論文の内容の要旨
氏名:中 村 秀
専攻分野の名称:博士(医学)
論文題名:高齢者脳梗塞例の転帰予測に関する研究:脳萎縮を加味した新たな評価法 Study on outcome prediction of elderly patients with cerebral infarction
-new predictive method in consideration of influence of brain atrophy
背景
高齢者の中大脳動脈(MCA)領域脳梗塞では脳萎縮の存在が生命、機能予後に影響すると報告されている。
そこでMCA領域脳梗塞の進展度評価として一般的に使用されるASPECTS DWI score (ADS)と我々が提 唱する梗塞面積測定法、さらにそれぞれに脳萎縮指標を考慮した方法で、急性期と慢性期の生命・機能予 後が予見可能かを評価した。
対象と方法
2009年から2011年までに当院に入院した60歳以上のMCA領域梗塞患者86例を解析した。ADSならび に発症から約 24 時間に撮影された頭部 CT にて、ADS に使用する同一スライスの梗塞面積を測定した (Area法)。さらに脳萎縮の程度をlinear measurementであるEvans Index (EI)を用いて測定し、EIを加 味した指標としてADS×EIとArea/EIを算出した。発症から1年間の生命予後、および6ヵ月後、1年 後の機能予後をModified Rankin Scaleを用いて評価した。それぞれのROC曲線を求め、Area under the curve(AUC)を比較した。
結果
1. 生命予後について
ADS法とArea法の比較ではArea法がより優れていた(AUC値、Area : 0.916、ADS: 0.857)。さらに EI を加味した Area/EI は、Area より鋭敏に神経症状の悪化を予見した(AUC 値の 95% CI、Area : 0.966-0.967、Area/EI: 0.970-0.971、t-test: p < 0.01)。Area/EIは感度 96.3%、特異度 90%で急性増悪を 予見し、そのcut off値は232.6であった。さらにArea/EI ≧ 232.6を呈した症例で、頭蓋内圧コントロ ール目的の外減減圧術が施された群と非手術群を比較すると発症から1から3ヶ月の累積生存率は手術群 で高かった。
2. 機能予後について
発症 6 ヶ月で評価した機能予後比較は Area が Area/EI より優れていた(AUC 値の 95% CI、Area : 0.910-0.921、Area/EI: 0.857-0.860、t-test: p < 0.01)。また前大脳動脈や後大脳動脈など他領域の梗塞の 合併が機能予後を著しく悪化させた。
考察
機能予後の予見にはArea法が優れておりEIを加味する利点はなかった。機能予後には脳の機能局在が大 きく関与しており、脳萎縮の程度に関わらず梗塞領域の進展状況が大きな因子であるためと考えられた。
しかし、生命予後の予見にはEIを加味したArea/EIが有用であった。これは脳梗塞による頭蓋内圧上昇の 許容範囲とEIが関連する因子であるためと考えられた。Area/EIがcut off値を超える症例に対しては将 来の急性増悪を未然に防ぐために外減圧術を行うことが望ましいと考えられた。
結論
脳萎縮を加味した梗塞領域の解析法は高齢者MCA領域脳梗塞患者の治療の一助になると考えられる。