アーベル多様体と数論 1
田口 雄一郎
1 アーベル多様体とは
1.1. アーベル多様体とは 楕円曲線の高次元版である。では 楕円曲線 とは?
幾つかの見方がある:
(1) y 2 = x 3 + ax + b (但し右辺の 3 次式は重根を持たない)の形の方程式 で定義される平面曲線。
(2) 複素数体 C 上の楕円曲線は(複素 1 次元の)トーラス(=種数 1 のリー マン面)。
(3) 楕円函数 (℘(z), ℘ ′ (z)) でパラメトライズされる曲線。ここに
℘(z) = ∑
m,n ∈Z
( 1
(z + mω 1 + nω 2 ) 2 − 1 (mω 1 + nω 2 ) 2
) .
(但し ω 1 , ω 2 は 0 でない複素数で、その比 ω 1 /ω 2 が実数でないもの。また、
右辺は全ての整数 m, n に亘る和であるが、(m, n) = (0, 0) のときだけ括弧
内 = 1/z 2 と解釈するものとする。)この函数は微分方程式
℘ ′ (z) 2 = 4℘(z) 3 − g 2 ℘(z) − g 3 を満たす(但し g 2 , g 3 は ω 1 , ω 2 に依存して決まる定数)。
1.2. 形式的定義 . (体上の)アーベル多様体 とは、固有かつ滑らかな群多 様体のこと。
1
これは 2013 年 7 月 28 日(日)の九州大学公開講座「現代数学入門」のための講義資料
です。講義内容に関連する事項を箇条書き的にメモしたものであり、体系的な記述を意図し
たものではありません。
1.3. 何故「アーベル」か? アーベルは(ガウス、ヤコービらとほぼ同時期に)
初めて楕円函数を体系的に研究した。さらに超楕円函数も研究し、これが今 日「アーベル多様体」と呼ばれるタイプの多様体の研究に自然に繋がつた。
1.4. アーベル小伝 ([5], pp. 88–92 よりパクりつつ). ニールス・ヘンリック・
アーベル (Niels Henrik Abel) は 1802 年 8 月 5 日、ノルウェーの寒村フィン ネイに貧乏な牧師の息子として生まれた。性格はとても内向的で、貧乏な出 自も手伝つて処世には失敗の連続。そのためさらに内気に心を閉ざしてしま ふというタイプの人であつたらしい。
アーベルが自身の数学の才能を発見したのは、クリスチャニア(現在のオ スロ)の聖堂学校でベルント・ミカエル・ホルンボエという有能な数学教師 と出会つた事が切掛けである。以来、ホルンボエは自分の学級の生徒が数学 の非凡な才能を持つてゐることを十分に認め、その生徒の方は自身でニュー トンやオイラー、ラグランジュなどの著作を独学した。
18 歳のとき、アーベル一家の経済的支柱であつた父が亡くなり、アーベ ルが代つて家族を養はなければならなくなつた。ホルンボエは経済的支援や 留学のための資金集めに努力した。そしてアーベルが 23 歳のとき長年の努力 が実つて彼は国費留学生としてドイツとフランスに留学できる運びとなる。
最初の留学地はプロイセンの首都ベルリンであつた。アーベルはここで 建築家でベルリン・アカデミーの会員であり、行政とも太いパイプを持つて
ゐた A. L. クレレの庇護を得る。丁度彼は『純粋および応用数学雑誌』とい
ふ、現在でも『クレレ誌』の俗称で有名な数学雑誌を発刊しようとしてゐた ときであり、アーベルはその最初の数巻において数々の論文を発表する好機 を得た。しかし、ベルリンの次に訪れたパリにおいては、アーベルはこれほ どの成功を収めることはできなかつた。
留学を終へてノルウェーに帰つたアーベルを待ち受けてゐたのは、絶望的 な貧困と結核の病魔であつた。ホルンボエをはじめとした彼の理解者たち、
のみならずベルリンのクレレにいたるまで、何とかしてアーベルに相応しい 研究教育職のポストを与えようと必死の努力をする。その努力はつひに結び、
クレレはアーベルのためにベルリン大学の数学教授の椅子を確保する事に成
功した。しかし、もう少しの所でアーベルの病気の進行の方が早かつたので
ある。クレレからの喜びに満ちた手紙がアーベルのもとに届いたのは、アー
ベルが結核のために亡くなつた 1829 年 4 月 6 日の、ほんの二日後のことで
あつた。
2 数論とは
幾つかの典型的な数論の問題や定理を見てみよう。
2.1. フェルマーの最終定理 . n を 3 以上の整数とするとき、
a n + b n = c n を満たす 0 でない整数 a, b, c は存在しない。
• この問題が動機となつて、E. クンマーは「理想数」の概念を導入し、
後にそれは R. デデキントにより「イデアル」の概念に発展した。クン マーは(今日の言葉で言ふと)円分体のイデアル類群を深く研究した。
この方面の現代的な理論として「岩澤理論」がある (cf. e.g. [8])。クン マーは特別の場合にフェルマーの最終定理を証明した。
• K. リベットはフェルマーの最終定理を「谷山志村予想」に帰着した ([10], 1990 年).
• A. ワイルス は(一部 R. テイラーの協力を得て) 「谷山志村予想」の一 部を解決する事によりフェルマーの最終定理を証明した (1995 年, [12]).
読みやすい解説として [6] がある。
2.2. 谷山志村予想. 有理数体上定義された楕円曲線は全て “modular” である。
• “modular” とは「保型形式 (modular form) で統制される」といふ事。
重さ k の 保型形式 f とは上半平面 H = { z ∈ C| Im(z) > 0 } 上の複素 解析的函数 f : H → C であつて変換法則
f
( az + b cz + d
)
= (cz + d) k f(z) (z ∈ H ; a, b, c, d ∈ Z , ad − bc = 1) を満たし、さらにもう少し条件を満たすもの。
• 谷山志村予想はブルイユ、コンラッド、ダイアモンド、テイラーにより 完全に証明された (2001 年)。
• この予想をず〜つと一般化した様な予想として「ラングランズ予想」が
あり、現在盛んに研究されてゐる。
• ラングランズ予想の最も簡単な場合(階数 1 の場合)として古典的な 類体論 がある。これは高木貞治により 1920 年頃一通り完成され、E.
アルティンの相互律 (1927 年) により補完された。
2.3. モーデル-ヴェイユ群. 楕円曲線上の点全体の集合には「加法」が定義 出来、それは「アーベル群」をなす(ポアンカレにより指摘された)。
2.4. モーデルの定理 (1922 年). 有理数体上定義された楕円曲線の有理点全 体のなすアーベル群は有限生成である。
• より一般に、アーベル多様体についても同様である(モーデル-ヴェイ ユの定理)。
2.5. モーデル予想 (ファルティングスの定理 [3], 1983 年). 有理数係数の代数
方程式 f (x, y) = 0 は、 「種数」が 2 以上ならば、有理数解を有限個しか持た
ない。
• この予想は G. ファルティングスにより、アーベル多様体に関する「テ イト予想」及び「シャファレヴィッチ予想」と同時に証明された。
2.6. abc 予想 . 三つの整数 a, b, c に対し N (a, b, c) = ∏
p | abc p (即ち a, b, c の 素因子を全て一回ずつ掛け合せて得られる自然数)とおく。このとき、任意 の実数 ε > 0 に対し或る定数 C > 0 が存在して次が成り立つ:a, b, c が共通 因子を持たず、かつ a + b + c = 0 を満たすならば、
max {| a | , | b | , | c |} < CN (a, b, c) 1+ε .
• 昨 2012 年 8 月末に望月新一氏によりこの予想の証明を含む論文(プレ プリント)が公開された(現在専門家により検証中)。
• abc 予想の「楕円曲線版」で Szpiro 予想なるものがあり、これも上記 の論文で証明されてゐる。
• abc 予想で、上の定数 C を明示出来る版が証明出来ればフェルマーの
最終定理が従ふ。
以下、素数に関するものを幾つか:
2.7. 素数は無限個存在する。
2.8. ディリクレの算術級数定理 (1837 年). a, b が互ひに素な自然数であると き、a + bn (n = 0, 1, 2, · · · ) の形の整数の中には素数が無限個存在する。
2.9. 素数定理 (アダマール、ド・ラ・ヴァレー・プーサン、 1896 年). x 以
下の素数の個数を π(x) と書くと、
π(x) ∼ x
log x as x → ∞ .
• リーマン予想(後に述べる)を認めると、誤差項についてのより詳し い評価が分かる。
2.10. 双子素数問題. 素数の組 (p, p + 2) は無限個存在する。
• 最近この方面で大きい進展があつたといふ噂があるが、少なくともオ リジナル版の予想は未解決の筈。
2.11. シンツェル仮説 . P 1 (x), · · · , P k (x) は整数係数の多項式で、それぞ れ Z [x] に於いて既約であり、かつ最高次の項の係数は > 0 と仮定する。
F (x) = P 1 (x) · · · P k (x) とおき、整数 F (0), F (1), F (2), · · · は共通因子を持た ないと仮定する。このとき、k 個の自然数 P 1 (n), · · · , P k (n) が全て素数とな る様な自然数 n は無限個存在する。
• P 1 (x) = x, P 2 (x) = x + 2 の場合が双子素数問題になる。
2.12. ゴールドバッハ予想 . 4 以上の偶数は二つの奇素数の和として書ける。
2.13. リーマン予想. リーマンのゼータ函数
ζ(s) =
∑ ∞ n=1
1
n s (s ∈ C , Re(s) > 1)
= ∏
p:素数
( 1 − 1
p s ) − 1
(を全複素平面に解析接続したもの)の非自明零点は全て直線 Re(s) = 1/2
上にある。
• これはクレイ数学研究所の「ミレニアム懸賞問題」の一つ:
http://www.claymath.org/millennium/
• これより、 π(x) の “究極的な” 評価 (やや簡略化した版は π(x) = x/ log x+
O( √
x log x)) が従ふ。
• ゼータ函数は色々なもの (e.g. Z 上有限型のスキーム) に対して定義さ れる(リーマンの ζ(s) は Spec( Z ) のゼータ)。
2.14. ヴェイユ予想 (1940 年代). F q により q 個の元を持つ有限体を表す。 F q
上定義された d 次元の固有かつ滑らかな有限型スキーム X に対し
Z X (T ) = exp ( ∞
∑
n=1
N n n T n
)
, N n := #X( F q
n),
とおくと、これは T の有理函数で、
(1) Z X (T ) は
Z X (T ) = L 1 X (T ) · · · L 2d X − 1 (T ) L 0 X (T ) · · · · L 2d X (T ) と分解し、
(2) 各 L k X (T ) は整数係数の多項式であり、
(3) L k X (T ) の根 α は全て | α | = q − k/2 を満たす。
• T = q − s とおくと、 (3) は「函数 L k X (q − s ) の零点は全て直線 Re(s) = k/2 上にある」と言ひ換へられる。
• この予想を解くために A. グロタンディ−クは「エタール・コホモロ ジー」の理論を創始した。Z X (T ) が有理函数になる事は B. ドゥオー クにより証明され (1960 年)、上の (1), (2) はグロタンディ−ク自身に より証明された (1965 年頃)。(3) は P. ドリーニュ ([1], 1974 年, 1980 年) により証明された。
2.15. 佐藤-Tate 予想. ヴェイユ予想の (3) では L k X (T ) の根の絶対値のみ
が問題とされたが、それが分かれば、次にはその偏角が問題となる。有理数
体上の楕円曲線 E に対し、各素数 p ごとに E (mod p) を考へ、これに対す
る上の意味の偏角 θ p を考へられるが、p を動かすとき θ p がどう分布するか を述べたものが佐藤-Tate 予想である。詳しくは [6] 等を参照。有理数体上 の楕円曲線に対する佐藤-Tate 予想は最近テイラーとその協力者達により証 明されたが、他の場合にも佐藤-Tate 予想は考へられる。
2.16. BSD 2 予想. A を有理数体 Q 上のアーベル多様体とし、L(s, A/ Q ) を その L 函数とするとき、
rank Z (A( Q )) = ord s=1 L(s, A/ Q ).
(ここに A( Q ) は A の Q -有理点全体のなすアーベル群である。)
• これもクレイ数学研究所の「ミレニアム懸賞問題」の一つ。
2.17. 局所大域原理. 数学の多くの場面で
(大域) = (局所の貼合せ)
的な現象が見られる。例へば、f (x, y) を整数係数の二変数 d 次斉次多項式 とする:
f(x, y) =
∑ d
i=0
a i x i y d − i , a i ∈ Z .
問. f (x, y ) = 0 が実数解を持ち、かつ全ての素数 p と自然数 n に対して合 同式
f(x, y) ≡ 0 (mod p n ) が解を持てば、方程式 f(x, y) = 0 は整数解を持つか?
• f が二次式なら成立 (cf. e.g. [11]).
• 一般には No. そこで「どのくらい成立に近いか」が問題となり、セル マー群などの研究に繋がつて行く。
2.18. 代数体と函数体の類似. 有理数体 Q と有限素体上の一変数有理函数体
F p (T ), およびそれらの有限次拡大体同士、は「似てゐる」。後者は有限体上 の代数曲線の函数体と思へるから、代数体の理論と有限体上の代数曲線の理
2
二人の数学者 Bryan Birch と Peter Swinnerton-Dyer による。
論とは似てゐる。この類似に導かれ、ヴェイユは彼の予想 (2.14) の定式化に 辿り着いたのであつた。岩澤健吉もまたこの類似に導かれ「岩澤理論」を建 設した。
V. G. ドリンフェルトはこの類似と少し意味合ひの異なる新たな類似を導
入し ([2], 1974 年)、函数体の理論に豊かな実りをもたらした。特に彼は楕円
曲線の類似である「楕円加群」(今日ではドリンフェルト加群と呼ばれる事 が多い)やそのヴァリアントを定義し、函数体上の GL(2) に対するラングラ ンズ予想を証明した。後にこの仕事は一般化され、函数体上の GL(n) に対 するラングランズ予想の解決 (by L. ラフォルグ、2002 年) に繋がつた。
3 大域体と局所体
3.1. 大域体とは、 有理数体 Q , 有限体上の一変数有理函数体 F p (T ), その有 限次拡大、のいづれか。(さらに「高次元」のものを含める事もある。)
3-2. 局所体とは、実数体 R , 複素数体 C , p 進体 Q p (p は素数), 有限素体上 の一変数形式的冪級数体 F p ((T )), その有限次拡大、のいづれか。ここに
Q p “=” { ∑
a n p n | a n = 0, 1, · · · , p − 1, 負冪の項は有限個 } , F p ((T )) = { ∑
a n T n | a n ∈ F p , 負冪の項は有限個 } .
• これらは局所コンパクトかつハウスドルフかつ非離散的な位相体である。
• 局所体 R は大域体 Q を無限素点で局所化して(即ち普通の絶対値 | · | に関して完備化して)得られる。 C はその(唯一の非自明な)有限次 拡大。
• 局所体 Q p は大域体 Q を p で局所化して(即ち p 進絶対値 | · | p に関 して完備化して)得られる。その有限次拡大は無限個ある。
p 進絶対値 . p を素数とする。有理数 x を x = p e a
b (但し e, a, b は整数で、
a, b は p で割れない)と書き、
| x | p = p − e
を x の p 進絶対値 と言ふ。次が成り立つ:
(1) | xy | p = | x | p | y | p . (2) | x | p = 0 ⇐⇒ x = 0,
(3) | x − y | p ≤ max( | x | p , | y | p ) (「超三角不等式」)。
この絶対値 | · | p を使つて、 Q 上に距離を (x と y の距離) = | x − y | p
と定義する。Q をこの距離に関して「完備化」したものが Q p である。
Z p = { x ∈ Q p | | x | p ≤ 1 } を p 進整数環 と呼ぶ。
4 局所体上のアーベル多様体
楕円曲線
E : y 2 = x 3 + ax + b
の係数が p 進数であるとして、E 上の Q p -有理点のなす群 E( Q p ) を考へる。
これは 1 次元 p 進リー群(一般に A が d 次元のアーベル多様体ならば A( Q p ) は d 次元の p 進リー群)であつて、群としては有限生成ではない。しかしそ の捻れ元全体のなす部分群 E( Q p ) tors は有限である。
ところで岩澤理論ではしばしば L = Q p (µ p
∞) (= Q p に 1 の全ての p
冪乗 根を添加して得られる拡大体— これは Q p の無限次拡大である) の上の捻れ 元の有限性が問題となる。これについては「今井の定理」が有名である。そ れを述べる前に「 good reduction 」について:
例 . 楕円曲線 E : y 2 = x 3 + ax + b の判別式 ∆ は
∆ = 4a 3 + 27b 2 で定義される。素数 p について、
p | ∆ ⇐⇒ E (mod p) が特異点を持つ。
一般に Q p (やその代数拡大体)上のアーベル多様体 A に対し、「A
(mod p)」といふ概念と「それが特異点を持つかどうか」が定義出来る。これ
が特異点を持たない時、A は Q p 上 良還元 (good reduction) を持つ と言ふ。
今井の定理 ([4], 1975 年). アーベル多様体 A が Q p 上良還元を持つならば
A(L) tors は有限である。
最近の岩澤理論ではこの L よりも大きい拡大を扱ふ様になつてゐるし、
基礎体も将来はより一般の場合が考察されるであらうから、この定理を一般 化しておく事は有用であらう。実際、最近次の様な一般化が証明された:
定理 ([7], 2013 年). K を完備離散附値体とし、その剰余体は本質的に有限型
と仮定する。M = K (K 1/p
∞) とおく。このとき、K 上のアーベル多様体 A が良還元を持つならば A(M ) tors は有限である。
この定理の証明は主に「ガロア表現」の言葉でなされる。
5 ガロア表現
5.1. ガロア表現とは「ガロア群」の「表現」の事である。ガロア群 とは、体 X のガロア拡大 Y や、代数方程式系 X の解全体の集合 Y 等があつたとき、
「Y の X 上の相対的な対称性」を体現する群である。一般にガロア群は直接 研究するのが容易ではないので、しばしば(線型群などに)「表現」して調 べる。
例. 円 x 2 + y 2 = 1 (又は複素平面内の | z | = 1) の n 等分点全体の集合 { e 2πik/n | k = 0, 1, ..., n − 1 } には有理数体のガロア群 G Q = Gal( Q / Q ) が作 用し、これにより G Q の 1 次元表現(円分指標)が得られる。
同様に、d 次元のアーベル多様体からは自然に 2d 次元のガロア表現が得 られる。例へば d = 1 のときは次の様な感じである:E を有理数体 Q 上の 楕円曲線とし、E 上の幾つか(有限個)の点の集合 Y から出発する (Y に は「無限遠点」も含めておく)。Y の任意の二点 P, Q を取り、それらを通る 直線 (P = Q の場合は P に於ける E の接線) を引くと、E は 3 次曲線だか ら、この直線は E と第三の点 R で交はる。Y にこの R を付け加へて、こ れを新たに Y とする。この操作を繰り返すと、E の部分集合 Y は無限に大 きくなつて行く場合もあれば、(作つた点 R が既に元の Y の中にあつて) そ れ以上大きくならなくなる場合もある。後者の場合、Y はこの操作で閉じた 有限集合となる。このとき Y にはガロア群 G Q が作用し、一つのガロア表 現が出来た事になる。
5.2. ガロア小伝 (詳しくは [5] 等を参照). エヴァリスト・ガロア (Evariste
Galois) は 1811 年 10 月 25 日、パリ近郊の小村ブール・ラ・レーヌに生まれ
た。ガロア一家は私立の寄宿学校を経営してゐた。ナポレオンの学制改革に
よりこの学校は公立学校となり、エヴァリストの父ニコラ=ガブリエル・ガ
ロアは公立化以降もその校長を務めた(後には村長も務めた)。エヴァリス
トは 11 歳までは母親のアデレード=マリに教育され、ラテン語や古典文学に
ついて基本的な知識を一通り身につけてゐた。1823 年、パリの名門リセ(高 等中学校) 「ルイ・ル・グラン」に入学。ルジャンドルの『幾何学原論』を二 日で読了し数学に開眼する。1828 年、29 年と二度エコール・ポリテクニーク を受験して不合格。一度目の不合格の後、ルイ・ル・グランで「特別数学」
を担当するリシャール先生に出会ひ、数学的交流を深める。この頃から代数 方程式の可解性の研究を行ひ、論文をアカデミーに提出したが紛失される。
二度目の受験失敗後、エコール・プレパラトワ−ル(≒エコール・ノルマル)
に入学。在学中、政治的に先鋭化して行く。1831 年 1 月、エコール・ノルマ ルを放校になる。同年 7 月、政治犯として逮捕、投獄される。1832 年 3 月、
仮出所。同年 5 月 30 日の決闘で負傷、腹膜炎を起こし、翌 5 月 31 日死去。
References
[1] P. Deligne, La conjecture de Weil I, II, Publ. Math. IHES 43 (1974), 273–308; Publ. Math. IHES 52 (1980), 137–252
[2] V. G. Drinfel ′ d, Elliptic modules, I, II. Mat. Sb. 94 (1974), 594–627;
Mat. Sb. 102 (1977), 182–194
[3] G. Faltings, Endlichkeitss¨ atze f¨ ur abelsche Variet¨ aten ¨ uber Zahlk¨ orpern, Invent. Math. 73 (1983), 349–366
[4] H. Imai, A remark on the rational points of abelian varieties with values in cyclotomic Z p -extensions, Proc. Japan Acad. 51 (1975), 12–
16 [5] 加藤
ふみはる