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学 位 論 文 要 約
(専攻名) 生産開発工学専攻 氏 名 野 口 愛 子
1.論文題名(外国語の場合は、その和訳を併記すること。)
骨盤・下肢の骨折固定法に関するバイオメカニクス解析
2.要 旨
第1章 緒 論
超高齢社会を迎えた現在,社会保障費の支出を抑えながら高齢者医療の質の維持と向上を図 るためには,安全安心の結果を確実に提供し得る治療方法の研究開発が求められている.高齢 者にとって,寝たきりにならないためには骨折しないことが重要であるが,骨折症例数はさら なる増加が推測されているのが実状である.骨折患者の増加に対応するためも,早期治療や早 期離床を確実にするための治療環境の創出が求められる.このような状況のもと,骨の脆弱化 を考慮した臨床応用研究にバイオメカニクス的手法を適用した研究が多く実施されてきてい る.
加齢と共に骨の脆弱化が見られる高齢者において,転倒による主な骨折部位は,椎体,上腕 骨近位,橈骨遠位,大腿骨頸部,骨盤である.高齢者が骨盤や下肢を骨折した場合,歩行困難 となり寝たきりに至るリスクが高く,余生の生活の質の低下を招き易い.それら骨折に対して,
長期臥床を避ける目的で固定力の高い内固定を用いた手術的療法が適用されることが多い.例 えば,重度な外傷である骨盤の多発骨折の処置には,プレートやスクリューを用いた内固定が 適用される.また,大腿骨の近位部骨折の処置には,骨髄内に挿入して骨折部を固定する髄内 釘法の適用例が少なくない.特に,多発骨折は患者によって骨折形態や症状が多種多様である ため,個々の骨折患者に応じた治療が必要となるが,臨床医の経験に基づいた治療が患者に対 して施術されているのが現状である.
骨折の治療促進には骨折部に適度な力学的負荷が必要であると考えられている.そのため,
骨折部の骨癒合不全や,骨盤骨折に特徴的に見られる仙骨 H 型骨折のような問題の原因解明の ためには,骨折部やその周辺の応力状態を明らかにすることが重要である.そこで本論文では,
社会的に推測される高齢骨折患者の増加に対応するために,寝たきりに至るリスクが高く,余 生の生活の質に重大な結果を及ぼし易い,多発骨盤骨折の骨癒合不全症例や,大腿骨の転子下 骨折症例を対象とした医工連携研究の発展を目指した.
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第2章 生体と FEM 解析
バイオメカニクス(Biomechanics)は生体の機能と構造・構成を力学的に解析し,その結果 を応用する分野である.近年の医学分野では,臨床患者への的確な術前計画や治療予測,治療 器具のカスタムメイド化等のニーズが高まっており,生体の力学的環境の解明のために,機械 工学で広く使われている有限要素法(FEM)を使用したシミュレーション解析の臨床応用が求め られている.本章では,解析や解析手法を理解する上で深く関わりのある,生体学と生体力学 などの基礎知識を説明した.
ここでは,シミュレーション解析モデルでの臨床状態の再現や解析結果を理解する上で必要 な,外科的な医学知識として,生体組織,特に骨格について明示しており,骨盤や大腿骨の基 礎的な解剖学や,骨折分類法,骨折治療に関する骨治癒や固定方法について述べた.また,シ ミュレーション解析に用いる有限要素法の基礎的な原理や使用方法について解析事例を通して 詳述した.さらに,力学実験方法として FEM 解析結果の裏付けの為にも重要なひずみ解析つい て説明した.
第3章 実験的ひずみ解析
骨折部などの力学状態を知るための方法として,有限要素解析(FEA)が有効な方法の1つで ある.しかしながら,FEA 結果の精度は,モデル精度や解析条件に依存するため,研究や調査に 有効活用するためには,FEA 結果の妥当性を検証することが重要である.第 3 章「実験的歪解析」
では,模擬骨を用いて荷重試験を行い,骨表面のひずみを計測した.また,実験と同条件を設 定した FEA 結果のひずみ値を算出した.結果として,荷重試験および FEA 結果おいて,ひずみ 値に一致がみられたことから,FEM 解析による検討の妥当性が確認された.
第4章 骨盤多発骨折治療における骨盤傾斜の検討
多発骨盤骨折の治療に適用されるプレート固定法では,骨折部の遷延治癒や偽関節などの骨 癒合不全の症例が報告されており,適切な固定方法の力学的検討が必要とされている.第 4 章
「骨盤多発骨折治療における骨盤傾斜の検討」では,実際に骨盤の多発骨折を受傷した患者例 を再現した骨盤モデルを対象に FEM シミュレーション解析を行った.本研究方法の特徴として,
患者 CT 画像の輝度値分布に基づいて,骨 FE モデルに対して患者固有の骨特性を適用するとと もに,解析条件として骨折部の治癒過程を想定している.ここでは,骨折治癒過程を想定した FEM 解析の結果を示し,骨盤モデルの骨折部および固定プレート類の応力状態を評価した.
また,骨盤骨折を受傷した高齢患者においては,その姿勢が骨盤の骨折治癒の難しさに影響 を及ぼしている可能性も指摘されている.臨床医は多くの骨盤骨折患者の診断・診察を通して H 字状の仙骨骨折部が少なからず高齢者に共通して見られる事に気づきながら,その原因解明に は至っていなかった.そこで,高齢患者を想定した骨盤傾斜姿勢を考慮した検討として,骨盤 モデルに骨盤傾斜角度を設定した条件における解析を行った.そして,高齢患者での骨盤傾斜 姿勢が骨折固定部周辺の応力状態に如何なる影響を及ぼすかについての検討を行い,さらに仙
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骨 H 字型骨折との関連性について検討した.骨盤傾斜姿勢による骨折固定部周辺の応力状態の 変化を明らかにし,臨床報告との比較により検討を行った結果を述べた.
第5章 大腿骨転子下骨折の髄内釘固定術モデルにおける力学的検討
第 5 章「大腿骨転子下骨折の髄内釘固定術モデルにおける力学的検討」では,大腿骨転子下 骨折での再手術に至った臨床例を再現した大腿骨モデルを対象に,FEM によるシミュレーション 解析を適用して,大腿骨転子下骨折治療における骨折部および固定する髄内釘インプラントの 力学的状態を調査し,その結果に基づきプレート併用の影響等を明示した.さらに,大腿骨転 子下骨折症例に髄内釘とプレートを併用した有限要素モデルを用いて,ねじりにおける骨折部 および髄内釘インプラントの力学的状態と,その結果に基づくプレート併用の影響等を明示す ることの他,骨折治療過程にストレッチ運動を行った場合を想定し,骨折部およびその周辺に 及ぼすストレッチ運動の影響を明らかにすることを目的とした.
第6章 結 論
本論文では,社会的に見て高齢患者の増加が推測される中,寝たきりによって余生の生活の 質に重大な影響を及ぼしやすい骨折症例に着目し,その中でも骨癒合不全のリスクが高い多発 骨盤骨折や転子下骨折を対象として,FEM によるシミュレーション解析を行った.
シミュレーション解析を行うにあたり,実験的歪解析によって,FEM 解析結果に妥当性がある ことを確認した.患者例を再現した骨モデルの FEA により,高齢者特有の姿勢が骨盤骨折の治 癒の難しさに影響を及ぼしている可能性も推定された.また,大腿骨転子下骨折に適用される 髄内釘固定治療において,あぐら姿勢での捻り変形によって骨癒合不全の危険性も示唆された.
さらに,骨折治療期間における繰返し歩行荷重により,髄内釘インプラントが疲労破壊を生ず る危険性も示唆された.一方,髄内釘固定治療において,大腿骨転子下骨折の治療に髄内釘固 定にプレート固定を併用する手法の有用性が示された.
本研究では,骨の脆弱化が見られる高齢患者での骨折部の力学的状態や,高齢者特有の姿勢 における仙骨 H 型骨折の原因との関連性,および,大腿骨転子下骨折の治療に髄内釘固定にプ レート固定を併用する手法の有用性などが明らかとなった.医工連携研究として得られた,こ れらの結果は,今後の整形外科分野の骨折治療を考える上で有益であるといえる.今後さらに,
骨折治癒が阻害されず促進されるような手技・手法が明らかになれば,臨床における適切な骨 折固定方法の確立や,多発骨折を受傷した個々の患者に合わせたカスタムメイドな治療の効率 化にもつながることが期待される.