第1報運動群と非運動群の比較
菅原正志
(昭和49年9月30日受理)
Heart Rate and Its Relation to Oxygen Intake Part 1. Comparison between Trained and Untrained Subjects
Masashi SUGAHARA
The present study was intended to determine heart rate and its relation to oxygen intake, and physical fitness of the trained and the untrained. The subjects in this study were sixteen students.
Eight subjects were trained, whereas others were untrained.
Results obtained as follows;
1) The average values of the height, body weight, lean body mass were highest in the trained, but the skinfold thickness and percentage of body fat were lowest in the trained.
2) The following became clear after the investigation on heart rate and its relation of oxygen intake in the muscular work.
a. The relation between heart rate and oxygen intake may be seen by the very high correlation coefficients (degree of 0.9).
b. The faculty of oxygen intake was highest in the trained and lowest in the
untrained, and the value of oxygen intake was highest in the Step Test.
c. The assumption of maximum oxygen intake from the individual regression of heart rate and oxygen intake was highest in the trained.
d. The regression were calculated between rate of increase of heart rate (heart rate in exercise / heart rate at rest) and oxygen intake of excess work (oxygen intake in exercise-oxygen intake at rest).
Bicycle Ergometer Y=0.012X-1.04
Step Test Y=0.010X-0.53
(X: rate of increase of heart rate)
(Y: oxygen consumption of excess work)
50
菅原正志 1はじめに身体活動により酸素の必要量は増加に呼応して呼吸器系,循環器系の活動は元進し,心拍の 数も持出量も増加することはよく知られている。また筋活動にともなう心拍数増加の原因とし て, ①中枢神経からの作用, ④アドレナリン,サイロキシンなどの化学物質, ⑨体温上昇,
④血液pHの低下, ⑤心臓付近により起こる反射などがあげられている。
各種身体活動持続時の酸素摂取量と心拍数との関係についても,数多の研究報告がある。著 者もこの両者の関係を追求して,心拍数から酸素摂取量を推測すると共に日常運動鍛練者と非 運動者とで,この両者にみらるべき差異を明らかにしたいとして実験的研究を行なった。
II方法
1.被験者: N大学生男子16名,うち運動群は8名で同大学運動部に所属し毎日練習してお り,年令は18‑22才であった。非運動群は8名で運動部に所属しておらず,その運動はせいぜ い週1‑2回程度までの者で,年令は17‑24才である。
2.測定時期:昭和49年7月
3.測定項目及び方法 a.身長
b.体重
C.皮下脂肪厚,栄研式皮厚計を用い,上腕部(右上腕の背部三頭牌筋上において肩峰突 起と肘頭突起との中間点),背部(右側肩月甲骨尖端角の直下),腹部(済右横)の3ヶ所を測定
し体脂肪% (対体重比),活性組織量kg (Lean Body Mass)を算出した。
d.心拍数と酸素消費量,運動負荷測定には踏台昇降運動(Step Test),と自転車 Ergometerを用い安静よりさまざまの負荷にいたるまでの心拍数と酸素消費量を同時に測定
し,安静は,座位安静で30‑40分後に採気測定した。
4.踏台昇降運動の負荷方法
㊥踏台の高さ23cmで毎分12回の昇降(心拍数は90‑110 beats/min.), ⑧踏台の高さ23cmで 毎分25回の昇降(心拍数115‑130 beats/min.), ⑨踏台の高さ23cmで毎分28回の昇降(心拍数 135‑150 beats/min.), ④踏台の高さ35cmで毎分30回の昇降(心拍数150‑beats/min.)の4 種目について測定した。
5.自転車Ergometerの負荷方法
Monark社のErgometerを使用し①0.5kpでIOrpm (心拍数で75‑90beats/min.), ㊨
l. OkpでIOrpm (心拍数90‑110 beats/min.), ⑨1.5kpで20rpm (心拍数115‑140beats/min.),
④1.5kpで30rpm (心拍数150‑beats/min.)の4種目について測定した。
各負荷は心拍数によりsteady stateに入っていることを認めた後3分間採気を行なった。
Step Testと自転車Ergometer負荷の④において心拍数が170beats/mm.前後においても, 心拍数と酸素摂取量からSteady Stateが成立することを著者は確認した。
心拍数は日本光電ポリグラフRM‑45を用いて測定し,採気はRespiration Gasmeterを用 いSample gasは労研式大型呼気ガス分析器で分析した。測定に際しては,室温条件を一定 にする為に午前中に実施した。
IIl測定成績 A.体格と肥満
運動群と非運動群の年令,身長,体重,皮下脂肪厚,体脂肪率(対体重比),活性組織量は 表1に示す如く身長は,運動群で170.81±5.49cm,非運動群は168.65±5.20cmでその差は 2.16cmと運動群に高く,体重では運動群62.63±6.48kg,非運動群で58.83±5.05kgでその差 3.80kgと運動群に重い。したがって体格で両群の差は有意ではなかったが,運動群の方がやや 優れている。
Table 1 Physical characteristics of trained growp and untrained growp trained
growp
(N‑8) S.D
untrained growp
(N‑8) S.D
significant,
Age (Year) Height (cm) Weight (kg)
Skin fold thickness m Tiutw
(Triceps+Scapula)
Body fat {% of wt.)
Lean body mass (Kg) (L. B. M.) LちM ! Weight (#)
o i o o a t o
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± O L f t C O O O 5 I D O N ( O O O O O O O C M ( M
< N t o L f i C S l 1
N.S N.S pく0.10 N.S Pく0.10 N.S N.S (no significant difference)
皮下脂肪厚(上腕+背)紘,運動群16.88±5.09mm,非運動群は22.00±6.81mmであり, これから長嶺の計算式を用いて得られる体脂肪(%)は運動群10.96±2.00^,非運動群は12.89
±2.94%と,非運動群がやや上回っている。活性組織量LBM kgは運動群で55.69±5.19kg, 非運動群51.15±3.66kgとなる。
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菅原正志 B.筋活動時の酸素摂取量と呼気量の関係図1は, Step Testにおける毎分酸素摂取量と呼気量の関係である。運動量が増すと共に増 加する正相関々係であり,その相関係数は運動群r‑0.972,非運動群r‑0.971と両群とも に高かった(P<0.001)<また回帰係数は運動群で0.050に対し,非運動群は0.038となって おり運動群は非運動群に比べると吸気からの酸素摂取率が高いことがわかる。また自転車 ErgometerもStep Testと同様な傾向であった。
(
・ u t u i / t ) a u m j O A K j o
^ j i d s s y
0. 5 1.0 1.5 2.0 2.5 02 intake ( 1!min.)
Fig. 1 Relation between respiratory volume and O2 intake (step test)
C.筋活動時の毎分心拍数と酸素摂取量の関係
図2はStep Testにおける毎分心拍数と酸素摂取量の関係で,図3は自転車Ergometer負
(蝣utw/T)a溝?ォ!Sq
!!ノ0 ‑ Trained Y‑0.02IX‑1.142(r‑Q968)
o Untrained Y‑ Q 019X‑1.095(r‑Q 964)
70 100 150
Heart rate (beats!min.)
Fig. 2 Relation between heart rate and O2 intake (step test)
荷での同じ関係であるStep Test,自転車Ergometerいずれの場合も高い有意な正相関々 係があり(P<0.001),その係数は, Step Testで運動群はr‑0.968,非運動群はr‑0.964 であり,自転車Ergometer負荷では運動群r‑0.963,非運動群r‑0.953であった。回帰 係数は, Step Testで運動群0.021,非運動群0.019であり,自転車Ergometerでは運動群 0.021,非運動群は0.016となった。
Heart rate (be‑ats/:日.)
Fig. 3 Relation between heart rate and O2 intake (bioycle ergometer)
筋活動で同じ心拍数でもって,運動群では非運動群に比べてより多量の酸素摂取がなされて いる事が理解出来る。運動群ではStep Testと自転車Ergometerとでその回帰係数にはほ とんど差がないが,非運動群ではStep Testの方の係数がやゝ大きく酸素摂取量が大きいこ とがわかるOこのことは両負荷が,一方は全身運動,片方は局所運動的という質的差異を持つ ためと恩はれる。
個人の体格の影響を消去する為に酸素摂取量を体重で割った単位体重当りの酸素摂取量と心 拍数の関係を, Step Testについて示したのが図4である。相関係数は運動群=0.958,非運 動群r‑0.968と共に高い有意な関係であった(P<0.001)。また回帰係数は運動群0.337に対し 非運動群は0.312でありやはり運動群の酸素摂取割合は大きかった。同様に自転車Ergometer についても,運動群の方の酸素摂取は上回っており回帰係数0.350に対し非運動群のそれは 0.282であった。
さらに単位活性組織(LBM)当り酸素摂取量と心拍数の関係でも同様な成績であり運動群 の回帰係数が非運動群より大きかった。
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菅原正志Heart rate (̀beats / mia )
Fig. 4 Relation between heart rate and O2 intake per body weight (step test)
D.最大酸素摂取量と体格の関係
個人毎にその心拍数に対する酸素摂取量の回帰式を設定し,これから分時心拍数が180beats/
mm.に相当する酸素摂取量を算定しそれを最大酸素摂取量とみなした。
表2ほ安静時の酸素摂取量,推定した自転車Ergometerでの最大酸素摂取量とStep Test の最大酸素摂取量を,運動群と非運動群に分けて比較した。安静時の酸素摂取量は両群問の差 は見られない。次に自転車Ergometerでの最大酸素摂取量は,運動群2.7±0.7」に対し非運
Table 2 Physiological parameters of trained growp and untrained growp trained
growp
̲"ー̲(些三8) S.D
VO2 resting 1/r ml!Kg/min.
ml!KgLBM/min.
VO2 Max. (bicycle) 1/min.
ml/Kg/min.
m l/KgLI〕M/m in VO2 Max. (step)
1/min.
ml/Kg/min.
ml/KgLBM/min.
0.26 ±0.04 4.2 ±0.5 4.7 ±0.5
2.7 ±0.2 43.0 ±3.9 48.3 ±4.2
2.8 ±0.4 44.0 ±4.9 49.5 ±6.3
untrained growp
‑ (N‑8) S.D
significant,
0.24 ±0.04 N.S 4.1 ±0.4 N.S 4.7 ±0.5 N.S
2.1 ±0.2 35.8 ±3.3 41.2 ±3.7
2.3 ±0.2 38.9 ±3.4
44.6 ±3.5 (0.10
N.S ‥ no significant difference
* ‥. pく0.05, ‥. pく0.01, ‥ pく0.001
動群は2.1±0.2^で高い有意な差が見られた(P<0.001)(単位体重当り,および活性組織当 りにしても運動群が非運動群よりも高く,ともに危険率P<0.01で有意であった。
さらにStep Testの最大酸素摂取量は,運動群2.8±OA」に対し非運動群2.3±0.2^で危 険率P<0.05で前者が有意に高く,それはまた単位体重当りでも運動群が高く(P<0.05), 単位活性組織当りでもP<0.10で高かった。
自転車ErgometerとStep Testの最大酸素摂取量を比較してみると,絶対値でわずかに Step Testが運動群,非運動群ともに高いが有意ではない。また最大酸素摂取量を体重当り, 活性組織当りにしても,やはり運動群ではStep Test,自転車Ergometerともに差はない が,非運動群ではStep Testの摂取量が大きい傾向にある(P<0.10)。
次に体重とStep Testの最大酸素摂取量の関係を図5に示した。両群の値を合併した相関 係数はr‑0.547, P<0.05と有意な関係が見られ体重の大きいものが最大酸素摂取量が大きい
Body weight (kg)
Fig. 5 Relation between body weight and Max. 02 intake (step tset)
・ i n u i / S
>
[ /
¥ u x )
一 u S i a . w X p o q J O d 3 吉 w ¥ S q
^ ∑
10 12 14 Body fat.(% of wt. )
Fig. 6 Relation between body fat {% of wt.) and Max. 02 intake per body weight
(step test)
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菅原正志 ことを示している。その回帰方程式は,Y‑0.025X+0.947 〔Y‑最大酸素摂取量(.」/min.), X一体重(kg)〕であった。
また図6は体脂肪% (対体重比)とStep Testでの体重当り最大酸素摂取量との関係であ り,相関係数rニー0.505, P<0.05と有意な負相関々係である。このことは体脂肪が少ない者 はど体重当りの最大酸素摂取量は大きくなり,体脂肪が多い者はそれだけ運動機能が劣ること になろう。
E.筋活動中の心拍数増加率と酸素摂取量の関係
心拍数は絶対値で個人差があり,また安静時の心拍数測定は現実には容易でなく,労作中の 心拍数は安静時心拍数によって左右される。そこで心拍数を安静値に対する増加率として見る と個人間の心拍数の変動はほぼ一致したO表3は,心拍数増加率と労作時の酸素摂取から安静 酸素摂取を差し引いた労作のみに摂取された酸素との関係より,心拍数の変化を知って労作中 の酸素摂取量を推測する回帰方程式を示したものである。
Table 3 Coefficient of correlation and regression equation and its standard deviation between rate of increase of heart rate and oxygen intake of excess work
W ork G ro up E xam p les R eg ression
E q u ation S . D
C oefficien t of C orrelation
B icycle E rgom eter
T rain ed 32 Y = 0 .014 X + 1 .17 ア 0 .26 0 .9 04 U n train ed 32 Y = 0 .011 X + 1 .06 ア 0 .22 0 .924 T o tal 64 Y = 0 .012 X + 1 .04 ア 0 .27 0 .889
Step te st
T rain ed 32 Y = 0 .0 12 X + 0 .80 ア 0 .22 I
0 .890 U n train ed
T otal
32 64
Y = 0 .009 X + 0 .46 ア 0 .30 0 .794 Y = 0 .0 10 X + 0 .53 ア 0 .29 0 .8 13
Y‑Oxygen consumption of excess work X==Rate of increase of heart rate
自転車Ergometerによって得られた回帰線は,運動群が非運動群よりも高く,またStep Testでも同様に運動群に高かった。そして運動群と非運動群を合併してその回帰を求める と, Step Testの方が自転車Ergometer運動に対して同じ心拍数増加率でも酸素摂取量が高 くなる結果を得た。また相関係数はStep Testでr‑0.813,自転車Ergometerでは
・0.889と共に高い相関であった(P<0.001)<
LtiE^Ei
Step Test,自転車Ergometer負荷で運動群の方が少ない呼気量で多くの酸素を摂取して いる。また毎分心拍数と酸素摂取量の関係は, Steady stateでは直線的比例関係にあるが, その中で運動群は同じ量の酸素を摂取するにも非運動群より少ない心拍数ですむという結果を
得た。この両事実は運動群の心臓機能がすぐれ, 1回の持出量の高い事を明示している。
心拍数(180beats/min.)から推定した最大酸素摂取量もまた運動群が有意に高く,それは また単位体格値当りでも同様であった事も運動家の心機能のすぐれている事を物語っている。
1)2)3)
R. B. Bradfield,沼尻らは,あらかじめ心拍数とエネルギー消費の回帰を求め心拍数を測定 することによりエネルギー消費量を推測し,それはかなりの信頼性があるとしている。本実験 も同様にして検討した結果個人の心拍数がまちまちな為酸素摂取量の偏差をとってみてもかな りの誤差がある。そこで心拍数を安静に対する増加率として労作中のみに摂取した酸素量との 関係を見ると個人差がなくなりほぼ一致した回帰直線が得られたOそして負荷が全身運動の場 合と局所筋活動的な場合とでもかなり接近した。これは心拍数測定から,酸素消費量及びカロ リー消費量を推定する事の可能性の高いことを物語るものである。しかし,著者が得た運動中 の酸素摂取量を推測する回帰方程式はSteady Stateの労作の場合のみであり,単純な動作に のみしか活用できず, Steady Stateに入らないような複雑な動作には不適であろう。今後は
さらに実験を重ね,種々の動作に適応する関係式を確立して行きたい。
V 要約
男子大学生の運動群8名と非運動群8名について体格,及び心拍数と酸素摂取量の関係につ いて測定検討した。
(1)運動群が非運動群に比べて,身長・体重,活性組織量が大であり皮厚及び体脂肪は小で あった。
(2) Steady State の成立する筋活動時の心拍数と酸素摂取量について検討した結果, i) 酸素摂取と呼気量については,運動群が同じ酸素を摂取するにしても少ない呼気量で よい。
ii) 分時心拍数と分時酸素摂取量とは,係数0.9程度の高い正相関を示した。
iii) 心拍数とに対応する酸素摂取能力では,運動群が非運動群に比べて高い。この傾向は 体重当り酸素摂取量にしても変わらなかった。
iv) 全身筋活動(Step Test)と局所筋活動(自転車 Ergometer)を比べると,同じ心拍 数を打つ労作で Step Test の酸素摂取量は前者が大きかった。
v) 個人の心拍数と酸素摂取の回帰より心拍数180 beats/min.時の酸素摂取量を最大酸素 摂取量と推定して比較すると, Step Test, 自転車 Ergometer ともに運動群が有意にまさって いて,単位体格値当りにしても同様であった。
vi) 心拍数の安静値に対する増加率(x)から,運動による増加酸素摂取量(y)を推測する予 知式を次の様に得た。
自転車 Ergometer Y=0.012X‑1.04 Step Test Y=0.010X‑0.53
〔Ⅹ=安静からの心拍数増加率, Y=運動による増加酸素摂取量〕
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菅原正志本研究は長崎大学医学部衛生学教室,中村正教授の御指導,御校閲を受けたことを記し深謝 する。
参考文献