研究ノー卜
請負のま艮庇責任における給付に代わる
損害賠償額の算定
ドイツ連邦通常裁判所
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日判決の検討を中心に一一
永 岩 慧 子
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はじめに ドイツ連邦通常裁判所(以下, BGHとする。)は, 2018年2月22 日の判決1において,請負の仕事に取庇があった場合に, この暇庇を 現実に除去しない注文者は,給付に代わる損害として仮定的な暇庇除 去費用相当額を賠償請求することができないという判断を示した。従 来の立場を変更した本判決は,学説及び実務に対して,大きなインパ ク卜を与えるものである。ドイツの議論から,給付に代わる損害賠償 として,仕事の取庇自体の損害をどのように把握し, 具体的な算定を 行うのかという問題について,そこにはとりうるいくつかの方法があ ることが明らかとなる。また, BGH 2018年2月22日判決は,取庇 に基づく責任の他の手段である報酬減額権や,注文者による暇庇修補 と費用償還請求権ないし前払請求権との権利相互の位置関係,さらに, 金銭的請求による解決という点で共通するこれらの手段の具体的内容 の相違についても,従来の理解に影響を及ぼしうる。 1 BGH, Urt. v. 22.2.2018 -VII ZR 46/17, BGHZ 218,1=NJW 2018,1463 69翻ってわが国の状況をみると, 2017年に成立した改正前の日本民 法634条は,注文者は暇庇の修補に代えて損害賠償を請求することが できると規定する。他方,民法改正法(以下,単に 「改正法」とする。) は,改正前民法634条を削除し,請負の暇庇担保責任に関して大幅な 変更を行った。これまで請負の箇所に規定されていた,
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修補に代わ る損害賠償」は,改正法においては,I
履行に代わる損害賠償」とし て, 415条の規定が適用されることになる。このような変更が改正前 民法のもとでの解釈にし、かなる影響を及ぼすかが問題となるが,とり わけ,請負の暇庇に対する責任追及をめぐっては,修補に代わる損害 賠償の手段色改正法のもとでもただちに選択可能かという点に大き な関心が寄せられているら この問題は,実務に与える影響の大きさ から慎重な検討を要するが, ここで,I
修補に代わる損害賠償」ない し「履行に代わる損害賠償」とは, 具体的にし、かなる内容のものを指 しているのかという疑問が生ずる。わが国では, !医庇の存在自体に対 する損害の填補と説明される一方で, !民庇修補費用相当額の損害を念 頭に置いた議論がみられるが,この点は必ずしも明確に意識されてい ないように思われる。 本稿は,履行に代わる損害賠償請求権と追完請求権の位置関係をめ ぐる議論を直接に検討するものではないが3,この議論の前提として, 「修補に代わる損害賠償」が把握する損害とは具体的にどのような内 2 山本豊編著 『新注釈民法(14)債権 (7)Jl (有斐閣, 2018年)175頁[笠 井修],森田修 IT債権法改正」の文脈 新旧両規定の架橋のために第35 回第13講相殺・担保的機能を中心に (その3)J法教462号 (2019年) 108頁 =ー枝健治 「請負における契約不適合責任 (ケースで考える債権法 改正)J法教469号 (2019年)96頁以下, 藤主幸治奈 「建築請負契約の解 除と建替費用相当額の損害賠償 (債権法判例の行方 (27)) J法時91巻 12号 (2019年)135頁参照。 3 この問題をめぐり, "1修補に代わる損害賠償」の法的根拠について論じる ものとして,原田剛1
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修補に代わる損害賠償」論序説 民法旧六三四条 削除の意義を混ねてー」 法学新報第126巻3・4号 (2019年)43頁。 70容を指すのか,議論の 「対象」を整理する必要があるのではなし、かと いう問題意識のもとで, ドイツにおける近時の判例の展開を紹介し, わが国の議論への素材を提供しようとするものである。そこで,以下 では, ドイツにおける暇庇に基づく損害賠償の規定及び従来の議論状 況 を 確 認 し (
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,) BGH 2018年 2月 22日判決の内容を整理する (1lI)。結びに代えて,わが国の議論に対してL、かなる視点を与えうる か, 若干の考察を加えたい(
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仕事の暇庇を理由とする損害賠償 1.l
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庇責任における給付に代わる損害賠償 E毘庇責任において問題となる損害賠償には,給付に代わる損害賠償 と,給付とともにする損害賠償があるが,本稿では,給付に代わる損 害賠償を問題とする。 請負の給付にま民庇があった場合,注文者は, ドイツ民法(以下, BGBとする。なお, とくに断らない限り,以下に挙げる条文は, BGBのものとする。)634条 4号, 280条 1項および 3項, 281条 1 項の要件のもとで,請負人に対して,給付に代わる損害賠償を請求す ることができる。このとき,注文者が,追完のための相当期間を設定 し,その期間が効果なく徒過していることが必要である。281条 4項 は,注文者が,給付に代わる損害賠償を請求したとき,履行請求権は 消滅すると規定している。すなわち,履行請求権は,効果のない追完 期間の徒過によってただちに消滅するのではなく,注文者による給付 に代わる損害賠償の主張によって失われる。 給付に代わる損害賠償は,注文者が,仕事を保持したままでする場 合 (t、わゆる小さな損害賠償)と,仕事を保持せずにする場合 (t、わ ゆる大きな損害賠償)に区別される。大きな損害賠償は,解除と同様 の効果を生じさせるため, l院庇が重大なものである場合に制限される。 77したがって,暇庇ある仕事がなされた場合,多くのケースにおいて, 小 さ な 損害賠償が通常とられる手段とされる40 破 庇 あ る 仕事を保持 したままでする,給付に代わる損害賠償については,その算定方法が 重要な問題となる。280条, 281条からは,そこでの損害がどのよう に把握されるのかについて読み取ることはできず,単に,提供された 給付が,契約によって義務付けられた通りではないという義務違反が あった場合に,
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これによって生じた損害」 を賠償請求しうると規定 するにとどまる。 2.損害賠償法の一般規定 損害賠償請求権についての一般規定である 249条から 253条は,損 害がし、かなる原因によって生じたかにかかわらず適用されるため, !毘 庇責任に基づいて賠償されるべき損害についても,これらの規定に従 うことになる。 (1)249条l項による原状回復 249条5は,損害賠償の種類と範囲について規定する。同条l項は, 損害賠償の原則として,原状回復義務を規定する。取 庇責任について は,暇庇のない仕事の製作,すなわち, !医庇除去であり, 635条にお4 Krause-Allenslein in; Kni[[ka, Bauverlragsrechl, Aufl.3, e 636Rn72 5 BGB249条 (損害賠償の種類及び範囲) 72 (1) 損害を賠償する義務を負う者は,賠償を義務づける事情が生じなかっ たならば存在したであろう状態を回復しなければならなL
、
(2) 人に対する侵害又は物に対する損傷によって損害賠償をしなければ ならないときは,債権者は,原状回復に代えて,これに必要な金額を 請求することができる。物に対する損傷については, 第1文にいう必 要な金額には, 実際に発生し,かつ,発生した範囲における売上税を 含む。 なお,条文訳については, 青野博之 「損害賠償金の使途の自由 ド イツ民法第249条第2項第1文に基つく損害賠償 」駒津法曹第8号 (2012年)92頁を参考に作成した。ける追完請求権と一致する60給付に代わる損害賠償が請求される場 面では, 281条 4項によって,履行請求権が排除されることから,原 状回復請求は存在しない。したがって,そこでは,金銭的な補償のみ を求めることができる。 (2) 249条 2項 249条 2項 l文は,原状回復に代えて,それに必要な費用の賠償を 請求しうることを定める。同条同項2文は, 1文の必要な費用には, 実際に発生した範囲の売上税 (Umsatzsteuer)を含むと規定する70 ここで, 249条 2項が予定しているのは,人に対する侵害文は物に対 する損傷である。これらのいずれでもなく, f毘庇そのものを,
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損害」 としてどのように把握するのか,ここでは明らかにならないことが問 題とされる。この点, Krause-Allensteinは,請負契約における給付 に代わる損害 賠償は, 249条 2項が直接問題にするものではないと指 摘する80 (3) 251条9 251条 1項は,原状回復が不可能な場合,文は,債権者の補償のた めに十分ではない場合には,債権者は,金銭による賠償請求をするこ 6 V gl.Halfmeier, BauR 2013, 320(321). 7 249条について詳しくは,青野・前掲 (5)92頁以下。そこで述べられて いるように, 249条 2項2文は, 2002年7月 19日の改正 (2002年8月 1 日施行)によって新設された。 8 V gl.Krause-Allensteinin; Kniffka, Bauvertragsrecht, Auf1.3, ~ 636 Rn78 9 BGB 251条 (期開設定のない金銭による損害賠償) (1) 状態の回復が不可能又は債権者の賠償に対して十分でない限りにお いて,賠償義務を負う者は,債権者に対し,金銭で損害を賠償しなけ ればならない。 (2) 状態の回復が不相当な費用をもってしか可能でないときは,賠償義 務を負う者は,債権者に対し,金銭で損害を賠償することができる。 73とができると規定する。 ドイツにおける損害賠償法は,原状回復に対 する賠償と価値賠償を厳密に区別し,この区別は,損害の算定におい て異なる帰結を有するものであるという九 すなわち, 249条 2項 1 文が,原状回復の特別な方式として,原状回復に要する費用賠償を認 めるのに対して, 251条 1項は,原状回復が不可能,文は,それでは 十分ではないという理由で義務付けられない場合の価値賠償を定めるO そして, 251条 2項は,原状回復自体は義務付けられうるが,過分な 費用を要するときについて,原状回復に代わる価値賠償を規定するも のである。 3. BGH 2018年判決以前の判例の展開 BGHにより, 1毘庇は,それ自体が損害であるとされ, この点につ いて異論はみられなかった110 この損害は,上述した 249条の適用を 受けるが,履行請求権はすでに排除され,金銭による調整のみが問題 となる120 ここでの損害は, 1匝庇があることによる価値減少であると 説明されるが,その算定方法は一つではなく,①取引価値の減少と, ②暇庇除去のための費用の二つが挙げられる九 とくに問題となるの が,暇庇除去費用についてである。 (1)取引価値の減少 市場における取引価値に照らし, 1毘庇がある場合と破戒がない場合 との差 額 を , 損 害 と し て 請 求 し う る と す る も の が あ る (BGH1961 負傷した動物の治療から生じる費用は,それが動物の価値を著しく超 えるときであっても不相当とはいえなL。、 10 Vgl.Voit, NJW 2018, 2166. 11 BGH, Urt.v.27.6.2002-
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ZR 238/01.V gl.Krause-Allenstein in; Kniffka, Bauvertragsrecht, Auf.13, 31636 Rn73.12 Krause-Allenstein in ; Kniffka, Bauvertragsrecht, Auf1.3, 13636 Rn73 13 Krause-Allenstein in; Kniffka, Bauvertragsrecht, Auf.13, 13636 Rn73. 74
年 10月5日判決, 1994年 12月15日判決など)14 0 (2)破庇除去のための費用 E民庇を理由とする価値の減少は,契約通りの仕事の製作のために必 要 不 可 欠 な 費 用 に よ っ て も 算 定 さ れ う る と す る の が , 従 来 の 判 例 の 立 場 で あ っ た (BGH 2003年 3月27日判決, 2003年 4月10日判決, 2005年3月10日判決, 2007年6月28日判決など15)。 こ こ で の 費 用 には, 637条 l項 が 規 定 す る 注 文 者 に よ る 修 補 の 際 に 償 還 さ れ る 費 用 が含まれるが,それに加えて,かつての判例では, f毘庇除去に伴うも のとして,ホテルでの宿泊費lGや,家具を仮置きする費用17についても, それが実際に支出された場合に認めている。なお, f目庇除去の前に, 実際上の費用を根拠とするのではなく,あらかじめの損害の評価のみ で, こ れ を 請 求 し う る と さ れ て い た180 BGHは , こ こ で , 暇 疲 あ る 仕事によって存在する不利益を調整すべきとし,この請求権は, }目庇 のない製作に向けられた履行請求権の位置にあるものとされる。 (3)売 上 税 を め ぐ る 判 例 変 更 初 期 の BGH判 決19は, 実際 に 費 用 を 支 出 し て い な い 注 文 者 に 対 し て , 売 上 税 を 含 め た 損害 賠償を肯定したが,その後, BGHは, 2010 14 BGH, Urしv.15.12.1994-VllZR 246/93;UrLv.5.10.1961 -Vll ZR 146/60 15 BGH, Urt.v.27.3.2003 -vllZR 443/01;Urt.v.1O.4.2003 -vllZR 251/02, NJW-RR 2003, 878; Urt.v.1O.3.2005 -VllZR 321/03, NJW-RR 2005,1039; Urt.v.28.6.2007 -vll ZR 8/06, BGHZ 173, 83=NJW 2007, 2695.なお, 2007 年6月 28日判決については,青野・前掲 (5)102頁において紹介されて いる。 16 BGH Urt.v.10.4.2003-Vll ZR 251/02 17 OLG Celle, Urt.v.29.11.2001 -13U78/01. 18 V gl.Krause-Allenstein in; Kniffka, Bauvertragsrecht, Auf.13, 13636 Rn77. 19 BGH, Urt.v.18.1.1990 -vllZR 171/88. Vgl.Krause-Allenstein in; Kniffka, Bauvertragsrecht, Auf.13, 13636 Rn78. Krause-Allensteinに
年 7月22日の判決吋こより,従来の立場を変更することを示した。な お,売上税の算入について規定する 249条 2項2文は,上述したよう に,請負契約における損害賠償請求について直接には適用されないと するのが一般的な理解である210 しかし, 249条 2項2文を規定した 立法者の趣旨に照らし, 請負契約上の給付に代わる損害賠償の場合に も,注文者に対する補償の過剰性を回避するために,現実に支出され ていない売上税は含まれないと解するのが正当であるとされる九 後 述するように, BGH 2018年 2月22日判決は,この判例変更が示し た解釈の延長線上において生じたものとされる九 (4)損害賠償の使途の自由 まず,損害賠償法一般の原則として,判例及び通説は,物損の場合 の仮定的な修理費用の損害賠償を肯定し,損害賠償金の使用は,賠償 を受けた者の任意の処分に委ねられる九 BGH 2018年判決以前の BGHは,給付に代わる損害賠償として, 仮定の修補費用相当額を算定することを認めており汽 すなわち,注 文者は,賠償された金銭で実際に修補を実行するかどうかについて拘 束されな L、。この点は, 637条が定める注文者による修補とその費用 よると, 249条2項2文は, 1文が規定する賠償についてのみ,その対象と しており,仕事の暇庇を理由とする損害賠償は, 249条2項1文からでは なく,履行請求権の位置に置かれることを理由に義務付けられるとL寸。 20 BGH, Urt.v.22.7.201O -
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ZR 176/09. その後も, BGH, Urt.v.3.12.2013 VIZR 24/13, OLG Hamm, Urt.v.8.3.2012 -24 U 148/10. 21 Vgl.Krause-Allenstein in; Kniffka, Bauvertragsrecht, Auf.13, 3 6136 Rn78 22 V gl.Krause-Al1ensteinin; Kniffka, Bauvertragsrecht, Auf.31, 31636 Rn78 23 V gl.Halfmeier, BauR 2019, 391(391). 24 この点, 青野・前掲注 (5)100頁は,仮定的な修理費用を認めることと 被害者に損害賠償金の使途の自由を認めることは,表裏一体であるとの ドイツの学説を示す。 25 BGH NJW 2007, 2697 76前払請求によって支払われる金銭が,実際に修補に費やされることを 必要とするのとは異なると解されていた。
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学説 仮定的な破庇除去費用による損害賠償の算定が,裁判実務上肯定さ れている中, Halfmeierは, 2013年に公表した論文において,注文 者が暇庇ある仕事の破庇を除去せず,そのままの状態で保持した場合 に,そこでの損害はどのように調整されるのか, !匝庇を除去するため に必要な費用を請求しうると解するのは妥当なのか,という疑問を示 し,この点に関する詳細な検討を行なった九 そして,かつての判例 および多くの支配説が,損害は, !目庇除去に必須の費用によって算定 され,また,それに限定されるとしたのに対し, Halfmeierは,破庇 除去が現実に行われない場合には,その費用についての損害は生じて いないとの見解を示した。Halfmeierの主張に対しては,後に, Weyerによる批判が加えられている。BGH2018年 2月 22日判決は, 判決理由の中で, Halfmeierの見解を引用し,従来の判例とは異なる 立場を採用した。ここでは, Halfmeierの見解と, Weyerの反論を 中心に確認する。 (1)Halfmeierによる研究 Halfmeierは,まず, !毘庇責任規定において,損害の算定方法が明 らかにされないことを確認したうえで,損害賠償に関する一般規定で ある249条から 253条を検討する。 損害賠償の種類と範囲について規定する 249条は, 1項において, 損害賠償の原則として,原状回復義務を掲げる。 Halfmeierは,ここ 26 Halfmeier, BauR 2013, 320. 77での原状回復とは,破庇がない状態、の製作,すなわち,取庇除去を意 味するとして, 635条による追完請求権との一致を指摘する九 これ に対して, 281条 4項が,明文により,損害賠償を請求する限りにお いて,給付についての請求権を除外すると規定していることに注目す る。Halfmeierは, 251条 1項が,製作が可能ではない限りにおいて 債権者が金銭による賠償を請求しうると規定していることについて, ここで問題となっているのは, !目庇除去の不能の場合ではないとした うえで, 281条 4項に由来する法的な根拠によって,注文者と請負人 との関係においては,製作は除外されていると指摘するへ その理由 付けから,給付に代わる損害賠償の場面について, 251条 1項が予定 する,製作が可能ではない場合と同様に考えうるとする。Halfmeier によると, 251条は,原則となる 249条 1項の原状回復である製作請 求権が排除される場合に,その代わりとなる金銭による請求を規定す る受け皿規定であり,ここでの製作請求権の排除には,
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法律上の不 可能」も包摂されるという290 この理解のもとで, Halfmeierは,こ こで賠償されるべき損害は,仮定的な破庇のない状態と,実際に暇庇 のある状態との財産状況の差,すなわち,問題となっている対象物の 客観的な価値の減少であり,これが算定され,補償されるべきである とする九 さらに,財産的損害でない損害を理由に金銭賠償が認めら れるのは,法律に定めがある場合に限られるとする 253条 1項の規定 から,財産上発生していない取庇除去費用は,損害として請求しえな いと述べる。なお, Halfmeierは,自身の主張,つまり, !目庇そのも のの損害が,価値の減少を意味することについて,それ自体一般に争 われているわけではないが,支配的な見解は,それを唯一の算定方法 27 Halfmeier, BauR 2013, 320(321) 28 Halfmeier, BauR 2013, 320(321) 29 Halfmeier, BauR 2013, 320(321) 30 Halfmeier, BauR 2013, 320(322). 78とはせず, 1院庇除去費用についても,これを考慮することを認めるも のであると述べる310 Halfmeierの主張は, 1現疲除去費用について, 注文者がそれを実際に支出していない聞は,暇庇の算定において持ち 出すことはできないとする点で,これまでの判例及び学説における支 配的見解と相違する。 Halfmeierは,判例及び支配的見解は, 249条 1項が規定する損害 賠償の一般規定におけるシステムではなく,請負契約上に特徴的な独 自の損害賠償を認めるものであるとし,そのような取扱いを批判する。 また,仮定的な破庇除去費用の請求は,損害賠償に依拠することなし に, 637条の自力修補の方法で, 1段庇を取り除かせ,その費用を償還 請求することによって正当に達成されるという320 さらに,判例上認 められている,損害賠償法における賠償金の任意の処分については, 249条 2項 1文の人に対する侵害又は物に対する損傷による損害の範 囲で妥当するものであり,義務付けられた給付利益に関する 281条 1 項については,妥当しないという。 以上のように, Halfmeierの主張は,注文者が,実際に破庇除去を 行った場合に,これを損害として請求することを否定するものではな いが,請負契約において当初義務付けられた状態が回復されることな しに,そこでの損害を算定する場合,価値の減少以外からは導かれな いとする。また,支配的見解のもとでも, 1毘庇除去に要する費用によ る損害の算定は,売上税の無考慮、や,不当利得の観点から,過剰な補 償を意味する可能性があることについて認識されているという。これ らは,仮定的な暇庇除去費用による賠償が,正当な損害の調整をなさ ないという理解に起因すると指摘するO 結論において, Halfmeierは, 注文者が, 1目庇除去を断念する場合には,暇庇のない物の価値と, 1医 31 Halfmeier, BauR 2013, 320(322) 32 Halfmeier, BauR 2013, 320(323) 79
庇ある実際の価値との相違を損害として請求することができ,これは, 明らかに暇庇除去費用には一致せず,単に仮定的な破庇除去費用は, このとき賠償されるべき理由のある財産損害を意味しないとする。 (2)Weyerによる批判 Weyerは,上述の Halfmeierの見解を詳細に分析し,検討を加え ているが,それに先立って,次の点を強調する。仮定的な暇庇除去費 用による損害の算定は,とりわけ建築実務の観点から, 二つの理由に より肯定されると述べる。それは,第一に,暇庇ある建築物の価値の 減少の算定は,少なくない困難を伴うものであり,それを回避しうる という点,第二に,暇庇をめぐる争いを終結させうるという点である。 これらの二点において, }毘庇除去費用相当額の損害の算定は, 実務上 利益があるという九 第一の点について, Weyerは,取庇のない状態 の仕事の価値と, 実際に暇庇ある状態の仕事の価値との相違の算定は 困難であり,判例は,この困難性の回避のため, !毘庇のない仕事の価 値を,合意した報酬額に相当するとし,そこから減じられる額を,必 要な暇庇除去費用によって評価することで,算定を簡明にしていると 指摘する九 この算定は, }毘庇除去が不可能である,又は,過度に高 い費用を理由に請負人により拒絶されたときには,問題にならなL、。 Weyerによれば,仮定的な破庇除去費用は,減額の際にも,取引価 値の相違の算定において引き合いに出されるが, Halfmeierは, 一貫 して,暇庇除去費用が費やされていない限り,損害賠償の算定の基礎 とすることを否定しており, 実務上の重要性が欠けていると批判する。 また,第二の点について,これまでの裁判実務上,損害賠償について は,注文者による使途の自由が肯定されてきたのに対して,自力修補 33 Weyer, NZBau 2013, 269 34 Weyer, NZBau 2013, 269(270) 80
についての費用前払いと同様に, 1目庇除去が実際に行われる必要があ るとされた場合には,支払われた金銭の清算について,その破庇除去 費用が必要なものかをめぐり,新たな争いの源が生じうるという九
次に,法の規定に照らし, Halfmeierの主張 に 反 論 を 加 え る。 Weyerは, Halfmeierの見解を次のように整理する。Halfmeierは, ①ここでの金銭による請求権の基礎を, 251条l項に求め,②破庇は すでに損害であるかを問題とする。そして, ③ここで行われるべき金 銭賠償は, 1院庇ある仕事の客観的な価値の減少と同視しうる, ④注文 者の履行利益は, 637条の自力修補で行われるべきである,⑤仮定の 取庇除去費用は, 253条により認められない, ⑥請負人が破庇除去ま でに破産するリスクは,前払いの損害賠償で調整可能である, ⑦支 払 われる損害賠償についての任意の使途の自由は, 281条の範囲では認 められないと解すべき,と主張するものであるという。以上の
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点に ついて, Weyerの見解を簡潔に示すと,次のようになる。 ① 請求 権 の基礎に関する指摘として, 281条4項により, 1院庇のない製作につ いての給付請求権は除外されることになり, 249条1項における原状 回復請求権もまた除外される。すなわち,法的性質上,製作は排除さ れる。このときの損害 賠償の算定として,債務法現代化の立法者は, 281条l項について,給付に代わる損害 賠償として, 1毘庇除去費用に より金銭で調整すべきことを問題もなく認めている九 Halfmeierが, ここでの損害 賠償請求権について, 251条1項を引き合いに出すのに 対して,給付請求権を排除する281条4項による損害賠償について, 249条は効力を持たず, もっぱら,履行請求権の位置に置き換わって 義務付けられるものである。②暇庇そのものが損害かどうかについて は,条文の規定から,給付に代わる損害 賠償請求権は,効果のない追 35 Weyer, NZBau 2013, 269 (270) 36 Weyer, NZBau 2013, 269 (271). Vgl.BT-Drucks.14j6040, 8.140. 87完期間の徒過後,追完請求権と並んで存在し,それゆえ,暇庇そのも のが賠償されるべき損害であると評価しうる。なお,ここにおいても, この金銭による請求をL、かなる方法で算定するかという問題が残され る370 ③損害の算定について, 281条も, 251条l項も沈黙する。そし て,給付に代わる損害賠償が問題となる場面では,請負人は,自身の 追完義務を,そのための猶予期間にもかかわらず実行せず,これによっ て,暇庇除去費用は,注文者の財産上の負担となる。それゆえに, 実 際の暇庇除去前にも,この必要な費用による損害の算定は当然に導か れる。Halfmeierが主張する,債務法現代化による判例法理の変更は, その根拠が明白ではなく,むしろ,上述した債務法現代化の立法者の 見解から,旧法からの判例の立場は維持される目。 ④637条の自力修 補との関係について,損害賠償請求権と自力修補権は, 634条により 相並ぶ権利であり,取庇除去費用の償還が認められないことの理由を 欠く。⑤仮定的な取庇除去費用は, 253条により認められないとする 指摘については, f毘庇がすでに実際上生じた財産損害であることは, Halfmeier自身が認めることであり, 253条l項の非物質的な損害, すなわち,財産損害ではない損害とは異なり,ここでは253条は関連 しない九 ⑥ 請 負人の破産リスクからの保護は, 637条による前払い 請求によって達成しうるとの主張に対して,前払L、と損害賠償は異な るものであり,立法者の意思に合致しなL、。⑦損害賠償の際の注文者 の使途の自由については, Halfmeierが, 249条2項1文に規定され る人身および物的損害と, 281条l項による損害賠償を区別し,後者 については使途の自由を否定することについて,説得性がない。以上 のような反論により, Weyerは, f目庇除去の機会を無駄にした請負 37 Weyer, NZBau 2013, 269(271) 38 Weyer, NZBau 2013, 269 (271) 39 Weyer, NZBau 2013, 269(272). 82
人は,特別に保護されるべきではなく,注文者が, 1目庇除去について 実際に行うことを強制される理由はないとする九 III BGH 2018年2月22日判決 1事案の概要 注文者(原告)らは,建築家(被告)との間で, 4階建ての共同住 宅の屋外設備(バルコニー)の設計及び監理を行う契約を締結した。 また,請負人(被告)に対し,自然石タイルのシーリングの仕事を注 文した(この契約には,建築工事請負規則 (VOBjB)が適用される ことが合意されている)。注文者は,請負人によってなされた仕事を 引取り,最終的な決算額を報酬として支払ったが,その後,このタイ ルに亀裂や塗料と石膏との剥離といった複数の暇庇が現れた。そこで, E毘庇除去費用として, 122.390, 11ユーロを見積もった。 第一審(ドュッセルドルフ地方裁判所2015年1月 30日判決41)に おいて,注文者は, 1段庇の原因が設計ミスにあることを理由に,請負 人に対しては,共同の過失を考慮して, 91.792, 58ユーロとその利 息を, 1毘庇除去のための前払 L、費用として請求した。また,建築家に 対しては, 122.390,11ユーロと利息の損害賠償を請求した。第一審は, 注文者の訴えを認容した。なお,控訴手続きの聞に,注文者はこの建 築物を売却し,さらに,請負人に対して,仮定の暇庇除去費用の75 ノf一セントの額について前払いするよう求めた。 本判決の原審(ドュッセルドルフ上級地方裁判所2017年 1月19日 判決勺 は,第一審の判決について,仮定の破庇除去費用について, 40Weyer, NZBau 2013, 269(273) 41 LG Dusseldorf, Urt. v. 30.1.2015 -100265/09, BeckRS 2015, 123568 42 OLG Dusseldorf, Urt. v.19.1.2017 -1-5U 30/15, BeckRS 2017, 135870. 83
売上税を認めない限りで変更した。これにより,注文者は,請負人に 対して, 77.429, 21ユーロの損害賠償請求を,建築家に対して, 103.238, 95ユーロの損害賠償請求権を有するとされた。 上告審では,注文者が仕事の破庇除去を断念した場合に,損害がど のように算定されるかという点について検討された。 2.本判決の内容 BGHは,以下でみる理由により,仮定的な暇庇除去費用による損 害賠償を認める点で,原審の判断は維持され得ないとし,原告は,自 己の損害について説明しなければならないとして一部破棄・差し戻し た。本判決では,施工者である請負人と設計・監理を依頼された建築 家が被告となっており,建築家の責任及び両者の責任関係も問題とさ れているが,以下では,請負人の責任について,給付に代わる損害賠 償に関わる点を中心にBGH判決の見解を確認することとする九 (1)仮定的な破庇除去費用による損害算定の否定 BGHは,従来の判例の立場は,債務法現代化後に締結される請負 契約では維持されないとして,次のように述べる。 「暇庇除去のため の費用を支出していない注文者は, (仮定にすぎなL、)費用額におけ る財産損害を有さない。その財産は,取庇のない請負人の仕事との比 較において,そのような(仮定の)費用で価値を減少させなL、。注文 者が, 1院庇を取り除かせ,その費用を支出したときに初めて,費やさ れた額における財産損害が存在する
J
(Rn.32) として, Halfmeier の見解を引用する。 本判決は, 1毘庇自体の財産損害を,仮定的な暇庇除去費用によって 43 なお,建築家についても, BGHは,請負人と同様に,仮定の取庇修補費 用による損害の算定を否定している。 84算定することは理由付けられないという。「仕事の破庇は,まず給付 の不足 (Leistungsdefizit)であり,仕事は,義務付けられた給付よ りも劣った状態にとどまる。等価関係 (Aqui valenzver hal tnis)が妨 げられる結果,注文者に生じた財産損害として算定することが事実適 合的であるときも,どのような額において,そのような財産損害が存 在するのか,直接に明らかにはならない。J(Rn.33)"1仮定の暇疲除 去費用による損害の算定は,請負契約法において, ーとりわけ,建築 法において 給付の不足を正当に表現するものではない。むしろ,し ばしば,過剰な補償を導き,また,それとともに,一般の損害賠償法 上の原則により,正当化されない注文者の利得 (Bereicherung)を 導く。すなわち, (仮定の)暇庇除去の費用は,いくつかの事情,例 えば,仕事の種類,暇庇除去の方法,暇庇除去におけるその他の専門 家の参入の必要などに依存し,また, 当事者が破庇のない仕事に期待 して合意した報酬を, (例外的な場合にのみではなく)明らかに超過 する。したがって,破庇除去なしに,注文者に残される給付の不足と, これによって生じる等価性の妨げを,それによって決定することは, 適当ではない。
J(
Rn.34)1"第7民事部は,過剰な補償の観点につい て,すでに, 2010年7月22日判決 (BGHZ186, 330= NJW 2010, 3085 Rn. 14 f.)において,また, 2015年3月11日判決 (NJW2015, 1875= BauR 2015, 1321 Rn. 5)により指摘し,また,それについて の考慮、のもと,賠償義務を,少なくとも売上税の額を, 実行されない 暇庇除去を理由にそれが生じないときに,否定した。J(
Rn.35) 1"… これは,注文者の給付利益を保護し,また,不履行の際の調整を, 目! 庇除去が実行されるかどうかについて向かわせる, 634条の規定の趣 旨に一致する。それにより,正当ではない任意の処分に帰する仮定の 費用の賠償は,除外される。J
(Rn.36) 以上の解釈は, VOB/B契約においても有効であるとされ,暇庇 責任について定める VOB/B13条の規定の趣旨からも,仮定的な暇 85庇除去費用の賠償は否定されるという九 (2) 破庇を取り除かない場合の損害の算定 注文者が暇庇を取り除かない場合には,どのように損害を算定する のかについて,
BGH
は,請負契約上の等価関係の妨げから導き出さ れるとする九 このとき存在する財産損害は,注文者の給付利益に向 けられる九 具体的には, 1634条により破庇ある仕事を保持しようと する注文者の侵害された給付利益の調整は,注文者が, 1民庇を取り除 かせるか否かによって方向付けられる結果となる。注文者が, 1毘疲除 去を予定しないとき, 634条3号,638条により,侵害された給付利 益の調整として,報酬を減額することができる。この評価は,損害の 算定の際に,給付に代わる損害賠償の範囲において, 634条4号, 280 条, 281条による小さな損害賠償の形式において考慮される。そこで, 注文者は,一過失の必要性において厳格な要件を必要とする 損害賠 償請求権の方法により, 634条3号による減額権の主張の場合よりも 後退した状況に置かれることはない。J
(Rn.40)1その理由で,損害 は, 634条3号, 638条の依拠において,仕事について合意した報酬 から, (取り除かれなL、)暇庇を理由とする仕事の減少した価値を評 価するという方法で算定される。それにより,仕事の暇庇を理由に生 じた,等価関係の妨げが基準となる。請負契約により, (暇疲のない) 仕事の提供された評価の当事者の表明に関して,報酬額によって,完 全な(暇庇のなし、)反対給付に戻すことが,等価関係の妨げの結果, 注文者に生じた財産損害として判断されることが正当化される。」 (Rn.4l) 44 NJW 2018.1463 Rn.37 45 NJW 2018.1463 Rn.38 46 NJW 2018, 1463 Rn.39. 86なお,注文者が,仕事の目的物を, 1民庇除去を行うことなく売却し たときは, 1院庇がなかった場合の仕事の仮定的な価値と,支払われた 売買価格との相違から,注文者は,取庇を理由とする具体的な価値の 喪失を算定することができる。仕事の売却の際に,注文者が, 実際上 の仕事の価値よりも高い価格でこれを売却したときは, 具体的に減じ られた価格の減少に限定されるのではなく,より高い価値減少分を損 害として請求しうる。反対に, 売却価格が実際の仕事の価値を下回る ものであった場合に生じる具体的な減価分については,注文者の義務 (オプリーゲンハイト)違反があるとされる限りで,損害として請求 できない。 (3) 注文者による取庇除去との関係 BGHは,注文者が,給付に代わる損害賠償を,小さな損害賠償と して請求したとき, 281条4項は,履行請求権を消滅させるが,注文 者自身による暇庇修補及びその費用償還請求権を排除しないとする (Rn.49)。そこから,給付に代わる損害賠償を小さな損害賠償として 請求した注文者にも,なお
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条に基づく自力修補権を行使する可能 性が残される九 (4) 本判決の整理 以上のように, BGHは,請負の仕事に破庇があった場合の注文者 の責任追求手段として,仕事を保持してする損害賠償(小さな損害賠 償)の範囲において, 実際に暇庇を取り除かない限り,そこでの損害 賠償額を, 1院庇除去費用によって算定することはできないとした。そ の根拠において, BGHは,請負契約,とりわけ,建築契約における 47 なお, Voitは,この結論自体については同意しているが,理論上の脆さ を指摘している。NJW2018, 2166(2168). 87「給付の不足」は,仮定の暇庇除去費用では正当に算定されないこと を強調する。この方法は, しばしば,注文者への過剰な補償ないし不 当利得を導くとして,これを問題とする。また, !毘庇除去のために必 要な費用は,通常の場合に,当事者が合意した報酬を超えることから, 等価性のバランスに生じた不均衡が,暇庇除去費用によって算定され ることは適切ではないとする。 なお,仕事について暇庇を理由に生じた 「価値の減少」は,要する に,減額と同様に評価される。ここで, !院庇の減少の評価方法として 仮定的な破庇除去費用を持ち出すことは,やはり適当ではないとされる。
BGH
が従米の立場を変更したことについて, 249条 2項2文の趣 旨が重要な意味をもっ。E院庇責任における給付に代わる損害賠償は, 直接にこの規定の適用を受けるわけではないが,当該規定が,実際に 支払われていない,いわば架空の金銭を損害から除外し,過剰な補償 を回避しようとする意図に照らし,本判決で示したような帰結を得る。 他方で,以下に示す学説の反応においても問題とされているように, 本判決は,ここでの解釈は,請負契約,とりわけ,建築契約の特殊性 から導かれることを強調する。BGH
判決が基礎とするこれら二つの 点は,この判決による解釈の射程がどこまで及ぶのかについて読み取 りにくい状況を生じさせている。 3.学説の反応 (1)本判決の意義BGH 2
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年判決は,請負契約の暇庇責任に基づく給付に代わる 損害賠償の算定について,暇庇を除去しないままにする注文者は,暇 庇除去費用を仮定的に算出し,賠償請求をすることができないことを 明らかにした点で,大きなインパクトをもって受け止められている480 48 V gl.Looschelders, J A 2018, 627(630). Stefan Reichert, BauR 2019, 1 88Voit は, 2018年の判例変更は, 事実に即した公平な賠償を導くと して評価する九 他方,以下に挙げるように, BGH判決が示した立 場には困難な点も指摘されている。また, 実務に対する影響として, 今後においては, 費用前払い請求権が,より注視されるであろうこと が示唆される九 (2) 破庇による価値減少分の算定方法 Thodeは, BGHの判断により, !毘庇除去をしなかった注文者は, 暇庇のない物の仮の価値と,破庇ある物の価値との対比を前提とする 損害の算定につき,困難な状況に置かれることを指摘する九 それゆ え,この方法による損害の算定は,注文者に対してより多くのリスク を与えるものであるという。この点は,すでにWeyerが, Halfmeier への批判において指摘していた問題である。反対に, Voitは,この ような価値減少の算定は,全く未知のものではないとする九 なお, BGHは,仕事の目的物がすでに売却された場合について, 価値の減少分は, 売却時に引き下げられた売買価格に具体化されると する。この点, Voit は,仕事の目的物の売却に際する価格の引き下 げにおいて, しばしば暇庇を取り除く際の費用が問題となることを指 摘したうえで, BGH 2018年判決は,このような算定方法を取らず, 具体的な財産損害をもとにした評価を要求するものであるという九 (3) 本判決の射程 売買との関係 売買の場合における損害算定に及ぶかについて議論される九 この 49 Voit, NJW 2018, 2166 (2167) 50 Voit, NJW 2018, 2166 (2168)
51 Thode, jurisPR-PrivBauR 6/2018Anm.1, 8.7 52 Voit, NJW 2018, 2166 (2167)
53 Voit, NJW 2018, 2166 (2167)
54 Deppenkemperは, BGHが, 249条以下の新たな評価が売買法にも通用
点について,本判決による判例変更が請負契約,とりわけ,建築契約 の特殊性によるものと理解する見解に立ては, 売買のかつての判例の 立 場 に 影 響 を 与 え る も の で は な い こ と が 導 か れ る 。 こ の 点 , Looscheldersは, BGHは, 634条の規定の構想、から,損害の調整を 暇庇除去が実際になされるかどうかによって方向付けることを支持す るものであると指摘する550 4. ドイツ法のまとめ BGH 2018年 2月22日判決による判例変更により,注文者は, !毘 庇を除去し,それに要した費用を請求するか,それとも,暇庇を除去 しないままとし, !毘庇がなければ有していたであろう仕事の価値と, 現にある仕事の価値との差額を請求するかとL寸選択を迫られること になる。すなわち,ここでは 「暇庇除去がなされるかどうか」が, 実 際上, 重要な転換点として位置付けられることになる。取庇除去が除 外される,ないし注文者によって放棄される場合には,そこでの損害 は,暇庇ある実際上の物と,暇庇のない物との客観的な価値の相違と なり,そこでの金額は, !院庇除去のために必要な費用とは一致しない ことが意識される。BGH 2018年判決は, このような取引価値の減 少による損害算定を, !毘疲除去の物理的な不能や,過分な費用を要す ることによる法的な限界の場合だけではなく, 注文者自身により取庇 を取り除かないという選択がなされた場合にも適用するものであると 整理しうる。 なお, 2018年判決による理論上の影響は必ずしも明らかにならな い。これまでの議論から,給付に代わる損害賠償として,暇庇除去費 用が含まれうること自体は否定されなL、。 ドイツにおける判例の意図 するのかは明らかにされないままであると指摘する。Deppenkemper, jM2018, 222(228) 55 Looschelders, JA 2018, 627(630). 90
について, 売上税をめぐる BGHの判例変更においても指摘されるよ うに,とりわけ,建築契約の領域において,仮定的な暇庇除去費用に よる損害の算定が, しばしば, 注文者の過剰な補償を導くことが問題 の前提となっている。あらかじめの損害賠償についての注文者の利益 保護と,請負人の過剰な負担の調整が図られるべき状況において, 2018年の BGH判決は,注文者に対する過剰な補償や,不当利得を 回避するという意図のもとで,仮定的な暇庇除去費用の算定を否定し た。2018年のBGH判決は,理論上の変更を含むものではないとの 指摘もあるが,ここでの解釈の射程が,建築契約の特殊性という点を もって限定されるのかどうか,関連して,損害賠償法の一般規定にお ける理論に影響を与えるのかという点が, 重要な問題として残されて いる。
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結びに代えて一わが国の議論への視点 わが国の裁判例では,修補費用相当額の損害賠償と請負報酬債権の 相殺を認めるものが多くみられる560 他方,はじめに述べたように, 請負における修補に代わる損害賠償の位置付けに関する議論において, そこで問題となっている損害がいかなる内容のものであるのか(修補 費用相当額の損害賠償を指しているのか,それとも,修補がされない 場合の損害賠償を指しているのか),必ずしも明確にされないままに 56 最判昭51・
3・
4民集30巻2号48頁,最判昭53・
9・
21判時907号54 頁,最判平9・
2・
14民集51巻2号337頁,最判平9・
7・
15民集51巻6 号2581頁等。来栖竺郎 『契約法J (有斐閣, 1974年)469頁は, "1実務 上では代金減額と損害賠償とは常にはっきり分けられていない」と指摘 している。なお,水津教授は, "1改正前民法のもとで認められてきた修補 費用の損害賠償+相殺は,報酬減額そのものではなく,あくまで 「代金 減額的処理」を実現するものであると位置づけられる」とする。水津太 郎 「請負における注文者の報酬減額請求権の新設」法時90巻3号 (2018 年)119頁。 97論 じ ら れ て い る よ う に 思 わ れ る九 この点を単に算定の問題として, 実体法上の理解には影響しないとすることも考えられようが,そのよ うな意識もまた読み取れない。 なお, 日本法との対比をするうえで, ドイツの損害 賠 償 法における 原状回復原則との相違など,留意すべき点は多いが,さしあたり次の ような視点を述べておきた L、。 ドイツにおける議論状況から,給付に 代 わ る 損害賠償には,①暇庇除去費用と,②暇庇ある物と暇庇のない 物との比較における客観的価値の低下という二つ の 内 容 の も の が 想 定 され,これらは同ーの法的根拠 (634条4号, 280条1項 お よ び3項, 281条 1項 ) か ら 認 め ら れ る が , 前 者 が , 本 米 の 契 約 内 容 の 実 現 を 目 的とし,後者が, f毘庇をそのままにした場合の対価的均衡の回復であ るという点で,両者は異なる性格を有するものである。さらに, ドイ ツの判例の展開から,請負 契約については,これら①と②の差異は, 金銭的算定においても, しばしば大きいものとなることが意識される。 このような点は,わが国の具体的な紛争場面においても同様に問題と なろう開。 57 この点に関連する指摘として,道垣内弘人・岡正品 「債権法改正と実務 上の課題 (number10)請負契約の契約不適合責任」ジュリスト 1524号 (2018年)77頁以下。道垣内教授は,改正法415条2項にいう 「履行に 代わる損害賠償」は, I履行請求権がリーガルに存在しない場合,又は, 履行請求権はリーガルには存在するが,プラクテイカルには存在しない 場合に認められる」場合に存在する,填補賠償を指すとする。つまり, 修補費用相当額の損害賠償を求めることが可能な場合は, 415条2項にい う「履行に代わる損害賠償」に当たらないという理解である(法務省解 説もこのような立場であろうと指摘する)。なお,法務省解説では,不完 全履行の場合を415条 2項は想定していないとするが,この点,道垣内 教授が指摘しているように, 一部履行の場合でも,その一部の履行を保 持したままで,残部の履行請求権が存在しない場合の損害賠償は, 415条 2項によって把握される可能性がある。 58 仕事の目的物を売却した場合の損害算定の場面も問題となっているほか, 近時の裁判例では,報酬額を超える修補費用賠償を肯定するケースも見 られ,個別の検討を要する。 92
E民庇ある仕事は,
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給付の不足」であり, これによって,請負報酬 との対価的な均衡が妨げられた状態が生じる。確かに,修補に要する 費用相当額を価値減少分の評価として算定する場合もありうるが,修 補が排除される場合には,異なる結果となる。したがって,これを回 復するための損害賠償として,わが国の実務上多くの場面で問題とな る破庇除去のための費用は,瑞庇による価値の減少と常に一致すると はいえなし、。この点を視野に入れたうえで,暇庇があること自体の損 害をどのように把握するのか,そこから,修補費用相当額の損害賠償 請求は,いかなる法的位置づけに基づいて認められるのかという問題 について検討する必要があるように思われる。また,暇庇の除去が, 減額や解除と異なり,本来的な契約内容の達成を目的としているとい う性格を有していることを,請負人の追完と,金銭的な解決である修 補費用賠償との関係の整序において,どのように捉えるべきかも課題 となろう回 さらに,給付に代わる損害賠償として, 1院庇ある物とま民庇のない物 との比較における客観的価値の低下を算定する場合には,実際上,報 酬減額と共通するものと捉えることが可能であり,わが国の改正法上, 減額権との関係が問題となろう。また,改正法に新たに規定された減 額の算定をめぐり,わが国の従来の裁判例にみられる修補費用相当額 を報酬から減額するという方式は,減額権の中でも同様に取り扱われ るのかという問題について,取引価値の減少と修補費用賠償を区別す るドイツの議論は参考になると思われる曲。 .59 とりわけ,改医法上の問題関心として,追完の優先原則を採るドイツ法 と異なり,契約不適合責任における責任追及手段相互の関係について, 追完請求権との先後関係を整序することが求められる。 60 この点,水津教授は,従来の判例における 「代金減額的処理」が,改正 法においてどのように位置づけられるかについて."1代金減額的処理」と 報酬減額請求権とでは,減額されるべき額について違いがあり,さらに, 「修補の催告の要否やその基本的な性質も異なるとみる余地がある」こと 93*本稿は,
J
S
P
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科研費J
P
1
9
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1
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5
7
3
の助成による研究成果の一部で ある。94
から, "1代金 減 額的処理」は,注文者の救済手段の一つであると位置つけ られるべきであろう」と指摘する。水津.liii掲注 (56)123頁。