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「確定拠出年金制度の改正をめぐる今後の展望」
(第三回)
NPO活動法人確定拠出年金研究所(DC総研) 理事長 秦 穣治Ⅲ.今回改正案に盛られたこと
ここからは図表を交えながら、今回改正に盛り込まれた内容を手短かに説明して行く。 また、それぞれの課題についても簡単に触れる。 1.中小企業対象「簡易型DC制度」創設
総論としては悪くない内容である。なぜなら、100人以下の小企業の場合、DC制 度の新規導入に関し ・事業主は事務手続き等の煩雑さで、金銭以外の理由でも躊躇する ・運営管理機関(運管)も採算的に厳しいため積極的な営業が出来ない ということで、本来であれば、出来る限り幅広く加入者を増加させるべきDC制度におい て一種のブラックホールとなっているからである。 ただ、そうは言っても、掛金上限5,000円の案件を運管が獲りに行くか、という と疑問で、寧ろ、既存の総合型DCの一つとして「簡易型DC制度」を位置づける案も浮 上している。いずれにしても商品数を3個に限定する意味は少ない、と考えている運管は 多く、今後、どのように小企業DC取引を拡販するかは、依然として大きな課題であろう。中小企業対象「簡易型
DC
制度
」
創設
・ 対象者 100名以下の小規模企業
・ 加入者 国民年金第2号被保険者のみ
・ 掛金
低額(月額5,000円以下など)の固定掛金
・ 商品数 固定(法令上の最低提供数3に制限など)
・ 資産移換
DBや退職金からの移換は出来ない
通常
DCへの資産移換は可能
・ 導入時必要書類の簡素化と
金融機関等による申請等事務手続きが可能
・ 制度固定化による運営コストの削減
・ 投資教育の共同実施による負担軽減
企業年金連合会等による投資教育の共同実施
2 2.
個人型DCへの「小規模事業主掛金納付制度」の創設
この仕組みは、米国では、正にマッチング拠出であるが、日本の場合には、企業拠出 が軸になっているから、“逆マッチング拠出”となる。当然のことながら、この仕組は 今は存在しないので、運菅が実施するとなれば新規システム開発が必要となる。運菅に聴 いたところではシステム開発的には困難さもコストもそう大きい問題ではなさそうだが、 運管が恐れるのはむしろ、事務上の煩雑さである。マッチング拠出データ(個々人別にい くらか)が毎月、定時までにきちんと揃うか、資金付替え日に事業主からきちんと資金が 運管に入金されるか、などの管理が極めて煩雑になるのではないかという懸念である。加 えて、これまた拠出限度額が小さくて金融機関にとっては採算を取り難い。 ただ、米国でもDC制度(401K)はスタート当初、企業拠出が軸で、10年ほど してから個人型DCが軸となり、企業がマッチング拠出する現行の仕組に変更になった歴 史がある。日本でも同様の道を歩むことになるのかが注目されるところであるが、現在の ところ、そこまでの意見はごく少数派である。 尤も、現在、記録関連機関(RK)の個人型口座開設可能数は4社合計でも大きく1 千万を下回っており、仮に、働いている人皆にDC個人型を保有させることを考えたら、 システムの根本を変えるほどの大開発が必要になりそうである。 A社従業員 (個人型DC加入者)A社事業主
加入者掛金を 給与天引き国民年金基金連合会
加入者 掛金 加入者掛金に 追加で事業主 掛金を拠出 ※ 小規模事業主掛金納付制度の詳細イメージ ●従業員100人以下
に限定 ● 加入者掛金+事業主掛金の合計で27.6万円の個人型
DC
の拠出限度額を上限
● 労働組合等の同意、対象者範囲を確認するための書類等が必要個人型
DC
小規模事業主掛金納付制度」の創設
3 3.
拠出限度額の年単位化
拠出限度額の使い残しを有効に利用できるようにする、万が一、拠出額を間違えて単 月の限度額をオーバーしてしまった場合でも翌月に修正がきく、など本改正のメリットは 間違いなく、あると考えられる。 ただ、これまた実施上の問題点も多い。例えば、 ・事業主にとって、ボーナス月だけ、加入者の言いなりの金額を拠出するような仕組 みが、事務の煩雑さから実際にワークするのか? ・離転職がある場合で、例えば6月に辞める場合でも、6月の資金を使って1年分の 拠出を認めて良いのか? など、システム対応だけでは無理で、何らかの法的な縛りが必要になると思われる。今後 の検討課題の一つである。 4.個人型DCの加入対象拡大と新個人型DC拠出限度額
本改正は今回の改正全体の中でも最大の目玉であり、基本的に専業主婦及び働いてい る人は誰でも個人型DCを持つことが出来るようになる画期的なものである。但し、残念 ながら拠出限度額の増額は一切認められておらず、今後の最大の課題となっている。掛金
掛金
掛金
拠出限度額 拠出限度額の使い残しが発生掛金
掛金
掛金
月平均拠出限度額 4月、5月の使い残し分を 6月の賞与時にまとめて拠出可能
4月 5月 6月拠出限度額の年単位化
4
第1号
(自営業者等)
第2号
企業年金加入者
公務員
第3号
(専業主婦等)
現 状
見直し案
加入可
加入不可
加入可
個人型
DC
の加入対象拡大
※ 企業型DCの加入者が個人型DCに加入するための要件は次の2つ。 ① 企業型DCでマッチング拠出を行わないこと ② 個人型DC
の加入者になることについて、企業型DC
の規約に定めがあること第1号
(自営業者等)
第2号
企業型
DC
加入者
(他の企業年金が無い場合)公務員
第3号
(専業主婦等)現 状
見直し案
月額68,000円
(年額68,000×12= 81.6万円)企業型
DC
加入者
(他の企業年金が有る場合)DB
加入者
月額23,000円
(年額23,000×12= 27.6万円)年額81.6万円
年額27.6万円
年額24.0万円
年額14.4万円
年額27.6万円
個人型
DC
の拠出限度額
5 5.
企業型DCの新拠出限度額 & 自助努力の選択肢
他の企業年金が無い場合 他の企業年金が無い場合 (個人型DC
にも加入) 現 状 見直し案 月額55,000円 (年額55,000×12= 66.0万円) 月額27,500円 (年額27,500×12= 33.0万円) 年額66.0万円 年額33.0万円 年額42.0万円企業型
DC
拠出限度額
他の企業年金が有る場合 他の企業年金が有る場合 (個人型DC
にも加入) 年額18.6万円 ※ 他の企業年金が無い場合で、個人型DCに加入しない場合には、マッチング拠出 が可能で、合算して新年額限度額となる。但し、マッチング拠出が企業拠出の 範囲内の制限は外れていない年額設定となったが、枠そのものの増額は見送り
今のところ、
DB等があると枠が半額になるのも不変
事業主
拠出
66万円 (33万円)事業主
拠出
66万円 (33万円)加入者
拠出
事業主
拠出
42万円 (18.6万円)個人型
DC
24万円 (14.4万円) ①事業主拠出のみ <現行> ②事業主拠出 +マッチング拠出 <現行> ③事業主拠出 +個人型DC <新規> ※加入者拠出(マッチング拠出)は事業主拠出の範囲内
でのみ拠出可能 ※ 個人型DCは第一号被保険者との関係で、60歳までしか拠出出来ない。 いずれにせよ、60歳以上の人の掛金拠出は企業拠出の続く場合の マッチング拠出以外は実質的に出来ない ※ ( )内は企業型DCに加えてDC以外の企業年金を実施している場合の 拠出限度額企業型DCにおける自助努力の選択肢
6 企業型DCにおける拠出限度額自体は全く増額になっていない中、制度の選択肢が増 えることは悪い事ではありませんが、逆にDC制度全体を複雑にしている面がある。従っ て、既にマッチング拠出を実施している事業主は、一応、制度の続行を図るとしても、今 後、自助努力の制度導入を検討している事業主には考慮すべきポイントが残っている。例 えば、以下のような点である。 現行のマッチング拠出制度で問題なのは、(企業拠出+マッチング拠出)の合計額が拠 出限度額の範囲内であるのに加えて、マッチング拠出が企業拠出の範囲内という二重のチ ェックが掛かっていることである。そのため、企業拠出額の小さい加入者について、例え ば、若年層や逆に契約社員化したシニア層では、折角自助努力しようと思っても拠出出来 る枠が無い、ということがある。もし、社員構成上、このような社員が多い場合には、マ ッチング拠出でなく個人型との併用を選択する余地がある。但し、その場合には、個人型 の手数料がどのくらいで、誰が支払うのか、が残された課題となるであろう。(事業主によ っては企業型の手数料も加入者に転嫁している場合もあり、逆に、個人型の手数料を含め て事業主負担とする事業主もあるかもしれない) 又、事業主拠出額が一定額の場合には、(企業型+マッチング拠出)か、(企業型+個 人型)の双方について、事業主拠出限度額を見ながら、どちらがより加入者にメリットが あるかを検討してみるのも良いと思われる。 6.
制度間のポータビリティの拡充
DB 企業型DC 中小企業退職金共済 DB○
個人型 DC 企業型 DC 個人型 DC 中小企業 退職金共済○
○
○
○
×
→ ○
○
→ ○
○
×
→ ○
×
→ ○
×
→ ○
×
→ ○
○
×
×
(※1) (※1) (※3) (※3) (※2) (※2 +※3) 移 換 先 の 制 度 移 換 前 に 加 入 し て い た 制 度 (※1)DBから企業型・個人型DCには、本人からの申出により、脱退一時金相当額を移換可能 (※2)中小企業退職金共済に加入している企業が、中小企業でなくなった場合に、資産の移換を認めている (※3)合併等の場合に限って措置年金資産の持ち運び(ポータビリティ)の拡充
7 従来からの懸案であったポータビリティの拡充は重要な意義を有すると考える。 特に、中小企業退職金共済との出し入れが認められた意味は大きく、中小企業退職金 共済が“立派な”企業年金制度であることを認め、且つ、既存制度では移換に制約があっ たものを解放したことは、中小企業の事業主及び従業員に力強いメッセージになると思わ れる。 一方で、基本的にあらゆる場合に持ち運びを認めた以上、「必ず持ち運びなさい」とい うメッセージが込められている、従って、以前にお話しした「退職しても一時金受取は原 則出来ませんよ」という意味が裏側にあることも忘れてはならない。 つまり、企業年金制度は名実ともに“年金制度”になるためには避けて通れなかった ポータビリティの議論を解決させた、という意味でこの改正は極めて重要な意味を持つも のと言える。 尚、形式上、DC→DBを認めたものの、実際上の効果は薄いかもしれない。今の時 代、敢えてDBの残高を増やそうという奇特な事業主は極めて少ないと思われるからであ る。 7.
その他の措置
上記以外の改正項目のうち、 ○DBに関わる事務手続きの一部緩和 ○国民年金基金制度の運営改善項目措置 ○国民年金基金連合会への「個人型DCの周知・広報の強化」 ○中小企業の企業年金連合会への投資教育の委託 があるが、特にDCにとって重要なのは最後の“運営管理機関の委託に関わる事業主の努 力義務”の項目であろう。 『運営管理機関間の競争を促し、加入者の利益を確保するため、委託する運営管理機 関を5年ごとに ・評価し、 ・検討を加え ・必要に応じてこれを変更すること等 を事業主の努力義務とする』 DCが金融システム商品である以上、直接の運用主体である加入者の為にも、金融シ ステムの運営を担う運営管理機関の役割は極めて大きいわけである。制度導入時に運営管 理機関選定を行うが、選定する事業主にとって、未だに導入していないもののサービス評 価をすることはそもそも非常に厳しいのに加えて、どの運営管理機関でも、自社の業績等 によっては、必ずしも同様のサービスレベルを将来保証し続けられる訳ではない。一方、8 事業主にとって、導入以降も運営管理手数料の水準を含む諸サービスレベルが同業他社比 満足のいくものになっているかをチェックしてくのは容易ではない。 そもそも事業主が運営管理機関を選定する場合、日本の企業では、主取引銀行乃至大 株主、または主受託金融機関から選ばれることが大多数で、純粋にサービスレベルのみで 選定されることはまれであろうと思われる。日本の企業年金が事業主あっての制度である 以上、主関係金融機関を対象にせざるをえないことは一定の合理性があるとは考えられる。 今回の改正の主旨が、加入者向けの運営管理機関の諸サービスに関し、事業主の充分 な配慮を要求していることだとすれば、事業主の5年ごとの見直しの為に、運営管理機関 は日ごろから、自社の ・サービスレベルの他社比較 ・選定運用商品の競合マーケットにおける位置づけと正当性の検証 ・サービスに関わるフィーの相対的なマーケットの位置づけと正当性の検証 を行い、事業主に対する適切なコミュニケーションを図るべきであろう。 法律上は“必要に応じてこれを変更する”となっているが、実務上、運営管理機関変 更は、人的・金銭的なコスト負担を事業主に負わせるだけではなく、加入者にとっても、 運用資産移換に伴う空白期間の発生により、機会ロスを被ることは確実で、現実にはそう 容易ではないことを付け加えておく。