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伊藤忠信 村井繁夫

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(1)

岩医大歯誌 4:61−69,1979

総 説

Phenothiazine系薬物と口腔毒性

伊藤忠信 村井繁夫

  岩手医科大学歯学部歯科薬理学講座*

〔受付:1979年5月31日〕

は じ め に

 麻酔強化薬として用いられていたChlorpro・

mazine(CPZ)が精神科領域に導入されたの は1952年Deley, Deniker, Hamonおよび Deschampsらによってである1−3)。以来, CPZ を含むPhenothiazine系薬物に関する研究が 盛んになり,それとともに精神疾患の薬物治療 に対する関心も急激に高まってきた。その結 果,種々の精神異常の病態に対して,それぞれ 有効な薬物が次々に作られ,その特徴なども明 らかにされてきた。しかし,それらは生化学的 ないし薬理学的理論に立脚して作られたもので はなく,むしろ臨床的試用の結果から経験的に 有効か否かによって生れたものである。そし て,現在では向精神薬,特にPhenothiazine 系薬物のない精神疾患の治療は考えられないも のになっている。

 Phenothiazine系薬物は比較的平坦な用量 一 作用曲線関係を示すため,他の疾患で用いら れる薬物では考えられないほど使用量の幅が広 く,しかも長期間投与することができる。ま た,他の薬物と比較して安全な薬物であり,副 作用の発現も3%以下であると云われている。

しかし,この比率は薬物の低用量の場合であっ て,高用量になると副作用の発現率も増大し,

口渇,流挺などの症状はほとんどの患者が訴え

るようになる2) 4)。

 口腔領域の組織,特に粘膜や歯肉は他の臓器 の組織に比較してまことに頑丈なもので物理化 学的に抵抗力の強い組織といえよう。しかし,

これは全身的に健康な状態において云い得るこ とであって,いったん身体的異常が発生すれば 鋭敏に反応するようになる5)。

 Phenothiazine系薬物の口腔領域に発現す る副作用はしばしば全身症状の一端として発症 する。しかし,ときには全身症状に先行して発 症することもある。この薬物は実に多岐にわた

る薬理作用をもっていることから,臨床面にお いても種々な副作用の出現が考えられている。

特に口腔領域において,口渇,流挺などの自律 神経症状やOral dyskinesiaの症状が発現し てくることは本薬物の薬理作用からも当然のこ とである。しかし,精神科領域においては精神 症状の改善にのみ重点を置いているため,それ

ら副作用にっいてはほとんど問題にされていな いのが現状である。口腔領域に限って発現する 副作用にっいては歯科医自身が専門医でなけれ ばならない。Phenothiazine系薬物の口腔領 域の副作用の発現に備えて歯科医は適切な処置 や予防を行うべきである。口腔領域に及ぼす薬 物の副作用についての総説は見受けられない

Effects and side−effects of phenothiazine drugs on the area of oral cavity.

 Tadanobu IToH and Shigeo MuRA1 (Department of Pharmacology, Iwate Medical University

 School of Dentistry, Morioka O20)

*岩手県盛岡市中央通1丁目3−27(〒020)       Z)6川.」.∫初α θMε4.ση拠.4:61−69,1979

(2)

が,それは今後に期待するとして,ここでは Phenothiazine系薬物の,特に口腔領域に及 ぼす毒性を,従来,著者らが行ってきた動物実 験を中心に概説する。

副作用の概念

 治療の目的をもって薬物を投与した場合にそ の薬物のもつ広範囲な作用のうち,目的に対す るものが主作用で,目的以外に発現するすべて の随伴症状を一応副作用としている。しかし,

薬物はあくまで生体にとって異物であり,生体 の巧妙なバランスに影響を与えるものである以 上一どこまでが主作用で,どこからが副作用 であるか一これを明確に規定することは困難 である。また薬物は限局した病変に対してその 改善の目的で使用されるのが通常であり,目的 とする病変にはおのずからある範囲が存在す る。しかし,薬物はこの範囲を越えて作用する ことがしぼしぽであり,生体にとって望ましい 作用が薬物の治療効果であり,生体にとって不 都合な効果はすべて副作用であるとされてい

る。

 Phenothiazine系薬物では中枢神経抑制作 用が主作用で,それ以外の作用は一般に副作用 として扱われている。この意味において,Phe−

nothiazine系薬物は副作用として発現する症 状が極めて多く,しかも広範囲にわたる場合が 多い。この薬物の初期に発現する副作用につい ては,薬物の登場後まもなく注意されていた。

しかし,精神科治療において問題となる精神症 状が消失したからといって,直ちに薬物を中止 するわけにはいかず,症状の再発を抑えるため 大量の薬物が持続的,または少量ではあるが何 年間にもわたって投与されることが多い。その ため動物実験(半年や1年の慢性実験)ではと ても再現できないような変化が患者に現われて

くる可能性は誰も否定できない。

 Phenothiazine系薬物の副作用として発現 する症状は薬物と生体との相互作用によるもの である。しかも,それによって薬物の作用機転 を推測することができる。また,その副作用の

岩医大歯誌 4:61−69,1979 出現には人種差や個体差のほかに,この薬物の 性質,投与方法,投与期間,その他種々の要因 が関係し,症状はそれらによって著しい差異を 示す。したがって,Phenothiazine系薬物の 投与にあたっては予想される種々の副作用を知 り,出来る限り副作用の発現を少なくするよう に努めることが大切である。

Phenothiazine系薬物の構造とその副作用  Phenothiazine系薬物はいずれもPheno・

thiazine核のC−2の位置(R、)とN−10の位 置(R1。)に種々の側鎖がついている(図1)。

一 般にR、につく側鎖の違いは作用の強さと副 作用に差がみられ,R1。につく側鎖の違いは効 力の差異や副作用の発現に差がみられると云わ れているが,あくまで相対的なものである。

R2には,表1に示したように, CF3, Cl,

OCH3, SCH, Hのようなものがつくが,そ の作用の発現はCF3が強く, Hは弱い。ま た,CF,は制吐作用が強く, Hは鎮静作用が 強い。R、。につく側鎖は,表2に示したよう に,1)Dimethylaminopropyl系,2)Pipe・

ridine系,3)Piperazine系の3つに分ける ことができる。その主な作用強度は図2,表3 に示した。すなわち,1)のTypeは鎮静,催 眠,運動抑制の作用が強く,副作用の発現が大 である。3)のTypeは精神運動促進,制吐作 用,錐体外路症状の発現が大である。2)の Typeは1)と3)の中間に位置する。

S

 o  ユ

NlR

図1 Phenothia2ine系薬物の基本核 R2

表1Phenothiazine核R2の側鎖と作用強度 CF3> Cl > OCH3> SCH3 > H

←      →

 制吐作用        鎮静作用

(3)

眠・鎮静作用

,抗精神病作用

図2 Phenothiazine系薬物の作用強度

      (伊藤1),

酒井2θ)

表2Phenothiazine核Rlo側鎖による分類 表3 Phenothiazine核R1・側鎖による作用強度

側  鎖 薬 物 名

Dimethylaminopropy1系

       CH3−CH2−CH2−CH2−N<

       CH3

Promazine Levomeprazine Chlorpromazine

慧蕊0      1、         CH3 Thioridazine Propericiazine

Piperazine系

CH。二CH。.CH。.識.       〕

Perphenazlne

Trifluoperazine

Fluphenazine

鎮静作用 催眠作用

精神運動抑制 精神運動促進

肝障害性

造血器への影 響

自律神経系へ の影響

血圧下降

錐体外路症状

制吐作用

Dimethylam・Piperi−  Pipera−

inopropyl系  dine系  zine系

廿廿

土 土

十 十

十 十

十 十

土 土

土:作用効果または副作用発現が少ない,+:やや多 い,什:多い

      (伊藤D,酒井2の)

(熊谷2),Goodman3),稲永4),吉田7))

2・3の薬理学的事項  1)精神および行動に対する作用

 Phenothiazine系薬物の投与により,ヒト や動物は5〜10分して周囲に対して無関心の馴 化作用を示し,眠らないままの自発運動の抑 制,いわゆる静穏作用を示す。また無条件刺激

による逃避行動には変化はみられないが,条件 刺激による回避行動は抑制される6)。

 2)抗Amphetamine作用および抗痙攣作

  用

 Phenothiazine系薬物には抗Amphetami−

ne作用がある。これは抗精神病薬の特異的な

性質である。またPhenothiazine系薬物,特

(4)

にCPZには痙攣に対して抑制と助長の二面作用 がある7)。これは脳の各部分における抑制の程 度が異るためと考えられている。またCPZは脊 髄の多シナップス反射を抑制すると云われてい る。Nicotine痙攣に対してはPhenothiazine 系薬物は強い抑制作用を示すが8),電気ショッ

クやPentetrazol痙攣に対しては作用は弱

い0

 3)自律神経系に対する作用

 Phenothiazine系薬物にはAdrenaline作 働性α受容体の遮断作用が顕著にみられる。そ のほか自律神経節遮断作用,Choline作働性神 経遮断作用もみられる。しかし,事実はかなり 複雑であると云われている9 1°)。Adrenaline の血圧上昇作用はCPZの少量で抑制されるが,

大量では逆転される。しかし,Noradrenaline の血圧上昇はCPZで抑制されるが,大量では逆 転されない。一般に,Phenothiazine系薬物 は自律神経中枢と交感神経中枢に抑制的に働 き,血圧下降,中枢性皮膚血管拡張,体温下降 作用などを示す。

 4)制吐作用

 Phenothiazine系薬物は延髄第4脳室底の

Chemoreceptor trigger zone lこ直接作用し て,制吐作用を示す。すなわち,中枢性嘔吐に 対しては拮抗作用を示すが,末梢性嘔吐に対し

ては拮抗しない7) 1 )。

 5)体温下降作用

 Phenothiazine系薬物は,一般に,視床下 部の体温調節中枢機構を抑制して著明な体温下 降作用を示す。この際,体温調節が不充分とな るため体温は環境温度に近づく。したがって高 体温または低体温ともなり得る12㎡ 3)。体温の変 化は毒性の発現に影響を与える。著者ら14)の実 験では表4に示したように,マウスおよびラッ

トのLD5。値は外界の温度に著しく影響され

た。

 6)内分泌系に対する作用

 Phenothiazine系薬物の視床下部に対する 抑制作用により,脳下垂体に対するReleasing factorの量は減少すると云われている1) 9)。ま

岩医大歯誌 4:61−69,1979 表4 LD5・値に及ぼす外界温度の影響

室温(C°)

5−12 14−20 22−26

LD50(mg/kg)

マ ウ ス ラ ッ ト

62.4 202.2 712.8

700637

ご﹂∠UO

154

  1

薬物(Levomethiomeprazine)はすべて経口投与 され,LD5・値は薬物投与後7日目に算出された       (伊藤1)・1D)

た,脳下垂体のProlactin抑制因子産生低下に よりProlactin産生が増加すると云われてい る。著者の実験でもマウスの乳腺はPhenothi・

azine系薬物により肥大した15 16)。また, CPZ によりGonadotropineの分泌は抑制され,し かもそれに対する卵巣反応は抑制され,発情 期,繁殖性も抑制される17−18)。しかし,著者ら

のLevomethiomeprazine(LMZ)の実験では マウスやラットの子宮,卵巣,脳下垂体は組織

学的に異常は認められなかった14) 19 2°)。

 7)循環器系に対する作用

 Phenothiazine系薬物には抗Adrenaline作 働性神経,中枢性昇圧反射の抑制,末梢血管拡 張などの作用があるため,血圧は下降する。ま た,心筋に対してはキニジン様作用があると云

われ,心収縮力は減退する 9)。

 8)その他の作用

 CPZはin vitroでは脳の組織呼吸の抑制,

Cytochrome酸化酵素阻害,酸化的リン酸化 阻害,ATP−ase活性の阻害などが認められて いる7) 21 22)が,in vivoでは確認されていな い。一般に,Phenothiazine系薬物は物質の 透過性を阻止する作用を有している。特に脳組 織においては24Na,42K, Serotonin, Norad・

renaline, Acetylcholine, GABAなどの取

り込みや遊離を抑制する7)。

Phenothiazine系薬物の脳における作用機構

の1つとして,脳内のMonoamine代謝が考

えられている。つまり,Catecholamine受容

体が遮断され,その生合成と代謝とが促進され

る。このことはPhenothiazine系薬物によっ

てDopamine代謝が促進され,錐体外路症状

(5)

岩医大歯誌 4:61−69,1979

表5 Phenothiazine系薬物の主な   随伴症状の発現率

中枢神経系

氏 害

ソ 障 ン キ ン

戦語重眠 一 パ

42.8%

24.3 37.1 18.6 71.4

血圧 下 降 頻 脈

∠UλT 8158

消化器系

 進

 増

口食便 62.9

64.3 45.7

その他

全身倦 怠 発汗 鼻閉

0U∠﹁

081

64.4

(熊谷2))

が発現してくることを説明している23 25)。

口 渇

 Phenothiazine系薬物の薬理作用から考え て,口渇,口腔粘膜乾燥および唾液分泌抑制な どの症状が発現してくるのは当然のことであ る。表5に示したように,Phenothiazine系薬 物を投与されている患者の口渇を訴える割合は 62.9%と高い2) 2 )。この症状は薬物の自律神経 症状の一端として現われ,鎮静作用,催眠作用の 強いDimethylaminopropyl系の薬物(表3)

ほど顕著である。また口渇と同時に唾液分泌が 著明に抑制され,口腔粘膜は乾燥状態となる。

これらはその薬物がもっている抗Adrenaline 作働性神経,抗Choline作働性神経によると 考えられている26弓D。著者ら32弓3)のマウスやラ ットの実験でも薬物の用量に依存して口腔粘膜 は乾燥状態を示した。

 従来,Phenothiazine系薬物投与中の患者 の訴える口渇についてはあまり注意が払われて いなかった。このような患者においては唾液分

泌が抑制され,さらに精神状態の異常性も加わ って口腔衛生は極度に悪化し,しぼしぽ舌苔を

生じ 4 35),ときにはXerostomia, monilia症36),

う歯の増加や義歯の不調合などが起こると云わ

れている27 29)。

ロ腔領域における錐体外路反応  Phenothiazine系薬物の投与によって,舌,

唇,下顎などの領域にしばしぽ奇異な運動が出 現することがある26)。特に長期間投与の例や大 量投与の例にみられると云われている。中には 薬物投与中止後でも,これら症状が数週ないし 数年にわたって持続することもあると云われて いる。Phenothiazine系薬物によって惹起さ れる口腔領域の主な錐体外路症状には次のよう なものがある。

 1)Oral dystonia:mg力価の高い薬物が 口腔のDystoniaを惹起することは以前から知 られていた。症状としては発作性に持続的な強 直性筋収縮を引き起こし,口唇や下顎の異常運 動,咬痙,強迫開口,舌突出発作などがみられ る3°)。このようなことは著者ら32)の急性実験で

認められたラットの口唇の異常運動に似てい

る。

 2)Oral dyskinesia:Tardive dyskine・

sia3°)の臨床上の特徴はBucco−linguo−mas−

ticatory−dyskinesiaカミみられることである。

Sigwaldら37),酒井ら38),風祭ら∬ 4°)は舌や唇 の運動はまことにグロテスクであるが患者はあ まり気にしていないと。しかし,ときには舌の 肥大や口腔の潰瘍形成の原因となることがある

と云われている。

 一般に,Tardive dyskinesiaはPhenothi・

azine系薬物の長期治療中の患者に観察されて いるが3°),動物で再現されたという報告はみあ たらない。著者らのマウスやラットの実験でも 観察されなかった32 33)。これは薬物の投与期間 が短かい(6カ月間の投与実験)ため発現しな かったのではないかと考えている。

 3)Rabbit syndrome:これはVillene・

uve4 )によって初めて記載された白唇の不随意

(6)

運動で,ウサギがものを噛む時の口の運動に 似ていることから名付けられた。この症状は Phenothiazine系薬物を長期間服用している 患者に発現することがあると云われている。

また,口唇のParkinson様の振戦とも云われ ている。Tardive dyskinesiaの場合と同様に 動物実験での報告はみあたらなく,著者らの実

験でも観察されなかった1 ) 19) 2 33)。

 4)Parkinsonism:口腔領域におけるPar−

kinsonismの症状として,舌突出困難症がし ぼしぼみられると云われている42弔)。一般に,

Parkinsonismは臨床面では顔面あるいは上 肢から始まることが多いが,著者ら32)の実験で はCatatonic症状や痙攣様運動充進症状がみ られ,明らかなParkinsonism症状は動物で は再現出来なかった。

 以上のような種々な症状は抗精神病作用の強 い薬物ほど惹起されやすい2 ) 44 45)。Phenothi・

azine系薬物の種類によって錐体外路症状の出 現頻度に差がみられるとも云われている 6 7)そ

してまた,そのような患者の脳のある部分に器 質障害が起こるために発症するのではないかと 考えられているが,まだ明確な病変部位は確認 されていない48)。著者ら2°) 32)のLMZの実験で

もOral dystoniaを呈したマウスやラットの 脳には器質障害は確認されなかった。

顎下腺への影響

 Phenothiazine系薬物の顎下腺に対する影 響についての報告は少ない。一般に,唾液腺 分泌が抑制されると報告されているに過ぎな

いD 2) 2 )。著者ら32 33)はLMZやPropericiazi・

ne(PPZ)の実験から顎下腺への影響に性差が あることを認めた。すなわち,顎下腺重量は薬 物の用量に依存し雄では減少,雌では増大し た。なお体重比では図3に示したように,雌で はPPZの用量に依存して増加したが,雄では用 量依存は認められなかった。

 Lacassgeneが報告しているように(酒井,

木下ら2のより引用),顎下腺には性的二面性が あり,雄では甲状腺ホルモンと男性ホルモソに

0 3

0 2

0

1

ヒ⑮

田尋ミ︵じ︒ε︶白田芙ぎ

岩医大歯誌 4:61−69,1979

0 5

肛皿皿雄,  [:コ 雌

40 120

用量(mg/kg/day)

図3 Propericiazine 6ヵ月投与ラット   における顎下腺重量比

よって,雌では甲状腺ホルモンと副腎皮質ホル モンによって調節されている。著者ら2°) 32 33)の

実験からもPhenothiazine系薬物の顎下腺へ の性差は内分泌系の影響によるものと考えられ る。なお,Phenothiazine系薬物,特にLMZ やPPZの顎下腺への影響において,重量比では 性差が認められたが,組織学的には性差は認め られず,漿液腺細胞や分泌管上皮細胞の変性・

崩壊像が認められた。

ロ腔粘膜への影響

 Phenothiazine系薬物による口腔粘膜の障 害については粘膜の乾燥の報告がみられるが,

それ以外の障害についての報告は見受けられな い。また,著者ら32 川の動物実験でも口腔粘膜 の乾燥以外の障害を惹起した例は観察されなか った。皮膚ではアレルギー性変化がみられ,こ れはmg力価の低い薬物ほど発現しやすい。

また皮膚の色素沈着は眼症状と合併して発現 することが多い49)。これはPhenothiazine系 薬物によりMelaninの過剰産生の結果で光の

曝露によって促進されると云われている ) 2 ) 5°

5η 。以上のような皮膚変化は口腔粘膜では認 められていない。

ロ蓋発育への影響

 Phenothiazine系薬物の胎児毒性試験で胎

児死亡や流産・早産は認められるが,催奇形作

用は認められないと云われている58)。しかし,

(7)

岩医大歯誌 4:61−69,1979

マウスやラットでは口蓋裂が認められたという 報告もあるが5 ),それは母獣の飼料や水分摂取 の減少が原因とも云われている59)。CPZは胎 盤を通過するω) 6Dが,優性致死作用は認めら れていない。i著者ら62)のCPZの実験ではラット 胎児の死亡や流産はみられたが,口腔領域にお ける催奇形作用は認められなかった。なお,著 者らD 62)はCPZの繁殖性,周産期並びに授乳期 試験において,ラットの次世代および次々世代 への影響にっいて検討しているが,口腔領域に おける催奇形性並びに発育障害は認められなか

った。

ロ腔領域への有害作用

 Phenothiazine系薬物により発現する口腔 領域の有害症状には次のようなものがある。

 1)自律神経系の症状:口渇,口腔粘膜の乾 燥,唾液分泌の抑制がみられる。この症状は Phenothiazine系薬物の作用からして当然発 現する症状である。

 2)錐体外路症状:頬,下顎,口唇および舌 の異常運動,強迫開口,咬痙,嚥下困難などが みられる。これらの症状は常に発現するもので はなく,薬物の大量投与または長期間投与例に

しぼしば発症する。

 3)歯周病:Phenothiazine系薬物による

歯周病発症の原因は(イ)局所的原因として,直接 的因子に上記1)の自律神経系の症状に加え

て,歯垢および食物残渣の蓄積,腐敗,細菌の 感染や負担の過重などがあり,間接的因子に歯 石や2)の錐体外路症状などによる異常咬合お よび咬合外傷などが考えられる。また,(ロ)全身 的原因としてホルモンの失調が考えられる。著

者ら U) 2 65)の動物実験も脳下垂体一性腺お

よび副腎機能への影響がみられ,特に顎下腺へ の影響が大であった。また,Phenothiazine系 薬物により血糖上昇作用がみられ糖尿病状態を

示した19 66 68)。

む  す  び

Phenothiazine系薬物は,現在,精神科治

療には欠くことの出来ない薬物になっている。

この薬物は一般に長期間(特に年単位)投与さ れることが多いため,短期間の毒性試験からは 予知されない変化が発現してくる。一般に,こ の薬物は,(1)中枢神経抑制作用,特に意識障害 を件わない外因性精神障害の症状,(2)神経障害 として錐体外路症状,(3)自律神経系,内分泌系,

代謝系のほか肝,心,腎,眼,皮膚などに直 接影響を及ぼし種々の症状を引き起こす。口腔 領域には以上のような症状の一部分として発現 してくる。精神科領域において精神症状の改善 にのみ重点を置いているため,口腔領域に発現 した副作用についてはほとんど問題にしていな い。臨床面においてPhenothiazine系薬物を 長期間投与する場合,患者の精神面のみなら ず,身体面,特に口腔領域の変化,衛生状態に 注意し,副作用の発現の予防と処置に心がける べきである。

       文   献

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