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(1)

接触場面のインターアクションにおける 母語話者の意図と学習者の戸惑い

―― 国際共修への示唆 ――

竹 井 光 子

(受付 ₂₀₂₀ 年 ₁₀ 月 ₃₀ 日)

1. は じ め に

 社会のグローバル化に対応する人材の育成が求められる中,国際共修カリキュラムの導入 が日本国内の大学で進んでいる(岩崎・池田,₂₀₁₅; 末松,₂₀₁₇)。国際共修は,日本人学生 と外国人留学生,すなわち言語・文化的背景が異なる学生がコミュニケーションの壁を互い に乗り越え,そのプロセスから学ぶことのできる教育的仕かけである(坂本・堀江・米澤,

₂₀₁₇)。双方へのメリットが期待されるが,日本人学生にとっては,多様な言語・文化的背景 を持つ人々との交流という点で「共通語としての日本語(Japanese as a Lingua Franca: JLF)」

の使用者としての意識を高め,相互理解のために必要となる相互調整能力や異文化間コミュ ニケーション能力の習得に影響を与えることが期待できる。日本語学習者(非母語話者)

で ある留学生にとっては,日本語母語話者を相手として日本語を使用する場面を正課内におい て体験する機会となる。

 一方,言語管理理論の枠組による接触場面研究が日本語教育の分野で盛んになって久しい

(宮崎・マリオット,₂₀₀₃)。ファン(₂₀₀₆)は,接触場面として「共通言語接触場面」,「相 手言語接触場面」,「第三者言語接触場面」の ₃ つを設定し,各場面における会話の言語管理 が異なるとしている。このうち,「相手言語接触場面」が国際共修の JLF 場面に相当するが,

ここで,日本人学生は母語話者としての意識から「言語ホスト」として主導的役割を担うこ とが多く,インターアクションを円滑に進めるための配慮や工夫を意識的あるいは無意識的 に行っているとされている(ファン,₂₀₀₆; 一二三,₁₉₉₅, ₁₉₉₉)。

 接触場面のインターアクションを考える際,そこで求められるインターアクション能力の 下位分類として,言語能力,社会言語能力,社会文化能力の ₃ つが挙げられている(ネウス

 ₁ 広島修道大学 国際コミュニティ学部

 ₂ 本稿は,日本語を共通語とする国際共修の接触場面における「日本語母語話者」と「日本語学習者」

のインターアクションに焦点を当てるが,先行研究の紹介などでは,適宜「母語話者・非母語話者」

に用語を置き換えて論じることとする。

(2)

トプニー,₁₉₉₅; 中井,₂₀₁₂)。そこには,それぞれ,言語規範,社会言語規範,社会文化規 範が存在し,インターアクションはこれらの「規範」に基づいて行われており,その規範に 反する逸脱が生じた場合には,それが留意され,逸脱に対する評価によって,その調整が実 行されるという段階を踏む(加藤,₂₀₀₆; Neustupny, ₁₉₈₅)。

 本稿では,プロジェクト遂行型国際共修授業における言語使用に近い疑似的場面(課題解 決型三人会話)を設定して収集した録音・録画データの分析およびフォローアップ・インタ ビューでの発言から,非母語話者が母語話者に対して,その逸脱に留意し否定的評価をした ケースに注目する。国際共修という相手言語接触場面において,母語話者がとった言語行動 に非母語話者が規範からの逸脱を感じ,それに対して行った否定的評価を国際共修の場にど のように還元できるかを考察する。

2. 先 行 研 究

2-1 接触場面のインターアクション

 接触場面は,一般的に母語場面(native situations)と区別され,異なる言語・文化背景を 持つ参加者間のインターアクションの場面を示す(ファン,₂₀₀₆: ₁₂₀)。日本語教育の現場 では,ファン(₂₀₀₆)の掲げた ₃ つのタイポロジーの内,特に,第三者言語接触場面(third- party language contact situations)と相手言語接触場面(partner language contact situations)

が注目されている。この ₂ つの接触場面を日本とアメリカの大学で日本語を学ぶ学生たちが 遭遇しうる場面について,正課内・正課外に分けて整理すると表 ₁ の通りとなる

。ここでは,

大学キャンパスを中心とするコミュニティに限定し,教員とのやり取りは除いている。

1 日本とアメリカの大学における接触場面の分類

第三者言語接触場面 相手言語接触場面

正課内 正課外 正課内 正課外

日本

・授業(留学生科目)

でのグループディス カッション

・留学生同士のコミュ ニケーション

・国際共修でのグルー プディスカッション

・ビジターセッション

・学内外の交流会

・バディ・友人とのコ ミュニケーション

アメリカ

・授業(日本語など)

でのグループディス カッション

・日本語学習者同士の コミュニケーション

(ただし,特別の設定 がない限り,通常は 英語が共通語となる)

・日本語アシスタント とのやり取り

・ビジターセッション

・日本人チューター・

日本人留学生とのコ ミュニケーション

・地域の日本人との課 外活動

 ₃ アメリカの事例は,W大学およびB大学への聞き取りによる。

(3)

 本稿で注目するのは,日本の大学の正課内における相手言語接触場面である国際共修であ るが,日本人学生と留学生が正規科目として履修し共に学び合うことを前提としており,成 績評価され単位が付与されるという点で両者が対等な立場となる。また,一定期間(学期)

に継続的な接触となる点,クラスというコミュニティが形成されるという点で,実際使用 場面としてのビジターセッション(村岡,₁₉₉₂)がより発展した形と言える。文化的背景 が多様な学生によって構成される学びのコミュニティでは,その文化的多様性を学習リソー スとして捉え,相互交流を通して学びあうことになる(坂本・堀江・米澤,₂₀₁₇)。した がって,インターアクションの過程で発生する「問題」も学びのリソースとなりうるはず である。

 中井(₂₀₁₂)は,ネウストプニー(₁₉₉₅)が提案したインターアクション能力の概念に基 づき,インターアクション能力を,「状況や人間関係などの社会的な文脈の中で人との関わり をもつ際,相手と協力して,瞬間瞬間に生成されるインターアクションを動態的に調整しつ つ,言語行動(語彙・文法・音声),社会言語行動(コミュニケーション),社会文化行動(実 質行動)が適切に行える能力」と再定義している。そして,インターアクション能力が包括 するものとして,言語能力,社会言語能力,社会文化能力の ₃ つを捉えている。本稿におい ても,この ₃ 分類に基づき議論を進めることとする。

2-2 接触場面における言語管理

 Jernudd & Neustupný(₁₉₈₇),Neustupný(₁₉₉₄)による言語管理理論(Language Man- agement Theory: LMT)を理論的枠組とする接触場面研究では,接触場面のインターアクショ ンにおいて生起する言語問題から解決までの管理プロセスを,(₁)規範からの逸脱が生じる,

(₂)規範からの逸脱が留意される,(₃)留意された逸脱が評価される,(₄)評価された逸脱 の調整計画が立てられる,(₅)調整計画が実行される,という ₅ 段階で捉えている。ここで,

規範からの逸脱は留意される場合と留意されない場合がある。そして,留意された逸脱は,

肯定的な評価あるいは否定的な評価を受ける。否定的な評価を受けた逸脱に対しては,イン ターアクションの参加者によって調整計画が立てられ実行される。逸脱はすべての参加者に 留意されるとは限らないし,留意されても必ずしも評価が行われるわけではない。さらに,

否定的な評価が行われた際に,調整の計画から遂行へ進む場合もあれば,プロセスが中途で 終わる場合もある。調整は自分で行う場合もあれば(自己調整),他者が行う場合もある(他 者調整)。すなわち,管理プロセスは場面,状況や参加者の意識などによってさまざまな形で 起こりうると言える(高,₂₀₁₆)。

 規範とは,インターアクションを実現するための能力の基礎となっているもので,言語能

力,社会言語能力,社会文化能力に対応するものとして,言語規範,社会言語規範,社会文

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化規範の分類がある

。言語規範は文法,語彙,発音に関するもの,社会言語規範はだれが,

どこで,何を,どう言うかのルール,社会文化規範は,考え方,行動パターン,思考に関す るものである(加藤,₂₀₀₆, ₂₀₁₀)。

 接触場面における言語管理プロセスの研究は,非母語話者の逸脱に対する母語話者の留意 と評価を対象にしたものが中心であり,言語的な逸脱に比べて社会言語的あるいは社会文化 的な逸脱が評価の対象として取り上げられることが少ない

(高,₂₀₁₃)。しかしながら,非 母語話者が,母語話者のとった言語行動に対して逸脱を感じ,否定的な評価をすることもあ りうる。また,社会言語的・社会文化的な側面は,言語・文化背景が異なる学生同士の相互 理解に基づく協働活動を目指す国際共修にとっては,最も興味深い点である。

 これらの背景から,本稿では,接触場面において非母語話者が母語話者の適用した社会言 語規範および社会文化規範に違和感を抱いたケース,すなわち逸脱への留意から否定的な評 価に至ったケースについて焦点を当てて考察することとする。これは,評価の主体の ₃ つの 分類(第三者,参加者,当事者)のうち,当事者評価にあたる(高,₂₀₁₃)。

3. 調 査 の 概 要

 本稿の分析に用いた調査データの詳細については,竹井・藤原(₂₀₂₀)を参照いただきた いが,ここでは概要のみを再掲する。

3-1 調査方法

 調査は,₂₀₁₆年 ₆ 月~₂₀₁₇年 ₆ 月に日本国内の大学において日本人学生,学部留学生・交 換留学生₁₈名(延べ数)を調査参加者として行った。データ収集は,任意募集による参加希 望者に対して研究調査の目的・概要の説明を行い,研究協力の同意書への署名を得た上で行っ ている。

 プロジェクト遂行型授業における言語使用に近い疑似的場面(課題解決型三人会話)での インターアクションを分析するために与えた課題は,「附属高校から大学体験の目的で訪問す る女子高校生₁₀名のために,大学生活を知ってもらうためのプログラム内容(キャンパスツ アーなど)を計画する」というものである。₁₀:₀₀(出迎え)から₁₅:₀₀(見送り)までの 計画書(スケジュール案)を₃₀分程度で協議して作成することを求めている。

 調査参加者は,入室後に教員から課題の説明を受け,教員退室後に課題遂行のためのディ

 ₄ 加藤(₂₀₁₀)は,言語学的規範,社会言語的規範,社会文化的規範という用語を用いているが,本 稿では(引用を行う場合も含め)言語規範,社会言語規範,社会文化規範に統一することとする。

 ₅ 村岡(₂₀₀₆a)は,日本に居住する外国人の社会文化管理プロセスを扱っている。

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スカッションを開始する。₃₀分後に教員が再入室し,計画案の発表および感想を口頭で求め る。この一部始終について録画・録音を行っているが,分析の対象としたのは課題遂行作業 の部分のみである。

 グループは ₃ 名で構成することとし,母語場面,第三者言語接触場面,相手言語接触場面 の各場面(日本人学生 ₃ 名,留学生 ₃ 名,留学生 ₂ 名+日本人学生 ₁ 名)につき ₂ グループ の計 ₆ グループの参加者によって会話データを収集(録画・録音)した。この ₆ グループの うち,本稿の分析対象とする ₃ グループを表 ₂ に示す。

2 調査参加者の内訳

グループ 個人コード 第一言語 属性 日本語レベル

母語場面

JP_M_₂ 日本語 学部生 母語

JP_F_1 * 日本語 学部生 母語

JP_M_1 ** 日本語 学部生 母語

相手言語 接触場面 [ ₁ ]

JP_M_1 * 日本語 学部生 母語

VN_F_₁ ベトナム語 交換留学生 N₂

UK_F_₁ ロシア語 交換留学生 N₂ 準備中

相手言語 接触場面 [ ₂ ]

JP_F_1 ** 日本語 学部生 母語

VN_F_₂ ベトナム語 交換留学生 N₂

CN_M_₁ 中国語 学部留学生 N₁準備中

※個人コードは,出身国_性別_話者番号を示す。日本語レベル(当時)はJLPTによる。

 このうち,印( * , ** )を付した ₂ 名の日本人学生(JP_F_₁,JP_M_₁)は同一の学生であ り,母語場面と国際共修に相当する相手言語接触場面の両方に参加していることから,本稿 では,この ₂ 名の言語行動や意識に注目することにする。対象とする母語話者 ₂ 名は,普段 から留学生との交流に積極的に参加している学生である。グループの他の参加者とは初対面,

または顔見知りではあったものの長時間の会話や目的を持ったディスカッションをしたのは 初めてという関係であった。JP_F_₁は,英語を共通語とする相手言語接触場面の調査に参加 した後に,相手言語接触場面(日本語),母語場面(日本語)のグループに参加した。一方,

JP_M_₁は,相手言語接触場面(日本語),母語場面(日本語)の順に調査に参加した。

3-2 フォローアップ・インタビュー

 課題作業終了後の数週間以内に,調査参加者に対して半構造化フォローアップ・インタ

ビューを実施した。インタビューは参加者の許可を得て録音を行い,音声とその書き起こし

を分析に用いた。フォローアップ・インタビューは,ファン(₂₀₀₂: ₈₈)の「調査対象者の

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実際の行動に伴う認知プロセスを意識化し,言語化するための方法論」という定義に基づき,

表面的な言語行動の観察からだけでは推し量れない意識や意図を確認することを目的とした。

特に,自分の行動についての意識の有無に加えて,その行動のもとになった規範は何である か,相手のどのような行動に逸脱を感じ,その際に適用した規範は何であったか,逸脱に対 してどのような評価を行い,実際に調整を行ったかどうか,などについて内省を促すことを 試みた(加藤,₂₀₀₆)。

 本稿では,このインタビュー内容から,接触場面の当事者である非母語話者が母語話者の 言語行動に対して感じた逸脱および否定的評価に関する発言に注目し,その行動に関係する 母語話者のコメントとあわせて考察を行う。ここでの当事者評価には,会話の表面的なやり 取りからは逸脱の留意や評価を行っている様子がみられないものの,フォローアップ・イン タビューの中で管理プロセスが発生している場合を含む(高,₂₀₁₃)。

4. 母語話者の言語行動と意識

 前章で紹介した全 ₆ グループ分のデータは,「各場面の言語行動の特徴や傾向を探ることで 国際共修授業の設計や運用の方法などに関する示唆を得ること」を主たる目的とする共同研 究グループ内で共有し,これまで,さまざまな視点から言語行動の分析と考察を行ってきた

(竹井・藤原,₂₀₂₀; 竹井・吉田,₂₀₁₈a, b; 下條,₂₀₁₈a, b; 藤原,₂₀₁₈a, b, ₂₀₁₉; 渡辺,₂₀₁₈,

₂₀₂₀)

。そのうち,本稿の目的と関連がある分析結果を次に示すとともに, ₂ 名の母語話者

(JP_F_₁,JP_M_₁)の相手言語接触場面における言語行動を母語場面と比較しながら観察す る。さらに,その背景にある意識(意図)を反映していると思われる発言をフォローアップ・

インタビュー(以降,インタビュー)の中から探っていく。

4-1 発話数

 竹井・吉田(₂₀₁₈a)では,各場面における発話数の割合を分析した。 ₂ つの母語場面にお ける ₃ 名の参加者の発話数の割合にはそれぞれ均等性が見られ(各₃₀%程度),共話的なやり 取りが目立った。しかし,相手言語接触場面においては,JP_F_₁は母語場面の₃₁%から₄₉%

に,JP_M_₁は₃₀%から₅₂%に増えている。この点について,JP_F_₁はインタビューの中で

「最初,誰も話し始めなくて,…自分からなんか話しかけたほうがいいかなって思って…自分 が司会者みたいな役割に立って話を進めていく感じ」と述べ,「英語でやった時は英語圏の

 ₆ このうち,竹井・吉田(₂₀₁₈a),下條(₂₀₁₈a),藤原(₂₀₁₈a),渡辺(₂₀₁₈)については,₂₀₁₈

AATJ Annual Spring Conferenceにおける「効果的な国際共修カリキュラム構築のための『共通語

としての日本語』話者の言語行動の分析」と題するパネルの共同発表である。

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◯◯がやってくれたから同じようなことを」と英語調査での経験から母語話者としてのリー ダー的役割を意識していたことがうかがえる。JP_M_₁も,「まとめる人がおらんかったら,

まとめるしみたいな感じ」と,母語場面の時と異なり,状況から主導的役割を担ったことを 述べている。母語話者として「主導的役割の必要性,会話を円滑に進める配慮」(一二三,

₁₉₉₉)を意識していたことがわかる。先行研究(ファン,₂₀₀₆; 一二三,₁₉₉₅, ₁₉₉₉)とも一 致する結果である。

 以下に,相手言語接触場面データから,会話例①,②を紹介する。いずれも,課題遂行作 業の冒頭部分である。JP_F_₁,JP_M_₁ともに,積極的に問いかけや提案を行って進行しよ うとしている姿勢が見られる(下線部)。会話例中,あいづち,沈黙,笑い,重なりなどの表 記は省略してある。

会話例①

VN_F_₁: はい。はじめましょう。

UK_F_₁: うん。

JP_M_₁: えー。

UK_F_₁: うん。

JP_M_₁: なにしますか。

VN_F_₁: あのー。

UK_F_₁: じゃ,まずはー,なにをした方がいい,あー,決めたら,どう。

VN_F_₁: うん。

JP_M_₁: そうっすね。見学かってことですよね。授業見たりするかー,その,大学を見

てまわるか。どっちか。

UK_F_₁: そ,そ,その後は,時間。

JP_M_₁: うん。でも,途中に,絶対,お昼ごはん入れますよね。

VN_F_₁: うん,そう。

UK_F_₁: あ,うんうんうん。

VN_F_₁: うん。

JP_M_₁: お昼。で,多分,大学生いるから,時間ずらして,料理,ごはん食べないと,

人が多くて。 …

UK_F_₁: そうですね。

JP_M_₁: じゃ,まず,なにしますか。

UK_F_₁: まーずはー,うーん。

JP_M_₁: 逆に,なにを見たいかですよね。

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VN_F_₁: 多分。

JP_M_₁: なに見たいと思いますか。

UK_F_₁: キャンパス。

会話例②

JP_F_₁: じゃあ,何か,どうしようか。何から考えていくのがいいかな。

CN_M_₁: ₁₀時から, ₄ 時。

JP_F_₁: で,大学生活を知ってもらうの,もらうためのプログラムだから,大学せい,

大学生活がわからないと,多分,駄目なのかな。

CN_M_₁: ですから,大学の授業とか,えーと,サークルとか。

JP_F_₁: 授業,サークル,確かに,確かに。

CN_M_₁: はい,大学の食堂。

VN_F_₂: iCafe。

JP_F_₁: iCafe ? CN_M_₁: iCafe ですね。

JP_F_₁: ああ,いいかも。iCafe に来てもらう。うん。サークルとかね。iCafe に行っ

て,留学生とかと交流するってことなのかな。

CN_M_₁: iCafe でいいんじゃないですか。

JP_F_₁: iCafe。オッケー,オッケー。これを,授業は, ₁ 個だけのほうがいいかな,見

るのとか。

VN_F_₂: うーん,どんな授業がいいですかね。

JP_F_₁: 楽しい授業のほうがいいよね。

VN_F_₂: 楽しい授業。

CN_M_₁: そうですね。

JP_F_₁: 授業,体験?それとも,授業見学?

VN_F_₂: 見学のほうがいいですね。

JP_F_₁: 見学のほうがいい? 見学ね。じゃあ,何か,どうしようか。何から考えてい

くのがいいかな。

4-2 スピーチスタイルと文末表現

 下條(₂₀₁₈a, b)は,母語話者場面と相手言語接触場面の参加者のスピーチスタイルの選

択について調査した。両場面に参加した母語話者 ₂ 名は,割合に差はあるものの,相手言語

接触場面では普通体に傾くことがわかった。具体的には,JP_M_₁は,母語場面で普通体の割

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合が₄₈%,接触場面で₆₅%である。JP_F_₁は母語場面での普通体発話の割合が₈₆%であった が,接触場面では₉₈%に上がった。ここでは,加藤(₂₀₀₆)による文体に関わる規範の分類 を援用しながら,インタビューでの発言から母語話者の接触場面における意識や意図を探っ ていきたい。

 JP_M_₁は,母語場面において先輩(参加者)に対して一貫して丁寧体を使用していた。こ れは,文体に関わる規範のうち,「F・年上なら丁寧体,年下なら普通体で話せ」の日本語母 語規範を適用していたことになる。接触場面においては,インタビューでの「(留学生だか ら)気をつかった。女の子と話すの緊張しますし」との発言から,普通体に傾きつつも,丁 寧体との併用となった心理的理由がみてとれる。同場面に参加していた VN_F_₁の普通体の 割合が₉₆%,UK_F_₁が₈₉%であることから,非母語話者のスタイルに合わせることなく,一 定の丁寧体使用を維持していたと言える。これは,「B・同世代の学生同士では普通体で話 せ」,「C・同世代の会話相手とは同じ文体で話せ」を部分的に適用しつつも,緊張感から一 定の距離を保持して丁寧体の使用につながったと考えられる。前掲の会話例①をみると,冒 頭では終始丁寧体での問いかけになっているのがわかる。

 一方で,会話例②をみると,JP_F_₁は会話の冒頭部分から普通体で進行していることがわ かる。JP_F_₁は,「普通に友達と話す感じで」,「いつも通りまた留学生と楽しくおしゃべり している感覚で楽しい気持ちで終わったのかな」とのインタビューでの発言から,リラック スした姿勢でのぞんだことがうかがえる。普段から iCafe(国際交流ラウンジ)での交流やバ ディとしての活動により,留学生と友人として接する経験が豊富なことも影響しているであ ろう。ここで JP_F_₁がとった言語行動は,日本語母語規範である「A・普通体の使用は親近 感を表す」,「B・同世代の学生同士では普通体で話せ」を適用して,楽しい雰囲気づくりを する意図が働いていたことが考えられる。これは,一二三(₁₉₉₅)が整理した接触場面にお ける母語話者の ₇ つの意識的配慮のうち,「会話の場の雰囲気を和らげ,対話者が会話に参加 しやすくなることを目的とする意識的配慮」と解釈できる

。同接触場面に参加していた VN_

F_₂は普通体の割合が₈₀%と普通体に偏りつつ丁寧体を併用し,CN_M_₁は普通体が₃₉%と丁 寧体の使用傾向が強かったことから,会話相手に合わせたスピーチスタイルの選択ではない ことも推察される。

 藤原(₂₀₁₈b, ₂₀₁₉)は,母語話者と学習者の文末表現「かな」の使用に着目して分析を 行っている。 ₃ 種類の場面 ₆ グループの総計で,学習者の「かな」の使用回数が₄₂回,母語 話者が₇₀回と,母語話者の使用が目立つ。分析対象とする JP_M_₁と JP_F_₁に注目すると,

 ₇ JP_F_₁は,日本語による接触場面に参加する前に,英語による接触場面の調査に参加している。そ こで,自分自身の考えを英語で十分に表現できなかった悔しさから,そういう思いをさせないよう にと配慮したことをインタビューの中で述べている。

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ここでも ₂ 名間で頻度に差がみられる。JP_M_₁は,母語場面で ₀ 回だった「かな」の使用が 接触場面では ₉ 回となった。JP_F_₁は,母語場面で ₈ 回の使用が接触場面では₂₃回に増えて いる。とりわけ JP_F_₁の接触場面での使用頻度が高いことがわかるが,これは会話例②でも 観察できる(網掛け部分)。「かな」は親密度を示し,普通体と共起することから,JP_F_₁の 普通体使用傾向とも一致することになる。また,接触場面での₂₃回のうち₁₇回が,聞き手の 存在を前提とする対話的機能をもつ「判断の問いかけ」の用法であることから,相手に配慮 を示して円滑なコミュニケーションを図る意図がみられる。さらに,JP_F_₁は,インタビュー の中で,「できるだけ ₂ 人の意見を引き出すようにはしてたかなというか,どういうのがいい と思う?って気をつけて話を振ったり,まんべんなく, ₁ 人だけに偏るんじゃなくて ₂ 人に 話を振ったり,なんかどういう意見がいいかなって疑問形にしたりとか。」と述べている。こ れは,藤原(₂₀₁₈a)の JP_F_₁を含む母語話者が接触場面において疑問表現(特に,要求や 誘発)を多用しているとする分析結果や,竹井・藤原(₂₀₂₀)の接触場面で返答要求表現が 増加するとの報告とも一致する。

4-3 提案

 渡辺(₂₀₁₈, ₂₀₂₀)は,課題解決型会話における提案行動の発話連鎖に着目して分析を行 い,非母語話者で構成される第三者言語接触場面では〈提案〉の可決・否決が決まる前に他 の〈提案〉や話題に推移してしまう傾向が見られる一方で,母語場面においては,例えば,

以下のような提案の可決・否決に至る発話連鎖のパターンがあることを報告している。

 〈提案〉→〈提案懸念〉→ 反論の〈提案説明〉→ 反論への支持 →〈提案〉の可決  〈提案〉→〈提案懸念〉→〈提案懸念〉への支持→ 合意形成   →〈提案〉の否決  そこで,相手言語接触場面ではどのような傾向がみられるかを観察したところ,母語話者 の〈提案懸念〉をきっかけとして,〈提案〉の可決・否決に至る発話連鎖が生じている例がみ られた。

 まず,非母語話者がキャンパスツアーのルートに ATM を加える提案をする会話例③を示 す。

会話例③

VN_F_₁: 食堂から,えっと,ATM があるところとか 〈提案〉

JP_M_₁: あっ,高校生と,高校生ですよ。 〈提案懸念〉

VN_F_₁: うん。あ,高校生は,ATM は,まだ,ない。

JP_M_₁: 多分,自分で持っとる人は,あんまりいないかもしれない。

〈提案懸念〉の説明

(11)

VN_F_₁: あー,そうなんだ。

UK_F_₁: でも,大学生になる,ね。 〈提案懸念〉への反論

JP_M_₁: 大学生になると,まあ,自分で。

VN_F_₁: 大学生になる。

JP_M_₁: あ,ATM ね,大事かもしれない。 〈提案懸念〉の取り消し

UK_F_₁: コンビニも。

VN_F_₁: うんうん,そう 〈提案支持〉

JP_M_₁: あー確かに。          〈提案〉の可決

 非母語話者 VN_F_₁の提案に対して,JP_M_₁は「高校生はまだ(銀行口座を)持っていな い(から ATM は使わない)」との提案懸念とその説明を行っているが,UK_F_₁の「高校生 もじき大学生になる」との懸念への反論をきっかけに,「ATM も大事かもしれない」と懸念 について再考する発言となり,結果的には ATM 提案を受け入れている。

 次に,授業見学を組み入れる提案があり,時間的には ₁ 時間程度しかないことを確認した 上でどの授業を見学するかを話し合う場面を会話例④に示す。

会話例④

JP_M_₁: ₁ 時間で授業。

VN_F_₁: えっと,多分,その,交換留学生の授業だけでもいい。 〈提案〉

JP_M_₁: あー。

VN_F_₁: ちょっと,楽しい。

JP_M_₁: 交換留学生の授業見せます? 〈提案懸念〉の前ぶり

VN_F_₁: うん。

JP_M_₁: でも,日本人っすよ。 〈提案懸念〉

VN_F_₁: うん,そうね。で,交換留学生は,この学生の,えっと,大学の学生じゃない。

JP_M_₁: うん。

VN_F_₁: あの,国際グローバルみたいな。 〈提案〉の説明

JP_M_₁: あー,あ,じゃけん,両方。両方見てもらいましょうか。普通の,なんか,日

本人の大学生の授業見て,でも,この大学には留学生もいっぱいいるから,留

学生の授業も見て。 〈提案懸念〉の取り消し

UK_F_₁: そう。

VN_F_₁: きつーくない。

JP_M_₁: きついね。

(12)

UK_F_₁: うん。それだけたくさん時間かかるね。

JP_M_₁: そーだねー。え,じゃ,授業を見るとしたら,交換留学生の方。日本人の方は

止め?

VN_F_₁: それはどう思う?

UK_F_₁: うーん。

VN_F_₁: どちらがいい。

UK_F_₁: 日本人の授業が良いと思う。 〈提案懸念〉の支持

JP_M_₁: うん。

VN_F_₁: うん。

UK_F_₁: 日本人だから。 〈提案懸念〉の支持説明

JP_M_₁: まあね。

UK_F_₁: 交換留学生の授業は,どうして興味があるかなと思う。 〈提案懸念〉の支持説明

VN_F_₁: うん。

JP_M_₁: 確かに。日本人だからね。 〈提案懸念〉の確認

UK_F_₁: うん。

VN_F_₁: うん。 〈提案〉の否決

 VN_F_₁が交換留学生の授業の見学を〈提案〉するが,JP_M_₁の〈提案懸念〉の表明「で も,日本人っすよ」がきっかけとなり議論が展開する。「国際グローバル」をアピールしたい

という VN_F_₁の提案説明を受けて,JP_M_₁は日本人学生の授業,留学生の授業の両方を見

学する折衷案を出す。しかし,時間的な制約から,UK_F_₁から「日本人の授業が良い」と する〈提案懸念〉への支持が表明され,「留学生の授業を見学する」〈提案〉の否決,つまり JP_M_₁の〈提案懸念〉が受け入れられる結果となっている。

 さらに,非母語話者 VN_F_₁と UK_F_₁が「全サークル(またはできるだけたくさんのサー クル)を紹介する」という提案をする会話例⑤を示す。

会話例⑤

JP_M_₁: あー,サークルの紹介。₃₀分でよくない。

UK_F_₁: あ,オッケー。

VN_F_₁: ₃₀分は,足りるかな。

JP_M_₁: え,でも,多分。えっ,全サークル,全サークル?

VN_F_₁: できるだけ。

JP_M_₁: あ,全サークルか。

(13)

UK_F_₁: うん,でもー,えっとー,短い時間,このサークルがある,そのそのそのあ るー。

JP_M_₁: うーん。そんななんか,何個か代表で,ちょっとしゃべって

VN_F_₁: うん,そそそ。

JP_M_₁: もらう感じの方がいい。だったら,₃₀分で,多分。

VN_F_₁: 「おもしろいよー」,えっと,という感じ。

JP_M_₁: あーー。

VN_F_₁: なんか,サークル自慢。

JP_M_₁: あ,もう勧誘。はやく,早くない?

女子高生が。 でも,女子高生ですよ。 〈提案懸念〉

VN_F_₁: あー,そうね。

JP_M_₁: 女子ですよ,女子。 〈提案懸念〉の反復

VN_F_₁: 女子。女子。女子。

UK_F_₁: それで。 〈提案懸念〉への反論

JP_M_₁: うん?

UK_F_₁: それで。 〈提案懸念〉への反論

JP_M_₁: 女子だから,なんか,サークルでも,そのー。 〈提案懸念〉の説明

VN_F_₁: うん,多分。

JP_M_₁: そんなに興味があるのが,幅広くはないかなっていう。 〈提案懸念〉の説明

UK_F_₁: でも,いろいろな女子が。 反論の説明

JP_M_₁: 確かに。 反論への譲歩

UK_F_₁: ある,ですけど。 反論の説明

JP_M_₁: トイレ休憩いらんかな。ま,でも,たいしてないか。

え,でもさ,サークルの紹介,₃₀分。足りる,足りますかね。

UK_F_₁: 足りると思う。

VN_F_₁: いいと思う。 〈提案〉の可決

 ここでも,JP_M_₁は「でも,女子高生ですよ。女子ですよ,女子。」という発言で,「女子 高生が対象であるから,女子が興味を持たないサークルもあるわけで,すべてのサークルを 紹介する必要はないのではないか」という意図の〈提案懸念〉を示す。これに対して,VN_

F_₁はその意図を解したような反応を返すが,UK_F_₁は「それで。」という短い表現の繰り

返しで懸念への反論を示し,「でも,いろいろな女子が。ある,ですけど。」と反論の説明を

加えている。即座に,JP_M_₁は「確かに。」と反論説明に納得し譲歩する反応を示している。

(14)

そして,時間が足りるかどうかを再確認する質問への VN_F_₁と UK_F_₁の肯定的な反応に より,提案が可決された形で発話連鎖は完了している。この場面のことを,JP_M_₁はインタ ビューの中で,「女子高生ですっていうのは言ったんですよ。」,「全部に興味があるわけでは ないんですよっていうのは言いました。」と述べており,懸念を表明したが通らなかったこと を良く記憶していた。

 提案行動の発話連鎖が観察された ₃ つの場面(会話例③,④,⑤)において,JP_M_₁によ る〈提案懸念〉が,「高校生ですよ。」,「日本人っすよ。」,「女子ですよ。」という訪問者が日 本人女子高校生であることをリマインドさせる発言(囲みで表示)によって示された

。 ₃ 例 のうち,④では提案懸念が支持されて〈提案〉の否決に至ったが,③,⑤では〈提案懸念〉

への反論を受けたため,JP_M_₁が歩み寄る姿勢を見せることで〈提案〉の可決で終わってい る。この点について,JP_M_₁はインタビューで「出た意見から,どうしょうかって考えてっ た。まあその意見を言ってもらったんで,それで考えようか,まあ自分はいいや,みたいな 感じで考えました。」と述べ,自分自身の意見より進行役として話をまとめる役割を優先して いたことがうかがえる。また,「二人の顔色をすごい伺いすぎた」と遠慮しながらの課題遂行 であったことにも触れている。さらに,全体を通して,高校生を対象にした大学体験の企画 であるにも関わらず,留学生の存在を強く主張する意見が多かったことに違和感を抱きつつ も,留学生自身の意見であるために気を遣って尊重したため,反対意見は「言えなかったっ ていうか,言わないようにしたっていうか。」と述べている。しかしながら,相手言語接触場 面における母語話者の〈提案懸念〉によって,渡辺(₂₀₁₈, ₂₀₂₀)の分析による母語場面と 同様の発話連鎖のパターンが展開している点は興味深い。

5. 学習者(非母語話者)の戸惑い

 前章では,接触場面における母語話者の言語行動の分析に基づき,インタビューにおける 発言の中からその行動の背後にある母語話者自身の意識や意図を探った。特に,スピーチス タイルの選択と提案行動の発話連鎖については,先行研究とも一致する傾向を見出すことが できた。本章においては,学習者(非母語話者)の意識に焦点を移し,それらの言語行動を 関連づけて考察を行う。

 相手言語接触場面におけるインターアクションについて非母語話者がどう感じたかをイン

タビューの中からひろってみると,「目的を持って日本語を使うことで自信がついた,課題が

スムーズに進んだことに驚いた」という達成感や「互いにわかりあえたこと,意見をしっか

 ₈ いずれも間接的な表現だが,懸念を意図する発言と解釈した。

(15)

りと聞いてくれたこと」への満足感などがみられた。一方で,母語話者がとった言語行動に 非母語話者が逸脱を感じ,それに対して否定的評価を行っていたことがインタビューの中か ら判明したケースがいくつか観察できた。ここでは,前掲の会話例②,会話例⑤に関連する

₂ つの事例について,先行研究と照らし合わせながら説明する

。一つは社会言語規範からの 逸脱,もう一つは社会文化規範からの逸脱への留意である。

5-1 社会言語規範:スピーチスタイルの選択

 社会言語規範とは,だれが,どこで,何を,どう言うかのルールである。ネウストプニー

(₁₉₉₅)は,Hymes(₁₉₇₂)のコミュニケーション能力の ₈ つの要素 SPEAKING を発展させ て,社会言語行動(=文法外のコミュニケーション行動)を ₉ つのルール

₁₀

で整理している。

このうちのバラエティルールでは,コミュニケーション場面の諸条件に合わせて手段(標準 語・方言,文体・スタイル,調子等)を選択することを求めており,フォーマル・インフォー マルの使い分けが外国人にとって困難であることを述べている。

 ここでは,会話例②を含む相手言語接触場面[ ₂ ]を使って,社会文化規範のバラエティ ルールに含まれるスピーチスタイルの選択に関する「問題」を紹介する。同接触場面では,

JP_F_₁が楽しさや親しみやすさを重視して一貫した普通体使用(全発話の₉₈%)を行ってい た。これに対して,普通体の割合が₃₉%と低めであった CN_M_₁から強い違和感の表明がイ ンタビューの中であった。CN_M_₁は,JP_F_₁の普通体での問いかけに対して,多くの場合 丁寧体で対応していたが,特にその点を取り立てて調整を図る行動はみられなかった。とこ ろが,インタビュー冒頭での「気づいたことはありますか」の問いかけに,「 ₁ つは,重要 じゃないと思うんですけど,初めて見たときはやっぱりみんな敬語で話すじゃないですか。」

と返答し,初対面であったのに終始「ため語」で話す日本人学生にかなり戸惑った様子が見 て取れ,その後もスピーチスタイルについての自身の考えや経験を語っている

₁₁

 CN_M_₁にとってのスピーチスタイルの選択に関する規範は,「初対面の場合は丁寧体を使 う」であり,その規範からの逸脱は失礼ではないが「どこかが違う」と評価している。そし て,学生同士の場合も最初は丁寧体を使い,仲良くなったら普通体に移行するものと考えて いる。しかし,JP_F_₁に限らず,初対面から普通体を使ってくる日本人がいることにも気づ

 ₉ ここで引用する言語管理プロセスの先行研究のほとんどは非母語話者の逸脱に対する母語話者の評 価を扱ったものであるが,逆も可能であることを前提として関連性について述べる。

₁₀ ₉ つのルールとは,(₁)点火のルール,(₂)セッティングのルール,(₃)参加者ルール,(₄)バラ エティルール,(₅)内容のルール,(₆)形のルール,(₇)媒体のルール,(₈)操作のルール,そし て総合的な(₉)運用のルールである。

₁₁ インタビューの中では,「敬語」と「ため語」を用語として使っているが,それぞれ「丁寧体」と

「普通体」と同義で使っていると捉えて考察することにする。

(16)

いている。さらに,大学入学前の日本語学校在学中にスタイルの使い分けの必要性を理解せ ずに教員に対して「失礼な」言い方をしていたことを回想したり,長年日本に住んでいても スタイルの使い分けをしない(丁寧体を使わない)外国人がいることに触れたりしている。

そして,スタイルシフトのタイミングが「分からない,難しい」と再認識した様子である。

スピーチスタイルの選択に関して自身の「目標言語規範」(加藤,₂₀₀₆, ₂₀₁₀)が形成されつ つある中で遭遇した自己の規範がゆらぐ接触場面体験であったようである。

 ここでは,伊集院(₂₀₀₄)が指摘した母語話者の場面によるスピーチスタイルの使い分け に起因する問題が起きている。母語話者は,母語場面において,初対面では丁寧体によるネ ガティブ・ポライトネスをある程度保持しつつ時間の経過と共感の増大によって距離が縮ま ると,普通体によるポジティブ・ポライトネスに移行するとしている。これがまさに CN_

M_₁が適用した日本語規範である。一方で,接触場面における母語話者は,会話相手が非母 語話者であると認知すると,日本語母語規範の丁寧さへの意識が希薄になるとしている。こ の接触場面規範の適用が,楽しい雰囲気づくりの意識も影響して,JP_F_₁の普通体の多用傾 向につながったと考えられる。

 CN_M_₁による言語管理プロセスにおける留意と評価は,インターアクション中に始まっ たと考えられるが,インタビューでの内省の中で再認識され,過去の経験の振り返りとの相 乗により,明確な否定的評価に移行した。なお,インターンアクション中における表層的な 言語調整行動は,観察する限りみられない。

5-2 社会文化規範:ジェンダー意識

 社会文化規範は,考え方,行動パターン,思考に関するルールである。ジェンダー意識も その一つであろう。ここでは,インタビューでの「印象に残っていることはあるか」との問 いに対する「ちょっとおかしいことがありました。」という UK_F_₁の発言から始まる「問題」

について取り上げる。加藤(₂₀₁₀)は,言語的規範や社会言語的規範と異なり,社会文化的 規範の管理プロセスでは「逸脱の留意」と呼ぶのは適切とは言えないとし「相違・類似の留 意」を想定して分析する必要性を説いている。本稿においてもそれに従うこととする。

 相手言語接触場面[ ₁ ]における会話例⑤を再び参照いただきたい。JP_M_₁は,ジェン

ダー意識に関する母文化規範を適用させて,「女子だからすべてのサークルに興味があるとは

限らない=女子が通常興味を持たないサークルがある」との提案懸念を示した。これに対し

て,UK_F_₁はジェンダー意識に関する自己の母文化規範を適用させて「相違」を留意し,否

定的評価の結果の調整行動として提案懸念への反論および反論の説明の発言(「でも,いろん

な女子がある,ですけど。」)を行った。インタビューで,「ヨーロッパでこんなことは起こり

ませんかもしれません。」,「ヨーロッパは女性と男性,イコールでという考えがとても強いの

(17)

が現代です。」と述べていることから,評価に際し母文化規範が活性化したことがわかる。加 藤(₂₀₁₀)は,「問題」が常にすべての当事者によって共有されるわけではないことに触れて いるが,この場面においても,もう一人の会話参加者(当事者)である VN_F_₁には「相違」

と認識されている様子がみられない。また,村岡(₂₀₀₆b)は,このような社会文化規範に 関する評価が調整行動に移行するのは一部であるとしているが,UK_F_₁は自己の母文化規 範を適用した発言をすることで調整を試みていると言える。

 UK_F_₁は,さらに「授業で先生から日本にはこういう考え方(=社会的・心理的性差の 存在)があると聞いて知識としては知っていたが,今は実感できた」という旨の発言をして いる。また,後日に「何かそんなに重要なことじゃなかったと思いました。でもインタビュー しながら,それはちょっと面白いですねと思いました。」とインタビューを受けたことで内省 が進み,より意識化が強まったことを述べている。インターアクションの場面で顕在化した

「問題」への否定的評価であるが,「相違」の認識から発展して,既知の文化知識を実際場面 で目の当たりにしたことを,意義ある肯定的な学びの経験と捉えた可能性がうかがえる。

 一方で,JP_M_₁は,懸念を示したことは良く記憶していながら,会話相手の母文化規範に 基づく反論の表明があったことについては,「覚えてないですけど」とインタビューで聞かれ るまで意識していなかった。すなわち,UK_F_₁の反論が,日本の社会文化規範を適用した 自分の発言に対するものだという認識はなかったことがわかる。UK_F_₁の「母文化規範に 向かう調整行動(村岡,₂₀₀₆a: ₁₈₅)」は,インターアクション上の言語行動としては効果が あった(反論が受け入れられた)が,異なる価値観の深い理解や受容までには至っていない と考えられる。

5-3 非母語話者の言語管理

 二人の母語話者の言語行動に対して,インターアクションの当事者である非母語話者が逸 脱(または相違)を留意し否定的評価をした事例を ₂ つ紹介した。その言語管理プロセスを 表 ₃ にまとめる。

 事例 ₁ は目標言語である日本語の社会言語規範を,事例 ₂ は自己の母文化規範(社会文化 的側面)を適用した例である。管理プロセスの留意・評価段階については,事例 ₁ の場合は,

留意・評価がインターアクション中に生起していたことがインタビュー中の発言から推察で きた。事例 ₂ では,留意・評価がインターアクション中に明示的な言語行動で示された。い ずれの事例も,インタビューの冒頭で真っ先に「問題」として取り立てた点であり,インタ ビューの過程で違和感の程度や評価の根拠,背景がより明確になった事例である。調整段階 については,事例 ₁ では明らかな調整行動が見られなかった。相手の普通体使用に対して,

丁寧体を使い続けたことが消極的な調整行動とも考えられるが,「がんがん,がんがん,この

(18)

人何だろうとか思ったんです」との発言から戸惑いは感じつつも調整には至らなかったと推 察する。一方で,事例 ₂ では,言語行動による調整の試みが見られた。「女子ですよ」発言 に,瞬時に「それで」と反応したことで,その後の〈懸念の説明〉→〈懸念への反論〉→〈反 論の説明〉という発話連鎖を導くが,それが発話行為としての反論の機能以上に社会文化的 な問題として発展することはなかった。JP_M_₁が,インタビューでも述べているように,相 手の意見に合わせつつ議論を進行することを優先させたことの結果とも言えるだろう。非母 語話者が自己の母文化規範を適用し評価・調整を行ったことに対して,母語話者の社会文化 規範レベルでの認知はなかったと推察できる。

6. 国際共修への示唆と課題

 接触場面において非母語話者によって認知された「言語問題」の管理プロセスの分析結果 を国際共修への示唆として整理することが,本稿の目的であった。国際共修の疑似的場面で 観察できた ₂ つの事例から得られた示唆を,実際の国際共修カリキュラムや授業に援用する ための検討を行う。

 まず,スピーチスタイルの選択の「問題」については,CN_M_₁自身もインタビューで述 べているように,時間の経過とともに親しさが増すことでスタイルの丁寧体から普通体へシ フトダウンが起きることは理解できているが,そのシフトのタイミングが図りづらいと言う。

教科書で得た知識を,実際場面の中で体感しながら習得が進む事項の典型例と言えるだろう。

初対面場面から回数を重ねるごとのスピーチスタイルの変化を分析する研究や母語場面と接 触場面における母語話者のスタイルを比較する研究も多い(伊集院,₂₀₀₄; 加藤,₂₀₀₆)。正 規科目としての国際共修は,セメスター₁₅回の授業という継続的な接触場面のコミュニティ を提供できるという点で,母語話者のスピーチスタイルの変化を観察したり,学習者がスピー チシフトを実体験したりする場としては理想的な環境となるはずである。

3 非母語話者の言語管理プロセス事例のまとめ

事例 ₁ 事例 ₂

適用規範 社会言語規範(目標言語規範) 社会文化規範(母文化規範)

規範の適用対象 スピーチスタイルの選択 ジェンダー意識

インターアクション中の留意 有り(インタビューから推察) 有り(言語行動で提示)

インターアクション中の評価 有り(インタビューから推察) 有り(言語行動で提示)

インタビュー中の評価 有り 有り

調整行動の有無 無し 有り(明示的な言語行動)

相手当事者による調整の認知 無し 有り/無し

(19)

 次に,ジェンダー意識の例が観察された社会文化規範の逸脱(相違・類似)への留意・評 価と調整については,国際共修が文化背景の異なる学生同士が相互交流を通して行う協働活 動が核になっていることを考えると,極めて重要な側面である。本稿で取り上げた事例 ₂ で は,当事者の一人が留意した社会文化規範からの逸脱(相違)から言語調整が起きた。しか しながら,それが他の当事者に伝わりきらず,この社会文化規範の相違がより深い学びを呼 び起こすまでには至らなかった。これは国際共修にとっては格好の学びのリソースとなりう るポイントであった。

 いずれの事例においても,フォローアップ・インタビューが接触場面の参加者の留意や評 価の顕在化,意識化,言語化による再認識を促進する点で有効であった。先行研究において も,この点は指摘されている(加藤,₂₀₀₆, ₂₀₁₀ 他)。よって,このインタビューが果たして いる役割を国際共修の授業方法・運営の中に有機的に組み入れることが重要であると考える。

プロジェクト遂行型の国際共修では,課題解決のための協働を主軸に据えながらも,社会言 語的,社会文化的な規範について母語話者・非母語話者の双方が意識化(再認識化)する仕 組みを副軸として用意することが可能であろう。インタビューの中で,「インタビューによっ て意識を引き出してもらった」との発言があったが,例えば毎回の授業のふりかえり(気づ きの言語化)の活用により,共有すべき気づきをクラス全体に還元することも考えられる

₁₂

。 それによって,言語能力に加え,社会言語能力,社会文化能力をも包括するインターアクショ ン能力の育成を国際共修のねらいの一つとして据えることが可能になるであろう。しかし,

授業計画においては教員の技量が問われる点でもある。

 本稿は,国際共修の疑似的接触場面の分析にもとづく ₂ つの事例に限定した考察に留まる が,言語管理理論を枠組みとする管理プロセス研究と国際共修の教育実践研究とを融合させ ることの意義を示唆する結果を得ることができたと考えている。今後は,さらにデータの収 集を継続しつつ言語行動と意識との関係を探っていきたい。

※本稿は,筆者が₂₀₁₉ AATJ(American Association of Teachers of Japanese)Annual Spring Conference において行った口頭発表の内容をもとに論文化したものである。

※本研究は「国際共修カリキュラムのための『共通語としての日本語・英語』使用実態・意識の調査」

(JSPS科研費JP₁₅K₀₂₇₇₄, 研究代表者 竹井光子)の助成を受けた研究成果の一部である。本研究組織 内で,データ収集・分析やインタビュー調査に関わったメンバーおよび調査に参加した学生の皆さん に深く感謝申し上げる。

₁₂ 水松(₂₀₁₇)は,Kolbの経験学習モデルに基づく具体的経験,客観的省察,概念化,実践という学 びの循環を国際共修に組み込むことを提案している。

(20)

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(22)

Summary

L₁ Japanese Speakers' Intention and Japanese Learners' Confusion in Contact Situations:

Implications for Multicultural Co-learning

Mitsuko Takei

From a pedagogical approach, the quest for fostering global competency has been attract- ing attention to multicultural co-learning at Japanese universities (Iwasaki & Ikeda ₂₀₁₅, Sue- matsu ₂₀₁₇). Multicultural co-learning is a designed educational environment from which both local and international students benefit by utilizing opportunities to learn from the process of accomplishing given tasks together while overcoming any potential linguistic and cultural bar- riers in the course of communication (Sakamoto, Horie and Yonezawa ₂₀₁₇). Such co-learning courses demonstrate an academic context of contact situations, specifically partner language contact situations (Japanese language use between local students with Japanese as L₁ and inter- national students with various L₁) as depicted in Fan (₁₉₉₄). From a research perspective, on the other hand, contact situations have often been discussed in the framework of the language management theory (Jernudd & Neustupný, ₁₉₈₇). According to the theory, language prob- lems commence with deviation from certain norms and typically undergo management pro- cesses that include stages from noting and evaluation of deviations, to planning and implemen- tation of possible adjustments.

This paper attempts to investigate how language behaviors observable in contact-situation

interactions and the intentions behind such behaviors are interrelated. For that purpose, we

first analyze: (₁) two sets of video-recorded three-person conversation data in a pseudo multi-

cultural co-learning setting and (₂) remarks made by the conversation participants in their

follow-up interviews. In the analysis, the focus is on the L₁ Japanese speakers' behaviors by

which Japanese learners are confused. Particular attention is given to the cases in which

deviations from sociolinguistic and sociocultural norms are noted and negatively evaluated by

Japanese learners. We then examine the norms employed respectively by L₁ speakers and

learners in those cases. The discrepancy between L₁ speakers' intention and learners' confu-

(23)

sion is presented as a potential resource for deeper learning and pedagogical implications for multicultural co-learning practice.

 ₁

Faculty of Global and Community Studies, Hiroshima Shudo University

参照

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