第5章
調
査
研
究
総
務
業
務
概
況
試
験
検
査
一
覧
行
政
試
験
検
査
結
果
調
査
研
究
研
究
成
果
研
修
広
報
等
付
録
1.企画総務部
企画総務1 応募研究(科学研究費(基盤研究C)分担) (平成18∼19年度、⑲予算額150千円(総額450千円)) 感染症危機管理を目的とした発生動向調査データの新たな可視化還元法に関する研究 長谷川伸作(企画情報室)、井上 仁(鳥取大学総合メディア基盤センター)、陶山昭彦((財)放射線影響研究所) 【目的】感染症サーベイランス事業で収集されるデータの、より有効活用を目的としたインターネットを用いた流行 状況の可視化・還元システムの構築と、流行予想アルゴリズムの考案等について検討した。 【方法及び結果】麻疹、流行性耳下腺炎などの小児感染症の47都道府県データ(1981年7月から2007年12月)と北海 道21医療圏データ(1990年1月から2007年12月)を収集・整理して情報提供用のデータベースとして整備した。利用 者の要求に応じて任意の時期のデータをデータベースから抽出し、自動的にグラフやアニメーションに変換してホー ムページ上に表示する機能をもつ可視化・還元システムを構築した。地域別の流行状況を色分けして表示する流行状 況マップ、1年間の時期別・地域別の流行状況が鳥瞰できる3次元棒グラフを提供した。加えて、流行状況の時間的・ 空間的推移の同時把握を支援するための Flash アニメーションを作成し閲覧させた。さらに、データの分布とその 位置を捉える基本統計解析、傾向変動、季節変動、循環変動などの時系列データの構造解析を行ない、感染症流行現 況把握、流行予測を試みた。流行の警報・注意報発令のアルゴリズムの検討を行い、過去・現況把握及び流行予測を 行った。 【考察】これらプログラムの搭載により、地域クライアントが必要に応じ、独自の情報を作成することが可能となり、 地域の感染症患者発生状況の時系列、流行状況、さらに空間的広がりとその推移が視覚化されると考えられた。通常 の感染症発生状況下及び危機管理の緊急時対応下においても、リアルタイムに発生動向を集約し、インターネットを 通じて遠隔地ユーザーの要求に従って、個別時系列、3-D グラフ、発生地理分布(地図表示)、動画(アニメ)表示 などで視覚的に集約した直感的画面の提供が可能となった。感染症別・地域別に流行現況表示や短期の流行予測が可 能と考えられ、警報・注意報発令のシグナルの呈示は感染症の診断や予防業務に有用であると考えられる。本システ ムは流行状況の把握を迅速に行う有効なツールになるものと考える。 企画総務2 応募研究(厚生労働科学研究費(新興・再興感染症研究事業)協力) (平成19年度、予算額200千円) 地方衛生研究所の視点からのサーベイランスの評価と改善 中野道晴(研究情報科) 2006年4月に再構築された厚生労働省が所管する「感染症サーベイランスシステム」について、地方感染症情報セ ンターの視点から、システムの利活用、残された課題について検討を行った。平成19年度は、患者情報登録作業の効 率化を図るために、インターネットを利用して定点医療機関が患者数を直接登録し、保健所がその情報ファイルを利 用して国システムへ入力するモデルシステムを試行し、効率的な運用が可能なことを確認した。2.健康科学部
健康科学1 その他(保健福祉部事業) (平成19∼20年度、⑲予算額212千円) 平成19年度道民の健康づくり推進事業 −「おおたき国際ノルディックウォーキング」における運動量調査− 千葉昌樹、川戸敦子、渡部憲彦(北海道保健福祉部健康推進課)、桂 英二、西村一彦(健康増進科)、 中野道晴、横山裕之(研究情報科) 伊達市大滝区において開催された「おおたき国際ノルディックウォーキング」の参加者に対して、歩行時間、歩数 及び運動量を測定し、コースごとの歩き方や運動量の違いなどについて検討した。距離の長いコースの参加者ほど広 い歩幅で速く歩いており、歩行速度など運動強度が運動量に大きく影響していることが確認された。また、大滝ノル ディックウォーキング常設コースにおける運動量評価のための一つの目安を得ることができた。健康科学2 一般試験研究 (平成19∼20年度、⑲予算額318千円) 北海道内で流通する水産加工食品からの水銀摂取量評価 西村一彦、桂 英二(健康増進科) 水産食品の安全性を評価するため、生鮮魚介類に残留する総水銀量についての調査研究は広く行われているが、摂 取量の3割を占める加工食品についてのデータは少ない。本研究では水産加工食品からの総水銀摂取量評価を行うた めの基礎データの蓄積を目的としている。平成19年度は、缶詰29件の分析を行った。総水銀の濃度範囲は0.009∼ 0.139μg/g、平均値は0.054μg/g であり、暫定的規制値0.4μg/g を超える試料は確認されなかった。 健康科学3 応募研究(科学研究費(基盤研究B)分担) (平成18∼20年度、⑲予算額500千円) 海藻のプロスタグランジン産生機構 西村一彦(健康増進科)、板橋 豊(北海道大学大学院水産科学研究院) オゴノリが産生するプロスタグランジン(PG)を定量するための高感度蛍光 HPLC 分析法の検討を行い、その前 駆脂肪酸との同時分析法を確立した。検出限界は0.01μg/g、定量範囲は0.05μg/mL∼1.0μg/mL であった。オゴノ
リ抽出物から PGE2が約200μg/g(湿重量)、PGA2、PGF2α、15-keto-PGE2も少量検出された。また、微量である
が前駆脂肪酸と反応中間体と考えられるピークも確認できた。 健康科学4 重点領域特別研究 (平成17∼19年度、⑲予算額1,351千円(総額3,077千円)) 道内未利用資源を利用する建材開発と評価システムの提案 −北海道エコマテリアル“do! Ecomat”システムの構築に向けて− 神 和夫(健康科学部)、小林 智、小島弘幸、武内伸治(生活保健科)、高橋哲夫(健康科学部) 共同研究機関:北海道立北方建築総合研究所、北海道立工業試験場、北海道立林産試験場、 北海道大学大学院工学研究科、民間企業 【目的】北海道には農林水産業由来の廃棄物、建設廃材、地下埋蔵物など、未利用資源が数多く存在している。これ らを建材等に製品化できれば廃棄物抑制、廃棄物処理に多額の費用を支出する一次産業の経営改善、地域ビジネスの 創出に大きく貢献できる。本研究は、道内未利用資源を対象として新たな建材等の開発を行うことを主な目的とした。 併せて、低廉・簡便な設備投資で地域生産を可能にする加工・成形技術の確立と、開発を進めるための支援システム を構築することとした。当所は①市販のいわゆる健康建材の性能評価、②開発した建材の評価、③建材等の開発の基 礎資料とするため、問題建築物の室内空気質の評価を行った。 【方法】①小型チャンバーに市販の建材を設置し、放散した化学物質を捕集管に捕集し、加熱脱着−GC/MS 法で分 析した。②本研究で開発した建材(内装下地用木炭ボード)の性能評価:開発した建材を実大住宅の1室(天井及び 壁面)に施工し、そこに化学物質放散源(ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、酢酸ブチル)を設置し、化学物 質の低減化効果を評価した。③健康被害の生じた住宅及び学校の室内空気を捕集し、原因物質の探索を行った。アル デヒド類は DNPH カートリッジに捕集し、HPLC で分析した。VOC は捕集管に捕集し、加熱脱着−GC/MS 法で分 析した。SVOC は固相ディスクに捕集し、GC/MS で分析した。 【結果及び考察】①市販健康建材の評価:溶剤由来の VOC はほとんど検出されなかった。②木炭ボードによる室内 空気中化学物質濃度低減化効果:室内空気中 VOC 濃度を経時的に測定した結果、VOC 濃度が低下し木炭ボードの 吸着性能が確認できた。③新築住宅において化学物質過敏症を発症し、嗅覚が過敏になった事例が見られ、無臭の建 材開発を含めた臭気対策が求められた。また、健康影響が生じた学校において,室内空気中化学物質を精査した結果、 原因として2種類の未規制化学物質が疑わしいことを明らかにした。これらの物質は室内空気汚染が少ないと言われ ている水性塗料の成分であることが判明したが、このような物質にも注意を向ける必要がある。今後は揮発性物質に よる室内空気汚染がより少ない塗料の開発が望まれる。また、未規制化学物質にも対応できるよう TVOC 測定法の 標準化などの整備が必要である。
健康科学5 重点領域特別研究 (平成18∼19年度、⑲予算額2,056千円(総額 4,011千円)) 遺伝子導入細胞を用いたダイオキシン類簡易測定法の開発とモニタリングへの適用に関する研究 小島弘幸、武内伸治、小林 智(生活保健科)、高橋哲夫、神 和夫(健康科学部)、姉崎克典、山口勝透、 大塚英幸、芥川智子(北海道環境科学研究センター) 【 目 的 】 ダ イ オ キ シ ン 類 の 測 定 法 に 係 わ る 公 定 法 は 、 高 分 解 能 ガ ス ク ロ マ ト グ ラ フ − 高 分 解 能 質 量 分 析 計 (HRGC/HRMS)を用いて定量分析する方法であるが、測定に要する費用が高額で時間がかかることなどが問題と なっている。 本研究では、 衛生研究所と環境科学研究センターがこれまで蓄積している研究技術を活用して、 HRGC/HRMS 法の結果と高い相関を示す迅速で安価なダイオキシン類簡易測定法を開発することを目的とした。 【方法】ダイオキシン類に対して高感度に応答する遺伝子導入細胞を用いた簡易測定法を開発し、環境試料(排出ガ ス、 ばいじん・燃え殻、 一般大気) 及び食品試料 (魚介類) に含まれるダイオキシン類濃度の測定を行い、 HRGC/HRMS 法の結果と比較した。 【結果】①安定型発現細胞株 DR-EcoScreen 細胞を用いたレポーター遺伝子アッセイ法を開発した。②排出ガス及 びばいじん・燃え殻の環境75試料について、本法は HRGC/HRMS 法と高い相関(r=0.94, n=31及び r=0.96, n =44)を示した。③一般大気69試料について、本法は HRGC/HRMS 法と高い相関(r=0.98)を示した。②魚介類 30試料について、本法は HRGC/HRMS 法と高い相関(r=0.96)を示した。④魚介類20試料について、EU での基 準値を指標にスクリーニング試験を実施したところ、道産魚介類の身の部分には基準値を超過するものはなかったが、 内臓部分で一部基準値を超過するものを認めた。 【考察】HRGC/HRMS 法を補完するダイオキシン類簡易測定法(AhR レポーター遺伝子アッセイ法)が確立され たことから、環境や食品試料に含まれるダイオキシン類の残留レベルを迅速で安価に把握することが可能となった。 この方法を行政的な試験に組み入れるなど、道民の健康維持や食の安全・安心の確保に関する施策に利用できると考 えられる。なお、本法は平成19年度環境省が公募した排出ガス・ばいじん・燃え殻における簡易測定法(公定法)と して認可される見込みとなった。 健康科学6 一般試験研究 (平成18∼19年度、⑲予算額283千円(総額467千円)) 北海道における花粉症の予防に関する基礎的調査研究 −イネ科牧草花粉及びヨモギ花粉の飛散状況調査− 小林 智、小島弘幸、武内伸治(生活保健科)、高橋哲夫(健康科学部) 研究協力機関:渡島保健所、岩見沢保健所、上川保健所、帯広保健所、北見保健所 【目的】北海道における花粉症は、春季のシラカバ花粉症が注目されている。夏季のイネ科牧草花粉、秋季のヨモギ 花粉による患者数も少なくないが、これらの花粉の飛散状況に関するデータは乏しく、飛散状況を把握することは花 粉症予防対策上重要である。本研究ではこれらの花粉の飛散状況を調査し、飛散予測手法の開発を行うことを目的と した。 【方法】平成18年度は札幌、岩見沢、旭川、帯広の4地点で、平成19年度はこれらの地点に函館と北見を加えた6地 点で観測を実施した。各観測地点の屋上に設置した花粉捕集器にワセリンを塗布したスライドグラスをセットし、24 時間毎に交換した。スライドグラス上に捕集した花粉は染色後、顕微鏡下で計数した。 【結果及び考察】イネ科花粉は5月下旬から7月下旬ないし8月上旬までと、それ以降の二峰性の飛散を示した。平 成18年のイネ科花粉の総飛散数は札幌が最高で帯広が最低であった。月別飛散割合は、札幌では6∼7月に全飛散数 の90%程度がこの間に飛散した。8∼9月に飛散するイネ科花粉はススキなど在来種のものと考えられるが、飛散割 合は数%に止まった。平成19年の総飛散数は、札幌が最高で、北見が最低であった。月別飛散割合は、札幌と北見が 6∼7月に全飛散数の90%程度が飛散し、他の地域ではこの間に75∼86%とやや少なく、8月まで含めると90%以上 の飛散量となった。札幌でのこれまでの調査から、総飛散数は当年の夏季における日平均気温の積算値(5月中旬∼ 7月中旬)と相関があることが判明した。 ヨモギ花粉は、平成18年においては帯広を除く3都市で8月中旬から飛散が見られ、8月下旬ないし9月初めから 飛散量が増加し、9月10日前後に飛散のピークがあり、9月下旬まで飛散がみられた。帯広では飛散開始日、飛散終 了日とも他と比べて1週間程度早い傾向が見られた。函館と北見を加えて観測した 平成19年の調査結果では、函館
の飛散量が118個/cm2と最も多く、他の地域の3∼9倍であった。月別飛散割合は、8月に24∼60%、9月に40∼71 %であり、10月は0∼7%であった。札幌でのこれまでの調査から、総飛散数は5月中旬∼7月中旬における日照時 間及び全天日射量と相関があることが判明した。 本研究により、イネ科花粉及びヨモギ花粉の飛散量は、当該年の5月中旬∼7月中旬の気象条件からある程度の予 測が可能となった。 健康科学7 一般試験研究 (平成18∼19年度、⑲予算額356千円(総額669千円)) 環境ホルモン様作用を指標とした身の回りの化学物質の安全性評価 武内伸治、小島弘幸、小林 智(生活保健科)、高橋哲夫(健康科学部) 【目的】現代人の生活には化学物質が不可欠なものとなっており、身の回りには生活用品や食品などに含まれる多種 多様な化学物質が存在する。しかしながら、これらの化学物質による環境ホルモン様作用については未解明な部分が 多い。本研究では、身の回りの化学物質の環境ホルモン様作用を明らかにする目的で、これまで我々が開発したアッ セイ法を用い、環境ホルモン様作用に関与する7種類の核内受容体への化学物質の作用を測定した。 【方法】試験化学物質として、生活用品や食品に添加される化学物質のうち、比較的低分子量の脂溶性物質50物質を 選択した。7種類の核内受容体を個々に発現させた細胞に、試験化学物質を添加して培養した後、化学物質が核内受 容体に結合することによって産生された酵素(ルシフェラーゼ)の活性を測定した。なお、本研究で測定した7種類 の核内受容体は、女性ホルモン受容体(ER)α及びβ、アンドロゲン受容体(AR)、甲状腺ホルモン受容体(TR)、 ペルオキシゾーム増殖剤活性化受容体(PPAR)α及びγ、レチノイド X 受容体(RXR)である。 【結果】試験を行った50物質のうち、14物質に ERα活性化作用、3物質に ERα抑制作用が認められた。ERαと共 通の13物質及び他1物質に ERβ活性化作用、ERαと共通の1物質及び他2物質に ERβ抑制作用が認められた。ま た、AR 抑制作用が20物質に、TRβ抑制作用が2物質に認められた。RXR アッセイについては、活性化作用が2物 質に、抑制作用が4物質に認められた。さらに、PPARα活性化作用が4物質に認められ、弱い PPARγ活性化作用 が1物質に認められた。 【考察】本研究でアッセイを行った7種類の核内受容体への作用を有する身の回りの化学物質が複数あり、化合物に よっては複数の核内受容体への作用を有するものが存在することが明らかになった。特に、ベンゾフェノン類、臭素 化ジフェニルエーテル類、トリクロサン、ビスフェノール類など、分子内にベンゼン環を2つ有する化合物に様々な 作用が認められた。また、保存料であるパラベン類の ERαを介したエストロゲン作用については報告があるが、本 研究により、パラベン類が ERαだけでなく ERβへの作用も有することが明らかとなった。今後は、本研究で測定 した以外の身の回りにある化学物質についても、核内受容体への作用を調べていく必要があると思われる。 健康科学8 民間等共同研究 (平成18∼19年度、⑲予算額 500千円(総額1,000千円)) 化学物質における甲状腺ホルモン受容体を介した内分泌撹乱作用に関する研究 小島弘幸、武内伸治(生活保健科)、飯田 満(大塚製薬㈱) 【目的】ヒト甲状腺ホルモン受容体(TR)はαとβのサブタイプが存在し、生物の発育・成長及び恒常性維持に重 要な役割を果たしている。新たに開発した甲状腺ホルモン応答性レポーター遺伝子アッセイ法により農薬や PCB な どの化学物質について甲状腺ホルモン受容体を介した内分泌撹乱作用の有無を調べるとともに、本アッセイ法の有用 性を検証した。 【方法】ヒト型甲状腺ホルモン受容体(TRαと TRβ)発現プラスミド、レチノイド X 受容体(RXR)発現プラス ミド及び甲状腺ホルモン受容体応答配列(TREpal と TRE-DR4)を組み込んだレポータープラスミドを開発した。 プラスミドを導入した哺乳動物細胞に農薬や PCB 類など約300種類を添加し培養後、TRs 及び RXR 共発現細胞及 び RXR 単独発現細胞に応答して産生されるルシフェラーゼの酵素活性をルミノメーターにより測定することで、化 学物質における TRs や RXR を介した内分泌撹乱作用の有無を調べた。 【結果及び考察】農薬200物質のうち、いずれの物質にも TRα、TRβ及び RXRαに対するアゴニスト・アンタゴ ニスト活性を認めなかった。PCB 類100物質では、13物質に RXRαに対するアゴニスト活性を認め、6物質及び4 物質に TRα及び TRβアンタゴニスト活性をそれぞれ認めた。これらの活性にはビフェニルに対する水酸基や塩素
の結合位置が重要であり、化学構造との間にある程度の相関が見られた。以上の結果から、本アッセイ法は様々な化 学物質における TRα/β活性をスクリーニングするための高感度レポーター遺伝子アッセイ法として有用であること が示唆された。 健康科学9 民間等共同研究 (平成19∼20年度、⑲予算額60千円) パルスモニターを用いたシラカバ空中花粉の自動計測に関する研究 小林 智、武内伸治(生活保健科)、藤田敏男(㈱大和製作所) 本道以外では、スギ花粉症に対処するために、簡易で自動的な空中花粉測定法が普及しつつあるが、北海道で問題 になっているシラカバ花粉については、適用可能な自動計測機器が開発されていない。本研究では、共同研究機関が 新たに開発したパルスモニターによるシラカバ花粉の自動計測の可能性を検証する。初年度はシラカバ花粉を他の花 粉から弁別するレンジを設定し、そのレンジにおける測定値とダーラム法により捕集した花粉数を比較検討した。 健康科学10 応募研究(科学研究費(基盤研究C)代表) (平成19∼20年度、⑲予算額1,900千円) 室内空気中化学物質による核内受容体を介した内分泌・ストレス・薬物代謝に及ぼす影響 小島弘幸、武内伸治、小林 智(生活保健科)、千葉真弘(飲料水衛生科) 室内空気中の化学物質約100物質について、エストロゲン受容体α/β、アンドロゲン受容体、甲状腺ホルモン受容 体α/βの各種核内受容体及びダイオキシン受容体を介した作用をレポーター遺伝子アッセイ法により調べた。さら に、グルココルチコイド受容体、プログネノロン X 受容体、ペルオキシゾーム増殖剤活性化受容体α/γの各種核内 受容体活性を検出するためのレポーター遺伝子アッセイ法を確立した。 健康科学11 応募研究(科学研究費(基盤研究B)分担) (平成18∼19年度、⑲予算額1,000千円(総額2,000千円)) シックハウス症候群の病態形成における免疫応答関与に関する動物実験および臨床研究 小島弘幸(生活保健科)、伊藤俊弘、杉岡良彦、中木良彦、吉田貴彦(旭川医科大学医学部)、 坂部 貢(北里研究所病院臨床環境医学センター) 【目的】化学物質過敏症(MCS)を含むシックハウス症候群は、病態解明がなされておらず、客観的な診断法や治 療法のないことが問題となっている。シックハウス症候群における免疫系への影響を調べるため、マウスを用いてホ ルムアルデヒド(FA)曝露群と非曝露群における血中リンパ球及び脾細胞での遺伝子発現についてマイクロアレイ を用いた網羅的解析により検討を行った。また、MCS 患者と健常者の血中リンパ球での遺伝子発現状態を比較し、 数種類の遺伝子について病態への関与について検討した。 【方法】B6C3F1マウス(5週齢)にチャンバー内で FA(0.5ppm)を1日8時間、4週間曝露した。コントロール 群は FA の代わりに空気を曝露した。曝露終了後、各群から血中リンパ球及び脾細胞を採取し、それぞれ total RNA を抽出・精製した。Mouse Whole Genome Oligo Microarray(約44,000遺伝子,アジレント社)に Cy3/Cy5標識 cRNA をそれぞれハイブリダイゼーションさせ、アレイスキャナー GenePix を用いて遺伝子発現変化を網羅的に調 べた。また、MCS 患者と健常者の血中リンパ球での数個の遺伝子について定量 RT-PCR 法により発現解析を行っ た。 【結果及び考察】FA 曝露マウスの血中リンパ球及び脾細胞では、それぞれ数百単位の変動遺伝子を認めた。これら の中には、アレルギーを増悪させるサイトカイン遺伝子が含まれていた。このことから、マウスを用いた遺伝子発現 解析はシックハウス症候群の病態解明に向けて強力なツールになると考えられた。MCS 患者では健常者に比べ、減 少傾向を示す変動遺伝子が10種類に認められたが、RT-PCR の結果、有意な差を示した遺伝子は1種類であった。 このことは、本疾患の複雑性を示唆するものであり、動物等を用いた更なる基礎的な検討が必要と考えられた。 健康科学12 応募研究(科学研究費(萌芽研究)分担) (平成19∼20年度) 化学物質過敏症の発症要因解明と芳香療法による症状緩和(無作為化割付介入研究) 神 和夫(健康科学部)、小林 智(生活保健科)、佐田文宏(企画情報室)、岸 玲子(北海道大学医学部) 化学物質過敏症は通常の人であれば、全く症状を出さないような極微量の環境中の化学物質に反応し、種々多彩な
症状を訴える病態であるが、発症要因等未解明な点が多い。本研究は化学物質過敏症の症状緩和のために、快適性の 高い芳香を用いる芳香療法の有効性を検討することを目的とした。当所は北大大学院医学研究科公衆衛生学分野が実 施している標記課題に協力し、芳香療法で用いられる精油成分の分析法について検討を行った。 健康科学13 応募研究(厚生労働科学研究費(食品の安心・安全確保推進研究事業)協力) (平成19∼21年度、⑲予算額200千円) ダイオキシン類等の有害化学物質による食品汚染実態の把握に関する研究 高橋哲夫(健康科学部)、堤 智昭(国立医薬品食品衛生研究所) 食品経由のダイオキシン摂取量を把握するためにマーケットバスケット方式による調査を行った。当所では北海道 地域における調査試料の調製を行った。ダイオキシン類の分析は分析担当機関が行い、全国的な調査結果は研究報告 書として公表される予定。 健康科学14 応募研究(厚生労働科学研究費(食品の安心・安全確保推進研究事業)協力) (平成19∼21年度、⑲予算額50千円) 食品中の有害物質等の摂取量及び評価に関する研究 高橋哲夫(健康科学部)、松田えり子(国立医薬品食品衛生研究所) 農薬、重金属などの食品汚染物の摂取量を把握するためにマーケットバスケット方式による調査を行った。当所で は北海道地域における調査試料の調製を行った。汚染物の分析は分析担当機関が行い、全国的な調査結果は研究報告 書として公表される予定。 健康科学15 応募研究((財)秋山記念生命科学振興財団(奨励助成)) (平成19年度、予算額500千円) 核内受容体アッセイ法を用いた植物由来食品成分の生理機能に関する研究 武内伸治、小島弘幸(生活保健科) 【目的】植物性食品の多くは世界各地で古くから人々の生命を支えてきたことから、健康に良く安全というイメージ が定着している。一方、核内受容体ファミリーのタンパク質は、癌やメタボリックシンドロームなど生活習慣病に対 する創薬研究の重要な標的分子となっている。本研究では、我々が開発したアッセイ法を用いて植物由来化学物質の 核内受容体への作用を測定することにより新たな生理機能を見出し、それらを含有する植物性食品の機能性をさらに 活用するための基礎的知見を得ることを目的とした。 【方法】試験化学物質として、植物由来化学物質であるフラボン類、イソフラボン類、カテキン類、リグナン類及び それらの代謝物など合計31物質を用いた。用いた核内受容体は、女性ホルモン受容体(ER)α及びβ、アンドロゲ ン受容体(AR)、甲状腺ホルモン受容体(TR)α及びβ、ペルオキシゾーム増殖剤活性化受容体(PPAR)α及び γ、レチノイド X 受容体(RXR)である。核内受容体を個々に発現させた細胞に、試験化学物質を添加して培養し た後、試験化学物質が核内受容体に結合することによって産生された酵素(ルシフェラーゼ)の活性を測定した。 【結果】試験化学物質31物質について8種類の核内受容体への作用を調べた結果、16物質に ERα、19物質に ERβ への作用が認められ、この内16物質は ERαへの作用よりも ERβへの作用の方が強かった。また、AR を活性化す る化合物は認められなかったものの、AR 抑制作用がバイオカニンA、O-デスメチルアンゴレンシン、エンテロラ クトン、フラボンに認められた。さらに、PPARα 活性化作用がバイオカニンAにのみ認められた。なお、TRβ、 RXRα、PPARγ アッセイではいずれの物質も作用が認められなかった。 【考察】これまで30物質以上に及ぶ植物由来化学物質について8種類もの核内受容体への作用を包括的に比較検討し た研究はなく、本研究により植物由来化学物質及びその代謝物が複数の核内受容体への作用を有することが明らかに なった。また、ERα及びβへの作用にはベンゼン環に結合する水酸基の数や位置が重要であることなど、化学構造 と作用の関係に関する知見が得られた。今回試験を行った植物由来化学物質は全体のごく一部であり、今後のさらな る研究により、核内受容体に関わる未知の機能性が一層明らかになることが期待される。
健康科学16 重点領域特別研究 (平成17∼19年度、⑲予算額538千円(総額2,093千円)) 温泉資源の多目的利活用に向けた複合解析研究 内野栄治、青柳直樹、中山憲司(温泉保健科) 共同研究機関:北海道立地質研究所、札幌大学経営学部 【目的】当所では主として健康志向を取り込んだ温泉の利活用を推進する目的で、道内の市町村が所有している温泉 資源や温泉利用施設の現況並びに温泉を活用した健康づくりの実態について調べた。 【方法】2005年11月∼2006年11月にかけて、道内196市町村(当時)を対象に温泉資源(7項目)、温泉利用施設(19 項目)、健康づくり(6項目)等に関連するアンケート調査を行った。さらに先の調査を基に、温泉を活用した健康 づくりを推進している市町村の中から10市町(豊富町、壮瞥町、利尻富士町、稚内市、中川町、黒松内町、奥尻町、 上ノ国町、乙部町、東川町)を選び、担当者からその内容について現地にて聞き取り調査を行った。 【結果及び考察】アンケートの回収率は90.8%であった。結果の概要は以下のとおりであった。温泉資源:所有して いる市町村は77.5%で、その目的は産業(60.9%)、生活(53.3%)、医療(46.0%)などと幅広く、医療では保養 (93.2%)が最も多かった。温泉利用施設:所有する市町村は69.7%で、その目的は保養(64.5%)が多く、以下、観 光 (58.6%)、 健康づくりの場(45.7%) などがあった。施設には休憩室(81.2%)、健康器具 (79.0%)、 サウナ (53.8%)などがあったが、運動施設(16.1%)や温水プール(4.1%)は少なかった。また、施設の1km 周辺には各 種運動施設(72.0%)、公園(48.9%)などがあり、運動施設としてはパークゴルフ場(65.7%)やゲートボール場 (36.6%)が上位を占めた。専門職員の配置は25.3%に達していたが、その多くは調理師(76.6%)であり、健康相談 が可能な看護師(17.0%)、保健師(6.4%)などは極めて少なかった。運営は直営が29.0%であった。健康づくり: 施設を利用した健康づくりに取り組んでいる市町村は30.3%であった。その内容は健康教室(72.2%)、利用券の交付 (46.3%)、福祉バスの運行(48.1%)が主体で、入浴指導(20.4%)、水中運動(11.1%)、高齢者筋肉トレーニング (7.4%)などは少なかった。一方、聞き取り調査から、豊富町では平成18年度から施設の利用促進と町民や町外の湯 治客の健康増進を図るため、職を離れていた地元の保健師を勤務可能な日時を条件に施設の相談員として配置したり、 壮瞥町では平成13年度から65歳以上の高齢者(約1,000人)を対象に、町営の4施設の利用を無料にするなど、ユニー クな事業の詳細が明らかとなった。しかし、温泉に関わる事業を継続するには施設の老朽化、燃料の高騰、泉質に起 因する維持管理、衛生管理、利用者の減少、運営体制の見直しなど、課題を抱えている市町村も多くみられた。その ような状況で、温泉を活用した健康づくりをより効果的に進めるには、温泉だけでなく、温泉周辺の既存の各種運動 施設や自然の活用、専門員や指導者の配置など地域の実情にあった理想的なシステムを模索する必要がある。また、 温泉と健康づくりに関する実績や科学的なデータなどを集積する必要もある。今後、縦割り行政の壁を低くし、温泉 を管轄する部署だけでなく、保健福祉関係や企画部門などが中心になり、温泉を活用した健康づくりが行政施策の一 つとして検討されることを期待する。 その他、本研究では温泉の分析データ(温度、pH、化学組成、泉質名等々)についてデータベースを構築した。 また、地質研究所と共同で温度や泉質などのデータが少ないか、もしくは古い28カ所の天然の温泉(野天)の湧出状 況や泉質等を明らかにした。 健康科学17 一般試験研究 (平成17∼19年度、⑲予算額709千円(総額1,415千円)) 温泉水の生体影響に関する実験的研究 −遺伝子工学的手法を用いた温泉水の科学的評価に関する研究− 中山憲司、青柳直樹、内野栄治(温泉保健科)、鈴木智宏、孝口裕一、加藤芳伸(遺伝子工学科) 【目的】温泉療法は慢性皮膚疾患、代謝疾患、加齢に伴う全身的な機能低下や調節障害などにも改善が期待され、利 用例も多い。しかしながら、その評価の多くは経験、主観によってなされ、必ずしも科学的に裏付けされていない。 当所では、これまでに各種温泉水のアトピー性皮膚炎(AD)に対する効果を評価するため、AD モデル動物として 使用されている NC/Nga マウスを用いて実験系の有効性を確認し、泉質の違いによっても皮膚症状の改善等に大き な差異があることを認めた。また、このような効果を遺伝子レベルで検証するため、AD を発症したマウスのリンパ 球における遺伝子発現特性を機能別に明らかにした。本研究では AD 発症により著明な変動を示した酸化ストレス に関与する遺伝子群に注目し、AD 発症に伴う酸化ストレスの指標元素である亜鉛の代謝との関連性を調べ、酸化ス
トレス関連遺伝子群の発現を定量的に解析した。さらに、これらの遺伝子群発現に対する温泉水の影響について調べ た。 【方法】①4週齢の雄性 NC/Nga マウスを購入し、通常環境下で16週間飼育し、AD を発症させた。その後、目視 により AD の発症群と非発症群に分類し、体重、皮膚症状、血清 IgE 値、臓器(肝臓、腎臓、脾臓)別の重量、亜 鉛及び銅濃度について調べた。②先と同様に14週間飼育した後、発症群と非発症群に分類し、体重、皮膚症状、血清 IgE 値、末梢血中の酸化ストレス関連遺伝子群(メタロチオネイン(MT)Ⅰ及びⅡ、スーパーオキシドジスムター ゼ(SOD)、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ(cGPx))の発現量を調べた。発症群の半数はさらに3カ 月間、4群に分割飼育した。その間、蒸留水を対照として、異なる3種類の温泉水、(A)油分を含みメタホウ酸を 多く含有する中性の食塩泉、(B)鉄とアルミニウムを多く含有する酸性泉、(C)弱アルカリの硫黄泉を隔日1日に 2回噴霧し、皮膚症状、血清 IgE 値、MTⅠ及びⅡの発現量を調べた。 【結果及び考察】NC/Nga マウスは AD 発症に伴い、肝臓・胸腺の萎縮や脾臓の肥大を示すと共に、臓器中の亜鉛 濃度や含量に顕著な変動を認め、亜鉛代謝異常を伴うことが明らかとなった。また、末梢血では酸化ストレス防御に 関与する MTⅠ及びⅡの mRNA の発現量に有意な増加(p<0.05)が認められた。このことから、NC/Nga マウスに おける AD 発症は全身的な酸化ストレス暴露であることが示唆された。次に3種類の温泉水の影響について検討し た結果、A泉では対照群と比較し皮膚症状の軽快(p<0.05)及び血清 IgE 値の低下(p<0.05)が認められた。そし て、遺伝子レベルにおいても MTⅠの発現量が抑制(p<0.05)された。しかし、B、C泉では対照群と比較し、皮 膚症状や血清 IgE 値、酸化ストレスに関与する mRNA について有意差(p<0.05)は認められなかった。むしろ、 B泉では MTⅡの発現量の増加と MTⅠの発現量についても有意ではないが増加傾向がみられた。これらのことから、 AD の症状の程度に応じた温泉水の選定や使用法を考慮しなければ、酸化ストレスに至ることも明らかとなった。 本研究では末梢血中の MTⅠの mRNA 発現量を指標とすることにより、AD に対する温泉水中の化学成分の効能 を遺伝子レベルで評価することが可能となった。 健康科学18 応募研究(科学研究費(基盤研究C)代表) (平成19∼21年度、⑲予算額2,000千円)) 家系内遺伝子検索による先天性銅代謝異常症(ウイルソン病)の予防医学的研究 中山憲司(温泉保健科)、加藤芳伸、鈴木智宏(遺伝子工学科)、澤田幸治(衛生研究所)、 清水教一(東邦大学医学部) ウイルソン病(WND)は、およそ3万人に1人の割合で発症する先天性の銅代謝異常疾患である。本研究では、 WND の患者を有する家系において、病因遺伝子の家系内検索を行い、発症前患者の早期発見を試みている。 健康科学19 一般試験研究 (平成17∼19年度、⑲予算額375千円(総額1,115千円)) 湧水の安全性評価に関する調査研究 伊藤八十男、泉 敏彦、千葉真弘(飲料水衛生科)、福田一義(健康科学部) 【目的】北海道には名水と称される湧水が70カ所以上あり、おいしい水として地域の住民や観光客等により飲用され ているものも多い。しかし、これらの湧水は「水道法」や「北海道飲用井戸等衛生対策要領」の適用外であるため、 湧水施設の管理責任者等により水質検査が行われているものはほとんど無いのが現状である。本研究は、道内で飲用 に利用されている湧水について、糞便汚染の有無、水質成分組成や化学物質の含有量の実態を水質基準等に基づいて 評価することにより、飲用水としての安全性を確保することを目的とする。 【方法】道内の、利用状況が多い計24カ所の湧水施設から湧水試料を採取し、糞便由来のクリプトスポリジウム指標 菌(大腸菌及びウエルシュ菌)の試験を行った。また、硝酸及び亜硝酸イオンを含む水質主要成分(陽イオン類、陰 イオン類)のほか、廃棄物由来と考えられる化学物質(鉛、クロム等の重金属類、トリクロロエチレン、ベンゼン等) の含有量を分析した。あわせて、各湧水の湧出口周辺の環境整備状況を調査した。これらの結果から、道内の湧水の 飲用に係る安全性評価を行った。 なお、水道事業や業務用の原水として、関係法令に基づき定期的に水質検査を行っているものは調査の対象としな かった。 【結果及び考察】水質調査により、1湧水施設について大腸菌検出により飲用不適と判断された。その他の施設につ
いては、調査時点では飲用上特に問題となるものはなく安全性が確認された。一方、周辺環境調査により、1カ所で 導水管の破損、数カ所で動物の足跡、ゴミの散乱等が認められた。他の施設では、概ね適切に衛生管理されていた。 天然水の水質は、環境条件により変化するため、湧水施設の管理者等による水質検査、衛生管理等が必要であると考 えられる。 健康科学20 一般試験研究 (平成17∼19年度、⑲予算額281千円(総額798千円)) 水道用水源として利用される河川水・湖沼水の安全性評価に関する調査研究 泉 敏彦、千葉真弘、伊藤八十男(飲料水衛生科) 【目的】河川水中のクリプトスポリジウムのオーシストを簡便に検出するために、メンブランフィルター濾過法の代 替法として、水生生物を指標とする新たな検出技法を開発して、その実用化を検討する。 【方法】実験室において汽水性底性二枚貝のヤマトシジミ及び淡水性底性二枚貝のイケチョウガイのオーシスト収集 能力及び水濾過能力等について検討した。その後、これらの貝を河川に設置し、オーシスト捕捉手段としての有効性 について検討した。 【結果及び考察】これまでの検討の結果、①ヤマトシジミ及びイケチョウガイ共に、水中のクリプトスポリジウムの オーシストを餌と共に消化管内に摂取し、そのまま消化することなく沈降性の高い糞中に排泄すること、②体重25g のヤマトシジミ及び体重500g のイケチョウガイは、水温15∼20℃で各々200∼300mL/hr 及び10∼16L/hr の水濾過能 力があること、等の結果が得られた。次いで、野外試験として、これらの貝を河川に設置したところ、汽水域(河口 域)に設置したヤマトシジミについてはその糞よりオーシストを検出することができ、オーシスト捕捉手段としての 有効性を確認した。また、イケチョウガイについても、その高い水濾過能力から、淡水域におけるクリプトスポリジ ウム汚染に対するオーシスト捕捉手段として有望な生物であると考えられた。これらの結果から、二枚貝を利用した、 濁質成分の多少に左右されにくい、新たなオーシスト捕捉手段の実用化が期待できるものと思われる。 健康科学21 応募研究(環境省(地球環境保全等試験研究)協力) (平成18∼19年度、⑲予算額500千円(総額1,000千円)) 公共用水域の人畜由来汚染による健康影響リスクの解明と規制影響分析に関する研究 泉 敏彦(飲料水衛生科)、遠藤卓郎(国立感染症研究所)、国包章一(国立保健医療科学院) 【目的】淡水性底性二枚貝のイケチョウガイの水濾過能力等に着目し、原水中に混入したクリプトスポリジウムのオー シストの低減化における、イケチョウガイの生物濾過手段としての有効性について検討する。 【方法】実験室においてイケチョウガイのオーシスト収集能力及び水濾過能力等について検討した。その後、イケチョ ウガイを下水処理施設の最終沈殿池に設置し、濁度及び水中微生物の存在密度等を指標として、イケチョウガイによ るオーシスト低減効果について、実証実験を行った。 【結果及び考察】これまでの検討の結果、①淡水性二枚貝のイケチョウガイは、水中のクリプトスポリジウムのオー シストを餌と共に体内に取り込み、そのまま消化することなく沈降性の高い糞中に排泄すること、②体重500g の貝 は、水温15℃でも少なくとも10L/hr の水濾過能力があること、等の結果が得られた。そこで実際に貝を最終沈殿池 に設置し、水の濁度や微生物密度等を指標として、貝によるオーシスト低減効果について実証実験を行った結果、濁 度及び微生物密度共に貝の設置により対照群よりも20∼30%減少する傾向があることがわかった。このことより、イ ケチョウガイの最終沈殿池への設置は、オーシストの低減化に対して有効である可能性が示された。 健康科学22 応募研究(厚生労働科学研究費(地域健康危機管理研究事業)協力) (平成19∼21年度、⑲予算額200千円) 飲料水の水質リスク管理に関する総合的研究 伊藤八十男、千葉真弘(飲料水衛生科)、伊藤雅喜(国立保健医療科学院) 全国の水道事業体における、水道水中のカルシウム及びマグネシウム濃度の実態調査を行った。全国平均(平成18 年度、計516浄水場系統)で、カルシウムは13.8mg/L、マグネシウムは3.5mg/L であった。WHO の推奨する飲料水 中の最低濃度と比較した場合、推奨最低値を超えるものはカルシウムで20%弱、マグネシウムで2%程度であること
が明らかとなった。 健康科学23 一般試験研究 (平成18∼29年度、⑲予算額261千円) 北海道における放射線量率の分布及び人工放射性核種の動態について 佐藤千鶴子、市橋大山(放射線科学科)、福田一儀(健康科学部) 北海道における放射線量率分布及び環境試料中の放射性セシウム等の含有量レベルを把握するため、地域別に調査 を実施し、北海道全域におけるマップを作成する。これらを道民の安全に関する基礎資料とする。平成18∼20年度は 留萌・宗谷地区を対象とし、平成19年度は枝幸町及び猿払村において、牧草地の空間放射線量率を現地調査し、牧草、 土壌、原乳、飼料など環境試料(36試料)を採取して放射能分析を行った。 健康科学24 受託試験研究 (昭和32年度∼、⑲予算額16,319千円) 環境放射能水準調査[文部科学省科学技術・学術政策局原子力安全課防災環境対策室] 福田一儀(健康科学部)、佐藤千鶴子、市橋大山(放射線科学科) 平成19年度には、降下物、陸海水、土壌、農畜水産物など537試料について放射能分析を行った。結果において特 に異常な値は認められなかった。なお、試料名、採取地、採取時期、測定項目、測定機器及び測定結果については、 放射能調査年報51(平成19年4月∼平成20年3月)にとりまとめた。
3.食品薬品部
食品薬品1 受託試験研究 (平成19年度、予算額3,600千円) 残留農薬個別試験法開発[厚生労働省国立医薬品食品衛生研究所] 新山和人、青栁光敏(食品科学科) 【目的】厚生労働省では、ポジティブリスト制度の施行に伴い、現在までに残留農薬公定試験法が設定されていない 農薬について、個別分析法または一斉分析法の開発、作成を行うことを目的として残留農薬等分析法検討委員会を招 集している。我々はこの検討委員会に参加し、今年度はジフェニルアミンについて GC/NPD 及び GC/MS を使用す る個別分析法(通知法案)を作成した。 【方法】ジフェニルアミンについて、GC/NPD 及び GC/MS 分析のための基礎データ(保持時間、定量イオンの選 定、検出限界濃度など)及び試験溶液の調製法(抽出法、精製法など)を検討し、10種農産物(玄米、とうもろこし、 大豆、ばれいしょ、キャベツ、ほうれんそう、オレンジ、りんご、くるみ及び緑茶)に対する添加回収試験を行って 有効性を確認した。 【結果及び考察】基準値が設定されている農産物について、妨害がなく十分な感度が得られる(一律基準値の分析が 可能)分析法を確立した。また、10種農産物への添加回収試験の結果は、いずれも満足すべき結果(回収率70%以上、 変動係数10%以下)であった。これらの結果に基づきジフェニルアミン試験法(案)を厚生労働省へ報告し、今後こ れが通知される見込みである。 食品薬品2 受託試験研究 (平成19年度、予算額3,010千円) 平成19年度食品残留農薬等1日摂取量実態調査[厚生労働省食品局食品安全部] 新山和人、青栁光敏、久保亜希子(食品科学科) 【目的】厚生労働省では、国民が日常の食事を介してどの程度の農薬を摂取しているかを把握し、食品の安全性を確 認するため、毎年マーケットバスケット方式による調査事業を行っている。平成17年度からは、ポジティブリスト制 導入に伴って、広範囲の農薬について調査を行うこととなり、我々もこれを契機に本事業に参加している。平成19年 度は、GC/MS 一斉分析法が適用可能な農薬の一部を担当し、北海道における摂取量調査を行った。 【方法】平成17年度国民栄養調査における北海道ブロックの食品群別摂取量をもとに、飲料水を含む171食品を選び、 これを14群に分類して調査対象食品群とした。調査対象農薬は、GC/MS 一斉分析法が適用可能と思われる56種類とした。各食品群ごとに56農薬の分析を行い、各群ごとの農薬摂取量を計算した。 【結果及び考察】GC/MS 一斉分析法を、そのままでは適用できない農薬がいくつか認められたが、抽出法、クリー ンアップ法などを改良しすべての農薬について分析を行った。その結果、すべての食品群でいずれの農薬も検出され なかった。これらのデータは、厚生労働省において集計され、全国の結果がまとめて公表される見通しである。 食品薬品3 一般試験研究 (平成18∼19年度、⑲予算額440千円(総額953千円)) ポジティブリスト制に対応した動物用医薬品及び飼料添加物の残留分析法の開発 長南隆夫(食品薬品部)、藤本 啓、田沢悌二郎、井上真紀(食品保健科)、上野健一(生物資源管理科) 【目的】食品衛生法の改正に伴い、平成18年5月より食品中に残留する動物用医薬品及び飼料添加物(以下、動物薬) にポジティブリスト制が施行された。このため、新たな残留基準に対応できる動物薬の簡便かつ迅速な一斉分析法の 開発が急務とされている。そこで、本研究では、各種畜水産食品を対象として、サルファ剤等28種の動物薬の一斉分 析法及びキノロン剤12種の一斉分析法を検討した。 【方法】①試料:筋肉(牛、豚、鶏)、肝臓(牛、豚)、鶏卵、牛乳、養殖エビ、養殖ニジマスとした。②サルファ剤 等28種の動物薬の一斉分析法:試料を含水アセトニトリルで抽出し、アルミナカラムで精製後、n-ヘキサン−アセト ニトリル分配で脱脂し、試験溶液を調製した。動物薬は紫外分光光度型検出器付き HPLC(グラジエント溶出)で 分析した。③キノロン剤12種の一斉分析法:試料に水を加えて(牛乳には炭酸水素ナトリウムも加えた)混和した後、 含水アセトニトリルで抽出した。抽出液の1/5量を採り、水を加えてアセトニトリル濃度を60%に調整した後、オク タデシルシリル化シリカゲルミニカラムに注入し、溶出液を濃縮して試験溶液を調製した。キノロン剤は、蛍光検出 器付き HPLC(グラジエント溶出)で分析した。 【結果及び考察】①サルファ剤等の動物薬の一斉分析法は、筋肉に適用でき、26種の動物薬の分析が可能であった。 しかし、筋肉以外の食品では、妨害成分のため、分析が困難な動物薬が多数認められた。 ②キノロン剤の一斉分析法は、牛乳以外のすべての食品に適用でき、12種のキノロン剤の分析が可能であった。なお、 牛乳については、分析可能なキノロン剤は10種であった。 ③検討した2つの分析法は、新たな残留基準に対応でき、60%以上の回収率が得られ、室内再現性も良好であった。 また、既知の方法に比べ、簡便かつ迅速であることから、これらの動物薬の実用的な残留分析法と考えられた。 食品薬品4 応募研究(厚生労働科学研究(医薬品・医療機器等レギュラーサイエンス総合研究事業)協力) (平成18∼20年度、⑲予算額500千円) 生薬及び漢方処方の有用性評価手法・安全性確保と国際調和に関する研究 佐藤正幸(薬用資源科)、合田幸広(国立医薬品食品衛生研究所) 農薬の多くは脂溶性であり、通常水で煎じる漢方煎剤への移行率は低いと考えられるが、詳細については明らかで はない。そこで今回、有機リン系農薬が検出された生薬を用い、漢方処方煎液への農薬の移行について調べた。その 結果、補中益気湯においてキナルホス、MEP、DMTP、パラチオンメチル、マラチオン及び PAP で最大31%、半 夏厚朴湯においてはパラチオン及びパラチオンメチルで19%及び28%しか移行しないことが判明した。
4.微生物部
微生物1 民間等共同研究 (平成19年度、予算額100千円) イムノクロマト法に基づいたリステリア・モノサイトゲネス検出キットの日本国内分離株ならびに食品を用いた性能試験 山口敬治(微生物部)、野口 研、鈴木冨美、広中勇二(メルク㈱)、池田徹也(細菌科) 【目的】リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes:以下、Lm)は、1980年代に食品由来感染症原 因菌であることが確認され、食品への混入を防ぐことが重要であると考えられる。Lm 検査法の中で現在実施されて いる培養法は、最終判定までに1週間程度要する。イムノクロマト法によるリステリア検出は検査時間の短縮に寄与 するものの、リステリア属菌の検出にとどまった。今回、Lm のみを検出するイムノクロマト法による検査キット(以下、当該キット)が発売された。そこで、国内で分離されたリステリア属菌野生株を用いて当該キットの検出感 度及び精度を確認した。
【方法】菌株は国内で食品・環境・動物(ヒトを含む)から分離されたリステリア属菌を用いた。試験に供した Lm の血清型は1/2a、1/2b、1/2c、3b、4ab、4b、4c、4d、4e であった。Lm 以外のリステリア属菌5種を含め計40株を 用いた。菌株は BHI ブイヨンで3回継代し試験に供した。リステリア属菌を含まない鶏肉25g を Half strengthened FRASER 培地(HF 培地)225mL に加えストマッキングしたあと10mL ずつ滅菌試験管に分取し、これに各菌株を
それぞれ約103
cfu 添加し30℃で24時間培養した。一部の菌株については Listeria Enrichment Broth を併用した。 当該キットに培養液ならびに滅菌生理食塩水による10倍希釈液を添加し Lm による陽性バンドを観察した。培養液は 滅菌生理食塩水で10倍段階希釈し、Miles Misra 法により菌数を測定した。 【結果及び考察】食肉添加増菌培地中のリステリア属菌は24時間で108∼109 cfu/mL に達した。この結果は BHI ブイ ヨンに菌株のみを接種し培養した結果と同様であった。 Lm は血清型に関係なく検出感度は3.8×106 ∼1.5×107 cfu/mL で陽性バンドが確認された。一方、Lm 以外のリステリア属菌では1.9×107 ∼1.3×108 cfu/mL で陽性バンド は確認できなかった。BHI ブイヨンで菌株のみ培養した場合は109 cfu/mL 程度の濃度でも陽性バンドは確認できず、 Lm 以外のリステリア属菌による疑陽性反応は出ないと考えられた。 微生物2 民間等共同研究 (平成19年度、予算額100千円) 乳製品・食肉中の黄色ブドウ球菌検出培地の性能比較 池田徹也(細菌科)、森本 洋、駒込理佳、清水俊一(食品微生物科)、守山隆敏、中西亮太、 北原章生(スリーエム㈱)、山口敬治(微生物部) 【目的】食品中における黄色ブドウ球菌検査法について、新しい培地の導入も含めて検査法の標準化について現在検 討が進められている。この検討に資するため、従来使用されている培地や現在検討中の培地について黄色ブドウ球菌 野外株等を用いて比較し、推奨できる分離培地を検討した。 【方法】当所で保管されている由来の異なる黄色ブドウ球菌野外株16株を試験菌株とし、それぞれトリプトソイブイ ヨンで37℃、24時間培養した。この培養液を生理食塩水で適宜希釈したものを試験原液とし、その0.1mL をトリプト ソイ寒天培地(TSA)、X-SA 培地(X-SA)、クロモアガースタッフアウレウス培地(CSA)、ベアード・パーカー 培地(BP)、卵黄加食塩マンニット培地(MSEY)にそれぞれ2枚ずつ塗沫し、24∼48時間後に菌数測定を行った。 また、黄色ブドウ球菌の菌数が保証されている Easy QA Ball(日水製薬)を用いて、TSA、X-SA、CSA、BP、 MSEY で同様に菌数測定を行った。更に、増菌培養により既に黄色ブドウ球菌が検出されたナチュラルチーズ12検 体に対して、X-SA、CSA、BP、MSEY、ブドウ球菌 EX プレート(EX)の直接塗沫による定性・定量試験を行っ た。
【結果及び考察】野外株や Easy QA Ball を用いた菌数測定では、5種類の寒天平板(TSA、X-SA、CSA、BP、 MSEY)による菌数に大きな差は認められなかった。チーズの黄色ブドウ球菌検査では、使用した培地により陽性数 が異なり、X-SA で1、CSA で1、BP で2、MSEY で2、EX で4であった。EX は、検体の接種量が他の培地の 10倍であるため、陽性数が多くなったと考えられる。陽性検体のうち1検体は、全ての培地で黄色ブドウ球菌が検出 された。しかし、菌数は培地ごとに大きく異なり、最も少ない MSEY では2,000cfu/g、最も多かった BP では45,650 cfu/g となった。現在、日本では食品の黄色ブドウ球菌検査には MSEY が多く使用されている。今回の結果は、使 用する培地によって検出率や菌数が大きく変わる可能性があることを示唆している。今後、チーズ以外の食材を使用 した更なる培地の比較検討が必要と考える。 微生物3 外部資金活用研究(農林水産省(平成19年度先端技術を活用した農林水産研究高度化事業)分担) (平成18∼20年度、⑲予算額3,150千円) 食品媒介性細菌の動態と防除に関する研究 池田徹也(細菌科)、田村 豊、村松康和(酪農学園大学)、中村政幸(北里大学)、 澤田拓士(日本獣医生命科学大学) と畜場で枝肉に対して行われる塩素水洗浄の効果を調べるため、塩素水による洗浄前後の枝肉それぞれを拭き取り、
腸管出血性大腸菌O157、サルモネラ、リステリア、一般生菌数、大腸菌数について調査した。同様に、水による洗 浄前後の枝肉の拭き取り調査も行った。 微生物4 応募研究(厚生労働科学研究費(新興・再興感染症研究事業)協力) (平成19∼20年度、⑲予算額100千円) 動物由来感染症のコントロール法の確立に関する研究 伊東拓也(細菌科)、長野秀樹(ウイルス科) 2007年7月千歳市泉郷において、ネズミ類を捕獲し、それらの腎臓よりレプトスピラの検出を試みた。結果、捕獲 さ れ た 64 個 体 の ネ ズ ミ 類 の う ち 1 個 体 か ら レ プ ト ス ピ ラ を 分 離 す る こ と が で き た 。 こ の 株 は 、Leptospira borgpetersenii(血清型不明)と同定された。 微生物5 応募研究(厚生労働科学研究費(地域健康危機管理研究事業)分担) (平成19∼21年度、⑲予算額2,000千円) 地域における健康危機に対応するための地方衛生研究所機能強化に関する研究 澤田幸治(衛生研究所)、山口敬治(微生物部)、吉村健清(福岡県保健環境研究所) 食水系感染症原因菌の網羅的検査法について、インターカレーター法による Real Time PCR 法を導入するため に検討を行った。サルモネラでは、使用した2種の PCR 試薬で同一の結果が得られたが、セレウスならびに腸炎ビ ブリオでは PCR 試薬の選択により結果に差が出た。Salmonella Infantis の模擬便添加試験では、DNA 抽出キット
を用いた場合、換算値で便中に105 cfu/g あれば検出できることがわかった。 微生物6 応募研究((財)大同生命厚生事業団地域保健福祉研究助成) (平成19∼20年度、予算額500千円) 北海道における細菌性毒原因究明調査の迅速化に関する研究 山口敬治(微生物部)、駒込理佳(食品微生物科)、池田徹也(細菌科) 食中毒事例に際し、分離菌の由来を特定するための迅速な疫学解析法として、repetitive-sequence-based(rep) PCR の導入を図るため、パルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)法と比較した。セレウス、腸炎ビブリオはいず れも良好な結果を示した。サルモネラは血清型内で評価するため、PFGE の解析能力は高かったが、rep PCR は解 析能力が低く、泳動パターンは近似した。 微生物7 応募研究(内閣府(食品健康影響評価技術研究)分担) (平成17∼19年度) 多剤耐性サルモネラの食品を介した健康被害のリスク評価に関する研究 木村浩一(細菌科)、牧野壮一(帯広畜産大学) 【目的】世界中で、家畜飼育や水産養殖において、治療・予防や発育促進のために、多くの抗菌性物質が使用されて きた。一般的に抗菌性物質の使用により薬剤耐性菌が選択されることはよく知られているが、近年、特に畜産分野に おいて選択される薬剤耐性菌が、食品を介してヒトに伝播し健康に影響を及ぼす可能性について、国内外の関心が集 まっており、そのためのリスク評価の実施が必要であると考えられている。即ち、薬剤耐性菌が食品を介してヒトへ 伝播し、ヒトが当該細菌による感染症を発生した場合の治療効果の減弱が起きる可能性や、ヒトの体内で薬剤耐性の 感受性菌への伝達による新たな薬剤耐性菌の出現の可能性などが危惧されている。しかし、これらの可能性の科学的 な検証は行われておらず、しかも数多くの食品媒介感染症の中からハザードの特定は困難である。そこで、薬剤耐性 菌の出現が及ぼすヒトの健康への被害の可能性を科学的に検証し、抗菌性物質のリスク評価の基礎データとすること を目的として、本研究を実施した。 【材料と方法】国内3施設の公的衛生研究機関より、食中毒原因食品及び患者便の双方からサルモネラ属菌が分離さ れた17事例50株の分与を受けた。各事例については、それぞれの公的衛生研究機関により、食品及び患者より分離さ れた菌株 PFGE パターンの一致することが確認されており、食品から分離された菌株が起因菌と推定されているも のである。各菌株の薬剤耐性は、すべて MIC 法により測定した。 【結果】原因食品及び患者便より分離された原因菌の薬剤耐性パターンを解析した。食品由来株と患者由来株間の
MIC 変動は5事例24株で見られ、アミノグリコシド系薬剤である GM(ゲンタマイシン)と AMK(アミカシン)、 それにテトラサイクリン系薬剤の MINO(ミノマイシン)の3剤に集中していた。AMK の MIC 変動は3薬剤中で 最も大きく、最大で8倍の差が見られた。これら3薬剤では、5事例中3事例17株において食品由来株に対し患者由 来株での MIC 低下が観察され、別の2事例7株では逆に患者株での MIC 増加が観察された。 【考察】アミノグリコシド系薬剤は、サルモネラ食中毒の治療薬として使用されることは通常ない。したがって、ア ミノグリコシド系薬剤に対する MIC 増加が認められた菌株(4株)については、治療として患者に投与された抗生 剤が関与しない何らかの機序により耐性能を獲得したものと推定された。 微生物8 一般試験研究 (平成17∼19年度、⑲予算額495千円(総額1,270千円)) 温泉水の飲用に係る微生物学的安全性の実態調査 森本 洋、清水俊一、駒込理佳(食品微生物科)、池田徹也(細菌科)、山口敬治(微生物部) 【目的】近年、温泉入浴施設などにおけるレジオネラ症発生防止対策や温泉水の適正利用、また、それらに係る消費 者への情報開示などが大きな社会問題となっている。公衆浴場法や温泉法では、浴槽水(温泉水)等の衛生面での安 全確保をうたっているが、薬用効果が求められる飲用温泉水では、常時塩素消毒を行うことができず、衛生管理にお いて難しい面がある。そこで我々は、必要な微生物検査項目を設定し、実態調査を行い、施設管理者が取り組む施設 個々の衛生管理方法を検討した。 【方法】微生物検査項目として、温泉法で定めている一般細菌数、大腸菌群に加え、ミネラルウォーター類の規格基 準に定めている腸球菌、緑膿菌、水系感染症の原因として重視すべきレジオネラ属菌(宿主アメーバも)及びエロモ ナスを調査対象に設定した。また、採水箇所は6施設12カ所の飲泉口のほか、状況に応じその上流部(貯湯タンク等) からも行い、得られた結果から衛生管理手法の検討を行った。 【結果及び考察】一般細菌数では、温泉利用基準による培養24±2時間では、飲泉口全12カ所で基準の範囲内であっ たが、48時間±3時間では9カ所で多数の一般細菌が確認された。公衆衛生学的な立場から考えると、日和見感染等 の予防も考慮し、実態をより正しく把握するためにも、48時間培養が必要であると思われる。その他設定検査項目に ついては、6施設12カ所の飲泉口のうち、大腸菌群は3施設6カ所、エロモナスは2施設5カ所、腸球菌は1施設1 カ所、レジオネラ属菌は5施設8カ所、宿主アメーバは6施設11カ所から検出された。緑膿菌は飲泉口からは検出さ れなかったが、1施設の貯湯タンクから検出された。今回検査項目として設定した微生物が検出された場合、即時施 設への報告を行い、管轄保健所と協力し効果的な衛生管理手法の検討及び衛生指導に努めた。具体的には、①配管系 統の清掃消毒ポイントの見直し、②貯湯タンクを経由しない配管構造への変更、③中継槽の適切な清掃消毒や浴槽と は別系統の衛生管理のしやすい小型中継槽の設置、等を行った。その結果、設定した微生物は検出されなくなった。 このことは、源泉タンクからの配管、中継槽、貯湯タンク、飲泉口までの経路全体の衛生管理が必要であることを意 味し、“温泉水の流れの停滞は様々な微生物の増殖を促す可能性がある”ことを認識し、常に施設に合ったより良い 清掃消毒方法とその頻度について検討する必要がある。また、これらの衛生管理に対する考え方は、飲用温泉水だけ ではなく施設全体の温泉水の衛生管理として検討していかなければならないと考える。 微生物9 応募研究(厚生労働科学研究費(地域健康危機管理研究事業)分担) (平成19∼21年度、⑲予算額2,000千円) 迅速・簡便な検査によるレジオネラ対策に係る公衆浴場等の衛生管理手法に関する研究 森本 洋、清水俊一、駒込理佳(食品微生物科)、池田徹也(細菌科)、山口敬治(微生物部)、 倉 文明(国立感染症研究所) レジオネラ属菌の検査で、広く普及している数種類の分離培地についての検討及び簡便な集落観察法を検討した。 分離培地では、 WYOα(1社)、MWY(1社)、GVPCα(1社)を使用し、実際の浴槽水を検査したところ、各 培地により、検出種類、集落形態、大きさ、出現時期等に違いが認められ、これらのことが、検査結果に影響を与え ていることが示唆された。出現集落に斜光をあて、実体顕微鏡で観察すると、レジオネラ属菌は特徴的な形態(模様) を示し、雑菌との見極めが容易になり、培地上の正確なレジオネラ集落のカウント、場合によっては複数種類のレジ オネラの釣菌を効率的に行える可能性が示唆された。