「サウジ・イランの二極対立が顕在化する中東」
「非資源国中心に成長続くアフリカ経済」
三井物産戦略研究所 国際情報部 2017/10/12目次・要旨
I. 中東の外交:米国の存在感の低下と「二極対立」の顕在化
米国の存在感が低下し、サウジアラビアとイランの「二極対立」が顕在化する中、ロシア と「一帯一路」を推進する中国が中東での影響力を増大。II. 中東の政治・経済:新興市場としてのポテンシャルとリスク
①サウジアラビア~若き新皇太子が模索する改革:新皇太子を中心に、産業構造の多角 化、若年層の人心掌握、イエメン内戦の出口の模索が進む。 ②イラン~国際社会への復帰を目指して:2 期目のロウハニ政権が対外開放を推進。米国 の核合意離脱や追加制裁への懸念が外資参入の障害になっている。 ③トルコ~対米関係の悪化、構造改革の先送り:対米関係が急速に悪化する中、エルドア ン大統領は2019 年の再選を目指して景気対策を優先している。Ⅲ.サブサハラ・アフリカ
人口爆発(平均増加率年間約2.7%)に伴う市場拡大の可能性に着目した企業の投資を梃子 に、非資源国を中心とする成長が続いている。I. 中東の外交:米国の存在感の低下と「二極対立」の顕在化
第二次大戦後の中東秩序形成を主導してきた米国の中東での存在感が低下する一方、ロ シアと中国の影響力が増大傾向にあるが、秩序形成の主導役は不在である。こうした中、 サウジアラビアとイランの域内2 大国を軸とする「二極対立」が顕在化し、安全保障環境 は不安定化している。(図表1) トランプ政権は、オバマ前政権期に悪化したサウジ、イスラエル両同盟国との関係再構 築には着手したものの、中東政策の明確な指針はうかがえない。サウジによるカタール 断交(2017 年 6 月)の後も、トランプ政権が事態打開に向けて積極的役割を果たす様子 はみられない。 カタール断交問題では、イランとトルコがカタール支援を表明。事態は膠着しており、 問題の長期化がサウジ・イラン両勢力圏で事業を手掛ける企業の障害となることが懸念2017.10.11 される。サウジ・UAE の中には、カタールの政権転覆を狙う動きもある。年内にクウェ ートで開催予定の湾岸協力機構(GCC)サミットに向けて、関係国がどのような動きを 取るかが当面の焦点である。 ロシアにとっての中東は、欧米との関係、あるいは国際秩序の中でロシアの優位性を維 持するための切り札である。カタール断交問題では、シリア内戦への介入で得た発言力 を背景に、米国に代わってサウジ・イラン間の仲介役となることを狙っている。今後も 「ロシア抜き」では問題解決できない状況を創り出し、主導権を握るという基本戦略を 維持するだろう。ただし、ロシアが中東地域に積極的に軍事介入する可能性は低い。 中国は「一帯一路」構想を通じて中東に接近している。中国から中央アジア・南西アジ アを経て西へ伸びる複数の経済回廊の整備は、中東・アフリカからアジア向けの物流を 大きく変える可能性がある。中国はロシアと政経両分野で利害調整を図りながら、中東 での存在感を高めていくだろう。(図表 2)
Ⅱ.中東の政治・経済:新興市場としてのポテンシャルとリスク
「二極対立」が域内情勢を不安定化する懸念はあるものの、中東はサウジ、イラン、ト ルコ、エジプトなど域内大国を中心に、旺盛な消費とインフラ需要増が見込まれる新興 市場である。中東(北アフリカ含む)の人口は、各国とも概ね年率 2~3%の高い増加率 で推移しており、2020 年に 5 億 7 千万人を超える見通し。現時点で 30 歳未満が人口の約 60%を占め、若年層の厚さが購買力の伸びを支える。他方、若者の雇用創出は急務であ る(図表3)。 サウジ、UAE をはじめとする湾岸産油国の経済は、油価低迷で依然厳しい状況にあり、 各国とも石油収入減で財政再建を余儀なくされている。世界銀行の予測では、2018 年以 降の湾岸産油国のGDP 成長率は各国とも概ね 2%台にとどまる見通し。(図表 4) ① サウジアラビア~若き新皇太子が模索する改革 ムハンマド皇太子(32 歳)を中心に国力増強を目指す「ビジョン 2030」(2016 年 4 月公 表)が進展中。サルマン国王(81 歳)による生前譲位が取り沙汰されており、新国王の 下で長期政権となれば、腰を据えた改革が期待される。 非石油産業の育成、自由化を望む若年層の人心掌握、イエメン内戦からの出口戦略など が政権にとっての当面の課題である。現政権は国内外での起債、段階的な補助金削減、 付加価値税(VAT)導入等を通じて、油価低迷を機に赤字に転落した財政の 2020 年まで の黒字回復を目指している。 産業多角化の成否を握るのが、これまで非上場だった国営石油会社サウジアラムコの新 規株式公開による資金調達だ。政府は 2018 年中の実施を目指すが、財務情報の開示や内 部統制の整備を要する他、油価低迷という外的要因が実施に向けた障壁となっており、 上場規模や上場先の目途は立っていない。 社会進出の機会が制約されてきた若者と女性を巡る環境が激変している。宗教警察の逮 捕権剥奪(16年4月)、初のアニメイベント開催(17年2月)、W杯予選観覧席の無料開 放(17年9月)、女性の自動車運転解禁(17年10月発表)、──など若者・女性向けの 「懐柔策」を矢継ぎ早に実施している。 潤沢な石油収入を原資に各種の国民向けバラマキ政策(非課税、各種補助金の交付など) を長年続けた結果、若年層の就業意欲は低く、失業率は 25~39 歳 14.8%、15~24 歳 40.5%に達する。政府は危機感を強め、雇用機会を外国人労働者から自国民に振り替える 政策等を加速している。2017.10.11 ② イラン~国際社会への復帰を目指して 二期目に突入したロウハニ政権は、制裁解除後プラスに転じた経済成長率を追い風に、 対外開放政策を推進する。同政権にとっての最大の懸念は、トランプ米政権の反イラン 姿勢だ。米国が核合意からの離脱や対イラン追加制裁をちらつかせることは、直接投資 誘致の阻害要因になっている。 外国企業の参入実績を見ると、欧州・中国勢が積極的で、2017 年には、仏 Total、伊 Eni、 中国 CNPC がガス上流開発契約を締結し、仏 PSA とルノーが現地自動車メーカーと合弁会 社を設立した。一方、米国の追加制裁への懸念や、ローカルコンテンツ規制等を理由に 参入を躊躇う外国企業も多い。 イラン政府は投資誘致の目玉として、インド、アフガニスタンと共同でホルムズ海峡の 外に位置するチャーバハール港の整備を計画している。完成すればイラン・アジア間の 物流網の多様化が期待される反面、中国が「一帯一路」構想下で整備中のパキスタンの グワダル港と競合する可能性がある。 ③ トルコ~対米関係の悪化、構造改革の先送り 米・トルコ関係が急速に悪化している。トルコがクーデター未遂の首謀者と見做す在米 イスラム教指導者ギュレン師の身柄の取り扱いを巡る対立等が背景にあり、両国は 10 月 8 日、ビザ発給を相互に停止した。一方、トルコは 9 月、最新鋭の地対空ミサイル購入契 約をロシアとの間で締結するなど「対露シフト」を鮮明にしており、「NATO 離れ」が加速 する可能性がある。 エルドアン大統領は 2019 年の再選を目指して減税等の景気対策を優先しており、経常赤 字の恒常化等に象徴される脆弱な経済構造の改革は先送りされている。16 年 7 月のクー デター未遂で同年第 3 四半期にマイナス 1.3%に下落した GDP 成長率は、17 年第 1 四半期 に 5.0%に回復したが、消費増大が輸入に拍車をかけ、経常赤字拡大と通貨下落に繋がる 悪循環が続いている。 独立賛成が 9 割以上に達したイラク領内のクルド勢力による 17 年 9 月の住民投票結果に 触発され、トルコのクルド社会では独立気運が高揚し、19 年の議会選でクルド系政党が 躍進する可能性がある。
Ⅲ.サブサハラ・アフリカ
① 全体概況 21 世紀に入って石油をはじめとする天然資源の供給地として存在感を高めてきたアフリ カは、過去数年の間に、世界の企業にとっての「商品販売先=消費市場」としての性格 を強めている。アフリカ経済を牽引してきたナイジェリア、アンゴラなど産油国が油価 低迷で不況に喘ぐ一方、5~8%台の高度成長(2016 年 IMF 統計)を謳歌するエチオピア、 ケニア、タンザニアなどの非資源国の経済的台頭が著しい(図表 5)。アフリカの人口爆 発(平均増加率年約 2.7%)に伴う市場拡大の可能性に各国の企業が着目し、非資源産業 分野への投資が活発になっている(図表6)。 2015~16 年の中国の対アフリカ直接投資は 384 億ドルで過去最高を記録し、同期間の世 界の対アフリカ投資 1607 億ドルの 23.9%を占める最大の投資国だった。インフラ、交通、 繊維産業など非資源分野への投資にシフトしている点が注目される。政治面では、中国 は2017 年 7 月、アフリカ東部ジブチに中国初の海外軍事基地を開設するなど安全保障分 野での関与を強化している。他のプレイヤーの動向では、欧州勢の投資が堅調なのに加2017.10.11 え、UAE からの対アフリカ直接投資も活発である。 ② 留意すべき政治経済上の動き (南アフリカ)ズマ大統領(与党 ANC 総裁)の後継者を選出する 2017 年 12 月の ANC 党大会で、ズマ氏の路線を継承する元妻のドラミニ=ズマ氏が新総裁に選出される見通 し。大会後に党内の「反ズマ派」の離党や野党との連携などの造反行為が五月雨式に顕 在化し、党の分裂が予想される。17 年 5 月の世論調査で ANC の支持率は 1994 年の民主 化後最低の47%に落ちており、造反組の野党との連携によって、2019 年 4 月の次期総選 挙における非ANC 連立政権誕生も否定できない状況になっている。 (ナイジェリア)ブハリ大統領(74 歳)が健康不安のため、2019 年 5 月までの任期を全 うできないとの見方が広まっている。2017 年は療養のため通算 150 日間英国で滞在し、 政権の求心力低下と政策遂行の停滞が深刻である。ただし、同国の人口は2019 年に 2 億 人を突破する見通しで、市場拡大を見越した通信、農業分野などへの外資の参入は続い ている。 (対外債務)2018 年中に償還期限を迎えるサブサハラ・アフリカの対外債務は推定 250 億ドルに達し、域外からの活発な資金流入に伴う債務の増大が懸念される。2016 年に国 営企業3 社の「隠し債務」が発覚し、IMF が財政支援停止中のモザンビークは、2018 年 以降毎年 5%超の成長が見込まれているものの、公的債務が 2016 年末時点で GDP 比 100%を超えている。
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(図表2) 「一帯一路」構想 中国・パキスタン経済回廊
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(図表3) 中東の年齢別人口構成(2015 年)
4 (図表4) 中東各国の実質 GDP 成長率 2014 2015 2016 (推定) 2017 (予測) 2018 (予測) 2019 (予測) 中東北アフリカ 2.7 2.5 3.5 2.6 3.2 3.2 開発途上国 2.0 1.1 4.9 3.7 4.0 3.8 石油輸出国 2.6 2.2 3.5 2.4 2.9 2.9 湾岸協力機構(GCC) 3.2 3.8 2.0 1.5 2.3 2.6 バーレーン 4.4 2.9 3.4 1.9 1.9 2.3 クウェート 0.5 1.8 3.0 2.5 2.6 3.2 オマーン 2.5 5.7 2.2 0.9 2.4 2.9 カタール 4.0 3.5 2.9 3.3 2.6 2.5 サウジアラビア 3.7 4.1 1.4 0.6 2.0 2.1 UAE 3.1 3.8 2.3 2.0 2.5 3.2 石油輸出国(開発途上) 1.7 -0.3 5.9 3.8 4.0 3.5 アルジェリア 3.8 3.9 3.8 1.5 0.6 1.5 イラン 4.3 -1.8 6.4 4.0 4.1 4.2 イラク 0.7 4.8 10.1 -3.1 2.6 1.1 リビア -24.0 -8.9 -2.5 40.1 19.7 11.4 シリア -18.0 -15.8 -4.0 NA NA NA イエメン -0.2 -28.1 -9.6 5.0 NA NA 石油輸入国(開発途上) 2.6 3.7 2.9 3.5 3.9 4.3 ジブチ 6.0 6.5 6.5 7.0 7.0 7.2 エジプト 2.9 4.4 4.3 3.9 4.6 5.3 ヨルダン 3.1 2.4 2.0 2.3 2.6 3.0 レバノン 1.8 1.3 1.8 2.5 2.6 2.6 モロッコ 2.6 4.5 1.1 3.8 3.7 3.6 チュニジア 2.3 1.1 1.0 2.3 2.8 3.2 ガザ・ヨルダン川西岸 -0.2 3.4 4.3 3.5 3.4 3.4 (出所)World Bank, MENA Economic Monitor April 2017
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(表5)サブサハラ・アフリカの主な国の実質 GDP 成長率(%)
(出所)IMF World Economic Outlook April and July 2017 を基に三井物産戦略研究所作成
(表6)アフリカ向け FDI の総額(左軸)と対 GDP 比(右軸)の推移 (2005~17 年。2016 年は推計値、2017 年は予測値) 資源国向け投資額 ──── 資源国向け投資総額の対GDP 比 非資源国向け投資額 ──── 非資源国向け投資総額の対 GDP 比