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公益財団法人メルコ学術振興財団セミナー記録

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Academic year: 2021

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(1)公益財団法人メルコ学術振興財団セミナー記録. 調査研究室長 澤邉紀生  2019 年 4 月から 2020 年 1 月までに開催されたメルコ学術振興財団主催のセミナーは下記のとおりで ある。各セミナーの内容については,それぞれの開催報告書をご覧頂きたい。 1.同志社大学・国際ジャーナル投稿のためのワークショップ 日時:2019 年 5 月 17 日(金) 13 時∼ 18 時 場所:同志社大学 今出川キャンパス 至誠館 5F 第 3 共同研究室 特別講演. デニス・ファーレンバッヒャー氏 (Monash Business School, Associate Professor) 「Does Social Media Activity Influence Trade Credit Levels? Archival and Experimental Evidence」. 第 1 報告. 小山真実氏(神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程) 「Ratchet Effect in Teams with Mutual Learning」. 第 2 報告. 河合隆治氏(同志社大学商学部教授) 「All roads lead to Rome? On the overlap and differences between risk management and management control」. 2.近畿大学・管理会計セミナー 日時:2019 年 5 月 18 日(土) 13 時 30 分∼ 17 時 10 分 場所:近畿大学 東大阪キャンパス 21 号館 5 階 535 教室 講演 1 徳崎 進氏(関西学院大学 教授) 「イノベーションのための創造性マネジメント:経営人材の創造性開発における経営学,心 理学,教育学の融合可能性とその管理会計的展開」 講演 2 王 博氏(京都大学大学院 院生) 「マテリアルフローコスト会計(MFCA)の継続性を促進する取り組み ―日東電工㈱ VS ウシオ電機㈱」 講演 3 小山真実氏(神戸大学大学院 院生) 「Ratchet Effect in Teams with Mutual Learning」 特別講演. Dennis Fehrenbacher 氏(Monash University Associate Professor) 「Reflections on Experimentation in Management Accounting, Information Systems and beyond」. 質疑・意見交換と総括 コーディネーター 安酸建二氏(近畿大学 教授). ― 57 ―.

(2) vol. 12, issue 1, 2020. 3.京都大学・定性研究のためのワークショップ 日時:2019 年 8 月 30 日(金) 13 時∼ 17 時 55 分    8 月 31 日(土)  10 時 30 分∼ 15 時 10 分 場所:京都大学 東京オフィス 大会議室 B 講演 1 木村麻子氏(関西大学商学部教授) 鈴木寛之氏(ブリストル大学社会科学・法学部講師) 澤邉紀生氏(京都大学経営管理大学院教授) 「The sustainability management control system on new product development: What is the role of the organizational façade? 」 講演 2 鈴木寛之氏(ブリストル大学社会科学・法学部講師) 「Responsibility accounting and managerial behaviour in the context of intertemporal dependency」 講演 3 井上慶太氏(成蹊大学経済学部助教) 尻無濱芳崇氏(山形大学人文社会科学部准教授) 藤野雅史氏(日本大学経済学部教授) 「Community capacity and controls: A case of transport service development for the elderly」 講演 4 天王寺谷達将氏(岡山大学経済学部講師) 國分克彦氏(神戸大学大学院経営学研究科教授) 「Bridging the academia-practice gap through management accounting research」 講演 5 井上慶太氏(成蹊大学経済学部助教) 「Management controls and horizontal coordination: A case study collaboration within a travel agency group」 講演 6 藤野雅史氏(日本大学経済学部教授) 李燕氏(拓殖大学商学部准教授) 澤邉紀生氏(京都大学経営管理大学院教授) 「Use of performance measures by managers with interdependent self-construal」 講演 7 諸藤裕美氏(立教大学経済学部教授) 「Stretch targets during new product development process: The case of Toyota」 講演 8 Chris Chapman 氏(ブリストル大学社会科学・法学部教授) 「Theorising research questions」 「Writing theorized storylines」. ― 58 ―.

(3) 公益財団法人メルコ学術振興財団セミナー記録. 1.同志社大学・国際ジャーナル投稿のためのワークショップ概要 2019 年 6 月 7 日 名古屋市立大学 名誉教授 星野 優太 同志社大学・国際ジャーナル投稿のためのワークショップ 日時:2019 年 5 月 17 日(金)13 時∼ 18 時 場所:同志社大学 今出川キャンパス 至誠館 5F 第 3 共同研究室 特別講演. デニス・ファーレンバッヒャー氏 (Monash Business School, Associate Professor) 「Does Social Media Activity Influence Trade Credit Levels? Archival and Experimental Evidence」. 第 1 報告. 小山真実氏(神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程) 「Ratchet Effect in Teams with Mutual Learning」. 第 2 報告. 河合隆治氏(同志社大学商学部教授) 「All roads lead to Rome? On the overlap and differences between risk management and management control」.  上記の日時・場所で,モナッシュ大学ビジネススクール准教授のデニス・ファーレンバッヒャー (Dennis D. Fehrenbacher)氏をゲストコメンテータとして迎え,国際ジャーナル投稿のための若手・ 中堅研究者の英文ペーパーの報告・討論が行われた。今回のワークショップのゲストコメンテータとし て招聘されたファーレンバッヒャー氏は,モナッシュ大学会計学科の准教授で, や. 誌などの国際的に著名なジャーナ. ルに多数の論文(共著を含む)を執筆している。そのファーレンバッヒャー氏は,会計システムと情報 システムとが交差する領域を研究対象とする行動研究者で,デジタル技術とそれが組織の課題への取り 組みに与える影響を調べることを主な研究テーマとしているという。このワークショップでは,まず ファーレンバッヒャー氏による特別講演が行われ,続いて日本の研究者 2 名が報告し,それらの報告に 対しファーレンバッヒャー氏が丁寧にコメントを加えられた。なお,当日は,講演を聴講したフロアの 参加者からもファーレンバッヒャー氏や日本の各報告者に多くの質問が寄せられ,それを受けて熱心に 討論が行われた。ファーレンバッヒャー氏の講演を要約すると次のとおりである。  ファーレンバッヒャー氏の研究は,顧客のソーシャルメディア活動がサプライヤーによって付与され たトレードクレジットレベルに影響するかどうかを調べることである。彼ら(氏との共同研究)のアー カイブズおよび実験的分析は,顧客のソーシャルメディア活動が,顧客の活動に対するサプライヤーの 信頼を強化し,受け取った貿易信用に好影響を与えていることを示しているという。ソーシャルメディ ア上でアクティブになっていない顧客と比較して,ソーシャルメディア上での顧客のコミュニケーショ ンはタイムリーではあるが信頼性が低いと感じるので,サプライヤーはソーシャルメディア上でアク ティブな顧客に対する信頼が高いという証拠を見つけることが重要だとする。彼らの研究結果は,ソー シャルメディア情報の信頼性の懸念にもかかわらず,情報のタイムリーな受信を可能にするソーシャル メディアの固有の機能のために,ソーシャルメディアに対する信頼強化が依然として企業内で起こり得. ― 59 ―.

(4) vol. 12, issue 1, 2020. ることを意味している。  日本人の 2 名の研究報告の内容は以下のとおりである。  小山真実氏の研究は,相互学習を伴うチーム設定において,どのようにしてラチェットが深刻な問題 になるのかを分析的に調査するものである。相互学習とは,熟練度の低い労働者が熟練度の高い労働者 と一緒に仕事をすることによって,能力を向上させることができる現象のことをいう。プリンシパル本 人が 2 人のエージェントと契約する 2 期間の動的契約モデルを使用して,相互学習は今日のパフォーマ ンスを保持することの利点を減らすことによってラチェット効果を軽減できることを示す。 結果として, 熟練労働者が最初の期間に熟練していない労働者であるふりをすることから生じる利益は,相互学習が ない場合よりも相互学習がある場合のほうが高いという。この結果は,相互学習のあるチームではラ チェット効果が深刻な問題になる可能性が低いことを意味する。また,この結果では,多くの企業が過 去の実績に基づいて目標を設定した理由を説明する。  河合隆治氏の研究は,リスク管理とマネジメント・コントロールには,企業のリスクと不確実性を管 理するための相互に関連する可能性があるが,異なるプラクティスが含まれていると見なし,それらが どのように相互に関連し,どの要因がそれらの使用におけるトレードオフに影響を及ぼすかを調べてい る。企業経営者が不確実性に関連するリスクをどの程度理解しているかが,リスク管理および経営管理 慣行の使用を決定する重要な要素であると仮定する。それを検証するために,日本の上場企業のアーカ イブズおよび調査データを収集して行う。調査結果は,企業がリスク管理の慣行,ならびに委任決定, 業績に基づく報酬,および業績測定を使用して,環境の不確実性から生じると考えられるリスクを管理 するという期待を裏付けるものになったという。また,結果は,業績に基づく報酬と業績測定が,企業 リスクの管理におけるリスク管理を補完することが示された。. ― 60 ―.

(5) 公益財団法人メルコ学術振興財団セミナー記録. 2.日本管理会計学会関西・中部部会・メルコ学術振興財団・ 近畿大学共催・管理会計セミナー概要 2019 年 5 月 27 日 近畿大学 経営学部 教授 島 吉伸. 管理会計セミナー「Reflections on Experimentation in Management Accounting, Information Systems and beyond」 日時:2019 年 5 月 18 日(土) 13 時 30 分∼ 17 時 10 分 場所:近畿大学 東大阪キャンパス 21 号館 5 階 535 教室 講演 1 徳崎 進氏(関西学院大学 教授) 「イノベーションのための創造性マネジメント:経営人材の創造性開発における経営学,心 理学,教育学の融合可能性とその管理会計的展開」 講演 2 王 博氏(京都大学大学院 院生) 「マテリアルフローコスト会計(MFCA)の継続性を促進する取り組み―日東電工㈱ VS ウ シオ電機㈱」 講演 3 小山真実氏(神戸大学大学院 院生) 「Ratchet Effect in Teams with Mutual Learning」 特別講演. Dennis Fehrenbacher 氏(Monash University Associate Professor) 「Reflections on Experimentation in Management Accounting, Information Systems and beyond」. 質疑・意見交換と総括 コーディネーター 安酸建二氏(近畿大学 教授)  メルコ学術振興財団主催,2019 年度管理会計セミナーは 5 月 18 日(土)に近畿大学において開催さ れた(日本管理会計学会第 35 回関西・中部部会と共催)。当日は天候にも恵まれ, 30 名の参加者があり, 活発な議論が展開された。  自由論題の第 1 報告は,徳崎進氏(関西学院大学)による「イノベーションのための創造性マネジメ ント:経営人材の創造性開発における経営学,心理学,教育学の融合可能性とその管理会計的展開」で あった。徳崎氏は,現代において,イノベーションの重要性がますます大きくなり,またその達成に不 可欠な新しい知識や行為を生み出す能力である「創造性」の追求が経営課題となることを述べた上で, 合理性を前提に競争優位性の獲得を追求してきた既存のアプローチの限界を指摘している。さらに,創 造性をどのように育むのかは,経営管理者への有用な情報と技法の提供を任務とする管理会計を含む経 営学諸分野の重要な関心事のはずであるが, 本テーマに関連する研究蓄積が十分でないことも指摘した。 こうした問題意識のもとに,先行する心理学や教育学領域の文献レビューに基づいて,とくに創造性に 着目して,経営人材育成のあるべき姿とその方法論を管理会計の観点から検討された。本報告では, 「創 造性マネジメント」が管理会計の重要かつ喫緊の課題であることが示唆された。  自由論題の第 2 報告は,王博氏(京都大学大学院)による「マテリアルフローコスト会計(MFCA) の継続性を促進する取り組み―日東電工㈱ VS ウシオ電機㈱」であった。王氏は,MFCA は日本企業. ― 61 ―.

(6) vol. 12, issue 1, 2020. にも広く普及しているものの,多くの MFCA の適用事例は一時的なものであることを指摘している。 しかし,MFCA が目的とする「環境と経済の両立」という目標を達成するためには,継続的な MFCA の適用が不可欠であることも指摘された。王氏は,MFCA を継続している事例として日東電工を, MFCA を継続できなかった事例としてウシオ電機を取り上げ,両社における MFCA の適用を比較分析 した。その結果,MFCA のサプライチェーンへの広がりとエンジニアリングチェーンへの深掘りが示 唆された。  自由論題の第 3 報告は,小山真実氏(神戸大学大学院)による「Ratchet Effect in Teams with Mutual Learning」であった。小山氏は, ラチェット効果に関して, 相互学習(mutual learning)があるチー ムの状況を取り上げ,数理モデルによって分析した。相互学習とは,スキルの低い人がスキルの高い人 と働くことによって,スキルの低い人の能力が向上する現象を指す。ダイナミックなアドバース・セレ クションのモデルを利用して,小山氏は,相互学習がラチェット効果を緩和することを示した。プリン. ― 62 ―.

(7) 公益財団法人メルコ学術振興財団セミナー記録. シパルは,相互学習がスキルの低い人の能力を改善することを知っているので,相互学習が存在する場 合,1 期目にスキルが低いと申告した人に対する 2 期目の契約は,改善された能力レベルに基づいて設 計されることとなる。したがって,能力のある労働者が最初の期においてあまり能力がないふりをする ベネフィットは,相互学習がない場合よりもある場合に,より小さくなる。この結果は,相互学習のあ るチームにおいて,ラチェット効果は深刻な問題となりにくいことを示唆している。また,現実の企業 の多くで過去の業績をベースに目標が設定される理由を説明している。  プログラム最後の特別講演に先立ち,星野優太氏(メルコ学術振興財団)よりメルコ学術振興財団に 関する説明があった。特別講演は, Dennis Fehrenbacher 氏(Monash University)による「Reflections on Experimentation in Management Accounting, Information Systems and beyond」であった。Fehrenbacher 氏は,管理会計研究における実験研究の可能性について公演した。実務におけるグーグルに よるオンライン実験の事例や,学術界における実験研究に対するノーベル経済学賞に関する説明がされ た。そのうえで,管理会計研究の研究手法について,実験研究も含め近年では研究手法が多様化してい ることが指摘された。とくに脳波の測定や,アイ・トラッキング,皮膚反応といった測定技術が,今後 の管理会計の実験研究の可能性を広げることが指摘された。また,講演では,アイ・トラッキングを用 いた実験研究に関する紹介や, アンカリングに関わる認知バイアスを体験する簡単なクイズもなされた。 今後の日本の管理会計研究の発展に大きく資する講演であった。  すべての報告・講演において,フロアから積極的な質疑がなされ,大変有意義なセミナーになったと 思われる。. ― 63 ―.

(8) vol. 12, issue 1, 2020. 3.京都大学・定性研究のためのワークショップ概要 2020 年 1 月 20 日 京都大学経営管理大学院 特定助教 市原 勇一 京都大学大学院生 庄司 豊 京都大学・定性研究のためのワークショップ 日時:2019 年 8 月 30 日(金) 13 時∼ 17 時 55 分    8 月 31 日(土) 10 時 30 分∼ 15 時 10 分 場所:京都大学 東京オフィス 大会議室 B 講演 1 木村麻子氏(関西大学商学部教授) 鈴木寛之氏(ブリストル大学社会科学・法学部講師) 澤邉紀生氏(京都大学経営管理大学院教授) 「The sustainability management control system on new product development: What is the role of the organizational façade? 」 講演 2 鈴木寛之氏(ブリストル大学社会科学・法学部講師) 「Responsibility accounting and managerial behaviour in the context of intertemporal dependency」 講演 3 井上慶太氏(成蹊大学経済学部助教) 尻無濱芳崇氏(山形大学人文社会科学部准教授) 藤野雅史氏(日本大学経済学部教授) 「Community capacity and controls: A case of transport service development for the elderly」 講演 4 天王寺谷達将氏(岡山大学経済学部講師) 國分克彦氏(神戸大学大学院経営学研究科教授) 「Bridging the academia-practice gap through management accounting research」 講演 5 井上慶太氏(成蹊大学経済学部助教) 「Management controls and horizontal coordination: A case study collaboration within a travel agency group」 講演 6 藤野雅史氏(日本大学経済学部教授) 李燕氏(拓殖大学商学部准教授) 澤邉紀生氏(京都大学経営管理大学院教授) 「Use of performance measures by managers with interdependent self-construal」 講演 7 諸藤裕美氏(立教大学経済学部教授) 「Stretch targets during new product development process: The case of Toyota」 講演 8 Chris Chapman 氏(ブリストル大学社会科学・法学部教授) 「Theorising research questions」 「Writing theorized storylines」. ― 64 ―.

(9) 公益財団法人メルコ学術振興財団セミナー記録.  2019 年 8 月 30 日と 8 月 31 日の 2 日間にかけて,京都大学東京オフィスにおいて「定性研究のため のワークショップ」を開催した。本セミナーでは,管理会計分野において定性研究をどのように行うべ きか,また国際的な場で発信していくためにどのようなことを行っていく必要があるのかについて検討 するため,ブリストル大学の Chris Chapman 教授をゲストスピーカーに迎え,7 組の日本の研究者が 現在取り組んでいる英文ペーパーについての報告・討議を行った。  1 日目には,5 つの研究報告が行われ,各報告に対して Chapman 氏を交えた質疑応答がなされた。  第 1 講演は,木村麻子氏のグループによる「The sustainability management control system on new product development: What is the role of the organizational façade? 」であった。本講演では,持続可 能性についての合意形成が組織内で形作られていくプロセスについて,組織ファサード概念を用いて分 析した結果が報告された。組織ファサードとは,外部資源獲得のために提示される,組織の実態とは必 ずしも合致しない表向きの政策のことである。日本の電機メーカーのケーススタディを通して,企業グ ループ内の異なる組織が有する組織ファサードが相互に影響を与えることで,組織内で合意が形成され ていくことが示された。また組織ファサード間の関係性を明確化することで,組織ファサードへの理解 が促進されることが示唆された。  第 2 講演は,鈴木寛之氏による「Responsibility accounting and managerial behaviour in the context of inter-temporal dependency」であった。本講演では,前任者の行動や意思決定と現在の業績と の間に存在する異時点間の依存性が管理行動に対してどのように影響を及ぼすのかについて報告され た。アメーバ経営実践企業を対象としたケーススタディの結果,マネジャーの交代や部門の統合が生じ た際,前任者の意思決定により現在のマネジャーの管理可能性が制限されることがある一方,管理可能 性原則が異時点間の依存性の悪影響を緩和するために用いられることが示された。  第 3 講演は,井上慶太氏のグループによる「Community capacity and controls: A case of transport service development for the elderly」であった。本講演では,地域社会における専門的なサービス提 供者とサービス利用者との協力関係を構築するためにコントロールがどのように用いられたのかについ て報告された。山形市において実施された高齢者の交通支援プロジェクトを対象としたケーススタディ. ― 65 ―.

(10) vol. 12, issue 1, 2020. を通じて,サービス利用者がコントロールを通じてどのようにサービス開発プロセスに巻き込まれて いったのか,サービス利用者の巻き込みを行うためにどのようにコントロールが展開していったのかが 示された。  第 4 講演は,天王寺谷達将氏のグループによる「Bridging the academia-practice gap through management accounting innovation research」であった。本講演では,研究と実践の乖離を減らすために 必要なことは何かについて,マテリアルフローコスト会計(MFCA)の普及のケースを検討した結果 が報告された。MFCA は,学術的には主に環境管理会計技法として位置づけられてきたが,日本では 生産ラインの管理者にとってなじみの深い生産改善技法として解釈されていた。この解釈の変化は MFCA 導入の推進者にとっても意味のあるものだった。このような位置づけの変化を起こすことによ り,研究によって生み出された知識と企業の実践の間をつなぐことができることが示された。  第 5 講演は,井上慶太氏による「Management controls and horizontal coordination: A case study collaboration within a travel agency group」であった。本講演では,高度に分権化された組織におけ る現場レベルでの協働にマネジメントコントロールが果たす役割について,旅行代理店グループを対象 としたケーススタディの結果が報告された。ケース企業において,マネジメントコントロールは現場従 業員間の情報共有のために用いられていた。一方で, 現場レベルで過度な調整が起こらないよう統制し, 柔軟な行動を損なわないようにする役割も果たしており,逆機能を防ぐことができることも示された。  2 日目には,2 つの研究報告が行われた後,Chapman 氏による理論化に関する講演が行われた。  第 6 講演は,藤野雅史氏のグループによる「Use of performance measures by managers with interdependent self-construal」であった。本講演では,集団主義的な文化を有する組織において組織成員が 業績評価指標をどのように理解しているのかについて,相互協調的自己観の概念を用いて分析した結果 が報告された。日本の製造企業のケーススタディを通じて,集団主義的な文化の下では,マネジャーは 交渉を通じて調整された他のマネジャーの目標を自己の目標の一部として理解しており,たとえ自部門 が良い業績を達成したとしても他のマネジャーに対する負い目を感じることがあり,業績評価指標とし. ― 66 ―.

(11) 公益財団法人メルコ学術振興財団セミナー記録. て表れている部分よりもより広い役割をマネジャーが自分に課していることが示された。  第 7 講演は,諸藤裕美氏による「Stretch targets at new product development process: The case of Toyota」であった。本講演では,高い目標設定が引き起こす創造性の減少という負の効果を避けつつ, 組織がどのように原価管理を実施しているのかについて,トヨタ自動車のケースを通じた研究の結果が 報告された。トヨタ自動車においては,プロジェクト横断的な委員会活動,柔軟性を持った目標の厳し さ,「機担(機能担当)」と呼ばれるサポート役の存在,誰が何を知っているかを気づきやすくする大部 屋活動,企業理念に基づく文化・人事コントロールといった複数の方法を用いて,高い目標設定と創造 性の両立を図っていることが示された。  すべての研究報告が終了したのち,Chapman 氏により理論化に関する 2 つのテーマについて講演が 行われた。  1 つ目のテーマは「Theorising research questions」であった。まず,研究者の重要なスキルは,問 いを組み立て,その問いに答えることであることが述べられた。続いて, 「面白い」研究課題を提示す るための 2 つのシンプルな枠組みとして,問題化(problematisation)と対比的説明(contrastive explanation)が取り上げられた。最後に,「あなたの論文を読んだ後に,誰が,何を,今までと違った方 法で行うようになるのかを示さなければならない」とのメッセージが伝えられた。  2 つ目のテーマは「Writing theorised storylines」であった。論文を実際に書く際の注意点として, 読者の注意をコントロールできるように全体を構成すること,標準的なフォーマットを制約としてでは なく資源として理解すること,章や節の見出し,段落,文章が端的に内容を示すようにすること,フィー ドバックを受けつつ繰り返し書き直す必要があることなど,具体的な項目について詳細に説明された。  本セミナーでは,個別の研究報告に対する Chapman 氏を交えた活発なディスカッションや Chapman 氏の 2 つのテーマに関する講演を通して,海外の研究実践の動向に触れることの難しい日本の研 究者が,今後国際的な場で研究成果を示していくために,どのような点を改善していく必要があるのか について検討を行う有益な機会となった。. ― 67 ―.

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