〔229〕
北海道ニセコにおける農産物のブランド化研究
後 藤 英 之
₁.は じ め に
本稿は,ニセコ町からの研究助成を受けたプロジェクトの一環として,ニセ コ地域
1)
における農産物の利用実態を把握しブランド化の方向性を研究するた めにアンケート調査を実施した成果をまとめたものである。ニセコ地域では,平成26年,観光圏の認定
2)
を受けたことを契機に「NISEKO, My Extreme ~ 世界が選ぶニセコ」をコンセプトに,インバウンド観光をベースとし更なるブ ランド力のアップを図り,世界に通用する国際リゾート地を志向しているとこ ろであり,その為には,観光資源の質の向上,新たな地域資源の発掘が必要と なる。ニセコ町における観光客入込数は,バブル崩壊後の低迷期を乗り越え,ここ 数年上昇傾向にある(図₁)。しかし乍ら,ブランド総合研究所が毎年実施し ている「地域ブランド調査」では,平成28年₉月に発表された「地域ブランド 調査2016_魅力度上位100市区町村ランキング」において,北海道の代表的観 光地である,函館市,札幌市,小樽市,富良野市,旭川市などがランキングを 維持する中,ニセコは前年の52位からランク外(100位以下)に転落している。
ニセコのパウダースノーは,国際リゾート地を形成する上で重要な観光資源
1) 本稿では,観光施設や宿泊施設が集中している,倶知安町,ニセコ町を指す。
2) 倶知安町,ニセコ町,蘭越町によるニセコ観光圏整備実施計画が国土交通大臣か
ら認定された。
で,世界トップレベルのブランド力を有する
3)
が,自然発生的に形成されたブ ランドであり,その効果も冬季に限られている。世界のリゾート先進地などで は,スキー以外のシーズンのブランド化も進めており,環境整備や広報活動に おいて,リゾート全体の質的向上をブランド戦略の中心に据えて推進している。しかしニセコでは,冬季におけるパウダースノー以外のコンテンツに乏しく,
現状では,これまでに形成されたニセコブランドが強化されないだけでなく,
国際リゾートを巡る激しい国際競争の中でのブランド力の低下が懸念される。
ニセコを含む羊蹄山麓は古くからじゃがいもの産地として知られているが,
近年は,品質の高い米やメロン,アスパラ,トマトなどが注目され,また,冷 涼な気候を活かした低農薬栽培による,安心安全な農産物づくりに力を入れて いる。本調査は,ニセコ地域において,地域農産物振興に関する基礎的調査研 究を実施し,農産物のブランド化の方向性検討を通じて,ニセコ地域の更なる ブランドアップに寄与することを目指すものである。
図₁ 観光客入込数の推移(ニセコ町)4)
3) 「Niseko」は旅行業界のオスカーと評される「ワールド・スキー・アワード」に おいて,Japan’s Best Ski Resortとして平成25年から₄連覇を達成している。
4) ニセコ町観光統計より作成
1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 summer(5-11) 58.1 58.9 54.4 54.4 61.7 63.0 64.2 63.1 67.9 70.2 67.0 68.6 69.2 69.2 68.4 65.8 64.9 66.0 64.0 59.5 60.4 61.5 70.3 77.9 79.6 81.1 winter(12-4) 79.5 79.0 74.8 76.3 72.5 77.7 66.0 66.0 72.4 72.3 78.1 75.9 74.7 81.3 82.6 82.3 83.2 83.0 81.2 93.6 85.4 73.8 70.8 79.0 79.7 88.2 total 137.6 137.9 129.2 130.7 134.2 140.7 130.2 129.1 140.3 142.5 145.1 144.5 143.9 150.5 151.0 148.1 148.1 149.0 145.2 153.1 145.8 135.3 141.1 156.9 159.3 169.3
0.0 20.0 40.0 60.0 80.0 100.0 120.0 140.0 160.0 180.0 単 位 : 万 人
₂.調査結果からみる特徴
調査は,平成28年₉月18日~19日(₂日間)に,ニセコ地域の調査地点(ニ セコビュープラザ,ニセコミルク工房農産物直売所)を訪れた農産物購入者を 対象に実施した。アンケートは,個別面談方式で行い,調査員が質問を読み上 げ,回答を聞取り,調査票に記入した。調査期間中248の有効回答を得た,回 答者の居住地域は,北海道内が88%,北海道外が12%の比率であった。分析方 法は,各質問項目と「安心安全やおいしさに拘った農産物の価格感度」との組 み合わせによるクロス分析を採用した。このクロス分析では,農作物に対する 価格感度が低い(割高であっても購入する)セグメントをニセコ産農産物ブラ ンド化におけるメインターゲットと考え,その回答傾向を分析した。
⑴ 分析₁:性別
回答者の性別は,割高であれば購入しないが,男性39%,女性61%の比率で あった。女性の回答比率を見ると,₁-₂割程度の割高であれば購入するが 72%,₃割以上の割高であっても購入するが78%と増加することから,女性の 方が,安心安全やおいしさに対する農産物への購入価格感度が低いことがわか る(図₂)。
39%
28%
22%
61%
72%
78%
1.割高であれば購入しない(56) 2.
1-2
割程度の割高であれば購入する(159)
3.
3
割以上の割高であっても購入する(27)
1.男性
(73)
2.女性(169)
n=242図₂ 回答者の性別
⑵ 分析₂:年齢
回答者の年齢は,割高であれば購入しないが50代が34%と最も多く,30代 23%,20代16%,₁-₂割程度の割高であれば購入するが,40代28%,60代 21%,30代19%,₃割以上の割高であっても購入するが,60代36%,50代 29%,であった。20代から30代は割高となれば比率が減少することから,価格 が割高であっても購入する年齢層は,40代~60代が中心ということがわかる
(図₃)。
⑶ 分析₃:訪問目的
ニセコへの訪問目的は,全体では観光・レジャーが圧倒的に多いが,セグメ ント別に見ると,農産物購入目的の訪問者は,価格が割高であっても購入する セグメントが高くなる傾向があることがわかる(図₄)。
図₃ 回答者の年齢
1%
16%
11%
11%
23%
19%
11%
13%
28%
7%
34%
17%
29%
11%
21%
36%
4%
3%
7%
1.割高であれば購入しない(56)
2.1-2割程度の割高であれば購入する(159)
3.3割以上の割高であっても購入する(28)
1.10代(1) 2.20代(30) 3.30代(46) 4.40代(54) 5.50代(54) 6.60代(49) 7.70代以上(9) n=243
73%
76%
54%
4%
1%
4%
9%
16%
29%
5%
2%
4%
9%
4%
11%
1.割高であれば購入しない(56)
2.1-2割程度の割高であれば購入する(161)
3.3割以上の割高であっても購入する(28)
1.観光・レジャー(177) 2.仕事(5) 3.農産物購入(39) 4.休憩(8) 5.その他(15) n=245
図₄ 訪問目的
⑷ 分析₄:農産物購入の重視点
農産物購入において重視する点としては,₃割以上の割高であっても購入す るが,他のセグメントに比べ特徴的だった点は,有機野菜や特色のある栽培,
生産者,ニセコ産,栄養価を重視点としてあげた回答が多かったことである。
このことから,価格が割高であっても購入するセグメントは,旬や新鮮さ,安 心安全を購入の際に重視し,価格が割高になればなるほど,有機野菜や特色の ある栽培,生産者,ニセコ産,栄養価も重視するということがわかる(図₅)。
⑸ 分析₅:農産物の購入場所
農産物の購入場所は,₃割以上の割高であっても購入するセグメントは,小 売店(八百屋など),通信販売・宅配,の比率が増加している。このことから,
価格が割高であっても購入するセグメントは,スーパーマーケットでの購入に 加え,農産物直売所や小売店(八百屋など),通信販売・宅配など多様なルー トを使い分けていることがわかる(図₆)。
31%
33%
35%
13%
19%
16%
26%
24%
10%
17%
12%
10%
1%
5%
10%
1%
2%
7%
1%
10%
2%
3%
5%
3%
1%
5%
1%
1%
1%
2%
1%
1.割高であれば購入しない(150)
2.1-2割程度の割高であれば購入する(381)
3.3割以上の割高であっても購入する(63)
1.旬や新鮮さ(192) 2.安心安全(100)
3.価格(138) 4.産地(77)
5.有機野菜や特色のある栽培(25) 6.見栄え(色・形)(8) 7.生産者(21) 8.ニセコ産(16) 9.栄養価(10) 10.その他(5) 11.特になし(2)
n=594
0%
0%
0%
0% 0%0%
図₅ 農産物購入の重視点
⑹ 分析₆:ニセコ産農産物の購入意向
ニセコ産農産物の購入意向は,割高であれば購入しないが,購入している 61%,今後購入したい25%で,価格が割高であっても購入するセグメントの購 入意向は高くなる傾向がある。購入の理由としては,新鮮,安い,北海道産,
安心安全などの回答がある一方で,購入したいと思わない理由として,ブラン ド価値を見出せない,特に魅力を感じないなどの回答があった(図₇)。
⑺ 分析₇:ニセコ産農産物の購入回数
ニセコ産農産物の購入回数は,割高であれば購入しないが,₃回目-10回目 38%,₂回目24%,10回目以上24%で,価格が割高であっても購入するセグメ ントの購入回数は多くなる傾向がある。全体としてはリピーターが多いことが
57%
48%
38%
10%
16%
8%
18%
21%
17%
12%
8%
17%
1%
2%
1%
3%
8%
1%
1%
12%
1.割高であれば購入しない(93)
2.1-2割程度の割高であれば購入する(285)
3.3割以上の割高であっても購入する(52)
1.スーパーマーケット(211) 2.スーパーマーケットの地元農産物販売コーナー(59)
3.農産物直売所(86) 4.小売店(八百屋など)(43)
5.デパート(6) 6.通信販売・宅配(14)
7.その他(11) n=430
0%
図₆ 農産物の購入場所
61%
64%
79%
25%
31%
18%
14%
4%
4%
1.割高であれば購入しない(56)
2.1-2割程度の割高であれば購入する(159)
3.3割以上の割高であっても購入する(28)
1.購入している(158) 2.今後購入したい(69) 3.購入したいと思わない(16) n=243
図₇ ニセコ産農産物の購入意向
わかる(図₈)。
⑻ 分析₈:ニセコ産表示の必要性
ニセコ産表示の必要性について必要であるとの回答は,₁-₂割程度の割高 であれば購入するセグメントにおいて,他のセグメントより若干比率が低下す る結果になった。北海道産であればニセコ産まで拘らないなどの理由が考えら れるが,詳細は今後の調査で明らかにする必要がある(図₉)。
⑼ 分析₉:ニセコ産農産物のイメージ
ニセコ産農産物のイメージは,じゃがいも,アスパラ,かぼちゃ,とうもろ こし,トマトといった北海道を代表する農産物の比率が高く,北海道産農産物 のイメージと重なっている(図10)。
15%
4%
5%
24%
19%
10%
38%
42%
29%
24%
35%
57%
1.割高であれば購入しない(34)
2.1-2割程度の割高であれば購入する(100)
3.3割以上の割高であっても購入する(21)
1.はじめて(10) 2.2回目(29) 3.3回目-10回目(61) 4.10回目以上(55) n=155
図₈ ニセコ産農産物の購入回数
93%
87%
96%
4%
7%
4%
4%
5%
1.割高であれば購入しない(54)
2.1-2割程度の割高であれば購入する(149) 3.3割以上の割高であっても購入する(26)
1.必要である(205) 2.必要でない(14) 3.わからない(10) n=229
図₉ ニセコ産表示の必要性
⑽ 分析10:ニセコ産農産物販売促進のための取組み
ニセコ産農産物販売促進のための取組みは,新鮮で安心安全な農産物の生産 拡大,飲食店・ホテル・旅館・学校給食などでのニセコ産食材の利用,ニセコ 産農産物のブランド化,ニセコ産とわかるような表示が主な回答であり,セグ メントにおいて大きな違いはなかった(図11)。
25%
19%
13%
17%
13%
13%
13%
18%
18%
17%
14%
15%
8%
5%
3%
6%
11%
10%
9%
11%
12%
5%
2%
2%
2%
7%
13%
1.割高であれば購入しない(127)
2.1-2割程度の割高であれば購入する (341)
3.3割以上の割高であっても購入する (60)
1.新鮮で安心安全な農産物の生産拡大(105) 2.飲食店、ホテル、旅館、学校給食などでの ニセコ産食材の利用(72)
3.ニセコ産とわかるような表示(90)
4.ニセコ産農産物のブランド化(77)
5.農産物を加工して商品化(30) 6.通信販売、宅配などで購入できる仕組みの確立(50) 7.各種イベントでのPR活動(56) 8.調理方法の提案(14)
n=528
9.その他(34)
図11 ニセコ産農産物販売促進のための取組み
33%
37%
33%
8%
15%
10%
11%
12%
8%
4%
2%
2%
2%
3%
10%
10%
11%
4%
3%
5%
1%
1%
7%
6%
8%
5%
1%
3%
2%
2%
5%
3%
2%
1%
2%
1%
8%
3%
16%
1.割高であれば購入しない(132)
2.1-2割程度の割高であれば購入する (344)
3.3割以上の割高であっても購入する (63)
1.じゃがいも 2.とうもろこし 3.アスパラ 4.玉ねぎ 5.人参 6.かぼちゃ
7.ゆりね 8.米 9.トマト 10.ブロッコリー 11.なすび 12.きゅうり
13.山菜・きのこ 14.メロン 15.すいか 16.豆 17.小麦 18.その他 n=539
図10 ニセコ産農産物のイメージ
₃.ま と め
今回の調査で明らかになった点をまとめると次のとおりとなる。
女性の方が,安心安全な農産物への価格感度が低く,価格が割高であっても 購入する年齢層は,40代~60代が中心である。この層は,農産物購入目的で何 度もニセコを訪れている回答者も多く,ニセコ産農産物のファンであると考え られる。旬や新鮮さ,安心安全を購入の際に重視,有機野菜や特色のある栽培,
生産者,ニセコ産,栄養価も重視する。スーパーマーケットでの購入に加え,
農産物直売所や小売店(八百屋など),通信販売・宅配など多様なルートを使 い分けていることがわかった。ニセコ産農産物のイメージは,一般的な北海道 産農産物のイメージと重なっていると思われるが,調査で明らかになったニセ コ産農産物のファン層は,新鮮さや安心安全,栄養価などの価値を評価してい ると考えられる。これらニセコ産農産物の価値を,冬季におけるニセコのブラ ンドイメージと連動させることで差別化が可能であると考えられる。つまり,
冬季のニセコにおける強力なコンテンツであるパウダースノーと雪解け水(清 流,おいしい水)を結びつけ,豊かな土壌を育み,安心安全で高品質の農産物 生産に繋がるブランドストーリーをつくりあげることで,ニセコ産農産物のブ ランド化に繋げることが可能である。今回の調査では,ニセコを訪れた消費者 へのアンケート調査という限定的な条件での結果であるが,農産物のブランド 化には,消費者認知が重要な要素となる。その為には,農協,ニセコ地域のホ テルや旅館,飲食店などの事業者が積極的にニセコ産の農産物を取り扱い,ア ピールをする必要がある。今後,これらの事業者への実態調査を行うことで,
ニセコ産農産物ブランド化のより具体的な方向性が明らかになると考えられる。
₄.参 考 文 献
[₁] World Travel Events(2016),「World Ski Awards 2016YEARBOOK」
[₂] ブランド総合研究所(2016),「地域ブランド調査2016 上位100市区町村
魅力度ランキング」
[₃] ブランド総合研究所(2015),「地域ブランド調査2015 上位100市区町村 魅力度ランキング」
[₄] ニセコ町,「ニセコ町観光統計」http://www.town.niseko.lg.jp/machitsukuri/
tokei/post_113.html