金融政策の指導原理と施策の有効性(?)
その他のタイトル Alternative guiding principles for the use of monetary policy and the effectiveness of the policies (1)
著者 尾崎 康夫
雑誌名 関西大学社会学部紀要
巻 11
号 1
ページ 55‑79
発行年 1979‑11‑30
URL http://hdl.handle.net/10112/00022896
金融政策の指導原理と施策の有効性 ( I )
尾 崎 康
夫
I
序 説この論文では,主として,現代および将来の経済社会において立案・実施せられる, もろもろ の金融的な施策に対して賦課せられる使命,あるいは,それぞれの具体的な施策の実施によって,
その達成を期待している諸目標を明確に示すとともに, これらの使命を果し, 目標を達成する上 に有効な作用を示すものとして,今日までに推挙せられて来た,具体的な諸施策について,その 実施がもたらす諸影響や効果について,まず,考察・検討する。しかも,この場合,特に,いろ いろなかたちの,選択的で直接的な金融統制
( S e l e c t i v eC o n t r o l )が,それぞれに賦課せられて
いる達成目標を実現させる能力を増進させる上に,有効な作用を示し得るか,いなかを,検討し,吟味することを,窮極的な分析目標として,議論を進めて行くことにする。
ところで,金融政策(あるいは,それぞれの具体的な諸施策)は, もともと,短期的に,安定 した経済状態を実現するとともに, このようにして実現せられた経済状態を維持して行くことを 意図して,世界各国の中央銀行あるいは金融当局によって立案・実施せられて来た政策である。
しかも,これらの金融的な諸施策は,それぞれの国において立案・実施せられる経済政策の中の 重要な施策の一部である。さらに,これらの諸施策に賦課せられて来た,実践的な達成目標が,
安定した経済状態(物価水準)の実現と高水準の麗用の維持とであったということは,改めて,
掲げるまでもないことであろう。しかしながら,この二つの達成目標を,同時に実現するための,
具体的な施策は,施策の対象になっている,物価の動きと屈用量(したがって,産出量)の変動 とが, ともに,同一方向を示している場合には, このような施策の実施効果として具体化する,
物価の動きと雇用量の変動との間に矛盾が生じたり,麒甑を招くというようなことは,おそらく,
起らないであろう。したがって,この二つの達成目標のうちの,いずれか一方を実現することを 意図して立案・実施せられる金融的な諸施策は,同時に,他方の達成目標の実現に対しても,ま た,好ましい効果を示すであろう。
これに対して,屈用水準を望ましい状態にまで引上げることを意図して,有効需要の増加を促 すような働を示す金融的な諸施策を立案・実施した場合に,これらの諸施策の実施がもたらす影 響を受けて,物価の上昇が明瞭に現れて来るとか,あるいは,失業率が,異常に低い値を示して いるという状況のもとで,屈用量以外の,何らかの理由によって,物価が上昇する場合には,上 記の二つの達成目標の間に, したがって,それぞれの目標を達成するために立案・実施さられる,
具体的な諸施策の間に矛盾が発生して来るということは,さけられないことである。さらに,近 年,多くの国々において,金融政策に賦課せられるようになって来ている,第三番の達成目標と して,経済成長の促進が掲げられている。ところで,この,第三番目の達成目標を実現するため に適用せられる,具体的で, しかも,金融的な諸施策は,安定した物価の実現という,より一般 的で,同時に綜合的な達成目標を実現するために適用せられる諸施策と,ほぼ,同一のものであ ると,考えることが出来るであろう。いずれにしても,今日,世界の主要な国々において立案・
実施せられている金融的な諸施策に対して賦課せられている,具体的な達成目標としては,高水 準の雇用の実現とその維持,安定した物価水準の実現と維持,ならびに,経済成長の促進という,
三つのことを挙げておく必要があるであろう。そのうえ,近代的な諸国家においては,現実に,
金融的な諸施策を立案・実施する場合には,さらに,このほかに,それぞれの国の政府財政当局 が,必要とするだけの資金を,国内の金融市場から借入れるという方法によって調達する場合に,
これらの資金を,出来得るかぎり低い利子率でもって, しかも,円滑に,収集・調達することが 出来るように,金融市場を取巻く諸環境を整備しておくという,第四番目の達成目標が, しばし ば,追加せられる。しかも,それは,今日,世界の主要な国々において,金融的な諸施策の立案
•実施の責に任じている中央銀行あるいは金融当局が,同時に,政府財政資金の出納事務取扱人 として,極めて重要な役割を担わされているというのが実情であるからである。ことに,第二次 世界大戦中のような,特殊な状況下においては,この,第四番目の達成目標は,それぞれの国に おいて,最優先の達成目標に掲げられ,その実現のために,最大の努力が払われていたというこ とは,周知の通りである。その反面,この達成目標は,金融的な諸施策に対して,従来から,賦 課せられて来ていた,極めて重要で, しかも,本質的な達成目標である安定した経済状態(物価 水準)の実現ということとは, もともと,両立しがたい達成目標である。したがって,この二つ の達成目標の,それぞれを実現するために適用せられる,具体的な施策の問においても,いろい ろな矛盾や対立が生じて来るということを認めなければならない。しかも,このような矛盾や対 立は,過去の特定の時期においては,具体的な施策の立案・実施を,根本的に左右した,最も重 要な要因であったことは勿論のこと,将来,その発生が予想せられる,特殊な事情のもとにおい ても,具体的な諸施策の決定とその実施に対して,重要な影響を与えることになるであろう。し かしながら,本稿では,いま述べたような,特殊な事情のもとにおいて発生して来る諸問題は,
これを考察の対象外におき,通常の状態において,金融政策の一般的な達成目標を,すでに述べ たように,短期における安定した経済状態の実現に限定して,考察・検討を進めて行くことにす る。なお,本稿における考察・検討は,主として,
H.G. Johnson
が,最近のカナダの実情につ いて実施した,実証的な考察ならびに分析をよりどころにして,進めて行くことにするI)。 ただ し,以下の議論においては,将来において,金融的な諸施策の立案・実施を支配すると予想せら1 ) J o h n s o n , H. G.: " A l t e r n a t i v e G u i d i n g P r i n c i p l e s f o r t h e Use o f Monetary P o l i c y i n C a n a d a , "
E s s a y s i n Monetary E c o n o n i i c s , 1 9 6 7 , C h a p t e r V I , p p . 1 9 6 ‑ 2 3 6 .
金融政策の指導原理と施策の有効性 (I)(尾崎)
れる指導原理に照して,具体的な,それぞれの施策が具備している長所および短所を明らかにす ることを意図している。したがって,金融的な諸施策の実施効果が,今日までのところでは,ゎ れわれに取って,充分に,満足出来るものではなかったということに関して,当局を非難しよう
という意図に基づいて,考察・検討ならびに分析を進めて行くものではない。
ところで,金融的な諸施策の立案・実施が,今日までのところ,上述のように,不満足な実施 効果しか収めることが出来なかったという事実は,つぎのような諸事情がその原因となって,生 じて来ているように思われる。その第ーは,具体的な諸施策の立案とその実施に関して,政策当 局と一般の人々,あるいは,個別経済単位との間に,一致した見解を見出すことが出来なかった ことである。その第二は,政府当局と中央銀行との間の協力関係が不充分であったということで ある。その第三は,中央銀行あるいは政策当局が判断を下す際に,あやまった判断を下したとい うことである。その第四は,中央銀行あるいは政策当局が,与えられた情況を認識し,それに基 づいて,具体的な施策を立案し,関係各方面の同意と承認とを得て,実際に施行するまでの間に,
すでに,可なり長い時日の経過を必要とする。さらに,これらの諸施策の実施がもたらす,種々 の影響ないし効果が,各段階の金融取引および非金融取引を経て,実物的な経済活動にまで波 及・浸透するまでには,さらに,可なり長い期間が必要である。そのため, この間において,こ れらの具体的な諸施策を立案する際の前提条件になっていた諸事情や諸条件に変化が生じ,具体 的な諸施策の実施を無効なものにし,あるいは,実施効果を著しく減殺させるということであ る2)。 そして,その第五は,現実に立案・実施せられて来た具体的な諸施策が実際に示した諸効 果と,これらの諸施策が内包している理論上の有効性,ならびに,諸施策の実施上ならびに有効 性の上から見た場合における,各種の限界に関して,中央銀行あるいは金融当局の当事者達がも
っている知識および資料が不足していたと,いうことである。
以上のような諸事情の存在のために, もしも,現実に立案・実施せられている金融的な諸施策 が,不満足な成果しか収められないのであれば,われわれは,将来における金融的な諸施策の立 案・実施に関して,つぎの三つの条件のうちの,いずれか一つを容認せざるを得ないと,いうこ とになるであろう。その第一の条件は,今日までの経験に鑑みて,金融的な諸施策の実施が,短 期的な物価安定に関して,それぞれの具体的な施策の立案の段階において,その実現を期待して いたような成果を収めることが不可能なことが明らかになった以上は,金融的な諸施策の立案・
実施に対して賦課する逹成目標を,同様な諸施策の立案・実施によって,過去において,実際に,
収めることが出来た,経験的な成果に合致する水準まで,引下げることである。第二の条件は,
これまでの事情に関する記録をもとにして,上記のような目標を達成することを意図して立案・
実施せられて来た諸施策が,今日までに犯した過誤を明確に認識し,それらを除去するように努 力すると同時に,基本的な理念や制度,ならびに,具体的な管理・統制のやり方等を改善するこ
2 ) Kareken, J . & R . M. Solow : "Lags i n Monetary P o l i c y , " S t a b i l i z a t i o n P o l i c i e s , (A S e r i e s o f
R e s e a r c h S t u d i e s P r e p a r e d f o r t h e Commission on Money and C r e d i t ) , 1 9 6 3 , p p . 1 4 ‑ 9 6 .
とである。これに対して,第三の条件は,主要な達成目標として,従来から,金融的な諸施策に 賦課せられて来た,短期的な経済安定の実現に関する責任を,他の経済的な施策に転稼し,金融 的な諸施策の立案・実施に対しては,あらためて,長期にわたって,安定した金融的な諸環境を 整備するという,別個の,全く新しい達成目標を賦課すると,いうことである。
そこで,以下においては,まず,上記の三つの条件の内容の重要性を評価するとともに,具体 的な諸施策の立案・実施に際して,この三つの条件をつねに考慮に入れることが可能であるか,
どうかを吟味する。しかしながら,われわれが,このような評価と吟味を行なうことが出来るた めには,その前提条件として,まず,最初に,今日の中央銀行制度の本質に関して,いくつかの,
必要な,基本的な条件を明確に示しておかなければならない。つぎに,金融的な諸施策の,具体 的な運営の仕方,ならびに,これらの諸施策をめぐる,基本的な考え方を,明確に,把握してお く必要がある。第三番目には,考察の対象になっている国々あるいは経済社会が,固定為替レー ト制を採用しているか,どうかという制度上の相違に従って,具体的な諸施策の実施効果に,ど のような相違が生じて来るかということに言及する必要がある。第四番目に,日常の経済的な諸 活動に対して,特に,不安定要因として,好ましくない諸影響を与えるものとして,広く認めら れている特殊な金融制度や,このような金融取引を営なむ金融機関を対象にして立案・実施せら れる,いわゆる,選択的な信用統制
( S e l e c t i v e C r e d i t C o n t r o l )
の功罪を検討する必要がある。そして,最後に,金融的な諸施策の有効性を大きく左右する,時間的な遅れ
(Lag)
の問題を解 明する必要がある。I I
中 央 銀 行 制 度 に 関 す る 基 本 的 な 諸 前 提われわれが,将来の金融政策をめぐる,具体的かつ実証的な分析・検討を試みようとする場合 には,その前提条件として,まず,現代経済社会において,具体的な諸施策の立案・実施の任に 当っている中央銀行あるいは金融当局が具備している,組織的ならびに制度的な特質を,明確に 認識しておく必要がある丸つぎは,これらの金融当局が立案・実施する具体的な諸施策が,施 策の対象になっている,それぞれの国,あるいは,それぞれの経済社会に対して, どのような影 替を与え, どのような効果を発揮するかということを明らかにすると同時に,金融的な諸施策の 立案・実施をめぐる,基本的な諸原理を,充分に,把握しておく必要がある。
ところで,金融政策,あるいは,その具体的な諸施策は,多くの,近代的な諸国家においては,
総合的な経済政策の重要な一部を形成するものとして,政府当局は勿論,その他の多くの人達の 間においても,重大な関心が持たれている施策である。しかも,金融的な諸施策の多く,その中 でも,特に,一般に,間接的な諸施策と呼ばれているものの立案・実施は,他の多くの,経済的 な諸施策とはことなり,それぞれの国の政府当局が,直接に,これを担当するではなく,中央銀
3 )
中央銀行以外の金融当局として, 典型的な機関としては米国の連邦準備制度理事会(TheB o a r d o f
G o v e r n o r s o f t h e F e d e r a l R e s e r v e S y s t e m )を挙げておく必要があるであろう。
金融政策の指琳原理と施策の有効性
C I )C
尾崎)行あるいは金融当局に委ねられており, しかも,具体的な施策の運営・管理の大部分は,中央銀 行が営なんでいる, 日常の金融取引を通じて実施せられるという特質を備えている。その上,ほ とんどすべての近代的な資本主義国の中央銀行は,政府から独立した,私的な法人であり,その 大部分は,株式会社組織の企業である。
中央銀行は,銀行券の発行とその管理に任ずると同時に,銀行の銀行として,主として,銀行 やその他の金融機関を取引相手として,資金の金融取引を実施している。従って,中央銀行は,
その日常業務の特質上,当該国の金融組織と,密接な取引関係を保持している。その結果,中央 銀行が立案・実施する金融的な諸施策も,また,金融市場において支配的であり,また,慣習的 であるような考え方に従って,運営・実施せられ,同時に,健全な金融取引,ならびに,正しい 金融倫理という,伝統的な観点から,評価せられ,判定せられがちである。
中央銀行は,また,国家ならびに社会全体という観点からも,重要な機関の一つである。すな わち,中央銀行は,国家の財政資金の出納・管理の掌に当るとともに,他国の中央銀行との間に,
密接な取引関係を保持している。その結果,対内的な金融政策上の諸問題を考察・検討する場合 においても,諸外国の中央銀行当局が,それぞれに,自国の経済の実態を, どのように見なし,
それぞれの国の政策上の諸問題に対して,どのように対処しようとしているかということによっ ても,明らかに,影響を受ける。その上,それぞれの国の中央銀行が立案・実施する金融的な諸 施策の有効性は,同時に,個々の中央銀行が,それぞれの国の金融市場あるいは金融機関の諸活 動を,どの程度まで支配することが出来るかという,支配力の大小によっても相違して来る。い ずれにしても,それぞれの国の中央銀行が,具体的な諸施策を立案・実施する際には,施策の対 象となっている金融市場,あるいは,各種の金融機関が営なんでいる金融取引の,円滑な運営を 阻害することを,出来得るかぎり,回避するように,特に,配慮すると同時に,その円滑な運営 を促進するような方向に向って,常に,努力す.る必要があるということは,改めて,述べるまで もないことである。
上述によって明らかなように,各国の中央銀行は,それぞれの国の,各種の金融機関と協力し て,それぞれの経済社会において計画・実施せられる,各種の金融取引の円滑な運営を推進する とともに,それぞれの国の政府当局に対して,各種の金融機関の部分的な利益代表としての,重 要な役割を果している。中央銀行は,さらに加えて,金融政策,ことに,間接的な諸施策の立 案・実施の責を担っている機関である。しかも,このような,間接的な諸施策の立案・実施は,
その大部分が,第一次的には,中央銀行が, 日々の金融取引において,直接的な取引関係を保持 している, もろもろの金融機関の利害に,顕著な影響を与える。中央銀行が営なむ諸活動がこの ような特質を備えているということは,さらに,金融的な諸施策の立案・実施に関して改善を加 えて行く上に,つぎの二つの重要な制限を課するという,結果を招く。その第ーは,中央銀行当 局が,金融業界において広く了承せられているような原則あるいは分析方法とは,根本的に相異 しているような原則あるいは分析方法によって導出せられたやり方に従って,各種の金融取引に
従事している諸機関の業務を管理・統制することに対して,大きな制限を課することになると,
いうことである。これに対して,その第二は,国内の各種の金融機関と中央銀行との間において 形成せられ,維持せられて来た取引関係や,これらの金融機関が,それぞれに,営なむ金融取引 の充実• 発展に関して抱いて来た予想を,その根底から覆えすおそれがあるような,金融的な諸 施策の立案・実施に関しては,中央銀行当局自身が,必然的に,強い拒否反応を示すということ である。金融的な諸施策の立案・実施に対して,このような重要な制限が課せられているという 事実は,同時に,また,将来における金融的な諸施策の立案・実施に対して,前に掲げたような 制限を賦課することになる。
これに対して, もしも,それぞれの当局が,金融的な諸施策の実施効果を昂揚させるように作 用する,代替的な諸施策を案出し,これを実施したならば,その結果として,ただ単に,現在,
どれだけの実施効果を期待することが出来るかということだけではなく,理論的に検討して,将 来, どれだけの成果を期待することが出来るかということに関しても,われわれの態度を明らか にしておく必要がある。この点に関して,ラドクリフ委員会
( R a d c l i f f e Com
血t t e e )の報告書や CMC (Commission on Money and C r e d i t )
の報告書には,その根底に,共通した,つぎのよ うな考え方が横たわっている4)。 すなわち,金融政策は,利子率やその他の貸付信用供与の諸条 件に対して,直接的に,かつ,明瞭な影響を与え,このことを通じて,さらに,特定の金融市場 における貸付信用の流量,その中でも,特に,銀行が供与する貸付信用の供給額や担保付信用の 供与によって調達せられる資金によって購入せられる新築住宅に対する需要の大きさに,明瞭な 影響を与える。これに対して,短期的な経済安定の実現を意図して,金融的な諸施策が立案・実施せられる場 合には,これらの諸施策の立案・実施によって,まず第一に,社会全体としての総支出額を管 理・統制することが,不可欠な条件になるのであって,利子率を引上げたり,引下げたりするこ と,または,貸付信用の供与に際して適用せられる諸条件を管理・統制することは勿論のこと,
特定の種類の貸付信用の供与額に対して,直接的に,管理・統制を加えるように作用する諸施策 も,また,少なくとも,短期的には,それほどに,大きな成果を期待することが出来ないであろ う。したがって,金融的な諸施策の立案・実施が,最終的な支出に対して,迅速で, しかも,信 頼をおくことが出来,さらに,その上に,量的な側面においても,常に,明らかな影響を与える
というような状況を整えるということも,実際上は,不可能であると,結論せざるを得ない。
上述によって明らかなように,金融的な諸施策の立案・実施が,現実の経済社会において営な まれている実物的な経済活動に対して,充分に,所期の効果を発揮するようにするためには,そ の前提条件として,効果の発揮とその影響の波及過程に横たわって,諸施策の実施かもたらす影
4 )
ラドクリフ委員会の報告書はR e p o r to f t h e C o m m i t t e e on t h e Working o f t h e M o n e t a r y S y s t e m ,
1 9 5 9 . CMCの報告害は TheR e p o r t
oft h e C o m m i s s i o n o n Money and C r e d i t , t h e i r I n : f l u e n c e o n
J o b s , P r i c e s , and G r o w t h , 1 9 6 1 .
である。金融政策の指導原理と施策の有効性(I)(尾崎)
響を緩和し,効果を減殺し,あるいは中和するように作用する陰路や障害を排除すると同時に,
その問に介在する諸問題を解消しておく必要がある。このように,金融的な諸施策の立案・実施 が,充分に,その効果を発揮するためには,厳しい諸条件を克服する必要がある。そのために,
一部の研究者達の間においては,金融的な諸施策,ことに,間接的な諸施策が,その実施効果の 発揮を期待するような諸施策の立案・実施は,それ自体としては,実施の対象となっている経済 的な諸活動に対して,見るべき影響を与え,明らかな効果を発揮するということは,ほとんど,
あり得ないという,結論が示されているような有様である。これに対して,厳密な理論的分析に よって到達せられた結論は,金融的な諸施策の立案・実施は,必然的に,経済的な諸活動に対し て, しかるべき影響を与え,効果を発揮するということを示唆しており,また,事実上も,部分 的にではあるが,このような影響または効果に関する検証が行なわれている。その上,金融的あ るいは貨幣的な諸要因が,各種の経済活動に対して与える影響または効果は,少なくとも,長期 的な観点に立てば,重要なものであるということは,すでに,いろいろな経験的な事実に照して も,明らかである。しかしながら, このような影響または効果が及ぶ範囲とその強度,ならびに,
それが実現するにいたるまでに要する時間の長短は,施策の対象となっている,それぞれの経済 社会の経済的な構造やそれを取巻く諸事情の相異に従って,それぞれに,異なって来る。したが って,このような見解に立てば,金融的な諸施策を,短期的な経済安定を実現するための手段と して,現実の経済社会に適用し,実施して行くということは,ただ単に,困難なわざであるばか りではなく,多くの危険あるいは弊害をはらんでいるやり方であると,いわなければならない。
これに対して,現実の経済社会においては,さらに,このほかに,それぞれの経済社会に固有 であり,しかも,その解決が,相当に困難な諸問題が,依然として,存在しており,しかも,こ れらの問題を解決することを意図して,それぞれの国の中央銀行または金融当局が立案・実施す る諸施策にも,見るべき改善・進歩がなかったことを考慮に入れると,それぞれの国の中央銀行 当局は,現情において,おそらく,われわれが期待し得る,最大限の成果を収めて来たと,いう
ことが出来るであろう。しかも, このような難問を解決して,賦課せられた達成目標を,充分に,
具体化するためには,中央銀行制度やそのもとに形成せられている金融組織の,根本的な改革を 促すような努力を行なうことが必要であろう。
ところで,第二次世界大戦後にあらわれた金融政策に関する議論,その中でも特に,選択的な 信用統制
( S e l e c t i v e C r e d i t C o n t r o l )
の議論は,この施策が,金利政策や公開市場政策,さら には,支払準備率政策のような,従来,一般に適用せられて来た,無差別で, しかも,間接的な 諸施策とは,その性格が,著しく相異したものであるということを,明らかに,示している。何 故ならば,これらの施策は,平等性という点においても,また,自由競争の根本原理に照して見 た場合においても,大きな問題を含んでいるからである。これに対して,現実の経済社会におい ては,安定した経済状態の実現を意図して立案・実施せられる金融的な諸施策や,その他の,一 般的な経済政策は,それぞれの経済社会の全体的な利益のために,一部の経済活動や少数の個人‑ 61‑
または個別経済単位の間に,多少の不公平が生じて来ることも.また,避けることが出来ないこ とである。このように考えて来ると,従来から立案・実施せられて来た,伝統的で, しかも.間 接的な諸施策を.選択的な信用統制の方法によって補足して行くか,あるいは,全面的に,後者 に切換えて行くかという,二つのやり方の間の選択の問題は,競争的な資本主義経済社会の純粋 論理に従って決定せられるというよりは,むしろ,平等性と有効性という,二つの観点のバラン
スによって決定せられるべきことであると.いわなければならないであろう。
中央銀行の制度に関する基本的な諸条件の相異が,金融的な諸施策の立案・実施がもたらす諸 効果を検討する湯合に,それを左右する,いま一つの重要な事項があるということに,言及して おく必要がある。その事項は,考察の対象となっている国が,対外支払のために,特定の通貨と の交換に当って,固定為替レート制を採用しているか,あるいは,変動為替レート制を採用して いるかということである。何故ならば,当該国が, どちらの為替レート制を採用しているかとい うことの相違によって,金融的な諸施策の立案・実施が,当該国の経済的な諸活動に対して与え る諸影響,あるいは,もたらす諸効果に,著しい相異をもたらすことになるからである°。
まず,固定為替レート制が採用せられている場合について言及すると,つぎの通りである。固 為替レート制を採用している国にとって,最も必要なことがらは,その国の中央銀行または金融 局が,常に,国際収支をバランスさせることに留意して,対内的な金融的な諸施策やその他の定 済政策を立案・実施する必要があると,いうことである。すなわち,中央銀行あるいは金融当当 は,外国為替の収支バラレスの変動を,外国からの借入能力を加算した上での,利用可能な外経 収支残高の限度内において処理することが出来る範囲内に収まるように.調整する必要がある局 けである。その結果,この国の中央銀行または金融当局は,第一次的には,金融的な諸施策の貨 実施効果として現われて来る利子率の変動やその他の条件の変化が,国際間の資金移動に対しわ て, どのような影響を与えるかということに,充分な配慮を行なった上で,具体的な施策を決定 する必要がある。したがって,この湯合には,この目標を達成するために立案・実施せられる具 体的な諸施策と,国内的な経済安定の実現という目標を達成するための諸施策との間に,矛盾を 生ぜしめるような,具体的な施策の立案・実施を迫るということもあり得る。さらに加えて,今 日のように,短期で, しかも,流動性の高い,大量の資金が,国際金融市場に存在しているとい うような湯合には,他国の中央銀行の行動,ならびに,他国の経済活動の規模の拡大や縮小の影 響ならびに効果が,直接に,かつ,最大限に波及し,そのために,国内的な経済の安定を実現し.
維持して行くということが,ますます,困難になるということを,つけ加えておくことが必要で ある。要するに,固定為替レート制を採用している国の場合には,当該国の経済活動は,この制 度のもとでは,為替取引の面で,相手国の経済活動と固く結びついているわけであるから,対手 国の経済的な諸情勢の変化がもたらす影響を,最大限に蒙ることになるために,あるいは,また,
5 ) J o h n s o n , H. G . : o p . d t . , p p . 2 0 2 ‑ 2 0 5 .
‑ 92‑
金融政策の指薄原理と施策の有効性
( I )(尾崎)
国際間における短期資金収支をバラ ノスさせることを意図して,金融的な諸施策が立案・実施せ られるために,その結果として,国内経済に現れる経済的な不安定に耐えることが,必要になっ て来るように思われる%
これに対して,変動為替レート制を採用している国々の場合には,その国の経済的な諸事情の 変化に対応して,他の国の事情を考慮することなく,独自の金融的な諸施策を立案・実施するこ とが可能である。ただし,このような国においても,なお,諸外国の,各種の市場において発生 する,有利な諸事情や不利な諸事情の影響を受けるということは,避けられないことである。こ れに対して,このような諸事情の発生が,これらの国々の経済的な諸活動の水準に,変動を引起 すことを防止するということは,中央銀行あるいは金融当局にとって,可能なことである 。
以上のような諸条件を比較・検討して見ると,固定為替レート制の採用と,変動為替レート制 の採用とが,前述の,三つの代替的な条件の中のいずれを選択するかということとの問に保って いる関係については,つぎのようなものを考えることが出来る。 (1) 固定為替レート制を採用し ている国の場合には,金融的な諸施策は,主として,国際収支のバランスを指標にして,立案・
実施せられる。したがって,この場合には,変動為替レート制を採用している場合に比較して,
具体的な諸施策の立案・実施によってその実現を期待することが出来る経済安定の度合は,必然 的に低下するようになる。
( 2 )
固定為替レート制を採用している国が,この制度に固執するかぎ り,この国は,自国通貨に対する外国の信認を維持して行くために,また,現在施行せられてい るような固定為替レート制のもとでは,各国の中央銀行の間における,相当に広い範囲にわた・る 協力関係の存在が必要であるために,当該国の中央銀行は,それぞれに計画・実施する金融取引 を,伝統的なやり方に従って,運営して行かざるを得ないように仕向けられるであろう。しかし ながら,このようなやり方に固執するということは,中央銀行の組織や運営方法を,根本的に改 善することによって,金融的な諸施策の実施方法の改善を促すよりは,むしろ,中央銀行当局に 対して,伝統的に,賦課せられて来た達成目標である,安定し貨幣価値の実現に限界があること を容認する方に加担すると,いう結果になる。これに対して,変動為替レート制が採用せられて いる場合には,しばしば,上述したところとは反対の結果を招くと,いう傾向が見出される。さ らに,また,固定為替レート制が固執せられている場合には,その他に,すでに述べたように,どのような施策を適用すれば,安定した経済状態の実現に関して,よりよい成果を収めることが 出来るかという,面倒な問題がある。
( 3 )
固定為替レート制に固執している場合には,その当然 の結果として,安定した経済状態の実現という達成目標以前に,国際間における資本移動の管6 )
さらに,外貨に関する先物取引が実施せられている場合には,国家間における資本あるいは資金の移 動が,それぞれの国の外貨準備に対して与える影響を,この先物取引によって,相殺することが可能で ある。その反面。このような措置は,金融的な措置がその実現を期待している,短期的な貨幣価値の安 定の度合を低下させるおそれがある。7 )
変動為替レート制のもとでは,当局が,独自の金融的な諸施策を立案・実施することによって,自国 の経済的な諸活動の水準に変動を引起し得る度合は,それぞれの経済社会における,賃銀・物価の非伸 縮性の度合によって相異する。‑ 63‑
理・統制という課題を,金融的な諸施策に対して,自働的に,賦課することになる。その結果,
金融的な諸施策は,第一次的には,安定した経済状態の実現に関して責任を賦課せられるという ことから解放せられると,主張する人々に,力を貸すという結果になる。ところで,金融的な諸 施策に対して,国際間における資本移動を管理・統制することによって国際収支の均衡を実現す るという,新しい達成目標を賦課するということは,金融的な諸施策を,長期にわたって,安定 した金融的な諸環境を整備するという責任から解放すべきであるという主張に力を貸すという結 果になる。これに対して,もしも,金融的な諸施策の立案・実施によって,国際間における資本 移動に管理・統制を加えるということが実施せられていないのであれば,資本移動または貿易収 支の,いずれか一方を管理・統制する作用を示す,他の,何らかの施策を案出す必要がある。し かも,このような効果を発揮する,より直接的な施策としては,外国為替管理政策と貿易管理政 策という,二つの具体的な施策を挙げることが出来る。しかしながら,この二つの具体的な施策 を,それぞれの施策の立案・実施のために払わなければならない努力に対して,充分に,報いる ことが出来るような成果を挙げるように,巧みに運営して行くということは,甚しく,不可能な ことであるか,あるいは,同一の成果を挙げるために金融的な諸施策が適用せられる場合よりも,
より大きな弊害をもたらすと,いうおそれがある。
他方,変動為替レート制のもとでは,国際収支の均衡をはかるという政策上の課題は,理論上 はあり得ない8)。 したがって,代替的な関係にある,上述の三つの条件の間の選択の問題は,厳 密な経済的な配慮に基づいて, もっと,具体的に,考察・検討する必要がある。このような考察 検討の結果として導出される結論は,為替レートの変動は,当該国の経済活動を,世界市場にお ける経済の動向から,ある程度まで,遮断するように作用する自働的な安定要因になるという事 実によって,補強せられている。
m
将 来 の 金 融 政 策 を 支 配 す る と 予 想 せ ら れ る 指 導 原 理われわれは,前節において,中央銀行が計画・実施する金融取引ならびに営業活動の特質,中 央銀行当局やその他の金融当局が立案・実施する金融的な諸施策が,施策の対象となっている,
それぞれの経済社会,ならびに,その内部において営なまれている経済的な諸活動に対して与え る,さまざま影響または効果,および,これらの諸施策の立案・実施を支配する,基本的な諸原 理を考察・検討した。つぎに,これらの具体的な諸施策の実施の対象となっている国々が,固定 為替レート制を採用しているか,変動為替レート制を採用しているかという,外国為替取引に関
8 )
変動為替レート制のもとでは,国際収支の均衡は,外国人による国内資産の取得というような,外生 的で,しかも,自国に取っては望ましくないような,外国の資金の流入によって実現せられるというこ とも考えられる。このような問題を解決するためには,国内の経済単位による貯蓄の増進をはかるとと もに, 自国の経済単位の株式保有額の増進を促すことが必要である。しかしながら,これらの二つの達 成目標は,また,政府財政の黒字の増進を促すと同時に,金融市場における金融取引を緩和することによっても,実現することが出来る。
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金融政策の指導原理と施策の有効性
( I )(尾崎)
する制度上の相異が,当該国の中央銀行あるいは金融当局が立案・実施する金融的な諸施策の実 施効果に対して及ぼす諸影響を考察した。
これに対して,本節では,すでに,序説において掲げた。将来における金融的な諸施策,こと に,中央銀行あるいは金融当局が,自主的に,立案・実施して来ている,いわゆる,間接的な諸 施策(具体的には,金利政策・公開市場政策および支払準備率政策)をめぐる,上掲の三つの条 件を,個別的かつ具体的に,分析・検討することにする。
(1) 金融的な諸施策の立案・実施によって,その実現を期待する経済安定,ことに,貨幣価値 の安定の水準を引下げること。
安定した貨幣価値の水準を実現し,これを維持して行くことを意図して立案・実施せられる諸 施策が,期待しているような成果を,充分に挙げることが出来なかったという事実,および,こ の事実をよりどころにして,これらの諸施策に対して賦課して来た達成目標の水準を引下げる必 要があるという主張が,近年, しばしば,唱えられている。しかも,このような主張には,以下 のような,三つの納得のゆく根拠がある。
a .
多くの近代的な経済社会,あるいは,資本主義国の経済社会は,世界各国の経済的な諸活 動に対して,広く,門戸が開放せられていること,ことに,カナダのような場合には,国内にお いて産出せられる諸資源に対する需要の大きな部分が,合衆国からの需要にとって構成せられて おり,従って,これらの需要の大きさが,合衆国の各種の経済活動の状況の如何によって,不可 避的に,支配せられると,いうことを,まず,認識しておく必要がある。同時に,カナダの経済 発展のために必要な資本の主要な部分も,また,米国の資本市場から供給せられているという実 情にある。その結果,カナダの経済的な諸活動が,合衆国において発生する,経済的な諸事情の 変化に対応して,著しく変動するわけである。したがって,このような事情のもとにおいては,カナダの中央銀行当局は, もっぱら,国内の諸事情だけを基準にして,金融政策やその他の経済 的な諸施策を立案・実施することによって,安定した経済状態を実現することが出来るという可 能性は,著しく,制限せられるということになる。事実,カナダの中央銀行,あるいは,その他 の経済当局は,自国の経済安定を実現することを意図して立案・実施して来た諸施策が,満足の ゆくような成果を挙げることが出来なかったことの主要な原因として,合衆国の経済成長の速度 の低下,および,これと,ほぼ,同じ時期に,合衆国の国際収支が逆調になり,同国の金融当局 が,この逆調を解消するために,対外支出を抑制する,いろいろな努力をして来たということが,
カナダの経済的な諸活動に対して,大きな影響を与えたという事実を,明確に,指摘している。
しかも,このように,外国の経済的な諸活動の変化に由来して惹起せられる,自国経済に対する 擾乱作用を緩和し,相殺する上に有効であると考えられる,適切な施策または措置は,現在まで のところでは,ほとんど,案出されていないと,いうのが実情である。さらに加えて,カナダの 経済的な繁栄と成長とは,世界貿易と国際的な支払機構とに,積極的に参加することによって,
育成せられて来たと,いうのが実情である。したがって,このような国際間の取引に,積極的に,
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参加することの代依として,外国の経済活動に発生する,各種の変化あるいは変動がもたらす諸 影響に,匝接に曝されるということは,カナダの経済が,長年にわたって享受して来た,国際取 引がもたらす恩恵に対して支払わざるを得なかった対価である。
b .
安定した経済状態を, もっぱら,金融的な諸施策の立案・実施のみによって実現するとい うことは,極めて困難なわざである。その上,金融的な諸施策は,その実施の面において,効果 の発現を,著しく向上させるような,新しい工夫が行なわれたということも,これまでのところ では,具体化してはいない。しかも,その実施が実物的な諸活動に対して与える影響または効果 は発散的であり, しかも,これを予測することが困難であると,いう特質を備えている。したが って,金融的な諸施策の立案・実施のみによって,現に発生している経済的な擾乱を, どの程度 まで解消することが出来るかということも,また,不明確である。しかも,これらの諸施策の立 案・実施に関して,近い将来において,どの程度まで改善を加えることが出来るかということも,現情においては,これを予測することが困難である。これに対して,今日までのところでは,経 済理論の大部分は,安定した経済状態を実現するための金融的な諸施策が有効に作用するために,
よりよく理解しておく必要がある,現実の複雑な経済関係を分析し,記述することに終始してい ると,いうのが実情である。したがって,現情においては,われわれが理論的な分析に期待し得 ることは.知識と経験とを蓄積して行くことによって,漸進的に,具体的な施策を改善して行く という範囲を出ることは出来ないであろう。
c .
これまでに立案・実施せられて来た金融的な諸施策によって収められた成果が,決して,満足出来るものではなかったということは.すでに,言及した通りである。しかしながら,この ような,不満足な成果しか挙げることが出来なかったという事実は.ただ単に,制度的な改善を 行なうということだけによって,これを,容易に,矯正することが出来るものではないというこ とを,ここに,記しておく必要がある。これに対して,金融的な諸施策の立案・実施は,従来か ら,世界の各国において,それぞれの国の中央銀行あるいは金融当局が担当して来ており,しか も,これらの機関が担当するのが最も適当なことであると,見なされて来ている。その理由は,
中央銀行あるいは金融当局が,世界の多くの国において,政府当局から.部分的に独立している ということは,これらの機関が,それぞれの国の,国内の各種の金融機関との間に保持している 諸関係の面において,また,それぞれの中央銀行が,外国の金融機関との間において果さなけれ ばならないもろもろの機能を考慮した場合,不可欠な要件であるからである。すなわち,中央 銀行は,金融的な諸施策の立案・実施に関して,最終的な責任を担っている機関であるから,常 に,その業務を能率的に運営して行く上に必要な新知識を探求し,それらの施策を立案・実施し て行く上で,最善の判断を下すと同時に,過去の経験に学ぶために,政府から独立しているとい うことが必要である。しかしながら,中央銀行が立案・実施する,具体的な諸施策の実施対象に なる,それぞれの経済社会の組織が,複雑に入組んだものであり,しかも,それぞれの経済社会 において運営せられている,経済的な諸活動が多種多様であるということ,さらに加えて,各種
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金融政策の指導原理と施策の有効性
C I )C
尾崎)の経済活動に関する,一般の人達の見解が,著しく変化しやすいという特質を備えている上に,
政府当局の権力の行使と責任とが,中央銀行の判断に対して,大きな影響力を持っているという ことは,中央銀行に過誤をおかさせるという結果を招くかも知れない。しかしながら,中央銀行 が,このような過誤をおかすおそれがあるということは,経済的な諸施策の決定を特定機関,も
しくは,特定の人物の判断に委ねるという制度に隋伴して,不可避的に生じて来る欠陥である。
したがって,経済的な判断とその判断に基づく金融取引の運営とを,特定の公的な機関に,集中 的に,委任するという方法によって,経済的な諸活動の運営・管理を改善しようと試みる場合に は,常に,支払わなければならない代償である。これに対して, もしも,これまでに立案・実施 せられて来た金融的な諸施策が,概して,極めて不満足な成果しか挙げることが出来なかったの であれば,重要事項の決定を, もっぱら,責任ある当局に委ねるというやり方によって,金融的 な諸施策の運営・管理の改善を実施しようとすることは,一般の人達が考えているような,大き な成果を挙げることが出来るという可能性は,著しく,限定せられている。
もしも,上述の議論が妥当な議論として認められるならば,過去における不満足な結果に鑑み て,将来においては,一般の人達も,政府当局も,さらに,中央銀行当局も,すべて,金融的な 諸施策の立案・実施によって実現することが出来ると考えられる,経済安定の水準を引下げるこ とが必要になって来る。その結果,これらの当事者達も,金融的な諸施策の立案・実施に対して,
過大な成果を期待したり,過度に重要な役割を賦課すべきではないという結論に到達するように なる。しかも,このような結論の一部は,すでに,カナダの中央銀行法に,実際に,採用せられ ているのである。すなわち,同法の前文において,金融的な諸施策に対して賦課せられる,上述 のような達成目標は,同時に,政府当局が立案・実施する経済的な諸施策の達成目標でもある。
これに対して,中央銀行に与えられている任務は, この逹成目標を,金融的な手段を用いて,可 能な範囲内において実現するように, 日々,金融取引の管理・運営を行なうことである。
その結果,金融的な諸施策の立案・実施によって実現せられる経済安定の水準が,一般に,満 足出来る水準よりも低いものになる。したがって,窮極的に,人々が満足出来るような水準の,
安定した経済状態を実現するためには,さらに,他の,何らかの施策を立案・実施することによ って,賦課せられた目標を,充分に達成する必要がある。ところで,この目標を達成するための 補足的な施策としては,具体的には,つぎの三つのものを考えることが出来る。第一の具体的な 施策は,伝統的な金融的な諸施策に代替するような手段を開発することである。このような特質 を備えた,具体的な手段としては,まず,財政的な手段を挙げるとが出来る。さらに,次節で取 上げるような,選択的で, しかも,直接的な金融統制を挙げておくことも必要である。第二の具 体的な施策としては,不安定な経済状態によって誘発せられる社会的な損失,ならびに,インフ レーションの発生・冗進がひきおこす社会的な被害,および,失業がもたらす社会的損失を相殺 し得るような手段を研究・開発し,さらに,これらの手段を,たえず,改善して行くということ が,必要である。さらに,社会的に見て望ましくないような,不安定な経済状態が, もしも,回
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避することが出来ないような性質のものであるならば,その犠牲になるような経済単位に対して,
より大きな理解を示し,その影響を緩和するような効果を示す,何らかの工夫を行なうことが必 要である。第三の具体的な施策は,経済社会が不安定な経済状態に耐えて,その状態がもたらす 損失が出来るだけ少なくてすむように,それぞれの経済社会が,潜在的に備えている対抗力を強 化するような作用を示す,具体的な施策である。しかも,このような施策の実施効果の強化をは かるためには,経済的な諸活動の管理・統制を強化すること,労働力の移動を,現在よりも,も っと,伸縮的かつ流動的なものにするように,施設および制度の整備を進めることに努力する必 要があるであろう。
( 2 )
貨幣価値安定政策の実施方法の改善今日まで,実際に立案・実施せられて来た貨幣価値安定政策に関して,その改善を論ずるため には,まず,この種の施策が今日までに挙げて来た成果が,われわれにとって,充分に満足出来 るものではなかったということを,指摘しておく必要がある。これに対して,金融当局が,もし も
, これらの施策を,より周到な準備のもとで,より伸縮的に立案・実施したならば,より一層,
効果的な運営・管理を行なうことが出来た筈であるということを,事後的に,主張するだけでは,
不充分である。また,金融当局が,金融的な諸施策の立案・実施に関して,その改善を保証した り,中央銀行が,全般的に, もっと,機敏に対処することが出来, しかも,知的で,伸縮性を備 えている機関になるべきであると,主張するだけでも,まだ,不充分であろう。これに対して,
今日までに立案・実施せられて来た, もろもろの,金融的な諸施策は, もしも,それらを管理・
運営して行く制度あるいは組織が,現実のものとは異なったものあったならば,少なくとも,可 能性としては,回避することが出来たであろうと思われるような誤謬をおかしたという主張は,
全く,論拠のない主張であるとは,いい得ないと,いうのが実情である。
このような議論の一つは,民主的な国家の政策当局が,具体的な諸施策の立案・実施を担当す るかぎり,適用せられる手続が,一般の人達の選好を,正確に,反映していないという理由によ り,あるいは,金融的な諸施策の立案・実施に関して責任を担っている当局者としての,中央銀 行に賦課せられている最終的な責任と,附与せられている権限とが,中央銀行法によって,明確 に規定されていないという理由によって,中央銀行の当局者が,自分自身の好みに従って,また は,時によっては,一般の人達の見解に迎合するというやり方でもって,具体的な諸施策の立 案・実施に当って,特に,インフレーションの発生と尤進を防止することに,過大の力点をおき,
その反面,高水準の雇用の実現と,その維持という,いま一つの,重要な達成目標を軽視する傾 向があると,主張する9)。 これに対して,もしも,金融的な諸施策に賦課せられている達成目標 が,一般の人達の選好に,よりよく,合致しているならば,諸施策の立案・実施は勿論のこと,
実施によって収めることが出来る成果も,また,著しく向上するであろう。
9 )
この議論が妥当なものであるか,否かは,その国の経済学者の多数が,中央銀行当局が立案・実施す る金融的な諸施策に反対し,彼等の見解を,公然と述ぺるかどうかということ,さらに,その結果と ヽ‑ 68‑
金融政策の指導原理と施策の有効性 (I)(尾崎)
このような議論をよりどころにした考え方に従って,結論を導出するならば,その結論は,基 本的には,当然,過去の政策上の失敗は,中央銀行当局が,政府の政策当局とは,異なった見解 を保持していたということ,あるいは,民主的な方法に従って運営せられている政策当局が,一 般の人達の選好に関して,正確かつ確定的な指標を作成することが出来なかったという理由によ
るということを,意味する。
これに対して,過去における失敗が, もしも,中央銀行が,その独立性を過度に堅持していた という事情に由来するのであれば,その対策は,当然,中央銀行の業務の運営を政府当局の管理 のもとにおくように,制度上の改革を実施することであると,いうことになるであろう。この方 向を指向している最少限の改革措置は,中央銀行法を改正して,金融的な諸施策の立案・実施に 関する最終責任は,これを政府当局が担うようにし,中央銀行は,政府当局が立案・実施する金 融的な諸施策の実施についての実務を代行する機関にすると,いうものである。しかしながら,
このような改正は,それ自体では,それほどに顕著な効果を発揮するものではないであろう。何 故ならば,中央銀行法がこのように改正せられた場合でも,中央銀行は,少なくとも,政府当局 が立案・実施する金融的な諸施策が,当該政府の一般的な経済政策の達成目標に合致しているか,
どうかということを確かめる必要があるからである。しかしながら,このことは,政府当局が 金融的な諸施策を立案・実施することによって,追求しようとしている方向を規制することにな るという意味において,金融的を諸施策の立案と実施に関しての,最終的な責任を担うことが出 米るようにするためには,中央銀行と政府当局との関係を,現在よりも,一層,緊密なものにす る必要がある。すなわち,中央銀行は,ただ単に,政府当局が立案・実施する金融的な諸施策の,
一般的な方向を分析・検討し,それらの諸施策の,具体的な,個々の施策に対して附与せられて いる,相対的な優先順位を把振するだけではなく,政府当局が,経済的な諸施策を立案・実施す ることによって,実現する必要があると考えている,具体的な金融的な操作の方向についても,
これを,充分に,常握している必要がある。これに対して,上記の目標を,具体的に,達成する ための公式な方法としては,それぞれの時期において,金融政策が, どのようなものでなければ ならないかということを,大蔵大臣が,中央銀行の当局者に対して,定期的に,伝達するという 方法が挙げられる。もしも,この伝達が,円滑に実施せられないならば,その代案として,中央 銀行の当局者に対して,勧告を行なうことを目的にして,関係各省の代表者を構成員とする委員 会を設置して,中央銀行が担当し,実施している,各種の,具体的な施策に対する政府の正規の 各部局の影響力を強化することをはかることが必要であろう。
これに対して, これまでに立案・実施せられて来た金融的な諸施策が,充分に,所期の成果を 収めることが出来なかった理由が, もしも,民主的な政策当局が一般の人達の選好を明確に把握 し, これを,施策の立案・実施に,迅速に反映することが出来なかったということに由来してい
\して,政府当局が,中央銀行の総裁を更迭せざるを得ないような立場に追いやられるか, どうかに依 存する。