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A Study on the Achievement and Practical Knowledge of Mentoring Program for Refugee Youth

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1.はじめに

本稿は、紛争がもたらす教育や生涯発達への影響を最小化する取り組みとして、欧米各国で導 入が進展している難民青少年向けメンタリング・プログラムの成果と実践智について米英豪加を 中心に分析し、日本の難民支援に資する知見を拓こうとするものである

UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)によれば2016年末までに家を追われ難民となった人は 6560万人に達した。これは英国やフランス、イタリア一国の人口に匹敵する数である。難民の 多くは「発展途上国」で長期にわたる避難生活を余儀なくされ、その半数ないしはそれ以上が18 歳未満の子どもである。世界各国で難民受け入れが喫緊の重要課題となっている今日、日本に おいても着実な成果をあげている青少年向けメンタリング・プログラムの拡張可能性を探るた め、米英豪加の難民青少年向けメンタリング・プログラムの成果について検討したい。

周知のように世界各地で増加し今後もさらなる増加の可能性が危惧される難民に向けた支援の 必要性にもかかわらず、日本における難民認定者数は極めて少なく、具体的支援の体制や手だて も未整備である急増する難民への負担に対して利他的精神の限界や人道危機が説かれる今日 ごく普通の人々の善意を原動力に人道主義の「限界」や善意の「上限」そのものを拡張する必 要があるように思われる。成果や費用対効果を含め、メンタリング・プログラムはそうした可能 性をもつ一つの重要な政策プログラムであると考えられる。メンタリングとは、「成熟した年長 者であるメンター(mentor)と、若年のメンティ(mentee、ないしはプロテジェ protégé)と が、基本的に一対一で、継続的定期的に交流し、適切な役割モデルの提示と信頼関係の構築を通 じてメンティの発達支援を目指す関係性」と定義される。メンタリングには、日常のインフォー マルなメンタリングとプログラムへの申し込みを介してなされるフォーマルな人為的メンタリン グがあり、後者に分類されるメンタリング・プログラムは以下より構成される。①参加者募集、

②スクリーニング、③マッチング、④オリエンテーション、⑤モニタリング、⑥経験の共有、⑦ プログラム評価、である

難民青少年向けメンタリング・プログラムの 成果と実践智に関する考察

A Study on the Achievement and Practical Knowledge of Mentoring Program for Refugee Youth

渡 辺 かよ子 Kayoko WATANABE

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青少年向けメンタリング・プログラムについては、教育学や心理学、児童福祉関連の事典にお ける項目新設や複数のハンドブックの出版改訂等、成果の実証と最良実践に関する研究が蓄積さ 、日本においても広島市青少年支援メンター制度のプログラム評価が行われている。また、

難民青少年向けメンタリング・プログラムについては、難民を含む移民第一世代向けプログラム に関する実践智が蓄積されてきている10。難民青少年向けメンタリング・プログラムの基礎理論 を概観した前稿11を踏まえ、本稿では各国の難民青少年向けメンタリング・プログラムがどのよ うな成果を上げ、いかなる実践智を生み出しているのかプログラム評価の視点から検討したい。

2.難民青少年向けメンタリング・プログラムの成果 1)概要

まず難民をめぐる状況についてその概要を把握しておきたい。UNHCR によれば、2016年末に は家を追われた人は6560万人に達し、前年よりも30万人増加している。2016年には紛争や迫害に よって新たに1030万人が避難を余儀なくされた。難民が多く発生しているのは、シリア(550万 人)、アフガニスタン(250万人)、南スーダン(140万人)であり、これらの3国で全難民の55%

を占めている。難民受け入れ国については、3年連続でトルコが最も多くの難民を受け入れ(290 万人)、次いでパキスタン(140万人)、レバノン(100万人)となっている。2016年の庇護申請数 は200万件で、個別の庇護申請数が最も多いのはドイツ(72万2400人)、次いでアメリカ(26万2000 人)、イタリア(12万3000人)、トルコ(7万8600人)となっている。また UNHCR が要請する 第三国定住に対し、最も多くの難民を受け入れているのが米国(9万6900人)である。難民の51

%が18歳以下の子どもであり、庇護申請した保護者のいない子どもは7万5000人でその多くがア フガニスタンとシリア出身である12

難民青少年は暴力や飢餓、迫害等非難を余儀なくされる困難を経験し、ホスト国での定住に向 けた多くの困難を背負っている。難民青少年は親や家族、友人との離別や死別、迫害を経験し、

ホスト国での言語的適応や文化的適応の問題、戦火や迫害の経験からくるトラウマに加え、生活 上の貧困や難民に対する偏見や差別に直面している。学齢期にありながら学校に通えず13、親と の死別や離別で必要な保護がなされず、親と共にあっても親の言語能力の不足やホスト国の社会 制度の知識が不十分で必要な手続きに支障をきたしている場合も多い。難民の家庭では、親は子 どもの新文化への適応に困惑する一方、子どもは出身国の文化とホスト国の文化との二つの世界 に引き裂かれ、親が代表する出身文化に困惑する等、家庭内での世代間摩擦が深刻化している場 合も少なくない14

こうした難民青少年を支援しようという市民の善意の行動の一つが難民青少年向けメンタリン グ・プログラムである。難民青少年向けメンタリング・プログラムは、難民青少年とその家族を とりまく地域社会や学校を人間発達の生態系ととらえる生態学的理論と、難民青少年がホスト社 会で経験する文化変容とその様式に着目する文化的適応理論によって基礎づけられ、道具的メン タリング・プログラムと発達促進的メンタリング・プログラムという二つの類型のプログラムが 展開されている。またメンタリング・プログラムの組み合わせにおけるメンターの民族アイデン

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ティや人種、性別、文化的能力の関係性に及ぼす影響に関する研究の進展と共に、難民青少年向 けメンタリング・プログラムのプログラム評価が実施され、効果(言語能力や学力の向上、いじ めの回避、自信や自己効力感の増進、就業等)が報告されている。

2)米国

第三国での再定住として最も多くの難民を受け入れているのが米国である。国土防衛省によれ ば、2015年には世界全体の再定住者の6割にあたる69920人の難民を受け入れ、難民の出身地域 についてみるとアジア(43115人)とアフリカ(22492人)で9割以上を占めている15

米国の各種難民受入れプログラム(米国難民受入れプログラム USRAP)は、国務省人口・難 民・移住局(PRM)、国土安全保障省米国市民権・移民サービス(USCIS)、保健福祉省難民定 住課(ORR)、加えて全米で計350を超える関連団体を持つ国内非政府組織10団体、自らの時間 と技能を提供して難民の米国定住を手助けする数千人の一般市民より構成されている。2014年に 発表された報告書によると、全米に100以上の各種難民支援プログラムのうち20がメンタリング・

プログラムを組み込んでいることが知られている16。一方、これまでの難民を含む全般的な青少 年向けメンタリング・プログラムの実践と研究成果から、難民や移民第一世代に特化したメンタ リング・プログラムの運営上の知見がまとめられ、共有されている17

こうした中、ヒットラー政権下のドイツ難民の受入れに関するアインシュタインの提言から 1933年に活動を開始した International Rescue Committee は、これまでの80年以上の長期にわ たる活動経験から難民青少年向けメンタリング・プログラムの成果について以下のように述べて いる。「成功したメンタリング・プログラムは、積極的な人間関係行動と社交スキルの向上によっ て難民青少年が家族や他の大人とのよりよい関係を発展させるのを援助することができる。メン ターとの関係性はさらに難民青少年の学校の出席率や学業成績、自尊感情、語学スキル、意志決 定スキルを向上させることが示されてきた。…メンタリングは大人の支援を増し、青少年の孤独 や抑鬱感情を低下させることが示されてきた。同様にこのことは暴力や攻撃といった良からぬ行 為の減少に繋がってきている」という。難民青少年向けメンタリング・プログラムに期待される 変化のカテゴリ―と変化の指標として以下が提示されている。①態度:学校への興味の増進、放 課後活動への参加、米国への移住に関する積極的感情。②行動:学校への出席率や学校や市民活 動、社会交流行事への参加率の向上、③能力:テストの点数や意思疎通スキルの向上。④発達:

精神的身体的発達、である18。International Rescue Committee は難民青少年向けメンタリン グ・プログラムの成果に関するデータ収集と評価方法の概説と共に、難民青少年向けメンタリン グ・プログラムの詳細なチェックリストを提示している。少し長くなるが、以下、長年の難民青 少年のメンタリング・プログラムの運営に関する実践智の凝縮としてのプログラム運営上の チェックリストを引用する。

*******************************************

<難民青少年向けメンタリング・プログラムのチェックリスト>19

長期的計画に含まれる項目:①目的声明、②誰が何を何処で何時なぜどのように活動するのかに関する詳 細、③組織者やスタッフ、出資者、潜在的ボランティアとメンティからのインプット、④地域コミュニティ

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のニーズの評価、⑤現実的で達成可能で理解容易な運営課題、⑥全ての面にとっての目標・目的・予定表、

⑦財源資源発展の要素。

メンターとメンティの募集計画に含まれる項目:①正確な期待と利益を描く戦略、②メンティのニーズに 基づく標的化されたアウトリーチ、③メンタリングを超えるボランティア活動の機会、④メンタリング・プ ログラムの目的声明と長期的計画の基礎。

メンターとメンティの参加資格スクリーニングに含まれる項目:①申込過程と審査、②面接と家庭訪問、

③性格関連確認、児童虐待登録簿確認、運転記録確認、法的に可能であれば犯罪歴確認を含むメンターの参 照確認。④プログラムの目的声明と標的とされる人口集団のニーズに関連した適合性基準(教育水準、学位、

ジェンダーと年齢、スキル証明、言語、職業興味、ボランティア活動への意欲、人格素描。

メンターとの組み合わせに含まれる項目:①プログラムの目的声明との関連、②一貫性への関与、③組合 せに、ジェンダーや年齢、言語、必要事項、活動可能時間、ニーズ、関心、参加者の人生経験に関する選好、

気質のうちのいくつか、ないしは全てを含む適切な基準を用いること。④メンターとメンティの候補者の組 合せ前の交流活動。⑤最初の面談の不安を和らげるためのチームを築く活動。⑤両者が組合せとメンタリン グの関係性の条件に合意する署名された了承声明。

研修を受けた事務局員によるメンターとメンティ向け研修カリキュラムに含まれる項目:①一般的情報や 参考資源、学校や他の支援サービスを含むプログラムや資源ネットワークへのオリエンテーション、②スキ ルの適切な発展、③文化的感受性と鑑賞の訓練、④難民の背景情報に関するオリエンテーション、⑤メンタ リングの関係性からいかに最も多くを得るかについてのメンティ向けガイドライン、⑥関係性の管理におい てしていいこととよくないこと、⑦任務と役割の描写、⑧秘匿と法的責任に関する情報、⑨危機管理問題解 決資源とコミュニケーションスキルの発達。

メンターへのオリエンテーションに含まれる項目:①プログラムの概要、②参加資格、スクリーニング過 程と適合性要件の描写、③時間やエネルギー、柔軟性を含む期待されるコミュニケーション水準、④期待と 限定、アカウンタビリティの問題、⑤期待可能なやりがい、⑥文書レポート、面接、評価と経費返金を含む プログラム政策の要約、⑥メンティとの関係性の終焉をいかに促進するか、⑦報告継続手続き、⑧目標設定 戦略。

メンティへのオリエンテーションに含まれる項目:①プログラムの概要、②時間やエネルギー、柔軟性を 含む期待されるコミュニケーション水準、③期待と限定、④期待可能な利得、⑤目標設定戦略。

支援と承認、継続保持の要素に含まれるべき項目:①正式な開始行事、②ボランティアとメンティ等への 継続的なピア・サポート・グループ、③継続的訓練と発達、④関連問題の議論と情報普及、⑤適切な組織と の連携、⑥必要に応じた異なる集団との交流集会、⑦毎年の承認感謝行事、⑦メンティ、メンター、支援者、

出資者向けのニューズレターやその他のメール。

モニタリング過程に含まれるべき項目:①メンターとメンティ向けのスタッフとの一貫した計画的ミー ティング、②継続的評価のための追跡制度、③書面報告の保持、④コミュニティ・パートナーや家族、重要 な他者からのインプット、⑤悲しみや賞賛、再組合せ、個人間の問題解決、未成熟な関係性の終結を管理す るための過程。

評価過程に含まれるべき項目:①プログラム、ならびにメンターとメンティの関係性の成果分析、②プロ グラムの標準と目的声明との比較、③運営委員、出資者、コミュニティ・パートナー、プログラムの他の支 援者の集会の情報。

終結過程に含まれるべき項目:①メンティと事務局スタッフ、メンターと事務局スタッフ、スタッフが同 席しないメンターとメンティとの間の私的で秘匿された出口面接。②メンターとメンティとの将来の接触に 向けた明確に述べられた政策。③達成された目標の賞賛。④メンティが個人的目標を達成するための次なる ステップを定義する援助。

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また、米国においては2001年に創設された米国カトリック主教会議移民難民サービス(U.S.

Conference of Catholic Bishop/Migration and Refugee Service, USCCB/MRS)と ル タ ー 派移民難民サービス(Lutheran Immigration and Refugee Service, LIRS)が主催するプロ ジェクトである BRYCS(Bridging Refugee Youth & Children's Services)等、宗教系の団 体が強力に難民支援プログラムを展開していることが特筆される。2006年に USCCB/MRS のプ ロジェクトとなった BRYCS は連邦難民再定住事務局の全米技術援助提供者となり、難民や移民 に関連するオンライン情報源の全米最大の提供者となり、多数の難民青少年向けメンタリング・

プログラムの資料を提供している20

Catholic Charities Refugee and Immigration Services のメンタリング・プログラムでは、

メイン州の18歳以上の専門職志望の難民35~40人に毎年、週2時間の交流を6か月継続してい る。メンティの93%の英語力が向上し、55%が地域の大学の教務担当者に面接を行い、60%が地 域の催しに参加している。メンティの33%が就職することができ、20%が高等教育機関に入学し ている。メンターの60%はメンティが地域に溶け込もうと努力していると感じ、78%のメンティ がより地域と繋がったと感じている21という。

2016年に Oberoi が National Mentoring Resource Center より発表した移民第一世代と難民 を対象とするメンタリング・プログラムの成果に関する研究レヴューでは、70の研究論文から以 下が判明している。①フォーマル、インフォーマル共にメンタリングが文化的適応や社会的統合、

学業達成や学校生活への適応促進に役立っている。②メンターが当該文化や社会制度の通訳的役 割を果たす場合には、文化的適応や社会的統合、学業成就等、メンタリングが生み出す利益は増 大する。③難民青少年にとっての具体的必要に対応する学校型メンタリング・プログラムは、教 職員やピアとの関係性を通じて、学業達成と統合を促進する可能性がある。④メンターとメンティ の組み合わせが同文化でも異文化でも青少年に利益をもたらしているが、メンター向け研修とメ ンターの文化的能力がメンタリングの関係性の質に影響を及ぼしている22

3)英国の事例

英国の難民申請者数は2016年には約4万人で、ドイツの74万人やイタリアの12万人と比べて少 なく、欧州難民危機前後の受入れ者数も比較的安定している。英国の難民向けメンタリング・プ ログラムはコミュニティ型プログラムの一種とされる。2010年に Mentoring + Befriending Foundation が発表した難民向けメンタリング・プログラムの研究レヴューには、2004年以降に 発表された15の主要なプログラム評価の結果がまとめられている23

これらの中で特に注目されるのが2002年に Time Bank が創設した難民向けメンタリング・プ ログラムである Time Together の成果研究である24。Time Together は月5時間、1年までの 支援を行い、2005年に英国内に24支部、1000人以上の難民を支援している。メンターは18歳以上 の英語を流暢に話す英国市民ないしは英国文化と習慣を真に理解している人で2500人以上が参加 している25。2005年から2007年にかけて実施されたインパクト研究では、30組のうち22組が日常 生活の実際的支援を提供し、自信を築き、英語能力の向上に寄与することでメンタリングは社会 的統合に有効に機能したとしている。Time Together は、メンタリングの過程で明瞭となって

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くる統合に必要な9つの次元として以下を掲げている。すなわち①自信、②英語、③就職、④資 格の再取得と継続教育、⑤孤独との闘い、⑥英国文化の理解、⑦地元について知ること、⑧ボラ ンティア活動、⑨公共サービスへのアクセスであり、各項目についていかにメンタリングが有効 であったかについて、メンティとメンター、家族への面接調査から明らかにしている26。Time Together によるメンタリング・プログラムの成果については、より英語が理解できるようになっ た(96%)、求職活動の進展によい影響があった(85%)、異文化のより多くの友人ができた(88

%)、英国文化と人々を理解できるようになった(96%)、継続教育を受ける方途をより理解した

(86%)、自ら住む町や市をより理解するようになった(96%)、英国に慣れたと感じる(90%) 当 初 よ り 英 国 社 会 に よ り 統 合 さ れ た と 感 じ る(87%)と い う 調 査 結 果 が Mentoring + Befriending Foundatio によって報告され27、メンタリングが長期的なよき効果を上げているこ とを示している。

また近年、アフガン協会 Paiwand 青少年難民メンタリング・プログラムが成果を発表してい る。同プログラムは、北西ロンドンの Barnet, Brent, Ealing, Harrow 地区の11~18歳の難民 青少年を対象とし、青少年が各自の目標を明確にしそれに向けて努力していくよう支援激励し積 極的に挑戦することをめざしている。特に、ペルシャ語やダリー語、パシュトー語を話すメンター を募集している。同プログラムは2013年に参加歴1年の95人の報告書分析と面接調査を実施して いる。95人の内訳は女性65%、男性35%で、人種的内訳はアフガニスタン60%、イラン15%、ソ マリア5%、他20%である。メンタリング・プログラムに参加した成果としては、参加者95人が 以下の一つ以上に該当すると述べている。それらは、①精神健康と福祉の向上(友人作り、不安 の低減)。②自信やコミュニケーションスキル、意欲、学業成績の向上。③社会的排除の低減(新 スキルの習得、英語力の向上)。④犯罪関与の低減、である28

加えて、West End 難民サービス Befriending Scheme もメンタリング・プログラムの成果を 発表している。West End 難民サービス Befriending Scheme は、1999年にイギリス北東部の Newcastle-upon-Tyne の Benwell で設立された。8人の職員と60人メンター、800人のメンティ が登録している。同プログラムでは、実際的助言、家庭訪問、衣類雑貨店、緊急金融支援、

Befriending Scheme による情動支援、傾聴者への話り、就職活動、難民をめぐる否定的評価に 挑戦する意識啓発教育を実施している。同プログラムは43か国からの難民を支援し、現存23組が 活動している。質問紙調査を3か月、半年、1年後に実施し、半年ごとの面接によるモニタリン グを行っている。同プログラムの成果に関する調査として、1年以上の参加経験者14人に面接(6 組のペアと元メンター2人)を行っている。メンターは全員イギリス人である。調査結果として 以下が明らかとなっている。参加動機としては、メンティは英語力の向上、社会的孤立の回避が あり、メンターは支援を必要としている他者に役に立ちたいという切実な願い、繋がりと市民性 の感覚から参加していた。プログラムの便益としては、英語の学習のみならず実際的な支援と助 言、情緒的支援、社会的孤立への戦いが挙げられ、同プログラムの限界としては、交流時間の少 なさと言語の問題、財政支援政策等の課題が指摘された。友情と関係性の発展については、決定 的に重要であるのが信頼の構築であるとされ、相互性と関与、ユーモアの役割が言及された。ま

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た感情の役割に関しては、しぐさやお喋り等、温かい気遣いの感情が行き交うも、組合せや背景、

経験、文脈によっては肯定否定の両面を含めて複雑な場合があるという。これらを踏まえた結論

(知見)としては、①個人への焦点化があり、共に居ることの個人的要素の重要性が強調されて いる。情緒的繋がりや友情は定期的な接触関与を通してのみ可能であり、互いの文化や民族的宗 教的違いを多面的な複合的人間として承認し合うことでステレオタイプや誤解を克服することが できるという。また、②長期にわたる交流の重要性、③事務局による関係性の支援、④財政的支 援の課題、⑤社会一般の難民に対する否定的評価への挑戦についても言及されている29 4)オーストラリアの事例

第二次世界大戦以後86万人以上の難民を受け入れてきたオーストラリアは、米国、カナダに次 ぐ世界最大の第三国再定住者の受入国である。1980年代半ば以来、毎年6月に難民週間を設けて 難民問題への啓発活動に尽力している30多彩な難民支援プログラムの一つとしてメンタリング・

プログラムが導入され、その評価研究が行われている。プログラムの成果と共に、十全に機能す る難民青少年向けメンタリング・プログラムの要件(家族や学校、地域との連携、プログラムの 柔軟性等)が明らかにされ、更なる改善に向けた提言もなされている。オーストラリア難民審議 会は以下のように述べている。「難民や人道的入国者向けメンタリングは、ソーシャルネットワー ク、英語の技能、研究教育や訓練の選択、求職、文化的習慣や規範の理解の発達を支援すること ができる。入国者はしばしば、彼らが新しいコミュニティに統合されていると感じるのを阻む最 大の障壁は信頼できる関係性の構築にあり、孤独を感じながら誰に尋ねたらいいのか不明なこと であると述べている。」よき実践のためのガイドラインとして、プログラム研究・デザイン・展 開、難民と人道的入国者の関心を組み込むこと、異文化理解(ジェンダーの役割、家族の規範と 階層、コミュニティの調和、コミュニティの政策、難民コミュニティの規模、文化的規範、難民 が経験した拷問やトラウマのタイプに関する基本的理解)が挙げられている31

オーストラリアにおける難民青少年向けメンタリング・プログラムの成果については、シド ニーの Macquarie 大学拡張参加部(Widening Participation Unit)による大学生をメンターと する LEAP-Macquarie Mentoring が成果を発表している。それは2011年に創設され、2015年ま でに数十言語を母語とする754人のメンティ、357人のメンターが参加している。同プログラムは 自信とレジリエンス、学習スキル等、充分な情報をもって進路決定できるよう11週コースを年2 回実施している。同プログラムの成果については、メンティ54人との面接とメンター45人の報告 書調査から、メンタリング・プログラムが双方に高校から大学へ人格的社会的学問的な円滑な移 行と潜在的リーダーシップの発達を支援し、地域コミュニティとの繋がりを提供していることが 判明している32。2015-2016年度の報告書によれば、460人のメンティ(男性46%、35言語)が参 加し、94%が第12学年継続を希望し、85%が自身の能力と学業継続に自信を持てるようになった という。231人のメンター(男性22%、39言語。うち23人が難民出身)にとってもやりがいのあ る大いに報われる経験となったという33

オーストラリアでは青少年を含む難民家族向けのメンタリング・プログラム VICSEG New futures Refugee Family Resource and Mentoring Program34や 難 民 女 性 向 け メ ン タ リ ン

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グ・プログラム35の成果報告書も発表されている。サンプル数の少なさや報告書や面接調査とい う調査手法の限界があるものの、萌芽的なプログラム評価が試みられている。

5)カナダの事例

2016年にカナダは46700人の難民を受け入れた。これは1980年代以来最大の数であり、シリア

(約3.3万人)出身者が半分以上を占め、次いでエリトリア(約3900人)、イラク、コンゴ、アフ ガニスタンとなっている36。カナダでは、上記各国同様、各地域で移民や難民のためのコミュニ ティリソース一覧が整備され、多彩なリソース一覧の中に難民青少年向けメンタリング・プログ ラムが含まれている37

メンタリング・プログラムの成果に関する報告はなされていないが、例えば、アルバータ・メ ンタリング・パートナーシップでは、難民青少年向けの支援に向けた各種実践智を数冊のブック レットシリーズにまとめている38。そうしたブックレットの一つには、次のような難民青少年の メンタリングにおいて克服すべき11の方途が記されている。それらは、①集積された重なりや調 整不足からくる原因の除去、②精神健康と福祉、③組織と関わる個人の両方にとっての能力容量、

④メンタリングに関する情報不足による誤解の解消、⑤プログラム・ポリシーと書面手続きの適 正化、⑥適正な役割に適正なボランティアを組み合わせること、⑦就業に必要なスキルの習得を めざすこと、⑧文化的疎外や受入れ不足をなくすこと、⑨英語の能力スキルの向上、⑩メンター の不足の解消、⑪地域の少数難民や移民による異文化メンタリングの促進、である39

3.おわりに

以上、米英豪加において難民青少年向けメンタリング・プログラムがどのような成果を上げ、

いかなる実践智が蓄積されているのか概括した。これらの成果研究の多くが当事者への半構造的 インタビュー調査であることから、研究知見の妥当性や信頼性は限定的であるといわざるをえな い。しかしながら、本稿では殆ど紹介することができなかった難民青少年自身が語るメンターや 地域社会への深い感謝、市民ボランティアであるメンターがメンタリングという個別継続的な支 援活動を通じて体得した喜びは、人道や正義、道徳性を起点とする円環的生涯発達支援としての メンタリング・プログラムが機能しうる可能性を示している。

難民青少年向けメンタリング・プログラムは市民ボランティアの善意と倫理性が原動力となっ て活動が継続され、そうした長年の経験からプログラム運営上の多様な実践智が各国各地域で蓄 積されている。国内外の紛争がもたらす人道危機にあって、教育権の剥奪や生涯発達への支障を 最小化するレジリエンスの増大に向けた取り組みの先例として、日本においてもこれらの知見を 十分に活かし、「積極的平和」に向けた国際貢献がごく普通の市民にも可能となる制度整備が促 進されることが望まれる。

(本稿は平成29年度愛知淑徳大学特定課題研究「道徳性の発達理論と教育実践の往還に向けた基 礎的研究」の成果の一部である。

(9)

本稿の一部は、「難民青少年向けメンタリング・プログラムの成果に関する考察」2017年8 月27日(桜美林大学)『日本教育学会第76回大会発表要旨集録』376-377頁に掲載されている。

UNHCR, Global Trends: Forced Displacement in 2016.

難民をめぐる現状と課題については、滝澤三郎・山田満編著『難民を知るための基礎知識』

明石書店2017年、パトリック・キングズレ―『シリア難民 人類に突きつけられた21世紀最 悪の難問』ダイヤモンド社2016年、人見泰弘編著『難民問題と人権理念の危機:国民国家体 制の矛盾(移民・ディアスポラ研究6)』明石書店2017年等を参照。

難民支援協会(Japan Association for Refugees)『2016年度年次報告書』2017年。国連難 民高等弁務官(UNHCR)駐日事務局『日本の難民保護・支援』等を参照。難民支援協会に よれば、G7諸国の2015年の難民認定数と認定率は日本27人(0.6%)に対して、イタリア3573 人(5%)、カナダ9171人(68%)、英国15376人(33%)、フランス21287人(22%)、米国23361 人(77%)、ドイツ138666人(59%)となっている。(https://www.refugee.or.jp/jar/report /2017/06/09-0001.shtml)

例えば墓田桂『難民問題』中央公論新社2016年等。

長坂道子『難民と生きる』新日本出版社2017年等。

拙著『メンタリング・プログラム:地域・企業・学校の連携による次世代育成』川島書店 2009年。

そ れ ら の 集 大 成 が Allen, T. & Eby, L. eds., The Blackwell Handbook of Mentoring:

A Multiple Perspectives Approach, Wiley-Blackwell, 2007. DuBois, D. & Karcher, M., eds., Handbook of Youth Mentoring, Second Edition, Sage, 2014.等である。

例えば、Watanabe, K. et al., Multi-facet Triangular Evaluation of Youth Mentoring Program Implemented in Hiroshima, Japan, SCRA ( Society for Community Research and Action) 2013 Biennial Conference, June 27, 2013, 米 国 University of Miami, School of Education & Human Development, Conference Program, p. 185.等。

10 MENTOR, Mentoring Immigrant & Refugee Youth, A Toolkit for Program Coordinators, 2009等。

11 渡辺かよ子・伊藤知子「難民の青少年向けメンタリング・プログラムに関する考察」『愛知 淑徳大学論集-教育学研究科篇』第7号2017年。

12 UNHCR 駐日事務所「数字で見る難民情勢(2016年)、UNHCR, op.cit., pp.2-3.

13 紛争の教育への影響については、荒川奈緒子「紛争と教育:国際的な政策論議および動向」

『比較教育学研究』第55号2017年を参照。

14 Birman, D. , & Morland, L. , Immigrant and Refugee Youth, in DuBois, D. &

Karcher, M., eds., op.cit. 小泉康一『グルーバル時代の難民』ナカニシヤ出版2015年を 参照。

15 Homeland Security, Office of Immigration Statistics, Refugees and Asylees:2015,

(10)

Annual Flow Report, November 2016.

16 Birman & Morland, op.cit., p. 363.

17 MENTOR, op. cit.

18 International Rescue Committee, DM&E Tips on Refugee Youth Mentoring, pp.1- 3.(http://www.brycs.org/documents/upload/ircyouthmentoring.pdf)

19 Ibid., pp.4-5.

20 BRYCS(http://www.brycs.org)

21 同上、(http://www.brycs.org/promisingpractices)

22 Oberoi, A. , Mentoring for First - Generation Immigrant and Refugee Youth, National Mentoring Resource Center, 2016.

23 Mentoring + Befriending Foundation, Transforming Lives: Examining the Positive Impact of Mentoring and Befriending, 2010.

24 Esterhuizen, L. & Murphy, T., Changing Lives: A Longitudinal Study into the Impact of Time Together Mentoring on Refugee Integration, 2007.

25 General Features, Amilee Needs you:

(http://www.bbc.co.uk/wear/content/articles/2006/12/05/time_together_)

26 Esterhuizen & Murphy, op. cit.

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参照

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