ホ イ ッ トマ ン か ら ヴ ォ ー ン ・ウ ィリア ム ズ へ
複 合 テ クス トの観 点 か ら見 た 『海 の交響 曲』
(5)
塩 田 昇
本 論 II.第2楽 章
(承 前)
2.潜 テ ク ス トー デ ィー リ ア ス のSeaDriftを 中 心 に 一(2)
本 文 に 入 る 前 に 、 参 照 の 便 宜 の た め に 、 ホ イ ッ トマ ン 『草 の 葉 』 に よ る デ ィー リ ア ス の 作 品 の 後 半 部 の 歌 詞 テ ク ス ト[13]〜[16]を 再 度 、 挙 げ る(印 刷 の 字 体 の 相 違 も 含 め 、 歌 詞 テ ク ス ト自 体 に も デ ィ ー リ ア ス に よ る 手 が 加 え ら れ て い る 、e.g.イ タ リ ッ ク 体 と ロ ー マ ン体 の 区 別 を あ え て 取 りは ら う が 、 本 稿 で は 便 宜 上 、 復 活 さ せ た;
更 にChorus/Soloの 区 分 け の 表 示 の 後[]で 示 さ れ た 数 字 は 筆 者 に よ る 通 し 番 号):
SeaDrift
Chor皿s口3】
Or競 η85∫ αr5!
P8r枷1フ3'舵0η 〃wantsomuchwillrise,W'〃r醜W漉50膨{ゾyo配.
Othroat!Otremblingthroat!
Soundclearerthroughtheatmosphere!
P∫8rc召thewoods,theearth,
Somewherelisteningtocatchyoumustbetheonelwant.
Solo [14]
Shake out carols!
Solitary here, the night's carols!
Carols of lonesome love! death's carols!
Carols under that lagging, yellow, waning moon!
0 under that moon where she droops almost down into the sea!
0 reckless despairing carols.
But soft! sink low!
Soft! let me just murmur,
And do you wait a moment you husky voic'd sea.
For somewhere I believe I heard my mate responding to me, So faint, I must be still, be still to listen,
But not altogether still, for then she might not come immediately to me.
Hither my love!
Here I am! here!
With this just-sustain'd note I announce myself to you, This gentle call is for you my love, for you.
Chorus [15]
Do not be decoy'd elsewhere,
That is the whistle of the wind, it is not my voice, That is the fluttering, the fluttering of the spray, Those are the shadows of leaves.
0 darkness! 0 in vain!
Solo [16]
0 darkness! 0 in vain!
0 I am very sick and sorrowful.
- 18 -
Obrownhalointheskynearthemoon,droopinguponthesea!
Otroubledreflectioninthesea!
Othroat!Othrobbingheart!
Andlsinginguselessly,uselesslyallthenight.
0、past!Ohappylife/Osongsof/oッ!
Intheair,inthewoods,overfields,
Loved!loved!loved!loved!loved!
Butmymatenomore,nomorewithme!
Wetwotogethernomote.
[Delius,SeaDrfitHickox指 揮CHANDOS盤i、Bookletよ り]
デ イ ー リ ア ス(FrederickDelius1862‑1934)の 当 該 作 、 『バ リ トン 、 合 唱 、 オ ー ケ ス トラ の た め の 「潮 の ま に ま に 」』(SeaDrift‑forBaritoneSolo,MixedChorusand
Orchestra)の 後 半 部 の 、 複 合 テ ク ス トの 観 点 か ら の 具 体 的 テ ク ス ト分 析 に 入 ろ う。
後 半 部 は[練 習]楽 譜 番 号 圃Moltotranquilloか ら で あ る が 、 激 情 的 に 高 揚 し た ク ラ イ マ ッ ク ス で 終 わ っ た 前 半 部 終 結 部 と対 照 的 に 、 こ の 楽 想 指 示 の よ う に 、 非 常 に 静 か に 、 か つ 速 度 記 号Lentomanontroppo「 ゆ っ く り と 、 し か し過 度 に な ら ず 」 の テ ン ポ で 始 ま る 。 し か し、 團 ま で の 前 半 部 の 末 尾 に ご く短 い な が ら5小 節 の 間 奏 部 と 呼 べ る 部 分18が 続 い て い て 、 調 子 も 後 半 部 圃 の 嬰 ハ 短 調 に 先 取 り 的 に 転 調 し て い る こ と に 注 目 し よ う 。 実 は こ の わ ず か5小 節 の 間 奏 は 、 そ れ に 先 立 つ 、 前 半 部 の 、 バ リ ト ン ・ソ ロ の"mylove"で 終 わ る 絶 唱 の 終 結 に 続 く オ ー ケ ス トラ の 下 降 音 型 の 2小 節 分(こ の2小 節 で 既 に 嬰 ハ 短 調 へ の 準 備 が さ れ て い る)を 合 わ せ て み れ ば 、
下 降 音 形 「ミ ド シ ラ ラ ミ ド シ ラ … 」 に よ っ て 全 体 が 特 徴 づ け られ て い た 冒 頭 の 嬰 ハ 短 調 前 奏 部 を 要 約 的 に 再 現 し た 所 と も 考 え ら れ る の だ 。 そ の 眼 目 で あ る 、 連 続 す る 下 降 音 型 が 上 昇 音 型 に 転 じ る 前 奏 部 第21小 節 か ら 第25小 節 目 ま で の 例 の 折 り返 し 点 で の 、 憧 憬 の モ テ ィ ー フ が 現 れ る く だ り[本 稿(4)注(20)前 号p.48を 参 照 さ れ
た い]が 暗 示 的 に 再 現 さ れ て い る(18に 入 っ て か ら繰 り返 さ れ る 木 管 パ ー トの 下 降 気 味 の オ ー ボ エ に 支 え ら れ た 、 フ ル ー トに よ る 特 徴 的 上 昇 楽 句 に 注 意 、 特 に 第4、5
小 節 目の リタル ラ ン ドの ソロ ・フルー トのパ ー ト)。前 半 部 と後 半 部 の 間 で この よう な処 理 が され 、後 半 部 へ の緻 密 な導 入 ともな るこの 間奏 部 の書 法 に作 曲 家 の練 達 な 筆 致 を確 認 で きる訳 だ が 、更 に次 の こ とも指 摘 す るの を忘 れ な い で お こ う。 ここの 問奏 部 を含 め 、後 半 部 は、 曲全 体 の 構 造 と思 想把 握へ の鍵 とな るワー グナ ー の楽 劇
『トリス タ ンとイゾ ルデ』(憧憬 のモ テ ィー フは楽 劇 の 第1幕 へ の前 奏 曲の 冒頭 にあ り、
い わ ゆ る 「無 限旋 律 」 を胚 胎 してい た)と の 関連 が 前 半 部 と比 べ て よ り濃 厚 な こ と で あ る。 この 引用 関連 が 明瞭 にな るの は、 後 半 部 が 始 まって 更 に先 の ところ(楽 譜 番 号画 の 第8小 節 以 降、特 に20に 入 って か ら(22まで)と して も、 また、 よ り詳細 な 分 析 はそ こで行 うとして も、 全 体 的 な見 通 しと参 照 の便 宜 の ため には、 トリス タ ン の憧 憬 モテ ィー フをこ こで取 り上 げ るべ きだ ろ う。
トリス タ ン自身、 主 君 と して仕 える叔 父 コ ンウ ォー ルの マ ル ケ王 の ため に彼 が 問 に入 って連 れ て きた ア イル ラ ン ド王 女(海 を渡 っ ての 輿 入 れ の航 海 上 、2人 は運 命 的 恋 に陥 る)、 王后 イゾ ル デ との 道 な らぬ 恋 の悲 劇(ホ イ ッ トマ ンの 当 該Sea‑Drift 第1詩 も海 辺 の 恋 の悲 劇 で あ った こ とを思 い起 こそ う)は 前 奏 曲 冒頭 部 の次 の モ テ ィー フで既 に予 感 され てい る:
(譜例6)
憧 憬 の モテ ィー フA
EINLEITUNG.
Langsadchrnachtcnd・ ②憧 憬 のモ テ ィ̲フB
一 〉ン/r「 〉
①(・ 携 珊)
[説 明 の 便 宜 上 、 フ ル ス コ ア か らで は な く、 池 上(2006)よ り、 『フ ォー ラ ム 』p.104]
上 記 デ ィ,.リ ア ス の 当 該 曲(以 ドSD)前 奏 部 のL昇 に 転 じ る 折 り返 し 点 で の 一ヒ昇 音 型 は 具 体 的 跡 づ け は 省 略 す る が 、 明 らか に こ こ の 「憧 憬 の モ テ ィ ー フB」 に 基 づ く。
オ ー ケ ス ト ラ で は オ ー ボ エ の パ ー トで 共 通 し 、 悲 し み を 湛 え た 、 し か し永 遠 に 上 昇 し て 至 福 に 至 ろ う と す る 騎 土 トリ ス タ ン の イ ゾ ル デ に 向 け ら れ た 憧 憬 を 見 事 に 表 現 し て い る 。 ワ ー グ ナ ー で は し か も 更 に 、 チ ェ ロ の パ ー トが 奏 で る 「憧 憬 の モ テ ィ ー
一20一
フA」 が 低 音 部 を支 えて い る。 この 憧 憬Aは 階名 で は 「ラ ファフ ァ」 と一 応 イ短 調 で[本 当 はす ぐ触 れ る ように何 々調 は無 意 味 だ ろ うが]、(悲 しみ を湛 えて い るの は トリス タンが イゾ ルデ との 最 初 の 出会 い で そ の ような一 瞥 を送 って いた か らで あ り、
事 実 、 ワー グナ ー の この 第1幕 へ の 前 奏 曲で は 冒頭 の この憧 憬 の モ テ ィー フが 断続 的 に続 い て[従 っ て永 遠 に上 昇 して い く 「無 限 旋 律 」 の趣 が 生 まれ る]、 第17小 節 目か らいわ ゆ る 「まな ざ し」 の モ テ ィー フの 部分 に移 行 して 行 く)、 一旦 上 が ってか らミで 半 音 下 が るわ け だが 、上 記 譜 例6② の第3小 節 目で オー ボ エ ・パ ー トの憧 憬B が 上 声 部 で始 ま る と同 時 に このAは 更 に半 音 下 降 して レ#、 更 に第4小 節 目で 又 更
に 均で 半 音 下 が りレに至 り、 その 一 方 で、 オー ボ エ は半 音 階 的 な上 昇 を続 け る。 こ の愛 の憧 憬 は死 に至 る契 機 を孕 む とい うワー グ ナ ー の 「愛 死 」(独Liebestod)の 思 想 を支 える巧 妙 な音 楽 的仕 掛 けで あ る。 半 音 階 的 な上 向Aと 下 降Bの 同時 的 な対 位 法 で あ り、 か つ、 和 声 的 に は ソ#と レ#の 間で、 一・種 の浮 遊 感 と、 その 一 方 死 に向 か う下 降ベ ク トルの 奇 妙 な安 定 感 が 生 じ、 か つ 交錯 融合 す る斬新 な もの で、無 調 主 義 の現 代 音 楽 の扉 を開 い た革 命 的 な もの で あ った(音 楽 技 法 的 には 「トリス タ ン和 音」と呼 ばれ 属7和 音[譜 例6で は① の記 号 の箇 所]と の 関係 もあ って複 雑 だが 省略)。
デ ィー リア スが ホ イ ッ トマ ンの 当該 詩 群SD第1詩 に見 出 した の は、 具体 的 トリス タ ン伝 説 の物 語 の筋 を超 え た、愛 死 の普 遍 性 であ り、 従 って 自作 の音 楽 テ クス トの創 造 にお い て は、 ワー グ ナー の トリス タン引 用 は先 輩 作 曲家 に対 す る敬 意 の 表 明 な ど で は な く、作 品の根 幹 に関 わる こ とだ った ので あ る22)。 ホ イ ッ トマ ンで は帰 らぬ 雌 鳥 を待 ち続 け 、戻 って くる姿 を幻 視 して悲 痛 な声 で 叫 び、 やが て絶 望 の 中 で死 の 浄 化 に至 る雄 鳥 に同 苦(独Mitleid)す る少 年 の 頃 の詩 人 の 開 眼 で あ るが、 その 詩 テ クス ト生成 とどう絡 み合 うの か、 以 上の見 通 しの中 に置 い て、分 析 を進 め よう。
19は 合 唱 の"Orisingstars!"「 お お、 空 に のぼ りゆ く星 た ちよ、」で 開始 され る(コ ー ラス[13]第1詩 行)。 前 半 部 終 わ りで幻 視 した 最愛 の 妻 た る雌 鳥 の帰 還 の願 望 を 支 え る星 た ちに呼 びか け て始 まった の だ。 そ の星 た ち を背 に して、夜 空 に帰 還 の 姿 を 見 せ て ほ し い と い う願 望 で あ る(そ の 内 容 は 次 の 第2詩 行"PerhapstheoneI wantsomuchwillrise,willrisewithsomeofyou"「 ぼ くが これ ほ どま で に思 い を 寄 せ る そ の 人 が 、 君 た ち の うちの 誰 か とい っ し ょに 昇 って くる か も しれ ない の だ 」
で展 開す るが 、 楽 曲 で は その 英 語 の抑揚 に 自然 な フ レー ズが4部 合 唱 に 当て られ て いる)。"You"と は ここで は呼 びか け られ た星 た ちで、星 は憧 憬 の シ ンボル で あれ ば、
この 第1詩 行 に振 られ た196/4拍 子 、 最初 の2小 節 が 上 掲 の トリス タン憧 憬 のモ テ ィ ー フを変形 した もの を土 台 に して い る こ とも納 得 が い く。 仔 細 に 見 て い こ う。 最 初 の"Oris‑ing"3音 節 に当 て られ て音 符 は順 に、 付 点2分 音 符 、2分 音 符 、4分 音 符 で あ るが、 これ は上 記譜 例6第3〜4小 節② の 「憧 憬 のモ テ ィー フB」 の最 初 の 音 節 の、 付 点4分 音 符 、4分 音 符 、8分 音 符 の ち ょう ど2倍 に な っ て い る だ け で は な く、
拍 子 も6/4で 、6/8に 対 して音 長 で2倍 なが ら同 じ6拍 予で あ る。4小 節 目のr憧 憬 の モ テ ィー フB」 後 半 で 更 に音 形 が上 昇 して い く点 で も同 じで あ る。 和 声 上 の類 似 点 は指 摘 で きない が 、 また そ の後 半 で は前 半 と違 って、 小 節 全 体 の 音 長 が2倍 に な っ てい る以外 、 音符 配 列 は、譜 例 の ト音 記号 の 上段 低 音 部[オ ー ケス トラで はチ ェ「ロ ・ パ ー 肩 最 初 の2音 に対 して のみ 、2倍 の比 例 関係 が"stars"に 当て た タイでつ な い だ 付 点2分 音 と4分 音 符 に指 摘 で きる程 度 だ が、 「憧 憬 の モ テ ィー フB」 の1変 形 で あ る と言 え るの には 十 分 で あ る。 実 は元 の ワー グナ ー で 「憧 憬 の モ テ ィー フB」 の 支 え となっ てい る 「憧 憬 の モ テ ィー フA」 が 楽 劇 『トリス タン とイ ゾ ルデ』(以 下単 に 『トリス タ ン』)の ドラマ ツルギ ー 上で の 中核 の 「愛 死 」 の モ テ ィー フの 母胎 で あ った こ ととパ ラ レル に、第1詩 行 の この合 唱 の フ レー ズ は更 な る変 形 を経 て、 デ ィー リア スのSDに お いて も、 「愛 死 」 的 モ テ ィー フ を派 生 させ 、 ホイ ッ トマ ンの オ リジ ナ ルSD第1詩 の悲 恋物 語 に 内在 して い た劇性 の表 現 として の 楽 曲 テ クス ト創 造 で、
全 曲 を通 じて の 最 大 の クラ イマ ックスへ 向け て悲 劇 を推 進 して い くの だ。 そ してそ の 先 に、 ワー グナ ー の楽 劇 と同種 の 宗 教 的 ともい え る変 容 と浄化 を現 出す るに 至 る ことにな る。 以 下 、 このプ ロセ ス を具体 的 に跡 づ け てみ よう。
圃 第8小 節 に至 って、愛 死 のモ テ ィー フが デ ィー リアス のSDで もお ぼ ろげ な が ら 見 え て くる。 この モ テ ィー フの母 胎 は上 で触 れ た ように、 「憧 憬 のモ テ ィー フA」(チ ェロ ・パ ー ト)の 最 初 の2小 節 の4音 符 で 、楽 劇 『トリス タン』 で は主 人 公2人 の密 会 の 場 の 第2幕 、 そ の 中 で も夜 の 帳 に 包 まれ た(ウ ィ リア ム ズ 当 該 第2楽 章 、 ホ イ ッ
トマ ン原 詩SD、 デ ィー リアスSD共 に夜 の 物 語 で あ る こ とは忘 れ て は な らない)愛 の 陶酔 の第2場 で、 以 下(譜 例7の 「愛 の死 の 音型 」)の よ うな簡 潔 なが ら、 きわ め
一22‑一 一
て特 徴 的 なモテ ィー フ(以 下 「愛 死 の モテ ィー フ」)に 変 容 して い る。
(譜例7)
ワ ー グ ナ ー 《ト リ ス タ ン と イ ゾ ル デ 》 第2幕 第2場 「愛 の 死 の モ テ ィ ー フ 」
(Di・ ・ech・♪g・ ・。ud・・,e。h、 ♪d。,friih̲量 丁。k・。,ent、p,ech。。d>
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[説 明 の 便 宜 上 、 フ ル ・ス コ ア か らで は な く、 池 上(2006)よ り、 『フ ォー ラ ム 』p.101]
「愛 死 の モ テ ィ ー フ 」 は 「憧 憬 の モ テ ィ ー フA」 と 同 じ4音 符 で 、 最 初 上 行 し て 、 同 音 を2度 続 け 、4音 目 で 半 音 下 が る と い う パ タ ー ン で も 共 通 す る 。 こ の 「愛 死 の モ テ ィ ー フ 」 を 含 む 上 掲 『ト リ ス タ ン』 第2幕 、 第2場 の フ レ ー ズ と デ ィ ー リ ア スSD の 圃 第8小 節 か ら 第10小 節 ま で の バ リ ト ン の ソ ロ ・パ ー トを 比 べ て み る と、 ほ と ん ど 重 な る の で あ る("Shakeoutcarols!Solitary(here,the̲)"「 さ あ 、 声 ふ る わ せ て 聴 る の だ 、 か ず か ず の 歌 を 、 一 人 ぼ っ ち の … 」(ソ ロ[14]第1〜2詩 行))。"Shake out"2単 語 そ れ ぞ れ に 付 点2分 音 符 、"ca‑rols"2音 節 に2分 音 符 と4分 音 符(合 わ せ て 付 点2分 音 符1つ と 等 価)、 同 じ く"so‑li‑ta‑ry"4音 節 の 第1と 第3音 節 に2分 音 符 、 第2と 第4音 節 に4分 音 符 、"here,the"に も2分 音 符 と4分 音 符(つ ま り"ca‑rols"
と 同 じ音 符 配 列 を4回 繰 り返 す)と い う 具 合 で あ る の で 、 「愛 死 モ テ ィー フ 」 の4音 符 を ち ょ う ど そ れ ぞ れ2倍 に 引 き延 ば し て 、 リ ズ ム も6/8拍 子 が6/4拍 子 で 基 本 的 に は 同 じ で あ る(ち な み に オ ー ケ ス トラ は 「愛 死 モ テ ィ ー フ 」 の 付 点4分 音 符4つ を 、 そ の ま ま2倍 に し た 付 点2分 音 符4つ に し て2小 節 に 割 り振 り、2/2拍 子 を 第8小 節 か ら 第26小 節 目 の 圃 の 終 わ り ま で 、 い な 更 に15小 節 先 、 圃 の 末 ま で 、 死 へ の 確 実 な 時 の 刻 み の よ う に 規 則 的 に 繰 り返 す)。 な お 調 は 別 に し て 、 音 型 も 階 名 で は 「ミ ラ ラ ミb・ フ ァ フ ァ ソ ラ 」 な の で 、 上 掲 譜 例6の 「愛 死 モ テ ィ ー フ 」 を 含 む 最 初 の フ レ ー ズ"(so)starbenwir,umungetrent,"「(こ う し て)私 た ち は 死 ん だ の で す 、 離 れ ず に 、
… 」 に ほ ぼ 対 応 す る 。 こ の バ リ トン ・ソ ロ で は 、 加 え て 語 彙 ・意 味 の 類 似 の 面 で も、
ホ イ ッ トマ ン=デ ィ.,一.IJアスSDに 『ト リス タ ン 』 と 同 種 の"death'scarols"「 死 の 歌 」 が8小 節 先 の 第16小 節 で 登 場 す る が 、 そ の 楽 句 は 嬰 ハ 短 調 で 「ソ ラ シb」 と 短3度 の 音 程 の 上 昇 句 で 暗 く不 気 味 で あ る 。 こ れ は 更 に 先 で 「愛 死 モ テ ィ ー フ 」 短2度 の 下 降 音 型 部 が 劇 的 に 強 調 さ れ 、 反 復 さ れ て く る こ と の 反 転 的 予 兆 で あ ろ う か 。
と こ ろ で 、 以 上 の ソ ロ ・パ ー トは 歌 詞 テ ク ス トで は ソ ロ[14]を 既 に 歌 い 出 し て い た 訳 だ が 、 合 唱 部 は 戻 っ て コ ー ラ ス[13]の 第3〜6詩 行"Othroat!Otrembling
throat!(Soundclearerthroughtheatomosphere!/Piercethewoods,theearth,/
SomewherelisteningtocatchyoumustbetheoneIwant."を 同 時 に 歌 っ て い る こ と に 注 意 し よ う(詩 行 を 原 詩 の 順 番 通 り に 必 ず し も 歌 わ な い で 、 戻 っ た り、 と ば し て 先 へ 行 っ た り、 更 に は ず ら し て 重 ね た りで き る の が テ ク ス ト ・ポ リ フ ォ ニ ー を 得 意 と す る 音 楽 の 強 み で あ る し 、 ソ ロ と コ ー ラ ス の 融 合 が 更 に 進 ん だ と も 言 え る)。 自 分 の 咽 喉 に 呼 び か け て 、 そ の 声 を 妻 が ど こ か で 聞 き 取 る に 違 い な い な い か ら、 大 気 、 大 地 、 更 に 森 を 貫 い て 歌 え と い う 下 りだ が 、 音 楽 の パ ラ デ ィ グ マ テ ィ ッ ク な 空 間 性 が 面 白 い 効 果 を 作 り出 し て い る 。 合 唱 だ け の[13]第1〜2詩 行 の 最 後 の 単 語"you"
が ソ ロ ・パ ー トの 始 ま り の 第8小 節 に 食 い 込 ん で い る の で 、"you"は 原 詩 で は(な ら び に 楽 曲 テ ク ス トの 画 第1〜 第7小 節 の 横 並 び の シ ン タ グ マ テ ィ ッ ク の つ な が りで は)星 た ち で あ る は ず な の に 、 こ の 第8小 節 に 入 っ て ソ ロ と 合 唱 が 対 峙 す る パ ラ デ ィ グ マ テ ィ ッ ク な 空 問 で は 、 ソ ロ ・パ ー トの 主 人 公 の"Shakeoutcarols"の 「歌 え 」 と の 呼 び か け を 受 け て の い る の は 合 唱 パ ー トな の で 、 上 記[13]の 第3〜6詩 行 の 先 頭 に き て 、"youOthroat!Otremblingthroat!"と つ な が る の で 己 の 咽 喉 で も あ る 。
こ の2重 の 指 示 作 用 は も っ ぱ ら シ ン タ グ マ テ ィ ッ ク な 関 係 が 支 配 す る 原 詩 に は な い の で あ る 。 デ ィ ー リ ア ス の 楽 曲 テ ク ス トに お い て は 呼 び か け る 雄 鳥=詩 人(ソ ロ)が 、 呼 び か け ら れ て 発 す る 咽 喉(声)と 向 き合 い 、 そ の 間 に 緊 張 が 生 ま れ 、 そ の 歌 声 』が 幾 重 に も 夜 の 大 気 の 中 に 広 が っ て い く空 間 性 が 複 数 で 歌 う 合 唱 で 表 現 さ れ て い る の だ 。 己 の 声 で あ り な が ら 、 以̲L‑̲の音 楽 空 間 の 中 で 合 唱 の マ ス と し て 実 体 化 さ れ 、 増 幅 さ れ る と 共 に 、 そ の 歌 詞 テ ク ス トは 大 気 、 大 地 、 森 と い う 自 然 空 間 に も 開 い て い く の だ が 、 こ こ に 多 声 音 楽 の 妙 味 が 実 現 し て い る 。 こ の 時 、 ソ ロ ・パ ー トは[14]
一24一
第5詩 行 ま で 歌 い 進 む が(上 述 の 第2詩 行 の 先 、"̲thenight'scarols!/Carolsof lonesomelove!death'scarols/Carolsunderthatlagging,yellow,waningmoon!/O
underthatmoonwhereshedroopsalmostdownintothesea1"「(さ あ)夜 の 歌 を 、/
ひ と り ぼ っ ち の 愛 の 歌 を 、 死 の 歌 を 、/の ろ の ろ と 自 み ゆ く あ の 黄 色 い 月 の 下 で 、/お お 、 う な だ れ す ぎ て 、 ほ と ん ど 海 へ 落 ち 込 み そ う な あ の 月 の 下 で 」23))、 そ の 歌 詞 テ ク ス トは 、 名 詞 の 繰 り返 さ れ る"carols"が 軸 に な っ て い る こ と に 注 意 し よ う 。 文 法 的 に は す べ て 第1詩 行 の"shake"の 目 的 語 な の で あ る が 、 第2詩 行 以 下 、 原 詩 で も 名 詞 句 と し て 、断 片 化 さ れ 、積 み 重 ね られ て い る 。上 述 の 音 楽 空 間 に 入 れ て み る と、
合 唱 サ イ ドに お い て 実 体 化 さ れ た 己 の 歌 声 に 対 す る 、 語 用 論 的 に 言 え ば 直 示 的 機 能 果 た す の で あ る 。 こ れ は 、 次 の20で 歌 の 中 身 と し て も合 唱 サ イ ド に 重 心 が 移 動 し て い く伏 線 と な る こ と を 忘 れ な い で お こ う 。
zoに 入 る と 、 愛 死 モ テ ィ ー フ は 更 に 明 瞭 に 、 か つ 強 調 の 程 度 を 強 め て い く。 ソ ロ が 第6詩 行 を 歌 う時 、 合 唱 は 原 詩 に は な い"Ah"を 発 す る の み だ が 、 既 に 触 れ た 音 楽 の パ ラ デ ィ グ マ テ ィ ッ ク な 空 間 性 の 効 果 は 絶 大 で 、 デ ィ ー リ ア ス の 楽 曲 テ ク ス ト 創 造 の 核 心 に 至 る こ と に な り大 変 興 味 深 い 。 第1〜3小 節 で 合 唱 部 は こ の 嘆 息 を 「愛 死 の モ テ ィ ー フ 」 に ほ ぼ 忠 実 に な ぞ っ た 後 、 第3小 節 末 か ら 第6小 節 で 、 下 降 音 型 の み を 取 り 出 し て2回 繰 り返 す 。 こ こ に は 感 嘆 詞 以 外 の 言 語 上 の 意 味 の 展 開 は な い が(と い う よ り言 語 的 、 認 知 的 意 味 は 空 疎)、 音 楽 的 意 味 が 濃 厚 に 凝 縮 し 、 醗 酵 し 、 劇 性 を 強 め て 、 発 展 し て い く力 を 得 て い く場 が 現 出 し て い る 。 主 人 公 の 歌 が 合 唱 サ イ ド で 実 質 を 得 て 、 膨 れ 上 が っ て い く の だ 。 一 方 ソ ロ ・パ ー ト の 第6詩 行"O recklessdespairingcarols"「 お お 、 無 謀 な 絶 望 の 歌(を)」 は そ れ ま で の"carols"
と は 違 っ て"!"が な い こ と に 示 さ れ て い る よ う に 、 完 全 に 直 示 的 機 能 の み で あ る 。 全 く(音 楽 的)意 味 の 重 心 が 合 唱 部 に 移 動 し て い る の だ 。 そ の 合 唱 パ ー トの 音 型 は 一ヒ掲 の 「愛 死 の モ テ ィ ー フ 」 の 音 程 こ そ 違 え 、 そ の 構 成4音 符 を 、 基 本 的 に2分 音 符 と続 く4分 音 符 を ユ ニ ッ トに 、 そ れ ぞ れ2倍 に 引 き 延 ば し て よ り簡 潔 に 、 そ し て よ り確 実 に 表 し て い る(言 語 的 意 味 が 空 疎 で あ る の で 、 な お さ ら こ の モ テ ィ ー フ の 引 用 が 際 立 つ)。 圃 の 冒 頭 に 始 ま り、 そ の 後 の 第8小 節 か らの ソ ロ と合 唱 が 対 峙 す る く
だ り を 通 過 し て 、 憧 憬 モ テ ィ ー フ か ら愛 死 の モ テ ィ ー フ へ 変 容 し て き た プ ロ セ ス が 、
こ こ圃 で ほぼ 確 定 した ことを示 してい る。 更 に 上 記 モ テ ィー フ後 半 の下 降音 型(こ れ か ら先 の音 楽 的展 開 の駆 動 力 に な る)の み を続 け て2回 繰 り返 す こ とで、 愛 死 の 悲 劇 は、 ワー グナ ー の 『トリス タ ン』 と同 じ方 向 に進 むベ ク トル を得 た の だ。 劇 性 の方 向 だ けで はな く、 音 楽 空 間 にお け る、 意 味 の増 幅 で も、 前 の 圃 と同 じ作 用 を指 摘 すべ きだ ろ う。そ こで と同 じに、主 人 公 の歌 う歌 は、合 唱 が そ の実 質 を受 け継 いで、
拡 大 してい く訳 だが 、 『トリス タン』 の終 幕 の幕 切 れ にお け る イゾ ルデ の絶 唱 と同 じ メ カニ ズ ムが 働 い て い るの を見 逃 さない よ うに しよ う。 そ の 絶 唱 を歌 うイゾ ル デ の 歌 声 は、亡 き愛 人 トリス タ ンの体 に 向 き合 い 、そ こに反 響 して 、そ こか ら波 動 が 広 が り、 自分 を包 み込 み 、 さらに宇 宙 の あ らゆ る息 吹 に まで及 び、 自分 と トリス タ ン、
自他 を超 え、 法 悦 の至 福 を もってそ こに没 入 す る。 そ れ と同 じ、 反 響 、波 動 、 増 幅 が 音 楽 空 間 にお い て な され るの だ。 主人公 の発 す る歌 は、 対 峙 す る合 唱 に引 き渡 さ れ 、増 幅 され 、 更 にオ ー ケ ス トラへ と転 移 し、 そ こで 波 動 の うね りとな り、 愛 死 の 働 芙 を宇宙 に響 か せ る こ とに なる。 当該 作 品 の 前 半部 にお い て も見 られ なか った ソ ロ と合 唱、 更 に オー ケ ス トラの機 能 的立 て分 けで はな い、対 峙 を通 して の完 全 な融 合 なの だ。 これ を以 下跡 づ けてみ よ う。
以 上 の合 唱 の 嘆息 を うけ て、バ リ トン・ソロは ソロ[14]第7詩 行 以下 を歌 いだ す。
"B
utsoft!Sinklow!"「 だが 静 か に、調 予 は低 く」 だ が、 この メ 「ロデ ィー ・ライ ン は 「憧 憬 モ テ ィー フA」 の最 初 の5音 符 目まで を思 い 起 こ させ る(上 述 とは違 って 、 直 示 的 機 能 は な くな り、動 能 的(conative)動 詞 命 令 形 を含 む、 言 語 の 中心 機 能 が
も どる)。合 唱 は これ を、繰 り返 す だ けだが 、む しろ、合 唱 が 歌 い だす と共 に始 まる、
オ ー ケ ス トラの 動 きに注 目 し よう。 そ の低 音 部 は ひそ や か に 「愛 死 の モ テ ィー フ」
を鳴 らして い る。20の 始 め の 合 唱 の 歌 った この モ テ ィー フが 今 や 、 オー ケ ス トラに 引 き渡 され たの だ 。 ソ ロが 更 に第8詩 行 で"Soft!"を 繰 り返 し、 次 の"Letmejust murmur,"「 そ っ と囁 くだ け に してお いて くれ」 を歌 う(と い うよ りも語 る調子 に近
い が)所 に来 る と[圓 第ll小 節 以 降]、 俄 然 オ ー ケ ス トラは雄 弁 に歌 い だす 。 これ は 主 人 公 が 自分 の1咽喉 が 歌 う声 を 客 観 視 して い る こ とな ど で は な く、 先 程 か ら触 れ て いる音 楽 的 意味 の重 心 が 今 や合 唱 を経 て、 オー ケ ス トラに移 って きた こ となのだ 。 オ ー ケス トラは上 声 部 で 上 記 「愛 死 モ テ ィー フ」 を もう1度 、 奏 で るが 、 これ は雄
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弁 なの で、 ソ ロが"doyouwaitamoment,youhuskynoisedsea,fo̲"「 それ か ら 君 も しば ら く控 えて くれ 、君 しゃが れ声 の騒 が しい 海 よ」 と制 止 す る(こ の"you"
は今 度 は しゃが れ 声 の海 だが ウ ィリアム ス 当該 曲 第2楽 章 の子 守 唄 を歌 う老 婆 に喩 え られ た 海 で あ るこ とを忘 れ ない で お こ う)。 注 目す べ きは この 間 、 オー ケ ス トラが 上 声 部 で 上 記 「愛 死 モ テ ィー フ」 を奏 で るI」 で、低 音 部 が 最 初 に この モ テ ィー フ をひ そ や か に鳴 らして い た最 後 の所(第10小 節 末)か らこ こ"four"ま で(第15小 節 目)、 ワー グナー の歌 劇 『タンホ イザ ー』 序 曲の巡 礼 の合 唱 の主 題 の 木管 部 に よる 提 示 後 の弦 楽 部(主 にチ ェ ロ)に よる対 抗 旋 律 部 部 分(序 曲第25〜31小 節)を 暗 示 的 に奏 して い るこ とだ。 第11小 節 か らメ ロデ ィー は多 少 違 うもの の、 『タンホ イザ ー』序 曲 の対 抗 旋 律 部 分(下 降 音 型 は譜 例6の 「愛 死 モ テ ィー フ」 を含 む フ レー ズ の下 降部 分 と極 め て類 似)の 苦 悩 を背 負 って陣 吟 して 歩 い て い く足 取 りは 山が3度 あ りそ の 後 、多 少 の救 いの 予 兆 の ような安 堵 の 息 遣 い が そ の まま 当て まめ られ て い る。 これ は 『タンホ イザ ー』 の 物 語 は別 に して も、 主 人 公(雄 鳥=詩 人)の 苦 悩 の 心 象 が 海 に投 影 され たの で あろ う。
そ して、 これ に引 き続 い て 曲 が21に 入 り、 ソ ロが 第10詩 行"(for)somewhereI believeIhearedmymaterespondingtome"「 確 か に どこか で ぼ くの愛 す るあ の 人 が ぼ くに答 え る声 が したの だ」 と語 るの は文 字 通 り自分 の声 を落 として 、戻 って 来 た(と 思 わ れ る)妻 の声 を 聞 き取 ろ うとす るため だ が 、 半 ば、 それ はあ りえな い こ との絶 望 を感 じ始 め て い るので 、上 記 音 楽 的意 味 の 重 心 が 移 って きて い た オー ケ ス トラは、 その 苦悩 の心 象 を更 に 決 定 的 に奏 し始 め る。 この21は そ れ までの 嬰短 調 か ら変 ロ短 調 に転 調 し、 この オー ケ ス トラ部 は全 曲 を通 じての最 も重 大 な進 行 の舵 取 りを始 め、 圧 倒 的 な クライマ ックスへ 向 けて の足 取 りを開 始す る。 従 って、 そ の基 本 モ テ ィー フ(例 の 愛 死 の 「モ テ ィー フ」 の後 半 で あ るが 、独 立 した 「絶 望 のモ テ ィー フ」 と呼 ん でお こ う)は ここで、 正 式 に確 定 され た と言 え るの だ(「 正 式 に」 と す る の は、Za最 初 の合 唱 の嘆 息 の 下 降 音 型 の2回 の 繰 り返 しで既 に伏 線 となって い た か ら)。 第1〜3小 節 で 、 オ ー ケ ス トラ は 強 くテ ヌ ー トを付 け て 、 続 け ざ ま に 階 名 で 「ドドシ」「フ ァフ ァミ」「シbシbラ 」「ミbミbレ 」(すべ て短2度)の 下 降音 型 を 鳴 らす 。 この音 型 が 更 に下 降 して 続 い て い く問、 ソロが 第11詩 行"Sofaint,Imust
bestill,bestilltolisten,"「 と て も か す か な 声 が 、 聞 き 取 る た め に は ぼ く も 静 か に 、 静 か に し て い な け れ ば な ら ぬ(ほ ど の か す か な 声 が)」 と 語 る と 、 合 唱 は す で に 先 へ 飛 ん で コ ー ラ ス[15]の 第1詩 行"Donotbedecoy'delsewhere"「 あ ら ぬ 方 へ お び き よ せ られ て は な ら ぬ 」 を 歌 い 出 す(図 第6〜7小 節)。 こ こ の 音 型 は 以 ヒの 「絶 望 の モ テ ィ ー フ 」 そ の ま ま で 、 本 来 の 連 辞 の 言 語 テ ク ス トの つ な が りで は 、 妻 に 対 す る 主 人 公 最 後 の 「我 こ こ に あ り」 の 呼 び か け の 声 、 ソ 「ロ[14]の 第13〜16詩 行 の 発 話 を 受 け て の 、 帰 っ て 来 た は ず の 妻 に 対 し て の 自 分 の 声 と 聞 き 違 え る な と の 注 意 だ ろ う が 、 そ れ が 不 可 能 な だ け に よ り悲 し み が 深 ま る と い う こ と 以 上 に 、 こ こ で 既 に 合 唱 が こ の 詩 行 を 絶 望 の モ テ ィ ー フ の 楽 句 で 歌 う こ と の 音 楽 的 意 味 は よ り含 蓄 に 富 ん で い る 。 つ ま り、 自 分 の 発 し た 声 を 代 弁 す る 合 唱 が 、 主 人 公 に 対 し て も 、 不 可 能 を 知 り な が ら希 望 の 方 に 傾 い て い く仮 想 の 誘 惑(つ ま り空 耳)に 惑 わ さ れ る な と の2重 の 警 告 に な っ て い る か ら で あ る 。 こ れ はchorusの 起 源 の ギ リ シ ャ 悲 劇 の コ ロ ス や バ ッハ の 受 難 曲 の コ ー ラ ス に 見 ら れ る よ う な 聴 衆 あ る い は 会 衆 の コ メ ン トに 近 い 機 能 な 訳 だ が 、 音 楽 的 空 間 性 の 中 で の み 可 能 な の で 、 こ の 点 で は デ ィ ー リ ア ス の 作 曲 に よ る 複 合 テ ク ス トは 原 詩 を 超 え た 創 造 を な し 得 て い る(即 物 的 に 言 っ て も 、 原 詩 詩 行 の 順 番 の 意 識 的 並 べ 替 え)。 更 に ソ ロ が 第12詩 行"Butnotaltogetherstill,
forthenshemightnotcomeimmediatelytome"「 し か し 静 か に な り き っ て も な ら ぬ 、 だ っ て ぼ くの 声 が と だ え た ら、 あ の ひ と が ぼ く の と こ ろ へ ま っ す ぐ に 、 戻 っ て
こ れ な い か も し れ な い か ら だ 」 を 語 る よ う に 歌 う と 、 同 じ よ う に 合 唱 は 先 の コ ー ラ ス[15]第2詩 行"Thatisthewhistleofthewind,(itisnotmyvoice,)(後 半(itis notmyvoice,)は ソ プ ラ ・ノ パ ー トの み で 、 他 の 合ll昌パ ー トは 歌 わ な い こ と に 注 意)"
「あ れ は(ぼ く の 声 で は な く、)風 が 吹 く口 笛 の 音 」 を 重 ね る(こ の 詩 行 が こ の 位 置 に 前 方 移 動 し て し ま う と、 指 示 代 名 詞"That"は 主 人 公 が 空 耳 で 聞 き 誤 っ た 妻 が 戻 っ て き た と思 わ れ る 物 音 を 指 す こ と に な る の で[そ の こ と の 強 化 の た め に ソ プ ラ ノ ・ パ ー ト以 外 は"itisnotmyvoice,"を 歌 わ な か っ た の だ]、 以 上 の2重 の 警 告 の 機 能
を 強 め て い る)。 こ こ に ソ ロ[14]第ll詩 行 一 コ ー ラ ス[15]第1詩 行 、 ソ ロ[14]
第12詩 行 一 コ ー ラ ス[15]第2詩 行 の 交 差 と い う テ ク ス ト ・ポ リ フ オ ニ ー が 成 立 し て い る の も 音 楽 的 空 問 が 前 提 と な っ て い る か ら だ 。 デ ィ ー リ ア ス の 創 意 で あ る 。 更 に
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風 と い う外 界 の 自 然 の 空 間 性 も 重 ね ら れ る の は 、 す で に 指 摘 し た と こ ろ だ 。 事 実 、 こ こ の 合 唱 は 風 の 音 の 模 写 で も あ る(記 号 論 的 に は イ コ ン 的 機 能)。 そ う し た 合 唱 は 心 象 風 景 の オ ー ケ ス トラ と 一 緒 に な り、ZI第ll〜12小 節 で 再 び 、 例 の 絶 望 の モ テ ィ ー フ を 奏 で る が 、 今 回 は、 多 少 希 望 の 光 が 見 え た よ う に、 細 か な トリル が 上 声 部 に 添 え られ 、 心 が 揺 ら め く。 主 人 公 の 心 象 風 景 に 妄 想 が 兆 し た か の よ う だ 。 続 く 第12
〜13小 節 か ら22第1〜4小 節 で ソ ロ が 第13〜15詩 行"Hithermylove!/HereIam!
Here!/Withthisjust‑sustain'dnoteIanouncemyself"を 本 気 に な っ て 自 分 の あ り か を 示 す た め 、 声 を 張 り 上 げ る か ら だ 。 し か し 、 そ の 間 も 合 唱 は"Thatisthe flutteringofthespray"「 あ れ は 飛 び 交 う 波 の し ぶ き 」 と 歌 い 、 波 し ぶ き の 音 で あ る
か の よ う な 模 写 す る 分 散 音 形 が 添 え 、 警 告 を 続 け る(上 記 交 差 の 働 き で こ の"That"
も本 来 の 自 分 の 声 以 外 の 物 音 を 指 す 以 上 に 、 自 分 の 空 耳 を 生 み 出 し た 妄 想(そ も そ も 波 頭 の 彼 方 に 戻 っ て くる 妻 を 幻 視 し て い た の だ)を も 指 し 示 し て い る の は 合 唱 パ ー トが 主 人 公 と 対 峙 し て 、 コ メ ン ト機 能 を獲 得 し て い る か ら だ;こ う な る と、 主 人 公 の 歌 は 、 風 、 波 、 の 自 然 の 息 吹 の 中 に 既 に 融 合 し 始 め て い る こ と を 音 楽 が 奏 で て い る こ と に な る 、 あ の 『トリ ス タ ン』 の 幕 切 れ の 「愛 の 死 」 の 音 楽 と 同 じ 機 能 を 示 し て い る)。 そ し て 、 ソ ロ が 第16詩 行"Thisgentlecallisforyoumylove,foryou."
を 本 当 に 叫 ん だ と き 、 オ ー ケ ス ト ラ は は っ き り と絶 望 の モ テ ィ ー フ で 答 え て[227 小 節]、 曲 最 大 の ク ラ イ マ ッ ク へ の ア プ ロ ー チ に 入 っ て い く。
絶 望 の モ テ ィ ー フ の 特 徴 的 下 降 音 型 が こ の よ う に し て 「ド ド シ 」 「フ ァ フ ァ ミ 」
「シbシbラ 」「ミbミbL」 と 言 う 具 合 で 続 くの は21冒 頭 の 再 現 だ が 、 以 上 の よ う に 徐 々 に 姿 を 前 面 に 出 し て き た 『ト リ ス タ ン』 の 終 幕 の 「愛 の 死 」 の 幕 切 れ(譜 例7
の 第2幕 第2場 の 集 約 的 再 現)の 機 能 、 つ ま り、 自 他 、 嘆 息 、 風 、 波 、 す べ て を 宇 宙 の 息 吹 の な か に 融 合 し て い く よ う な 音 楽 的 機 能 中 で の 再 現 で あ る こ と に 注 意 し よ
う。 「絶 望 の モ テ ィ ー フ 」 に 重 ね て 、 は っ き り と 「愛 死 の モ テ ィ ー フ 」 を 鳴 ら し て い る の だ 。 以 下 の 譜 例8(22$〜10小 節)は そ の 重 ね られ た 箇 所 を 示 す:
(譜例8)
1 1
z‑all.molto
atempolargamente condoloreapassione
イr
111」
[Boosey&HawkesMusicPublishersの ヴ ォ ー カ ル ・ス コ ア 版 よ り]
こ の 重 ね と 共 に 、音 楽 は ま す ま す 雄 弁 に な り、最 大 の ク ラ イ マ ッ ク の 手 前 に 至 っ た 。 第10〜11小 節 目 の 噛 み し め る か の よ う な4つ の テ ヌ ー ト とatempolargememente
condoloreepassioneの 指 示 の ご と く足 取 り の 重 い ゆ っ く り と し た テ ン ポ と 懊 」悩 と 劇 情 を 込 め て 、 絶 望 の 働 契 を 奏 す る の で あ る 。 こ こ は 声 楽 は 合 唱 の み で コ ー ラ ス [15]第4詩 行"Thosearetheshaddousofleaves"「 あ れ は た だ の 木 の 葉 の 影 」 を 歌 う が 、増 幅 す る オ ー ケ ス トラ と 一・緒 に な っ て 、す で に 始 ま っ て い た 音 楽 に よ る 、嘆 息 、 風 、 波 、 と 広 が っ て い く世 界 の 外 延 化 は 月 光 を 浴 び た 森 の 木 陰 の と て つ も な い 闇 と 暗 さ を 現 出 し 、 そ れ が 同 時 に 主 人 公 の 心 象 な の だ 。 ホ イ ッ トマ ン原 詩SD第1詩 第65 詩 行(デ ィー リア スSD、 ソ ロ[8]第ll詩 行)"(Recallingnow)theobscureshapes,
theechoes,thesoundsandsightsaftertheirsorts"「 お ぼ ろ げ な 物 の 形 を 、 さ ま ざ ま な 反 響 を 、 響 き と 光 景 を(ひ とつ ひ と つ 想 い 起 こ し)」 が こ こ で 拡 大 さ れ て 表 象 さ れ た の だ(前 号 本 稿(4)の デ ィー リ ア スSD分 析 当 該 箇 所 で 、 続 く 波 頭 の 砕 け も 含 め て 主 人 公=詩 人 の 心 象 で あ っ た と指 摘 し た)。 トリ ス タ ン 的 、 万 有 へ の 波 動 の 広 が り の よ う な 音 楽 の 高 ま り(こ こ で は 働 突 の 極 み へ の 登 禁)は 、 第ll〜15小 節 に 入 る と 、 音 楽 的 意 味 重 心 の 力 関 係 で 、 こ れ ま で と は 違 っ て 、 ソ ロ 、 合 唱(ソ ロ に1小 節 遅 れ る が)、 オ ー ケ ス トラ の3つ の サ イ ドで 対 等 に な っ て 、 か つ 総 力 と な っ て と う と
う 曲 最 大 の 頂 点 に 達 す る 。 ま さ に 働hと 絶 望 の 極 み で 圧 倒 す る 。 声 楽 は 従 っ て ソ ロ [16]第 正詩 行 コ ー ラ ス[15]第5詩 行 同 一 で"Odarkness!Oinvain'"「 お お 、 闇 よ 、 お お 、 報 わ れ ぬ ぼ くの 夢 よ 、」 を 歌 う が(ソ ロ は"invain!"2度 、 合 唱 は3度 繰 り返 す の は 音 楽 的 処 理 で 原 詩 に は な い)、 よ り正 確 に は 、 合 唱 の 方 が 遅 れ る の で 、 オ ー
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ケ ス トラ が ∬ で フ ェ ル マ ー タ に 達 し た 時(絶 望 の モ テ ィ ー フ は 異 化 作 用 の た め に か 、 上 昇 音 型 に 変 わ っ て い る が)に 歌 っ て い る 声 楽 パ ー トは 合 唱 の み で あ る(と す る と、
音 楽 的 重 心 は や は り、 合 唱 と オ ー ケ ス トラ に あ り、 ソ ロ は 言 葉 に よ る 説 明 で 、 絶 望 は 心 象 と い う以̲1.に 世 界 に お い て 実 体 化 さ れ た と 言 う べ き か も し れ な い 、 そ れ ほ ど デ ィー リ ア ス に よ っ て 与 え られ た 合 唱 と オ ー ケ ス トラ の こ こ の 音 楽 は 雄 弁 で あ る)。
以 上 の 音 楽 に よ る 絶 望 の 頂 点 の 表 現 を 過 ぎ る と 、 し か し 音 楽 の 色 合 い は 変 化 し 、 曲 末 尾 の 変 容 と 浄 化 の 方 へ 向 け て 新 た な 次 元 へ の 歩 み を 見 せ る 。 ク ラ イ マ ッ ク ス の 後 奏 な の か 、 ソ ロ ・パ ー トの た め 息 の よ う な 散 文 的(adlibitum指 示)楽 句 の 第2詩 行"OIamverysickandsorrowful"「 お お 、 希 望 は 消 え て 、 悲 し み が 溢 れ る 」の 後 、 dolceで 穏 や か に な り、 闇 と 交 代 し て 、 月 光 が 射 し て き た か の よ う に 転 調 さ れ て[23に 入 る 。 ソ ロ が 続 け て 、moltotranqillo「 非 常 に 静 か に 」 の 指 示 の も と第3〜6詩 行"O brownhalointheskynearthemoon,droopingupontheseal/Otroubledreflection
inthesea!/Othroat1Othrobbingheart!/AndIsinginguselessly,uselesslyallthe
night."「 お お 、 海 の う え に う な だ れ か か る 月 が 、 ま わ りの 空 を 色 ど る 褐 色 の 光 輪 よ 、 お お 海 の な か に 乱 れ 写 る そ の 影 よ 、 お お 咽 喉 よ 、 お お 、 高 鳴 る 胸 よ 、 そ し て 夜 も す が ら 甲 斐 も な く、 た だ 甲 斐 も な く歌 い つ づ け て い る ぼ く」 を 歌 い 継 い で 行 くが 、 オ ー ケ ス ト ラ は 木 管 の パ ー トを 中 心 に 「憧 憬 の モ テ ィ ー フ 」 「愛 死 の モ テ ィ ー フ 」 「絶 望 の モ テ ィ ー フ 」 を 響 か せ(繰 り返 し の"uselesslゾ で フ ル ー ト と ク ラ リ ネ ッ トが 絶 望 の モ テ ィ ー フ を 添 え る 所 に は 諦 観 が 漂 う)、 再 び 先 ほ ど の 働 契 の ク ラ イ マ ッ ク ス を 反 鋼 す る か の よ う に 盛 り上 が る("Othrobbingheart!"の 箇 所)。 し か し 、 最 後 の ソ ロ の"night"を 受 け て 合 唱 が そ の 語 を2度 繰 り返 す と 共 に(こ の 繰 り返 し は 原 詩 に は な い)、 こ の 先 の コ ー ダ を 準 備 す る 神 妙 な 移 行 部 分 の と て つ も な い 闇 に 落 ち て 行 き 、 や が て 図 に 入 る 。
図 か ら の コ ー ダ は テ ン ポ もAndantesempliceで 平 易 さ を 取 り戻 し 、 更 に 夜 の 闇 を 完 全 に 脱 し た 明 る い 調 子 に 変 わ る(冒 頭 の 嬰 ハ 短 調 と 平 行 調 の ホ 長 調)。 た だ し 、 長 調 で あ り な が ら 楽 天 的 で は な い 玄 妙 な 感 じ で あ る 。 ソ ロ が 第7詩 行"Opast!O
happylife!Osongsofjoy1"「(お お 、 い ま は 詮 な し)お お 、 幸 福 な 日 々 よ 、 お お 、 喜 び の 歌 よ 」 を 妻 と 幸 せ で あ っ た 日 々 を い と お し む か の よ う に 淡 々 と 歌 い 出 す と(出
だ しの感 嘆 詞 の"0"の み は短 調 の移 行 部 分 の 末 尾 の前 音 節 に残 って い て、"past"
ヘ ア ウ フタク ト24)で 上 が って更 に 「ミフ ァミシ ラシ ドレ…」 とたお やか に下 降曲 線 で 下 が って 行 くが そ の 語 に当 て られ た始 め の 付 点2分 音 符 の 「ミ」 に前 音 節 か ら入 っ て来 る所 は、Chandos盤 のB.Terfelの 歌 い方 もあ って か、 暗 か ら明 へ の光 の 変 化 が絶 妙 で あ る)、 オー ケ ス トラも全 曲 冒頭 の下 降音 型 と対 応 す る、4分 音 符 を淡 々 と連 ね る 「ソ ミドラソ レ ド」 の下 降音 型 を穏 や か に奏 す る。 た だ し冒頭 の 月光 が で は な く、 温 か な 日の光 が 降 り注 ぐ感 じで あ る。 続 くオ ーケ ス トラ第2小 節 か ら第3小 節 にか けて の 「ラソ(ミ)レ ド」 の 下 降 は 『ワル キ ュー レ』 終 幕(父 な る神 々 の長 、
ヴ ォー タンが 愛 娘 を護 りの炎 に閉 じ込 め て 眠 らせ るの であ った)の 慈 愛 に満 ちた 同 じホ 長調 の 「ま どろみ の モ テ ィー フ」 を想 起 させ る。 か ように緩 や か な上 下 す る音 型 が ソ ーロ、 オ ー ケ ス トラ双 方 を支 配 して 続 く中、 ソロが"intheair,inthewood,
overfields̲"「 空 を舞 うときも、森 陰 に憩 う ときも、あ るい は野 の 上 をわ た る ときも」
を歌 い 出す と、 晴 れ や か な清 々 しい感 じにな り、 広 い緑 なす 草 原 と遠 くの森 の眺 望 を現 出す る くだ りは非常 に印象 深 く、"overfields"で ソロが 「ソソ ドシラソ」と一 旦 、 全 音 符 の 「ド」(図 第7小 節)に 上 が ってか らた っぷ り付 点2分 音 符 で 下る ところ は 慈 愛 を浴 び た法 悦 さえ醸 し出す 。 ここのハ ー プ を含 む 豊麗 で さえあ るオ ー ケス トラ 部 はM.ラ ヴ ェル の組 曲 『マ ・メー ル ・ロア』 の終 曲 「魔 法 の 園」 を連 想 させ て 美 し い 限 りだが 、む しろ ワー グナ ーの 最 後 の作 品、 宗 教 神秘 劇 『パ ル シフ ァル』第3幕 の、
恩 寵 を受 け た ク ン ドリーの 流 す 涙 を受 け、 そ れ を慈 雨 として浴 び、 草 原 の草 々が 法 悦 に打 ち震 える場 面 での 「聖 金 曜 日の奇 跡 の 音 楽 」 を引 き合 い に 出す べ き精 妙 さで あ る(大 自然 の 草 木 国 土悉 皆 成 仏 は外 界 で の 出 来事 で ある故 、 オ ー ケス トラは能 弁 に歌 う)。 オー ケス トラの上 記 の ソ ロ と対 応 す る下 降音 型か らもう1度 上 が って 、「ラ ソ レ」「フ ァ ミレ」「ラソ レ ド」 と下 降 音 型 を繰 り返 す 部 分 か ら再 び 「まどろみ の モ テ ィー フ」 に類 似 の フレーズが 続 き(本 当 に 『ワル キュ ー レ』 幕切 れ を彷彿)、 そ の流 れ の 中 で、 ソ ロ は過 去 形 で(と い うの は、 もう絶 望 は消 滅 し)"Loved!"(こ こで は 普 通 と違 っ て2音 節 で 歌 っ て い る の で 、 発 音 は 精 密 表 記 で[Id]で あ る)を た っぷ り 惜 別 を もってす るか の よ うに5度 繰 り返 して か ら(原 詩 で もこの同 一語 を3度 どころ か5度 も繰 り返 す 、詩 とす れ ば タブ ー を行 ってい るが 、ホ イ ッ トマ ンは明 らか に音 楽
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化 を 想 定 し て 発 想 し て い る の だ;勿 論 デ ィ ー リ ア ス は そ れ に 応 え て 、 繰 り返 す ご と に 調 性 を 微 妙 に 変 え る し 、Terfelの 表 情 付 け も ニ ュ ア ン ス の 移 ろ い が 巧 み な 歌 唱)、
例 の 諦 観 を 表 す よ う な フ ル ー トや ク ラ リ ネ ッ トの 下 降 音 型 「ラ ソ レ 」 を 何 度 か は さ ん で(ま ど ろ み の 音 型 は な お も 続 く)、"Butmymatenomore,nomorewithme"「 だ の に 愛 す る 人 は も う い な い 、 ぼ く の そ ば に は も う い な い 」 の 詩 行 を2度 繰 り返 し 、 最 後 の"Wetogethernomore,nomore"「 今 で は ぼ く ら は 離 れ 離 れ 」 で 愛 別 離 苦 の 現 実 を 受 け 入 れ た か の よ う に 歌 唱 を 終 え る 。 そ し て 合 唱 が"Nomore"を 幾 度 も エ コ ー の よ う に 反 復 し て い く中(最 後 の 男 声 パ ー トの2度 の"more"で は 調 性 が 崩 壊 す る よ う な 特 有 の 和 音 を 響 か せ る)、 オ ー ケ ス トラ も全 音 符 に よ る た ゆ た う よ う な ゆ っ た り と し た 音 型 を も っ て 、 至 福 と忘 却 が 混 ざ る 彼 方 に 消 え て 行 くか の よ う に し て 曲 を 閉 じ る(『 ト リ ス タ ン』結 末 の 万 有 の 息 の 中 に 融 け 行 くニ ル ヴ ァー ナ よ う な 変 容 か)。
以 上 、2.に おい て デ ィー リアスのSDの 詳細 なテ クス ト分 析 を行 った の は、 ウ ィリ ァ ム ズ 『海 の 交 響 曲』 第2楽 章 は共 時 的 に そ の テ クス トを前 提 と して い る か らだ。
通 時 的 に は1.で 問題 に した 出版 稿 の 積 み 重 ね を前 提 に してい た。 この双 方 が 、 当該 作 の 聞 テ クス ト性 の実 体 の 重 要 な部 分 を構 成 す る。 内容 的 に も、 第1楽 章 の 海 難 の 悲 劇 、 そ して こ このSDの 本 源 的 悲 劇 の 契機 な しに は、 第2楽 章 の真 価 はつ か め な い で あろ う。3.緩 除楽 章 の アナ リーゼ に入 れ る条件 が 整 った。
(続 く)
注
22)ブ ル ッ ク ナ ー もそ の 第3交 響 曲 、い わ ゆ る 「ワ ー グ ナ ー 交 響 曲 」で 『タ ン ホ イ ザ ー 』以 外 、デ ィ ー リ ア スSD同 様 『ト リ ス タ ン』 か ら憧 憬 も含 め い くつ か の ト リ ス タ ン ・モ テ ィ ー フ の 引 用 を 行 っ て い る が(特 に 第1稿)、 そ れ は 一 般 に 言 わ れ て い る バ イ ロ イ トの ワ ー グ ナ ー へ の 表 敬 訪 問 後 の 付 加 な ど の 表 面 的 処 理 で は な く、 主 題 形 成 を 含 む 作 品 創 造 の 根 源 に 関 わ っ て い た と は 池 上(2006)が 綿 密 に 実 証 し て い る 。 引 用 を創 造 的 間 テ ク ス ト性 の1つ と し て 捉 え る 試 み と し て 興 味 深 い 。 な お 当 交 響 曲 の 複 数 稿 の 問 題 を 含 むtextualityに つ い て は 塩 田(1997)を 参 照 さ れ た い 。
23)ホ イ ッ トマ ン の こ こ の 月 は 、 不 吉 で 少 々 、 狂 気 を 感 じ さ せ る 。 通 常 、 月 の 形 容 のcollocation は"silvermoon"で あ る の に 、 「黄 色 い 」 は 狂 気 の シ ン ボ ル だ し 、"lagging"の 「遅 れ て 出 た 月 」 は 、 既 にChorus[11]で 歌 っ て い た 、 愛 す る 雌 鳥 が な か な か 戻 っ て 来 な い こ との あ せ り
と 、 そ の 先 の つ い に 帰 還 の 姿 を 幻 視 し ま う こ との 象 徴 で あ っ た 。 実 は 、 妻 は 既 に 死 ん で い て 、 戻 る こ と は な い 絶 望 を 含 む こ と を 表 象 す る た め に 現 れ た 月 で あ る の で 、 海 面 に 落 ち 込 む ほ ど
に 低 い 位 置 に あ り、 しか も 白 み 行 く 月 だ("waning"な の で"fullmoon"と 対 比 し て の 「欠 け て い く」 で も い い し 、 そ の 方 が ロ レ ンス と の 比 較 で は 意 味 を 持 つ)。 こ の 月 は 、 こ の 後 の Solo[16]詩 行 第3〜4で 再 び 登 場 す る が 、 色 は 更 に 暗 く、"brownhallow"「 褐 色 の 光 輪 」 を 夜 空 に 成 し、 海 而 に そ の 乱 れ る 影 を 落 と し て 、 主 人 公 の 絶 望 に 揺 れ る 、 心 象 を表 す こ と に な る 。 こ の よ う な 月 の 捉 え 方 は 、 ホ イ ッ トマ ン のSDを 高 く評 価 し たD.H.ロ レ ン ス の 表 象 と は 対 照 的 で あ る 。 ロ レ ン ス のMoonrise「 月 昇 る 」 の 月 も 愛 す る 女 性 の 象 徴 だ が 、 ま た 恩 師 の 人 妻 で あ っ た ドイ ツ 人 フ リー ダ を モ デ ル に し て い て(彼 の 別 の 詩Aware「 目 覚 め 」 に お い て も 月 は 彼 女 の 象 徴)、 詩 表 現 的 に も 極 め て ワ ー グ ナ ー 的 だ が(こ の 作 曲 家 も恩 人 の 妻 と の 不 倫 に 走 っ て あ の 『ト リ ス タ ン』 が 生 ま れ た し、 「愛 の 死 」 の 幕 切 れ の 各 詩 行 に 類 似 点 を 指 摘 で き る)、 ホ イ ッ トマ ンの 月 に 寄 せ る 絶 望 は 微 塵 も な く 、 性 の 根 源 か ら、 愛 の 至 福 へ の 昇 華 が 表 現 さ れ て い る 。 そ の 詩 行 の 要 点 を 挙 げ る と:、.(whohasnot̲)seenherriseandthrow/
Confessionofdelightuponthewave/litteringthewaveswithherownsuperscription/Qf bliss̲/幽ISthingbeyondthegrave/Thatperfectbrightexperienceneverfails/̲。
下 線 部 は 満 月 で こ そ 形 象 化 さ れ る こ と は 言 う ま で も な い だ ろ う。 そ の 煤 々 た る 月 光 の 千 波 万 波 へ の 反 映 の 官 能 の 至 福 の 喜 び は ホ イ ッ トマ ン で は 拒 絶 さ れ た も の で あ っ た 。
24)独"Auftakt"「 ヒ拍 」 と封くさ れ 、 「曲 の 第1小 節 の 強 拍 を み ち び き 、 弱 起 を お こ す も の 」 の 意 だ が 、 舩 木 篤 也 は シ ュ ー ベ ル トの 歌 曲 集 『美 し き 水 車 小 屋 の 娘 』 の 第1曲 の 冒 頭 の"Das Wandern"の 定 冠 詞+申 性 名 詞 の 連 辞 に 対 し て シ ュ ー ベ ル トが 当 て た 「上 拍 」 の 持 つ 意 味 論
的 プ ロ セ ス を 追 及 し て い て 興 味 深 い(『 レ コ ー ド芸 術 』2007年3月 号p.304)。 同 じ意 味 論 的 プ ロ セ ス が こ こ の"Opast1"に 指 摘 出 来 よ う 。o の 感 嘆1詞 は 本 文 で 述 べ た よ う に 、 幽 の 末 尾 の 最 後 の 小 節 に 残 っ て い る の で 、 図 の 先 頭 の"past'は 強 拍 な の だ か ら、 拍 節 的 に も こ の ア ウ フ タ ク トで"0"の 感 嘆 詞 か ら 入 っ て く る の は 当 然 な の だ が 、 意 味 論 的 に は 、 完 全 に 夜 の 闇 に 沈 ん で 行 っ た 前 段(短 調)か ら昼 の 光 の 中(長 調)に 移 行 し て 、 か つ 濃 密 な 悲 劇 的 想 い が 「今 で は 過 一去と な っ た 」 と 客 観 視 で き る 距 離 を と っ た 精 神 次 元 に 移 っ て 行 く プ ロ セ ス が 期 待 さ れ た 曲 の 作 り に な っ て い る こ と をB.Terfelは 表i現者 と し て 見 事 に 示 し て い る 。 ℃"は 語 彙 意 味 的 に は 空 疎 だ ろ う が 、 感 嘆 詞 と し て 、 絶 妙 な 後 舌 母 宵 の 音 色 の 襲 と 移 ろ い を 以 っ て 上 記 悲 劇 的 想 い(一 般 に 言 う万 感 の 想 い)を 込 め 、 そ し て そ こ か ら 脱 却 し た 図 の 先 頭 の 光 の 中 で 、 認 知 的 意 味 の 「過 去 」 を 明 晰 に 示 し て 第1拍1」 の 付 点2分 音 符 の"past!"を 歌 う 彼 は 以 上 の 移 行 の プ ロ セ ス を新 た な 創 造 的 テ ク ス ト と し て 織 り出 し た と い え る だ ろ う。 歌 唱 が 楽 譜 の 機 械 的 音 化 で は な い 創 造 的 パ ロ ー ル で あ る こ と を 示 す 見 事 な 具 体 例 と 言 え る 箇 所 で あ る 。 複 合 テ ク ス トの 観 点 か ら は 、 歌 詞 の 言 語 テ ク ス ト、 楽 曲 テ ク ス トの 他 に 、 歌 唱 と い う 肉 声 を 通 し て の 第3の 身 体 表 象 の テ ク ス トを想 定 し、以 上3者 の 相 互 作 用 と そ の 総 合 化(よ り正 確 に は 、
第1の 言 語 テ ク ス ト と の 総 合 化 を 既 に 含 ん だ 第2の 楽 曲 テ ク ス ト、 そ の よ う な 楽 曲 テ ク ス ト と の 総 合 化 と し て の 第3の 歌 唱 ・演 奏 の テ ク ス ト、 そ して3者 の 間 の 働 き か け と い う具 合 に 複 雑 な 様 相 を 呈 す る が テ ク ス ト記 号 論 と し て 大 変 興 味 深 い 問 題 で あ る)の 捉 え 方 を 要 請 し て い る 事 例 で あ ろ う。 な お 、 こ の ア ウ フ タ ク トを 含 む 移 行 箇 所 は 、 ホ イ ッ トマ ン の 何 らか の 個 人 的 悲 劇 的 体 験 の 反 映 と し て の み な ら ず 、 そ の 悲 劇 的 契 機 の 矛 盾 が 宗 教 的 内 省 に 止 揚 昇 華 し て い くSD 第1詩 の ポ イ ン トで あ る が 、 こ こ の 表 現 がSD詩 群 全 体 、 強 い て はLG全 体 の 理 解 の 見 通 し を
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