所蔵古写真カタログ : その1
URL http://doi.org/10.15055/00005554
「 古写真」 を活 かす新 しい学問のすす め
赤澤 威
国 際 日本 文 化 研 究 セ ン タ ー
欧 米 で は 古 写 真 の 存 在 に 早 くか ら注 目 され 、 大 学 、 図 書 館 、 博 物 館 、 美 術 館 、 ア ー カ イ ブ ズ 等 で 継 続 的 に保 存 され て き た 。 しか も そ の 保 存 理 念 は 、 貴 重 な文 化 財 ・歴 史 的 遺 産 と して 大 切 にす る と い う視 点 に と ど ま らず 、 古 写 真 が有 す る 学 問 的 、 教 育 的 、社 会 的 価 値 の 大 き さ と広 さ を評 価 し、 組 織 的 に 収 集 ・保 存 し、 同 時 に体 系 的 に整 理 す る も の で あ っ た 。
かつ て 筆 者 は 、 世 界 各 地 に住 み 着 い て い た モ ンゴ ロ イ ド系 諸 民 族 の 顔 や 文 化 及 び か れ ら を育 ん だ 自 然 の 姿 を 過 去 に遡 っ て 探 る た め に 、 内 外 の 研 究 機 関 等 に収 蔵 され る 古 写 真 調 査 に 取 り組 み 、 欧 米 に お け る 古 写 真 に 対 す る評 価 の 高 さ を実 感 す る機 会 を もっ た 。具 体 的 に は 、ア メ リ カ の ス ミ ソ ニ ア ン研 究 所(SmithsonianInstitution,WashingtonD.C.,U.S.A.)、
フ ラ ンス の パ リ国 立 図 書 館(BibliothequeNationale,Paris,France)お よ び 同 地 理 学 協 会(Soci騁馘eG駮graphie,Paris, France)、 イ ギ リ ス の 大 英 博 物 館 分 館 人 類 学 博 物 館(TheMuseumofMankind,TheEthnographicSectionofTheBritish
Museum,London,U.K)、 ロ シ ア の サ ン ク ト ・ペ テ ル ブ ル グ 人 類 学 民 族 学 博 物 館(TheMuseumofAnthropologyand
Ethnology,St.Pertersburg,Russia)に お い て 、 大 量 の 古 写 真 が 、 体 系 的 に整 理 され 、 ま さ に上 述 の 保 存 理 念 の も と に 優 れ た 学 術 コ レ ク シ ョン と して い きつ い て い る こ と を 知 っ た の で あ る。
こ う した 古 写 真 は 、 時 々 刻 々 と変 化 して や む こ と の な い 時 の 封 印 され た 雄 弁 な証 拠 物 で あ る 。 そ して 、 そ れ が 有 す る 特 性 、 な か ん ず く、 記 録 性 、 客 観 性 、 瞬 時 性 等 の 特 性 に よ っ て 過 去 を 検:証させ て くれ る 古 写 真 は 、 専 門 的 な情 報 を 内 包
して い る と 同 時 に 、 複 合 し あ う さ ま ざ ま な 情 報 を 総 体 と して イ メ ー ジ させ て くれ る 包 括 的 な 学 術 資 料 と して 機 能 す る も の で あ る 。 言 い 替 え れ ば 、 古 写 真 は そ の 専 門 性 に 左 右 され る こ と な く、 日本 研 究 に 取 り組 む 専 門 分 野 の 目 的 、 内 容 、 方 法 に 対 し て柔 軟 に 応 え られ る と 同 時 に 、 さ ま ざ ま な 専 門 分 野 を 横 断 的 に 連 結 す る 包 括 的 な 資 料 群 と し て機 能 す る 可 能 性 を秘 め て い る 。
とす れ ば 、 日本 研 究 に 関 わ る諸 分 野 に お い て 古 写 真 が果 た す 役 割 は 極 め て 大 き い と考 え られ る 。 そ れ ら を保 存 管 理 す る こ と 自体 も意 義 深 い こ と で あ ろ う し、 か つ ま た 、 そ れ ら を 適 切 な方 法 で も っ て 広 く公 開 して み せ る こ と が で き る な ら、
一 般 社 会 に 対 し資 す る 点 も大 で あ る。 す な わ ち 、 古 写 真 は 文 化 財 、 歴 史 的 遺 産 と し て 尊 重 さ れ る だ け の もの で は な く、
日本 研 究 の 一 翼 を 担 い う る 重 要 な 基 盤 資 料 と して 重 視 さ れ て よ い 。 こ こ に 古 写 真 資 料 の 現 代 的 意 義 が あ り、 さ ま ざ ま な 古 文 書 資 料 と 同 様 、 学 術 資 料 と して そ の 系 統 的 、 組 織 的 な 収 集 と保 存 に つ とめ る こ と が 重 要 で あ る こ とが わ か る 。
と こ ろ で 、 現 代 社 会 の よ う に 転 変 著 しい 文 化 環 境 に あ っ て は 、 古 写 真 を 収 集 す る こ と が 次 第 に 困 難 に な っ て い る し 、 ま して や 、 そ う した 古 写 真 を も っ て 新 た な 資 料 群 を形 成 す る こ と な ど 、 事 実 上 、 不 可 能 に 近 い 。 さ ら に ま た 、 古 写 真 の ほ と ん ど は 時 間 の 経 過 と と も に確 実 に 劣 化 、 変 質 し 、 放 置 す れ ば い ず れ は 学 術 資 料 と して の 価 値 を失 う こ と に な る 。 か と い っ て そ れ を 防 ぐた め に しば し ば と ら れ る一 般 的 な 措 置 、 い わ ゆ る 隔 離 保 存 は古 写 真 の 利 用 価 値 を失 わ せ て し ま う こ と に な る 。
そ の た め に も 、 古 写 真 の 恒 常 的 な 保 存 、 劣 化 し た 古 写 真 の 再 生 ・復 元 に関 す る 理 論 と技 術 開 発 に取 り組 む こ と が 急 務 で あ る 。 ま た 、 既 存 の 写 真 研 究 を 具 体 的 に検 証 し な が ら、 多 分 野 に ま た が る 多 種 多 様 の 古 写 真 を有 機 的 に 活 用 で き る 情 報 環 境 の 創 出 の た め に写 真 資 料 の 電 子 情 報 化 を 実 現 す る理 論 と技 術 開 発 な ど も併 せ て 推 し進 め る 必 要 が あ る。
古 写 真 が 有 す る多 様 な価 値 を恒 常 的 、 恒 久 的 に 保 全 し、 古 写 真 に 基 づ く研 究 を 継 続 的 に 支 援 す る た め に は利 用 者 で あ る 研 究 者 の 自 覚 は も ち ろ ん だ が 、 上 述 す る よ うな 技 術 的 方 策 に 関 す る研 究 開 発 が 急 務 で あ る こ と が わ か る 。 こ れ ら の 研 究 は 、 わ が 国 の 日本 研 究 の 領 域 に お い て は模 索 中 で あ る が 、 学 問 が 専 門 細 分 化 し た こん に ち片 手 間 で 行 え る もの で は な い 。 平 成11年4月 、本 セ ン タ ー に 誕 生 し た 「文 化 資 料 研 究 企 画 室 」 は ま さ に 、 古 写 真 な どの 研 究 資 料 を活 か す た め に 必
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要 な新 しい学 問領 域 を企画 し、実践 す る装 置 で ある。
す な わち 、 日本研 究 に資 す る さま ざまな資料 、 しか も さま ざまな形 で流 通 し、埋蔵 され 、 あるい は消 失 の危 機 に瀕 し て い る資 料 を発掘 し、考証 と評 価 、整理 と保存 、公 開 と利 用 も含 め た諸段 階 を総合 して、国 内外 の研 究者 に有 用 な情 報 環境 の形 成 と発達 を リー ドす るた めの研 究 を推進 す る装置 で ある。今 回刊 行 す る写 真 カ タログ 『所蔵 古写 真 カ タログ ー その1』 は、 当企 画室 が上 述 の理 念 に基づ いて取 り組 ん だ最初 の研 究 の 一端 を ま とめた もの で あ る。言 い 替 えれ ば 、 上述 の理 念の もとに整理 したセ ン ター所 蔵 の古写 真資料 の 基本 台帳 の第 一号 で あ る。
当 カ タログ の刊 行 に先 立 つ研 究 の諸 段 階 にお いて 、 多 くの方 々 か ら さま ざ まな援 助 と協 力 をいた だい た。 なか で も、
今 回取 り扱 っ た古 写真 資 料 につい て 、その技 術 史的 な意 義 につ いて は次 の二 人の専 門 家の評 価 に基 づ いて い る。東 京大 学 史料 編纂所 が所 蔵 す る古 写真 等 を中核 とす る新 しい情 報 資源環 境 の構築 に取 り組 む 馬場章(東 京 大学 史料 編 纂所 近世 史 料 部助教 授;現 東京 大 学大 学 院情報 学 環助 教授)、 吉 田成(東 京 大 学史 料編 纂所 技 官)両 氏 で ある。両 氏 の 絶大 な協 力 に感 謝す る。そ して 、古写 真 の整理 、研 究 に長年 取 り組 ん で きた吉 田氏 か らは本 カ タロ グの刊行 にあ た り、 古 写真 の 情 報化 に関す る さま ざま なテ ーマ につ い ての包 括的 な論 考 を原 稿 と して ち ょうだいす るこ と とな り、本書 に収 録 す る こ とがで きた。 とくに 、氏 が東 京大 学 史料編 纂所 が取 り組 んで きた古 写 真の考 証 、整理 をベ ース とす る古写 真の 研 究 の方 法 と課 題 につ いて は企 画室 が これ か ら取 り組 む古写 真 の研究 に とって貴重 なア ドバ イスで あ ると確 信 す る。
最 後 に、本 カ タログ刊 行 は情 報課 岸本 由紀氏 の尽 力 に負 う ところ大で あ る ことを記す 。
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