「ラムゼールール」と最適税率
藤 本 浩 明
∗
入 江 雅 仁†
Abstract: Ramsey (1927) provides us with a rule for an ad valorem tax rate, say ν. He claims that an optimal tax rate ν
∗should be reciprocally proportional to ( ∝ ) a price elasticity ρ of demand x if we are able to treat a government revenue Γ as an infinitesimal when the government faces not only a quadratic utility function but also a constant marginal cost.
“The Ramsey tax rule” might be expressed as the optimal rate ν
∗∝ 1/ρ as the revenue Γ goes to zero when a demand function is a negatively sloped straight line and a supply function is a horizontal straight line.
Because conditions such as the infinitesimal revenue and straight lines must be harmful for us to put the rule to good use, economists have loosened up those on straight lines and found out another solution for real use. However, no one has yet seemed to investigate on the infinitesimal Γ in terms of minimizing welfare loss or deadweight loss ∆. In this paper, we would like to show with a nonliner inverse demand function of p = φ(x) and a nonlinear supply function of p = f (x) how sufficiently small enough the revenue Γ is in order to establish “the Ramsey tax rule.”
Let τ be a length such that τ = φ(x) − f (x) = νf(x) where φ(x) = (1 + ν)f (x), then an area of a rectangle with a width x and the length τ gives us the revenue Γ = x × τ. From the viewpoint of a dual problem, our solution obtained here connects maximizing the area of the revenue Γ to minimizing that of the loss ∆. Besides, let θ be a quantity tax ratio per one unit, we have θ = τ due to φ(x) = f(x) + θ. So we can robustly apply our solution for the ad valorem tax rate ν to that for a quantity tax ratio θ through the length τ .
∗福岡大学経済学部教授
†福岡大学非常勤講師、九州大学大学院研究生
−3 9 5−
( 1 )
Moreover, it is well known that if a demand function is given as p = 1/x, then its price elasticity is calculated as ρ = 1 at any x > 0. We can now observe that “the Ramsey tax rule” tells us nothing on the optimal rate because of ν
∗∝ 1. The rule has not ever worked for any purpose since Ramsey claimed it in 1927. Mathematically speaking, it is made from an identity that can be derived from a definition of the length τ elasticity η of the width x.
JEL CLASSIFICATION: H21
Keywords: ad valorem tax (
従価税), the Ramsey tax rule (
ラム ゼールール), minimizing the deadweight loss (
死荷重最小化), dual problem (
双対問題), maximizing the government revenue (
税収最大 化), quantity tax (
従量税).
1 はじめに
まず、ラムゼー
[13]
の課税ルールを導出しよう。ある財に対する 従価税(ad valorem tax)
課税問題を考える。その際の従価税率をν
、 その財の需給量x
に対応する価格をp
とおき、需要曲線と供給曲線 とを、それぞれ、逆需要関数p = φ(x)
と供給関数p = f (x)
とで表 す。政府の課税により、課税前の供給曲線p = f (x)
は上方にシフト、課税後の供給曲線
p = (1 + ν)f (x)
となる。つぎに、課税後の均衡価格
p = φ(x) = (1 + ν )f (x)
とその均衡量x
に対応する課税前の供給曲線上の価格p = f(x)
との差τ ≡ p − p
は、τ = φ(x) − f (x) = νf(x)
を満足するので、ある長方形の面積(
縦τ ×
横x)
として表現可能な政府の税収額Γ
は、Γ ≡ τ × x = { φ(x) − f (x) } x
のように計算できる。なお、課税前の均衡価格
φ(x 0 ) = f (x 0 )
時の均衡量をx 0
とおく と、税収面積の定義域は、0 ≤ x ≤ x 0
であり、この両端で、税収 はゼロとなる。なぜなら、均衡量がx = 0
の横幅のとき、縦幅は−3 9 6−
( 2 )
τ = φ(0) − f (0) > 0
、一方、均衡量がx = x 0 > 0
のときは、課税が ゼロで、縦幅はτ = 0
となるから、ともに矩形の面積Γ = 0
を得る。そこで、これら縦
τ
横x
のトレードオフ関係の%
変化、縦幅τ
が1%
長くなれば、横幅x
が、いったいη%
短くなるのかを計るために、弾力性
η ≡ − (d τ /d x)x τ
を導入すれば、縦のτ = φ(x) − f (x) = νf (x)
とその微分から、それは、η = − {φ
(x)−f νf(x)
(x)}x
、そして、νf (x) = η { f (x) − φ (x) } x
のように展開できる。この式の辺々をf (x)
で割っ て、需要の価格弾力性をρ ≡ − φ φ(x)
(x)x
、課税後の均衡量x
に対応する課 税前の供給曲線上の価格p = f (x)
での供給の価格弾力性をε ≡ f f(x)
(x)x
と定義すれば、結局、
ν = η
f (x)x
f (x) − φ (x)x f (x)
= η
f (x)x
f (x) − φ (x)x φ(x)/(1 + ν)
= η
1
f(x)/f (x)x + (1 + ν ) 1
− φ(x)/φ (x)x
= η 1
ε + (1 + ν) 1 ρ
= η 1
ε + 1 ρ
+ ν η
ρ ν = η 1
ε + 1 ρ
1 − η ρ ( ∗ )
を得る。
1
この式( ∗ )
の含意として、ラムゼー[13]
は、パラメータη
が限りなくゼロに近い無限小の場合には、各財の最適な従価税率ν
は、ある需要の価格弾力性ρ
とある供給の価格弾力性ε
との逆数の 和( 1
ε + 1
ρ )
に比例すべきだと解釈する。ラムゼールールという名称でよく知られたこの比例関係
ν ∝ ( 1 ε + 1 ρ )
1最後の式
(∗)
が、ラムゼー[13]p.56
の(11)
式に対応する。なお、彼は原典で 明言していないが、2つの価格弾力性ε
とρ
とは、上記のように、それぞれ、異な る2点p
とp
とで評価されている。「ラムゼールール」と最適税率(藤本・入江) −3 9 7−
( 3 )
には、メリットがあると信じられている。例えば、最適な従価税率
ν
には、課税される商品の価格と需要量に関する陽表的な知識が必要 ないとされている。つまり、我々は、政策的な含意を評価するために は単に、最適な税率に達すべく、印刷された需要の価格弾力性を調 べるだけでよいと信じられている。さらには、価格に対し弾力的な 需要を持つ財に対しては低い税率を、一方、非弾力的な需要を持つ 財には高い税率を課せば、政府の税収は増加するという議論にまで、そのメリット話は及んでいる。
しかし、これらメリット話も無条件と言うわけではない。と言う のも、おもには、以下の3つの仮定をもとに、ルールが提唱された からである:ひとつめは、効用の2次関数の仮定である。よって、逆 需要関数が右下がりの直線となり、需要の価格弾力性
ρ
は中点で値 1をとる;2つめは、限界費用が一定の仮定である。よって、供給関 数が価格軸(p-axis)
のある水準で数量軸(x-axis)
に水平な直線とな り、供給の価格弾力性ε
は無限大(ε → ∞ )
だから、その逆数はゼロ( 1 ε → 0)
のため、ルール式ν ∝ ( 1 ε + 1 ρ )
からその1 ε
の効果を無視でき る;3つめは、社会厚生を最大(
あるいは死荷重を最小)
にするため の税収無限小(Γ → 0)
、すなわち、パラメータ無限小(η → 0)
の仮 定である。提唱以来、この分野では、ダイアモンド[5]
の多人数化モ デルを含め、アトキンソンら[1]
の効用や社会厚生の一般化モデル、ヤンら
[16]
の供給関数の直線だが右上がりモデルなど、最初の2つ に関する仮定を緩和したラムゼールールの一般化が流行しているが、最後の3つめに関する話はほとんど見かけない。そこで、本稿の目 的のひとつとして、パラメータ
η
の値の大小を検討する。ところで、ある財に対する従量税
(quantity tax)
の場合はどうで あろうか。その財1単位に対する従量税の割合をθ
、需給量x
に対応 する価格をp
とおき、需要曲線と供給曲線とを、それぞれ、逆需要 関数p = φ(x)
と供給関数p = f(x)
とする。従量税課税により、課−3 9 8−
( 4 )
税前の供給曲線
p = f (x)
は、課税後の供給曲線p = f (x) + θ
へと 上方にシフトすることが知られている。よって、課税後の均衡価格p = φ(x) = f (x) + θ
とその均衡量x
に対応する課税前の供給曲線上 の価格p = f (x)
との差τ ≡ p − p
は、τ = φ(x) − f (x) = θ
を満足す るので、ある長方形の面積(
縦τ ×
横x)
として表現可能な政府の税 収額Γ
は、ふたたび:Γ ≡ τ × x = { φ(x) − f (x) } x
となる。つまり、従価税と従量税とに関する政府の税収最適化問題は同じ問 題へと帰着する。政府が解かなければならないその問題とは、数学的 に換言するならば、3本の直線や曲線、すなわち、価格軸
(p-axis
:関 数表現は、x = 0)
、逆需要関数p = φ(x)
、および供給関数p = f (x)
によって囲まれた領域において、その境界線上に、4つの端点(
2つ は価格軸、残り2つは、それぞれ、需要曲線上と供給曲線上とに存在 する、計4つの頂点)
をもつ、ある長方形の面積の最適化問題である。したがって、本稿では、そのような政府の税収最適化問題とその 応用問題を数学的に再定式化することによって、従価税と従量税に 関する最適税率を理論的に考察する。次節では、課税によって生じ た死荷重を政府の費用に組み込むことで、市場の歪み
(
死荷重)
を抑 制しながら、最適な税収を確保するような税率を定量的・幾何学的 に考察する。この考察から、最適な税収と死荷重の間にはトレード オフの関係があることを示す。その際、双対問題の観点から、政府 の目的税と弾力性η
との関係も明らかにする。そのうえ、第3節では、完全競争市場から独占市場へと分析を移 動する。これら両極端な市場の問題を定式化することで、今後の基 準となるような最適な従量税および従価税の水準を示す。さらに、外 部不経済が存在する市場における問題とピグー税を考察する。負の 外部性を出す主体から損害を被る主体に対して、政府は、補填分と して、いったいどれだけの税を徴収すればよいのかを示唆する。
そして、最後の節では、結論と今後の課題とを述べる。
「ラムゼールール」と最適税率(藤本・入江) −3 9 9−
( 5 )
2 競争市場での税収最大化問題
この節では、完全競争市場で活動している企業に課税して、最適 な税収
Γ
を得ようとする政府の問題を考察し、政府活動の財源とな る税収を最大にするため、または、ある目的税として、どのくらい の税率を選ぶべきかを理論的に明らかにする。本題に入る前に、前節で述べた従価税
(ad valorem tax)
と従量税(quantity tax)
との議論を整理し、2つの課税問題に関する政府の税収最大化問題が、数学的には、全く同じ面積最大化問題に帰着する ことを述べる。
ある財の需給量
x
に対応する価格をp
とおき、その財に対する従価 税率をν
、その財1単位に対する従量税の割合をθ
とおく。分析をよ り一般的な形で行うために、競争的な市場における逆需要関数φ(x)
と課税前の供給関数f(x)
を、それぞれ、
p = φ(x) p = f (x)
(1)
とあらわす。ただし、逆需要関数φ(x)
と課税前の供給曲線f (x)
は、それぞれ、
φ (x) < 0 ≤ f (x)
およびφ (x) ≤ f (x)
の微分条件を満 たしていると仮定する。まず、従価税問題を考える。政府の従価税課税により、課税前の供 給曲線
p = f (x)
は上方にシフト、課税後にp = (1 + ν)f (x)
となる ので、課税後の均衡点では、
p = φ(x)
p = (1 + ν)f (x) (2)
が成り立つ。課税後の均衡価格
p
は、p = φ(x) = (1 + ν )f (x) (3)
−4 0 0−
( 6 )
で、均衡量
x
に対応する課税前の供給曲線上の価格p = f (x)
との差τ ≡ p − p
は、τ = φ(x) − f (x) = νf (x) (4)
を満足するので、ある長方形の面積
(
縦τ ×
横x)
として表現可能な 税収額Γ
は、Γ ≡ τ × x = { φ(x) − f (x) } x (5)
で与えられる。なお、課税前の均衡価格
φ(x 0 ) = f (x 0 )
をみたす均 衡量をx 0
とおくと、税収面積の定義域は、0 ≤ x ≤ x 0
であり、この 定義域の両端で、税収はゼロとなる。なぜなら、課税後の均衡量がx = 0
のとき、長方形の横幅がx = 0
、一方、均衡量がx = x 0
とい う横幅のときは、課税がゼロ、縦幅がτ = 0
となるので、税収面積Γ = 0
である。つぎは、従量税課税である。その課税により、課税前の供給曲線
p = f (x)
は上方にシフト、課税後にp = f (x) + θ
となるので、課税 後の均衡点では、
p = φ(x) p = f (x) + θ
(6)
が成り立つ。課税後の均衡価格
p
は、p = φ(x) = f (x) + θ (7)
を満たし、この均衡量
x
に対応する課税前の価格p = f(x)
との差τ ≡ p − p
は、τ = φ(x) − f (x) = θ (8)
「ラムゼールール」と最適税率(藤本・入江) −4 0 1−
( 7 )
を満たすから、ある長方形の面積
(
縦τ ×
横x)
として表現可能な税 収額Γ
は、Γ ≡ τ × x = { φ(x) − f (x) } x (9)
のように、式
(5)
と同じになる。2
なぜならば、式(4)
と式(8)
とから、φ(x) = f (x) + τ (10)
なので、課税後の需要者の支払い価格が、課税後の供給者の受け取 り価格に数量1単位あたりの税額を加えたものに等しくなるからで ある。
したがって、従価税と従量税とに関する政府の税収最適化問題は 同じ問題へと帰着する。その問題は、数学的に換言すれば、価格軸
(p-axis
:関数表現は、x = 0)
および式(1)
の逆需要関数p = φ(x)
な らびに供給関数p = f(x)
の計3本の直線や曲線によって囲まれた領 域において、その境界線上に、4つの頂点をもつ、ある長方形の面 積の最適化問題となる。同じ問題へと帰着するものの、両者には相違点がある。それは、政 府の選択変数に関してであり、式
(5)
の選択変数は従価税率ν
、一方、式
(9)
のそれは従量税の割合θ
すなわちτ
である。ところが幸いなこ とには、両者が数学上の矩形面積Γ
の最適化問題へと帰着したため に、縦τ
またはその一部分であるν
を選択変数にしようが、共通な 横x
を選択変数にしようが何ら差し支えがない。これは、連鎖律を 用いて、式(5)
および式(9)
をそれぞれの選択変数に関して微分して みればわかる。まず、式(4)
から、式(5)
は、Γ = τ x = νf (x)x
と変 形できて、そのν
に関する微分2よって、税収面積の定義域も
0 ≤ x ≤ x
0のように同じである。ここで、均衡 量x
0は、課税前の均衡価格φ(x
0) = f(x
0)
をみたすような量である。この定義域 の両端で、税収はゼロである。−4 0 2−
( 8 )
d Γ
d ν = f (x)x + νf (x)x d x
d ν + νf (x) d x d ν
=
f (x)x d ν
d x + νf (x)x + φ(x) − f (x) f (x) f(x)
d x d ν
=
f(x)x { φ (x)f (x) − φ(x)f (x) } f 2 (x)
d x d ν +
φ(x) − f (x)
f (x) f (x)x + τ d x
d ν
=
f 2 (x)φ (x)x − f 2 (x)f (x)x
f 2 (x) + τ
d x d ν
=
{ φ (x) − f (x) } x + τ d x d ν = d Γ
d x × d x
d ν (11)
= d Γ
d x × 1 × d x d ν = d Γ
d x × ( d x d τ × d τ
d x ) × d x d ν
= d Γ d x × d x
d τ × f 2 (x) { φ (x) − f (x) } f 2 (x) × d x
d ν
= d Γ d x × d x
d τ ×
f (x) { φ (x)f (x) − φ(x)f (x) } f 2 (x)
× d x d ν + d Γ
d x × d x d τ ×
φ(x) − f(x) f (x) f (x)
× d x d ν
= d Γ d x × d x
d τ ×
f (x) d ν
d x + νf (x)
× d x d ν
= d Γ d x × d x
d τ ×
f (x) + νf (x) d x d ν
= d Γ d x × d x
d τ × d τ
d ν ( ∗∗ )
を得る。なお、式
( ∗∗ )
の展開は、式(4)τ = νf (x)
の微分d τ d ν = f (x)+
νf (x) d x d ν
による。また、式(4)τ = φ(x) − f (x)
の微分d τ d x = φ (x) − f (x) < 0
と、式(4)ν = φ(x)−f(x) f (x)
の微分d ν d x = φ
(x)f (x)−φ(x)f f
2(x)
(x) < 0
「ラムゼールール」と最適税率(藤本・入江) −4 0 3−
( 9 )
とから、
d τ d ν = d x d τ × d x d ν > 0
である。果たして、このd τ d ν > 0
とd x
d τ = φ
(x)−f 1
(x) < 0
とから、縦τ
の一部分ν
を選択変数とする最適 化問題の必要条件d Γ d ν = 0
は、横x
を選択変数とするそれd Γ
d x = 0 (12)
と同じとなる。一方の式
(9)
のτ
に関する微分は、式(11)
からも明 らかだが、d Γ
d τ = x + τ d x d τ =
d τ d x x + τ
d x d τ
=
{ φ (x) − f (x) } x + τ d x d τ = d Γ
d x × d x d τ
であり、
d x d τ = φ
(x)−f 1
(x) < 0
より、d Γ d τ = 0
からも式(12)
を得るこ とになる。2.1
競争市場での税収と面積最大化問題さて、競争市場における政府の税収
Γ = τ x
の最大化問題は、Maximize
x Γ = { φ(x) − f (x) } x (13)
とおけることがわかった。なお、政府の選択変数
x
は、課税後の数 量である。したがって、式(12)
から、必要条件は、d Γ
d x = { φ (x) − f (x) } x + φ(x) − f (x) = 0 (14)
で与えられる。式(1)
の仮定φ (x) < 0 ≤ f (x)
、φ (x) ≤ f (x)
か ら、十分条件d 2 Γ
d x 2 = { φ (x) − f (x) } x + φ (x) − f (x) + φ (x) − f (x) < 0
−4 0 4−
( 1 0 )
が成立する。したがって、式
(14)
を変数x
について解けば、競争市 場における税収面積を最大にする横幅x
の値、最適数量x ∗ c
を求める ことができる。それを求めた後、税収最大の縦幅τ
の値τ c ∗
、最適な 従量税θ ∗ c
およびその一部である最適な従価税ν c ∗
は、それぞれ、式(8)
ならびに式(14)
および式(4)
から、τ c ∗ = θ ∗ c = φ(x ∗ c ) − f (x ∗ c ) = { f (x ∗ c ) − φ (x ∗ c ) } x ∗ c (15) ν c ∗ = τ c ∗
f (x ∗ c ) (16)
のように決定される。
これまでの一般的な観点からの分析を現実の問題に応用するため に、より具体的な問題の検討に話を移そう。そこで、式
(1)
において、一般的な関数形で表された逆需要関数
φ(x)
と供給関数f (x)
とをと もに、線形
p = φ(x) = α − β x p = f (x) = a + b x
(17)
の形で特定化することによって、具体的な問題を検討するための一 つの指針を示す。ここで、逆需要曲線の切片と傾きを表すパラメー タ
α, β
は、ともに正で、実数のパラメータa(< α)
および正のパラ メータb
は、それぞれ、供給曲線の切片および傾きを表している。この場合、課税後の数量
x
に関する政府の問題は、Maximize
x Γ = τ × x = { (α − β x) − (a + b x) } × x (18)
となるから、必要条件は、d Γ
d x = (α − β x) − (a + b x) − β x − b x = 0 (19)
で与えられ、十分条件もd d x
2Γ
2= − β − b − β − b < 0
と満たされる。「ラムゼールール」と最適税率(藤本・入江) −4 0 5−
( 1 1 )
0
A C
X
x p
p
B
x p
p=φ(x) p=f(x) p=f(x) +τ p=f(x) +θc∗ p= (1 +νc∗)f(x)
x0 x∗c
図
1:
完全競争市場における税収最大化問題上図では、課税前の均衡点が
A
、最大税収を得る均衡点がC
である。競争市場が線形の場合、課税後の最適な数量
x ∗ c
は、式(19)
からx ∗ c = α − a
2 (β + b) (20)
となり、式
(15)
から、最適な従量税の割合θ ∗ c
は、θ ∗ c = { b − ( − β) } α − a
2 (β + b) = α − a
2 (21)
−4 0 6−
( 1 2 )
となり、式
(16)
から最適な従価税率ν c ∗
は、ν c ∗ =
α − a 2
/
a + b α − a 2 (β + b)
= (α − a)(β + b)
2aβ + αb + ab (22)
と計算される。また、政府の得ることのできる最大の税収Γ c ∗
は、式(20)
と式(21)
からΓ c ∗ = (α − a) 2
4(β + b) (23)
である。
最後に、次節以降の問題に対する指針となるであろう税収面積を 最大にするような縦幅
τ
の値τ c ∗
、すなわち、最適な従量税θ ∗ c
の幾何 学的・定量的な点について、言及しておく。競争市場が式(17)
のよ うな線形モデルの場合、この最適な税額θ c ∗
式(21)
の右辺に表れてい るパラメータは、逆需要関数の切片α
と供給関数の切片a
だけなの で、最適な税額θ ∗ c
は、それぞれの関数の傾き( − β)
およびb
とは無 関係に決定される。すなわち、それぞれの傾きを考慮することなく 最適な税額θ ∗ c
が決定できる。また、逆需要関数の切片α
が供給関数 の切片a
よりも上にある通常の場合(α > a)
、政府が、従量税を価格 軸切片の差の半分α−a 2
、縦幅τ
の取りうる範囲0 ≤ τ ≤ α − a
の中 点だけ課すと、最大の税収Γ c ∗
が得られることがわかる。そこでまず、縦幅
τ
が1%
長くなれば、η%
横幅x
が短くなること を計測するために、横幅x
の縦幅τ
弾力性η ≡ − (d τ /d x)x τ
を定義す れば、式(4)
と式(8)
から、η ≡ − τ x (d τ /d x)
= − φ(x) − f (x)
x { φ (x) − f (x) } = φ(x) − f (x)
x { f (x) − φ (x) } (24)
「ラムゼールール」と最適税率(藤本・入江) −4 0 7−
( 1 3 )
を得る。よって、縦幅
τ
がゼロのときは、均衡量x = x 0
の場所で、均衡価格が
φ(x 0 ) = f(x 0 )
をみたすため、式(24)
の分子がゼロで、弾力性
η
の値はη 0 = 0
となるが、他方、税収を最大にするような縦 幅τ = τ c ∗
のときには、式(15)
から、最大税収を与える課税後の均衡 量x = x ∗ c
の場所で、式(24)
の分子と分母が必ずひとしくなるので、弾力性
η
の値はη c ∗ = 1
となることがわかる。ではつぎに、式
(5)
または式(9)
の縦幅τ
に関する微分d Γ
d τ = x + τ d x d τ = x
1 −
− τ x (d τ /d x)
= x(1 − η) ≥ 0 (25)
によって、税収面積の増減を観察すれば、弾力性
η = 1
が成り立つ ときは、式(18)
の直線τ = (α − a) − (β + b)x
の中点τ = α−a 2
であ ることと式(21)
とは一致している。このことは、さらに、式(20)
の 課税後の最適な数量x ∗ c
も課税前(τ = 0)
の均衡量x 0 = α−a β+b
のちょ うど半分となっていることからも見て取れる。ところで、式
(20)
の最適な数量x ∗ c = 2(β+b) α−a
と直線の逆需要関数p = α − βx
の中点x ‡ = 2β α
の差を比較:2β α − 2(β+b) α−a = 2β a > 0
するこ とによって、最適数量x ∗ c
の方が、中点x ‡
よりも、原点側に近いところ に存在することが判明するので、この点の価格弾力性ρ ∗ c = − φ
φ(x (x
∗c∗c)x )
∗cは、
1
よりも常に大(ρ > 1)
であり、弾力的なことも類推できる。つ まり、競争市場が式(17)
のような1財の線形モデルの場合であって も、需要の価格弾力性ρ = − φ φ(x)
(x)x
が弾力的か非弾力的かにかかわら ず、税収が増加する可能性を示すことができるので、冒頭で言及し たラムジールールのメリット話のように、弾力性ρ
値が1より大か 小かでは、最適税率はわかりそうにない。実際、式
(24)
で、式(25)
のd Γ d τ ≥ 0
が成り立つ弾力性η
の範囲を 展開すれば、下限η 0 = 0 < η = φ(x)−f(x)
x {f
(x)−φ
(x)} ≤ 1 = η ∗ c
上限なので、−4 0 8−
( 1 4 )
0 < φ(x) − f (x) ≤ x { f (x) − φ (x) }
= − x φ (x) + x f (x)
f (x) < φ(x) ≤ − x φ (x) + x f (x) + f(x) f (x)
− x φ (x) < φ(x)
− x φ (x) ≤ 1 + x f (x) + f(x)
− x φ (x) (26) f (x 0 )
− x 0 φ (x 0 ) < ρ ≤ − x ∗ c φ (x ∗ c ) + x ∗ c f (x ∗ c ) + f (x ∗ c )
− x ∗ c φ (x ∗ c )
= φ(x ∗ c )
− x ∗ c φ (x ∗ c ) = ρ ∗ c (27)
のように、式(26)
のx f −x φ
(x)+f(x)
(x) > 0
より、需要の価格弾力性ρ =
− φ φ(x)
(x)x
の上限値は1を超えること、式(27)
から、等号は、式(15)
のような最大税収を与える均衡量x = x ∗ c
の価格弾力性ρ ∗ c
のときに 成り立つこと、さらに、同じ式(27)
から、その下限値は、課税前のf (x 0 ) = φ(x 0 )
をみたす均衡量x = x 0
での価格弾力性ρ 0 = −x φ(x
0)
0
φ
(x
0)
のときに成立している。もちろん、下限のその弾力性
ρ 0
も弾力的か 否かは不明であり、市場次第である。2.2
競争市場での死荷重問題従価税または従量税を課した場合、課税による死荷重
(deadweight
loss)
が発生することが知られている。この死荷重の原因は、課税によって、式
(10)
のように、課税後の需要者の支払い価格φ(x)
と課 税後の供給者の受け取り価格f (x)
が乖離するτ
から生じる。そし て、課税後の数量x
は、その乖離によって、式(4)
または式(8)
か ら、課税前の完全競争市場における式(1)
をみたす均衡量x 0
よりも 減少(d x/d τ = 1/ { φ (x) − f (x) } < 0)
していく。より具体的には、「ラムゼールール」と最適税率(藤本・入江) −4 0 9−
( 1 5 )
前節で考察した式
(17)
の線形モデルの場合には、式(20)
の課税後の最適数量
x ∗ c = 2(β+b) α−a
は、課税前の完全競争市場における均衡数量x 0 = α−a β+b
の半分までに減少する。すなわち、これらの結果生じた社 会的利益の減少部分が死荷重と定義できよう。この課税による死荷重は、取引が課税によって歪められた結果生 じる社会的利益の減少部分に対応しているので、できるだけ死荷重 を回避することも必要と思われる。しかしながら、政府活動を維持 するためには、課税を課すことが不可欠である。そこで、本節では、
課税による死荷重を政府の機会費用として計上することで、課税に よって生じた市場の歪み
(
死荷重)
を抑制しながら、最適な税収を確 保する政府の問題を考察する。また、その際の最適な税率を理論的 な観点から明らかにする。では、死荷重
∆
を式(1)
の逆需要関数p = φ(x)
と供給関数p = f (x)
を用いて、数学的に定義すれば、それは、課税後の需要者の支払い 価格と課税後の供給者の受け取り価格との、すなわち、式(4)
もしく は式(8)
または式(10)
の乖離τ = φ(x) − f (x)
部分による、課税前x 0
から課税後への数量x
減少分の積分値が、課税による死荷重∆(
形 は図2の∆ABY
ような三角形とは限らない)
にあたると考えられる から、∆ ≡ x
0x
{ φ(s) − f (s) } d s (28)
を得るので、課税後数量x
に対する政府の問題は、式(5)
または式(9)
のΓ
から、Maximize
x Υ ≡ Γ − ∆
= { φ(x) − f (x) } x − [Φ(x 0 ) − F(x 0 ) − { Φ(x) − F(x) } ]
= { φ(x) − f (x) } x − Φ(x 0 ) + F (x 0 ) + Φ(x) − F (x) (29)
−4 1 0−
( 1 6 )
とおくことができる。ここで、積分部分の
Φ(x)
ならびにF (x)
は、それぞれ、課税後の数量
x
に対応する被積分関数の原始関数のひと つであり、課税前の定数部分Φ(x 0 )
およびF (x 0 )
を有する。原始関 数の微分は、d Φ(x) d x = φ(x)
およびd F(x) d x = f (x)
となり、定数部分の それは、ゼロとなる。したがって、この最適問題に対する必要条件は、
d Υ
d x = { φ (x) − f (x) } x + φ(x) − f (x) + { φ(x) − f (x) }
= 0 (30)
で与えられる。式
(1)
の仮定φ (x) < 0 ≤ f (x)
、φ (x) ≤ f (x)
よ り、十分条件d 2 Υ
d x 2 = { φ (x) − f (x) } x + φ (x) − f (x) + 2 { φ (x) − f (x) }
< 0
が成立する。そこで、式
(30)
を変数x
について解けば、死荷重∆
を 考慮したときの競争市場における税収面積を最大にする横幅x
の値、最適数量
x ∗ d
を求めることができる。それを求めた後に、税収最大の 縦幅τ
の値τ d ∗
、最適な従量税θ ∗ d
およびその一部である最適な従価税ν d ∗
は、式(8)
および式(4)
から、τ d ∗ = θ ∗ d = φ(x ∗ d ) − f (x ∗ d ) = { f (x ∗ d ) − φ (x ∗ d ) } x ∗ d
2 (31)
ν d ∗ = τ d ∗
f (x ∗ d ) (32)
のように計算する。なお、式
(31)
の第2項は、式(30)
の必要条件か ら得られる。3
3式
(24)
で定義された、横幅x
の縦幅τ
弾力性η =
x{φ(x)−ff(x)−φ(x)(x)} の値は、式(31)
から、η
∗d=
12である。したがって、この最適点では、縦幅τ
が1%
長(
短)
く なれば、横幅x
は12%
だけ短(
長)
くなることがわかる。「ラムゼールール」と最適税率(藤本・入江) −4 1 1−
( 1 7 )
さて再び、式
(17)
の線形のモデルを用いて、具体的な検討を重ね よう。課税後の数量x
を選択変数とする、式(29)
の税収面積の最大 化問題は、Maximize
x Υ = Γ − ∆ = { (α − β x) − (a + b x) } x − ∆ (33)
となる。ここで、死荷重∆
は、式(28)
より、∆ = x
0x
{ (α − β s) − (a + b s) } d s = { α x 0 − β 2 (x 0 ) 2 }
− { a x 0 + b
2 (x 0 ) 2 } − (α x − β
2 x 2 ) + (a x + b 2 x 2 )
とおけるから、この微分は、d ∆ d x = − (α − β x) + (a+b x) = −{ φ(x) − f (x) }
の関係をみたす。よって、必要条件は、式(30)
どおりに、d Υ
d x = ( − β − b) x + α − β x − (a + b x)
+ { α − β x − (a + b x) } = 0 (34)
で与えられ、十分条件もd
2Υ
d x
2= − β − b − β − b − β − b < 0
のよう に満たされるから、課税後の最適数量x ∗ d
は、式(34)
を解いて、x ∗ d = 2 (α − a)
3 (β + b) (35)
を得る。このとき、式
(31)
へ式(35)
を代入して、最適な従量税の割 合θ d ∗
が、θ ∗ d = { b − ( − β) } 2 (α − a)
6 (β + b) = α − a
3 (36)
と計算できる。そして、式
(32)
より、最適な従価税率ν d ∗ ν d ∗ =
α − a 3
/
a + b 2(α − a) 3 (β + b)
= (α − a)(β + b)
3aβ + 2αb + ab (37)
−4 1 2−
( 1 8 )
を得る。前節の結果とあわせて作図した図2では、課税前の均衡点 が
A
、最大税収を得る均衡点がC
であり、死荷重を考慮の税収を得 る均衡点がB
となっている。0
A B
C X
Y
x p
p
x p
p=φ(x) p=f(x) p=f(x) +τ p=f(x) +θ∗c
p=f(x) +θd∗ p= (1 +ν∗c)f(x)
p= (1 +νd∗)f(x)
x0 x∗c x∗d
図
2:
完全競争市場で死荷重を考慮した税収最大化問題 どちらの場合も、式(35)
と式(36)
の積から、政府の税収Γ d ∗
は、Γ d ∗ = 2(α − a) 2
9(β + b) (38)
である。以上の結果を踏まえると、式
(17)
の線形モデルの場合には、政府の問題を課税による死荷重を考慮した税収最大化問題に変更し
「ラムゼールール」と最適税率(藤本・入江) −4 1 3−
( 1 9 )
たことで、最適な税率が下がると同時に、その分だけ、課税後の最適 な数量も増加することが明らかになった。よって、それに伴い、課税 によって生じた歪み
(
死荷重)
が改善されることも明らかである。そ の一方で、政府の税収は、減少していることも明らかになった。し たがって、政府の税収と課税によって生じた歪み(
死荷重)
の間には、トレードオフの関係が存在している。
2.3
競争市場での目的税問題政府活動を維持するためには、ある程度の税収入を確保すること が不可欠である。しかし、前節では、課税すれば、死荷重が発生し てしまうことがわかった。また、税収入と死荷重とはトレードオフ の関係にあるから、むやみに税率をあげればよいというわけではな いこともわかった。そこで、本節では、ある税収入
(γ > 0)
の確保を 目的として、最適な税率を考慮する政府の問題を考察する。従価税または従量税を課した場合の税収入は、式
(5)
および式(9)
を用いれば、同じ税収額となるように計算できる。そのときに、税 収額の大小問題は、数学的に言って、ある長方形の面積Γ
の大小問 題に置換できたこと、すなわち、説明変数として、課税後の均衡量x
が長方形の横幅x
に対応している関数Γ = { φ(x) − f (x) } x
のかた ちで表現できたことを思い出そう。すると、その関数のかたちから、横幅がない
x = 0
のとき、明らかに、面積はΓ = 0
となるから、税 収はゼロとなることがわかる。また、課税前の均衡量のとき、つま り、式(1)
において、φ(x 0 ) = f (x 0 )
を満たす、ある横幅x = x 0
の ときは、税率はゼロ、すなわち、式(4)
または式(8)
から長方形の縦 幅τ
がゼロとなるので、面積もやはりΓ = 0
となり、よって、税収 入もゼロとなることもわかる。したがって、定義域
(0 ≤ x ≤ x 0 )
の両端において、税収がゼロと−4 1 4−
( 2 0 )
言うことは、それら説明変数
x
のとりうる定義域内のどこかにおい ては、税収面積Γ
の大小の値(
極大極小値)
を幾何学的な山の高さや 谷底にたとえて言うならば、図3のように、少なくとも山がひとつは 存在することになる。4
図3の各点は、図2の各点、課税前の均衡点0 A
C B
X
Z
Q W
Γ
x
x0 x∗c x∗d
xw x∗zx∗e
γ Γc∗ Γd∗
Γ={φ(x)−f(x)}x
γ1
γ2 γ3
図
3:
定額目的税(γ 2 = γ > 0)
などの税収最大化問題に対応する点が
A
、死荷重考慮の税収均衡点に対応する点がB
、そ4これら山
(
極大値)
の数が、十分条件に関係している。本稿では、式(1)
において、逆需要関数