Kobe Shoin Women’s University Repository
Title
PHONON : 音韻のプロトタイプカテゴリー
Phonon as a Phonological Prototype Category
Author(s)
松井 理直(Michinao Matsui)
Citation
Theoretical and applied linguistics at Kobe Shoin,
No.3:47-81
Issue Date
2000
Resource Type
Bulletin Paper / 紀要論文
Resource Version
URL
Right
音 韻 の プ ロ トタ イプ カ テ ゴ リー*
PHONON
松井理直
Phonon as a Phonological Prototype Category Michinao Matsui
Categorization is fundamental to all higher cognitive activities. Yet two different approaches to categorization raises deep philosophical and lin-guistic problems: one is discrete category (e.g. binary features), the other is continuous category (e.g. prototape categories).
In this paper, I will propose a integrated concept called ' phonon' , which is a basic unit of phonological representations on Head-driven Phrase Struc-ture Grammar (HPSG). Furthermore, Phonon has both qualitative inner structures which achieve the same effects as the underspecification the-ories and quantitative inner structures including the interaction systems between articulatory and perceptual cost-functions. This idea can also combine phonology with phonetics.
カ テ ゴ リ ー 化 は 、 高 次 の 認 知 活 動 に と っ て 必 要 不 可 欠 な も の で あ り 、 そ の 性 質 に つ い て 多 く の 議 論 が な さ れ て い る 。 本 稿 で は 、 音 韻 表 象 の 基 本 単 位 で あ り 、 定 性 的 性 質 と 定 量 的 性 質 を 併 せ 持 つ 助oηoη と い う 概 念 を 提 案 す る 。 定 性 的 性 質 は 、 い わ ゆ る 不 完 全 指 定 理 論 と 同 質 の 効 果 を も た ら し 、 定 量 的 性 質 は 、 調 音 コ ス ト関 数 と 知 覚 コ ス ト 関 数 の 相 互 作 用 と し て 表 さ れ る 。 *本研 究 は、平 成11・12年 度 文 部省 ・学術 振 興会 科 学研 究 費(奨 励 研 究(A),課 題 番 号:ll710291) 「日本語 動 詞形 態 素 の獲 得 に 関す る理 論 的 ・実 証 的研 究 」の 援助 を受 けて い る 。 7ゐ807召"cα`απ4A〃'∫θ6JL∫η8μ誌試'c5α'Kbわ63んo'π3,47-81,2000. @Kbわ8ε ゐ0`π」η5'"μ陀JbrL'π8麗f3距`3dβπ`β5.
o.序 論 心 的 表 象(mentalrepresentation)と は 、あ る情 報 や カ テ ゴ リ ー化 を 明 示 す る 形 式 系 で あ り、1同時 に そ の 明 示 方 式 も示 し た もの で あ る 。 認 知 機 構 に お い て 、 こ うし た 情 報 の 表 現 方 式 は きわ め て 重 要 で あ る 。 表 象 の 種 類 に よ っ て 、 ど の よ うな 情 報 が 明 示 さ れ 、 ど の 情 報 が 明 示 さ れ な い か 、 ま た 様 々 な 実 体 が い か な る カ テ ゴ リー に 属 す るか が 限 定 さ れ て し ま うか らで あ る 。例 えば 2進 法 で"1001"と い う表 現 を持 つ 実 体 と、10進 法 で"9"と 表 現 され た実 体 は 、実 体 と し て は 等 価 で あ る 。 しか し 、 演 算 体 系 と し て 、 も し2の べ き乗 で あ る か ど う か が 重 要 な 場 合 に は 、2進 法 の 表 現 が 好 ま し い 。 コ ン ピ ュ ・一 タの 内 部 計 算 が こ れ に 相 当 す る 。 一 方 、10の べ き乗 で あ る か ど うか が 重 要 な 場 合 に は 、10進 法 の 表 現 を 採 用 し た ほ うが 、 演 算 そ の もの も単 純 に な る 。 「そ ろ ば ん 」 の 機 構 は2進 法 よ り も10進 法 の 表 象 に 適 し た もの で あ ろ う。 音 の 世 界 で い う な ら ば 、octave感 覚 は2進 法 の 表 現 、dB単 位 系 は10進 法 の 表 現 が よ り適 切 で あ る 。 こ の よ う に 、 あ る 実 体 を表 現 す る 際 に適 切 な 表 象 を 用 い な け れ ば 、 情 報 を 犠 牲 に し演 算 や 復 元 を極 め て 困難 な も の と し て し ま う。 言 語 認 知 機 構 に お い て も事 情 は 同 じ で あ り、 言 語 表 象 の 性 質 は 避 け る こ との で きな い 問 題 で あ る。 中 で も 、音 声/音 韻 に 関 わ る モ ジ ュ ー ル は 音 声 特 有 の 問 題 に 直 面 す る 。 この モ ジ ュ ー ル が 、 音 響 と して の 物 理 的 な 実 体 と 、 言 語 と し て の 抽 象 的 な 実 体 を 共 に 処 理 し な け れ ば な ら な い か ら で あ る 。 こ こ で 、 物 理 的 な 実 体 で あ る 「音 」 は 連 続 的 な も の で あ り、抽 象 的 な 実 体 で あ る 「音 韻 」 は 有 限 個 の 離 散 量 で あ る と考 え ら れ る 。 し た が って 、音 韻 表 象 の 問 題 は 、 連 続 量 と 有 限 な 離 散 量 と を 結 び つ け る カ テ ゴ リー 化 の 問 題 と 言 い換 え る こ と もで き る 。 本 論 文 で は 、 こ う し た 点 を踏 ま え 、音 韻 表 象 の 内 部 構 造 で あ る カテ ゴ リー の 性 質 お よび そ の 計 算 体 系 の 妥 当 な レ ベ ル を 見 い だ す こ と を 目 的 とす る 。 な お 、 議 論 に 入 る 前 に 、2つ の 前 提 を 置 くこ と に す る 。 第 一 の 前 提 は 、 言 語 認 知 機 構 は1つ の 独 立 した 心 的 モ ジ ュ ー ル で あ り、 言 語 に 関 わ る 表 象 が 心 的 に実 在 す る とい う も の で あ る 。 二 つ め は 、 認 知 機 構 に は 記 号 的操 作 を行 う シ ス テ ム と前 記 号 的 計 算 を 行 う シ ス テ ムが あ るが 、言 語 モ ジ ュ ー ル 自体 は 明 示 的 な記 号 操 作 シ ス テ ム で あ る と い う前 提 で あ る 。 い ず れ の 前 提 も 自 明 な もの で は な く、心 的 表 象 は 不 必 要 で あ る と い う議 論(Brooks1991)や 、 明示 的 操 作 体 系 な し に 、 一 般 的 学 1形式 系 とは、そ れが 操作 規 則 を持 つ記 号 の集 合 で あ る こと を意 味 す る。
PHONON一 音 韻 の プ ロ トタ イプ カ テ ゴ リー 一 49 習 機 構 で 言 語 知 識 を習 得 す る シ ス テ ム に 関 す る 研 究(Elmanetal.1996)が 存 在 す る 。 本 稿 で は 、 表 象 の 心 的 実 在 性 と記 号 操 作 体 系 を前 提 と し 、議 論 の 直 接 の 対 象 に は し な い が 、独 立 し て 議 論 さ れ るべ き重 要 な 問 題 で あ る こ とは 、 強 調 して お く べ き で あ ろ う。 1.言 語 カ テ ゴ リ ー に 関 す る 先 行 研 究 表 象 の 性 質 、 す な わ ち カ テ ゴ リー の 考 え 方 に つ い て は 、 大 き く分 け て2種 類 の ア プ ロ ー チ が 議 論 さ れ て きた 。1つ は あ る 属 性 を 持 つ か 持 た な い か と い う二 項 対 立 に基 づ く離 散 的 カ テ ゴ リー の 考 え 方 で あ り、 も う一 方 は 属 性 の 連 続 的 な 変 化 を 認 め るプ ロ ト タ イプ カ テ ゴ リー の 考 え 方 で あ る(肱yler1995,Lakoff1987,河 上 1996,山 梨1995)。 離 散 的 カ テ ゴ リ ー は 古 典 的 カ テ ゴ リ ー と も呼 ば れ て お り、(1)に 示 す よ う な 特 徴 が あ る 。 (1)a.素 性 は そ れ 以 上 分 解 で き な い 原 子 要 素 的(atomicandprimitive)な 性 質 を 持 つ 。 b,素 性 の 値 は 二 項 対 立 的 で あ る 。 c,カ テ ゴ リー は 必 要 十 分 な 素 性 の 連 言 に よ っ て 定 義 さ れ る 。 (1)は 、 カ テ ゴ リ ー が 矛 盾 律 と排 中 律 に従 う こ と を 意 味 し て い る 。1つ の カ テ ゴ リー は 、 あ る素 性 を 有 す る か 有 さ な い か の い ず れ か で あ り、 ま た 、 あ る 対 象 は1 つ の カ テ ゴ リー に 属 す るか 属 さ な い か の い ず れ か で な け れ ば な ら な い 。 言 い 換 え る な らば 、 カ テ ゴ リー 間 に 、 明確 な 境 界 が 存 在 す る こ と に な る 。 言 語 に お い て 、 こ う し た 二 項 対 立 に基 づ く離 散 的 カ テ ゴ リー を 用 い る 最 大 の 利 点 は 、 カ テ ゴ リー を素 性 に よ っ て 差 異 の 体 系(Saussure1916)と し て 表 示 す る こ と が 可 能 に な る 所 に あ る 。 そ の た め 、 言 語 理 論 に お い て も 、Jakobsonetal.(1957) か らOptimalityTheory(PrinceandSmolensky1993)に 至 る ま で の 音 韻 論 で 標 準 的 に 使 わ れ て い る 枠 組 み とな って い る 。 ま た 、Liberman(1957)ら が 行 っ た 子 音 の 弁 別 実 験 に お い て 、子 音 間 の カ テ ゴ リ ー境 界 が 極 め て 急 峻 で あ る こ とが 示 さ れ て お り(子 音 の 範 疇 的 知 覚)、 離 散 的 カ テ ゴ リー は あ る 種 の 心 的 過 程 と も矛 盾 し な い 枠 組 み と い え よ う。
こ れ に 対 し 、 プ ロ ト タ イ プ カ テ ゴ リ ー の 考 え 方 に は 、 い くつ か の 異 な っ た ア プ ロ ー チ が あ る 。 中 で も 重 要 な も の は 、Wittgenstein(1953)の 「家 族 的 類 似 性 」 に 基 づ く哲 学 的 考 察 、 お よ びRoshe(1977)に よ る 心 理 学 的 な 研 究 で あ ろ う 。 こ れ ら の 多 くの ア プ ロ ー チ に 共 通 す る 「プ ロ ト タ イ プ 」 の 概 念 は 、 次 の よ う な も の で あ る(Tayler1995,河 上1996)。 (2)a.カ テ ゴ リ ー 間 に は 重 複 が 許 され る(分 布 性 、家 族 的 類 似 性)。 b.プ ロ トタ イプ と は 、 中心 的 な 成 員 の 抽 象 的 表 象 で あ る 。 こ う し た プ ロ ト タ イ プ カ テ ゴ リー の 性 質 は 、 自然 種 を 表 す 語 の 意 味 を 考 え る 上 で 特 に有 効 な もの で あ る 。音 韻 論 に お い て も 、AndersonandDurand(1987)ら に よ る4即6η4εηcy助oηoZo8yで は 、 母 音 の 音 質(quality)を4つ の 成 分(lil,lul,lal,lol) の 混 合 と依 存 関 係 に よ っ て 示 す とい う枠 組 み を 用 い て お り、 こ れ は 母 音 を 相 互 排 除 的 な類 と見 な さ な い とい う点 で 、プ ロ トタ イプ カ テ ゴ リー の アプ ロ ー チ に 近 い 。 距r∫∫d6、PhoηoZo8y(Shane1983)やGov8rη 配εη∫Phoη0108y(Charette1991,Ha㎡.s 1995)も 同 様 で あ る 。 さ ら に 、 プ ロ ト タ イ プ カ テ ゴ リー が 、 音 声 の 心 的 性 質 と し て 有 効 な 枠 組 み で あ る こ と を 示 す 証 拠 もい くつ か 存 在 す る 。 例 え ば 、Fry(1962) は 母 音 の 知 覚 カ テ ゴ リー の 実 験 で 、母 音 カテ ゴ リー 問 の 境 界 が 緩 や か に 連 続 的 に 変 化 し て い く こ と(母 音 の 連 続 的 知 覚)が 示 し た が 、 こ れ は プ ロ ト タ イ プ カ テ ゴ リー の 特 徴 で あ る 。 ま た 、JaegerandOhala(1984)は 、音 声 の 有 声 性 やsonorityに 関 す る 判 断 が 範 疇 的 に 変 化 す る の で は な く、段 階 的 に 変 わ り う る こ と を 示 し て い る。 日本 語 音 声 で は 、北 条(1982)が 子 音 の 類 似 性 判 断 の 実 験 か ら 、 子 音 の 心 的 空 間 を 得 た研 究 が あ る。 こ の 研 究 に よ る と 、独 立 し た 弁 別 素 性 に 対 応 す る 空 間 軸 は な く、[strident]と[coronal]が 関 わ っ て い る軸 、[-sonorant]か つ[十voiced]か ど うか を 対 立 させ る 軸 な ど が 抽 出 され て い る 。 これ ら の 結 果 は 、離 散 的 カ テ ゴ リー よ り も プ ロ トタ イプ カ テ ゴ リ ー の 心 的 実 在 性 を サ ポ ー トす る も の とい え よ う。 こ の よ う に 、 心 的 表 象 の カ テ ゴ リー と し て は 、 離 散 的 カ テ ゴ リ ー とプ ロ トタ イ プ カ テ ゴ リ ー の そ れ ぞ れ に 長 所 と短 所 が あ る こ とが わ か る 。 事 情 は 、言 語 認 知 機 構 で 使 わ れ る 心 的 表 象 に お い て も 同 様 で あ る 。 さ ら に 困 難 な こ と に 、心 的 実 在 と して の 音 韻 表 象 は 、連 続 量 と有 限 な 離 散 量 と を結 び つ け る カ テ ゴ リー で な け れ ば な ら な い 。 こ う し た 問 題 を解 決 す る1つ の ア プ ロ ー チ と し て 、本 論 文 で は 離 散 的 カ テ ゴ リー と プ ロ トタ イプ カ テ ゴ リー の 性 質 を共 に 持 て る よ うな 音 韻 表 象 で あ る
PHONON一 音 韻 の プ ロ トタ イプ カテ ゴ リー 一 51 加0η0η とい う概 念 を提 案 して み た い 。2 2.phononの 特 性 2.1音 韻 表 象 の 基 本 単 位 ま ず 、phononの 基 本 的 な 性 質 に つ い て 見 て み よ う。 こ れ ら の 性 質 は 、Charette (1991)に よ る80vεrη 〃2θ肛 助oηoJo8yで 議 論 さ れ て い る 助oη0108'cαZ61θ 〃26η∫∫ と 、 ほ ぼ 同 一 の 概 念 で あ る が 、 い く つ か の 点 で 重 要 な 拡 張 が 行 わ れ て い る 。 (3)a.phononは 音 韻 表 象 の 基 本 単 位 で あ る 。 b.各phononは 、 音 声 知 覚 と関 連 す る音 響 的 性 質 、 お よ び 調 音 運 動 に 関 わ る 性 質 を 内 部 構 造 と して 持 つ 。 (3a)の 性 質 は 、音 素 や 音 声(基 底 形 や 表 層 形)は 、phonon単 独 で 表 さ れ る か 、 あ る い はphononが 複 数 集 ま っ た 集 合 体 と し て 表 示 され る こ と を意 味 し て い る 。 例 え ば 、 日本 語 の 音 声 はA(開 口 性)、1(口 蓋 性)、U(円 唇 性)、@(軟 口蓋 性)、R(舌 端 性)、q(破 裂 性)、h(摩 擦 性)、N(鼻 音 性)、v(有 声 性)、v(無 声 性)と い う10個 の phononを 基 本 単 位 と し 、 母 音aはA単 独 、母 音eは エ とAの 複 合 体 、子 音tは v,q,Rの 複 合 体 な ど と し て 表 され る こ と に な る 。 一 方、(3b)の 性 質 は 、phononが 弁 別 素 性 に 相 当 す る よ うな 性 質 を 内 部 構 造 と し て 持 ち う る こ と を意 味 す る 。 例 え ば 、 鼻 音 性 に 関 わ る 四 とい うphononは 、調 音 運 動 の 素 性 と し て[+声 帯 振 動,+鼻 腔 共 鳴]の よ うな 内 部 構 造 を持 ち 、 同 時 に 音 響 知 覚 特 性 の 性 質 と し て 【+有 声 性,+鼻 音 性1と い う よ う な 内 部 構 造 を 持 つ 。 さ ら に(3)は 、phononを 用 い る音 韻 理 論 の 体 系5に 、3つ の 重 要 な 特 性 を 与 え る 。 まず 、 こ の 性 質 は 、phononと い う音 韻 の 基 本 単 位 が 最 小 単 位 で は な い こ と を 意 味 す る 。 し た が って 、5は 要 素 還 元 的 で は あ るが 、最 小 要 素 に は 還 元 さ れ な い た め 、 強 い 要 素 還 元 主 義 の 持 つ い くつ か の 問 題 点 か ら 逃 れ る こ とが で き る 。 次 に 、最 も コ ンパ ク トな5を 構 築 す る場 合 に お い て も 、基 本 単 位 間 の 性 質 が 完 全 に 独 立 で あ る 必 要 は な く、 互 い に 関 連 し 合 う こ とが 許 され る 。 これ は 、例 え ば 音 声 の 家 族 的類 似 性 や 不 完 全 指 定(underspeci飴ation)に 関 わ る 現 象 な ど を 、 ご く 自然 に 説 明 す る こ とに つ な が る 。 最 後 に 、phononが 内 部 構 造 と し て 音 響 知 覚 的 特 徴 と 2音韻 表 象(phon)の 基 本 要素( -on)を 表す もので あ り、物理 学 で使 わ れ る用 語 とは無 関係 で あ る 。
調 音 的 特 徴 を持 つ こ とか ら 、理 論 体 系5は 「調 音 運 動 と音 声 知 覚 の ル ー プ 」 を 本 質 的 な 特 性 と し て 備 え る こ と に な る 。 後 に 見 る よ うに 、 調 音 運 動 と音 声 知 覚 の 相 互 作 用 は 、音 声 の 心 的 処 理 過 程 に お け る重 要 な 特 性 の1つ で あ る 。 次 節 で は 、 こ れ ら3つ の 特 性 を具 体 的 に観 察 し て み よ う。 22還 元 主 義 と 表 示 の レ ベ ル こ の 論 文 で は 、phononを 心 的 表 象 の1つ と見 な し て い る こ と か ら も 分 か る よ う に 、心 理 主 義 の 立 場 を 前 提 と し て い る 。 す な わ ち 、言 語 理 論 は 言 語 の 心 的 実 在 あ る い は 心 的 処 理 過 程 に 関 す る な ん らか の 説 明 原 理 で あ る と い う立 場 で あ る 。 心 理 学 的 事 象 の 説 明 概 念 の 水 準 を 微 視 的 な最 小 基 本 単 位(心 理 は 生 命 体 に 属 す る もの で あ るか ら 、 こ れ は しば し ば 生 理 学 的 単 位 と等 価 で あ る)に 帰 着 さ せ る 立 場 が 、心 理 学 に お け る 還 元 主 義(reductionism)で あ る 。 しか し 、 ゲ シ ュ タル ト心 理 学(Gestaltpsychology)が 明 ら か に し た よ う に 、 感 覚 ・知 覚 の 領 域 で は 、 「全 体 は 部 分 の 総 和 以 上 の もの(ゲ シ ュ タ ル ト質)」 で あ り、心 理 的 構 造 は 多 くの 場 合 ゲ シ ュ タル ト質 を持 つ こ とが 知 ら れ て い る 。 例 え ば 、 あ る メ ロ デ ィ を移 調 し て 演 奏 し て も 、 メ ロ デ ィ全 体 と し て の 感 じ は 大 き くは 変 わ ら な い 。 これ は 、 メ ロデ ィが 全 体 と し て ま と ま るゲ シ ュ タル ト質 を帯 び て い るか らで あ る(ゲ シ ュ タ ル トの 移 調 性)。 さ ら に 、 こ の メ ロデ ィが 個 々 に組 み 合 わ され た上 位 構 造 で あ る 「音 楽 」 は 、 調 性 や 音 楽 の 動 機(motif)と い う独 自の 情 報 を 持 つ 。 逆 に 、 メ ロ デ ィの 下 位 構 造 で あ る個 々 の 複 合 音 は 、 い くつ か の 純 音 か ら構城 され て い るが 、 純 音 単 独 で は 持 ち得 な い あ る種 の 「音 色 」 を情 報 と し て 持 つ 。 こ の よ うに 、 心 理 学 的 事 象 は 、 各 レベ ル ご と に 全 体 と して ま と ま っ た1つ の 特 性 が 現 出 す る 。 し た が っ て 、 説 明 の た め の 概 念 の 水 準 を微 視 的 単 位 に 還 元 す る こ とは 困 難 で あ る とい え よ う 。 あ る 心 理 事 象 は 、 特 定 の レ ベ ル に お い て 、 創 発(emergent)す る もの な の で あ る 。 も し 、 言 語 理 論 が 心 的 現 象 の 説 明 原 理 で あ る な ら ば 、 同 様 の こ とが 成 立 し な け れ ば な ら な い 。 まず 、 可 能 な らば 、 理 論 の 基 本 単 位 と な る 表 示 レベ ル も 、 下 位 構 造 を 持 つ こ とが 望 ま し い 。 こ う し た 下 位 構 造 が 存 在 し た 場 合 、 「言 語 」 と して の 心 的 過 程 と、 そ れ よ り も よ り微 細 な 認 知 過 程 と の 関 係 を 規 定 す る こ とが 可 能 に な るか らで あ る 。phononが 音 韻 の 基 本 単 位 で あ り、か つ 内 部 構 造 を 持 つ と 定 義 され て い る の は 、 こ の 条 件 を満 た す た め で あ る 。 次 に 、 あ る 属 性(下 位 構 造)を 持 っ た 表 示 が 、 よ り上 位 の 表 示 の 下 位 構 造 に な れ る よ う な枠 組 み を 持 って い る こ とが 望 ま し い 。 こ う し た 性 質 は 、 人 工 知 能 に お
PHONON一 音 韻 の プ ロ ト タ イプ カ テ ゴ リ ー 一 53 い て は 、 タ イ プ 継 承(typeinheritance)と し て 知 ら れ て い る 。 多 く の 生 成 文 法 理 論 は 、 階 層 構 造 を 用 い る こ と に よ り 、 こ の 条 件 を 満 た し て い る 。 そ の 中 で も 、 タ イ プ 継 承 の 考 え 方 を 最 も 明 示 的 に 用 い て い る 文 法 理 論 が 、 丑8α4-4rfyθηP加 α385∫7麗c一 赫 召Gm〃z〃2αr(HPSG;PollardandSagl987,1994)お よ び 」4ρ飢36P加 ∬65〃 麗c'κ肥 G眉α用脚r(JPSG;Gunji1987,Gu司iandHasidal998)で あ る 。 HPSGやJPSGで は 、 言 語 情 報 を 取 り 扱 う 際 の 形 式 的 な 装 置 と し て 、 素 性 名
(featurename)と 素 性 値(fbaturevalue)の 対 で あ る 素 性 構 造(featurestnlcture)と 呼 ば れ る 次 の よ う な デ ー タ 構 造 を 用 い る 。
(4)[1翻黙 調
素 性 値 は 、 そ れ 以 上 細 か な 構 造 を 持 た な い 原 子 シ ン ボ ル(atomicsymbol)で 表 現 さ れ る 原 子 素 性 構 造(atomicfeaturest皿cture)の 形 を 取 る こ と も あ れ ば 、 以 下 に 示 す よ う に 素 性 名 と 素 性 値 か ら 成 る 複 合 素 性 構 造(complexfbaturestructure)を 取 る こ と も で き る 。 な お 、 カ テ ゴ リ ー や タ イ プ の 考 え 方 か ら 見 る と 、(5)に お け る Feature3はFeature1,Feature2に お け る 上 位 カ テ ゴ リ ー や 上 位 タ イ プ と し て 捉 え ら れ る 。⑤
「F
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e3[畿
認
盤:l
Feature4vα 伽84]]
この 素 性 構 造 を 使 う と 、 日本 語 の 分 節 音 の 構 造 は 、phononを 原 子 シ ンボ ル と す る次 の よ うな 構 造 に よ って 示 され る 。 こ こで 、curlybrackets"{}"は 、 素 性 値 と し て 複 数 の 可 能 性 、 す な わ ち選 言 的 関 係 を 表 す も の とす る 。⑤[
・eg[蹴{熱
}1]
こ の 枠 組 み を 使 う と 、 例 え ばe音 やt音 な ど は 以 下 の よ う に 表 現 され る3。 な お 、 これ ら の 表 示 を 簡 略 し て 、[A,]],【v,R,q】 の よ う に表 記 す る こ と もあ る 。 3タ グは 素性 の 共起 関係 を示 す。(7) (8)
騰 団
国 工 「 コm旦〕orvmanner国placeR] 国q 両 者 は 、 い ず れ も複 数 のphononの 集 合 体 と し て 表 現 され て お り、 か つ そ の う ち の1つ のphononが 中 心 的 な 役 割 を果 た し て い る(head素 性 に な っ て い る)点 で 共 通 して い る 。 た だ し 、(7)の よ うな 母 音 は 、 同 じ カ テ ゴ リ ー(manner素 性)に 属 す るphononが 融 合 して で きた もの で あ る の に対 し 、(8)の よ うな 子 音 は 、一 般 に 異 な っ た カ テ ゴ リ ー に 属 す るphononの 集 合 体 と して 表 現 さ れ て い る 点 が 異 な る 。 さ ら に 、 こ れ らの 要 素 は 上 位 の 構 造 に 取 り込 ま れ る 。JPSGに 基 づ く音 韻 論 で は 、明 示 的 な 素 性 と し て 表 現 さ れ る最 上 位 の 音 韻 構 造 はmora素 性 で あ る 。 例 え ば 、(8)と(7)を 組 み 合 わ せ た[te1と い う拍(モ ー ラ)は 、(9)の よ う な構 造 で 表 さ れ る。 (9) [te]= mora onset peak seg head seg[勝
国q[難
回 工1
v 国 R1
回 氏 モ 11ead 濯0澱α JPSG音 韻 論 で は 、mora素 性 以 上 の 音 韻 構 造 は 明 示 さ れ ず 、 タ イ プ 〃zomが ど の よ うな 上 位 タ イプ に 属 す る か とい う、 タ イプ 継 承 に よ って 表 現 され る 。上 位 の 韻 律 構 造 を 、 明示 的 な構 造 で は な く、 タ イ プ 継 承 で 表 す 理 由 は2つ あ る 。第 一 の 理 由 は 、 日本 語 の音 韻 論 に お い て は 、moraを 支 配 す る 上 位 の 音 韻 構 造 で あ るsyllable とfootが 純 粋 に 階 層 構 造 を 保 た な い こ とで あ る 。 ど ち ら の タ イプ も 、moraを 直PHONON一 音 韻 の プ ロ トタ イプ カ テ ゴ リ ー一 55 接 支 配 す る も の で あ り、両 者 間 の 関 係 はaligmentな ど の 制 約 に よ っ て 影 響 され 合 うだ け で あ る 。 こ う し た 木 構 造 で い う枝 の 交 差 は 、素 性 構 造 の よ うな 再 帰 的 な 構 造 で は 基 本 的 に 許 され な い 。 ま た 、 日本 語 音 声 の 心 的 処 理 に お い て は 、 後 に 見 る よ うに 、moraの 影 響 は 頑 強 で あ るが 、 そ れ 以 上 の音 韻 構 造 は 、ア クセ ン トや イ ン トネ ー シ ョ ン な ど の 音 調 に 対 し て 、 そ の 状 況 に 依 存 して の み 影 響 す る 。 こ う し た 変 動 の 大 き い な 現 象 は 、 明 示 的 な 素 性 に 関 わ る 制 約 とい う よ り も 、 あ る タ イ プ に 特 定 の 音 調 に 関 す る制 約 が 属 し て お り、 そ の タ イプ が 実 現 さ れ た 時 の み 制 約 が 働 い て 、 下 位 の 構 造 に は 見 られ な い 現 象 が 創 発 す る と考 え た ほ うが よ り適 切 で あ ろ う。 吉 本(1993)は 、 こ う し た 観 点 か らHPSGの タ イ プ 継 承 を用 い て 、 日本 語 ア ク セ ン トの 様 々 な 現 象 を 説 明 し て い る 注 目す べ き研 究 で あ る 。 2.3家 族 的 類 似 性 と 不 完 全 指 定 JaegerandOhala(1984)は 、音 声 学 の 訓 練 を 受 け た こ と の な い 英 語 話 者 を被 験 者 に し 、彼 らが[voiced]な ど の 弁 別 素 性 に 基 づ い て 、英 語 の 語 頭 音 を 分 類 で き る か ど うか を 検 証 し た 。被 験 者 は い くつ か の 子 音 に つ い て[voiced]素 性 に よ る 分 類 の 訓 練 を 受 け 、 そ の 後 、 訓 練 で は 出 て こ な か っ た 子 音 を 含 む テ ス トを 受 け た 。 そ の 結 果 、子 音 は[+voiced]/[-voiced]の よ うに 明 確 に 区別 され る の で は な く、 鼻 音 が 最 も有 声 性 の 強 い カ テ ゴ リ ーで あ り 、無 声 破 裂 音 が 最 も有 声 性 の 弱 い カ テ ゴ リ ー と な る よ うな 、 一 つ の 連 続 体 を 形 成 す る こ とが 示 さ れ た 。 phononの 持 つ 内 部 構 造 は 、 こ う し た カ テ ゴ リー 問 の 連 続 性 を 保 証 す る も の で あ る 。 例 え ば 、 素 性 構 造(6)は 、m勾orと い う カ テ ゴ リ ー に 、V,v,Nと い う要 素 が 属 す る こ と を示 し た もの と捉 え る こ と もで き る 。 タ イプ 継 承 の 枠 組 み で 考 え る な ら 、 これ ら3つ のphononは 、m司orと い う タ イ プ に 属 す る トー ク ン で あ る 。 こ れ らのphononは 、 有 声 性 、無 声 性 、 鼻 音 性 を 表 す 基 本 単 位 で あ り、 内 部 構 造 と し て 、 【+voiced,-nasal],[-voiced,-nasal],[+voiced,+nasa1】 とい う 音 響 知 覚 的 性 質 を 持 つ 。 こ の 時 、[+voiced]と い う性 質 は 、NとVを 関 連 づ け 、[-nasal]と い う性 質 は 、Vとvを 関 連 づ け て い る 内 的性 質 と見 な す こ とが で き る 。 こ れ らの 性 質 に よ って 、m勾orの 要 素 が 、N,V,vと い う順 序 で 連 続 体 を な す 事 が 保 証 され る 。 これ は 、Wittgenstein(1953)の い う家 族 的 類 似 性(加2'Zy鷹 ε〃朔 侃c8)で あ り、(2) に も示 し た よ うに 、プ ロ トタ イプ カ テ ゴ リー の 特 徴 の1つ と い え よ う。 ま た 、 こ う し たphononの 内 部 構 造 は 、[+nasal]で あ る な ら[+voiced]で あ る とい っ た 含 意 関 係 を も内 的 な性 質 と し て 自然 に 示 し う る 。 不 完 全 指 定 理 論 で は 、 指 定 さ れ て い
な い 値 を 補 填 す る た め に 、文 脈 自 由 ・文 脈 依 存 規 則 が 要 求 さ れ るが 、phononの シ ス テ ム で は こ う し た 規 則 が 不 必 要 に な り、 文 法 シ ス テ ム の 経 済 性 の 点 か ら も1つ の 優 れ た ア プ ロ ー チ で あ る とい え よ う。 2.4音 声 産 出 と音 声 知 覚 の 連 鎖 音 声 の 心 的 処 理 シ ス テ ム を 考 え る 場 合 、音 声 産 出 と音 声 知 覚 の 相 互 依 存 関 係 は 極 め て 重 要 な 性 質 で あ る 。 い くつ か の 実 験 、例 え ば 、遅 延 聴 覚 フ ィー ドバ ッ ク (Lee1950)、 ラ ンバ ー ド 効 果 、 変 換 聴 覚 ブ イ ー ドバ ッ ク(河 原1995)、 日本 人 の !r-y習 得 実 験(Yamada1995)は 、 こ う し た 相 互 作 用 の 明 確 な 証 拠 と な る も の で あ る 。 ま た 、代 表 的 な 音 声 知 覚 仮 説 で あ る αr∫'C麗伽07y彫 燃Cε 焼εozyqプ3ρ66Cん ρε眉αψ∫加(Libe㎜{m1957)や'ηo'or'ん ω σ げ 瑠8cんp印c曜loη(Libe㎜anetal.
1962),Aη αJy5'5一わy一卵 痂85'3規046Z(K.N.Stevens1960)な ど も 、音 声 産 出 と音 声 知 覚 の相 互 作 用 をモ デ ル の 中 心 に お い て い る 。例 えば 、Analysis-by-Synthesismodel で は 、 聞 き手 は 聴 覚 末 梢 系 で 得 られ る音 響 的 パ タ ー ン の 照 合 に よ っ て 音 声 知 覚 を 行 う と考 え られ て い る 。 こ の 仮 説 で は 、 発 話 され た 音 声 を 、 抽 象 的 で 離 散 的 な 言 語 符 号 が 生 成 過 程 に お い て 言 語 規 則 や 調 音 を経 て 変 換 され た 結 果 と見 な す 。 聞 き 手 は 、生 成 過 程 に お け る こ れ ら の 規 則 や 変 換 と 同 じ もの を 使 っ て 、音 響 的パ タ ー ン を合 成 し 、 こ の 合 成 パ タ ー ン を聴 取 し た 音 声 の 音 響 的 パ タ ー ン と照 合 す る。 両 者 のパ ター ンが 一 致 す れ ば 照 合 が 完 了 す るが 、一致 し な い 場 合 に は 、誤 差 に 基 づ い て 修 正 され た 合 成 パ タ ー ンが 作 成 され 、再 び 照 合 が 行 わ れ る 。 こ の ア プ ロ ー チ は 、川 人(1996)に よ る音 声 産 出過 程 の 計 算 論 的 モ デ ル な ど に も取 り込 まれ て い る 。 音 声 知 覚 過 程 と 音 声 産 出 過 程 は 相 互 依 存 的 で あ る とい う考 え 方 に は 、 い くつ か の 反 論 も提 出 され て い る。 特 に 、産 出 と知 覚 に お い て 処 理 の 違 い が あ る こ とか ら 、 両 者 に 共 通 し た 言 語 処 理 過 程 が 使 わ れ て い る に 疑 問が 出 され る こ と も多 い 。 し か し 、 これ らの 点 に 関 し て は 、 た と え 共 通 し た 言 語 知 識 を 仮 定 し て も 、 そ こ に あ る 種 の 経 済 性 が 関 係 して い る な らば 、 非 対 称 性 が 生 じ得 る こ と を理 論 的 に 説 明 可 能 で あ る(松 井1999)。 また 、 変 換 聴 覚 フ ィー ドバ ッ ク な ど の 極 め て 明 確 な現 象 を 、 知 覚 と産 出 の 相 互 作 用 な し に 、 ど の よ うに 説 明 す べ きか は 全 く明 らか で な い 。 そ こ で 、 本 稿 で は 、 産 出 と知 覚 に 共 通 し た 言 語 知 識 が 使 わ れ て お り、 そ れ 故 、両 者 の 間 に 相 互 作 用 が 存 在 す る とい う立 場 を 採 用 す る 。 (3)で 示 し たphononが 内 部 構 造 と し て調 音 的 性 質 と 音 響 知 覚 的 性 質 を 同 時 に 持 つ とい う性 質 は 、 こ う し た 産 出 過 程 と 知 覚 過 程 に お け る 知 識 の 同 一 性 、相 互依 存
PHONON一 音 韻 の プ ロ ト タ イプ カ テ ゴ リー 一 57 性 の1つ の モ デ ル 化 で あ る 。 これ ら の 内 部 構 造 は 、 産 出 時 に はphononが 調 音 的 性 質 に 翻 訳 され 、 運 動 処 理 機 構 に 対 す る調 音 指 令 に な る 。 一 方 、音 声 知 覚 場 面 に お い て は 、一 般 的 聴 覚 機 構 で 抽 出 され た音 響 的 特 徴 が 、phononの 内 部 構 造 に し た が っ て 翻 訳 さ れ 、音 韻 表 象 と し て に統 合 され る 。 こ の 流 れ は 、 一 般 的 聴 覚 理 論 で あ る 側4f'oび5c8η8飢 αJy5'∫(Bregman1990)の 「分 析 と 統 合 の 過 程 」 と い う枠 組 み に も合 致 し て い る。 換 言 す る な ら ば 、phononは 、言 語 機 構 に お け る 音 声 ・音 韻 の基 本 単 位 で あ る と 同 時 に 、言 語 機 構 と運 動 系 お よび 言 語 機 構 と 知 覚 系 との イ ン タ ー フ ェ ー ス に も な る とい う こ と で あ る 。 3phononの 定 性 的 内 部 構 造 3.1phononと 弁 別 素 性 との 関 係 次 に 議 論 す べ き こ と は 、 実 際 にphononは ど の よ う な 内 部 構 造 を 持 つ の か と い う問 題 で あ る 。前 述 した よ うに 、音 声 の 場 合 は 定 性 的 な性 質 と定 量 的 な 性 質 の 両 面 を考 え る必 要 が あ る 。 本 節 で は 、 まずphononと そ の 定 性 的 内 部 構 造 で あ る 弁 別 素 性 と の 関 係 を 見 て み よ う。 まず 、phononと 弁 別 素 性 の 関 係 を 、 以 下 の よ うに 定 義 す る 。
(10)a.分 節 音(segment)は い くつ か のphononの 集 合 で あ り 、headと な るphonon
とdependentと な るphononが あ る 。4
b.各phononに 内 在 す る 弁 別 素 性(DF)は 、hotDFとcoldDFの2種 類 が
あ り 、 各DFはsegmentに 引 き 継 が れ る 。
c,た だ し 、 引 き継 が れ るDFの 強 さ は 以 下 の 通 り で あ る 。
1.head要 素 のDFをsegmentに 引 き 継 ぐ と[cost-〔E】 が 掛 か る 。
2.hotDFをsegmentに 引 き 継 ぐ と 【cost一 の]が 掛 か る 。
こ の 規 則 か ら 、headと な るphononのhotDFが 最 も 強 く 、次 にdependentで あ る
phononのhotDEhead要 素 のcoldDFと い う順 で 続 き 、 最 も 弱 い も の がdependet
と な るphononのcoldDFと い う 序 列 に な る こ と が 分 か る 。 例 と し て 日 本 語 の[e]
音 を 取 り 上 げ 、(10)の 具 体 的 な 働 き を 見 て み よ う 。 す で に 見 た よ う に 、 日 本 語 の
4headと な るphononは
、(7)な ど の 素 性 構 造 に お い て 、head素 性 と し て 示 さ れ て い る 。 簡 易 表 記
[e]はphononの 表 示 で(7)の よ う な構 造 に な り、headと な るphononと して1要 素 を 、dependent要 素 と し てA要 素 を 持 って い る 。 こ こ で 、各phononの 持 つ 弁 別 素 性 と(9)の 計 算 規 則 に よ り、 日本 語 の[e]は 音 声 知 覚 に お け る一 般 的 聴 覚 過 程 と の イ ン タ ー フ ェ ー ス に お い て 、 次 の よ う な 弁 別 素 性 とマ ッチ す る こ と に な る 。5 (11)phononと 定 性 的 音 響 特 性 と の 関 係 4召ρ6π48η ∫ [A, 舵 磁 工] 3ε8「〃2ε肛 ⇔!e1 一1)IFFUSE 十grave -Hat -creak 十cont -strid -murmur 十voiced 十diffuse -GRAVE --flat 十CREAK 十cont -strid 一mu]㎜ur 十voiced 一1)IFFuSE -GRAVE -flat 十CREAK 十cont -strid -mun皿ur 十voiced 同様 に 、音 声 産 出 過 程 と の イ ン タ ー フ ェ ー ス に お い て は 、phononの 表 示 か ら 以 下 の よ うな 調 音 的 素 性 が 展 開 され 、運 動 指 令 の 離 散 的 表 現 と な る 。 (12)phononと 定 性 的 調 音 特 性 と の 関 係 4ρP8η4θ η'舵 α4 [A,」] ∫θ9配8η' ⇔!e! 一 田GH 十10W 十back -labia1 -paratal 十sonorant -shdll -nasal 十slack 十high -10W -3ACK -labia1 十pa且ata1 -sonorant -shrill -nasal 十slack 一H【GH -10W -BACK -labia1 十palata且 一sonorant -shrill -nasal 十slack 5hotDFを 大 文 字 ゴ シ ッ ク 体 で 表 示 す る 。
PHONON一 音 韻 の プ ロ ト タ イプ カ テ ゴ リー 一 59 32産 出 と知 覚の 非対 称性 調 音 的 弁 別 素 性 と音 響 知 覚 的 弁 別 素 性 をphononの 内 部 に 取 り込 ん で し ま う と い う ア プ ロ ー チ を採 用 す る 理 由 は 、不 完 全 指 定 の 自然 な 表 現 お よ び 表 示 の 経 済 陛 を達 成 す る とい う 目的 ば か りで は な い 。言 語 認 知 機 構 と し て 見 た 場 合 、調 音 的 特 徴 と音 響 知 覚 的 特 徴 が 個 別 に 計 算 さ れ て い る と考 え るべ き 現 象 が 存 在 す る の で あ る 。 そ の 一 例 と し て 、 日本 語 を 母 語 と す る 幼 児 のf音 獲 得 の 過 程 を 見 て み よ う。 音 声 獲 得 中 の 幼 児 は 、f音 の 調 音 に 関 し て 困 難が 見 られ る こ とが あ り、 しば しばd 音 で 発 音 す る(風 間 ・阿 部1997)。 しか し 、 こ う し た 幼 児 で あ っ て も 、f音 の 知 覚 は 正 確 に で き る こ とが 知 られ て い る 。例 え ば 、「リ ンゴ 」 と い う語 を[dingo]と 発 音 す る 幼 児 が 、親 が 「デ ィ ンゴ 」 とい う と 、そ の 発 音 の 誤 りを 指 摘 で き る 。 ま た 、 こ の 時 期 の 幼 児 は 、既 にd音 の 変 異 音 で あ る[d5(i)]あ る い は[3(i)]を 正 確 に発 音 で きる に も 関 わ らず 、f(i)音 に つ い て は[d(i)]音 を使 い 、[d5(i)】あ る い は[5(i)1を 使 用 す る こ と は ほ と ん ど な い こ とが 観 察 さ れ て い る 。 さ ら に 興 味 深 い な こ と に 、 f音 のd音 エ ラ ー は 、 発 達 と 共 にf音 に 修 正 され て い くが 、 こ の 時 「真 」 のd音 がf音 に 過 剰 修 正 さ れ る こ と は ほ とん ど な い 。 こ の こ とか ら 、 こ の 時 期 の 幼 児 は 、 内 的 に は 成 人 と 同 様 にf音 とd音 の 区 別 が な され て お り、既 に 正 し い 表 象 が 獲 得 され て い る と 考 え られ る 。 産 出 の エ ラ ー は 、 表 象 自体 が 原 因 な の で は な く、 そ の 表 象 を 何 らか の 形 で 「解 釈 」 す る 際 の エ ラ ー な の で あ る 。 こ う し た 音 声 産 出 と音 声 知 覚 の 間 に 存 在 す る 非 対 称 性 は 、音 響 的 弁 別 素 性 の 値 が 調 音 的 素 性 か ら予 測 さ れ て い る(あ るい は そ の 逆)と い うア プ ロ ー チ で は 、 説 明 す る こ とが 困 難 で あ る 。 し か しphononの ア プ ロ ー チ で は 、 こ の 現 象 を 以 下 の よ う に捉 え る こ とが で き る 。 今 、正 常 なf音 とd音 の 違 い は 、調 音 的 に は[continuant]素{生 に よ って 、音 響 的 に は 【sonorant】素 性 に よ っ て 示 され る とす る6。 す な わ ち 、f音 は[+cont,+son]の 素 性 を持 ち 、d音 は[-cont,-son]と い う素 性 を 持 つ 。 また 、f音 の 表 象 は 【q,Eld 音 の 表 象 は[v,R,q]で あ り、R要 素 の 持 つ[+Cont,+Sonユ 素 性 はhotDEq要 素 の 持 つ[-Cont,-Son]素 性 もhotDFに な っ て い る こ とが 最 終 的 な 状 態 で あ る とす る 。 こ こで 、 成 人 は 内 的 に 正 し い 表 象 を 獲 得 し て い る と考 え ら れ る た め 、phonon の 集 合 全 体 は 、f音 に つ い て は(13)の よ う に 、d音 に 関 して は(14)の よ うに 解 釈 6そ の 他 、[corona1],[stif目 を 調 音 的DF、[sonorant],[gmve],[voiced]を 音 響 知 覚 的DFと し て 用 い て い る 。
さ れ る 。 表 か ら分 る 通 り、 お と な のf音 とd音 は 、調 音 的 に は 【cont]素性 に お い て 違 い が あ り、 音 響 的 に は[sonoranq素 性 に お い て 差 異 が 存 在 す る 。 (13)成 人 のf音 に おけ る定性 的調 音特 性 お よび音 響特 性 4召P6ηdε π∫ 乃θα4 [q,田 588〃昭η' ⇔f([f]ノfの 一Cont 一stiff 十Cont 十Comnal 十stiff 十Cont 十Corona置 十stiff 一Sonorant 一voiced 十So皿orant -Gra▼e 十voiced 十Sonorant -Gmve 十voiced (14)成 人のd音 にお け る定 性 的調音 特性 お よび 音響 特 性 喫 ρθη4επ∫ [V,R, んθα4 q] ∫687ηθη∫ ⇔d([d]ノd1) 十St量ff 十Cont 十Corona1 十stiff 一Cont 一stiff 一Cont 十Comm1 十Sti置 十Sonorant -Gra▼e 十Vbiced十voiced 一Sonorant 一voiced 一Sonorant -Gm▼e 十Vbiced 一 方、f音 の 獲 得 最 終 段 階 に い る こ ど もは 、f音(15)とd音(16)に つ い て 以 下 の よ う なDFを 持 っ て い る 。 成 人 との 違 い は 、Rの 調 音 的性 質 で あ る[+cont]素 性 がhotDFに な っ て い な い と こ ろ に あ る 。 こ れ は 生 理 学 的 理 由 に よ り、 幼 児 の 、R 要 素 の 発 音7が 不 安 定 で あ る こ と を意 味 す る 。 なお 、音 響 的 要 素 に つ い て は 、成 人 との 間 に 違 い は な い 。 知 覚 面 に 関 し て は 、生 理 的 発 達 は 無 関 係 と考 え られ る た め で あ る 。 7英語 のr音 に相 当す る 。
PHONON一 音 韻 の プ ロ ト タ イ プ カ テ ゴ リー 一 61 (15)幼 児 のf音 におけ る定性 的調音 特性 お よび音 響 特性 4ρρ8η48班 んε磁 [q,旦] ∫88〃38π' ⇔f([d]ノf1) 一Cont 一stiff 十cont 十Coronal 十stiff 一Cont 十Comnal 十stiff 一Sonorant 一voiced 十sonorant -Grave 十voiced 一Sonorant -Gra▼e 十voiced (16)幼 児 のd音 に おけ る定性 的調 音 特性 お よび音 響特 性 46ρ 飢4ε 〃' [V,R, 舵 α4
望
∫¢9〃昭η' ⇔d([d],ノ(y) 十St縦 十cont 十Corona1 十stiff 一Cont 一stiff 一Cont 十Coronal 十St置 十sonorant -Gmve 十V6iced十voiced 一Sonorant 一voiced 一Sonorant -Gra▼e 十Vbiced こ の 音 声 の獲 得 中 期 に い る幼 児 が 、既 に 表 象 と し て は お と な と 同 じ知 識 一 す な わ ち[q,B」 と 【V,R,q]を 獲 得 して い る点 に 注 意 され た い 。 ま た 、R要 素 の 持 つ[cont] 素 性 の 値 で あ る"+"自 体 に は 違 い が な い こ と に も注 目さ れ た い 。 各 音 韻 要 素 の 持 つ 弁 別 素 性 の 値 は 、 固 定 的(生 得 的)で あ り、お と な と子 ど もの 間 で 差 は な い 。 両 者 の 違 い は 、 イ ン タ ー フ ェ ー ス に お け る弁 別 素 性 の 解 釈 に あ り、R要 素 に お け る [+cont]と い う調 音 的 素 性 がcoldDFに 解 釈 され て し ま っ て い る 点 だ け で あ る 。 し か し 、 こ の 素 性 がhotDFに な っ て い な い こ とが 、正 し い 知 覚 が 可 能 で あ る に も 関 わ らず 、調 音 の 狂 い が 生 じ る 原 因 に な っ て い る の で あ る 。 こ う し た 現 象 は 、 調 音 的 弁 別 素 性 と音 響 的 弁 別 素 性 は イ ン タ ー フ ェ ー ス ・レ ベ ル で 個 別 に 解 釈 され る もの で あ り、言 語 の 表 示 レ ベ ル で は 両 者 を 統 一 し た 単 独 の 表 象 が あ る こ と を 支 持 す る1つ の 例 と い え る だ ろ う。 ま た 、Piagetに よ る と 、 子ど も は2歳 頃 か ら知 覚 と 運 動 の つ な が りの 間 に 、 経 験 的 な 表 象 と い え る もの を 扱 え る よ う に な る とい う。 こ の 表 象 は 、 初 め は 知 覚 に 依 存 し た 静 的 な もの だ が 、 次 第 に 知 覚 的経 験 とは 独 立 に 、 内 的 に 操 作 で き る よ うに な る 。 調 音 的 性 質 と音 響 知 覚 的 性 質 を 内 部 構 造 に 持 つphononの ア プ ロ ー チ は 、 こ う し たPiagetの 考 え 方 と も矛 盾 し な い もの で あ る 。 3.3プ ロ ト タ イプ と し て のphonon
phononの 内 部 に 弁 別 素 性 を持 た せ る こ と で 、phononは 家 族 的 類 似 性(2a)以 外 に 、 も う一 つ プ ロ ト タ イ プ カ テ ゴ リー と して の 特 徴 で あ る(2b)も 満 た す こ とが で きる 。(2b)は 、 単 独 の プ ロ ト タ イプ は 、 そ れ 自体 で 自立 し た 存 在 で あ る こ と を 意 味 す る 。 言 い 換 え る な らば 、 プ ロ トタ イプ とプ ロ ト タ イ プ の 集 合 体 とは 、 同 じ レ ベ ル に属 す る の で あ る 。 弁 別 素 性 は 、離 散 的 カ テ ゴ リ ー で あ る た め 、 強 い 不 完 全 指 定 理 論 の 立 場 に 立 た な い 限 り、 こ う し た 性 質 を 持 た な い 。 例 え ば 、[+coronal】 と い う指 定 は 、 そ れ 自 体 で は音 声 に な ら な い が 、弁 別 素 性 の 集 合 体 で あ る[-voiced,-cont,+corona1...】 は[t]と い う音 声 に な る 。 し た が って 、弁 別 素 性 と弁 別 素 性 の 集 合 体 は 、 異 な っ た タ イ プ に属 す るの で あ る 。8一 方 、 前 節 で 示 し たphononの 内 部 構 造 か ら分 か る 通 り、 多 くの 弁 別 素 性 か ら構 成 され て い る た め 、 各phononは 基 本 的 に 単 独 で も 「音 声 」 と して 存 在 し うる 。例 えば 、Aは[a],1は[i]と し て 自立 し た 音 価 を 持 つ 。9
ま た 、複 合 要 素 で あ る[A』 は[e]と い う音 価 に 相 当 す る 。 し た が っ て 、phonon と そ の 集 合 体 は 、同 じ レベ ル に属 す る 表 象 で あ り、phononそ れ 自体 は プ ロ ト タ イ プ カ テ ゴ リー とい っ て よ い だ ろ う。 た だ し 、 こ の こ とは 、音 韻 に お け る 離 散 的 カ テ ゴ リー を 否 定 す る も の で は な い 。 phononは 、 内 部 構 造 と し て 離 散 的 カ テ ゴ リー を 持 っ て お り、 こ れ は 「差 異 の 体 系 」 を保 持 す る た め に 必 要 不 可 欠 で あ る 。 ま た 、前 項 で 見 た よ うに 、 離 散 的 カ テ ゴ リ ー は 、 他 の モ ジ ュ ー ル と の イ ン タ ー フ ェ ー ス に お い て 重 要 な 役 割 を 果 た す 。 本 稿 で の 主 張 は 、 あ く まで 独 立 し た 言 語 認 知 機 構 の 音 韻 基 本 単 位 を 考 え る 限 り、 8な お、 強 い 不 完 全 指 定 理 論 の 立 場 に 立 つ と 、 例 え ば[+coronal]は 他 に 条 件 が な い 限 り 、 【Uな ど の 音 声 と し て 実 現 され 得 る 。 こ の 点 に お い て 、 不 完 全 指 定 理 論 に お け る 弁 別 素 性 の 「タ イ プ 」 が ど の よ う な 性 質 を 持 つ の か 、 興 味 深 い 議 論 が 可 能 で あ る 。 9例 外 は、 声 帯 振 動 に 関 わ る 要 素 で あ るVとvで あ る が 、Goり6朋 雁 ηf、Phoηo'ogyの 立 場 で は 、 こ れ ら は 音 調 のhightone,10wtoneと い う音 声 的 実 現 形 を 担 う と考 え て い る(Charettel991,Harrisl993)。
PHONON一 音 韻 の プ ロ トタ イ プ カ テ ゴ リ ー一 63 そ れ は プ ロ ト タ イプ カ テ ゴ リー で あ っ て も よ い とい う もの で あ る 。10 4phononの 定 量 的 内 部 構 造 4.1産 出 お よ び 知 覚 に お け る コ ス ト関 数 次 にphononの 定 量 的 性 質 に つ い て 議 論 を 行 う。 こ の 性 質 に お い て も 、定 性 的 性 質 同 様 、 産 出 に 関 す る も の と音 響 知 覚 に 関 す る もの が 必 要 で あ る 。 こ こ で 、 産 出 に 関 わ る性 質 を 、あ る音 響 的 性 質Xを 実 現 す る た め の 調 音 運 動 に 必 要 な 運 動 量 と し て 定 義 す る 。一 方 、 知 覚 に 関 わ る 性 質 は 、あ る音 響 的 性 質xを 分 節 音Yと し て 同 定 で き る確 率 と し て 表 現 され て い る と考 え る 。 これ ら は 、 い ず れ も調 音 運 動 の 困 難 度 、 あ る い は 知 覚 的 同 定 の 困 難 度 を 表 す 指 標 で あ る 。 し た が っ て 、phonon の 定 量 的性 質 とは 一 種 の 経 済 性 で あ り、運 動 量 が 増 加 す る ほ ど 産 出 に お け る負 荷 が 高 く、 ま た 分 節 音 同 定 の 困 難 度 が 増 す ほ ど 知 覚 に お け る負 荷 が 高 くな る よ う な コ ス ト関 数 の こ とで あ る と言 い 換 え て も よい 。11 こ う し た コ ス ト関 数 に よ り、phononは 定 量 的 性 質 と して 、 あ る種 の 分 布 を 持 っ た プ ロ ト タ イプ カ テ ゴ リ ー で あ る こ とが 保 証 され る 。 こ れ は 、 定 性 的 性 質 に お け る家 族 的 類 似 性 に よ っ て 特 徴 づ け ら れ る され る プ ロ ト タ イ プ 的 性 質 と も 矛 盾 し な い 。 さ ら に 、 こ の 性 質 に よ り、 音 韻 の プ ロ トタ イプ 性 を 巡 る1つ の 問 題 点 を 回 避 す る こ とが で き る 。 第2節 で 見 た よ うに 、子 音 は 範 疇 的 に 知 覚 され 、母 音 は 連 続 的 知 覚 に な る こ と が 実 験 的 に 確 認 され て い る 。 も し 、音 韻 の 基 本 単 位 で あ るphononが プ ロ ト タ イ プ カ テ ゴ リ ーで あ る と す る な ら ば 、 離 散 カ テ ゴ リー の証 拠 と考 え られ る 子 音 の 範 疇 的知 覚 の 要 因 を な ん ら か の 形 で 説 明 し な い とい け な い 。 こ こ で 、 再 び(7)と(8) に 注 目 され た い 。両 者 の 違 い は 、(7)が 同 じ 上 位 カ テ ゴ リー(manner素 性)に 属 す るphononの 集 合 で あ る の に対 し 、(8)は 異 な っ た 上 位 カテ ゴ リー に 属 す るphonon の 集 合 体 と し て 表 現 され て い る点 に あ る 。 同 一 の 上 位 カ テ ゴ リー に 属 す る も の は 、 分 布 の 重 複 が 大 き い(こ れ が 定 性 的 な 家 族 的 類 似1生を 保 証 す る)の に 対 し 、 異 な っ 10ま た 、 プ ロ ト タ イ プ カ テ ゴ リ ー は 認 知 言 語 学 ・認 知 意 味 論 の 分 野 で 主 に 議 論 さ れ て い る が(Lakoff l987,肱ylerl995,河 上1996,山 梨1995)、 生 成 文 法 の 枠 組 み と 矛 盾 す る と い う わ け で な い こ と は 言 う まで も な い 。HPSGな ど の 生 成 文 法 の 枠 組 み で 、 プ ロ ト タ イ プ カ テ ゴ リ ー が ど の よ う な 効 果 を も た ら す の か と い う 点 は 、本 稿 の 隠 れ た 目 的 の1つ で あ る 。 他 の 隠 れ た 目 的 は 、phonologyとphoncticsの 自 然 な接 続 で あ る 。 11音 韻 要 素 と 物 理 量 との 関 係 に つ い て は、HardsandLindsey(1990)の 議 論 が あ る。 彼 ら の ア プ ロ ー チ は 、 音 響 的 性 質 を 直 接 扱 う も の で 、 産 出 ・知 覚 の 相 互 作 用 は 考 慮 され て い な い 。
た カ テ ゴ リー に 属 す る要 素 同 士 は 、共 通 し た 性 質 が 少 な い た め 、 分 布 の 重 な りは 狭 くな る 。 し たが っ て 、 同 一 カ テ ゴ リ ー に 属 す るphononの 集 合 が 作 り出 す 分 布 の 分 散 に 比 べ 、異 な っ た カ テ ゴ リ ー に 属 す るphononの 集 合 に よ っ て 作 ら れ る 分 布 の分 散 は 極 め て 狭 くな り、結 果 的 に 全 体 と し て の カ テ ゴ リ ー の 独 立 性 が 強 くな る 。 これ が 、 子 音 知 覚 の 範 疇 的 性 質 の 要 因 と考 え る こ とが で き る 。 4.2最 適 解:産 出/知 覚 の 安 定 点 次 に 、phononに 内 在 す る 定 量 的 性 質 を具 体 的 に見 て み よ う。 例 と し て 、A要 素 に 内在 す る コ ス ト関 数 を 取 り上 げ る 。phononAは 、(11),(12)に 示 さ れ る 定 性 的 性 質 か ら分 か る 通 り、単 独 で は低 舌 母 音[a]に 相 当 す る 性 質 を持 つ 。 舌 の 高 さ は 、舌 体 の 動 き を 固 定 し た 場 合 、顎 の 開 閉 に 伴 う 回転 運 動 に ほ ぼ 一 致 し 、 そ の 運 動 量 の 変 化 は 、 口腔 の 運 動 モ デ ル(Me㎝elsteinl973,McGowml994)か ら推 定 で き る 。 今 こ こ で 、最 も 自然 な 母 音 の 発 音 位 置 と し て 、 中 舌 母 音e(第1フ ォ ル マ ン トの 値 で ほ ぼ500Hz)を 基 準 に 定 め 、gの 位 置 か らの 運 動 量 を 産 出 に お け る コ ス トとす る 。 こ の 時 、Aに 内 在 す る 産 出 的 性 質 は 、Figure1に 示 す よ う な コ ス ト関 数 と し て 表 され る 。12 12実際 には これ らの数 値 は相 対 的に変 動 し得 る。なぜなら、絶対 的基準 においては、ある話 しての 母 音Xの フ ォル マ ン ト振 動 数 は 、別 の話 して の 母音Yの フ ォル マ ン ト周波 数 に対 応 す る こ とが 頻 繁 に起 こ りう るか らで あ る。
PHONON-一 音 韻 の プ ロ ト タ イ プ カ テ ゴ リ ー 一 65 図1漁 に 内 在 す る 塵 出 的 コ ス ト 一 方、母 音 の 知 覚 に は 第1フ ォル マ ン トお よび 第2フ ォル マ ン トが 重 要 に な る が 、 中 で も第1フ ォ ル マ ン トは 舌 の 高 さ と相 関 を 持 つ こ とが 知 ら れ て い る"し た が って 、 低 舌 母 音[a]に お い て は 、 第1フ ォル マ ン トの 値 が 特 に 重 要 な 手 が か り に な る.し たが って 、第1フ ォル マ ン トの 変 化(第2プ ォル マ ン トは 第1フ ォル マ ン トに 従 属 し て 変 化)に 伴 う 〔alの同 定 率 の 変 化 が 、且の 持 つ 音 響 知 覚 的 性 質 で あ る と 考 え て 良 い 。 こ の 時 、ム に 内 在 す る 知 覚 的 性 質 は 、Fi8urε2に 示 す よ う な コ ス ト関 数 と し て 表 され るo
図2漁 に内在 す る知覚 的 コス ト こ こ で 、[a]の 理 想 的 な 実 現 値 を得 た い 場 合 、 そ れ は 調 音 運 動 と して も 、音 響 知 覚 処 理 と し て も 、最 も 安 建 す る点 に な る と考 え られ る 。 な ぜ な ら 、調 音 運 動 に 掛 か ゐ コ ス トが 極 め て 低 い もの で あ っ て も 、そ れ に よ っ て 得 ら れ る 音 響 特 性 が 、 知 覚 的 に 困 難 度 の 高 い も の で あ る な らば 、実 我 値 と しで は 理 想 的 な もの と は い え な い で あ ろ うL、 ま た 容 易 に 知 覚 で き る 音 響 特 性 で あ っ て も 、 そ れ を 実 現 す る生 理 運 動 が 困 難 な もの で あ る な ら 、や はO実 現 値 と して は 理 想 的 と は い え な い か らで あ る 。 し た が っ て 、Aの 定 量 的 最 適 値 は 、産 出 の コ ス ト関 数 と 知 覚 の コ ス ト関 数 を 組 み 合 わ せ た 交 点 に な る と い っ て よ い だ ろ う.以 後 、 こ う し た 産 出 コ ス ト関 数 と知 覚 コ ス ト関 数 の 柑 閲 モ デ ル を 、 運 動 知 覚 モ デ ル と呼 ぶ.ム の 標 準 状 態 に お け る 運 動 知 覚 モ デ ル は 、Fi8u冊 コの よ うに な る、
PHONON一 音 韻 の プ ロ トタ イプ カ テ ゴ リ ー一 67 図3:標 準 状 態 で の 最 適 コ ス ト こ こ で 重 要 な こ とは 、 運 動 知 覚 モ デ ル に お け る 産 出 コ ス ト関 数 と知 覚 コ ス ト関 数 との 相 対 的 な 比 率 が 、 言 語 環 境 な ど の 状 況 に よ って 比 率 が 変 わ り うる とい う点 で あ る 。 例 え ば 、 前 後 の 音 環 境 か ら極 め て 大 きな 調 音 運 動 を 必 要 とす る 場 合 や 、 語 用 論 的 理 由 に よ っ て 発 話 ス ピ ー ド を 速 め る必 要 が あ る場 合 に は 、知 覚 面 で の 重 要 度 は 標 準 状 態 と変 わ りな いが 、 産 出 面 で の 相 対 的 コ ス トは 増 加 す る と考 え られ る 。 一 方 、英 語 の ス トレ ス の 掛 か ら な い シ ラブ ル な ど で は 、調 音 運 動 の コ ス トは 標 準 状 態 と変 わ ら な い が 、 知 覚 の 相 対 的 コ ス トは 減 少 す る と い っ て よ い だ ろ う。 これ ら の 違 い を 運 動 知 覚 モ デ ル で 表 す と 、次 の よ うに な る 。 まず 、産 出 コ ス ト と 知 覚 コ ス トの バ ラ ン ス が 取 れ て い る標 準 状 態 の 運 動 知 覚 モ デ ルFigure3で は 、 第 1フ ォル マ ン トの 値 が 、 ほ ぼ820Hzと な る 。 こ れ に 対 し 、Figure4に 示 す グ ラ フ は 、 早 口 こ とば な ど 、極 め て 複 雑 な調 音 運 動 が 必 要 に な り、 産 出 コ ス トの 相 対 的 重 要 度 が 増 加 し た 場 合 の 運 動 知 覚 モ デ ル で あ る 。 この 時 の 第1フ ォ ル マ ン トの 値 は 、約770Hzで あ り、標 準 状 態 に 比 べ 、第1フ ォ ル マ ン トの 値 が 減 少 し て い る こ とが 分 か る 。 これ は 調 音 点 で い うな らば 、舌 の 位 置 が1a1の 標 準 位 置 に 比 べ 、 よ
り高 くな っ て い る こ と を 意 味 して お 町 、母 音 が 多 少 詑 う た 状 態 と い うこ とが で き る 。 一 方 、Fi即 祀5は 、知 覚 コ ス トの 相 対 的 重 要 度 が 極 め て 低 くな っ た 場 合 の 運 動 知 覚 モ デ ル で あ り、 第1フ ォル マ ン トの 値 は 、 約650H:に まで 落 ち 込 ん で い る 。 こ の 場 合 の 第1フ ォル マ ン トの 落 ち込 み 方 は 、 産 出 の 相 対 的 重 要 度 が 増 加 し た 場 合 よ 晦 も は る か に 劇 的 で あ り、 国 と い う よ りは 、 む し ろ 同 の 音 に 近 づ い て い る こ とが 分 か る 。 こ れ は 英 語 の 非 ス ト レ ス 母 音 のo化 、 お よ び そ う し た 弱 化 母 音 のoの 変 異 が 広 範 囲 に 渡 る とい う現 象 を う ま く説 明 す る 。 図4:調 音 的 理 由 に よ る 声 の な ま り
PHONON一 音 韻 の プ ロ ト タ イ プ カ テ ゴ リー 一 69 図5:非 ス ト レ ス 母 音 のschwa化 同様 の 運 動 知 覚 モ デ ル は 、子 音 の よ うな複 数 のphononが 組 合 わ さ っ た 場 合 に も 同 様 に 構 築 で きる 。 例 と し て 、 前 節 で も取 り上 げ たf音:【q,囮 とd音:[v,R,q] の 関係 を 見 て み よ う。 こ こ で は 特 に 状 況 を 単 純 化 して 、R要 素 とq要 素 の 複 合 的 な 性 質 の み を 考 え る こ と に す る 。 こ の 時 、d音 とr音 はphononのheadednessの 違 い に よ っ て 表 現 され る こ と に な り、音 響 的 に はVOTと フ ォル マ ン ト遷 移 に よ っ て 決 定 され るsonora皿cyの 違 い に 反 映 され る 。 ま た 、 産 出 コ ス ト関 数 の 違 い は ほ と ん ど 無 視 で き る もの に な る た め 、d音 の 産 出 コ ス ト関 数 を 代 表 と し て 用 い る 。 こ の 時 、d音 の 運 動 知 覚 モ デ ル の コ ス ト関 数 は 、Figure6の よ うに な り、d音 の 運 動 知 覚 モ デ ル は 、Figure7の よ う に表 現 され る 。 ま た 、横 軸 はvoiceonsett㎞e (Vαr)と フ ォル マ ン ト遷 移 と の 複 合 タ イ ミン グ を表 し 、sonorancyの 尺 度 で 考 え る な ら 、 軸 の 右 側 に い くほ どsonorancyが 下 が る こ と を 示 す 。 両 者 の グ ラ フ を比 較 す る と 、標 準 状 態 に お い て は 、d音 のsonorancyは 、f音 に 比 べ 明 か に低 くな っ て い る こ とが わ か る 。
・曾朗o㎎"{ツ
図61d音 の 運 動 知 覚 モ デ ル
昌闇oηo'皿麗y
PHONON一 音 韻 の プ ロ ト タ イプ カ テ ゴ リー一 71 次 に 、 前 節 で 見 た幼 児 のf発 音 に お け る 歪 み に つ い て 考 え て み よ う。 す で に 述 べ た よ う に 、幼 児 は 、f音 の表 象 は 獲 得 され て お り、 そ れ ゆ え 、 知 覚 に お い て は 大 人 と ほ ぼ 同 様 の パ フ ォ ー マ ン ス が 可 能 で あ る 。 す な わ ち 、 知 覚 コ ス ト関 数 は 標 準 状 態 と 同 一 と見 な し て よい 。 し か し 、 産 出 に 関 し て は 、[+cont]の 性 質 がhot に な っ て い な い た め 、調 音 の 歪 みが 起 こ る 。 こ の よ う な あ る定 性 的 性 質 がhotに な っ て い な い と い う こ と は 、そ の 性 質 がactivateさ れ に くい と い う こ とで あ り、経 済 性 の 観 点 か ら い え ば 、 よ りコ ス トが 掛 か る こ と を 意 味 す る(Smolensky1993)。 し た が っ て 、 幼 児 のd音 発 話 を 運 動 知 覚 モ デ ル に 当 て は め る な らば 、 前 述 し た 早 口 こ と ば で の 発 話 と 同 じ く、知 覚 コ ス ト関 数 は 標 準 状 態 と変 わ ら な い が 、産 出 コ ス ト関 数 の 割 合 が 相 対 的 に 高 くな って い る状 態 に 相 当 す る 。 こ の 時 、 運 動 知 覚 モ デ ル はFigure8の よ う に な り、f音 の 安 定 解 が 標 準 状 態 のd音 の 解 に 近 づ い て い る こ とが わ か る 。 ま た 、d音 の 安 定 解 も標 準 状 態 のd音 の 値 よ りや や 小 さ くな っ て お り、 幼 児 の 発 音 の 不 明 瞭 性 を 示 す 結 果 とな っ て い る 。 図8:幼 児 のf音 の 歪 み 最 後 に 非 ス トレ ス 母 音 の 弱 化 と似 た よ う な 現 象 を 見 て み よ う。 子 音 に お い て は 、 例 え ば ア メ リ カ 英 語 で 観 察 され る 、 母 音 間 に 挟 まれ たd音 の 弾 音 化 現 象 が これ に 相 当 す る も の と思 わ れ る 。南 條(1996)は 、 こ の 異 音 過 程 を 、 よ り望 ま し い 音
節 構 造 を作 り 出 す た め に 、音 節 末 子 音 が よ り母 音 的 に な る と い う一 種 の 母 音 化 (vocahzation)で あ る と 見 な し て い る 。 音 節 の 中 心 とな れ る音 は 、一 般 に 母 音 や 接 近 音 な ど のsonorityの 高 い 音 で あ るが 、 こ れ はsonorityの 高 い 音 は 「知 覚 的 」 に 目立 ちや す く、 リズ ム の 中心 を 担 い や す い と い う理 由 に よ る 。 換 言 す る な ら ば 、 sonorityの 高 い 音 は 、 知 覚 し や す く、 知 覚 に 必 要 な コ ス トが 真 子 音 に か か る コ ス トよ り も小 さ くて 良 い 。 そ こ で 、d音 の 運 動 知 覚 モ デ ル に お い て 、 知 覚 コ ス ト関 数 が 相 対 的 に 減 少 し た とす る と 、Figure9の よ う な グ ラ フが 得 ら れ る 。 こ の 時 、 弱 化 し たd音 のsonorancyが 、「標 準 状 態 」 に お け るf音 のsonorancyと ほ ぼ 一 致 し て お り、d音 の 弾 音 化 が 実 現 され る こ と に な る 。 図9:共 鳴 音 間 のd音 の 変 異 こ の よ う に 、phononを 用 い る ア プ ロ ー チ で は 、音 の 変 異 を定 量 的 数 値 と して 導 出す る こ とが で き 、 か つ 弁 別 素 性 に よ っ て 表 現 され る 定 性 的性 質 と矛 盾 な く対 応 させ る こ とが 可 能 で あ る 。 し か し 、音 韻 表 象 に 定 量 的 性 質 を与 え た 場 合 、解 決 し な け れ ば な ら な い2つ の 問 題 点 が 存 在 す る 。1つ は 、 運 動 知 覚 モ デ ル の 安 定 解 は 何 を 意 味 す る 値 な の か とい う問 題 で あ り、 残 りの 問 題 は 、 連 続 的 な コ ス トの 計 算 の 行 わ れ る処 理 単 位 の 問 題 で あ る 。実 の と こ ろ 、 これ ら の 問 題 は 自 明 な も の で は な く、 む し ろ 理 論 的 に 定 義 す べ き 問 題 と思 わ れ る 。
PHONON一 音 韻 の プ ロ ト タ イプ カテ ゴ リー 一 73 4.3定 量 的 性 質 を 巡 る 問 題 まず 、 運 動 知 覚 モ デ ル の 安 定 解 の 問 題 に つ い て 考 え て み よ う。 最 も単 純 な 解 釈 は 、安 定 解 を 、「実 際 に 実 現 され る 」 音 響 的 な 値 で あ り、 また 「実 際 に 知 覚 され るべ き」 音 響 的 数 値 と し て 解 釈 す る こ とで あ る 。確 か に 、 コ ス ト関 数 の 与 え 方 に よ って は 、 こ う し た 解 を 導 出 す る よ う定 義 す る こ と も 可 能 で あ る 。 し か し 、 我 々 は こ の アプ ロ ー チ を採 用 す るべ きで は な い よ うに 思 わ れ る 。実 際 に 実 現 され る 数 値 は 、 非 言 語 的 な 要 因 、例 え ば 単 な る話 し 手 の くせ や 、再 現 性 の な い 調 音 運 動 の ゆ が み な ど の 影 響 を 受 け た 結 果 で あ る 。 こ う し た 偶 発 的 な 要 因 ま で 言 語 モ ジ ュ ー ルが 計 算 す べ き こ とで は な い 。 む し ろ 、言 語 モ ジ ュー ル で 処 理 され るべ き情 報 は 、 何 らか の 形 で 「言 語 と し て の 意 味 機 能 」 を 担 う情 報 で あ り、 そ れ 以 外 の 情 報 は 他 の モ ジ ュ ー ル に 任 せ て し ま うほ うが 合 理 的 な設 計 で あ ろ う。 そ こ で 、 本 稿 で は 運 動 知 覚 モ デ ル の 安 定 解 を 、外 部 モ ジ ュ ー ル に お け る神 経 指 令 の 「目標 値 伽getvalue)」 で あ る と考 え て み よ う。 こ の 「目標 値 」 とい う もの を 設 定 す る の に は 根 拠 が あ る 。 例 え ば 、詳 細 な 音 響 的計 量 に よ り、 発 話 音 の 音 価 は 明 瞭 な ゆ っ く りし た 発 話 で の 音 価 とは 時 に 著 し く異 な っ て い る こ とが わ か っ て い る。 発 話 が うち 解 け た もの で あ るか 、 あ る い は 発 話 速 度 が 速 い もの で あ る ほ ど 、 理 想 的 な音 価 とは か け 離 れ た もの と な る 。 これ は 、 理 想 的 な 環 境 な らば 目標 値 が 実 現 され る 可 能 性 が あ るが 、 状 況 に よ り理 想 状 態 が 保 て な い 環 境 に お い て は 、 よ り小 さ な値 と な っ た り、 あ る い は 目標 値 を 越 え て し ま う場 合 もあ り得 る こ と を 意 味 す る 。 また 、 こ う し た 逸 脱 し た 価 に つ い て も 、 人 間 の 認 知 機 構 は 正 確 な 音 韻 知 覚 が 可 能 で あ り 、 こ れ は 、 言 語 認 知 機 構 が 実 際 の 値 か ら理 想 値 を復 元 し て い る こ と を示 唆 して い る 。 FigurelOに 示 した 図 は 、標 準 状 態 に お い て 目標 値 を 実 現 し た 場 合 と 、極 め て 早 口 で 話 し た 場 合 な ど に 見 ら れ る よ うに 、 目標 値 に 到 達 せ ず 、「音 声 の な ま り」 が 生 じ た場 合 と を模 擬 的 に示 し た もの で あ る 。 こ う し た歪 み は 、発 話 場 面 で 典 型 的 に 観 察 され るが 、音 声 知 覚 場 面 に お い て も起 こ り うる 。 例 え ば 、 相 川 ・津 崎 ・河 原 (1995)に よ る 聴 覚 系 の 基 本 周 波 数 追 跡 モ デ ル で は 、 急 速 に 変 化 す る音 に 対 し て 、 聴 覚 系 で 処 理 され る 値 と実 際 の 物 理 的 な 数 値 の 問 に ズ レ が 生 じ る こ と 、 ま た 場 合 に よ っ て は 、実 際 の 数 値 よ り も 高 い 値 を 検 出 す る 場 合 が あ る こ と を示 し て い る 。 し たが っ て 、我 々の 立 場 で は 、 同 一 のphonon表 示 で あ っ て も 、 実 際 の 音 声 は 、2 つ の 要 因 で 音 響 的 変 異 が 起 こ り う る こ とに な る 。1つ は 、phononの 定 量 的 性 質 で
あ る運 動 知 覚 モ デ ル に よ っ て 得 ら れ る 目標 値 の 変 動 で あ り、 も う1つ の 要 因 は 言 語 外 モ ジ ュ ー ル に お け る 歪 み で あ る 。 target target ● (b) 図10:単 位 処 理 時 間 と 目標 値 と の ず れ(a)通 常 の 処 理 時 間(b)短 い 処 理 時 間 残 る 問題 は 、運 動 知 覚 モ デ ル の最 適 値 が 計 算 され る範 囲 に つ い て で あ る 。 これ は 音 韻 理 論 が ど の 範 囲 ま で の 言 語 現 象 を 扱 うの か と い う問 題 と も絡 む 。 例 え ば 、1t∬ が[咽 と し て 現 れ る拘 束 変 異 か ら 、鼻 子 音 に 後 続 す る 母 音 が 鼻 母 音 化 す る よ うな 自由 変 異 ま で の 全 て の 文 脈 依 存 性 を 、phononに よ る記 号 レ ベ ル で 計 算 す る の で あ れ ば 、 運 動 知 覚 モ デ ル は 分 節 音 ご と に 計 算 す れ ば よ い 。 一 方 、工 学 的 な音 声 認 識 の よ う に 、文 脈 依 存 性 を 全 て 定 量 的 な レ ベ ル で 計 算 す る の で あ れ ば 、 記 号 レ ベ ル で の 文 脈 依 存 性 は な くな り、CVCお よびVCV連 鎖 の 範 囲 で 、運 動 知 覚 モ デ ル を構 築 す る こ と に な る 。 こ の 問 題 に対 す る 明確 な 解 答 は 今 の と こ ろ 存 在 し な い よ う に 思 わ れ る 。そ こで 、 我 々 は 音 声 処 理 の 心 理 的単 位 に 関 す る 実 験 結 果 を 手 が か り に 、 暫 定 的 な 答 を だ し て お く こ と に し よ う。Ot疫keetal(1993)は 、 日本 語 音 声 の 知 覚 単 位 を 実 験 的 に 検 証 し 、 そ の 単 位 が ほ ぼ モ ー ラ で あ る と い う結 論 を 得 て い る(一 部 の 現 象 で は シ ラ ブ ル を示 唆 す る結 果 が 得 られ て い る)。 また 、心 的辞 書 へ の ア ク セ ス 単 位 を 調 べ た 天 野(1997)の 研 究 で も 、や は りモ ー ラ単 位 で の ア クセ ス が 行 わ れ る とい う結 果 が 示 され て い る。 こ れ らの 結 果 は 、 心 的 な 音 声 言 語 処 理 の 単 位 は 、分 節 音 や 分 節 音 の 連 鎖 の レ ベ ル で は な く、 モ ー ラ あ る い は そ れ 以 上 の 構 造 化 され た 単 位 で あ る こ と を示 唆 し て い る 。 こ の こ とか ら 、 本 稿 で も 運 動 知 覚 モ デ ル の 計 算 を 行 う単 位 を 暫 定 的 に モ ー ラ と し て お く。 こ の 仮 定 を置 い た 場 合 、極 端 に定 量 的 計 算 に 偏 る こ と も な く、 ま た 全 て を 記 号 的 計 算 に 頼 る必 要 もな い 。 モ ー ラ単 位 は コ ス ト計 算 の