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戦時アメリカの産業動員組織と統制技術 : 第二次 大戦下の考察

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戦時アメリカの産業動員組織と統制技術 : 第二次 大戦下の考察

その他のタイトル Organization and Techniques of War

Mobilization : Experience of the United States during World War II

著者 横田 茂

雑誌名 關西大學商學論集

巻 19

号 3‑4

ページ 554‑579

発行年 1974‑10‑25

URL http://hdl.handle.net/10112/00021136

(2)

328 (554) 

戦時アメリカの産業動員組織と統制技術

—第二次大戦下の考察ー一

第二次大戦下の産業動員体制のなかで開発されたアメリカ合衆国の国民経 済統制技術の性格を考究することは,大戦後今日に至るアメリカ国家独占資 本主義の管理経済技術の解明にとって,重要である。この国民経済統制技術 は,大戦後,アメリカを中心として構築された「集団安全保障機構」を通じ て,他の先進資本主義諸国にも重要な響影力を及ぼすことにより,いっそう 普遍的性格をもっている。

ところで,いうまでもなく,国家独占資本主義の経済管理の不可欠の一主 体は国家である。従って,資本主義国家を主体として遂行される国民経済管 理と経済過程との相互作用を法則的に解明しようとすれば,管理技術がそれ を通じて作用するところの管理機関に働く官僚組織の固有の法則性を無視す ることはできないであろう。

この小論は,以上のような認識のもとに,第二次大戦下のアメリカの産業 動員体制について,経済過程と国家機構の接点である統制機関の動態と統制 技術とのかかわりに焦点をあて,考察する。この作業を通じて,今日の資本 主義的管理経済やその技術の性格,あるいは官僚機構を不断に改変しようと する行政管理技術の性格について,一つの示唆を得たいと思う。なお本稿で は紙幅の関係上,財政金融機構とインフレーション統制技術については除外

(3)

戦時アメリカの産業動員組織と統制技術(横田)

し,ひきつづく次稿に譲ることとした。

(555)  329 

ところで,私は, 1940年から41年末の期間について考察した別稿におい

(1) 

て,合衆国が,日本軍部の真珠湾急襲以前に,すでに巨大な戦時動員の官僚 組織を大統領府のなかに形成していたこと,その法的基礎をあたえたのが 1939年再組織法 (ReorganizationAct)であったことを述べた。

本稿では; 1942129日の対日開戦以後の期間をとりあつかっている。

優先制度の破綻

宣戦の布告は,アメリカ合衆国の産業動員を,急速に総動員体制に移行さ せた。

これを財政面で概観すると,連邦議会は,開戦後の 6カ月に約1,000億ド ル,つづく 4カ月にさらに600億ドルに達する支出を承認した。それによっ て,陸軍は950億ドル,海軍は500億ドル,武器貸与管理局は50億ドル,海事 委員会は35億ドルの莫大な資金を,一括授権の形式で充当された。こうして 予算の事実上無制限のうらづけのもとに,連邦政府の調達諸機関は合衆国の 産業との契約を急速に開始する。

戦時行政機構の面では, 1939年再組織法の規定によって大統領府に形成さ れていた産業動員諸組織が,急速に改変される。それらのうち生産統制機構 の中心に位置した生産管理局と供給優先割当庁は, 421月 , 戦 時 生 産 局 (War Production Board)  に吸収される。新設された戦時生産局は, のような広範,強力な権限を掌握し,第一次大戦下の戦時産業局 (War Industries Board)に匹敵する機関となった (ExecutiveOrder No. 9024)

(1)  戦時調達と生産計画に対する全般的命令を行使する。

(2)  戦時調達と生産計画に関与する連邦各省庁,各機関の,購入・契約・

明細書作成・建設•およびこれらに対する金融などについての政策・計画・

(1) 拙稿「戦時動員機構の能率的管理の論理とその現実的傾向」,島恭彦他編「財 政危機の国際的展開」所収(有斐閣,1974

(4)

330 (556)  戦時アメリカの産業動員組織と統制技術(横田)

手続を決定し,必要かつ適切な指示を発する。

(3)  生産管理局と供給優先割当庁に与えられた権限を実行する。

(4)  1916年国防法の第120節にもとづき大統領に与えられた,戦時下にお いて産業家に強制的優先命令を発令しうる権限を実行する。

(5)  大統領に戦時調達と生産計画の進行状況を常時報告し,かつ大統領の

(2). 

指示を実行する。

供給優先割当庁は,競合する稀少な物資の配分調整組織であり,開戦前にお ける最上級の統制機関であったが,戦時生産局の申請委員会(Requirements Committee)がこの機能をひき継いだ。物資の配分はこの申請委員会で調整

されたのち,産業運営と優先制 (Industrial Operations and Priorities)  を一括して掌握する機関(産業・資材課)を通じて執行されることとなる。

ところで,戦時生産局議長D.ネルソン (D.Nelson)は,これらの機構を 通ずる産業動員の遂行にあたって,その停滞を防止する配慮から;生産管理 局当時の運営方式の多くを継承した。小論のテーマとの関係で重要なのは,

陸,海,財務,農務の各省や海事委員会などが持っていた調達発注権限に手 をふれなかったこと,およぴ陸海軍合同軍需庁に「直接軍需物資」の優先指 定権と調達権を委譲し続けたことであった。・

ところが,一括授権された莫大な資金にうらづけられ調達諸機関がとり結 んだ膨大な契約は,戦時生産力拡充のための主要手段であった優先制度を崩 壊の危機に追いこみ,連邦政府の動員組織そのものが危機に瀕することとな る。以下にその事情を整理してみよう。

第一に,発注契約は合衆国の工業生産能力をこえた。契約は, 42年前半に 1,000億ドルをこえたが,これは過去の最も繁栄した年の総生産額をも凌駕

(5) 

するものであって,生産そのものが不可能であった。

第二に,爆発的な調達競争は,各種の生産計画間のあつれきを生み,調達 (2)  Senate  Document No. 204,  Mobilization  Planning  and  The  National 

Security, 1950,  p.186. 

(3) U.S. Bureau of the Budget,  The United States at War, 1946,  p.113. 

(5)

戦時アメリカの産業動員組織と統制技術(横田) (557) 331  機関相互の衝突をくりひろげた。たとえば,鋼材をめぐる商船,軍艦,上陸 用舟艇,パイプライン,レール,工作機械などの間の,あるいはアルミニウ ムをめぐる海軍と陸軍の間の奪いあいがおこり,発注諸機関はそれぞれ資材 獲得の優先権を主張した。たとえば426月には,陸海軍合同軍需庁の管轄 外に属する調達契約にもとづき,毎週約13万通の優先割当申請書が,戦時生 産局申請委員会に殺到した。これに対抗して陸海軍合同軍需庁は,高度の優 先権を證発し, 「直接的軍需物資」を排他的に確保しようとした。その陸海 軍合同軍需庁の内部ではまた,陸•海軍の競合が海事委員会の要求をおしの、

けた。このため真珠湾事件以来9ヶ月の間に,合衆国の船舶損耗は前年の 3 倍近くに達したにもかかわらず,新造船の引渡しは鋼板の不足から予定を下 廻り,原料,石油その他の物資の海運計画に重大な支障があらわれるほどで あった。こうして激しい調達競争のなかで,軍部によって 優先インフレー ション (priorityinflation) と呼ばれる事態がひきおこされ, 申請委員会 の資材割当調整機能はマヒし,生産計画の均衡は必然的に消滅した。以上の ような各種生産計画間のあつれきや調達諸機関相互の衝突は,宣戦後におこ った原料,エネルギー資源の輸入社絶による戦時産業政策と生産休制の混乱 からもひきおこされた。たとえば,ゴム生産地域への日本の急速な進出によ って生ゴム輸入の90彩以上が杜絶し,また石油クンカーに対する攻撃によっ て東部地域への石油輸送は急減したのである(第1図参照)。

これに対応して合成ゴムやパイプラインの生産体制を確立することがさし迫 った課題となり,資材割当の変更が急激に要求された。しかも合成ゴムの供 給を確保しようとすれば,すでに習慣化している石油やガソリンの大量の国

(4) 

内消費は不可能であり,この分野の生産計画の変更を迫られたのである。調 達機関の衝突の背後にはこのような生産体制の深刻な動揺があった。

第三に,統制機能のマヒは,戦時生産のわけ前をめぐる民間の工場間の競 合によって増幅されたのであるが,この過程で進行した無政府的な産業転換 は,経済機構の内部に深刻な浪費と投機的要素を累積していった。多数の関

(4)  ibid., pp. 113‑114, pp. 155.:.... 156. 

(6)

332 (558)  戦時アメリカの産業動員組織と統制技術(横山)

1図東部諸州への石油輸送

1000パレル 2000 

1日平均

1500 

1000 

500 

1000パレル 2000 

1500 

1000 

500 

1941  1942  1943  1944  1945 

東部諸州とはニューイングランド, ミドルアトランチック,

サウスアトランチック諸州とコロンビア地区を指す。

(出所) U.S.Bureau of the Budget,  The United States at  War,  p.155. 

連工場をもち民需生産に従事していた大工場も,戦時生産局の調達と物資使 用制限が民需生産を厳しく圧迫するにつれて,高い優先順位が得られ,価格 の調整も「ゆるやかで弾力的な」軍需生産に本格的にのり出しはじめた。彼 らは稀少な資材を必要とする以上に多くためこむ「特権」を得るため,優先 的調達権をもつ軍部と結びつこうとして激しくあらそい,軍部もまた,陸,

海軍が自分のなわばりを拡大しようとして,兵器廠や悔軍工廠のほかに思い 思いに民間工場をかこいこんだ。こうして「優先権や割当は ライセンスあ さり 以外のなにものでもなくなってしまった。」その結果,調達契約は大企 業に集中し,戦時生産局は,部品生産に不可欠の存在である小企業の完全利

(5) 

用に失敗したとの非難をあびた。こうして獲得された物資も,より大きな利

(5)  議会の調査によれば, 42年末までに全契約の71が100の大企業に集中したと いう。 (ibid.,p. 114.) 

(7)

戦時アメリカの産業動員組織と統制技術(横田) (559)  333  が見込まれるとみれば,他の目的に転用されたり別の物資と交換されたりし た。機関車工場やトラック工場は,それらが必要となるまさにその時に,戦 車工場や飛行機工場に転換したが,戦時生産局の機関車課やトラック課はこ の事実を知らなかった。一方,多くの不必要な工場の建設,拡張に高い優先 順位が与えられ,国家資金が充当され,物資と労働力がそこに流れこんだ。

こうして資材の奪いあいから, 42年夏,生産統制機構の内部に無政府状態 が拡がり,多くの生産計画のあいだの衝突が深刻化し,生産は低下しはじめ た。陸海軍の軍事計画,輸送計画,武器貸与輸出計画,食糧計画,民需計画 などは,それらの基礎をおびやかされ深刻な混乱におちいった。そしてこの 混乱のなかから急速な物価騰貴が進行しはじめる。

このような事情から戦時生産統制手段の改革は,

4 2

年夏にはさし迫った課

題となったのであるが,その解決をめぐって軍部,民間産業,官僚機構の紛 争が展開されることとなる。かねてから完全な軍事経済統制を主張してきた 軍部は, 「真の国防資材」の生産と調達を混乱におとしいれている「軟弱な 民需 (softcivilian will)」に攻撃を集中し,戦時生産局を統合参謀本部の監 督下におくことを強く要求した。戦時生産局の各組織に「1ドル官僚」とし て浸透した独占資本の代表は,攻撃のほこ先を「ビジネスの実情に無知な政 治家や空想的計画立案官」に向け,民間人による経済管理実務の遂行を主張 した。計画部門の官僚やエコノミストは,各産業部門と結合した個々の産業・

資材課の勝手な政策が, 「戦略にもとづく包括的生産計画」の欠如をもたら したと非難した。戦時国家独占資本主義の生産統制機構のそれぞれの構成要 素の利害を体現する紛争に対して,議会からは,小企業の圧迫,軍部に対す る迎向, 「1ドル官僚」と民間産業の 特殊利益 との結合などによる非能

(6) 

率と産業転換の停滞に対し,非難の声があがった。

この紛争は,戦時生産局企画委員会 (PlanningCommittee)が各種生産 計画の審査と削減 (ProgrammCutback)を開始したときに頂点に達する

(6)  ibid.,  pp.120‑121. 

(8)

334 (560)  戦時アメリカの産業動員組織と統制技術(横田)

が,そのなかで生産統制手段の改革は二つの方向に展開することとなる。一 つは,戦略的資源の生産と分配を一元的に統制する物資別機関を設立する 方向であって,42年半ばから,戦時石油管理官 (Petroleum Administrator  for War),ゴム管理官 (RubberDirector), 固 型 燃 料 管 理 官 (Solid Fuels Administrator),戦時食糧管理官 (War Food Administrator) 設立されてゆく。しかしこうした改組は,既存の統制諸機関に分散している 権限を切りとり単一機関に集中することを必要とするので,官僚組織間の所 管あらそいをひきおこした。たとえば石油の場合,輸送,輸出入,配給,価 格,資材割当などの各分野の統制権をもつ国防輸送局,戦時海運局,経済戦 争局,武器貸与管理局,国務省,物価管理局,戦時生産局は,各々の統制権を 守るために強力な行動を展開した。それは経済統制機構のなかに一層無政府 的な紛争をひきおこしかねなかった。予算局は,動員開始当初から採用され てきた機能別組織 (functional organizations)のうえに物資別・産業別組 (commodityor industry organizations)をもちこみ戦争さなかに基 本的組織形態を急激に変えることは,経済を杜絶させ国全体に重大な悪影響

(7) 

を及ぼすと警告した。こうしてこの改革は中途半端になり,.物資別機関は既 設の機能別機関との多くの調整活動を義務づけられたのである。

第二は,相争う各種の生産計画を削減し,バランスを確立し,戦時生産局 の指揮下に総合的,包括的生産計画と統制手段を制度化する方向であって,

その一歩は「生産要求計画 (ProductionReguirements  Plan)」としてふ み出された。

2図によりその概容をのべるとこうである。戦時生産契約を結んだ各エ 場は,各々 生産日程表 を整え,そのなかに,①生産品目とその優先順位,

R生産に使用する緊急原材料リストとその手持量,⑧その工場から別の工場 に発せられた注文とその優先順位,④近い将来に必要とする原材料その他の 資材の一ヶ月単位の分量,を記入して,四半期毎に戦時生産局の各産業・資

(7)  ibid., pp. 281‑297. 

(9)

戦時アメリカの産業動員組織と統制技術(横田) (561)  335 

2 「生産要求計画」のもとでの生産統制の概容

Iりは契約者 ----c-- —契紺

̲ 0

― . _

0一計画と申請

配分

(出所) U.S.  Bureau of the Budget, ibid.,  p. 309. 

材課に提出する。産業・資材課では,緊急品目毎に総需要を集計し,供給総 量と比較する。この総量はついで申請委員会で検討され,プログラム別に緊 急物資の大まかな割当が決定される。このプログラム別決定を土台として;

緊急物資の各工場別割当が決められ,各産業・資材課を通じて,全工場に割

(8) 

当が執行されてゆく。

この方式は194112月以後,生産管理局のもとで少数の工場で自発的に開 始されたものであるが, 4262日の戦時生産局命令にもとづき公式に制 度化され,同年の第三4半期から約三万の金属工場に強制的に適用された。

しかし「生産要求計画」は,机上のプランとしては一応の体系性を主張しえ たが,実施に移されると多くの困難に直面したのである。最も重要な問題

(8)  ibid.,  pp.119‑120. 

(10)

336 (562)  戦時アメリカの産業動員組織と統制技術(横田)

は,この方式によって,戦時生産局のとくに中央における管理業務が,きわ めて複雑,膨大になったことである。その結果,すでに組織がふくれあが り_膨大な調整業務の重荷をかかえた戦時生産局の内部に,あらたな不生産 的要素が累積する傾向があらわれた。また,緊急資材の分配が 生産日程表 に記入された個々の契約にもとづき決められるというこの方式では,将来,

生産計画を種々の緊急要因にもとづき変更することを妨げる,という批判が おこなわれた。

以上のような生産統制機構の危機を解決するためには,官僚的な生産統制 組織の不生産性をけずり取り,効率的で生産計画の変化に機動的に適応でき る統制手段が必要であった。 「技術上の基本的問題点は,わが国の資源を大 きくわけそれらを種々の目的に割当た決定が,経済組織を通ずる資源の流れ を詳細に統制しかつ生産物を異った目的間に分配するための機構によって,

確実,効果的に実施されるようにすることであった。この点では第一次大戦

(9) 

時の経験は事実上役に立たなかった。…」

この課題は, 429月 , 戦 時 生 産 局 計 画 担 当 副 議 長 (ProgrammVice  Chairman)に就任したF.ェヴァーシュクット (F. Eberstadts)の指揮の

もとに追求されることとなる。

生産統制機構の完成

エヴァーシュクットは, 1111日,以下のような戦時生産局の改組を命じ

(1)  すべての企画と運営の権限を単一の機関に集中する。エヴァーシュク ットは申請委員会の主席事務官に就任すると同時に,産業・資材課を部に昇 格し,彼の直接の指揮下におく。

(2)  以 上 の よ う な 権 限 の 集 中 の う え で , 資 材 部 , 産 業 部 の 機 能 を 明 確 に し,運営部門の強化を図る。すなわち各部には,戦時生産局の名において,

(9)  ibid., p. 382. 

(11)

戦時アメリカの産業動員組織と統制技術(横田) (563)  337  それぞれの産業分野のあらゆる関係を掌握し,需要,増産,割当,分配など の全計画を完遂する第一義的責任を与える。こうして各部を;申請委員会と 計画担当副議長の決定する大まかな割当の枠内で競合する需要を調整し,個 別の割当を行う中心機関とする。これらの機能を効果的に果すために,各部 に申請委員会と同じ形式の小申請委員会 (sub‑requirementscommittee)  を組織し,主要な部には法律専門官,労働顧問,民需専門官,統計官などを 配置する。

(3)  スクラップ,廃物利用,代用化,再分配,在庫調査,備蓄, 資 源 保 存,建設,施設,産業集中,民需などをあつかう特別計画部門の責任範囲を 縮少する。これらの組織の機能は,申請委員会,計画担当副議長,産業部,

資材部を援助するスクッフ機能に限定する。

(4)  戦時生産局の日営常的運営業務は,各部とその小申請委員会に大幅に 委譲する。

「かくして1111日の計画の結果,各産業部は,主要な申請諸機関の代表 を集めた小申請委員会をもつそれぞれの分野における小戦時生産局となり,

最上級の申請委員会が決定する最高政策の枠内で,バランスのとれた計画を

(10) 

遂行するため努力を傾注することとなった。」

このような機構改革を土台として制度化された生産統制手段は「統制物資 計画 (ControlledMaterials Plan)」であった。それは42112日に提出 され,一部は4341日から,全面的には71日から実施され,終戦に 至るまで基本的な生産統制手段となった。

「統制物資計画」においては,銅,アルミニウム,鉄鋼が「基礎的統制物 資」に指定された。銅は弾薬生産の,アルミニウムは航空機の, 鉄 鋼 は 戦 車,銃砲,産業施設,機械などの生産物の,それぞれ基礎資材であった。統 制の基本原理は,これら「統制物資」の生産と分配を完全に統制し,それを

(10)  ibid., p. 306. 

(12)

338 (564)  戦時アメリカの産業動員組織と統制技術(横田)

「舵」として,他の資材,金融,動力,輸送,労働力などに方向づけをあた アメリカの全経済機構を「操縦」しようとするものであった。戦時生産 局のある高官は,民間産業家との会合で次のように比喩的に述べている。す なわち, 「統制物資計画」は,アメリカの産業がその個々の工場の生産を計

. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .  

画化すると同じように大量生産の技術と経験を国全体に適用する。国内のす

. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .  

べての生産的工場があたかも「一つの巨大企業」のようにあつかわれ,国全

. . . . . . . . . . . . . . . . . .  

体が「一個の国立兵器廠」のようになる。こうすることによって,より少い

(11) 

在庫,より速く,計画化された流通から,より大量の生産が可能になる,と。

3図によってその概容をみよう。

3 「統制物資計画」のもとでの生産統制の概容

‑ ‑ ・ ―  

一 ―~

\ 

D D □□ 

(出所) U.S. Bureau of the Budget,  ibid.,  p. 311. 

(11)  L. V. Chandler D. H.  Wallace  Stabilization,  1951,  pp.119‑120. 

(ed.),  Ecnomic  Mobilization  and 

(13)

戦時アメリカの産業動員組織と統制技術(横田) (565) 339  (1)  先ず申請機関(陸軍•海軍・海事委員会・武器貸与管理局・経済戦争 局・民需局など)が,それぞれ必要とする軍需,民需生産物の種類と量をみ つもる。これらの最終生産物計画は,各申請機関の手で「統制物資」の必要 量に還元される。後者は契約者から提出される 物資明細書 の基礎となる。

申請機関は,各自の要求を主要計画別に分割し申請委員会へ提出するのであ るが,それには 1ヶ月単位の生産日程がさしあたりの12ヶ月にわたって組ま れ,さらにひき続く 6ヶ月の総括的要求 (lump‑sumrequirements)が示 されている。申請は, 「統制物資計画・物資表」に記載されている三金属の 特定種類,規格にそって行われ,かつその用途が示される。

(2)  申請委員会に提出された総需要は,戦略計画にもとづきおおまかな プログラム別計画に整理されるが,それらは「統制物資部 (Controlled Materials Divesion)」と呼ばれる銅部,アルミニウム部,鉄鋼部において

「統制物資」の供給可能量と比較される。その作業にあたっては各産業分野 の民間人の援助を得る。こうして需給の一致が図られ,プログラム別要求計 画と産業別生産計画がくまれる。

(3)  決定された「統制物資」の割当業務の執行権は,各申請機関に委任さ

. . . .  

れる。申請機閲は,一括割当された「統制物資」を第一次契約者に再割当す るのであるが,同時にそれ以後の第二次的割当業務の執行をもこの第一次契 約者に委譲する。 「統制物資」はこうして産業組織を通じて分配されてゆく こととなる。

(4)  「統制物資部」は,三つの「統制物資」の需給の一致を図るのみでな く,これらの「物資」の生産と流通を確保する責任を有する。三つの「部」

は,各々指令 (direcitives)を 発 し , 特 定 金 属 工 場 が 毎 月 生 産 す る 「 物 資」の量,規格,形式を指定し,かつその工場に特定された注文量を計画的 に遂行するよう命じる。このような特定金属工場に対する生産「物資」の集 中によって,生産の合理化を促進する。生産者は,それにより平時の供給者 とは遣う特定工場へ発注することを強制される。この方式は,鉄鋼,銅,ァ ルミニウム工場から最高水準の生産を達成するため, 「競争システムを一定

(14)

340 (566)  戦時アメリカの産業動員組織と統制技術(横田)

程度制限する」効果をもたらす。加えて,各「部」は,倉庫における「物 資」の備蓄とその放出に綿密な統制をほどこす。各「部」は,これらのこと を実施するため, 「統制物資」の生産,注文,備蓄についてくわしい情報

(12) 

を,産業から収集する。

さて, 「統制物資計画」は,第一次大戦下に適用された「原始的」な優先 制度に代えて,民間の巨大企業で開発された「洗練された」統制技術を政府 部門に移植し,戦時産業動員の理論と実務に一つの変革をあたえた。たとえ

. . . . . . . . . . . . . .  

ば予算局戦時組織課のW. D.  Carey 「物資を予算に編成する技術が装 筐され,その結果支出が収入を超過することがなくなった(傍点は引用者)」

(15) 

点に,最も注目している。またJ.W. Feslerによれば, 「三つの統制物資 が国内生産を統制する挺となったので,統制物資計画は,経済全体に対する

(14) 

戦時生産局による予算統制の意味をもつようになった」という。すなわち,

戦時国民経済統制技術としての「統制物資計画」の核心は, 「基礎的統制物 資」の配分計画編成権の国家独占とそれらの分配権(機能)の「民間委譲」

(15) 

とを結合することにより,経済機構全体に対する「垂直的統制力」を飛羅的 に強めた点にあった。戦時生産体制の深刻な矛盾の解決をめぐる論争は,こ のような国家独占資本主義の生産統制機能の再編成を結果したのである。

生産統制の実務の面では,戦時生産局の中央における管理業務が簡素化さ れ,分権的管理が前進する。 「このシステムのもとでは,各優先割当は一種

(12)  ibid,  pp.120‑122.  U.S. Bureau of  the Budget,  op.  cit.,  p. 312.  (13)  ・ W. D.  Carey, CentralField Relationships in the War Production Board, 

in  Public Administration Review,  Vol. 4,  1944,  p,37.  (14)  L. V.  Chandler & D. H.  Wallace  (ed.)  op.  cit.,  p.112. 

(15)  16の物資が「その他の統制物資」に指定されたが,結局「統制物資計 画」の詳細な適用を受けなかった。しかし,第一次契約や下位契約者は「物資」

申請表と在庫報告を作成する場合,それらの物資の要求を記入することを義務づ けられ,戦時生産局はこれら稀少物資の分配命令を管理し続けた。

(ibid.,  p.121.  pp.123‑127.) 

(15)

戦時アメリカの産業動員組織と統制技術(横田) (567)  341  の割当クーボンとなり, (物資の)使用者は彼の正当な分前を確保しえた。

……優先制度のパクーンはこうして確固としたものとなり,会計的統制 (accounting controls)が,中央集権的管理 (centrallyexercised dire 

(16) 

ction)の十分な代用手段として機能するようになった。」

周知のとおり, 「統制物資計画」は最新の国家独占資本主義における効率

(17) 

的管理技術の原型として注目されている。しかし,それは生産に対する直接 的な権力的統制と併用されることにより,はじめて有効に機能できたこと も,見落されてはならない点である。この点は「資本の専制的権威」が支配 する民間企業の統制技術が, 「社会的分業の無政府状態」の支配する国民経 済全体に対する統制手段として適用される場合に直面する限界を考えるうえ で重要であろう。以下ではこの点について若干述べておこう。

「統制物資計画」の実施が準備されている間に,合衆国の戦時経済には,

航空機,護衛艦をはじめとするある種の「直接的軍需品」と,部品の欠乏が あらわれ,生産遂行上のあらたな臨路を形成しはじめる。つぎに掲げるよう に,部品の欠乏はとくに複雑な統制上の問題を生み出すこととなる。

「近代戦に必要な最終生産物に入りこむ部品は,精密な機器に用いられる 小さい宝石のベアリングから巨大な鉄の鋳物や鍛造物,小馬力の電気モータ ーから大規模な水カクービンまであらゆる種類にわたる。エンジン,ボン プ,ウインチ,モーター・コントロール,アクセルなどの部品は,またそれ 独自の部品をもっている。したがって,それぞれが計画的に適当量生産され なければならない。さもないと若干の主要な最終生産物は遅れざるを得なく

(18) 

なるのである。」

このような複雑な産業上の関連に織りこまれた部品は,中小工場を含む膨

(16). W. D.  Carey,  op.  cit.,  p. 37. 

(17)  D.  Novick,  M. Anshen,  W. C.  Truppner, Wartime  Production  Controls, 1949.邦語論文としては,林堅太郎,優先制度と戦時統制手段の開 発,京大経済学会,「経済論叢」第1106号,昭和47年12

(18)  War Producion Board,  War Production in 1944, p. 53. 

(16)

342 (568)  戦時アメリカの産業動員組織と統制技術(横田)

大な数の製造所で生産され,しかも個別的優先契約のもとで流通しており,

この分野では無政府的な調達競争が支配していた。 「統制物資計画」は,部 品の使用を最終生産物計画の相対的緊急度に応じて規制する手段ではなく,

従って部品の生産と分配の混乱に起因する戦時生産の濫路を打開しえないこ とは明白であった。そして,ここから軍部による直接的生産統制の要求があ らためて拾頭してくる。

ェヴァーシュタットの計画担当副議長就任と同時に,戦時生産局生産担当 副 議 長 (ProductionVice Chairman)に任命されていた c.w.ウイルソン (C. W. Wilson,ゼネラル・イレクトリック社社長)は,こうした事態のなか で,主要軍需品生産計画に直接的統制を行使する「生産計画化 (Production Scheduling)」を導入する。ウイルソンはそのための機関として,戦時生産

局計画担当副議長,海事委員会副委員長,陸•海軍省代表を生産遂行委員会 (Production Execution Committee)に 組 織 し , 自 ら 委 員 長 に 就 任 す る。これによって,航空機,膜衛艦,無線電信機などの「直接的軍需品」の 生産計画は,ウイルソンにより直轄され,彼の指令は,陸•海軍の供給部門 を通じて遂行されることとなる。

しかしこの結果,戦時生産局の内部には,ウイルソン,ェヴァーシュクッ ト,および軍部の間の軍需生産統制の統轄権をめぐる対立があらたにもちこ まれ,それは「統制物資計画」と「生産計画化」の並行的実施が日程にのぼ るにつれて急速に顕在化する。ネルソンは, 43年 2月,ェヴァーシュクット に 辞 任 を 求 め , あ ら た に ウ イ ル ソ ン を 執 行 担 当 副 誤 長 (ExecutiveVice 

(19) 

Chairman)に任命し,そこに生産統制の全権限を集中した。

さて「統制物資計画」は,ウイルソンのもとで「生産計画化」と併用さ れ,アメリカ経済の軍事的再絹成を急速にすすめた(第4図参照)。この過程 での部品統制の進展をのべると次のとおりであった。まず43226日 の

General Scheduling Order M293により,部品は不足度と必要度とに応じ

(19)  U.S. Bureau of  the Budget,  op.  cit.  pp. 317‑319. 

(17)

戦時アメリカの産業動員組織と統制技術(横田)

4図合衆国の軍需生産

4半期毎の月平均生産高,但し1945年のドル価値に換算>

(569)

10億ドル

30  40  10  20  30  40  10  20  30  40.10  20  30  40  10  20  ‑30  40  10  20  30'4(1 

1940 ―1941—ー1942――1943- ‑1944

― ―

1945

― 

(出所) U.S. Bureau of the  Budget,  ibid.,  p. 819. 

3カテゴリーに分類され,第1表のようにそれぞれの統制方法が定められ た。ついで6月1日にComponentsScheduling. Planが導入される。それ は船舶,戦車,航空機などの軍需品生産に必要なとりわけ逼迫した部品の割 当と流通に, 「統制物資」に対すると同様の強力な「垂直的統制」を導入す るものであった。

こうした部品統制とならんで「生産計画化」は次の二つの方法で遂行され た。すなわち一つは,軍部首脳を生産統制に直接ひき入れ,軍需生産計画の

(18)

344 (570)  戦時アメリカの産業動員組織と統制技術(横田)

1 General Scheduling Order No. 293による部品統制

無指定 最も不足度の低い部品。部品生産者は,生産能力と特定期間における 部品注文の実情を示す報告書を,戦時生産局に提出する。

活動報告とともに部品の分配計画も提出することが義務づけられる。

生産者は戦時生産局の承認する計画に従ってのみ分配しうる。

最も逼迫している部品。この部品を注文する場合,先ず戦時生産局の 承認が必要。戦時生産局は注文工場を指定し,完全な計画的発注を実

施する。

(出所) U.S. Bureau of the Budget,  ibid.,  p. 315により作成。

立案,契約,生産目標を彼ら自身に審査,調整させる方法であり,他の一つ は,主要軍需品生産に関連する工場経営者を生産統制にひき入れ,彼らに最 高度の生産に必要な工場経営における一切の権限を保証するという方法であ

(20) 

った。こうしてウイルソンのもとには,主要軍需品生産を核として軍部と民 間経営者の緊密な結合が形成されてゆく。さらに調達業務を能率化する最も 便宜的な方法として,軍部を中心とする調達機関に,産業界と戦時生産局か

(21) 

ら「腕ききの経験者」が大量に吸収されていった。

労働力配置機構の形成

戦時生産局の組織は,戦時生産中心地域を含む13の地方機関(ボストン,

ニューヨーク,フィラデルフィア,アトランク,シカゴ,カンサスシティ,

ダラス,デンバー,サンフランシスコ,デトロイト,ミネアボリス,シアト

Jレ,クリーヴランド)に分権化され,それらを拠点として輸送系統が再編さ (20)  ibid.,  p. 312. 

(21)  ibid.,  p. 126. 

(19)

戦時アメリカの産業動員組織と統制技術(横田) (571) 345 

(22) 

れた。この機構を通じて誘導される軍事的生産力は,「主要連合諸国の共同 資源をより迅速かつ経済的に利用するための一連の国際協力機関」すなわ ち,軍需品割当会議(Munitions Assignments  Board), 共 同 原 料 会 議 (Combined  Raw Materials  Board), 共同生産・資源会議 (Combined Production  and  Resources  Board),共同食糧会議 (Combined Food  Board),共同海運調整会議 (CombinedShipping Adjustments Board)  を通して,連合諸国の戦時経済機構に決定的影響をおよぼす要因となってい た。そこには第二次大戦後,アメリカ合衆国が国際的にくりひろげる「集団

(23) 

安全保障機構」の原型をなすいくつかの側面をみることができる。

ところで,すでに述べたとおり, 「統制物資計画」は, 「生産計画化」と 併用され,アメリカ経済の軍事的再編成を急速におしすすめた。戦時生産力 の急激な上昇はこうして達成されるのであるが,この過程では「物資」取得 と分配の「特権」をめぐる大工場間の競合が激化し,それを通じてカルテルの 再編,小企業,系列企業の選別がすすんだ。そして「統制物資」や「部品」

の獲得を挺に,その他の資材,金融,動力,輸送などの便宜を優先的に取 得する強固にカルテル化された軍事産業部門が形成される一方, そ の 対 極 には,これらの便宜から相対的に排除された農業や民需産業部門が形成さ れていく。 426月 , 戦 時 生 産 局 の も と に 組 織 さ れ た 戦 時 中 小 工 場 会 社 (Smaller War Plants Corporation)は,中小工場を戦時目的に向けて選

(22)  内陸輸送と倉庫統制は国防輸送局 (Officeof  Defense Transportation)によ って,港湾・配船統制は戦時海運局(WarShipping Administration)によって おこなわれ,両者を有機的に結合する輸送統制委員会(TransportationControl  Committee)が組織された。戦時生産局は,「物資」割当の決定や輸入優先制リ

ストー—ー経済戦争局 (Board of  Econonic Warfare)が復興金融会社の子会社 を使っておこなう戦略物資の開発輸入計画—の策定を通じて,終局的にこれら の活動を統制した。 (ibid.,pp.151161.) 

(23)  拙稿(金田重喜氏と共筆),硯代合衆国財政,「現代財政学体系4[現代国際財 政論]」,所収,有斐閣,(1973

参照

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