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合成素材保存のためのデータベース

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(1)

合成素材保存のためのデータベース

著者 山本 泰則

雑誌名 国立民族学博物館調査報告

36

ページ 197‑217

発行年 2003‑02‑28

URL http://doi.org/10.15021/00001964

(2)

園田直子編『合成素材と博物館資料』

国立民族学博物館調査報告 36:197−217(2003)

合成素材保存のためのデータベース

    山本泰則

国立民族学博物館博物館民族学研究部

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1はじめに 2テクニカルシート

3データベースのプロトタイプの作成 3.1ハードウェアとソフトウェア 3.2データベースの設計 3.3データの検索と閲覧

3.4データの入力

4考察

4,1個別事例と一般情報の混在 4.2共同研究会での討論 5今後の課題

1はじめに

 博物館・美術館では,さまざまな場面で合成素材が使われている。資料のレプリカはも ちろん,19世紀以降制作された「もの」には,オリジナルに合成素材が使われていること もめずらしくない。一方,収蔵品の補修や保存処理のために合成素材が利用されている。

さらに,収蔵品を展示・収蔵・運搬するときのケースや梱包材としても合成素材が用いら

れる。

 博物館・美術館において,これまでに,どんな合成素材がどのような用途でいかに使用 されてきたか,合成素材が時間を経てどう変性し資料にどのような影響をおよぼすか,合 成素材を含む資料を長期間保存するにはどうすればよいか,ということに関しては現在十 分知られているとはいえない。

 合成素材を含む資料を保存し,また,合成素材を資料の保存に有効に活用するためには,

まず,これらの情報を系統的に調査し,整理蓄積して現状を把握する必要がある。また,

こういつた問題には博物館・美術館の職員をはじめ,修復家,保存科学者,化学者,レプ リカの製造業者など,さまざまな分野の人がかかわっているため,互いに情報を交換し,

知識とノウハウを共有できるようにすることが重要である。

 本研究の目的は2つある。ひとつは,博物館・美術館にかかわる合成素材の保存のため に,どんな情報を調査収集すべきかをあらいだすことである。もうひとつは,収集した情 報をデータベースとしてコンピュータに蓄積し有効利用するためには,データベースのデ

(3)

ザインをどのようにすればよいかを検討することである。

 まず次節では,情報収集のために抽出した調査項目と,それをまとめたテクニカルシー トについて述べる。それ以降の節では,試作したデータベースのプロトタイプについて,

設計方針,データ入力・検索・閲覧のためのユーザインタフェース,サンプルデータを入 力してみたときの評価について議論をおこなう。

2テクニカルシート

 合成素材と資料に関する情報を系統的に収集するために,まず,テクニカルシートを設 計することにした。共同研究会nでの議論で調査項目を抽出し,それをふまえて園田が中 心になって書式をまとめた。

 博物館・美術館における合成素材と資料を保存の観点からみた場合,つぎの4つの要素 がある(図1)。

博物館・美術館

 資料

1

使用形態 合成素材 経年変化

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  参考文献

 テクニカルデータ

図1 「保存」からみた合成素材の4つの要素

合成素材 使用形態

資料

さまざまな場面で利用される合成素材そのもの。

合成素材が資料にどうかかわっているか。ここで「かかわり」とは,

・合成素材が資料の一部(または全体)を構成する

・合成素材が資料の補修や補強のために用いられる

・合成素材が資料の展示・収蔵・梱包のために用いられる という3つの場合が考えられる。

合成素材と上記のどれかのかかわりをもつ資料。

(4)

山本 合劇保存のためのデー・一ス

P

これらの視点をもとに,つぎの5種類のシートを作成した。

①合成素材の情報合成素材自体についての規格と物理化学的な情報である(図2)。

 合成素材の成分,入手方法(購入した場合は,商品を特定する情報),化学分析,使  用前・使用後の色や形状,関連資料,などの項目からなる。

②合成素材の使用に関する情報 合成素材が資料にどう使用されているかについての  情報で,合成素材と資料の関係によって3つの部分に分かれている(図3)。

 パートA 資料の全体あるいは一部が合成素材2}でできている

   たとえば,合成樹脂の絵具で描いた絵画なども調査の対象となるため,「濃度」

   や「添加剤」という項目がある。

 パートB 資料の修理・補強に使用する合成素材  パートC 容器・収納・梱包などで使用する合成素材

   資料の展示・収蔵・運搬などの目的で,短期あるいは長期的に合成素材が資料    と直接あるいは間接的に接して,化学的な影響を与える可能性がある場合がこ    れにあたる。

③資料に関する情報合成素材とかかわる資料についての情報である(図4)。資料の  おおまかな分類と,資料を特定するための情報,資料の写真などからなる。

④合成素材の経年変化に関する情報資料とかかわる合成素材が,時間を経てどう変  化するかについての情報である(図5)。合成素材そのものの変化,合成素材が周辺  へ及ぼした影響,合成素材を使ったために防げた被害,経年変化の原因・対処につ  いての情報をこのシートに記入する。

⑤参考文献 上記4種類の情報について,関連する既存の調査・研究結果の文献情報  を記入するシートである(図6)。このシートは,他の4つのシートから適宜参照さ  れる。

以上5種類のシートでテクニカルシートを構成する。

 合成素材の使用に関する事例ごとに,この5種類のシートを記入する。もちろん,すべ ての事例で全シートに記入できる情報があるとは限らない。また,ひとつの資料に何種類 もの合成素材が使われていた場合は,それぞれ別の事例として記述する。つまり,テクニ カルシート記述の単位は,資料ではなく合成素材の使用事例である。

3データベースのプロトタイプの作成

利用目的にかない,利用者にとって使いやすいデータベースを作成するためには,プロ トタイピングが有効である。つまり,アイデアを具体化するために,データベース設計の

(5)

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山本 合成素材保存のためのデータベース

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山本 合成素材保存のためのデータベース

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(10)

山本 P合劇保存のためのデー・ベース1

できるだけ早い段階から試験的に雛型データベースを作成し,それに実際にデータを入力 して使用してみる。そして使いがってを評価して問題点をあらいだし,設計に反映する,

という過程をくり返すことが望ましい。

 この節では,前節のテクニカルシートにもとづいて試作した,合成素材保存のためのデー タベースのプロトタイプについて述べる。

3.1 ハードウェアとソフトウェア

 プロトタイプを作成するハードウェアとしては,手近にあった,ごくふつうのパーソナ ルコンピュータを使用した。具体的には,Apple社製のPower Macintosh G3 MT333

(クロック:333MHz,メモリ:128 MB,ハードディスク:8.5 GB)である。

 また,データベースソフトウェアとしては,「ファイルメーカーPro(4。1v2)」を使用 した。ファイルメーカーは,パーソナルコンピュータで動くデータベースソフトウェアと して,長い実績と使いやすさに定評のあるソフトウェアのひとつで,以下のような特徴を

もつ。

1.カード型+リレーショナル機能をもつデータベースである。もっとも素朴なカード  形式のデータベース機能に加えて,現在主流をしめるリレーショナル型のデータベー  ス機能をあわせもつ。

2.フィールド定義が柔軟にできる。データ入力後もデータ項目(フィールド)の定義  を修整,追加,削除できる。この機能は,頻繁に設計変更をおこなうプロトタイプ・

 データベースを作成するには好都合である。

3.マルチプラットフォームのデータベースである。Macintosh, Windows 95/98/NT  で動作するものが利用できる。プロトタイプを共同研究のメンバーのパーソナルコ   ンピュータで試用してもらうことができる。

4.「Web共有」機能がある。 WWWブラウザから,ネットワークをとおしてデータ  ファイルの閲覧,検索,編集ができるので,情報共有のテストとしても使える。

将来,大規模なデータを含む本格的な「合成素材保存のためのデータベース」として使用 するには,ファイルメーカーは機能や能力が不足しているかもしれないが,その場合でも データ入力のためのシステムとしては利用できるという見通しをつけた。

3.2データベースの設計

 基本的にはテクニカルシートの構成と書式に準じて,プロトタイプ・データベースの設 計をおこなった。

 以下の説明の便宜上,「シートセット」という用語を定義しておく。テクニカルシート

(11)

を構成する5種類のシートのうち,「参考文献」シートを除いた4種類のシートの組を「シー トセット」と呼ぶことにする。ひとつのシートセットは,合成素材の一使用事例について の情報を(参考文献情報を除いて)表している。

方針1情報は,シートの種類別に個別のデータファイルに蓄積する。

「合成素材の情報」シート,「資料に関する情報」シート,「合成素材の経年変化に関する 情報」シートそれぞれを,ファイルメーカーのひとつのデータファイルに対応させて情報

を蓄積する。「データファイル」とは,ファイルメーカーが情報を管理する単位で,カー ドの集合体のようなものである。リレーショナルデータベースの用語で言えば,ひとつの データファイルは,ひとつの「関係」あるいは「テーブル」にほぼ対応する。

 ただし,「合成素材の使用に関する情報」シートについては,A, B, C,3つのパート をそれぞれ別のデータファイルに分割して表現する。その理由は,3つの部分の内容は互 いに独立した性格の情報であり,合成素材のひとつの使用事例においては,3つの部分の うちひとつだけが記入されるからである。また,分割した方が,多くの空欄の項目を含む シート全体を表示するよりも,一覧性がよくなるからである。

 また,「参考文献」シートの情報は,シート単位ではなく,文献1件1件を1レコードと して,参考文献のデータファイルに蓄積する。

方針2 シートセットを構成するシートどうしを関連づけるため,また,各シートから参 考文献への参照関係を記述するため,それぞれ,データファイルを作成する。

 4種類のシートを各シートごとに,ただし「合成素材の使用に関する情報」シートにつ いては各パートごとに,固有のID番号をふり,シートセットを構成するシートのID番号 を「関連づけ」表に記述する。この表では,1行がひと組のシートセットを表わしている

(図7)。

 同様に,どのシートがどの文献を参照しているかを,シートIDと参考文献IDを組にし た表(データファイル)で表現する。

 前述の各シートに対応する7つのデータファイルと,これらの関連づけ情報を記述した 2つのデータファイルによって,利用者は全体をまとまったひとつのデータベースとみな

して利用することができる(図8)。データファイルをこのように分割した構成にした理 由は,異なる事例(シートセット)で共用できるシートがあり,その情報を重複すること なくデータベースに格納することを考慮したためである。たとえば,ひとつの資料に2種 類の合成素材が使われていた場合,「合成素材の情報」についてのシートは合成素材ごと の2枚になるが,「資料に関する情報」のシートは共通する1枚でよい。また,同じ合成素

(12)

山本 合成素材保存のためのデータベース

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図8 データベースの構成

(13)

3.3 データの検索と閲覧

 データを検索するには,ディスプレイに表示された空白の「質問シート」に必要な検索 条件を入れ,「検索ボタン」を押す(図9)。検索は,質問シートの各欄をANDでつない だ条件でなされ,その条件に一致したシートセットが表示される。

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図9 検索のための「質問シート」=「樹脂の成分」の項目に、ポップアップメニューから「アクリル系」という   検索語を入力したところ

 個々のシートセットは4枚のシートで構成されているので,すべてのシートの全項目を 1画面で表示することはできない。そこで,検索結果を閲覧するときは,情報の詳しさを 3つのレベルに分けて,つぎのように段階的に表示することにした(図10)。

一覧表示 検索条件に一致したシートセットが,1シートセット:1行の一覧表として表 示されるモードである(図ll)。各行はそれぞれのシートからの抜粋した項目である。

要約表示 ひとつのシートセットの4枚のシートの内容を1画面に要約して表示するモー ドである(図12)。各シートの主要項目のみを抽出して1画面に要約したものである。た だし,参考文献の情報は省略している。

個別表示 シートセットの個々のシートを1シート:1画面で表示するモードである(図 13〜18)。各シートのすべての項目を見ることができる。ただし,参考文献は,それを参 照している他のシート中の項目として表示される。

(14)

山本 P合成繍・ためのデー・ベース1

一覧

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0010 建這物  下川言 アクリル系 バインダー17 擬懸・鵬止め 001工 建四川  四四言 アク1,ル系 パ,ロイド972

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0014 蔓術自誓品高松堺古壇 アクリル系 バ,ロイド872 禰彊旧著弓劃ヒ》 注射翻愚注入 なし

0015 員緬工芸品国宝浄土寺 アクリル系 ブ,イマル

注射器で注入

0016 蔓術工芸品大樹寺襖絵 アクリル系 バインダー17 闇闇・鵬止め( 注肘器で注入

0017 藁縞工芸品知閑麗罎蔵 アクリル系 プライマル 日戸・押止めζ 注肘奮で注入 不明

0018 賄二子品 アケリル箔 パ,ロイドB72 接着・柵止め{ 注肘膨で注入

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図11 一覧表示  「樹脂の成分」=「アクリル系」という条件で検索した結果

りかえることができる。

 なお,先に述べた検索条件の入力は,ふつう要約表示モードでおこなうが,個別表示モー ドに切りかえてより詳しい条件を設定することもできる。この場合でも,すべての項目を ANDでつないだ条件で検索はなされる。

3.4 データの入力

 合成素材の使用事例を記入したひと組のテクニカルシートがあったとき,データ入力は つぎのような手順でおこなう。

 まず,個々のシートの内容を対応するデータファイルにそれぞれ入力する。コンビュー

(15)

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図13 個別表示「資料に関する惰報」

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(16)

山本 合成素材保存のためのデータベース

合成素材に関する情報

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図14 個別表示「合成素材に関する情報」

合成素材の使用

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響考文献

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図15 個別表示「合成素材の使用一資料の構成要素」

(17)

合成素材の使用一修理・補強一

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響考文献

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図16 個別表示「合成素材の使用一修理・禰強」

舎域素材の使用

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参考文献

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図17 個別表示「合成素材の使用一客器・収納・梱包」

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(18)

山本 P合成素材保存のためのデー・ベース1

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図18 個別表示「経年変化に関する情報」

タのディスプレイに表示された,入力用空欄シートの各項目に必要な情報を順次入れてい く。また,たとえば「合成素材の情報」シートの「樹脂の成分」項目のように,複数候補 の中から選択する場合は,ファイルメーカーの「ポップアップメニュー」機能を利用して,

選択肢の中から該当するものを選択すればよいようにして,入力の簡便化をはかっている。

 つぎに,それらのシートどうしを関連づけるための情報を入力する。シートセットの関 連づけを記述したデータファイルに,ひと組のシートセットを構成するシートのID番号

を表の1行として入力する。また,参考文献があるシートの場合は,そのシートID番号 と参照している文献のID番号の組を,文献参照関係を表すデータファイルの一行として 入力する。

4考察

4.1個別事例と一般情報の混在

 さて,テクニカルシートをもとにプロトタイプ・データベースを作成したが,実際にサ ンプルデータを入力してみると気がつくことがある。

 あきらかに,合成素材に関するすべての情報において,シートセットのすべてのシート が記入されるわけではない。合成素材についての情報だから「合成素材の情報」シートは 必ずあるとしても,それ以外のシートに情報が記入されるとは限らない。このことに注目

(19)

して各シートの「ある/なし」の組み合わせを考えると,理論的には表1のように8通り の場合があることがわかる。

 シートのそれぞれの組み合わせについて,それが表す情報はつぎのように解釈できるだ

ろう。

(1)すべてのシートが記入されていて,合成素材使用の具体的事例としてもっとも詳し   い情報がある場合である。

(2)具体的使用事例の情報であるが,経年変化についての情報は欠けている。合成素材   を資料に適用してから経年変化の有無がわかるほどの時間がたっていない場合など   がこれにあたる。

(4)個別の事例ではなく,合成素材の使用形態とその経年変化についての情報である。

  ある使用方法を前提として合成素材の劣化テストをおこなった場合などが,これに   あたるだろう。

(5)具体的な使用形態を前提とせずに,合成素材単体について劣化テストをした結果で   あるか,あるいは,その種類の合成素材の経年変化に関する一般的な情報である。

  たとえば,アクリル樹脂は時間がたつ≧○○しゃすい,など。

(6)合成素材の使用形態についての一般的な情報である。「合成素材の使用に関する情   報」シートがタイプAの場合は,この組み合わせになることはないであろう。

(8)どう使用するかを前提としない合成素材単体についての情報である。ある合成素材   を化学分析したデータのみがある場合などは,これにあたるだろう。

(3)(7)なんらかの情報がこの2種類のシートの組み合わせで記述されることは,あり   えないと考えられる。というのは,合成素材とそれにかかわる資料があった場合,

  その合成素材が資料にどうかかわったかという情報が必ずあるはずだからである。

表1「シートセット」を構成するシートの組み合せ

資料 合成素材 使用 経年変化

(1)

(2)

(3)?

(4)

(5)

(6)

(7)?

(8)

(20)

山本 合劇保存のためのデー・一ス

 こうしてみると,今回作成したテクニカルシートで記述される情報は,ある時期にある 特定の資料に対してある合成素材を特定の使用方法で適用したというものから,合成素材 のあるカテゴリについての一般的な情報にいたるまで,さまざまな具体性のレベルの情報 が混在していることがわかる。また,ひとつのシートをとってみても,その内容は,たと えば,あるメーカーの特定の商品の特定のロットについての情報から,アクリル樹脂全般 についてといった一般的な情報まで,さまざまなレベルのものがありうる。

 これらをデータベースの中で同レベルの情報の単位として扱った場合,なにか問題をひ きおこすかどうか,レベルを分けてデータをもつ必要があるのかどうかは,議論の余地の あるところである。

 ただ,現在のシート書式には,複数選択肢の中からいくつかを選ぶ項目がある。たとえ ば,「合成素材の情報」シートの「成分」,「合成素材の使用に関する情報」パートBの「合 成素材の役割」,「資料に関する情報」の「資料の種類」,などである。これは情報を選択 肢の数だけのカテゴリに分けていることになり,それによって非常に個別的な情報と一般 的な情報を同レベルで扱える枠組みを提供していると考えることができる。

4.2共同研究会での議論

 共同研究会でプロトタイプ・データベースのデモをおこなったところ,メンバーからつ ぎのようなコメントが寄せられた。

①テクニカルシートの項目の追加・修整に関する提案

  ・「合成素材の情報」シートの「形状」項目に,「ペースト状」を追加すべきである。

  ・情報はつねに合成素材を中心にみているので,「個別表示」のどの画面でも合成素    材の「商品名」(もし,あれば)と「樹脂の成分」の項目は表示してほしい。

  ・「合成素材の使用に関する情報」シートのパートB「資料の修理・補強に使用する    合成樹脂」には,その合成素材を使った理由と使いやすさの情報が必要ではないか。

  ・「合成素材の経年変化に関する情報」シートの「劣化の種類」に「生物による」と    いう選択肢を設ける。

これらは,シートの書式変更し,それをデータベースに反映させられる内容である。

②略称使用や表記のゆれの問題

 試験的に収集したテクニカルシートのデータの中には,つぎのような表記のゆれが散見 された。たとえば,表現は異なるが同じものをさしている場合(「エチルアルコール」と

「エタノール」,「トリクロルエチレン」と「トリクレン」,「パラロイド3)」と「アタリロイ ド」など),略称を用いる場合とそうでない場合(「株式会社」と「KK」など),慣用とし て製品名を番号だけで表す場合・(「パラロイドB−72」ではなく「B−72」など),カナ表記

(21)

とローマ字表記(「ローム・アンド・バース」と「Rohm and Haas」,「パラロイド」と

「Palaroid」など)などである。データ入力時に表記を統一する方法なら,いまのプロトタ イプで対応できる。しかし,将来,情報提供者を共同研究会のメンバーの範囲を越えて広 げることまで考慮するなら,表記の統一・にはかなりの労力を要する作業になる。むしろ,

表記のゆれを吸収するシソーラスを作る方が実際的であると思われる。だだしその場合,

現バージョンのファイルメーカーでは対応できない。

5今後の課題

 本研究では,博物館・美術館にかかわる合成素材の保存を目的と・して,まず,合成素材 使用の現状を調査し情報を収集・整理するために調査項目を選びだし,テクニカルシート

を設計した。それをもとにデータベースのプロトタイプを試作した。

 しかし,解決すべき課題は多い。

 まず,第1に,プロトタイプを評価するのに十分な数のデータが現時点ではそろってい ない,ということがある。今後も随時データを追加して,いろいろな方法で検索をおこなっ て問題点をみつけだし,現プロトタイプを改良する必要がある。

 一方,プロトタイプであるという理由で,省いた機能も多くある。

 たとえば,参考資料の情報については書誌情報を載せるにとどめた。しかし,実際には 市販されている合成素材のパンフレット,実験結果の表やグラフのデータ,資料の写真な

ど,さまざまな形態の関連情報があり,これらも必要に応じてパーソナルコンピュータの ディスプレイ上で内容を見られることが望ましい。

 また,関連情報へのリンクという意味では,シート間のハイパーリンクも追加すべき機 能のひとつである。従来,データベースはキーワードで検索して結果を閲覧するという利 用方法のみだった。しかし,WWWをはじめハイパーリンクを手軽に実現できる枠組みが ある現在,検索結果のシートに含まれるハイパーリンクをたどってシートからシートへと 渡り歩きながら,関連情報を見ていくというデータの閲覧方法もある。

 いままでにない視点から情報を集めるためのデータベースでは,いくら項目を追加して も,それにおさまらない新たなタイプの情報が現れるものである。この問題に対応するた めには,データの書式に個別の項目以外の自由記述欄を設け,全文検索機能でこの部分を 検索するしか方法がないかもしれない。

 その他,ネットワークを通したデータの入力・検索,他の組織で作成した別のデータベー スと情報を共有するために適切なメタデータの付加,「考察」であげたシソーラス機能の 追加なども,今後の課題としてあげられる。

(22)

・本 m合成素騰のためのデー・ベース1

1)国立民族学博物館共同研究「博:物館・美術館における合成素材の保存に関する基礎的研究」(研   究代表者:園田直子 1998年4月〜2001年3月)。

2)作成したテクニカルシート(図8)では,各パートのタイトルに「合成樹脂」という語をもちい   ているが,次版のシートでは,より広い範囲めものを意味する「合成素材」に用語を統一する予   定である。

3)「パラロイド」「アタリロイド」「Paraloid」はいずれも製品名である。

文 献

Date, C. J.

 1997.『データベースシステム概論』藤原譲監訳,東京:丸善。

FileMaker Inc.

 1998『ファイルメーカーPro 4.1ユーザーズガイド』東京:FileMaker Inc.

冨山学

 1998『ファイルメーカーPro 4.0パーフェクトマニュアル』東京:アズキー。

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