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自治体における効果的な地域情報化戦略とは

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Academic year: 2021

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(1)自治体における効果的な地域情報化戦略とは Effective strategies for pro-information policies of local municipalities 大石哲也 Tetsuya Ohishi 静岡県企画広報部情報政策課. Shizuoka Prefecture Department of Strategic planning and Public Relations Information Policy Division. Abstract There are large regional differences in achievement level between municipalities on construction of infra-structure between urban areas and peripheral areas. Especially, the lack of infra-structure related to Information and Communication Technologies causes serious local problems in peripheral areas. Though municipal governments conducted various kinds of pro-information policies, they have not got great results in terms of local vitalization policies yet. As an official in charge of pro-information policy in Shizuoka prefectural government, I explore effective strategies to vitalize the information activities of business and people in peripheral areas. As a result, to reduce regional differences in the capability of getting information and to improve the situation against natural disasters and crimes in peripheral areas, I propose the establishment of cooperative systems between public and private sectors and the propagation how to use the ICT systems and the networks of local cable television. キーワード. 1. 情報格差. 情報通信基盤. ICT利活用. はじめに及び本研究の目的. わが国の地域情報化に関する政策の本格的な開始 は1980年代と比較的浅い.国の本格的な地域情報化政 策として,旧郵政省のテレトピア構想が代表例として 挙げられるが,ほぼ同時期に旧通産省のニューメディ ア・コミュニティ構想や農林水産省のグリーントピア 構想が相次いで実施された.いずれも当時新しく生ま れ た 情 報 通 信技術を基礎にキャプテンやCATV (Community Antenna Television)などを指定された 地方自治体に導入し,地域の活性化を図る目的であっ たが,様々な地域の課題解決をするには,ハード的に もソフト的にも体制的にも程遠いものであった. 近年は光ファイバ網の整備により,超高速通信が可 能となり,それをベースにICTにより地域における 様々な課題を解決しようとする動きが盛んである.ブ ロ−ドバンド・ネットワークを利用した電子申請など は,役場に出向くことなく申請できることで住民生活 の利便性向上に寄与し,インターネットを介した商品 販売などは従来型産業の再生,新たな産業の振興など に影響しており,地域の活性化や,行政サービスの向 上など様々な活用が期待されている.しかし一方では, 大都市中心のICT基盤整備の現状は,都市部とその 他の地域で「地域格差」を生み,様々な経済格差や社 会格差となって現れている.また活用面では,理解の 不十分さなどの問題点もあり,さらに多くの知恵や工 夫を必要としている状況で,地域の課題を解決する有 効な手段として捉えきれていない.地域は様々な課題 を抱えているが,近年の人口減少社会の進展等は,課. CATV. データ放送. 題をさらに深刻なものにしている.さらに地域は独自 の活動や伝統文化,特産物などを有しているが潜在資 源にとどまっているところが多く見受けられる.近年 はICTの活用はコストの削減から価値の創出へ,電 子自治体化から地域全体の情報化へと目的が大きくシ フトしており,積極的なICT利活用が必要とされて いる.国の政策も基盤整備から利活用策へと重点が移 っている. 本論文では,自治体における地域情報化の役割を基 礎に,現在,自治体が直面している地域の様々な課題 から代表的な課題を洗い出し,ICTにより解決可能 な施策を提示することにより,地方分権時代の効果的 な地域情報化戦略について考察する.. 2. 地域情報化施策の現状と地域の課題. 2.1 全国都道府県の現状の施策状況 地域情報化施策についての現状把握を行った.調 査方法は,各都道府県単位での施策について,国の調 査結果や他県の調査結果を参考に1) ,調査結果にな い項目については,筆者が都道府県公式ホームページ より調査し,取りまとめた.代表的な施策と思われる ものを筆者の視点から以下のものを選択した.①情報 通信基盤の敷設状況,②基盤整備における市町への助 成制度の有無,③県民向けメールマガジンの有無,④ デジタルコンテンツ配信の有無,⑤住民向けインター ネット講習会の有無,⑦その他インターネット系事業 の有無. まず,情報通信基盤の整備およびその支援である..

(2) 今では陳腐化した名称であるが「情報ハイウェイ」と 呼ばれる自治体が所有ないしは借り上げている大容量 通信幹線網の整備,運営が挙げられる.全国で38自 治体が運営しており,主には都道府県と市町村間を基 幹回線として使用している.また,ネットワークを民 間企業等に開放して,ネットワーク接続サービスを実 施している自治体が23ある.開放条件については, 高速インターネットサービスの普及促進や地域の情報 格差の是正など地域の情報化に資することが多く,開 放対象者は県内ISP事業者や一般企業,病院関係ま で様々である.情報ハイウェイを運用していない自治 体は,秋田,群馬,埼玉,千葉,東京,神奈川,静岡, 愛知,大阪の9都府県である.これは比較的に関東圏 の都市部や太平洋ベルト地帯に位置する静岡,愛知な ど都市部は民間整備の通信網が発達していることから, 自治体所有の必要性が薄いことが主な理由と思われる. 情報通信基盤整備に関する市町村等への財政支援制 度については,23自治体が制度運営しており,多く が高速ブロードバンド整備のための市町村への財政補 助で,負担率は各自治体によって様々であるが,補助 額に上限を定めているところが多い. 県民向けメールマガジンは,46自治体と,ほぼす べての都道府県で,地域情報化に関する情報提供コン テンツとして事業化しており,情報提供ツールとして 中心的な施策となっている.次に多いのが,自治体の 各地域の伝統芸能や観光上の見所,県政ニュースなど を画像や映像で工夫を凝らしながら,ホームページ上 で紹介しているコンテンツで,17自治体で実施して いる.自治体によってインターネット放送局やe−○ ○県図鑑などの名称で掲載している.三番目が,住民 向けのインターネット講習会で,14自治体で実施して おり,内容は初心者向けからエキスパート用まで様々 な事業を実施している.ユニークなところでは,秋田 県は都道府県で唯一「地域IXプロジェクト事業」を 実施しており,県内産学官民のインターネット相互接 続を行うポイントを県内に設けることで,県内ユーザ ーのインターネット環境の向上に寄与している. 2.2 地域の抱える様々な課題 2.2.1 地理的情報格差 情報通信技術の発達に伴う情報化は,国際化の進展 や人口構造の変化などと並んでわが国の経済社会に最 も大きな影響を与えているといえる.例えば,平成二 十二年版情報通信白書では,情報通信産業は,わが国 経済の中で最も成長著しく,かつ,最大規模の産業で あると記されている2).しかし,情報化,国際化,人 口減少化といった大きな時代の潮流は,一方で,都市 と地方の格差をますます拡大させており,特に,地域 情報化の遅れによる情報格差は様々な格差を連鎖して いる. デジタル取引が増加している現代の企業活動におい て,超高速通信インフラが整備されていない地域の企 業活動は大きな支障をきたすことが予想される.その ため,情報格差のある地方での企業誘致などは困難で あるといわざるを得ない.デジタル取引から取り残さ. れた地場産業は次第に衰退し,企業活動が衰弱して, 地域の経済力が多大な影響を受けることになる.地域 経済の自立に向けて,有力企業の誘致などのための環 境整備を行う必要があろう.また,経済活動が脆弱で, 有力企業も存在しない地域では,若者の定住にとって 大きなハンディとなり,都市部への人口流出が顕著に なる.当然その地域では高齢化が浸透し,同時に人口 減少が進む.高齢化に歯止めをかけるための若者の定 住策として,超高速通信インフラの存在が,基本的な 条件の一つといえる. 2.2.2 災害・犯罪への対応 過疎・辺地等の条件不利地域での高齢化の進展は, 健康上に不安のある高齢者の1人暮らしや現代の社会 インフラの活用から取り残された高齢者などに対し, 災害対策や防犯といった安心・安全上の対応が必要と なる.条件不利地域は,急峻な地形や大きな河川など に囲まれている地域が多く,土砂災害や河川の氾濫な どの災害が起こりやすい地域であり,災害情報の迅速 な提供など防災上の課題は多い.また,犯罪に対して も高齢者は被害者になりやすい側面がある.ICTの 活用による安心・安全への対応は,住民要望も強く, ICTによる課題解決が望まれる. 2.2.3 地域コミュニティの再構築 現代は,都市部においては,核家族化が進んでおり, 地域間でのコミュニティは既に崩壊しているといわれ ている.都市部以外の地方においても同様の傾向であ り,積極的に地域でのコミュニティを図っているとは いえない.地元伝統芸能の衰退などは,コミュニティ 不足による世代間での引継ぎが円滑になされていない ことが起因していると思われる.地域活性化のために は住民同士のコミュニティを活発化させ,共通の課題 認識を持ち,課題解決のための方向性を議論すること が重要である. 2.2.4 地上デジタル放送移行後の対応 2011年7月に地上アナログ放送が終了し,デジタル 放送に全面移行したが3),過疎,辺地等の条件不利地 域では地形状の問題から,難視聴地域を多く抱えてお り,さらに,人口減少も重なって,共聴設備による視 聴も費用面から断念せざるを得ず,有効な対策がない まま移行期限を向かえ,その後は,暫定的に衛星放送 を視聴している世帯も多い. ただ,衛星放送では, 関東波しか視聴できないため,身近な生活情報や緊 急・災害情報の受信が困難になる.早期に地上波視聴 のための恒久対策を行う必要があるが,費用面等から 恒久対策がなかなか進まない可能性もあることから, 地デジ対策は地域における大きな課題の一つである.. 3. 効果的な地域情報化戦略とは. 効果的な情報化戦略とは,ICTを活用して,上記 の課題解決や,地域の活性化につながる情報化施策を 立案することである.今後,地域間競争において,当 該地域の優位性を確保するための施策と位置づけるこ.

(3) とが,地域の活性化に効果的な結果をもたらすと考え る.地域にとって,地域産業活力の向上と都市的機能 の充実は,優位性の確保においては,基本的な条件と いえる.特に都市的機能の充実は,イコール公共交通 インフラや通信インフラの充実にかかわるところが多 い.地域情報化戦略は通信基盤の整備とその利活用策 の2本柱を中心に展開し,その展開には官民の連携体 制の構築が重要である.以下詳細について述べること とする. 3.1 都道府県を中心とした国・自治体・企業によ る地域情報化推進体制の構築 光ファイバ網等の超高速通信インフラの整備は,条 件不利地のような不採算な地域においては,民間事業 者のみでは困難である.不採算地域の整備には公的な 財政支援によるインセンティブの付与が必要である. しかし多額の予算を必要とするため,自治体の財政負 担が過重となるのが現状であるので,国,自治体,民 間事業者の連携した事業展開が必要である.地域の実 情をよく把握している都道府県を中心として,国や市 町村と協働で,事業者を支援する体制を整える.役割 分担としては,都道府県においては,情報格差をなく すための市町村間の調整や事業者調整,または国の補 助に上乗せした財政援助などを行い,事業者を主体と した基盤整備を推進する.市町村は,都道府県と共同 で基盤整備を推進するとともに,インフラ活用策を企 画,運営する.国は基本的には財政支援及び都道府県, 市町村間の調整などを行う.その他,施策の情報提供 や,地域での活用事例を全国に発信する拠点として機 能することも重要である.民間事業者は実際の運用を 行なうことや,利活用策へのソリューション提案など である.地域情報化は広域かつ大規模な事業となるた め,国,都道府県,市町村,民間事業者が連携した推 進体制を整え,地域に適合した施策を実施することが 効果的である. 3.2 ICT利活用イメージの全国展開 わが国は,2001年の「e-Japan戦略」の策定以降, IT戦略本部のリーダーシップの下,「5年以内に世 界最先端のIT国家になる」ことを目標に,基盤整備 への本格的な取組を開始し,目標の5年間で,ブロー ドバンド基盤の整備においては,当時の世界最先端レ ベルの整備を実現した.2003年の,「e-Japan戦略 Ⅱ」の策定以後は,基盤整備中心から利活用策への充 実に方針がシフトし,2005年の「u-Japan 戦略」の策 定以後,いつでも,どこでも,だれでもが利用可能な ネットワーク社会を目指す,ユビキタスネットワーク の実現を目標に,利活用推進がさらに強力に推し進め られるようになった.しかし,世界最先端の基盤とは 裏腹に,利活用実態については,各基盤整備先進国の 比較では,下位に位置される分析結果が出ている4) . ICT利活用策推進の問題点は,住民に対し利活用効 果のイメージが具体的に伝わりにくく,即時には理解 されないところにある.ICT基盤のような情報イン フラは,道路のような交通インフラと違い,視覚効果. はなく,使用して初めて便利さを感じ,暮らしの中で の課題を明確に認識していて,ICT基盤の利活用法 の理解が十分にある場合に重要性が認識できる.もっ と感覚的に理解してもらうためには,人々の日常生活 の中でICTを利用した公共アプリが役立っていなけ ればならない.本県の県政世論調査によると,防災・ 防犯や医療,子育ての分野は住民の関心が高い.これ らの分野は,地域課題解決への利用効果が見込まれる 分野でもあるので,公共アプリの中で,上記分野での 利便性を実感できるコンテンツを構築し,広く普及で きるように,キラーコンテンツとして育てることが必 要であろう.国の補助による実証実験の実施やその結 果について積極的に事例を広く周知することで情報共 有が進み,便利さや楽しさをエッセンスとして,その 有効性を伝えることができれば利活用策の普及が進む のではないか. ここでいくつかの事例を紹介すると,青森県弘前市 では,平成19年度に総務省の地域ICT利活用モデル 構築事業を利用して,気象情報・除雪情報のインター ネットによる提供サービスを構築した.市内15箇所に カメラ・気象センサー(積雪,気温,雨量)を設置し, その地点の現在の道路状況,交通量,積雪量,気温等 の情報を収集し,その情報を市のホームページ,携帯 サイト等に配信するものである.和歌山県白浜町の 「白浜はまゆう病院」では,町が敷設した光ファイバ 網を利用して,「白浜医療情報ネットワーク」を構築 した.これは,病院と5箇所の地域診療所を光ファイ バ網で結び,情報を処理するサーバを白浜病院に設置 して,遠隔画像診断,電子カルテ,医事会計等のシス テムを各診療所と共同使用するもので,これにより, すべてを一つの医療機関のように患者情報を共有し, 一貫した医療を行うことを目的としたものである.静 岡県浜松市では,NPO法人「はままつ子育てネット ワークぴっぴ」と協働で,子育て支援ポータルサイト を制作・運営している 5).これは,子育てに関し,情 報を知りたいとき,相談したいとき,子育ての仲間と つながりたいときなど,ホームページ上で情報を提供 したり,ブログ形式で意見交換などを行うもので,携 帯電話からでも閲覧,書き込みすることができる.そ の他メールマガジンでの情報発信やアンケート実施も web上で行っている. 以上のように,関心のある地域課題に対してのIC Tを活用しての施策内容,それに伴う効果を全国的に 知らしめることで利活用に関するイメージが具体化さ れるようになる.これは,総務省が全国にある各地方 総合通信局を通じて,管轄都道府県に対し,会議や各 種セミナーの折などに,全国の事例を紹介したり,で きれば,実際に運用している自治体等に講演してもら う.それにより,都道府県から管内市町村,市町村か ら自治会などを通じて住民に理解してもらう.具体的 には,自治会の会合などの機会を利用して,会合後に 若干,時間を頂戴し,自治体等で利活用事例を紹介す ると効果的である. また,自治体がICTコーディネータの派遣費用を 公費負担し,民間事業者等の専門家にICT利活用策.

(4) を講義してもらう制度を運用するのも一考である. ICT利活用は特に,住民にわかりやすい方法で必要 性を理解してもらうことが,積極的な活用に繋がるの ではないか. 3.3 地域系CATV網の活用 わが国において,CATVは,主に山間部の難視聴 解消や,都市部における高層ビルなどが原因による受 信障害の解消対策として発展してきた.その後CAT Vはサービスを拡大し,区域内のTV地上波同時再送 信のみではなく,スポーツ専門番組などの多チャンネ ル サ ー ビ ス や D O C S I S ( Data Over Cable Service Interface Specifications)6)に準拠するモ デムを利用したインターネット接続サービスを行った り,ネットワークを利用した独自の電話サービスなど も行うようになってきた.現在,有線テレビジョン放 送の許可を受けた自主放送を行う施設事業者数は2011 年3月末現在,521,再送信のみを行う事業者数は565 で7),半数近くが多チャンネルサービスの提供やコミ ュニティチャンネルなどの自主放送の提供を行ってい る.加入世帯数は約2,600万世帯,普及率は48.8%と なっている8).コミュニティチャンネルは地元自治体 のイベント情報や地域のトピックスなどを番組形式で 提供するもので,地域情報の提供元としては,メディ アの中で最も普及しているTVが閲覧媒体であること から,過疎・辺地等の高齢化世帯でも地域情報取得が 容易であり,情報格差解消効果が高い.また地域の情 報インフラとしてCATV網を活用して公共施設相互 間を接続する地域公共ネットワークの構築なども行わ れており,CATVがハード,ソフトとも地域情報化 センターとしての役割を担ってもらうのに十分な条件 が整っている.CATVは1980年代の中央省庁主導の 情報化政策において,旧郵政省や旧通産省地域情報化 構想において,政策的にその導入が推進されてきた経 緯がある.最近では,2011年7月に地上アナログ放送 が終了し,デジタル放送に移行したが,過疎・辺地等 地域は,難視聴地域であることが多く,CATV網の 活用が難視聴解消の重要な選択肢として進められた. 三重県ではCATVをテレビ視聴のみではなく,防災 での活用を筆頭とした公共的な情報インフラと認識す ることで,県主導でCATVの整備に取り組んだ.す なわち,CATVの公共的な意義として地域情報化セ ンターとしての役割を担わせたのである.徳島県でも 「e−とくしま基盤整備促進事業」において「全県C ATV網構想」を推進しており,CATV政策を地域 情報化の中心施策と位置付けている. CATVのメリットは,デジタル・ディバイドの多 角的な解消が可能なところにある.上述したように, 放送のみでなく,超高速ブロードバンド通信にも対応 でき,条件不利地域における難視聴解消とブロードバ ンド・ゼロ地域の解消の同時解決が可能である.とり わけ高齢化や人口減少が進んでいる過疎・辺地等の条 件不利地域においてはその意義や効果が顕著である. 都道府県及び市町村が共同でイニシャルコストの一部 を助成して,戦略的にCATV網の整備促進を誘導す. ることは,都道府県管内の地域格差是正を飛躍的に進 めることが可能であり,政策的意義は大きい. 3.4 自立的に地域課題を解決するためのICTに よる住民参画 近年の行政運営において,大きな潮流のひとつは, 行政への住民参画である.2000年4月の地方分権推進 一括法施行以後,自治体に多くが権限委譲されたが, それと比例して,政策に対する透明性や外部評価が求 められるようになってきた.それにより,地域情報化 における重要な役割の一つとして,住民参画や情報公 開の手段として,ICTを利用した施策が実施される ようになった.一部ではe−デモクラシーと呼ばれ, 公的な政策形成過程の段階から住民に情報公開し,時 には住民に参画してもらい,より住民目線で透明性を 確保し,説明責任を果たそうとするものである.市民 電子会議室などが代表例で近年では双方向のコミュニ テ ィ を よ り 重 視 し た S N S ( Social Networking Service)や3月11日に発生した東日本大震災での 重要なコミュニケーション手段となったツイッター等 のソーシャルメディアが重要なコミュニティ形成手段 となっている.地域におけるコミュニティ形成は,ユ ビキタスネット社会の到来で,簡易にグローバルなス ケールで情報発信,収集が可能となり,地域課題に対 して住民自ら共通認識醸成や,課題解決のための意見 形成していく自立的な地域情報化活動が各地で勃興し ている.非営利団体や企業,自治体などが運営する地 域SNSなどが各地で運営されている.重要なことは これらのコミュニティ形成の結果を公的な政策に反映 させるための仕組みづくりである.電子会議室やSN Sを通して政策提言を積極的に行ってもらい,優良な 意見は公的政策として予算をつけ,事業化していくこ とにより,地域課題解決に向けた効果的で透明性の高 い政策形成がおこなわれる.ICTを活用することに より,敷居の高かった県政,市政への参加が容易とな り,地域政策への大きな一助となりえる. 一例として,有名な藤沢市の電子会議室がある.平 成8年より運営を行っており,藤沢市式電子会議室運 営はICTを活用した地域コミュニティの成功事例と して全国的にその名が知られている.藤沢市は,電子 会議室の位置づけを単なる情報交換の場とせず,IC Tを活用した市民による市制参加の場として,市民の 声を政策に反映させる仕組みを構築しており,政策形 成における市民参加の重要な手段として位置づけてい る.電子会議室の意見は市長をトップとしたメンバー の政策会議にかけられ,政策的に優秀で実現可能なも のは,事業化される仕組みとなっている.住民参画の 最終目標は県政や市政への反映である.ICTの活用 で今までより容易なプロセスで市政等に住民のアイデ ア等が反映できることは,「e−デモクラシー」の実 現にも繋がる. 3.5 データ放送の活用による防災等への対応 データ放送は,放送波の隙間を利用して文字情報や 静止画像をTV媒体に配信するサービスで,地上波,.

(5) BS,CSの各放送において配信されている.80年代 半ばからサービスが開始されたが,アナログ波でのデ ータ放送(文字多重放送)は,専用端末ないしは専用 チューナーが必要であったことから,一般的には,ほ とんど普及しなかったが,地上デジタル放送の開始後 は,地デジ対応TVであれば,標準でデータ放送が閲 覧できるようになり,次第に認知されるようになった. 現在,データ放送は番組連動型,非連動型の2種類 に分かれており,番組連動型では,例えばドラマの放 送中であれば,それまでのあらすじなどの内容を文字 情報などで閲覧できたり,またTVがインターネット 接続されていれば,双方向でのデータのやり取りが可 能となり,視聴者が番組の一部に参加できたりする. 非連動は放送中の番組とは関係なく,放送開始から終 了までニュースや天気予報などの情報がいつでも閲覧 でき,地域によりコンテンツの内容が異なる.他の情 報提供媒体との比較において,データ放送の最大の優 位点は情報を誰でもが取得できるTVを提供媒体とし ているところにある.TVは,ほぼすべての世帯に普 及しており,操作も誰でもが慣れ親しんでいる.特に パソコンなどの活用になじまない住民に対して,情報 提供媒体として利活用が期待される.これらの特徴か ら特に即時性,同報性が必要とされる災害情報などを あまねく取得させるためには,TVを通じたデータ放 送が大変有効と考える. 磯野(2005)は,「普及度合いの確実性」,「メデ ィアとの親和性」,「メディアの信頼性」の3点から, 高度情報化社会におけるデジタル・ディバイド解消の 決定的手段として地上デジタル放送の利活用を挙げて いる.地上デジタル放送を活用した地域情報サービス では,総務省による実証実験も行われており,2003年 度に岐阜県で,お知らせ,イベント情報といった行政 情報を,約150世帯のモニタに対し,地上デジタル放 送を通じて提供が行われた.さらにその後の継続的な 取り組みとして,新たに岐阜市と各務原市を加えた複 数の地方公共団体と連携して,共同運用の検証を主な テーマに防災情報の提供などの実証実験を行ない,そ の有効性を確認している 9). 国(総務省)では,2008年に「地域の安心・安全情 報基盤に関する研究会」を開催し,国民生活に不可欠 な安心・安全に関する情報について,多様な伝達手段 を活用して住民に効果的に提供することを可能にする ための情報基盤の在り方等についての検討を行い, 2008年6月に報告書をとりまとめた 10) .この報告書 において,データ交換方式の統一によって多方面から の多様な情報をデジタルテレビ(データ放送),パソ コン(データ情報),携帯電話(データ通信)などの 多様なメディアから情報提供する仕組みを早急に構築 することが喫緊の課題であるとして,平成21年度に実 証実験,昨年度に実用化試験を行い,今年度から,実 用サービス化開始すべく準備を進めている.データ放 送で行政情報を円滑に提供するためには,放送事業者 と地方自治体との迅速な連携が必要になる.風水害情 報や地震情報のような災害情報は特に迅速かつ正確な 提供が必要である.その場合は,都道府県がポータル. となり,データ放送のコンテンツを放送事業者に提供 する仕組みを構築し,各市町村と共同運用する.放送 事業者は,都道府県ポータルのサーバに直接アクセス して取捨選択して,データ放送用のコンテンツに加工 する.または,災害,防災情報については,自治体が 運用している災害情報システムと連携してデータ放送 にコンテンツを提供できると活用効果が大変高い11). データ放送を地域情報化の中心コンテンツと位置づ けるにはいくつかの課題もある.行政側,放送事業者 側の役割分担について,情報を提供するサイド,放送 サイドそれぞれの境界線について,はっきりと確認し ておくこと.また提供する情報は多種多様であるので コンテンツの優先順位を十分考慮して情報発信するこ となどである. 4 おわりに 効果的な地域情報化戦略として,ICTによる地域 の課題解決を模索しながら,地域による情報格差解消 のための,公費投入による高速通信基盤整備推進やI CT利活用の推進を国・自治体・企業が相互に連携し て地域情報化推進体制を構築すること.そして地域系 のCATV網の活用は,多角的に地域情報化推進が図 れること.住民参画のためのコミュニティ作りやデー タ放送の活用は,行政への施策反映や災害対応などの 地域の課題解決のために重要な手段であることを提言 した.特に,情報格差の解消は,地理的な観点のみで はなく,世代間の情報格差解消も大きな課題である. 紙面の都合上,後者においてはほとんど言及できなか ったが,各自治体とも共通の認識であろう. 「だれでも,どこでも,いつでも」情報でつながるネ ットワークが形成され,各世代に応じたICTの活用 が等しく図れることができれば,地域格差や経済格差 が解消され,若者の定住促進や就労機会の創出に繋が る.また,さきの東日本大震災では,情報の収集・発 信が,応急・復旧対策に大変重要な役割を果たしてい ることを改めて認識させられた. 今後も自治体の立場から,安心・安全な快適社会の 実現に向け,効果的な地域情報化戦略を追求し続ける 所存である..

(6) 補注 1). 愛知県(2008 年 11 月現在):「情報通信基盤に 関する支援制度調査結果」による. 2) 総務省(2010):平成 22 年版情報通信白書 p175 3) 岩手,宮城,福島の3県を除く 4) 世界経済フォーラムの「ICT 競争力ランキング」 における日本より上位の国の中から,米国,英国, 韓国,デンマーク,スウェーデン,シンガポールの 7 カ国で比較中,5 位であった. 出典:総務省(2009):平成 21 年情報通信に関する 現状報告 p50 5). 浜松市子育て情報サイトぴっぴ http://www.hamamatsu-pippi.net/. 6). HFC 上のケーブルインターネットの大幅な高速化 を可能とするケーブルモデム仕様.上り下りとも FTTH 並みの 120Mbps から最大 1.2Gbps 程度の速度を 実現可能. 7) 501 端子以上の許可施設 8) 総務省ホームページ http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin /pdf/catv_genjyou.pdf 9) 実証実験モニタに対するアンケート調査結果より, 地上デジタル放送を活用した行政情報の提供につい て,継続を望む声が 9 割にのぼった. 出典: www.gaic.or.jp/kohosi/back/no111/dijital.html 10). 総務省(2008):地域の安心・安全情報基盤に 関する研究会報告書 総務省ホームページ http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/2008/ pdf/080702_3_bt1.pdf 11) 既に岐阜県や京都府では地デジ対応TV所有し ている人であれば,リモコンの「d」ボタンを押すこ とによって,自治体の避難指示や,気象関係の各種 注意情報,時々刻々の水位がわかる河川情報などを リアルタイムに取得することができ,操作に慣れ親 しんでいるTVから防災情報が取得できる. 参考文献 ・総務省:(2010)地方自治情報管理概要 p.10 ・放送と通信の融合に関する影響:行政&ADP2007 年3月 Vol43 pp65-71 ・総務省:(2005)ユビキタスネット社会を実現する 地域情報化戦略」最終報告書 ・内田康人(2008):通時的視点からみた県域CATV 施策の変遷とその公共的意義,育英短期大学研究紀 要 第25号,PP.1-18 ・総務省:(2007)地方の活性化とユビキタスネット 社会に関する懇談会報告書pp.271-279 ・中西規之(2006)都市自治体における地上デジタル 放送の利活用 ・磯野正典(2005)電子自治体構築に向けた地上デジ. タル・データ放送利活用の課題 ・総務省(2007):地域におけるICT利活用の効果に ついて 総務省情報通信政策局資料 ・財団法人岐阜県市町村行政センター(2006):地上 デジタル放送を活用した住民への行政情報提供 広 報誌ネット&ライン No111 2006 冬号 www.gaic.or.jp/kohosi/back/no111/dijital.html ・総務省(2009):広報紙「マイメディア東海」第259 号 ・静岡県(2009):データ放送有効活用検討結果報告書 −データ放送への取組に関する基本方針− 静岡県企画部情報政策室 ・総務省(2009):ケーブルテレビの現状 総務省情 報流通行政局地域放送推進1 ・財団法人全国地域情報化推進協会(2011):ブロード バンド利活用事例集.

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