• 検索結果がありません。

痛みの評価と多角的治療

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "痛みの評価と多角的治療"

Copied!
2
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)理学療法学 第 844 42 巻第 8 号 844 ∼ 845 頁(2015 年) 理学療法学 第 42 巻第 8 号. 分科学会・部門教育講演. 痛みの評価と多角的治療* 井 関 雅 子**.  痛みを適切に評価することは,痛みの治療を開始するうえで 非常に重要である。特に,慢性の痛みに対しては,多角的な評. 痛みの評価法. 価と治療が必要とされる。近年,痛みを多角的に評価するため.  痛みの評価は,痛みの強度以外に,様々な質問票を用いて多. に様々な質問票が開発されている。痛みの治療に関しても,複. 角的に行われることが多い。. 数の薬剤が非がん性痛にも承認されている。また,治療の目標. 1.痛みの強さ. は,痛みの強度を低下させることから,生活の質を維持・向上.  急性痛,検査に伴う痛み,がん性痛の評価には,痛みの強度. することへと変遷している。. は重要な指標となる。痛みの強さを評価する方法として,痛み. 痛みとは?. がないを 0,想像できる最大の痛みを 100 とした 10 センチの 視覚的アナログスケールである VAS(Visual Analog Scale) ,.  国際疼痛学会(International Associated Study for Pain)で. 痛みがないを 0,想像できる最大の痛みを 10 として 11 段階に. は,痛みを「組織の実質的または潜在的な障害に伴うまたは,. 数値化して評価する NRS(Numeric Rating Scale)が一般的. このような障害を表す言葉を使って述べられる不快な感覚・情. である。一方で,前述 2 方法が使用できないような高齢者や子. 動体験」と定義している。痛みは,他人とは共有できない感覚 であることが知られている。さらに,痛みは第 5 のバイタルサ インとされている。. 痛みの分類. 供に対して,表情による尺度から痛みの強さを測定する FRS (Face Rating Scale)などがある。 2.痛みのパターン  痛みのパターンには,持続痛と突出痛,安静時痛と体動時痛 などに分けられる。突出痛は,予期せぬ痛みの増強,体動時痛,.  痛みは,様々な切り口から分類することができる。時期の長. 薬の切れ目の痛み,に分類される。痛みのパターンの把握は,. 短により急性痛から慢性痛,疾患別にがん性痛と非がん性痛,. 痛みの原因解明や適切な治療選択につながる。. 痛みの発生機序により侵害受容性疼痛,混合性疼痛(もしくは. 3.痛みの性質・種類. 炎症性疼痛) ,神経障害性疼痛に分類される。侵害受容性疼痛.  痛みの性質を把握するための質問票が作成されている。代表. は侵害刺激により侵害受容器が反応して痛みのインパルスが伝. 的なものとして,神経障害性疼痛の要因の多寡をみるための. わるが,神経障害性疼痛では,「体性感覚神経系の病変や疾患. Pain DETECT,日本で開発された神経障害性疼痛スクリーニ. によって生じている疼痛」と定義されており 1),神経の圧迫,. ング質問票などがある。一方で,1975 年にカナダで開発され. 虚血,変性,損傷により,神経機能に変調が生じて発生する痛. 改良を重ねている MCQ(McGi11 Pain Questionnaire)は,痛. みであるため侵害受容器は関与しない。神経障害性疼痛の典型. みを表現する様々な言葉を使用し,感覚的側面,感情的側面,. 的な疾患群として,視床痛,幻肢痛,脊髄損傷後疼痛,引き抜. 評価的側面に分けて急性痛から慢性痛,がんも非がん疼痛の両. き損傷後疼痛,開胸術後痛,帯状疱疹後神経痛,化学療法後の. 者に痛みに対して,多角的な評価ができる質問票である. 末梢神経障害などがある。複数国の疫学調査でも,神経障害性. 年では,短縮化に加えて神経障害性疼痛の要因についての評価. 疼痛の患者は,非神経障害性疼痛と考えられる疾患群と比較し. ができるように変更された revised version of the Short‒Form. て,長期間の強い痛みを有し,日常生活動作や家庭・社会生活. McGill Pain Questionnaire(以下,SF‒MPQ‒2)も開発され,. への参加が制限されており,睡眠や気分にも大きな影響を与え. 本邦でも日本語版 SF‒MPQ‒2 が作成されている 6)。. ていることが明らかになっている 2)3)4)。. 4.その他の評価法. 5). 。近.  痛みによる生活への影響を調べる質問票や,患者の心理状態 を把握するための質問票がある。 1)日常生活動作の評価 *. Evaluation of Pain and Multi-faceted Approach to Treatment 順天堂大学医学部麻酔科学・ペインクリニック講座 教授 順天堂大学大学院医学研究科疼痛制御学 教授(併任) (〒 113‒8431 東京都文京区本郷 3‒1‒3) Masako Iseki, MD, PhD, Professor: Juntendo University School of Medicine, Department of Anesthesiology and Pain Management キーワード:疼痛評価,神経障害性疼痛,慢性痛. **.  どれくらいの活動性を保持できているかを評価する質問票 は,多数のものがある。運動器疼痛においては,各疾患によっ ても異なり,可動域制限や歩行距離などの評価を目的に作成さ れたものが多い。  一方で,慢性痛に対する質問票として,本邦で開発された.

(2) 痛みの評価と多角的治療. 845. PDAS(Pain Disability Assessment Scale)などが利用されて いる 7)。 2)心理面の評価   痛 み に 特 化 し た も の で は,PCS(Pain Catastrophizing Scale)により,痛みに対する破局的思考の大小を,痛みのこ とばかり考えてしまうなどの反芻,痛みに対する拡大視,痛み への無力感,の 3 つに分けて評価ができる。慢性痛では,破局 的思考が高いと治療反応性が低いとされており,痛みに対す る認知の歪みを改善していくような治療が必要とされる。ま た,不安と抑うつが測定できる尺度として HADS(Hospital Anxiety and Depression Scale) ,不安を状態不安と潜在不安. 図1 痛み治療の考え方. に分けて評価する STAI(State-Trait Anxiety Inventory-JYZ) などがある。. ない。帯状疱疹後神経痛の患者に関しても,痛みと上手につき. 3)生活の質の評価. 合える患者と痛みのために不眠や抑うつを併発したりする場合.  包括的な健康度を評価するものとして,SF-36(Short‒Form. がある。さらに,複数の科の複数の医師の診察により,痛みの. 36‒Item Health Survey)があり,薬剤の臨床研究などでは広. 原因がはっきりしない腰痛や全身痛といった慢性痛も存在す. く使用されている。また,痛みによる生活の質を評価する指標. る。それらがすべて日常臨床で慢性痛として取り扱われている. として EuroQol Group 公認の日本語版 EQ-5D などがある。. ため,個々の患者のもつ痛みの意味,をよく理解して接する必 要がある。そのため,複数の医療従事者により患者の痛みを評. 痛みの治療. 価して,個々の病態や状況に応じた痛みの治療とケアの選択を. 痛みを緩和する方法として,セルフコントロール,物理・理. 行うことが望ましい場合も多いと考える。さらに,どのような. 学療法,認知療法,薬物療法,神経ブロックなどの低侵襲治療,. タイプの慢性痛であっても,生活の質を保つためには,「安全. 手術療法,など,多種の方法があり,それぞれの患者の病態,. な範囲で身体を動かす」ことが必要とされているため,理学療. 心理・社会的背景,全身状態などを考慮して,単独または併用. 法士は,常に医療現場において,非常に重要な役割を果たす存. した治療を行う(図 1)。. 在である。.  痛みの治療の目標は,急性痛や検査に伴う痛みなどの短期間 の痛みに関しては,痛みの強度を低下させることである。なぜな. まとめ. ら,それらの痛みに関しては,痛みの強度を軽減させることが,.  痛みは,生活の質を大きく損なう自覚症状であり,急性痛か. 患者の苦痛を軽減し,以前の生活の質を取り戻すことに直結する. ら慢性痛,非がん性痛とがん性痛,有痛疾患の予後などからも. からである。がん性痛に関しても,オピオイドを中心とした治療. 治療の選択肢は異なる。慢性痛においては,幅広い疾患群や病. により,痛みの強度を低下させることが重要ではあるが,精神的,. 態が含まれるため,多角的な観点から痛みを評価していく必要. 社会的,霊的な苦痛などの他の要因が身体的な痛みを修飾・増. がある。さらに,個々の患者に応じた治療やケアを選択する際. 悪させていることもあるので,総合的な評価が求められる。. には,医師が提供する医療に加えて,理学療法士,看護師,臨.  一方で,慢性の痛みに対しては,生活の質を保つ,または向. 床心理士,薬剤師,介護士など,多職種でのアプローチが有効. 上させることを第一として,日常生活の中で痛みに対応してい. である患者も多い。. く能力を身につけるようなアプローチが必要となる。 「慢性の 痛み」は,創傷や疾患治癒の時間を超えて遷延する痛み,と定 義されているが,実際の臨床現場においては,一定期間以上継 続している痛みを慢性痛として,広い概念の下に治療やケアを 行っているのが現状である。したがって,慢性痛に関して,器 質的な疾患がどれほど患者の表現する身体的な痛みに反映され ているかは,個々の病態や状況によっても,かなり異なると考 える。たとえば,膠原病に合併した下. 潰瘍は難治性であるた. め罹患時期は長くなるが,毎日が侵害受容性疼痛にさらされて いる状態であり,急性痛の持続ともいえる。そのような患者に 対しても,様々な薬物療法や麻酔科的治療は,生命予後や合併 症なども考慮して選択することになる。一方で,同じような画 像所見の圧迫骨折後の遷延痛に関しても,日常生活支障度には 個人差がある理由として,局所的な痛みの発生原因に差がある のか,個々の痛みに対する考え方や性格などが影響しているも のなのかは明確ではなく,どちらか一方に断定できるものでも. 文  献 1) Treede RD, Jensen TS, et al.: Neuropathic pain: redefinition and a grading system for clinical and research purposes. Neurology. 2008; 70: 1630‒1635. 2) 小川節郎,井関雅子,他:わが国における慢性疼痛および神経障 害性疼痛に関する大規模実態調査.臨整外.2012; 47: 565‒574. 3) Bouhassira D, Lantéri-Minet M, et al.: Prevalence of chronic pain with neuropathic characteristics in the general population. Pain. 2008; 36: 380‒387. 4) Ohayon MM, Stingl JC, et al.: Prevalence and comorbidity of chronic pain in the German general population. J Psychires. 2012; 46: 444‒450. 5) Melzack R:The McGill Pain Questionnaire: major properties and scoring methods, Pain. 1975; 1: 277‒299. 6) Maruo T, Nakae A, et al.: Translation and reliability and validity of a Japanese version of the revised Short-Form McGil Pain Questionnaire (SF‒MPQ‒2). PAIN RESEARCH. 2013; 28: 43‒53. 7) Yamashiro K. Arimura T, et al.: A multidimensional measure of pain interference: reliability and validity of the pain disability assessment scale. Clin J Pain. 2011; 27: 338‒343..

(3)

参照

関連したドキュメント

As a research tool for the ATE, various scales have been used in the past; they are, for example, the 96-item version of the Tuckman-Lorge Scale 2) , the semantic differential

et al.: Sporadic autism exomes reveal a highly interconnected protein network of de novo mutations. et al.: Patterns and rates of exonic de novo mutations in autism

et al., Determination of Dynamic Constitutive Equation with Temperature and Strain-rate Dependence for a Carbon Steel, Transactions of the Japan Society of Mechanical Engineers,

Standard domino tableaux have already been considered by many authors [33], [6], [34], [8], [1], but, to the best of our knowledge, the expression of the

K T ¼ 0.9 is left unchanged from the de Pillis et al. [12] model, as we found no data supporting a different value. de Pillis et al. [12] took it originally from Ref. Table 4 of

In [1, 2, 17], following the same strategy of [12], the authors showed a direct Carleman estimate for the backward adjoint system of the population model (1.1) and deduced its

For a brief history of the Fekete- Szeg¨o problem for class of starlike, convex, and close-to convex functions, see the recent paper by Srivastava et

(v) It is worth mentioning here that the Banach contraction principle [2] and its generalizations give the existence of a unique …xed point for a self map (for instance, Baradol et