急速に普及が始まる全銀TCP/IP手順[拡張仕様]
Data Communication(電波新聞) 1997年11月3,10日号 藤野裕司 インターネットの爆発的普及とともに、TCP/IPはいよいよ通信プロトコルの標準とし ての地位を確固たるものとした。これは、LANの導入が、企業の「OA推進」に源を発し、 ホワイトカラーの生産性向上を目的とした「PCの1人1台導入」でその流れを加速したこ とに重なる。NetWareから始まったLANではあるが、気がつくと大企業を中心に社内のネ ットワークはTCP/IPがそのベースとして定着したようである。 本稿では、世の中のこの流れの中でどのようにして全銀TCP/IP手順が生まれたのか、 そしてそれが急速に普及することが予想される要因は何か、について具体的な展開例を 交えて解説したい。 まずは全銀TCP/IP手順登場の背景とその特長について。 次にどのような分野での展開が予想されるかについて述べる。 【フラットなネットワークを支えるTCP/IPプロトコル】 そもそも、TCP/IPはなぜここまで広く支持されるようになったのか。その理由は 3点ある。 まず第一に、プロトコルが広く公開されコンピュータメーカやOSに依存しなかった こと。第二に、非常にシンプルな規約であるため様々な機種への移植が容易であっ たこと。第三としては、WANへの親和性が高く大規模なネットワークが比較的安価に 構築できるため、企業のOA化の波に乗ることができたこと。などがあげられる。 また、その最大の特長は、メインフレーマ系のオンラインプロトコルのように接 続される機器が親子関係に縛られることなく、フラットで対等なネットワークが容 易かつ安価に構築できるところにある。 その結果、企業は従来のメインフレーム系オンラインをも、ゲートウェイ経由でT CP/IPのLANに吸収するようになってきた。 【全銀TCP/IP手順登場の背景】 このように、通信がTCP/IPに集約されつつある中、企業間データ交換はBSC(2進 同期通信)をベースとした「全銀/JCA手順(*1)」という古い手法で行われている。全 銀手順は、1983年に制定されてから14年間、流通業界で広く使われているJCA手順と 並び、企業間データ交換手順の日本標準として長く使われ続けてきた。しかし、TCP /IPが通信プロトコルの標準として定着したため、企業間データ交換もこのプロトコ ルを採用すべきとの声が高まってきたのだ。 そこでまず、全銀協(全国銀行協会連合会)は、傘下銀行の企業・銀行相互間の オンラインデータ交換において使用する新しい標準通信プロトコルとして、「全銀協標準通信プロトコル−TCP/IP手順−(Ver.1)」通称「全銀TCP/IP手順」を1997年 3月4日(理事会決定)に制定した。 【金融業界のみならず全産業を対象とした[拡張仕様]】 しかし、全銀手順を使うのは金融業界ばかりではない。そこで、財)日本情報処 理開発協会(JIPDEC)産業情報化推進センター(CII)が中心となって、金融業界の みならず全産業で利用可能なように拡張し、1997年5月に全銀TCP/IP手順[拡張仕様] として発表した。 【全銀TCP/IP手順[拡張仕様]の特長】 従来の全銀手順には、BSCが持つ様々な問題点があった。それに対して先に述べた ようにTCP/IPには数多くのメリットがある。そこで、それらのメリットを最大限に 取り込み、かつ過去のアプリケーション資産を生かせるような手順として、全銀TCP /IP手順[拡張仕様]は生まれた。 その大きな特長は5つある。 1.企業間ネットワークと社内LAN/WANネットワークを統合 前述のように、BSCをベースとした全銀/JCA手順による企業間ネットワークとTCP/ IPをベースとした社内LAN/WANネットワークは、互いに接続することができない。そ のため、資源の共用ができず、運用・管理もすべて異なる。また、維持するために はそれぞれの技術を修得した要員を確保する必要がある。 ところが、全銀TCP/IP手順を採用することにより、企業のネットワークはすべてT CP/IPに集約することができるのである。これにより、ネットワークの資源・運用・ 管理・技術のすべての面でトータルコストを削減し、イントラネット/エクストラネ ットの基盤を作ることができる。(図1) 全銀TCP/IP手順の 企業間ネットワーク イーサネット メインフレーム LAN制御装置 TCP/IPの LAN/WANネットワーク イーサネット 公衆電話網 ISDN網 EDIサーバ アプリケーション サーバ OAサーバ アプリケーションサーバ Web サーバ ルータもしくは PPP対応の 通信サーバ ルータ ルータ 図1 企業間ネットワークと社内LAN/WANネットワークを統合 他企業
2.アプリケーションインターフェイスは現行全銀手順と完全互換 全銀手順は、制定されてからすでに14年が経過しており、この間に開発されたデ ータ交換のアプリケーションは膨大な量となっている。もし、新手順でこれらが一 切使えなくなるなら、その再開発のコストは企業にとって計り知れないものとなる。 その点、全銀TCP/IP手順のアプリケーションインターフェイスは、現行の全銀手順 と完全互換。つまり、通信システムを入れ替えるだけで、既存のアプリケーション にはまったく影響を与えることはないのである。これにより、手順の移行は最小限 のコスト負担で実現できることになる。 3.安価な非同期全2重モデムで、高速データ交換を実現 従来の全銀手順はBSCであるため、半二重同期モデムが必要であった。このモデム は非常に高価であるにもかかわずら、インターネットやパソコン通信には転用でき ない。パソコンユーザが、インターネットと企業間データ交換の両方を行おうとす る場合、異なるモデムが存在するため、システム設定の変更、電話線の付け替え等 の煩雑な作業を伴うことになる。しかも、BSCでは最大伝送速度が2400bpsと非常に 遅い。 一方、TCP/IPは非同期全二重モデムを使用するため、インターネットやパソコン 通信とモデムは共用できる。しかも、最大伝送速度はモデムの能力により現在どん どん速くなっており、最近パソコン購入時には33.6Kbpsのモデムが標準でついてい るような情勢である。これにより、容易に高速データ交換が実現できるようになっ た。(図2) 4.プログラムモジュールや2Kバイトを超えるデータの伝送も可能 これは[拡張仕様]により実現される機能である。オリジナルの全銀TCP/IP手順 では、最大レコード長が2Kバイトとなっている。しかし、[拡張仕様]では固定長・ 可変長とも最大レコード長が32,687バイトとなり、かつ不定長ファイルの扱いが可 能となっている。不定長ファイルとは、レコード形式になっていない切れ目のない 運用時に電話線の つけ替えが必要 TCP/IP 同期通信ボード 非同期全二重 モデムカード モデムホン ブラウザ 全銀手順 通信プログラム (旧手順) 電話線 Windows95 TCP/IP 非同期全二重 モデムカード ブラウザ 全銀TCP/IP手順 通信プログラム (新手順) 電話線 図2 安価な非同期全二重モデムで,高速データ交換を実現 Windows95 パソコン アプリケーション アプリケーション パソコン
ファイルをいう。よって、これらの機能により、長大なレコードを持つアプリケー ションデータや、プログラムモジュール・CAD/CAMデータ・マルチメディアファイル などの集配信が可能となった。 5.ポート番号「5020」により、セキュリティも万全 TCP/IPのLANでは、よくセキュリティが問題となる。最も危険なのは、Telnetによ るLANへの侵入である。それを許すと、第三者が自分のシステムにオペレーションレ ベルで侵入することが可能となる。そのような問題を回避するため、全銀TCP/IP手 順では応答側のポート番号を「5020」と定めた。ポート番号は、LANに入るときのア プリケーションの識別に使われる。具体的には、LANへの入り口となるルータもしく はPPPサーバでフィルタリングを行い、接続できるアプリケーションを全銀TCP/IP手 順に限定するのである。これにより、他の侵入をすべて排除するため、LANに入るア プリケーションを全銀TCP/IP手順のみに限定することが可能になる。 【新手順は、EDI(*2)の他さまざまな分野で普及する】 これまで、企業間データ交換は企業単位もしくは企業グループ単位で個別に行わ れることが多かった。しかし、世の中は標準化への方向に進み、個別企業間データ 交換ではなく標準EDIへと流れは変ってきている。しかし、その流れは決して速いと は言い難かった。ところが、ここにきて全銀TCP/IP手順[拡張仕様]準拠による製 品群が出そろいつつある。これにより、データ交換の応用範囲が格段に広がり、EDI のみならず、様々な分野への応用が見えてきた。その具体的展開例を考えてみる。 ○社内複数拠点間DBのシンクロナイズ この手順は、企業間データ交換のみを目的とするものではない。社内ファイル転 送にも大きな威力を発揮する。最も簡単な利用方法としては、社内複数拠点DBのシ ンクロナイズが考えられるだろう。 「各拠点共通で利用するDBをネットワーク上に置くとレスポンスが遅くなるため、 各地のローカルなLAN上に設置したい」という要望はよく聞く話である。各拠点に設 置した同じDBに対して、夜間自動的に差分を配信し各々同期を確保する。このよう な運用などは、容易に構築することができる。(図3) 支店サーバ 営業所サーバ 本社サーバ 商品 マスター 商品 マスター 商品 マスター 図3 社内複数拠点間DBのシンクロナイズ
○企業グループ間のEDI 比較的連携のとりやすい企業グループ内外で、従来の効率の悪い全銀手順でのEDI から全銀TCP/IP手順利用の新しいシステムへの移行を行う。新手順ではPC−PC間の データ交換もサポートしているため、大手企業から中堅企業へ、そしてその下の中 小企業間、というように企業間の網の目状の連携が取りやすくなる。また、JCA手順 も設定項目の対応づけだけで全銀TCP/IP手順への移行は可能である。(図4) ○中小企業に対するEDIの普及 全銀手順では、モデム・ソフト・同期通信ボード等の費用がかさみ、かつ運用が 煩雑だったため、中小企業ではEDIを敬遠しがちであった。しかし、全銀TCP/IP手順 では飛躍的にコストが低くなったことと、Windows95環境で運用もしやすくなったこ とも重なり、利用範囲が一段と広くなったといえよう。 ○オープンネットワークで次世代EDIを実現 従来、EDIはメインフレーム集中で行われていた。しかし、今アプリケーションは どんどんサーバに作られつつある。つまり、これからのアプリケーションは、メイ ンフレームに限らずあちこちのサーバとも自在に連携を取る必要が出てくることと なる。そうなると、EDIはオープンネットワーク上でイントラネット/エクストラネ ットとの連携を保ちながら、社内・社外のネットワークを統合する形に発展すると 考えられる。(図5) Aセットアップメーカ a部品メーカ a系部品工場1 b部品メーカ a系部品工場2 独立系部品工場1 独立系部品工場2 Bセットアップメーカ A企業グループ B企業グループ 図4 企業グループ間EDI
【最後に】 以上により、全銀TCP/IP手順がこれからの時代に非常にフィットした手順として 普及することはご理解いただけたと思う。しかし、企業にとってはこの手順を搭載 したシステムを導入するだけでは終わらない。この手順によりどのようなネットワ ークを構築し、どのような未来を描けるかが重要な課題となる。そのためには、LAN /WANのみならずEC/EDIをも熟知した技術者を養成することが急務であろう。その最 も速い方法は、その方面に精通したベンダーと組むことではないだろうか。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− *1:全銀/JCA手順 ともに企業間データ交換を行うための標準通信プロトコル。いずれも、全産業において受発注業務 等で幅広く利用されている。 [全銀手順] :1983年、全銀協が銀行間のオンラインデータ交換のために制定した通信 プロトコル。 [JCA手順] :1980年、日本チェーンストア協会(JCA)がチェーンストアと取引先の オンラインデータ交換のために制定した通信プロトコル。
*2:EDI(Electronic Data Interchange:電子データ交換)
異なる企業間で商取引のためのデータを通信回線を介してコンピュータ間で交換すること。その際、 当事者間で必要となる各種の取り決めが、可能な限り広く合意された標準的な規約であることが要求 されている。 発注サーバ 経理サーバ 物流サーバ 物流サーバ メインフレーム メインフレーム 受注サーバ 経理サーバ 発注DB 受注DB 入荷・検品 DB 出荷DB 支払DB 請求DB 契約・商談 DB 契約・商談 在庫DB 図5 オープンネットワークで次世代EDIを実現 銀行 銀行 発注企業 受注企業