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追想 東京医大病院の病室にて

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Academic year: 2021

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─ 275 ─

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東医大誌 75(3)

: 275

-

276, 2017

巻 頭 言

追想 東京医大病院の病室にて

聖路加国際大学名誉教授

(株)井部看護管理研究所代表  東京医科大学 学事顧問

井 部 俊 子 Toshiko IBE

今から

35

年以上も前のことになりますが、私は東京医大病院の病室で、大変強烈な経験をしました。そ の頃、私は聖路加看護大学(現聖路加国際大学)大学院看護学研究科修士課程に在籍していました。「看護 管理学」の専攻には二週間の管理実習が課せられていました。当時勤務していた「財団法人」聖路加国際病 院との管理運営を比較し視野を広げたいと考えて、「大学病院」を選びました。その大学病院が東京医科大 学病院(以下、東京医大病院と略します)でした。

東京医大病院には、以前に聖路加国際病院外科病棟の同僚であった外科医が入院していました。東京医大 が彼の出身大学であったからでしょう。その後私は何度かお見舞いに訪れました。

たしか初夏の頃だったと思います。私が訪れると、病室には彼と牧師がいました。ベッドに横たわってい る彼と、かたわらの椅子に腰かけうつむいて彼の話を聞いている牧師とのただならぬ気配に私は息をとめま した。彼は、病気になって余命いくばくもない自分の人生を小さな声でつぶやくように語っていました。牧 師はただひたすら聴いていました。彼が語り終えた頃、牧師は一粒の涙を流したのを私はたしかに目撃しま した。私はその時、人の話を聴くためのものすごいエネルギーを感じ圧倒されたのです。

後日、病室を訪れると、彼はめずらしくベッドから起き上がり、コーヒーを飲みにいこうと、病院の中に ある食堂に私を誘いました。彼は抗癌剤による副作用で髪は抜け、顔ははれぼったく、身体はだるそうでし たが饒舌でした。「僕はまだ

40

歳なのにどうして死んでいかなければならないのか。神は自分に試練を与え ているのだと人は言うけれど、こんなつらいのはもうたくさんだ。がんばりきれないように思う。あの世に は、自分がうけもちで亡くなった患者さんがきっと待っていてくれるだろう。でも、まだ子供は小さいし、

これで元気になったらもっといい医者になれるのに残念だ」と言って、顔をくしゃくしゃにして涙を流しま した。そして、「牧師さんは僕の話をただ黙ってきいてくれ、涙をすーっと流した。それだけだったのに、

なぜか救われた」と言いました。

その後、夏の終わりに彼は亡くなったとききました。東京医大病院の病室で私は「聴く」ことのすごさを 学んだのです。

(2)

東 京 医 科 大 学 雑 誌

276

75

巻 第

3

(  )

2

略  歴

井部 俊子(いべ としこ) IBE Toshiko

1969

年    聖路加看護大学 卒業

1969

-

1987

年 聖路加国際病院

1987

-

1990

年 日本赤十字看護大学 講師

1993

-

2003

年 聖路加国際病院 看護部長・副院長

2003

-     聖路加看護大学 教授(看護管理学)

2004

-

2016

年 聖路加看護大学 学長(2014年

4

月より聖路加国際大学に改称)

2016

-

2017

年 聖路加国際大学 特任教授

2017

-    聖路加国際大学 名誉教授

       株式会社井部看護管理研究所 代表        東京医科大学 学事顧問

博士(看護学)

【主な所属学会・社会活動等】

看護系学会等社会保険連合代表理事、医療の質・安全学会理事 日本看護管理学会評議員、日本看護科学学会評議員、

医療介護福祉政策研究フォーラム理事、

東京都中央区介護認定審査会会長、

株式会社日本看護協会出版会代表取締役社長

参照

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