急性非代償性心不全患者における予後予測としての 血漿バソプレシン値と血漿ノルアドレナリン値を
組み合わせた評価方法
日本大学大学院医学研究科博士課程 内科系循環器内科学専攻
渥美 渉
修了年 2018 年
指導教員 谷 樹昌
急性非代償性心不全患者における予後予測としての 血漿バソプレシン値と血漿ノルアドレナリン値を
組み合わせた評価方法
日本大学大学院医学研究科博士課程 内科系循環器内科学専攻
渥美 渉
修了年 2018 年
指導教員 谷 樹昌
目次
概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1ページ 第一章 緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3ページ
第一節 心不全の概略と、社会的背景 第二節 心不全の臨床像
第三節 心不全の診断 第四節 心不全の薬物治療
第五節 心不全の増悪と神経体液性因子の関連
第六節 心不全患者における予後予測因子としての神経体液性因子 第七節 本研究の仮説
第八節 本研究の目的
第二章 対象と方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
15ページ
第三章 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
20ページ
第四章 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
24ページ
第五章 結語・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
29ページ
謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
30ページ
表・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
31ページ
図・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
46ページ
引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
60ページ
研究業績・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
71ページ
略語一覧
ACE: angiotensin converting enzyme -
アンギオテンシン変換酵素
ADHF: acute decompensated heart failure -急性非代償性心不全
ARB: angiotensin II receptor blocker -
アンギオテンシン
II受容体遮断薬
AVP: arginine vasopressin -バソプレシン
BNP: brain natriuretic peptide -
脳性ナトリウム利尿ペプチド
CHF: chronic heart failure -慢性心不全
CS: clinical scenario -
クリニカルシナリオ
eGFR: estimated glomerular filtration rate -
推定糸球体濾過量
HDL-C: high-density lipoprotein cholesterol - HDLコレステロール
HFpEF: heart failure with preserved ejection fraction-
左室収縮性が保持された心不全
HFrEF: heart failure with reduced ejection fraction-
左室収縮性が低下した心不全
Hs-CRP: high sensitivity C-reactive protein -高感度
C反応性蛋白
LDL-C: low-density lipoprotein cholesterol - LDL
コレステロール
LVEF: left ventricular ejection fraction –左室駆出率
NA: noradrenaline -
ノルアドレナリン
NT-proBNP: N-terminal of prohormone brain natriuretic peptide
- N
末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド
RAAS: renin-angiotensin-aldsterone system-
レニン
-アンギオテンシン
-アルドステロン系
SNS: sympathetic nervous system -交感神経系
TG: triglyceride -
中性脂肪
1
概要
背景
血漿バソプレシン
(arginine vasopressin: AVP)と血漿ノルアドレナリン
(noradrenaline: NA)を組み合わせた評価法が急性非代償性心不全
(acutedecompensated heart failure: ADHF)
患者の予後に関連するという報告は、これま
でに存在しない。本研究の目的は、
ADHF生存退院例において、この
2つのバイ オマーカーを組み合わせた評価法が予後予測のリスク層別化として有用か否か を評価することである。
対象と方法
対象は
2008年
4月
1日から
2012年
3月
31日の期間に、
ADHFで川口市立医療セン ター心臓集中治療室
(coronary care unit: CCU)に入院をし、入院時に血漿
AVP値、
血漿
NA値の測定を行い、生存退院した患者とした。治療に協力が得られなか った患者、透析患者は除外対象とした。エンドポイントは慢性期心事故の発生
(心臓突然死または心不全増悪による再入院
)とし、血漿
AVP値、血漿
NA値、さ
らに両者を組み合わせた評価法と、慢性期予後との関連を検討した。
2
結果
対象患者数は
291例で、観察期間の中央値は
487日であった。心事故は全症例
の
41例
(14%)に発生した。心事故発生群は非発生群に比較し、血漿
AVP値
[中央
値
(25/75パーセンタイル
): 26.4 pg/ml (9.1/90.0) vs. 15.5 pg/ml (3.6/52.2), p = 0.014]、血漿
NA値
[中央値
: 2347pg/mL (1297/4352) vs. 1524 pg/mL (963/2583), p =0.007]
は有意に高値であった。
Cox比例ハザードモデルを用いた多変量解析で
は、血漿
AVP高値群
(第
2三分位値-最大値
: 3T )と血漿
NA高値群
( 3T)はそれぞれ の低値群
(最小値-第
1三分位値
: 1T )と比較し、ハザード比
2.97 (95%信頼区間
: 1.06-7.24, p = 0.038)、
3.34(95%信頼区間
1.21-9.26, p = 0.023)であった。血漿
AVP高値かつ血漿
NA高値を示す集団
(Group H)は、血漿
AVP低値かつ血漿
NA低値を 示す集団
(Group L)に比較し、ハザード比は
3.50 (95%信頼区間
1.17-10.42, p = 0.017)であった。
結語
ADHF
入院時における血漿
AVP値と血漿
NA値の上昇は、慢性期の心事故発生と
関連する可能性が示唆された。これら
2つのバイオマーカーを併せて評価する
方法は、
ADHF生存退院患者の予後予測に有用であると考えられた。
3
第一章 緒言
第一節 心不全の概略と、社会的背景
慢性心不全とは、
“慢性の心筋障害により心臓のポンプ機能が低下し、末梢 主要臓器の酸素需要量に見合うだけの血液量を絶対的にまた相対的に拍出でき ない状態であり、肺、体静脈系または両系にうっ血を来たし日常生活に障害を 生じた病態
”と定義されている
(1)。
一方で急性非代償性心不全
(acute decompensated heart failure: ADHF)とは、慢 性心不全症状の急性増悪を指し、急激な肺うっ血を来すことが多い疾患であ る。大半の
ADHF症例は先行する心不全症状を伴っており、心不全と診断され ていなかった症例は
20%以下に留まる
(2)。
生活習慣の欧米化に伴う冠動脈疾患の増加と、高齢化に伴う高血圧性心疾 患、弁膜症疾患の増加は、心不全患者増加の大きな要因となっている。今後、
老年人口割合の急増が予測されている影響もあり、心不全患者は
2030年に
130万人へ達すると推計されている
(図
1) (3)。
心不全患者の増加により医療費負担の増高、医療経済への圧迫が懸念されて
おり、特に心不全予防や予後予測因子の解析において、様々な大規模臨床試験
が行われている。
4
第二節 心不全の臨床像
慢性心不全とは労作時呼吸困難、息切れ、四肢の浮腫等の症状の出現により
生活の質
(quolity of life: QOL)の低下を認め、顕著に日常生活が障害される疾患
である。
心不全の程度や重症度を示す分類として、自覚症状から判断する
NYHA(New York Heart Association)分類
(4,5)がよく用いられている
(表
1)。
心臓に対する負荷が増加した場合や、心収縮性が低下した場合、心拍出量は 心室の拡張末期容量すなわち前負荷に依存するという
Frank-Staringの機序が作 用し、心拍出量を維持する。右心カテーテルにより、前負荷の指標となる肺動 脈楔入圧と、心拍出量を体表面積で除した心係数を求めることが可能となり、
これらを用いて
4群の血行動態に分けた
Forrester分類
(6)は心不全の病態把握に有 用であり、また病型の進行に伴い死亡率の増加が示されている
(図
2)。
一方、
Stevenson-Noriaの分類
(7)は
Forrester分類と異なり右心カテーテルが不要 であり、末梢循環および肺聴診所見に基づいた心不全患者のリスクプロファイ ルとして優れている
(図
3)。
また、急性期治療では
clinical scenario(CS)分類
(8)を用いることが提唱されてお
り、これは来院直後の収縮期血圧をもとに
3分類、また治療戦略が明らかに異
なる急性冠症候群、右心不全症例を独立させて合計
5分類を行なう方法である
5
(
表
2)。急性心不全発症時は収縮期血圧が高いほど心予備能が高く、予後良好で
あるという知見に基づいており、
CS分類によって治療方針も大きく異なること から、心不全の初期治療では特に有用と考えられる。
CHART
試験の結果では心不全の原因となり得る疾患は多岐にわたり、心筋梗
塞のように心筋組織の直接的な障害により発症する場合や、弁膜症・高血圧等 による長期的心負荷が影響する場合、不整脈による頻拍または徐脈等のリズム 異常が血行動態の悪化を招く場合もある
(9)。心不全の基礎心疾患は,虚血性心 疾患が最も多くを占め,次いで弁膜症、心筋症、高血圧性心疾患が占めている
(図
4)(9-11)。
CHART
試験
(9)、
JCARE-CARD試験
(10)では、心不全患者の
1年死亡率
(全死亡
)はともに
7.3%であると報告されている。また
JCARE-CARD試験では、心不全増 悪による再入院率は退院後
6か月以内で
27%、
1年以内では
35%であった
(10)。そ の原因を分析すると、感染症、不整脈、虚血性心疾患、血圧異常などの併発に 加え、塩分・水分制限の不徹底、過労、治療薬服用の不徹底、精神的・身体的 ストレスなどの生活環境要因の関与も高率であった
(10)。
以上より心不全管理の目標は、死亡率の改善とともに、治療コンプライアン
スを高めることによる心不全再入院の防止が重要と考えられている。
6
第三節 心不全の診断
心不全の主病態は、左房圧の上昇や心拍出量の低下に起因する左心不全と、
全身の浮腫、肝腫大が顕著な右心不全に大別される
(図
5)。左心不全では肺うっ 血による呼吸困難感が主症状となり、低心拍出の低下が著しくなると、全身倦 怠感、食思不振、四肢冷感等の末梢循環不全を呈することも稀ではない。浮腫 に伴う体重増加は通常
2~
3 kgに達する。
心不全が疑われた場合は、胸部
X線写真にて肺うっ血や胸水の有無、心陰影 拡大の有無を確認し、心電図検査で不整脈や波形の変化を観察する。
心不全の診断基準として、
Framingham診断基準
(12)が用いられ、大症状
2項 目、大症状
1項目
+小症状
2項目が該当すれば心不全と診断する
(表
3)。
また、心機能評価を行う際、心臓超音波検査による左心室の収縮能評価が有 用であり、
V-HeFTⅠ試験においては左室駆出率が
28%より低い症例は、それ以 上の症例に比較して予後は悪いとの報告がなされている
(13)。
近年では「収縮不全」を「左室収縮性が低下した心不全
(heart failure with reduced ejection fraction: HFrEF)」,「拡張不全」を「左室収縮性が保持された心
不全
(heart failure with preserved ejection fraction: HFpEF)」と分類される
(図
6)(14)。
7
第四節 心不全の薬物治療
ループ利尿薬を初め、多くの利尿薬が心不全治療に使用されているが、各利 尿薬の間では予後改善効果は証明されていない。慢性心不全に関する臨床試験 の解析結果では,ループ利尿薬の使用は予後悪化因子であるとも報告されてい
る
(15)。一方、純粋な水利尿を促進し,電解質異常やレニン
-アンギオテンシン
-アルドステロン系
(renin-angiotensin-aldsterone system: RAAS)の賦活化を来たしに くいバソプレシン
(arginine vasopressin: AVP)V2受容体阻害薬が近年では用いら れるようになった
(16,17)。
心不全患者では、交感神経系
(sympathetic nervous system: SNS)、
RAASの賦活 化が、左室拡大と収縮性の低下、すなわち心筋リモデリングを生じ,予後の悪 化に影響すると考えられており、このような神経体液性因子をコントロールす ることが慢性心不全治療の中心となりつつある。
アンギオテンシン変換酵素
(angiotensin coverting enzyme: ACE)阻害薬は、
CONSENSUS(18)
、
SOLVD(19)等の大規模臨床試験により、左室収縮不全に基づく
心不全患者、あるいは心筋梗塞後患者の生命予後を改善させると確立されてい る。
一方、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬
(angiotensin II receptor blocker: ARB)においても、心不全の予後改善効果がいくつかの臨床試験で証明されたが
8
(20,21)
、
ACE阻害薬と
ARBを比較した
ELITE II(22)では、
ACE阻害薬に対して非劣
性の評価に留まっている。
さらにアルドステロン受容体拮抗薬においては、
RALES試験で重症心不全患 者へのスピロノラクトンの併用投与が全死亡率,心不全死亡率,突然死のいず れをも減少させることが明らかとなった
(23)。
β
遮断薬は
US Carvedilol study(24)、
CIBIS(25)、
MERIT-HF(26)において、心不全患
者の生命予後改善効果、及び心不全増悪抑制効果が明らかとなった。その後も
MUCHA
試験
(27)では用量依存性の予後改善作用が報告され、
COPERNICUS試験
(28)
では左室駆出率が
25%以下の超低心機能患者群においても有意な予後改善作
用が得られた。
これらの臨床研究を基盤に、慢性心不全治療ガイドライン
(29)では図
7のよう
な治療指針が推奨されている。
9
第五節 心不全の増悪と神経体液性因子の関連
血行動態のバランスは、心拍出量と循環体液量、血管抵抗に規定され、これ らはまた神経体液性因子により調節されている。神経体液性因子は
RAAS、
SNSに代表され、正常状態ではバランスが保たれているが、心筋虚血、血圧上
昇、炎症の存在など、様々な負荷により活性化し、当初は心機能を保持し重要 臓器への灌流圧を維持する為の代償機序が働く。しかし神経体液性因子の活性 化が過度に続くと、血管収縮・左室肥大による心負荷の悪循環が始まり顕性心 不全に陥る
(30,31)。 このため慢性心不全の発症進展には,神経体液性因子のバ ランスの破綻が重要であると考えられている
(図
8)(32)。
SNS
は、主にアドレナリン、ノルアドレナリン
(noradrenaline: NA)に代表され
る神経体液性因子であり、血管運動中枢の亢進をもたらし、慢性的に作用が持 続すると心負荷を増大させ、不整脈の誘発や心筋障害を来たし、結果として心 機能を悪化させる。また心不全では
RAASの賦活化により、アンジオテンシン
Ⅱが過剰に産生され、
SNSとは独立的に心筋のリモデリングに関与していると 報告されている
(33,34)。
その他に、主として心室で合成され、心室への負荷により血中濃度が上昇す
る脳性ナトリウム利尿ペプチド
(brain natriuretic peptide: BNP)(35)や、血管内皮細
胞より分泌されるエンドセリン
(36)、炎症性サイトカインにより分泌が亢進され
10
るアドレノメデュリン
(37)も心不全に関与する神経体液性因子に該当する。
特に血漿
BNP値の測定は、慢性心不全の診断と重症度評価に有用と考えられ
ている
(38,39)。
11
第六節 心不全患者における予後予測因子としての神経体液性因子
心不全の予後予測因子となる神経体液性因子として、
BNP以外にも
NA(40)や エンドセリン
(41)、インターロキン
-6 (42)等が報告されている。特に血漿
BNP値に おいては重症心不全患者の予後を推定する因子となり得る報告がなされ
(43)、血 漿
BNP値の上昇に従い死亡率も上昇することが報告されている
(44)。
一方、抗利尿ホルモンとして作用する
AVPは
9個のアミノ酸からなるペプチ ドホルモンであり、視床下部で産生され、下垂体後葉から分泌される。
AVPは 血管平滑筋に分布する
V1a受容体を介して血管収縮に働き、また心筋細胞に対 しては心筋リモデリング作用を有する
(45)。また、腎集合管では、
AVPシグナル は
V2受容体を介し、細胞内サイクリック
AMP濃度を上昇させ、
Aキナーゼを上 昇させる。
Aキナーゼは細胞内にあるアクアポリン
-2を尿細管腔側に移行さ せ、管腔内の水を細胞内に再吸収する
(図
9)。
AVP
は心不全で上昇することが知られており
(46)、特に心機能が不良な患者で
は心不全急性期の
AVP高値群は予後が不良と報告されている
(47)。心不全安定期 の血漿
NA値もまた、血漿
AVP値と同様に心不全患者の予後と関連することが 報告されている
(40,48,49)。
以上のように、
AVPと
NAは、心不全予後に大きく関係する代表的なバイオマ
ーカーではあり、同じ神経体液性因子ではあるものの、両者の分泌刺激による
12
生体内での反応は異なる。このため、異なる
2つのバイオマーカーの両者が高 値であれば、単独のバイオマーカーの評価より心血管事故の予後リスクが上昇 する可能性がある。これまでにも、急性心不全患者の
risk stratification strategyを適切に行うために多種のバイオマーカーを用いることによって心事故発生の 予後の階層化の有用性が高まることが多く報告されている
(50,51)。
多種存在する神経体液性因子の中でも、強力な体液貯留を促す
AVPと、交感 神経活性を直接的に反映する
NAは、心不全の病態形成に、密接に関係してい ると考えられる。しかしながら、これまでの研究報告からは
AVP、
NA両者の 関係性については未だ不明な点が多い。さらに両者を組み合わせた評価法が、
ADHF
患者の慢性期予後に対するリスク階層化に有用であったという報告はな
い。
13
第七節 本研究の仮説
そこで我々は、
ADHF患者の予後は血漿
AVP値、
NA値に比例して悪化し、
さらに両者を組み合わせた評価方法が、予後リスクの層別化に有用であると仮
説を立てた。
14
第八節 本研究の目的
本研究の目的は、
ADHFで入院し、生存退院した患者において、入院時の血漿
AVP値と血漿
NA値と心事故発生との関係を検討し、さらに両者を組み合わせ
ることによって、心事故発生のリスク評価が向上するか否かを検討することで
ある。
15
第二章 対象と方法
1.
研究デザインと対象
本研究は、
ADHF患者の生存退院した症例において、入院時血漿
AVP値と
NA値と心事故発生との関連性を検討した、後ろ向き観察研究である。対象は
2008年
4月
1日から
2012年
3月
31日の期間に、川口市立医療センター心臓集中治 療室
(coronary care unit: CCU)に搬送された心血管緊急症
954例のうち、入院時に 採血を施行し、尚且つ生存退院した
ADHF患者
293例である。
2.
エンドポイント
本研究のエンドポイントは心臓突然死、または心不全増悪による再入院とし た。
3.
診断基準
研究対象は、急性心不全症状が疑われて来院した患者の内、
Framinghamうっ
血性心不全診断基準に該当する症例とした
(表
3)(12)。心臓突然死の定義はブラウ
ンワルドの定義を参照し、予期せずに
1時間以内に死亡した症例とした
(52)。高
血圧の診断は収縮期血圧が
140mmHg以上、または拡張期血圧が
90mmHg以上、
16
もしくは降圧薬を内服していた症例とした。糖尿病の診断は、空腹時血糖
126mg/dL
以上で、ヘモグロビン
A1c(HbA1c)が
6.5%以上であった症例、または
糖尿病治療薬で加療されていた症例とした。脂質異常症の診断は、低比重リポ 蛋白コレステロール
(low-density lipoprotein cholesterol: LDL-C)が
140mg/dL以上、
中性脂肪
(triglyceride: TG)が
150mg/dL以上、高比重リポ蛋白コレステロール
(high-density lipoprotein cholesterol: HDL-C)が
40mg/dL以下、脂質異常症治療薬の
内服歴のいずれかに該当する症例とした。慢性腎機能障害
(chronic kidney disease: CKD)の診断は、推定糸球体濾過量
(estimated glomerular filtration rate:eGFR)
が
60ml/min/1.73m2以下とした。喫煙歴は、喫煙中の症例、または過去
1年
以内に喫煙歴のあった症例と定義した。
4.
除外規準
本研究の除外規準は、かかりつけ医のない患者、標準的治療に同意が得られな かった患者、透析患者とした。
5.
解析項目
解析は下記の順番で行なった。
1. ADHF
の予後リスクの評価に、血漿
AVP値と血漿
NA値の組み合わせの妥
17
当性と、心事故発症の予測精度を評価するため、下記に挙げた心不全増悪 因子について
receiver operating characteristic (ROC)解析を行い、
area under the curve (AUC )を算出した。
①
body mass index (BMI)② 入院時
hemoglobin (Hb)③ 入院時血清ナトリウム濃度
④ 入院時
eGFR⑤ 入院時血漿
N-terminal pro brain natriuretic peptide (NT-proBNP)⑥ 入院時左室駆出率
( left ventricular ejection fraction: LVEF)⑦ 退院時心拍数
⑧ 血漿
AVP値
⑨ 血漿
NA値
2.
心事故発生群と非発生群の
2群間で患者背景を比較した。
3. AVP
値と
NA値を
3分位にわけ
3群間で患者背景およびエンドポイント発
生率を比較した。
4.
多変量
Cox比例ハザードを用い、独立変数を
AVPと
NAの三分位、従属変
数を心事故発生の有無とし、以下の
3つの
Modelに分けて解析を行なっ
た。
18
①
Model 1:補正なし。
②
Model 2:年齢と性別で補正した。
③
Model 3:年齢、性別、
BMI、高血圧の有無、脂質異常症の有無、糖尿
病の有無、喫煙歴の有無、入院時
Hb、入院時
eGFR、入院時血漿
NT-proBNP
、入院時
LVEF、退院時心拍数および退院時処方
[ACE阻害薬ま
たは
ARB、高用量ループ利尿薬
(≥ 40mg/day)、アルドステロン受容体拮 抗薬および
β遮断薬
]の服用の有無で補正した。
5. AVP
および
NA値の両者とも
1T(最小値
-第
1三分位数
)に含まれる患者を
low risk group (Group L)とし、両者とも
3T(第
2三分位数
-最大値
)に含まれる
患者を
high risk group (Group H)とし、
2群間の心事故発生率をカプランマイ ヤー曲線を用いて比較した。
6.
倫理的配慮
本研究は、川口市立医療センター倫理委員会で
2016年
3月
7日に承認が得られ
(
承認番号
2015-52)、対象患者からは全例、文書によるインフォームドコンセン
トを得て施行した。
7.
測定方法
19
血漿
AVP値はラジオイムノアッセイ法
(SRL社
)で測定を行った。血漿
NT-proBNP
値は電気化学発光法によるイムノアッセイ
(SRL社
)で測定を行った。血
漿
NA値は高速液体クロマトグラフィー
(SRL社
)で測定を行った。
eGFRの計算式 は、男性では
eGFR(ml/min/1.73m2)=194×Cr-1.094×年齢
-0.287、女性では
eGFR(ml/min/1.73m2)=194×Cr-1.094×
年齢
-0.287×0.739を用いた
(53)。また、入院時全
例に経胸壁心臓超音波検査を施行し、
LVEFを測定した。
8.
統計解析
すべての統計解析は
SPSS version 12.0 (Statistical Package for the Social Sciences, IBM社
)を用いて行った。連続変数は平均値
±標準偏差、カテゴリー変数はパー センテージで表記した。
2群間での差を求めるために、連続変数は
t検定を行 い、カテゴリー変数は
2検定を行った。正規分布をしない連続変数は中央値
(四 分位数
)で表記し、
2群間の差は
Mann-Whitneyの
U検定を用いて検討した。
3群の比較は
Bonferroni法による
ANOVA(analysis of variance)を用いた。多変量解 析は
Cox比例ハザードモデルを用いた。生存曲線は
Kaplan-Meier法を用い、
log-rank
検定を用いて有意差を算出した。連続変数における相関関係を確認す
るために、正規分布する項目は
Pearson順位相関、正規分布を認めない項目は
Spearman
順位相関を使用した。
p値は
0.05未満を統計学的に有意と認識した。
20
第三章 結果
1.
患者背景
293
例のうち
2例は追跡不能のため、
291例を対象とした。
(追跡率
: 99.3%)観
察期間中央値は
487日
[四分位範囲
(interquartile range: IQR) 130/730日
]であった。
男性は
180例、女性は
111例、平均年齢は
72±12歳であった。
各心不全予後規定因子の心事故発生の予測精度を求める
ROC解析では
AVP値または
NA値の
AUCは
AVP 0.613、
NA 0.633であり、両者は他のパラメータ
に比較して高値であったために、本研究の対象群における心事故予測のリスク 評価の組み合わせとして、両者を用いることの妥当性を確認した
(表
4)。
2.
心事故発生の有無における比較検討
追跡期間中、
41例に心事故発生を認め、その内
38例は心不全増悪による再入 院で、
3例は心臓突然死であった。心事故発生群では心事故非発生群と比べ、血 漿
AVP値
(p = 0.014)と
NA値
(p = 0.007)は有意に高値を示した
(図
10)。心事故発 生群は心事故非発生群と比較し、有意に高齢
(p = 0.029)、女性の割合が高率
(p =0.011)
であった
(表
5)。また心不全の入院歴のある症例は心事故発生群で有意に
高く
(p = 0.011)、入院前にアスピリンを内服していた症例
(p = 0.002)、フロセミド
21
を内服していた症例
(p = 0.049)は心事故発生群で有意に高率であった。
eGFR
は、心事故非発生群に比較し心事故発生群で低い傾向を示したが、有意
差は認められなかった。退院時処方において、高用量のループ利尿薬
(フロセミ
ド
40mg)を要した症例数は、心事故発生群では心事故非発生群に比較して有意
に高かったが
(p = 0.012)、その他の薬剤の処方率は
2群間で有意な差を認めなか った。心不全の原因については心事故発生群、非発生群で有意な差は認められず、
その他の項目についても
2群間で有意差は認められなかった。
3.
血漿
AVP値の三分位での比較
AVP
三分位が高くなるに従い
BMI(p = 0.018)、
Hb値
(p = 0.002)はそれぞれ減少
した。入院時の
LVEFは、
AVP三分位が増加すると共に減少し
(p = 0.001)、
LVEFが
40%以下の症例数も同様に、
AVPが高値になるに従い増加した
(p = 0.001)。退 院時の心拍数は
AVP三分位で有意な差を認めたが
(p = 0.014)、その他の項目につ いては
3群間で明らかな差を認めなかった。退院時の処方薬剤についても
AVP三分位との関連は認められなかった
(表
6)。
4.
血漿
NA値の三分位での比較
NA
値が高値なほど、
CKD患者数は増加する傾向が得られ
(p = 0.028)、
Hb値
22
は減少した
(p = 0.001)。入院時の
LVEFは
NA三分位が増加するほど減少し
(p =0.001)
、また
LVEFが
40%以下の症例は同様に、血漿
NA値が上昇するほど増加
した
(p = 0.001)。退院時にループ利尿薬を要した症例は、血漿
NA値が増加する
ほど高頻度であったが
(p = 0.031)、他の薬剤については
NA三分位と明らかな関 連性は認められなった。そのほかの患者背景についても、
NA三分位間で明らか な差は認められなかった
(表
7)。
5.
心事故発生の検討
血漿
AVP値と血漿
NA値と、
ADHF患者の心事故発生との関連を検討するため に、それぞれの低値群
(1T)に対する高値群
(3T)のハザード比
(hazard ratio: HR)を、
Cox比例ハザードモデルを用いて解析を行った
(表
8)。
Model 1, Model 2およ び
Model 3いずれの解析方法においても、
AVP(p = 0.038)、
NA(p = 0.023)は
3T群 で有意な
HRの上昇を認めた。
血漿
AVP値の
1Tに比較した、
3Tの
Kaplan-Meiers生存曲線は、心事故発生が著 明に増加していた
(p = 0.049)(図
11)。血漿
NA値の
Kaplan-Meier生存曲線もまた、
3T
は
1Tと比較し、心事故発生は有意に高値であった
(p = 0.006)。
さらに血漿
AVP値と血漿
NA値を組み合わせることによって、
ADHF患者の
長期的な心事故発生のリスクの層別化を行った。 血漿
AVP値と血漿
NA値とは、
23
正の相関関係を示した
(r = 0.57, p < 0.001)(図
12)。
高リスク群
(high risk group: Group H)と低リスク群
(low risk group: Group L)と の間で、 心事故発生のリスクを解析するために
Kaplan-Meier解析を行った
(図
13)。
Group Lは血漿
AVP値と血漿
NA値が、それぞれ
1Tに含まれる患者群
(n = 59)で
あり、
Group Hは血漿
AVP値と血漿
NA値が、それぞれ
3Tに含まれる患者群
(n= 65)
である。
Group Hの心事故発生は
Group Lと比較し、著明に高値であり
(p =0.017)
、その
HRは血漿
AVP値、血漿
NA値の三分位を単独で比較した値よりも
高値であった。
血漿
AVP値の
3Tと、血漿
NA値の
3Tにおける心事故発生率はそれぞれ
96例中
18例
(18.8%)と
98例中
21例
(21.4%)であった。さらに
Group Hの心事故発
生率は
65例中
16例
(24.6%)であった
(vs. AVP 3T, p = 0.371; vs. NA-3T, p = 0.618)。
24
第四章 考察
本研究結果の要旨は以下のようである。
1) ADHF
で入院し生存退院した患者において、入院時の血漿
AVP値と
NA値
は、心事故発生群では非発生群に比較して有意に高値であり、血漿
AVP値と
NA値はいずれも、心事故発生の独立した予後予測因子になることが示唆され た。
2)
心不全増悪時に上昇する血漿
AVPと
NAは類似した血行動態を示し、両者 の高値群と低値群とを比較した
HRは、血漿
AVP値・血漿
NA値の単独で検討 した値より高値を示した。すなわち、
ADHF患者で生存退院した患者の予後予 測において血漿
AVP値と血漿
NA値を用いた単独での評価よりも、両者を組み 合わせたほうが予後リスクの評価が向上する可能性が示唆された。
心不全予後に関係する、異なる複数のバイオマーカーの組む合わせる方が、
単独のバイオマーカーの評価より心血管事故発生の予測能力が向上することは 理にかなった現象であると思われる。とりわけ、異なる神経体液性因子の組み 合わせによって心不全の予後のリスク階層化を行うことは、心不全が増悪する 病態を考える上で、その予防の治療戦略を考えるうえで有用と思われる。一方 で、本研究結果では心不全入院時の
AVPと
NAは正の相関関係を示したが、
AVP
値と
NA値が解離した症例も存在しており、
AVP値と
NA値の解離した症
例群での差異を調べるために、
AVP高値+
NA低値の組み合わせ
(AVP3T-NA1T群
)と
AVP低値+
NA高値の組み合わせ
(AVP1T-NA3T群
)の
2群で患者背景を比
25
較した。症例数の少ない検討ではあるが、年齢、性別、既往歴、入院前内服薬 及び心不全の原因のいずれにおいても有意差は認められなかった。心不全の急 性期における
NAの分泌刺激は、心拍出量の低下による圧受容体反射が主であ り
(54)、一方で
AVPは圧受容体反射に加え、浸透圧の上昇が分泌刺激因子とな る
(55)。
NAと
AVPはともに末梢血管の収縮作用、心筋リモデリング作用を持ち 合わせているが
(33,34,45)、
AVPはさらに腎集合管における水再吸収を促進する作 用がある。本研究結果から、
AVPと
NAを組み合わせる評価法は心不全患者の 予後予測に有用と考えられる。前述同様、
AVPと
NAはそれぞれ分泌経路と生 体内での作用機序が異なっているので、
AVPあるいは
NA単独で心不全予後の マーカーとしての独自の相違が見出される可能性がある。
また、
CS分類と神経体液性因子についても検討した。
CS分類では血圧が
100mmHg
未満の心不全症例と定義される
CS3が最も死亡率が高い
(56)。
ADHF患者の入院時血圧が低いほど、長期予後が悪くなる結果も報告されている
(57)。 これまでに
CS分類と心不全バイオマーカーを比較した研究は、我々が検索し た限りは報告が無いが、
AVPと
NAはいずれも心不全の重症度と相関すること
から
(40,47-49)、
CS3群において高値を示すと考えられた。しかしながら
CS1、
CS2
および
CS3の
3群間の比較において、
AVP値と
NA値はいずれも有意差を
認めなかった
(AVP: p = 0.494, NA: p = 0.995)(図
14)。一方で、
CS1群と
CS3群の
2群間で
AVP値と
NA値を比較した場合は、
AVPは
CS3群において有意に低値
となり
(p = 0.044)、
NAには有意差を認めなかった
(p = 0.390)。血圧高値を示す
CS1群において、
AVPのみが有意に高値を示したことは、同じ血管収縮作用を
26
示す
AVPと
NAにおいても、その詳細な生理活性が異なる可能性を意味してい ると考えられる。さらに
AVP値または
NA値と血圧の相関を検討すると、
AVPでは相関を認めたが
( r = 0.196, p < 0.001)、
NAでは有意な相関は認められなか った
( r = 0.113, p = 0.055)。今後、症例数を積み重ねることにより、
CS分類にお いても、新たな心不全バイオマーカーの特徴が報告される可能性がある。本研 究は
ADHF患者の予後規定因子である血漿
AVP値と
NA値を組み合わせるこ とによって、
ADHF患者の予後リスクの階層化を行った初めての報告である。
多くの基礎研究・臨床試験では、心不全治療は血漿
AVPと
NA値などの血管 作動性神経体液性因子の活性を抑制することによって、心機能を改善させるこ とが報告されている
(58-60)。
LVEFは
ADHF患者の予後規定因子として重要であ ることを考慮すると
(61)、心事故発生例では血漿
AVP値と
NA値の低下と
LVEFの改善が不十分であったことも関与していると考えられた。心事故発生群と非 発生群では
LVEF値は統計学的有意差を認めず、
HFpEF ( LVEF ≥ 40% )と
HFrEF ( LVEF < 40% )の症例数にも有意差を認めなかった。
HFrEFは
HFpEFよ り予後が悪いという報告があるが
(62)、この報告のエンドポイントは心臓死また は全死亡とされていた。一方で、死亡率、心不全再入院をエンドポイントとし た研究では、
EFpEFと
HFrEFには明らかな予後の差は無かったと報告されてお り
(63)、本研究も同様の結果であった。
本研究結果から、
SNSの賦活による血漿
NA値の上昇も、
RAASの活性化と
同様に、
ADHF患者の慢性期予後に寄与する因子であると考えられた。これ
は、
ADHF患者に対する
RAAS阻害薬の有効性と同様に、
NA分泌の増加を抑
27
制する
β遮断薬が、
ADHF患者の慢性期予後を改善するという多くのエビデン スを支持するものと考えられた
(64,65)。
ADHF
患者においても心不全の重症度と血漿
AVP値が相関することが報告さ
れている
(66,67)。近年、本研究結果と同様に心不全患者において血漿
AVP値、あ
るいは
C末端プレプロバソプレシンである血漿コペプチン値の高値群での長期 予後が不良であることが報告されている
(68)。特記すべきは
AVPの作用を抑制 するバソプレシン
V2受容体阻害薬であるトルバプタンによって心不全患者の 短期的な症状の改善効果が示されている点である
(16,17)。これは血漿
AVP値の高 値例ほど予後不良であり、その活性を抑制することが
ADHF患者の病態を改善 することに繋がる可能性があるという我々の結果を支持するエビデンスと考え られる。今後、
AVPの生理活性をより詳細に心不全の病態に照らし合わせるこ とにより、
ADHFの新たな治療のスペクトラムが拡大する可能性がある。
本研究の第一の限界は、退院時の血漿
AVP値と血漿
NA値の関連や、その他
の心不全予後に関連する因子について検討できていないことである。過去の報
告からは、
BNP(42)や
NA(48,49)は退院時の値が慢性期予後と関連する結果が得ら
れている。本研究結果では心不全患者の入院時血漿
NT-proBNP値と、慢性期の
予後とは関連を認めなかったが、心不全患者の急性期血漿
BNP値は慢性期予
後に影響しないとこれまでにも報告されており
(69)、退院時の血漿
NT-proBNP値で評価することも今後の課題と考えられた。
LVEFについても、退院時の値
を用いて慢性期予後の評価を行なう必要があると考えられた。しかし、近年は
急性期バイオマーカーの値が慢性期予後を予測するとの報告も散見されており
28
(70,71)
、本研究結果も意義のある結果と考えられた。さらに、本研究は単施設で
の検討で症例数も限られており、患者選択や治療のバイアスが存在することは 否定できない。今後は本結果の妥当性を検証するために大規模多施設研究、あ るいは薬剤の介入による検討が必要である。本研究では、
ADHF患者の血漿
AVP値と
NA値を組み合わせた評価法が、各々単独での評価法に比べ、より適 切な予後のリスク層別化に有用である可能性を検証した。本研究の結果は我々 の仮説を支持するものであったが、今後エビデンスとして確立するために、さ らなる臨床研究の蓄積が必要である。
AVPと
NAは生体内での活性経路及び代 謝経路が異なるが、心不全の発症に影響を与える同じ神経体液性因子である。
そのため、本研究では
ROC解析の結果からも両者を組み合わせることが妥当 と判断した。しかしながら、多くの心不全の予後予測因子が報告されており
(33-37, 41-44, 47-49)
、それぞれは非常に複雑なネットワークを介しており、さらに代謝
メカニズムも異なる。本研究で用いたバイオマーカーの組み合わせが最適な組
み合わせかどうかは今後の更なる検討が必要である。
29
第五章 結語
本研究の結果から、
ADHF患者における血漿
AVP値と血漿
NA値は、生存退
院例の心事故発生に寄与する因子であることを示した。さらに血漿
AVP値と血
漿
NA値を組み合わせることによって、心事故発生のリスク評価の向上が可能
であることが示唆された。
30
謝辞
本研究において直接ご指導をいただきました日本大学医学部内科学系循環器 内科学分野 谷樹昌診療教授、川口市立医療センター 立花栄三先生に深く感 謝いたします。
利益相反
本論文内容に関し、開示すべき著者の利益相反
:無し
31
表
1 NYHA Functional Classification(
文献
4,5より改変
)32
表
2クリニカルシナリオ分類
(
文献
8から改変
)33
表
3 Framingam診断基準
(
文献
12から改変
)34
表
4. ROC曲線を用いた各バイオマーカーの
AUCAUC 95%CI
Body mass index 0.49 0.40 - 0.59
Hb 0.57 0.46 - 0.67
Serum sodium 0.54 0.44 - 0.65
eGFR 0.42 0.54 - 0.73
NT-proBNP 0.53 0.44 - 0.63
LVEF 0.52 0.42 - 0.61
Heart rate at dischage 0.52 0.43 - 0.63
AVP 0.61 0.52- 0.71
NA 0.63 0.54 - 0.73
AUC,
曲線下面積
; 95%CI, 95%信頼区間
; Hb,ヘモグロビン
; eGFR,推定糸球体濾過量
; NT-proBNP, N末端プロ脳性ナトリウ
ム利尿ペプチド
; LVEF,左室駆出率
; AVP,バソプレシン
; NA,ノルアドレナリン
35
表
5.心事故発生の有無における比較
Variables Cardiac Event(+)
n = 41
Cardiac Event(-)
n = 250 P
Age (years) 76 ± 12 71 ± 11 0.029
Male gender, n (%) 18 (43) 162 (64) 0.011
Body mass index (kg/m2) 22.6 ± 4.1 23.2 ± 4.1 0.959
Hypertension, n (%) 29 (71) 185 (74) 0.660
Diabetes mellitus, n (%) 18 (44) 94 (38) 0.442
Dyslipidemia, n (%) 14 (34) 74 (30) 0.557
Current smoking, n (%) 11 (27) 78 (31) 0.574
Chronic kidney disease, n (%) 33 (80) 174 (70) 0.154
History of heart failure hospitalization, n (%) 19 (46) 67 (27) 0.011 Pre-admission medication
Aspirin, n (%) 24 (59) 84 (34) 0.002
Clopidogrel, n (%) 5 (12) 15 (6) 0.146
Warfarin, n (%) 10 (24) 41 (16) 0.212
ACEIs / ARBs, n (%) 20 (49) 119 (48) 0.889
Loop diuretics, n (%) 25 (61) 111 (44) 0.049
Furosemide < 40mg/day, n(%) 14 (34) 67 (27) 0.331
Furosemide ≥ 40mg/day, n (%) 11 (27) 45 (18) 0.184
Aldosterone receptor antagonists, n (%) 12 (29) 58 (23) 0.399
Beta blockers, n (%) 17 (41) 75 (30) 0.143
Calcium channel blockers, n (%) 16 (39) 70 (28) 0.152
36 Continued
Nitrates, n (%) 5 (12) 18 (7) 0.273
Statins, n (%) 15 (37) 65 (26) 0.159
Vital sign on admission
Systolic blood pressure (mmHg) 158 ± 37 166 ± 36 0.227
Diastolic blood pressure (mmHg) 86 ± 23 92 ± 25 0.144
Heart rate (bpm) 115 ± 23 108 ± 29 0.142
Laboratory profile on admission
Hb (g/dL) 11.7 ± 2.6 12.5 ± 2.4 0.054
hs-CRP (mg/dL) 0.4 (0.2/1.6) 0.6 (0.3/1.6) 0.503
Serum sodium (meq/L) 140 ± 4.5 140 ± 4.3 0.682
Creatinine (mg/dL) 1.2 (0.9/1.5) 1.1 (0.8/1.4) 0.249
eGFR (mL/min/1.73m2) 41.1 ± 19.7 50.4 ± 23.1 0.063
HbA1c (%) 5.9 (5.3/6.7) 5.7 (5.2/6.6) 0.553
NT-proBNP (pg/mL) 5758 (3204/10200) 4748 (2204/10010) 0.317
Cardiac Function on admission
LVEF (%) 44.1 ± 14.4 43.4 ± 16.4 0.801
EF < 40%, n (%) 17 (44) 111 (45) 0.841
Etiology
OMI, n (%) 10 (24) 82 (33) 0.283
HHD, n (%) 13 (32) 58 (23) 0.240
Tachyarrhythmia 2 (5) 21 (8) 0.438
Bradyarrhythmia 0 (0) 9 (4) 0.217
37 Continued
VHD, n (%) 10 (24) 61 (24) 0.999
Cardiomyopathy, n (%) 6 (15) 19 (8) 0.136
Treatment at acute phase Injection drugs
Furosemide, n (%) 39 (95) 243 (97) 0.476
Nitroglyceline, n (%) 2 (5) 27 (11) 0.241
Dobtamine, n (%) 8 (20) 58 (23) 0.596
Carperitide, n (%) 32 (78) 193 (77) 0.904
Oral drugs
Tolvaptan, n (%) 0 (0) 1 (0.4) 0.685
Cardiac rehabilitation, n (%) 15 (37) 101 (40) 0.644
Vital sign at discharge
Systolic blood pressure (mmHg) 112 ± 15 114 ± 18 0.454
Diastolic blood pressure (mmHg) 60 ± 12 63 ± 11 0.072
Heart rate (bpm) 72 ± 12 71 ± 14 0.588
Laboratory profile at discharge
Hb (g/dL) 12.4 ± 2.3 12.1 ± 2.2 0.424
hs-CRP (mg/dL) 0.2 (0.1/0.9) 0.3 (0.2/0.8) 0.326
Serum sodium (meq/L) 138 ± 4.1 138 ± 4.1 0.866
Creatinine (mg/dL) 0.9 (0.8/1.4) 0.9 (0.8/1.3) 0.881
eGFR (mL/min/1.73m2) 51.8 ± 21.8 53.4 ± 27.0 0.723
Discharge medication
38 Continued
Aspirin, n (%) 20 (49) 133 (53) 0.599
Clopidogrel, n (%) 5 (12) 42 (17) 0.458
Warfarin, n (%) 12 (29) 71 (28) 0.919
ACEIs / ARBs, n (%) 37 (90) 211 (90) 0.328
Loop diuretics, n (%) 40 (97) 220 (88) 0.066
Furosemide < 40mg/day, n(%) 18 (44) 139 (56) 0.164
Furosemide ≥ 40mg/day, n (%) 21 (51) 78 (31) 0.012
Aldosterone receptor antagonists, n (%) 22 (52) 130 (54) 0.844
Beta blockers, n (%) 26 (58) 146 (63) 0.550
Calcium channel blockers, n (%) 6 (22) 54 (15) 0.307
Nitrates, n (%) 15 (37) 85 (34) 0.747
Statins, n (%) 17 (41) 97 (39) 0.746
正規分布する連続変数は平均値±標準偏差、正規分布しない連続変数は中央値
(四分位数
)で表記した。カテゴリー変数は数 値とパーセンテージで表記した。
Hb,
ヘモグロビン
; hs-CRP,高感度
C反応性蛋白
; eGFR,推定糸球体濾過量
; NT-proBNP, N末端プロ脳性ナトリウム利尿ペ
プチド
; LVEF,左室駆出率
; OMI,陳急性心筋梗塞
; HHD,高血圧性心疾患
; VHD,弁膜症性心疾患
; ACEI,アンギオテンシン
変換酵素阻害薬
; ARB,アンギオテンシン
II受容体拮抗薬。
39
表
6.血漿
AVP値三分位と患者背景
Tertile of AVP
Variables 1T (n=99)
(0.5-6.3 pg/ml)
2T (n=96) (6.4-39.0 pg/ml)
3T (n=96)
(39.1-1090.0 pg/ml) P
Age (years) 72 ± 12 72 ± 13 72 ± 11 0.973
Male gender, n (%) 60 (61) 52 (54) 68 (70.8) 0.056
Body mass index (kg/m2) 23.9 ± 4.0 23.5 ± 4.8 1 22.2 ± 3.7 2 0.018
Hypertension, n (%) 71 (72) 70 (73) 73 (76) 0.780
Diabetes mellitus, n (%) 40 (40) 35 (36) 37 (39) 0.852
Dyslipidemia, n (%) 27 (27) 28 (29) 33 (34) 0.537
Current smoking, n (%) 38 (38) 26 (27) 25 (26) 0.115
Chronic kidney disease, n (%) 63 (30) 71 (34) 73 (35) 0.122
Laboratory profile on admission
Hb (g/dL) 13 ± 2.4 12.3 ± 2.4 1 11.8 ± 2.3 3 0.002
hs-CRP (mg/dL) 0.7 (0.3/1.7) 0.5 (0.3/1.4) 0.5 (0.2/2.0) 0.879
Serum sodium (meq/L) 140 ± 4 141 ± 5 140 ± 4 0.284
Creatinine (mg/dL) 1.0 (0.8/1.3) 1.1 (0.8/1.4) 1.2 (0.9/1.4) 0.389
eGFR (mL/min/1.73m2) 52.7 ± 22.2 50.0 ± 25.9 45.5 ± 19.5 0.089
HbA1c (%) 5.7 (5.2/6.9) 5.7 (5.3/6.7) 5.8 (5.2/6.4) 0.997
NT-proBNP (pg/mL) 4638 (2171/7608) 5313 (2574/11794) 4621 (2256/11471) 0.582
NA (pg/mL) 1059 (691/1459) 1487 (1038/2333) 3069 (1931/5077) 4, 8 0.001
Cardiac Function on admission
40 Continued
LVEF (%) 48.7 ± 17.8 42.2 ± 14.3 2 39.3 ± 14.5 4 0.001
EF < 40%, n (%) 33 (34) 40 (42) 55 (60) 3 0.001
Vital sign at discharge
Systolic blood pressure (mmHg) 113 ± 16 115 ± 16 113 ± 19 0.758
Diastolic blood pressure (mmHg) 64 ± 12 63 ± 12 63 ± 11 0.806
Heart rate (bpm) 72 ± 13 68 ± 13 1 74 ± 14 6 0.014
Discharge medication
Aspirin, n (%) 48 (48) 55 (57) 50 (52) 0.465
Clopidogrel, n (%) 18 (18) 11 (11) 18 (19) 0.310
Warfarin, n (%) 29 (29) 30 (31) 24 (25) 0.618
ACEIs / ARBs, n (%) 71 (72) 74 (77) 62 (64) 0.159
Loop diuretics, n (%) 84 (85) 90 (94) 82 (85) 0.104
Furosemide < 40mg/day, n(%) 52 (53) 51 (52) 54 (56) 0.856
Furosemide ≥ 40mg/day, n (%) 32 (32) 39 (41) 28 (29) 0.223
Aldosterone receptor antagonists, n (%) 42 (42) 55 (57) 55 (57) 0.055
Beta blockers, n (%) 53 (54) 61 (64) 58 (60) 0.346
Calcium channel blockers, n (%) 20 (20) 19 (20) 21 (22) 0.931
Nitrates, n (%) 36 (36) 31 (32) 33 (34) 0.836
Statins, n (%) 40 (40) 34 (35) 40 (42) 0.643
NA,
ノルアドレナリン。その他の略語は表
5を参照。
正規分布する連続変数は平均値±標準偏差、正規分布しない連続変数は中央値
(四分位数
)で表記した。カテゴリー変数は数
値とパーセンテージで表記した。
41
3
群間の比較は
Bonferroni法による
ANOVA(analysis of variance)を用いた。
1 p < 0.05, 2 p < 0.01, 3 p < 0.001, 4 p < 0.0001 vs. 1T 5 p < 0.05, 6 p < 0.01, 7 p < 0.001, 8 p < 0.0001 vs. 2T