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1 建物賃貸借契約と仲介業者の調査義務 説明義務 P1 2 入居前のキャンセル P1 3 家主の修補義務と賃料の不払い P2 4 賃料増減請求 P2 5 連帯保証人の責任 P2 6 原状回復 P3 7 敷引特約 P4 8 オーナーの破産と賃貸借契約 P4 解説編 1 建物賃貸借契約と仲介業者の調査義

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1 建物賃貸借契約と仲介業者の調査義務・説明義務 P1 2 入居前のキャンセル P1 3 家主の修補義務と賃料の不払い P2 4 賃料増減請求 P2 5 連帯保証人の責任 P2 6 原状回復 P3 7 敷引特約 P4 8 オーナーの破産と賃貸借契約 P4 【解説編】 1 建物賃貸借契約と仲介業者の調査義務・説明義務 P5 2 入居前のキャンセル P7 3 家主の修補義務と賃料の不払い P8 4 賃料増減請求 P9 5 連帯保証人の責任 P12 6 原状回復 P14 7 敷引特約 P18 8 オーナーの破産と賃貸借契約 P23

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賃貸借契約、管理委託契約をめぐる紛争事例の考察

― 弁護士 及 川 健 一郎 氏 ―

1 建物賃貸借契約と仲介業者の調査義務・説明義務

第1問 都 市部の単 身用ワンルーム マン ション 内で自殺があったが,特に 新聞 報 道等はなされなかったケースで,次の賃 借人には,自殺があっ たことを説 明して賃貸し,3年居住した後に退去 した場 合,さらに次の賃借人 に対 し て建物を賃貸する際には,こ れを仲介する宅建業 者は,自殺があった事 実 を説明する義務を負うか? 第2問 宅 建業者が 建物の賃貸を仲 介し た際に ,建物の構造について重要 事項 説 明書に「鉄筋コンクリート造3階建」と記載したが ,登 記簿上は,「 軽量 鉄骨コンクリートブロック造一部鉄筋コンクリート 造陸 屋根3階建」であ ったところ,震度6 の地震が きて ,建 物 が倒壊してしまい,賃貸建物がつ ぶれて,入居者が負傷した。この場合, 宅建業者は,入居者 に対して, 治 療費等の損害を賠償する義務を負うか?

2 入居前のキャンセル

第3問 宅 建業者が 賃貸マンション の賃 貸借契 約を仲介し,礼金,敷金,前家 賃, 共益費を支払ってもらって契約を締結したが,借 主が入居前に 急遽転勤に なったと言って,入居をキャンセルしたいとの申し 出が なされた。 1 貸 主は,入 居前のキャンセ ルに 応じな ければならないのか? 2 こ のような トラブルを防止 する ために ,賃貸借契約書にどのよう な定 め をおいたらよいか?

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3 家主の修補義務と賃料の不払い

第4問 単 身用賃貸 マンションのユ ニッ トバス の浴槽が破損し,使用でき なく な った。し かし,東日 本大震災の影 響で , ユニットバ スの交換品が届くの に 少なくとも3か月を要するとのことで,入居者は,その3か月 間について は,賃料を一切支払 わなかった。この場 合,貸主が催告して も入居者 が賃 料を支払わない場合には,賃 貸借契約を解除して ,入居者に立ち退きを 求 めることができるか?

4 賃料増減請求

第5問 A オーナー は,平成22年 3月 1日, マンションの1室をBに対 し、 月 額10万円の賃料で賃貸した。このB の貸室 と同 じ間取りであ る隣の部屋 が6か月以上空室だったため,平 成22 年10月に,月額8万 円の賃料で 賃貸に出す広告を出した。す ると,B が Aに対し て,自分の 部 屋の 賃料 の 相場も月額8万円のはずだから,賃料 を月額 8万 円に減額する よう請求し てきた。この場合,オーナーは,賃料の減額に応じ る必 要があるか? 第 6 問 近時,フリーレン ト等を導 入し,入居 者の初期費用を抑えるよう なメ リ ットを売りにして 賃貸して いる例 があるが,賃貸物件の競争力を高 める た めに,当初の賃料は安く設 定 し ,次第に増額する特約を 定め ることは可 能 か?

5 連帯保証人の責任

第7問 A オーナー は,Bに対して ,マ ンショ ンの一室を月額10万円の 賃料 で 賃貸し,Bの会社の上司であるCが連帯保証人に就 任し た。 そ の後,賃 貸借契約が2年 ごと ,3回 更新されたのちに,賃料の 滞納 が 始まった。しかし,Bは,遅れながら も賃料 を支 払っており, 4回目の更 新時期の時点では,3か月分の賃料が滞納になって いた 。 連 帯保証人 Cは滞納賃 料の 支払いについて,Aオーナ ーか ら催告を受 け たので,Aに対して「賃貸借契約を更 新 しないでほしい。連 帯保証人を変 えてほしい。」と申し出た。しかし,A オーナーは,更新を拒絶す るこ と なく,賃 貸借契約は法定更新されたと ころ,その後全く賃料が支払 われ な

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いまま,Bは行方知れずになり,滞納賃料は9か月 分に なってしまっ た。 こ の場合, Aオーナーは, 連帯 保証人 Cから,滞納賃料全額を回 収す る ことができるか?

6 原状回復

第8問 居 住用マン ションの賃貸借 契約 におい て,下記の事項を借主の原 状回 復 義務に含まれるものとして,その補修 費用を 借主 に負担させる ことができ るか? 1 た ばこによ る「やに」の汚 れ 2 結 露により 発生したカビ 3 家 具を置い たことによる床 のへ こみ 4 鍵 のシリン ダーの交換費用 第9問 自 然損耗に ついても,借主 に原 状回復 義務を負わせたい。 1 借主の原状回復には,自然損耗 (そ ん もう)は含 まれないが,特約す れ ば,借主に自然損耗の原状回 復義 務を負 わせることができる と聞いた。店 舗賃貸借契約では,借主に特 約で どこま で自然損耗の原状回復義務 を負 わ せることができるか。 2 また,特 約はどのように作 った らよい のか。例 えば,「 退去するとき は, クロスは破れたり・汚損していなくとも借主の費用 で張 り替えること 。」 という特約は有効か。 3 壁 の ク ロ ス が 破 れ た 場 合 , 借 主 が 原 状 回 復 義 務 を 負 う と さ れ る 場 合 で も,使用期間が6年 以上経っていると,国土交通省 が発 表した「原状回復 をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」( 以下 「ガイドライ ン」 という)によれば,減価償却した後の 残存簿 価が 1円となり,張り 替え 費 用をほとんど借主に負担させられないと言われてい るが ,事業 用ビルの場 合,特約すれば,クロスの交 換費 用全額 を借主に負担させることが でき る のか。

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7 敷引特約

第 10 問 以下 の内容の借家契約に ついて、契約終了時に,敷 引特約に基づ き,貸 主は保証金40万円から21万円を差し引くことが でき るか。 1) 居住用建物の普通 借家契約 2) 賃貸期間:平成1 8年8月21日~ 平成2 0年 4月30日退 去 3) 礼金なし 4) 更新料2年に1回 1ヶ月分 5) 賃料(1か月): 9万6000円 6) 保証金40万円 7) 同 賃 貸 借 契 約 に は 「自 然 損 耗 の 原 状 回 復 費 用 を 借 主 に 負 担 さ せ な い 代 わ りに敷引特約(保証引特約)、すなわち、保証金の うち 一定額を控除 し、 これを貸主が取得する。」旨の 特約が付されていた。 敷引額: 契約経過 年数1年未 満 1 8万 円 契約経過 年数2年未 満 2 1万 円 契約経過 年数3年未 満 2 4万 円 契約経過 年数4年未 満 2 7万 円 契約経過 年数5年未 満 3 0万 円 契約経過 年数5年以 上 3 4万 円 8) 契 約 終 了 時 に 貸 主 が 保 証 金 4 0 万 円 か ら 2 1 万 円 を 敷 引 き , 借 主 に は 19万円が返金された。

8 オーナーの破産と賃貸借契約

第 11 問 A社 は,Yオーナーか ら賃貸 ビルの管理業務を受 託していたが ,突然 Y オ ーナーの 代理人弁護 士か ら ,破産手続開始を 申し立てた旨 の通 知が あ り ,さらに,ビルには,破産管財人 弁護士 が管 理を開始した ことを示す 告 示書が貼 り出された 。 1 入 居者は賃 料を誰に支払う べき か? 2 A 社は管理 業務を続けなけ れば ならな いのか? 3 入 居者は, 立ち退かなけれ ばな らない のか? 4 入 居者が立 ち退く際には, 敷金 は戻っ てくるのか?どのように保 全す る のか?

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【解説編】 1 建物 賃貸借契約と 仲介業者の 調査 義 務・ 説明義 務 第1問 【答】 設 問の事例 では,宅建業者 は, 自殺に ついての説明義務を負わな い。 【解説 】 1 宅建 業者は, 不動産の賃貸・ 売買 の仲介 や代理を行う場合に,宅建 業法 3 5 条や,47条に定められた事項に 限ら れ ず,重要な 事項については,宅 建 業 務を行うにあたっての一般的な注 意義 務 として,説明す べき 義務を負っ て い る。そして,売買や賃貸の目的物 に瑕 疵 が存在する ことは,重要な事項 で あ るから,宅建業者がこれを知り又 は容 易 に知り得た 場合には,買主若し く は 借主に対して,説明する義務を負 うこ と になる。 また ,仲介を 担当する宅建業 者が ,売買 や賃貸の目的物に瑕疵が存 在す る こ とを知りながら,こ れを告げな かっ た とき や,不実のことを告げた とき は, 宅 建業法47条1号ニの規定に違反 した こ とになる。 2 自殺 があった 建物(部屋)を 賃借 して居 住することは,一般的に心 理的 に 嫌 悪感を感じる事柄であり,物件の 心理 的 瑕疵にあた る。したがって,そ の よ うな物件を賃貸しようとするとき は, こ れを仲介す る宅建業者は,原則 と し て,賃借希望者に対して,重要事 項の 説 明として, 当該物件において自 殺 事 故があった旨を告知すべき義務が ある と 言える。 3 しか し,常識 的に考えて,自 殺後 の物件 を第三者が賃借して居住し たと こ ろ ,特に問題がなかったのであれば ,そ の 後は,過去 の自殺に対する心理 的 嫌 悪感はかなり減少すると考えてよ い。 また ,自 殺の内容が,世間 的に注 目を集 める ような事件で あった場合に は, そ ういった物件に居住すること自体 が, 賃 借人の評判 を下げたり,噂にな っ た りといった不利益を被る場合があ るが , そのような 事情がなければ,当 該 物 件に居住しても,賃借人について の噂 が 流れるとい った不利益はなく, 心 理 的な瑕疵の程度は低いとも考えら れる 。 4 本件 の類似事 案についての裁 判例 では, ①自殺事故による嫌悪感も ,時 の 経 過によって希釈する,② 一般的に 自殺 事 故の 後に新たな賃借人が居住をす れ ば,当該賃借人が極短期間で退去 した と いった特段 の事情がない限り, 心 理 的な嫌悪感の影響もかなりの程度 薄れ る ,③都市部 の単身用物件は,近 隣 と のつきあいも相当希薄であり,④ 本件 自 殺は,特に 世間の注目を集める よ う なものではなかったこと等の事情 があ る として,賃貸人 に自 殺について の 告 知義務はないとした(東京地裁 H19.8.10) 。 5 【ポ イント】 1) 自 殺があっ た物件を売却し たり 賃貸す る場合に,仲介業者は,事 件発 生 後いつまで説明しなければならないのか,そ の期 間を単純に年 数で区切る のは難しいが,自殺事故後1回目に借 すとき には 説明し,2度目以 降は 説 明しなくてよいと判断するのが無難。

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2) 一 般的に, 賃貸対象の建物 内で ,自殺 があった場合に,それが心 理的 瑕 疵にあたりうるとする裁判例は多く,少 なくとも,自殺事件発 生後最初に 賃貸する場合の賃借人に対しては,説 明義務 があ ると判断され ている例が 多い。 し かし,そ の後入居者がい て2 ~3年 が経過した後に,次の借主 に貸 す 際には,自殺 があったことに つい て貸主 らは説明する義務はないと 裁判 所 も判断する傾向にある。 3) ま た,賃貸 物件内で自殺し たこ とによ って,その物件の賃料が下 がる こ とによる損害の賠償を遺族等に請求した事件では,裁判所は ,低い賃料で しか貸せない期間を2~3年程度と認定する例が多 い。 こ のような 考え方からする と, 裁判所 は,3年程度で心理的嫌悪 感が 相 当希釈し,説 明を要する心理 的瑕 疵が失 われるという判断をする傾 向に あ ることが窺われる。 4) し たがって ,安全を期すの であ れば, 初回の賃貸では5年間くら いは 説 明しておいた方がよいと考える(私見)。 な お,例え ば自殺事件があ った 後,5 年間空き室状態が続いてい て, そ こに入居を希望する者が現れた場合に,入居 希望 者が空き室期 間が長いこ との理由について説明を求められた場合に,自殺 があったこと を秘匿する と,告知義務違反になるので注意が必要。 5) 自 然死や, 賃貸物件内で自 殺を 企てた が,亡くなったのは病院で あっ た 場合,あ るいは,屋上か ら飛 び降り自殺があったマンシ ョン の一室を賃 貸 する事例,階下の部屋で自殺があった上の部屋を賃 貸す る事例につい て, 仲介業者の説明義務を否定した裁判例がある。 第2問 【答】 宅建 業者は, 入居者の治療費 等の 損害賠 償義務を負わない。 【解説 】 1 重要事項説明書には,建物の構造 につい て,正 確に 記載しなければなら ず, そ の 意 味 で は , 本 件 で は , 記 載 が 誤 っ て い る と い う 点 に つ い て , 重 要 事 項 説 明義務違 反の問題 はある。 2 しかし,建物が倒壊した原因 は,地 震によ るものであるところ,一般人が考 え て も 「 鉄 筋 コ ン ク リ ー ト 造 」 の 建 物 か , 「 軽 量 鉄 骨 コ ン ク リ ー ト ブ ロ ッ ク 造 一 部 鉄 筋 コ ン ク リ ー ト 造 」 で あ る か で , 入 居 す る か 否 か の 判 断 が 変 わ る と は 考 え 難 く , 仮 に , 建 物 の 構 造 に つ い て , 正 し い 記 載 を し て い た と し て も , 入 居 者 は , こ の 建 物 を 賃 借 し た で あ ろ う こ と か ら , 重 要 事 項 説 明 書 の 記 載 の 誤りと, 入居者の 負傷との間 には,相当因果関係が認 めら れない。 3【 ポイント】 1) 重要 事項説明 書に誤記があっては いけないが,仮 に誤記があったこと で, ク レ ー ム が あ っ た 場 合 に , そ の 誤 記 の 内 容 と , ク レ ー ム の 内 容 の 関 係 を 十 分吟 味して対応する必要 がある。

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2) な か に は , 専 門 家 の ミ ス を 逆 手 に と っ て , 不 正 な 利 益 を 得 よ う と し て , 過 大 な 損 害 賠 償 を 求 め た り , 仲 介 業 者 の 説 明 義 務 違 反 の 程 度 を 考 慮 し な い ま ま 入 居 者 の 要 求 が エ ス カ レ ー ト し て 感 情 的 な こ じ れ が 生 じ る こ と で 解 決 が難 しくなる 場合がある。 し た が っ て , ク レ ー ム に 対 す る 初 期 の 対 応 が 重 要 に な る の で , 早 め に 弁 護士 等に相談 して対応を誤らないように 注意し て欲 しい。 2 入居 前のキャンセ ル 第3問 【答 】 設問 1 法律上は,貸 主は,キ ャ ンセ ル に応 じる義 務は負わない。 1) 賃 貸借契約を締結した 以上,そ の 後借 主の都合で解約する場合は,解約 の条 項に則した手続 によって解 約をす るのが原則となる。 例えば,契 約終了日の2ヶ 月前 までに 解約を申し入れるよう定め られ て おり ,即時解約す る場合は,2 ヶ 月分 の賃料 を違約金として支払 うよう定 めら れているような 例では,入居 者は2 ヶ月分の賃料を違約 金として支 払 われ ないと即時解約 できないこ とにな る。 2) し かし、入居者の責に 帰すことので きない 事情 でキャンセル を申し出た 場合 に、賃貸 借契約書の中途 解約 条項を 形式的に適用して処 理しようと す ると トラブルになる ことがある 。 そこで、トラブ ルを回避するた めの方 策が問 題と なるが、賃 貸借 契約 締 結後 で,かつ,賃貸 期間開始 前の 時期に 解約する場合についての条 項を 定 めて ある契約書は少 ないと思わ れる。 設問 2 本件のような 問題に対 処 する た めに ,以下 の特約を定めるとよ い。 【 特約の例】 第 ○条(契約期 間開 始前の解 約申 出) 本契 約締結後契約 期 間開始前に 乙に よ り解約の申出が あっ た場合の敷金, 賃料等 は,次のとお り 精算する。 ① 礼金は返還しな い。 ② 敷金は全額返還 する。 ③ 前家賃のうち, 1か月分は返還しな い。 1) 上記特約の うち,礼金 につ いては契約成立に対 するお礼であ るた め返 金 する必要 はないこと,前家賃につ いて は 中途 解約において1か月の予告期 間 を 設 け て 次 の 借 主 を 募 集 す る 期 間 分 の 賃 料 収 入 を 確 保 し て い る の と 同 じ趣旨か ら,礼金と前家賃 は返 還しな いこととしている。 ま た,居住を開始してい ない以 上,原状回復す べき損耗が生 じて いな い と考えら れることから,敷 金に ついて は全額を返金すると 定めている。 2) 法律上は以 上のとおりだが,礼金を2か月徴収 している場合 には 前家 賃

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と併 せて3か月分を徴収す ることになる。このようにす ると 借主側の反 発 も強 く,トラブルが発生す ることも考えられる。 そ こで,貸主側としては,借主側の対応も見て,例えば,「前家賃1 か 月分 」は妥協して返還する 等の柔軟な対応をしても良 いと 思われる。 ※ 手付 について 1) 売 買 契 約 で は 初 回 の 支 払 金 を 通 常 手 付 と し て 授 受 す る こ と が 多 い ( こ れ は 解 約 手 付 の 性 質 を 有 す る ) 。 賃 貸 借 契 約 に お い て も 法 律 上 手 付 を 定 め ることはできる。 2) と こ ろ が , 賃 貸 借 契 約 で は , 手 付 金 を 授 受 す る 慣 行 は な い 。 し た が っ て , 礼 金 と か 敷 金 , 前 家 賃 を 手 付 金 に し た い の で あ れ ば , 特 約 と し て 明 記 しておくべきである 。 【文 例】 第○ 条(手付 金) 1 乙は,甲に 対し て, 本契約の手 付金 として金○○○万円 を支払う。 2 乙 は , 第 ● 条 ● 項 に 定 め る 契 約 期 間 の 開 始 前 に 限 り , 前 項 の 手 付 金 を 放 棄 し て , 甲 は , 前 項 の 手 付 金 の 倍 額 を 乙 に 支 払 っ て , 本 契 約 を 解 除 す る ことがで きる。 3 本 契 約 が 開 始 し た と き は , 第 1 項 の 手 付 金 は 本 契 約 書 第 ○ 条 に 定 め る 保 証金の一 部として 振り替え る。 3 家主 の修補義務と 賃料の不払 い 第4問 【答】 貸主 は賃貸借 契約を解除して ,入 居者に 立ち退きを求めることがで きる も の と考 えられる。 【解説 】 1 建物 賃貸借契 約において,借 主の 過失に よらないで建物の一部が滅 失し た 場 合には,借主は,貸主に対して, 滅失 し た部分の割 合に応じて賃料の減 額 を 請求することができる(民法61 1条 1 項)。 2 貸主 は,賃貸目的物が破 損し た場合に,修繕義務 を負うが(民 法6 06 条 1 項),貸主がその義務を履行しな い場 合 であっても ,建物が全く使用で き な いような場合でない限り,借主は 賃料 全 額の支払い を拒むことはできず , 一 部 の 支 払 い を 拒 絶 す る こ と が で き る に 過 ぎ な い と さ れ て い る ( 通 説 ・ 判 例 )。 3 また ,居住に支障のない 程度 の障害(賃貸人の修 繕義務不履行 )を 理由 と し て賃料全額の支払を拒絶した例に つい て は,賃料不払い によ る契約解除 を 認 容した判例が多い(最判 S38.11.28 な ど)。 例え ば,雨漏りや壁・畳 の破 損等が修繕されない ことを理由に 賃料 全額 の 支 払 い を 拒 絶 す る こ と は で き な い と 判 断 し た も の が あ る ( 大 審 院 判 例 T5.5.22,最判 S43.11.21 の原審 判決 )。

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4 本件 では,ユ ニットバスが破 損し て使え ない事案であり,賃貸目的 物の 破 損 の程度は小さいとは言えないが, 居住 可 能である以 上,借主が賃料全額 の 支 払いを拒んだ場合は,賃料不払い によ る 債務不履行 を理由に,建物賃貸 借 契 約が解除されることになる。 した がって, 貸主は入居者を 立ち 退かせ ることが可能となる。 民法 第6 11条(賃 借物の 一部滅失によ る賃 料の減額請求等 ) 1 賃 借 物 の 一 部 が 賃 借 人 の 過 失 に よ ら な い で 滅 失 し た と き は , 賃 借 人 は , その 滅失した部分の 割合に応じ て,賃 料 の 減額を請求す るこ とができる 。 2 前 項 の 場 合 に お い て , 残 存 す る 部 分 の み で は 賃 借 人 が 賃 借 を し た 目 的 を 達す ることができな いときは,賃 借人は ,契約の解 除をすることができる 。 5 なお ,借主側から,家主 の修繕義務の 不履行 を理 由に,賃貸借 契約を解除 す ることができる場合 があるが ,本件では,震災が 原因で部品の 調達 がで き ず ,補修が遅れるとい う事案で あり,家主側には, 修繕義務を履 行で きな い こ とについて,過失が ない事案 であると言える。 した がって,このような 場合には,借 主側か らは ,家主の債務 不履行によ る 契約の解除は認めら れず,賃 料の減額を請求でき るのみである 。 4 賃料 増減請求 第5問 【答】 オー ナー(貸 主)は,Bによ る賃 料減額 請求に応じる必要はない。 【解説 】 1 賃 貸 借 契 約 に お け る 賃 料 は , 契 約 当 事 者 間 の 合 意 に よ っ て 定 め ら れ る も の で あ り , 貸 主 ・ 借 主 は , 賃 貸 借 契 約 を 締 結 す る 際 に 合 意 で 定 め た 賃 料 に 拘束 されるのが原則であ る。 2 と こ ろ が , 賃 貸 借 契 約 は , 長 期 間 契 約 が 継 続 す る こ と が 予 定 さ れ て い る が , 例 え ば , 固 定 資 産 税 の 増 減 や 土 地 ・ 建 物 の 価 格 の 増 減 な ど の 経 済 情 勢 の変 化によって,従前の 賃料が,不相応 になっ てし まう場合があ る。 3 そ の よ う な 場 合 に は , 合 意 で 定 め た 賃 料 を 相 応 の 賃 料 に な る よ う に 増 減 調整 する必要があるとし て,借地借家法 32条 が設 けられた。 4 た だ し , 判 例 実 務 で は , 賃 料 は 個 別 の 契 約 に よ っ て 合 意 に よ り 定 め ら れ ると いう原則を重視して いる。 つ ま り , 賃 料 は 本 来 、 当 事 者 の 契 約 に よ っ て 自 由 に 定 め る こ と が で き る が 、 賃 貸 借 契 約 は 長 期 間 続 く こ と が あ る の で 、 そ の 後 の 経 済 事 情 の 変 動 に よ っ て 、 当 初 の 合 意 を 維 持 す る こ と が 不 合 理 に な り 、 不 公 平 な 状 態 が 起 こ り う る の で 、 そ の よ う な 場 合 に は 、 当 初 合 意 で 定 め た 賃 料 を 修 正 す る こ と で、 貸主・借主の利害を 調整しようとい うのが 、賃 料増減額請求 の制度 。 具 体 的 に は 、 賃 料 の 増 額 ま た は 減 額 請 求 を 認 め る 場 合 で も , 最 後 に 合 意

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で 定 め た 賃 料 ( 最 終 合 意 賃 料 ) を 一 定 程 度 尊 重 し た 上 で 、 貸 主 ・ 借 主 が 最 終的に合意し たときの周辺の賃料相場が ,現在,ど の程度増減している か, その増額率・下落率を把 握し て ,最終合意賃料に掛けて算 出す る賃料額(ス ライド方式) を重視する傾向にある。 その ほか,適 正賃料の算定方式と しては,取引事例比較法( 比準 方式), 収 益 還 元 法 等 が あ る が , こ れ ら の 理 論 に よ っ て , 適 正 賃 料 を 算 定 し た 場 合 で も , 判 例 実 務 上 は ス ラ イ ド 方 式 が 重 視 さ れ る の で , 隣 の 部 屋 の 貸 し 出 し 賃料と同一の 賃料で貸さなければならな いという結論 には ならない。 こ れ か ら 賃 貸 借 契 約 を 締 結 す る 場 合 の 賃 料 ( 新 規 賃 料 ) と 、 契 約 が 継 続 し て い る 場 合 の 賃 料 ( 継 続 賃 料 ) と で は 、 金 額 が 異 な る の が 当 た り 前 で あ り、借主Bの 主張は、この常識に反する 主張というこ とに なる。 借地 借家 法第32条 (借 賃増減請求権 ) 1 建 物 の 借 賃 が , 土 地 若 し く は 建 物 に 対 す る 租 税 そ の 他 の 負 担 の 増 減 に よ り ,土 地若しく は建 物 の価格 の上 昇若し くは低下そ の他 の経 済事情の変動に よ り,又は近傍同種 の建物の 借賃に 比較 して不相当と なっ た ときは,契約 の 条 件に かかわらず,当事者は ,将 来に 向 かって建物の借 賃の 額の増減を請求 す るこ とができる。ただし,一 定 の期 間 建物の借賃を増 額し ない旨の特約が あ る場 合には,その 定めに従う 。 2 建物 の借賃の 増 額について当事者 間 に協議が調わないと きは,その 請求 を 受 けた 者は,増額を 正当とす る裁 判が確 定 するまでは,相当 と認める額の建 物 の借 賃を支払うこ とをもって 足り る。ただし,そ の裁判が 確 定し た場合 に お いて ,既に支払っ た額に不 足が あると き は,その不足 額に 年一割の割合に よ る支 払期後の利息 を付してこ れを 支払 わなけ ればならない 。 3 建物 の借賃の 減 額に ついて当事者間 に協 議が調 わないと き は,その請求 を 受けた 者は,減額を 正当とす る裁判が確 定 する までは,相当 と認める 額の 建 物の借 賃の支払 を請 求することがで きる 。ただし,その 裁判 が 確定した場 合 におい て,既に 支払 を受けた 額が 正当と された建物 の借 賃の 額を超えるとき は,その超過額 に年 一割の割 合に よる受 領の時から の利 息を 付してこれを返 還しな ければな らな い。 5 賃料の増 減に関する特約について 1) 普通借家契約では ,賃料を 増額しない特約は有効だが ,賃 料を値下げ し な い特約を定めても無効とな る。また ,自動的に増額し てい くような特 約 も 無効となる。 2) 定期借家契約では ,賃料の 増減額請求を認めずに固定 する 特約や,自 動 的 に増減する特約を定めるこ とが可 能(借地借家法38条7項 )。 借地 借家法第38条 ( 定期建物賃貸借 ) 1 期間 の定めが あ る建 物の賃貸借をす る場 合にお いては,公正 証書による 等

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書 面に よって契約を するときに 限り ,第 三十条 の規 定にかか わ らず,契約 の 更 新が ないこととす る旨を定め るこ とが できる。こ の場合に は ,第二 十九 条 第 一項 の規定を適用 しない。 2 前項 の規定に よ る建物の賃貸借を し ようとするときは, 建 物の賃貸人は , あ らか じめ,建物の 賃借人に 対し ,同 項 の規定に よる建物の 賃貸借は契約の 更 新が なく,期間の 満了により 当該 建物 の賃貸借は終 了す る ことについて , そ の旨 を記載した書 面を交付し て説 明し なければなら ない 。 3 建物の賃貸人が 前項の規定 による 説 明 をしなかった とき は,契約の更新 がないこととする旨 の定 めは , 無効 とす る。 4 第一項の規定に よる建物の 賃貸借 に お いて,期 間が 一年 以上である場合 には,建物の 賃貸人 は,期 間の 満 了の 一 年前から 六月前まで の間(以下 こ の項において「通知 期間」という 。)に建物の賃借人に対し 期 間の 満了 に より建物の賃貸借が 終了 する 旨 の通 知を しなければ,その終 了 を建 物の 賃 借人に対抗すること がで きな い 。ただし ,建 物の賃貸人が通 知期間の経過 後建物の賃借人に対 しそ の旨 の 通知 をし た場合におい ては ,そ の通 知の 日 から六月を経過した 後は ,こ の 限り でな い。 5 第一項の規定に よる居住の 用に供 す る 建物の賃貸借(床 面積(建物の 一 部分を賃貸借の目的 とす る場 合 にあ って は,当 該一 部分の床 面 積)が二 百 平方メートル未満の 建物 に係 る もの に限 る。)にお いて,転 勤,療養,親 族の介護その他のや むを 得な い 事情 によ り,建物の賃借人が 建 物を 自己 の 生活の本拠として使 用す るこ と が困 難と なったときは ,建 物 の賃借人は, 建物の賃貸借の解約 の申 入れ を する こと ができる。こ の場 合 においては, 建物の賃貸借は,解 約の申 入れの日 から 一月を経過すること に よっ て終 了 する。 6 前 二 項 の 規 定 に 反 す る 特 約 で 建 物 の 賃 借 人 に 不 利 な も の は , 無 効 と す る 。 7 第 三 十 二 条 の 規 定 は , 第 一 項 の 規 定 に よ る 建 物 の 賃 貸 借 に お い て,借賃の改定に係 る特 約が あ る場 合に は,適 用しない。 第6 問 【答】 (1) 普通借家 契約では、当初の賃 料は 安 く設定し,次第 に増 額する特約(自 動 増額特約 )は,無効 とな る 。 例え ば,「賃料を毎年3%ずつ増 額する」とい うよ うな特約は無効。 定期借家 契約の場合は、 上記 特約も 有効。 (2) 賃料額を定めておいて,それ を契 約 当初 の半年間30%減額し,半年 経 過 時 に 当 初 賃 料 に 戻 る と い う よ う な 一 時 的 な 減 額 を 認 め る 特 約 は 有 効 である。

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【文 例】 第○ 条(賃料減額特 約) 第 ○○条に定める 賃料は,平 成23年 4月1日 より 同年9 月末 日までの 6ヶ 月間に限り月額 金○○万円 に減額 す る。 【解 説】 (1) フリーレ ントや,一 定期 間の賃料減額の定めを置く 場合 で,中途解 約 条 項がある 賃貸借契約 を締 結 する 場合には,● 年以上賃借す るこ とを 条 件 にする,●年以内に解約 する 場 合は ,違 約金 を支払う等,貸主 側が 物 件 から得る 収益を一定 以上 確 保で きるよう配慮する必要がある。 そうしな いと,借主が短 期で 解約し てしまえば,借主だけが安 い賃 料 で 借りるう まみだけを 得て ,貸主は期待した賃 料収入が得ら れな い結 果 と なってし まう。 (2)【 条項例】 第 ○条(違 約金) 本契約 が,第○条○項によ る中途 解約,また は ,借主の債務不履行 に基づく 解除により ,平 成○○年○月○ 日以前に終了 したと きは ,借 主は貸主 に対し,第 ○条により減 額され た賃料と,第○条に 定 める 賃 料との差 額に,減額 期 間の月数 を乗じた 金額を違約金として 契約終 了 までに支 払うものと す る。 第○条(解除-中途 解除原則不可 の場合 ) 甲 及 び 乙 は , 本 契 約 の 賃 貸 借 期 間 中 は 中 途 解 約 が で き な い 。 但 し , 乙 は , 解 約 ● か 月 前 ま で に 甲 に 通 知 し , 下 記 の 違 約 金 を 支 払 うことで ,中途解約 す ることができる。 ① 契約開 始後 ● 年未満 の解約 敷 金の ●●%相当額 ② 契 約開始後●年 以上 ●年未 満の解約 敷金 の●●%相当 額 ③ 契約開 始後 ● 年以上 ●年未満の 解約 敷金 の●●% 相 当額 5 連帯 保証人の責任 第7問 【 答】本 件の事案では,滞納賃料につい て連 帯 保証 人に請求できるものと考える が,Aオーナーが,滞納賃料 の回収 の努力をしないまま,漫然と法定更新さ せて,滞納額を自ら増額 したような 事情 が あれ ば,連帯保証人 に対 する請 求 可能額が制限され る可能性が ある。 【解説 】 1 建物 賃貸借契 約の連帯保証人 は, 法定更 新後も,当然に連帯保証人 の責 任 が 継続する。 また ,建物賃 貸借契約が継続 して いる間 は,連帯保証人からの一方 的な 申 し 出によって,連帯保証契約を終了 させ る ことはでき ない。

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なぜ なら,普 通建物賃貸借契 約は ,法定 更新や合意更新によって契 約が 継 続 することが当然の前提となってお り,当事者がそのこと を了 解して連帯 保 証 契約を締結しているからである。 2 した がって, このような原則 的な 考え方 によれば,本件のCは,更 新後 の B の 滞 納 賃 料 も 含 め て , 連 帯 保 証 人 と し て 弁 済 す べ き 義 務 が あ る こ と に な る 。 3 ただ し,賃料 滞納が相当長期 間発 生して いて,その後の賃料の支払 が見 込 ま れてないことを知りながら,債務不履行解除や更新拒絶 等に より契約を 終 了 させずに,貸主が漫然と契約を更 新さ せ たような場 合にまで,更新後の 滞 納 賃料について,連帯保証人に負担 させ る のは,酷で ある。 また ,貸主は ,債務不履行解 除・ 更新拒 絶後に,借主に建物の明渡 を求 め る こ と で , 賃 料 滞 納 に よ る 損 害 の 拡 大 を 防 ぐ こ と が で き た の に も か か わ ら ず ,それを怠ったと言えるような場 合に は ,その損害 は,貸主の責任によ っ て 拡 大 し た と も 言 え , こ れ を 連 帯 保 証 人 に 負 担 さ せ る こ と は 不 公 平 と 言 え る 。 4 この ような, 特殊な事情があ る場 合には ,貸主による連帯保証人に 対す る 請 求が制限される場合があるので, 仮に 連 帯保証人に 資力がある場合でも , 滞 納者を長期間漫然と放置すること は避 け るべきであ る。 5 判例 紹介 【事案】 貸主は借家人が更新時に約8ヶ月(200万円)も の滞 納があったの に, そ のまま法定更新させた。貸主は,法定更新後の滞納賃料 46 5万円余り を 連 帯保証人に請求した。 連帯保証人は 更新後の未払いについて 責任を負うの か? 〔 東京 地裁平成10年12 月2 8日〕 1) 判例の結論 こ の判例は ,法定更新後の滞納賃料 につい て,連帯保 証人の責任を認め なかった。 2) 判例の事案 ① 20年前に賃貸がなされ,借主を 仲介し た仲 介業者が連帯 保証人に就 任 した。その後,2年ごとに合 意更 新 がなされ,連帯 保証 人として署 名 ・ 押印し印 鑑証明もそ の都 度 提出 した。 ② 借主は240万等の賃料を延滞したため,平 成6年2月訴 訟が提起さ れ ,その後訴訟外で和解が 成立 し ,連帯保 証人 も新たな連帯 保証契約に 応 じた。なお,和解のさいに作 成さ れ た賃貸借契 約書には借主は2度 と 滞 納しない こと,滞納 した 場 合は 直ちに明け渡すことが約定された 。 ③ 平成6年9月連帯保証人から,連 帯保証 人を やめたいとの 希望が出さ れ た。貸主は借主に新たな連帯保証 人を探 すよ う求めたがそ のままにさ れ た。 ④ 平成8年3月31日には賃料の延滞が200万 円に も達したため ,合

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意 更新され ず,法定更新と なる 。原 告は平成8年 の更 新については滞納 が あったた め,連帯保 証人 に 連帯 保証の 依頼もしなかった。 ⑤ さらに法定更 新後の延滞費も 合計4 65 万円余りにな った。 ⑥ 貸 主 は 連 帯 保 証 人 に こ の 法 定 更 新 後 の 滞 納 賃 料 と 管 理 費 の 支 払 い を 求 めた。 3) こ の判例が更新後の未 払い 賃料等について請求を認め なか った根拠は 次 の 点にある。 ① 法 律 的 に は 原 則 と し て 法 定 更 新 後 の 延 滞 に つ い て も 連 帯 保 証 人 は 責 任 を負う。 ② しかし,本件の 連帯保証人は20 年間に渡り,連帯保証 人として借 主 に 延滞があ れば支払い を促 し ,貸主も延滞があれば連 帯保 証人にその 都 度 連絡し, 借主へ連帯 保証 人 から 支払い を促すよう要請した 。 ③ ところが,平成 8年の法定更新の 際,貸主は連帯保証人 の辞任の意 向 を 承諾して おり,連帯保証 を求 め ず,かつ、それまでのよ うに貸主か ら 連 帯保証人 に対し,借主の 延滞 状 況も 知らせ ず,借主 に支払いを促すよ う な要請も しなかった 。こ のような特殊な事情の下で は連 帯保証人に は 「 更 新 後 の 延 滞 に つ い て 保 証 責 任 を 負 わ な い 特 段 の 事 情 が 認 め ら れ る の で,連帯保証人に更新後の延滞賃 料については 請求 できないと判決し た 。 ④ こ の 判 例 は , 法 定 更 新 後 の 延 滞 賃 料 に つ い て 連 帯 保 証 人 は 責 任 が あ る ,とする 従来の判例 と立 場 を異 にする ものではない。 ⑤ 本件事例に置 いては「特段の事情 」があるから法定更新 後の延滞賃 料 に ついて例 外的に責任 はな い とし た。 ⑥ こ れ ま で 連 帯 保 証 人 の 責 任 を 約 2 0 年 に わ た り 果 た し て き て い る こ と ,仲介した立場でやむを 得ず 連 帯保 証をし たこと,貸主も不動産賃貸 を 業(目的)とする株式会社で ある こ と,貸主 は法定更新後 は連 帯保 証 人 としての 活動を期待 して い なか ったこ と,等の 特殊な事情により,信 義 則により 連帯保証人 の責 任 を減 縮した ものと考えられる。 6 原状 回復 第8問 【答】 いず れも,原 則として原状回 復義 務には 含まれない。 【解説 】 1 原状回復とは 借主が壊 した ものは修 繕する ,取り付けたものは 撤去 する こ とで ,借 りた際の原状に戻すことをいう。但し,「借主の居住 ,使用によ り 発生 した 損耗・毀損を復旧すること」までは含まない 。 2 「特約のない場合」の原 状回復はどの ように 考え るの? 1) 「借主が設置し たものを取り除く。」というのが 原状 回復の基本。 2) 「こわし たもの」は修復する。 3) 「 古 く な っ た も の 」 「 自 然 損 耗 ( そ ん も う ) 」 は , 原 状 回 復 の 対 象 と

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な らない。 ① 自然損耗とは ,物が自然 に汚 れ たり 磨り減ったりすることをいう。 ② 借 家 契 約 は , 家 を 借 り る こ と の 代 わ り に 家 賃 を 支 払 う 契 約 で あ る か ら , 借 り る こ と に 当 然 に 伴 う 自 然 損 耗 は 家 賃 で カ バ ー さ れ る べ き も の なのである。 → 結 果 , 自 然 に 汚 れ た り , 古 く な っ て 再 度 貸 す と き に , リ フ ォ ー ム す る費用は,貸主が入居者か らもら ってきた家賃でまかなう。 3 設問1 タバコの「 やに」による クロ ス の汚れ 1) 原状回復義務な し。 2) 未だ我が国では タバコを吸 う人 は 多く ,日常生活 に伴 う自然損耗(そ ん も う)と みられている。ただ し,通常 の 喫煙によ る汚れを超え て,余り に ひ どいときは,「こわした」のと 同視で きるということで,修復を要求で き る場合もある。 4 設問 2 結露 によって発 生し たカビによる汚れ 1) 原状回復義務な し。ただし ,通常の 使 用方法を超え,著 し い汚れを生 じ さ せた場合には義務あり,と判断される可能 性はある。 2) 借主が通常の使 用をしてい る場 合 は,「こわした 」とは 言えない。そ も そ も結露というものは,建物の構造に その発生の原 因が あるので,加湿 器 を 使いすぎたり,ストーブを炊いたり ,換気を積極的にしな かったとし て も ,原則的には,原状回復義務の対象とはら ならない。 《 名古屋地裁 平成2.10 .19 (判時1375号1 17頁)》 「 結露は,一 般的に建物の構 造に よって 発生の基本的な条件 が与えられ る の で,特 段の事情のない限り,損 害賠償 特約には,結露による汚損は含ま れ ない。」 5 設問 3 家具を置いたこ とに よる床のへこみ 1) 原 状回復義 務なし。 2) 室 内に家具 を置くのは,通 常の 用法で あるので,床のへこ みは通常の 用 法にしたがって発生した損耗にあたる。 3) 床 のへこみ を直せとなれば ,家 具を置 くなというのに等し いことにな っ てしまう。 4) 同 じように ,じゅうたん・ リノ リュー ム(クッションフロ ア)につい た テーブルの脚(あし)に よる へこみや,壁際に家具を置いた場合の壁ク ロ スの黒ずみも,原状回復の対象とならない。 6 設問4 鍵の交換費 用 1) 特約をしても鍵を紛失しない限り,原状回復というのは難しい。 借主 が鍵を紛失した 場合は ,第三 者に 使用される危 険があり,錠(じ ょ

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う)としての効用がなくなるので,原状回復義務の 一内 容として,交 換費 用を借主に負担させる合理性が認められる。 2) 貸主は,借主に対して,原状回復と して最初に貸与したマスターキーと 入居者が複製したキーの返還は求めることができる。 7 特約でどこまで原状回復を広げら れるか ? 1) 特 約 す れ ば , 費 用 の 比 較 的 軽 微 な 「 小 修 繕 費 用 」 は , 借 主 に 負 担 さ せ ら れる 。しかし,「大修繕」は 特約し ても借主に負担させ られない。 2) 借 家 人 保 護 の 観 点 か ら 「 特 約 し て も , 『 大 修 繕 』 ま で 入 居 者 に 負 担 さ せ るこ とはできない」とい うのが学説・判 例。 8 大修繕・小修繕の区分 1) 大 修 繕 ( 特 約 し て も 入 居 者 に 原 状 回 復 と し て 負 担 さ せ る こ と は で き な い もの ) ① クロス・じゅうたん の張り替え(特 に全面 張替 ) ② 温水器の取替 ③ 風呂釜の取替 → いずれ も費用が高 額になるため,大修繕に あた る。 2) 小 修 繕 ( 特 約 に よ り 入 居 者 に 原 状 回 復 と し て 負 担 さ せ る こ と が で き る も の) ① 障子紙・襖紙の張替 え ② 畳表の取替・裏返し ③ 電球・蛍光灯の取替 ④ 水栓のパッキングの 取替 3) 小修繕か大修 繕か(判断基準)? こ れ は 流 動 的 な も の で あ っ て , 判 例 上 , 今 は 「 小 修 繕 」 と さ れ て い る も の で も , 将 来 費 用 が か さ む よ う に な れ ば , 判 例 が 変 更 さ れ て 、 大 修 繕 に あ たる とされる可能性があ るので、判例の 動向に 注意 が必要。 第9問 【答】 設問 1 法律上「借主の原状回復」には特約が無い限り ,自然損耗( そんもう)は 含 まれない 。これは ,居住用の 借家でも,店舗賃貸借契 約で も同様である 。 店舗賃貸借契約の場合は、特約 を定め るこ とで、自然損耗 を原 状回復の範 囲 に 含 む と す る こ と も 広 く 認 め ら れ る 傾 向 に あ る が 、 そ の た め に は 、 原 状 回 復 に 含 ま れ る 自 然 損 耗 の 内 容 と 、 そ れ に よ る 借 主 の 負 担 を 具 体 的 に 定 め る 必 要 があると されてい る。詳しく は設問2の解説参照。

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設問2 自然損耗 の原状回復 特約 を作る場合の注意 1) 店 舗 賃 貸 借 契 約 で は , 特 約 に よ っ て , 自 然 損 耗 に つ い て も 借 主 に 原 状 回 復 義 務 を 負 わ せ る こ と が , 居 住 用 の 場 合 よ り も 広 く 認 め ら れ る 傾 向 に あ る が , 借 主 が 原 状 回 復 義 務 を 負 担 す る 自 然 損 耗 の 範 囲 は , 特 約 に よ っ て 明 確 にな っている必要がある 。 2) 最 高 裁 平 成 1 7 年 1 2 月 1 6 日 判 決 ( 判 時 1 9 2 1 号 6 1 頁 ) は 「 建 物 の 賃 借 人 に そ の 賃 貸 借 に お い て 生 ず る 通 常 損 耗 に つ い て 原 状 回 復 義 務 を 負 わ せ る の は , 賃 借 人 に 予 期 し な い 特 別 の 負 担 を 課 す こ と に な る か ら , 賃 借 人 に 同 義 務 が 認 め ら れ る た め に は , 少 な く と も , 賃 借 人 が 補 修 費 用 を 負 担 す る こ と に な る 通 常 損 耗 の 範 囲 が 賃 貸 借 契 約 書 の 条 項 自 体 に 具 体 的 に 明 記 さ れ て い る か , 仮 に 賃 貸 借 契 約 書 で は 明 ら か で な い 場 合 に は , 賃 貸 人 が 口 頭 に よ り 説 明 し , 賃 借 人 が そ の 旨 を 明 確 に 認 識 し , そ れ を 合 意 の 内 容 と し た も の と 認 め ら れ る な ど , そ の 旨 の 特 約 ( 以 下 「 通 常 損 耗 補 修 特 約 」 と い う。)が 明確に合意されている こと が 必要 である と解する のが相当であ る。」 と判示してい る。 3) こ の 最 高 裁 判 決 後 , 店 舗 賃 貸 借 契 約 に お け る 通 常 損 耗 の 原 状 回 復 特 約 の 有 効 性 が 問 題 と な っ た 事 案 に も , こ の 最 高 裁 判 例 が 示 し た 基 準 に 則 っ て , 判断 する下級 審判例(大阪高裁平成18 年5月 23 日判決Lexis 判例速報 11 号74頁 ,東京簡裁平成21年4月 10日 判決 新判例秘書 LLI 登載I D0 6460 021)が出されている。 4) 上 記 最 高 裁 判 例 は , 口 頭 に よ る 説 明 が あ る 場 合 も , 自 然 損 耗 補 修 特 約 が 有 効 と な る 余 地 を 認 め た が , 実 務 上 は , 賃 貸 借 契 約 書 の 特 約 を 明 文 で 定 め るこ とにより 紛争を防止すべきである。 5) 具体的にどのような特約を定め る べき か。 ① 原 状 回 復 義 務 を 負 担 す る 対 象 箇 所 , 設 備 及 び , 借 主 の 負 担 ( 金 額 ) の 範囲を明確に定め るべきであ る。 ② 例えば,「 退去 するときは ,自然損 耗も含めて原状回復を行うこ と。」 と い う 特 約 に つ い て は , こ の よ う な 抽 象 的 な 定 め で は , 借 主 が 契 約 時 に 自 己 の 負 担 を 明 確 に 認 識 し て い る と は 言 え な い の で 自 然 損 耗 の 原 状 回 復 を借主に負担させ る特約とし ては 無 効に なると考える。 ③ そ も そ も , 損 耗 し て い な い も の に 対 し て 原 状 回 復 義 務 を 負 わ せ る こ と が 許 さ れ る の か が 問 題 と な る が , 原 状 回 復 の 対 象 が 合 理 的 で あ り , 借 主 の 負 担 内 容 ( 金 額 等 ) が 明 確 に さ れ て い れ ば , 上 記 特 約 も 有 効 に な る も のと考える。 ④ ただし,借主に 特約に基づい て 原状 回復費 用を負担させておき なが ら, 実 際 に 貼 替 え 工 事 等 を 行 わ な い 場 合 に は , 不 当 利 得 や 暴 利 行 為 理 由 と す る 公 序 良 俗 違 反 な ど の 主 張 が 借 主 か ら な さ れ , こ れ が 認 め ら れ る 場 合 も あ り う る の で , ご く 短 期 の 中 途 解 約 等 の 事 案 ( 例 え ば , 数 か 月 で 退 去 ) で , 全 く 汚 損 が 生 じ な か っ た 場 合 等 に ま で 借 主 に 原 状 回 復 費 用 を 負 担 さ せることは避ける べきである 。

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【文 例】 第○ 条(原状回復 ) 1 乙 は 本 契 約 が 終 了 し た と き は , 直 ち に 本 物 件 を 原 状 に 回 復 し 甲 に 明 け 渡 さ な け れ ば な り ま せ ん 。 尚 , 乙 の 原 状 回 復 義 務 の 範 囲 は 「 別 紙 ○ ○ 」 に 定 める 負担区分 としま す。 2 乙 の 義 務 で あ る 原 状 回 復 工 事 は , 甲 の 指 定 す る 業 者 に 依 頼 し て 行 い , 乙 はそ の費用を 金銭に て支払いま す。 (別紙に以下の内容 等を 加入 ) 以 下 の 原 状 回 復 に つ い て は , 汚 損 ・ 破 損 の な い 場 合 で も 回 復 ・ 交 換 を 行 いま す。 ( 1)空調設備のオ ーバーホール 金○ ○ ○万円 ( 2)壁クロス交換 金○○万円 ( 3)床カーペット 交換 金○○万円 (4)天井板 金○ 万円(但し,貸主が 費 用を免除した 場合 は除く ) ( 5)スイッチ部分 を含む照明器具 交換 金○○万円 設問3 壁クロス等の減価償却と 原状 回復費 用 店 舗賃 貸借契約に おいて,自然損耗を 借主に 負担 させる特約に よって,借 主 が 具 体 的 な ク ロ ス の 貼 替 え 費 用 を 負 担 す る こ と が 明 確 に な っ て い る の で あれ ば,減価償却によ る残存簿価の 金額 に かか わらず,借主に特 約に より 定 めた 減価 償却しない 金額(新品価格 )を負 担させ るこ とができる。 なぜな ら,事業者 間で特約の 内容 が 明確 に認識されて合意に至った以上 , その 特約 を有効とし ても,借主 が一般的に経済的負 担能力がある 商人 であ る 店舗 賃貸 借の場合は ,何ら不合理と は言え ないか らで ある。 なお,ガ イドラインの再改訂 版で は,平成19年の 税制 改正により,減 価 償 却 期 間 経 過 後 の 残 存 簿 価 を 1 0 % と し て い た 従 来 の 残 存 価 値 制 度 が 廃 止 され たこ とを受け,減価償 却期 間経過後のクロスの 残存簿価は1 円に なる と して ,1 円を下限と して借主の負担 を決め るべき とし ている。 7 敷引 特約 第 10 問 【答】 敷引 特約は有 効であり,貸主 によ る敷引 は認められる。 【解説 】 1 設問 の事案に ついて,平 成2 3年3月24日最高裁第一 小法 廷で敷引特 約 有 効判決が出された。 1) 原審の大阪高裁で もこの敷引特約は 有効と され た(大阪高裁平成 21 年 6月19日判決(平成20年(ネ)第3256号) )。 2) 借主が、貸主に対 し、敷引きされた 21万 円の 返還を求めた 訴訟。 3) 借主は上記敷引特 約は、消費者契約 法第1 0条 により無効で あるから、

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敷引金は全額返金すべきだとして争った。 【注 】関西では、居住 用の借家 でも「保証金」の名目で預 入金 が授受され る こ とが多い 。さらに、預け入れ 保証 金 の中から関 東でいう「償却」が行 わ れる。この場合の敷金・保証金は 法律上 は全 く同じもので 、償 却は 敷 引 特約また は保証引特 約と 呼 ばれ ている。 2 敷引特約有効最高裁 判決の論拠 1) 本件特約は、敷金 の性質を有する本 件保証 金の うち一定額を 控除し、こ れを貸主が取得する旨のいわゆる敷引特約である。 2) 一般的に、居住用 建物の賃貸借契約 に付さ れた 敷引特約は、 契約当事者 間にその趣旨について別異に解すべき合意等のない 限り 、「通 常損耗等の 補修費用を借主に負担させる趣旨を含む」ものというべきで ある。本件特 約についてもこのような趣旨を含む。 3) 通常損耗等の原状 回復のための補修 費用は 、賃料にこれを含ませ て回 収 するのが通常だとしても、通常損 耗等 の 原状回復に 充てるべき金員を敷 引 金として授受する旨の合意が成立している場合には 、上記通常 損耗等の原 状 回 復 費 用 が 含 ま れ な い も の と し て 賃 料 の 額 が 合 意 さ れ て い る と み る の が相当である。 4) したがって、敷引 特約がある場合、 借主が 上記 補修費用を二 重に負担し たと批判することはできない。ま た、上記補 修費 用に充てるた めに貸主が 取得する金員を具体的な一定の額とすることは、通常損耗等の 補修の要否 やその費用の額をめぐる紛争を防止するといった観 点か ら、あ ながち不合 理なものとはいえず、敷引特 約が 信義則 に反して借主の利益を一方 的に 害 するものであると直ちにいうことはできない。 【注】敷 引を自然 損耗の補修 費用 の回収として一定の額で徴 収す ることは不 合 理ではないし、信義 則に反す ると も いえ ない。つ まり、消費 者 契約法第1 0条後段の「消費者 の利益を 一方 的 に害 する」と は言えない ので、同条で 無効にならない。消 費者契約 法上 、敷 引 特約は有効であると、最判は判断 している。 5) 消 費 者 契 約 で あ る 居 住 用 建 物 の 賃 貸 借 契 約 に 付 さ れ た 敷 引 特 約 は 当 該 建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定 され る額、賃料の 額、 礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照ら し 、敷引金の額 が高 額 に 過ぎると評価す べきものである 場合に は、当該賃料が近傍同種の建物の 賃 料相場に比して 大幅に低額であ るなど 特段の 事情 のない限り、信義則に 反 して消費者であ る借主の利益を 一方的 に害す るも のであって、消費者契 約 法第10条によ り無効となると 解する のが相 当で ある。 【注 】ただ 、注意す べ きは最高 裁は敷引の金額があまりに 高い と、信義則に 反 して消費 者である借 主の 利 益を 一方的に害するものとなり、消 費者 契 約 法第10 条により無 効と な る場 合もあると判断した点である。

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6) 敷引の 金額が高いかどうか、本件に ついてみると 、本 件特約は、契約締 結 か ら 明 渡 し ま で の 経 過 年 数 に 応 じ て 1 8 万 円 な い し 3 4 万 円 を 本 件 保 証金から控除するというものであって、本件敷引金の額が、契 約の経過年 数や本件建物の場所、専有面 積等 に照ら し本件建物に生ずる通常損 耗等 の 補修費用として通常想定される額を大きく超えるも のと まではいえな い。 【注】本件では、敷引の金額は自然損耗 の補修費用を 大幅 に超えない。つま り、自然損耗の補修費用を借主に負担させてもよい とし ている。 7) 本件契約における 賃料は月額9万6 000 円で あって、本件敷引 金の 額 は、上記経過年数に応じて上 記金 額の2 倍弱ないし3.5倍強 にとどまっ ていることに加えて、借主は、本 件契約 が更新される場合に1か月 分の 賃 料相当額の更新料の支払義務を負うほかには、礼 金等他の一時 金を支払う 義務を負っていない。 8) そうすると、本件 敷引金の額が高額 に過ぎ ると 評価すること はできず、 本 件 特 約 が 消 費 者 契 約 法 第 1 0 条 に よ り 無 効 で あ る と い う こ と に は で き ない。 3 消費者契約法の理解 1) 消費者契約法は、貸主が「事業者」で借主が「消費者」との間の契約に適用さ れ、 こ の 敷 引 有 効 判 決 で も 、 更 新 料 判 決 で も 、 消 費 者 契 約 法 第 1 0 条 ( 借 主 の 負担 を重くする特約 で、信義則に反し消費者の利益を一方的に害する特約は無効) に よ り 無 効 に な る か ど う か が 争 点 と な る 。 近 時 の 判 決 で は 、 個 人 の 家 主 も 消 費 者 契 約 法 の 「 事 業 者 」 と さ れ 、 消 費 者 契 約 法 が 適 用 さ れ て い る の で 注 意さ れたい。 2) 本 件最 高 裁判 決 では 敷 引特 約 が 消 費 者 契 約 法 第 1 0条 に 違反 し て、 無 効 にな るかが争われた 。 4 最高裁判 決の分析 1) 敷引特約と自然損 耗を借主 に負担させる原状回復特約 ① 敷 引特約は、本 来貸主の 負担すべき自然損耗(借家を使用しているこ と で自然に 発生するすり切 れ、汚れ)を借主から回収する もので、「自 然 損耗を借 主に負担させる 原状回 復特 約 」の趣旨を含む。言 いかえれ ば、 「 自 然 損 耗 の 原 状 回 復 費 用 と し て 回 収 す る 代 わ り に 敷 引 特 約 を し て い る 」と最高 裁は判断した。 ② 理 論的には、敷引特約と自然 損耗 を 借主 に負担させる原状回復特約は 関 連しない と考えてよい。資本を投下した家主が どの ような根拠・理 由 に より借主 から金銭を徴収 するか は様 々 であ る。たとえば、ある家 主は、 「 貸すのだ から礼金を払っ て欲し い」と考えるし 、別の家 主は更新料 と し て収益を 上げたいと考え 、他の家主は、退去時の原状回 復の際、自然 損 耗の回復 費用までも借主 に持っ ても ら うこ とで、さ らに、別の家主 は 礼 金ではな く敷引で、多く の収益 を上 げ たい と考える。

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③ 問題は、家賃以外の金銭をどのような根拠・理 由で、ま た、どの程 度 の 金額を徴 収する特約 をす る と、消費 者契 約法第10条 のいう「 信義 則 に 反し、借 主に一方的 に不 利 な特 約」になるかである。 5 自然 損耗の回 復費の二重 取り 1) 借主側 は、「自然損耗の回復分は家 賃に含 まれ ているので、 家賃以外に 敷 引を するのは、自 然損耗の 回復費の二重取りだ 」(従って不合理な特 約 だ から 消費者契約法第10条のいう「信 義則に反し、借主に一 方的に不利 な 特約 」で無効だ。)と批判した。 2) 最高裁 はこの借主側の批判に答えて 、敷引 特約 が「自然損耗を借 主に 負 担 させ る原状回復特約」を含 むとしても、賃料とは 別に敷引特約が合意 さ れ たと きは、「自然 損耗の補 修費用」は 賃料には含 まれないで賃料額が 合 意 され たとみるべきだ、と判示した。 3) つまり 、借主による「賃料以外に自 然損耗 の補 修費用の趣旨 で敷引をす る のは 自然損耗の補修費用を二重取りしている」と の批 判は当たらな い、 と この 最判は判断している。 4) 確かに 、理論的には、自然損耗は貸 すこと で当 然に生じるも ので、家賃 を 取っ て貸している以上、「 壊した」と は言えな い(自然損 耗 の修 復費 用 を 家賃 とは別個に取れない)。し かし、 判例の指摘するよう に、敷引が 自 然 損耗 の原状回復費だと仮定し、合理的に 貸主・借主の意思を推測する と、 敷 引特 約をした場合の家賃は、「 合意し た家賃額は、自然損耗 の原状回復 費 は含 まれておらず、別に自然損 耗の 原 状回復費を 二重取りしたわけで は な い。」といえる。 したがっ て、敷引特約は不合 理なものでは なく 消費 者 契 約法 第10条のいう「信義 則に反し、借主に一 方的に不利な 特約 」に な ら ない 。 6 定額 控除 1) さらに 、借主側は「敷引を原状回復 の実額 で控 除せず、定額 で控除する の は借 主の利益を一方的に害する特約で無効だ」という批判を した。 2) 判例は 、「 上記補修費 用に 充てるために貸主が取得す る金 員を具体的 な 一 定の 額とすることは、通常損耗 等の 補 修の要否や その費用の額をめぐ る 紛 争を 防止するといった観点から、あな がち不合理なものと はいえず、敷 引 特 約 が 信 義 則 に 反 し て 借 主 の 利 益 を 一 方 的 に 害 す る も の で あ る と 直 ち に いう ことはできない。」とした。 3) この考 え方は、「定額補修費分担特 約」の 有効無効と関連する。関西で、 定 額補 修費分担特約については、その 内容が 過激 なので多くの 下級審判決 が 、不合 理な特約だ から消費者契約法第10条のい う「信義 則に反し 、借 主 に一 方的に不利な特約」で 無効だと判 断し ている。しかし 、その 特約内 容 が合 理的なら、最高裁で有効とされる余地はある と思 われる。

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7 最高裁の本音(価値判断)は以下 の判 示 に現れてい る。 1) 本件契約における 賃料は月額9万6 000 円で あって、本件敷引 金の 額 は、上記経過年数に応じて上 記金 額の2 倍弱ないし3.5倍強 にとどまっ ているし、借主は、本件 契約 が更新される場合に1か月 分の 賃料相当額 の 更新料の支払義務を負うほかには、礼 金等他 の一 時金を支払う 義務を負っ ていない。 2) そうすると、本件 敷引金の額が高額 に過ぎ ると 評価すること はできず、 本 件 特 約 が 消 費 者 契 約 法 第 1 0 条 に よ り 無 効 で あ る と い う こ と に は で き ない。 3) 言い換えれば、本 件の家賃は月額9 万60 00 円、敷引額は 家賃の2倍 弱ないし3.5倍強にすぎない( 本件で は契約が短いと18万円と 敷引 額 も少なく、5年以上の長期だと34万円と高くなる 特約 であった。) し、 その他に貸主は更新料を2年に1ヶ月分しか徴収し てお らず、礼金は徴収 していないので、「本件敷引額は高額ではない」と 判断 した。 4) 要するに、この最 高裁判決は、家賃 以外に 敷引 名目で徴収し ても、礼金 ・更新料・敷引など、その全体として の徴収 額が 多額にならな ければ、消 費者契約法第10条により無効にならないと判断し た。 8 この最高裁判決の注 目点 この判 決がどの程度の射程距離(事案への 適用)が あるかが問題になる が、 次 のように整理できるのではないか と考 え る。 1) 自然損耗の原状回復費用を特約 で 借主 に負担 させることを認めた 。 2) 自然損耗の原状回復費用を定額 で 徴収 するこ とを認めた。 3) 2 年 に 1 ヶ 月 の 更 新 料 、 礼 金 の 代 わ り に 2 ヶ 月 強 の 敷 引 な ら 高 額 で は な く、 消費者契 約法第10条に反しないと した。 9 敷引特約有効判決と 更新料特約有効判 決の比 較 1) 平成23年7月15日,賃貸住宅の賃貸借契約に関する更新料支払い特 約 の有効性が争われた 3つの 事件に つい て ,最高裁 が更 新料特約を原則と し て有効とする判決を 言い渡 した。 2) 3つの事件とも,最高裁第2小法廷に継続し,同一の4名の裁判官が, 判 決を下したため,そ の判旨 もほぼ 同一 で ある 。 具体的には,「更新料 が,一般 に,賃料の補充 ない し前払,賃貸借契約 を 継続するための対価 等の趣 旨を含 む複 合 的な 性質を有する」「更新料の 支 払にはおよそ経済的 合理性 がない など と いう ことはできない。」とし た 上 で,「賃 貸借契約 書に一 義的か つ具体 的に記 載さ れた更新料条項は,更 新 料の額が賃料の額,賃 貸借契約 が更 新 される期間 等に照らし高額に過 ぎ る などの特段の事情が ない限 り,消費者 契約法 10 条にいう『民法第1条 第 2項に規定する基本 原則に 反して 消費 者 の利 益を一方的に害するもの 』 に は当たらないと解す るのが 相当で ある 。 」と 判示した。

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その上で,①1年ごとの更新に ついて ,月 額3 万8000円 の賃料の2 ヶ 月分を更新料として 支払う とする 特約 ,② 2年ごとの更 新について,月 額 賃料5万2000円 の2ヶ 月分を 更新 料として支払 う特約( 後に合意で 更 新料を賃料の1ヶ月 分に減 額する 合意 あり),③1年ごとの更新 につ い て ,更 新料1 0万円を支 払う 特 約( 賃料は月額4万5000円 )に ついて, い ずれも消費者契約法 10条 により 無効 にはならない と判断した。 3) 敷引特約を有効とした前記最高裁判決においても,「消費者契約である 居 住 用 建 物 の 賃 貸 借 契 約 に 付 さ れ た 敷 引 特 約 は 当 該 建 物 に 生 ず る 通 常 損 耗 等の補修費用として通常想 定 され る額、賃料 の額、礼 金等 他の一時金 の 授 受の有無及びその額等に照 ら し 、敷 引 金の額が高 額に過ぎると評価す べ き ものである場合には 、当該賃料 が近 傍 同種 の建物の賃料相場に比して大 幅 に低額であるなど特 段の事 情のな い限 り、信義 則に反して消 費者である 借 主の利益を一方的に 害する もので あっ て、消費 者契約法第1 0条により 無 効となると解するの が相当 である 。」とさ れ,貸主が取得 する敷引金 の 額 が不当に高額である 場合に は,消費 者契約 法1 0条により敷 引特約が無 効 になる場合があると しなが らも,前述 の事 案については ,敷 引の額が高 額 に過ぎるとは言えな いとし て,有 効と 判断した。 4 ) これらの敷引・更新料について最高裁が下した判決には、「非常識に高 い 金額を特約で貸主が 取得す ること は認 めないが,そうで なければ,当事 者 が契約で明確に合意 してい れば,更 新料や 敷引 金を貸主が取 得すること は 認められる」という 共通の 考え方 が根 底にあるもの と思われる。 5 ) したがって、これまで関東地方での建物賃貸借契約において一般に定め ら れていた、「2年間ごとの更新 につい て、賃料 1ヶ月分の更 新料を借主 に 負担させる」と いう程度であれ ば、高額過ぎるとは言 えず 、消費者契 約 法 10条によって無効 とされ ること はな いと考えて良 い。 8 オ ー ナ ー の 破 産 と 賃 貸 借 契 約 第 11 問 設問1 入 居者は賃 料を誰に支払う べき か? 【答】 貸主 が破産し た場合は,貸主 の破 産管財 人に賃料を支払わなければ なら な い 。 破産 管財人が 裁判所から選任 され るまで は,破産者(貸主)本人( また 、 貸 主 の 代 理 人 弁 護 士 か ら 請 求 を 受 け た と き は 代 理 人 弁 護 士 ) に 支 払 え ば よ い 。 なお、代 理人弁護士から通知を受けた 場合は 、貸主本人に弁護士へ の依 頼 の有 無を確認し、また、いつ頃 破産申 し立て予定かを確認した方 がよ い。 【解説 】 1) 破 産手続が 開始し,破産管 財人 が選任 されると,破産者の財産の 管理 処 分権は,破産管財人に帰属することに なり,賃貸物件から収益を収 受す る

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権利も全て破産管財人が持つことになる(破産法7 8条 1項)。 2) 借 主側から 見れば,貸主= 破産 管財人 ということになるので,例 えば , 賃貸建物の修繕を求める場合も,破産管財に対して 請求 することにな る。 設問2 A 社は管理 業務を続けなけ れば ならな いのか? 【答】 破産 管財人と 協議して,管理 業務 を続け るか,終了するかを決める こと が でき る。 【解説 】 1) 法 律 上 は , 管 理 業 務 委 託 契 約 の 委 託 者 の 地 位 も 破 産 管 財 人 に 移 る こ と に な る が , 受 託 者 で あ る 管 理 会 社 A は , こ の 契 約 を 継 続 す る の か , 終 了 す る の か を 破 産 管 財 人 に 判 断 す る よ う 催 告 す る こ と が で き る ( 破 産 法 5 3 条 2 項) 。 相 当 の 期 間 を 定 め て 催 告 し た の に 破 産 管 財 人 が 回 答 し な か っ た 場 合 に は、 管理委託契約は解除 されること にな る 。 2) 例 え ば , 賃 貸 物 件 が 多 く , 入 居 者 と の 対 応 が 煩 雑 な 場 合 に は , 破 産 管 財 人は 管理業務を継続する ことを選択 する 場 合があるし ,賃貸物件が 少な く, 破産 管財人が個別に対応 可能である 場合 に は,賃料収入を多く得る ため に, 管理 業務委託契約を解除 する場合も ある 。 3) な お , 管 理 会 社 A は , 破 産 手 続 開 始 決 定 前 に 回 収 し た 賃 料 が あ る 場 合 に は, 管理料を差し引いた 残りの賃料 を破 産 管財人に支 払えばよい。 ま た , 管 理 業 務 を 継 続 す る 場 合 に は , 破 産 手 続 開 始 決 定 後 の 管 理 業 務 に 関 す る 管 理 料 は , 財 団 債 権 と な り ( 破 産 法 1 4 8 条 1 項 4 号 ) , 他 の 一 般 の破 産債権者に対して優 先して弁済 を受 け ることがで きる。 実 務 上 は , 従 来 の 契 約 と 同 様 回 収 し た 賃 料 か ら 差 し 引 い て 回 収 す る こ と にな る。 破産法 第5 3条(双 方未履行 の双務契約 の 解除) ① 双 務 契 約 に つ い て 破 産 者 及 び そ の 相 手 方 が 破 産 手 続 開 始 の 時 に お い て 共 に ま だ そ の 履 行 を 完 了 し て い な い と き は , 破 産 管 財 人 は , 契 約 の 解 除 を し , 又 は破 産者の債務を 履 行して相手方 の債 務 の履行を請求す るこ とができる。 ② 前 項 の 場 合 に は , 相 手 方 は , 破 産 管 財 人 に 対 し , 相 当 の 期 間 を 定 め , そ の 期間 内に 契約 の解除 をするか,又は債 務 の履行 を請求する かを 確答すべき 旨 を催 告す ることがで きる。 この 場合に お い て,破産管財人 がそ の期間内に 確 答を しな いときは, 契約の 解除を した も のとみなす。 ③ 前 項 の 規 定 は , 相 手 方 又 は 破 産 管 財 人 が 民 法 第 6 3 1 条 前 段 の 規 定 に よ り 解 約 の 申 入 れ を す る こ と が で き る 場 合 又 は 同 法 第 6 4 2 条 第 1 項 前 段 の 規 定 により契約の解除を すること がで き る場 合について準用す る 。

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