色は得意ではないから などと回答し たのが多いが、この調査では彩色は楽しくやれなかった貝体的な理由を明碓に把握するこ とはできなかった。ただ、彩色の技巧的な問題と色彩調和の感覚的な問題にその理由の根 拠を大別して考えることは可能である。そこで生徒はこれらの問題をどのように意識して いるかを調べた結果が次の図6である。
図6は彩色について最もむつかしいとする生徒の問題意識の傾向をみたものである。こ の図によれば1年と2年は明らかに彩色に対する意識の相違がみられる。即ち,1年では A・C・Eなどの彩色の技巧や技術に関する項目の割合の合計が52%に対して,B・Dな
ど色彩調和に関する項目の割合の合計が45%と,彩色の技術的な問題がやや高いのに比べ,
これが2年で技術的問題は34%に対して逆に色彩調和が66%と,かなり高い割合で色彩調 和の問題をあげていることによるものである。つまり1年生は色彩の技術面を,2年生は
A わかった 30 9
B わからなかった 16 23
C 少しわかった 54 68
麗蜀1年
コ2年
饗
e.その他(理由)
.先生からほめらわたから
.早くできたから
。彩色はすきだから
.うまくできた(きれいに)
A.楽しくやれた
) 60 40 20 鵜難麟欝灘灘講難愚灘凝
B。楽しくやれなかった
20 40 6
騒
a.失敗してうまくできなかった
.よい筆(道具)がなかったから
.彩色は得意ではないから
.人より遅れたから
,先生から注意を受けたから
・その他(理由)
聯,
繍
60(%)
図5 彩色(色ぬり)は楽しくやれましたか
色彩調和を最もむずかしいと考えていることがわかる。
したがって,これらの諸問題が生徒の実態の把握と言う面から授業において考慮される ことは,生徒の彩色における学習意欲の持続につながる大きな要素として指摘できると共 に,教師の指導の力点としても捉えることができる。さらにこのことは生徒の発達や問題 意識に即応させる授業改善のための指摘される重要な課題ともなり得るものであろう。
4.ま と め
中学デザイン学習においてその学習の効果を高め,授業改善に大きく役立つものとして,
教育工学的方法の導入を図る目的からその基礎資料を得るため,今回は生徒の受容の傾向 と学習意欲についての諸調査を行うこととした。その調査はデザインの授業における生徒
1羅翻1年
□2年
A。色のつくり方
B.白と黒のつかい方
C.色のぬり方
D.色の対比や調和など
E.筆(道具など)のつかい方
F.その他
(%)60 30
図6 デザインの彩色(色ぬり)で一番むづかしいと思ったのは
の学習意欲とその要因としての情意的要素を重視する観点から,授業に対する生徒による 評価や感想と作品への自己評価などを主とすることとしたものである。その結果は,教師 の指導過程における問題点を解明するための要点と生徒の授業における受容の傾向を含む 学習の実態を把握できる諸資料を得ることができた。これらはいずれも授業改善の重要な ポイントとなり得るものであるが,それと同時にこれらをどのように活用できるかと言う 点において授業改善の今後の重要な課題とも言えるものであろう。その指摘できる主要な 諸点は次のようなものである。
その第一は,生徒のデザインの授業に対する学習意欲とその作品への影響を大きく左右 するものとしての情意面の反応の要因が,作品制作への技巧や技術面に関することに起因 することであった。このことは特に低学年(1年生)のスケッチや彩色においては顕著で ある。この調査結果は,近年とくに提起されている基礎・基本の指導とも関連する内容を 含むが,しかし一方では技術指導や技術偏重の危険を伴う問題でもある。それ故この問題 は生徒の自由な発想や創造性の伸張の面から捉え,かつこれらが授業改善に十分反響され なければならない課題と考えられる。
第二はデザイン学習における教師の指導過程を生徒の反応からのチェックと個人指導の 重視があげられる。そのため,これに必要な生徒の学習の実態の把握と,これを分析する 客観的な方法の必要性とその開発の問題があげられる。即ち,従来までの教師の勘と経験 による指導に加えて,その方法の導入と活用は授業改善の重要な手段であると考えられる。
それ故教育工学的方法の美術教育への導入はこの問題に関わり,これを強力に推進するた めのものに他ならず,かつこのことが今後の美術教育への発展的課題となるであろう。
なお本研究の資料の一部は第19回大学美術教育学会において口頭発表したものである。
最後に本調査のため多大のご配慮をいただきした長崎市立緑が丘中学校長川上理郎先生に は感謝の意を表します。
参考文献及び引用
(1)宮本朝子(1982);「図画工作における自己評価の実証的研究」 教育美術 8 pp10〜23
(2)吉崎静夫・水越敏行(1979);「児童による授業評価」 日本教育工学雑誌 vol4,NQ2 pp41〜51
(3)日本教育大学協会研究促進委員会編 「教科教育学に関する研究総目録」 第3,4,5集,美術科
(4)上武正二(1974);「発達心理学総説」,金子書房,pp287
(5)同上 pp296
(6)竹内博(1968);「美術教育大系7」 熊本工高編,学芸書林,pp46
(7)米田明生(1981);「デザインにおける色彩学習の原点」 長崎大学教育学部教科教育学研究報告第 4号pp143〜156