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〈論文・報告〉スポーツを通じたグローバル人材の育成~青年海外協力隊スポーツ隊員に対する期待~(2)青年海外協力隊スポーツ隊員の活躍と現状

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論文

スポーツを通じたグローバル人材の育成~青年海外協力隊スポーツ隊員に対する

期待~(2)青年海外協力隊スポーツ隊員の活躍と現状

Global Human Resource Development through Sport

The Expectations of Japan Overseas Cooperation Volunteers

The Activities and Current Conditions of the Japan Overseas

Cooperation Volunteers

黒田 次郎1) Jiro Kuroda 概要 ボランティアへの関心が高まってきている。スポーツを通じた国際貢献では、青年海外協力隊スポーツ隊員の活動が期待され ている。 本稿では、JICAスポーツ隊員が現在どのように活躍し、それが国際貢献にどう寄与しているのか、そして青年海外協力隊の ボランティア体験が帰国後どのように役立っているのかを明らかにする。 Abstract:

The interest in volunteering has been increasing for the past several years. Within the area of international sports volunteerism, the Japan Overseas Cooperation Volunteers (JOCVs) have participated in volunteer activities all over the world. The purpose of this paper is to examine the current sports activities of JOCVs, how they contribute internationally and how their volunteer experiences have helped them after they return to Japan.

キーワード:グローバル人材育成、青年海外協力隊

Key words

:Global Human Resource Development, Japan Overseas Cooperation Volunteers 1 はじめに  スポーツを通じた国際貢献では、青年海外協力隊スポーツ 隊員の活動が期待されている。青年海外協力隊スポーツ部門 は、体育、スポーツ、武道の3分野になり、これらのスポー ツ部門を通じたボランティア活動が、発展途上国援助のため の国際貢献に成果をもたらしているためである。  青年海外協力隊は、外務省所轄のJICA(独立行政法人国際 協力機構)が行っているが、JICAから派遣されるスポーツ隊 員の現状とその活動を見ることは、今後スポーツを通じた国 際貢献のために何ができるのか、それらがどのような成果に つながるのかを予測する大きなヒントとなる。また、そのた めにスポーツ隊員に、どのような資質が求められているのか を知るための、重要な要素となる。  本稿では、JICA スポーツ隊員が現在どのように活躍し、 それが国際貢献にどう寄与しているのか、そして青年海外協 力隊のボランティア体験がどう役立っているのかを明らかに する。 2 スポーツ隊員の現状  青年海外協力隊のスポーツ部門は、大きく3分野、28業種 に分類できる1)。体育、スポーツ、武道の3分野で、各分野 は競技種目ごとに28業種に分類されている。  JICAによる青年海外協力隊の派遣が始まったのは、1965 年のことで、以来88カ国、4万人を越す隊員を派遣してきた が、スポーツ隊員は意外に少ない。2015年6月30日現在の派 遣実績では、スポーツ隊員に限れば次表のようになってい る。  スポーツ隊員といえども、派遣の目的は青年海外協力隊事 業の目的そのもので、「開発途上地域の住民と一体となって、 当該地域の経済及び社会の発展に協力することを目的とする 海外での活動を促進し、及び助長する」(国際協力事業団法 第21条(2))となっており、スポーツ隊員はスポーツを通じ てこの目的を実現することが使命とされている。  青年海外協力隊で各国に派遣されるスポーツ隊員は、分野 分類別でいえば「人的資源」となっている。分野分類には計 1)近畿大学産業理工学部経営ビジネス学科准教授 jkuroda@fuk.kindai.ac.jp

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26 画・行政、公共・公益事業、農林水産、鉱工業、エネルギー、 商業・観光、人的資源、保健・医療、社会福祉、その他と分 類されており、それぞれの分野分類別派遣実績は次のように なっている。  人的資源は、派遣実績のなかで49%と約半数を占めている が、累計からもわかるように従来は公共・公益事業や農林水 産、鉱工業などの分野に派遣される隊員が多かったものが、 近年では保健・医療、教育文化、スポーツ部門の伸びが著し くなっている。  もちろん、募集し、派遣される隊員は、派遣先の国の要請 によるもので、それだけ農業や鉱工業から教育や文化、ス ポーツといった分野に対する青年海外協力隊への期待が増し ているといえる。  この人的資源には、スポーツ以外にもさまざまな分野があ る。青少年活動や環境教育といった分野の隊員の派遣が多 く、スポーツの各競技をまとめて「スポーツ」と分類すれば、 次のような割合となる。  青年海外協力隊の隊員の募集は、春と秋の年2回あり、選 考は書類選考の一次選考で技術審査・語学力審査・健康診断 審査を実施。一次合格者に対し、二次選考では東京または名 古屋、神戸、北九州各市のいずれかJICAが指定した会場で、 面接と健康診断、職種によっては実技試験が行われる。 (表1)スポーツ隊員の派遣実績2) (図1)分野分類別集計(2015年6月30日現在)3)

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27  また技術審査では、各専門分野の選考委員が応募書類をも とに応募者の技術と要請を照らし合わせ、適合性を総合的に 評価する。隊員は、派遣相手国の要請に応えるだけの技術を 有している必要があり、また派遣国、多くは開発途上国への 派遣のため、環境の異なる生活で健康を維持しうる身体能力 を有し、さらに異民族社会のコミュニケーションを理解し、 困難を克服する情熱などが求められている。  さらに、合格者には派遣前訓練が実施される。これには4 つの訓練がある4) (1)技術補完研修  受入国からの要請に的確に応えるための、実践的な技術や 教授法の研修。原則的には技術補完研修の修了が、派遣前訓 練参加のための条件となる。 (2)自己学習  受入国の要請に対応するために、補完的な知識や技術の習 得を図る。個人の努力で習得可能な技術のため、自己負担で 対応可能と判断された場合に指示される。 (3)資格取得  応募時点で要請に必要とされる資格を取得していない場 合、派遣訓練開始までに取得見込みまたは取得可能な場合に 指示。資格取得が、派遣前訓練参加の条件となる。 (4)語学および講座事前学習  集団合宿制による訓練で、現地での活動に必要な語学を身 につける。事前学習終了が、派遣前訓練入所の条件となる。 講座は、JICA語学講師による音声指導と、映像を多用した 教材で、eラーニングによって進められる。 これらの訓練によって、派遣隊員は相手国の要請に応える だけの技術を習得しており、相手国での指導や生活に支障の ない資質を持つことになる。 3 「アフリカの友人」になったスポーツ隊員  青年海外協力隊スポーツ隊員の活動は、派遣相手国の要請 によってさまざまである。警察学校や警察で、柔道、空手、 合気道などを教える(ケニア、インドネシア、タンザニア等) ことや、スポーツ競技連盟や協会に属し、選手の育成・コー チの養成を通じて競技力の向上に協力する(シリア、グアテ マラ等)、さらに身体障害者のスポーツ活動に協力する(タ イ、ポーランド等)といった活動まで、その任務の範囲は広 範に渡っている。  相手国の要請によるものだが、大別すれば次のようなもの になる5) ・ 体育系大学や学部(又は学科)で学生を対象に講義、実技 指導を担当し、将来の体育、スポーツの指導者を要請する。 ・ 小・中・高校で教員として児童・生徒を指導する。また、 現地の教員に日本の指導法などを紹介する。 ・ 教育を管轄する政府の機関に属し、学校体育の指導内容や 指導法の向上に協力する。 ・ スポーツを管轄する政府の機関に属し、ある競技種目の普 及やレベルアップに協力する。 ・ スポーツ競技連盟や協会に属し、選手の育成・コーチの養 成などを通じ競技力の向上に協力する。 ・ スポーツ競技連盟や協会に属し、指導者養成・講習会など を通じその競技種目の普及やレベルアップに協力する。 ・警察学校や警察などで、柔道、空手、合気道などを教える。 ・町で、町内住民を対象としたスポーツ振興計画に協力する。 ・スポーツクラブに属し、競技力の向上に協力する。 ・身体障害者のスポーツ活動に協力する。  このようにスポーツ隊員の活動はさまざまで、要請国に よっては単純な任務だけではない。工場を作ったり農業の技 術を教授したりといった任務に比べ、目に見える成果も出に (図2)人的資源の派遣数割合(派遣中)(2015年6月30日現在)3) (図3)人的資源の派遣数割合(累計)(2015年6月30日現在)3)

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28 くいものでもある。  そんななかでスポーツ隊員の活動が表彰されたものもあ る。1968年のエルサルバドルでのソフトボール指導以来、中 南米、アジア、アフリカ、大洋州、中東、東欧の計36カ国で ソフトボールと野球の指導を行ってきたJICAの取り組みが、 2013年4月に国際野球連盟(IBAF)によって特別表彰を授 与したのである。  授賞に関し、IBAF副会長のイシェラ・ウィリアムス氏(ア フリカ大陸代表)は、「アフリカ諸国の多くではJICAボラン ティアなしに野球とソフトボールの発展は考えられない」と これまでのJICAとスポーツ隊員の活動を高く評価し、「アフ リカの人々は日本の若者を“アフリカの友人”と呼び、非常 に親しみを持っている」とコメントを寄せている6)  スポーツ隊員の活動が、アフリカの若者に大きな影響を与 えた例もある。1997年にJICAの野球隊員としてジンバブエ に派遣された堤尚彦氏と松本裕一氏の活動だ。  両氏はジンバブエ第2の都市ブラワヨに派遣され、小学校 とセカンダリースクールを回り、野球を伝える活動に取り組 んだ。このとき小学生だったのが、シェパード・シバンダ氏 だった。  松本氏は地域に野球クラブを立ち上げ、そのクラブでコー チを務めたのが、明治大学硬式野球部で活躍した根岸氏だっ た。シェパード氏は、勝つことを目的とする厳しい練習から、 野球に上達し、さらに野球を楽しむことを覚えたという。  2006年、前年にスタートした日本のプロ野球独立リーグ 「四国アイランドリーグplus」に、ひとりの外人選手が入団 テストに挑戦し、見事合格して「香川オリーブガイナーズ」 に選手として参加することになった。それがジンバブエから やってきたシェパード氏だった。  2006年、2007年にそれぞれ30試合ずつ出場し、翌2008年に は北陸の「福井ミラクルエレファンツ」に入団して30試合に 出場している。その後祖国の事情で帰国したが、シェパード 氏は「いつか、ジンバブエに『野球アカデミー』のようなも のをつくりたい。大きな野球場を建て、必要な道具をそろえ て、誰でもそこに行けば野球を教わることができるような施 設です。そうして、協力隊員たちが築いてくれた野球の土台 を無にしたくはないのです」と語っている。  JICAスポーツ隊員による活動が、日本とジンバブエを結 ぶ大きな架け橋となった例である。また、その活動がジンバ ブエの野球、ひいては文化の発展に今後も寄与する事例だと いっていい。 4 スポーツの文化としての側面  スポーツ隊員の活動は、相手国の要請によってさまざま で、スポーツを普及させたり、競技技術を教えてスポーツ選 手を育成したりするだけではない。スポーツを「文化」とし て広めるのもまた、スポーツ隊員の活動のひとつとして要請 されている。  スリランカで最もメジャーなスポーツであるクリケットの 選手だったスジーワ・ウィジャヤナーヤカ氏が、日本で高校 野球や大学野球、社会人野球の公認審判員として活躍するよ うになったのは、やはりJICAスポーツ隊員の指導によるも のである。  スジーワ氏が野球と出会ったのは、高校3年生のときだと いう。スリランカ初の野球隊員である植田一久氏が同国に派 遣され、その下で野球を始めた。高校を卒業すると母校の監 督を務めながら、2代目の野球隊員である後田剛史郎氏が監 督を務める代表チームで、エースとして活躍した。  しかし、野球の面白さに目ざめ、自費で大分にある立命館 アジア太平洋大学に留学して野球部に入部するものの、その レベルの高さに選手になることを諦めざるを得なかったとい う6)  そんなときに後藤氏に勧められたのが、審判への道だっ た。審判の技術を学び、スリランカに持ち帰ることもまた、 母国の野球の発展につながる。スポーツ競技としての野球で はなく、文化としての野球の普及である。  スジーワ氏は福岡県内のホテルに勤務する傍ら、公認審判 員として年間約80試合ほどで審判を務めている。  同氏は来日後、スリランカ初の野球専用グラウンド建設に 尽力し、2012年には南アジア初の野球専用グラウンドを完成 させてもいる。  スポーツ隊員の活動は、文化としてのスポーツの普及に留 まらない。相手国からの要請という側面はあるが、実はス ポーツが国家や民族という枠組みを突き抜ける可能性を持つ ことに期待が寄せられてもいるからだ。  2003年11月3日には、国連総会において教育を普及、健康 を増進、平和を構築する手段としてスポーツを重視し、ス ポーツのもつ可能性を積極的に活用すべき、との趣旨の決議 が採択されている。また、UNDP(国連開発計画)や各国際 機関などでも、スポーツと開発プロジェクトを連動させるこ とで、民族の融合をはかり、教育や健康への意識を高めよう という試みが始められている。  「先進国と途上国の格差是正へ向けた協力活動は先進国側 の免れない責任として顕在化し、そうした格差を是正しよう と『経済開発』の方向に加え、人間的・社会的側面を重視 しようとする『社会開発』などが積極的に展開されてきて いる」7)そのためにスポーツを通じた国際開発が求められ、 JICAスポーツ隊員の活動にもその方面に強く働きかけるよ うな活動が求められてもいるのである。

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29 5 スポーツ隊員としての活動  2014年に、JICA青年海外協力隊員の体育教師としてブー タンに派遣された長谷直樹氏は、これまでのブータンの体 育教育では、競技スポーツの指導が中心で、児童一人一人 の発育、発達状況を考慮した授業が実施されていないこと から、「日本式保健体育科教育の実践を通じ生徒のウエルネ スを向上させること」を活動の目標として定め、ブータン 教育省カリキュラム局(DCRD:Department of Curriculum Research and Development)の「保健体育指導要領」の策 定に貢献することを最終ゴールとして活動を行ったという8)  ブータン王国といえば、日本では「幸せの国」「微笑みの国」 として知られるが、青年海外協力隊派遣取決が署名されたの は1987年のことである。以来、農業・農村開発、インフラ整 備、公共サービス改善、環境改善、気候変動対策などで協力 を展開されており、2001年からはシニア海外ボランティアと して体育分野での派遣も行われてきた。  長谷氏が派遣されたのは、ブータン王国の最西端にあるハ 県の公立校で、「保健体育指導の実践を通じ、保健体育指導 とスポーツ指導の相違点を明確に提示し、同分野における教 育の重要性の理解を促進すること」が活動概要だった。  配属後にまず行ったのは、保健体育で使用可能な教具の確 認と管理だった。さらに、より効率の良い指導のために、生 徒の身体測定と体力テストを実施。これによって生徒の発育 度合や体力を考慮した指導が行えるようになった。  8カ月の活動で、今後は「駅伝大会」をハ県で催し、日本 文化の紹介とともに日本独自のスポーツ文化を紹介し、日本 とブータンの文化交流も目指しているそうだ。  JICAスポーツ隊員の競技分野には、柔道や空手といった 武道も含まれている。そのなかで2010年にエクエドルに派遣 され、剣道を指導したのが岩本貴光氏である。「エクアドル 国で剣道の普及・発展(特にナショナルチームの技術力向 上)」を目的とし、基礎的修練の在り方を指導している。 「剣道は日本語中心の指導になるが、エクアドル剣士に伝 える時は、英語の中にスペイン語を織り交ぜての指導となり 大変苦慮した」9)と述べているが、実際に相手国に派遣され、 体験することでのみわかる苦労もある。  岩本氏の派遣の目的のひとつは、エクアドルのナショナル チームの強化だが、そのために(1)基本の徹底指導、(2) 柔軟性をもった応じ技の習得、(3)高次元の集中力の要請、 (4)継続的な稽古メニュー作成と実践、の4つを目標とし て設定した指導を行ったという。  また、継続的に稽古を行っていくために、練習試合や大会 の企画・運営のサポートを行っている。これによって、エク アドル・ナショナルチームは世界剣道連盟に加入し、世界剣 道大会にも初出場するまでになった。  宇都宮奈美氏と萩裕美子氏は、ともにマダガスカルで柔道 の普及、発展の活動に参加している。  マダガスカル共和国は、インド洋に浮かぶ世界で4番目に 大きな島だが、もともとフランスの植民地時代にフランス軍 人によって柔道が伝わっている。当時は畳の上にマダガスカ ル人が上がることは許されていなかったが、1960年の独立後 はマダガスカル人によって柔道が行われるようになったとい う経緯がある。  このマダガスカルの教育省には、教育柔道の組織「JUDO IN SCHOOL」があり、この機関によって全国の学校のなか に併設された施設で柔道が行われている。また、大学の入試 試験に柔道の科目があり、柔道学科まであるものの、指導者 がいないために実施されていないという現状もあった。  宇都宮、萩両氏は1カ月間という短期派遣だったが、ア ンチラベ、チルヌマンディティ、アンブチャマンジャカで生 徒を指導し、またナショナルチームと合同練習も行ってい る10)  マダガスカルに限らず、発展途上国では物的支援が要求さ れることが多いが、マダガスカルでは「柔道衣も畳もいらな いから、指導者が欲しい」と人的支援の要請があった。宇都 宮、萩両氏は、これこそ真の柔道国際化であると感じたとい う。 6 多様化するニーズ  JICAボランティアにスポーツ部門が取り入れられたのは、 1968年のエルサルバドルへのソフトボール指導部隊の派遣が 最初である。1970年にはフィリピンに野球指導のためにス ポーツ隊員が派遣されており、以来アフリカ、中南米、アジ ア、東欧など36カ国に延べ278人の野球・ソフトボール指導 者が派遣されている11)  これは国連のスポーツ関連政策の第1期に相当するもの だ。国連のスポーツ関連政策は、第1期:1952~94年、第2 期:1995~2000年、第3期:2001年~現在の3期に分けるこ とができる12)

(1)第1期:1952~94年

 国際協力事業のなかにスポーツを先駆的に導入した国際連 合教育科学文化機関(ユネスコ)が、1952年に教育部門に体 育・スポーツ関連セクターを設け、以後ユネスコが体育・ス ポーツと国際協力のなかで重要な役割を果たす。

(2)第2期:1995年~2000年

  国 連 環 境 計 画(UNEP:United Nations Environment Programme)が中心となり、自然環境とスポーツとの共存 が求められた時期。1999年には「スポーツを通じた平和社会

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30 の実現」が宣言され、国連機関と各国政府、民間セクター、 財団、NGOなどが国際的スポーツ組織との協力態勢の確立 をすすめる。

(3)第3期:2001年~現在

 貧困によるテロの撲滅などのために、開発途上国の開発プ ログラムや平和構築プログラムのなかで、スポーツを積極的 に活用しようとする国際的な意思統一がなされた時期。  JICAのスポーツ隊員の派遣が、1968年であったことを考 えれば、JICAの活動は世界的にも早くからスポーツによる 国際貢献に取り組んできたといえる。  もともと日本の青年を海外(アジア対象)に派遣する計画 は、1957年(昭和32年)当時から構想されていた13)。1961年 に、アメリカ合衆国のボランティア組織「平和部隊」が設立 されたため、日本の青年海外協力隊もこれを手本として発足 したのだろうと思われがちだが、アメリカの平和部隊よりも 日本での取り組みのほうが早かったのである。  1960年3月には、新樹会(青年運動の指導者組織)の前身 である「日本健青会」が、青少年団体幹部連絡会議の席上で、 「青年海外派遣計画」についての見解を表明している。青年 海外協力隊は、このときの見解を活かした上での発足であ る。  青年海外協力隊派遣開始当初は、日本の得意スポーツであ る「柔道」の派遣が多く、スポーツ部門の7割以上を占めて いたが、次第に競技よりむしろ教育に対する協力の要請が増 え、1980年以降は「体育」の隊員派遣の比重が大きくなって いる。  それに加えて、隊員の勤務形態や要請内容の多様化によ り、協力隊員に求められる資格のレベル、相手国からのニー ズ等もますます多様化している。  また、近年では日本社会の高齢化にともない、ボランティ ア活動に関心を寄せるシニア世代も増えてきている。  JICAには20歳~39歳の隊員で構成される青年海外協力隊 の他、40歳~69歳の隊員で構成されるシニア海外ボランティ ア、さらにアジア・アフリカ・中南米・大洋州・中東の国々 で1カ月~1年未満の活動を行なう短期ボランティアの3 つの部門がある。  シニア海外ボランティアは青年海外協力隊と同じく、2年 間の派遣となっているが、「自分の持っている技術・知識や 経験を開発途上国の人々のために活かしたい」というシニア のボランティア意識は高い。  これらの隊員とは別に、JICAには中南米地域の国々を中 心とする「日系社会青年ボランティア」という制度もある。 これは日系人社会及び地域社会の発展に協力するための派遣 制度である。  1990年の「入国管理及び難民認定法」の改正にともない、 在留日系人が急増したことから、彼らの子供たちが言語の問 題や社会環境に馴染めないことから、教育現場にさまざま な問題が発生してきた。このような背景に伴い、JICAでは 2008年の「日本ブラジル交流年(ブラジル移住100周年)」を 契機として、日本の教員をブラジルに派遣し、現地の学校教 育現場のニーズに応えるとともに、ポルトガル語や現地の生 活週間・文化・学校教育環境等を学び、帰国後に本邦在留日 系子女の教育の充実を図ることを期待して活動を開始してい る14)  また、この日系社会青年ボランティアと同じく、「日系社 会シニアボランティア」も募集されており、シニア隊員を対 象に中南米地域に隊員を派遣している。  これらのシニア隊員や日系社会ボランティア隊員には、青 年海外協力隊とは異なりとくに「部門」という区分けは設定 されていない。日系社会での活動を対象としたものだからだ が、体育・スポーツ分野では野球やソフトボールなどの要請 が多いという特徴がある15)。また、日本語や日本文化を伝え るものが多いようだ。  さまざまな環境や制度、さらに相手国の要請に対応すべ く、青年海外協力隊もまた派遣分野や部門を細分化し、隊員 やシニアボランティアがより相手国の要請に応えられるよう 発展させてきたというのが、JICAの現状なのである。 7 世界で活躍するスポーツ隊員  世界のトップクラブでは、ブラジル出身のサッカー選手が 何人も活躍している。ブラジルの国技はカポエラだが、サッ カーが国技ではないかと勘違いするほどサッカー人気が高 い。そのサッカー王国ブラジルが、野球で注目を集めた出 来事がある。2012年の第3回ワールド・ベースボール・クラ シック(WBC)だ。  ブラジルはこの大会の予選で、メジャーリーガーを擁する パナマを2度に渡って破り、初出場ながら本戦進出を決める という快挙を達成したのである。その躍進の裏に、JICAの 日系社会青年ボランティアの取り組みがあった。  同大会で、ブラジル代表チームの打撃・走塁コーチを務め たのが、黒木豪氏だった。黒木氏は日系社会青年ボランティ アとして、協会が運営する野球クラブの13~14歳カテゴリー のチームで野球を教えていた。その教え子たちが、全国大会 で上位入賞したのに注目したブラジル野球連盟が、黒木氏に WBCのコーチを要請したのである。  黒木氏は、WBC大会前に積極的に相手チームのデータを 収集。そのデータに基づく戦術で、ブラジルがパナマを破る という快挙を達成したのである。  この第3回WBCでは、ドミニカ共和国が全勝優勝した。

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31 実はドミニカ共和国でも、日本のJICAボランティア経験者 が活躍している。百瀬喜与志氏だ。百瀬氏は1995年~1997年 にJICA野球隊員として、コスタリカで活動している。  任務終了後は米国・セントラルフロリダ大学で運動生理学 を学び、その後メジャーリーグでコンディショニング・コー チを、さらにドミニカ共和国やベネズエラで育成機関の選手 を担当するなどの活動を行っていたが、ドミニカ共和国の監 督などの要望でナショナルチームに帯同し、それがWBCで の全勝優勝につながっている。  エチオピアでバレーボールの普及・強化活動に携わったの は、梅崎さゆり、吉田雅行、吉田康成の3氏だった。スポー ツ隊員として派遣された3氏は、主に技術指導を担当し、テ クニカル・アドバイザーとして活動した。ナショナルチーム やプロチーム、ユースプロジェクトなどの強化活動に関わ り、代表選手やユースプロジェクトの選手選考、コーチ講習 会の講師といった専門的な経験や知識を要する仕事も任され たという16)  ナショナルチームの強化では、オールアフリカン大会の予 選であるゾーン大会に照準を合わせていたが、指導したチー ムはそれまで大会出場経験がなかったものの、指導後はゾー ン大会を突破し、好成績を収めている。  隊員の活動は、技術の指導や強化にとどまらない。レベル を向上させるためには、充実した学校教育やスポーツ指導が 行われることが望ましく、そのためにはコーチの質の向上、 学校体育の充実などが課題となる。コーチ講習会や学校での 児童の指導などが、将来的なレベルの向上につながってお り、この分野でもスポーツ隊員に期待が寄せられている。  スポーツを通じた国際協力では、JICAが中核的な役割を 担ってきている。このJICAの活動を国際的に見れば、スポー ツを通じた国際協力では、派遣人数から見ても日本が世界で も最も組織的な活動を行っているといえる。  もちろん、諸外国ではキリスト教精神に基づき、個人や 民間ベースのボランティア活動が活発に行われているが、 ODA や JICA のような国レベルでの組織的なボランティア は、まだ広く普及しているとはいえない。  2000年9月には、147の国家元首を含む189の国連加盟国代 表が参加する国連ミレニアム・サミットで、「国連ミレニア ム宣言」が採択されている。スポーツを応用すれば、スポー ツと開発が相互に連動しつつ、開発アプローチという問いに 新しい視覚から解答が出せるのではないか、との議論も巻き 起こった17)  この議論は、2020年に開催が決まった東京オリンピックを 前に、ますます深く、活発に行われていくだろう。日本では、 東京オリンピックに向けて本格的なスポーツ振興事業が開始 されているが、これまでのJICAのスポーツを通じた国際貢 献の歴史や多くの事例が、この議論にある程度の解答を与え ている。 引用・参考文献 1) JICAボ ラ ン テ ィ ア の 歩 み:http://www.jica.go.jp/ volunteer/outline/history/index.html(2014年10月21日 参照) 2) JICAボ ラ ン テ ィ ア 派 遣 実 績:http://www.jica.go.jp/ volunteer/outline/publication/results/jocv.html#r04 (2015年6月30日参照) 3) JICAボ ラ ン テ ィ ア 派 遣 実 績:http://www.jica.go.jp/ volunteer/outline/publication/results/jocv.html#r03 (2015年6月30日参照) 4) JICAボランティア「合格後のスケジュール」:http:// www.jica.go.jp/volunteer/application/seinen/training/ index.html(2015年6月30日参照) 5) 廣川俊男(1995)青年海外協力隊スポーツ隊員とSports of All, 新潟産業大学人文学部紀要 第2号 116-117 6) JICAボ ラ ン テ ィ ア  ス ト ー リ ー06:http://www.jica. go.jp/volunteer/outline/story/06/index.html(2015年 6 月30日参照) 7) 小林勉(2014年)なぜスポーツを通した国際開発か? 現代スポーツ評論 36-37 創文企画 8) 長谷直樹(2014)ブータン王国における保健体育 立教 Roots:https://rikkyo.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view _main&active_action=repository_view_main_item_deta il&item_id=11245&item_no=1&page_id=13&block_id= 49 9) 岩本貴光(2014)南アメリカにおける剣道の普及・発展 についての一考察 Bulletin of Beppu University Junior College 10)宇都宮奈美、萩裕美子(2007)マダガスカル柔道の現状 ―青年海外協力隊短期派遣活動からの考察― 鹿屋体育 大学学術情報リポジトリ 11)小栗俊之(2001)国際ボランティア団体・青年海外協力 隊に関する研究―スポーツ部門における現状と課題― 文京学院大学研究紀要 3(1)59-77 12)齊藤一彦・岡田千あき・鈴木直文(2015)国際関連機関 によるスポーツを通じた国際協力 スポーツと国際協力 (26-39)大修館 13)JICAボ ラ ン テ ィ ア の 歩 み:http://www.jica.go.jp/ volunteer/outline/history/index.html(2014年10月21日 参照) 14)JICAパンフレット(2012)日系社会青年ボランティア 現職教員特別参加制度について:http://www.jica.go.jp/ volunteer/outline/publication/pamphlet/index.html 15)齊藤一彦・岡田千あき・鈴木直文(2015)ODAによるス ポーツを通じた国際協力 スポーツと国際協力(47-56) 大修館 16)梅崎さゆり・吉田雅行・吉田康成(2008)エチオピアの バレーボールの現状と今後の課題について 大阪教育大 学紀要 第IV部門 第57巻 第1号(207-225) 17)小林勉(2014年)なぜスポーツを通した国際開発か? 現 代スポーツ評論 50-51 創文企画

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