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木製玩具の教育効果体系とニーズ分析に基づいた玩具デザイン手法

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Academic year: 2021

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(1)研究論文: 報告 論文 RESEARCH ORIGINAL ARTICLES REPORT 研究論文:. Received Jun 26, 29, 2020; 2017; Accepted Oct Sep 5, 29,2020 2017. 木製玩具の教育効果体系とニーズ分析に基づいた玩具デザイン手法 出産・育児分野のスマートフォンアプリにおいてユーザーの自律性を 木製玩具の教育効果体系とニーズ分析に基づいた玩具デザイン手法 A wooden toy design method based on the educational toy system 喚起するデザイン要素 A Wooden Toy Design Method Based on the Educational Toy System Design of Smartphone App Inducing Perinatal Mothers to Perform Childcare ●林. 秀紀. ● 桜美林大学 林秀紀 HAYASHI , Hideki 桜美林大学. J.F.Oberlin HAYASHI, Hideki University J.F.Oberlin University ● : :Design Theory, Product Design,Design, Toys, Childhood Education, Human Centered DesignCentered Design ● Keywords Key words Design Theory, Product Toys, Childhood Education, Human. 要旨 要旨. 1.はじめに. 本研究は、子どもの健やかな成長を促す教育効果のある木製玩具を創. 我が国では、木の玩具が昔から子どもが遊ぶおもちゃとして. 出する手法を提案し、デザイン初学者にとっても的確に、かつ容易にデ. 親しまれてきた。積み木やけん玉などは、その代表として認知. ザインを創出できる手法として一般化することを目的とした。方法は、. されている。現代は、子どもが遊ぶ玩具は多様化が進み、プラ. 木製玩具の開発に向けて、人間中心設計(HCD)によるデザイン開発手. スチック製の玩具は量産効果により買いやすい価格で提供され. 法を応用したデザイン手法を提案した。本研究では、子どもの遊びの観. るようになった。しかし一方で、安価な玩具が大量に出回り、. 察調査や、筆者の先行研究による木製玩具の教育効果体系の指標より、. 買い替えサイクルを早め、モノを大切に扱う意識の低下や、壊. ユーザである子どもの発育、発達を目標とした教育上のニーズである価. れた玩具の廃棄問題が懸念された[注 2]。また近年は、ハイテ. 値を抽出し、ユーザシナリオに基づいたデザイン仮説を構築した後、そ. ク系玩具も登場したが、米国小児学会[注 3]や日本小児科医会. れを満足させる玩具のプロトタイプを創作した。デザイン手法の有効性. では、乳幼児期の子どもには、ICT や画面メディアによる遊び. 検証は、大学生が参画したデザインプロジェクトにおいて、上記のプロ. を控えるよう推奨している。これに対し、木製の玩具は環境に. セスにより制作されたプロトタイプ作品の評価により行った。 その結果、. 優しく、我が国の豊富な森林資源の利活用を促進できる可能性. 子どもの成長を促す効果が確認でき、大学生のデザイン初学者でも、教. がある。筆者が行った幼児の保護者へのアンケート調査結果で. 育効果を考えた玩具の提案が的確にできるようになることが分かった。. は、木の玩具は長持ちし、安心・安全であると肯定的な意見が 多数寄せられており、現代の子どもにも受け入れられる可能性 が示唆された。 筆者は、木製玩具は環境にやさしいだけでなく、. Summary The purpose of this study was to propose a method for creating wooden toys with educational effects that would promote the healthy growth of children and to popularize this method of creating designs accurately and easily. The method is based on the Human-Centered Design (HCD) process as it is applied to the design research and development of wooden toys. In this research, we propose a method of creating toys that fulfills the developmental needs of children who are users. Therefore, the characteristics of this study are based on the ideal scenario of the user and focus on the extraction of the educational value from the analysis of qualitative information obtained through observational surveys of children. The effectiveness of the proposed method in this research was tested by evaluating a prototype project with the participation of university students and the results showed that this method was effective in promoting the educational growth of children.. 安全で子どもの知育や心と身体の成長を促す様々な教育的効果 が備わっていることを、既存製品の分析やプロトタイプによる 実験により実証し、木製玩具の教育効果体系の構築を試みた。 その研究課程で構築したデザイン手法を用いると、初めて玩具 をデザインする学生にとっても、子どもや保護者のニーズに適 合した教育効果のある木製玩具の制作が容易になることが分か った。 2.研究目的 現在、木の玩具を製造しているメーカーは多くはない。それらは木材 の産地周辺に位置し、個人の工房でファクトリーブランドを立ち上げ制 作を行っている。認定 NPO 法人芸術と遊び創造協会は、東京おもちゃ美 術館など全国 4 か所のおもちゃ美術館の運営を行い、子どもが遊ぶ木製 玩具の普及活動を支援している。 「グッド・トイ」の選定は、その普及 活動の一つである。グッド・トイ賞の選考基準は、3 つの方針(健全な おもちゃ、ロングセラー、遊びコミュニケーションを尊重)と 6 つのポ イント(美しい色と形、動きのバリエーション、適度な大きさと重さ、 心地よい音、感触のよさ、丈夫さと壊れにくさ)に大別され、全国のお もちゃコンサルタントが選考を行っている[注 1]。この 3 つの方針と 6 つのポイントにより、グッド・トイの基準は明示されたが、製造側だけ. 1. デザイン学研究 B U L L E T I N O F JS S D Vol. 67 No. 4. 2021. 11.

(2) 表2:子どもの成長に効果的な遊びと木製玩具の年齢別対応表(一部抜粋). 表1:木製玩具による遊びの種類と教育効果の関係指標(一部抜粋). 3.3.子どものためのHCD の計画と推進 子どもの発育、発達を目的とし、子どものための HCD としてデザイン プロジェクトを計画した。子どもの遊びの観察調査により各発達段階の 特徴を把握し、成長を促すための要求分析を行った。デザイン仕様化に は、ラピッドエスノグラフィ法、KA 法、ペルソナ法などを用い開発目 標を具体化し、玩具プロトタイプによりアイディアを視覚化した。 3.4.木製玩具プロジェクトによるデザイン手法の評価 玩具プロトタイプの有効性を検証しデザイン手法を評価した。本研究 では、デザインを学ぶ大学生を対象にデザインプロジェクトを実施し、 上記の手法を用いて木製玩具プロトタイプを開発した。 保育園において、 対象ユーザへの適合性、 教育的効果を検証し、 デザイン手法を評価した。 3.5.教育効果指標への反映 プロトタイプ検証結果をレビューし、新たな気づきを、教育効果体系 の基礎資料に反映する。 でなく、消費者にとっても情報が不足していると思われた。なぜなら、. 4.玩具作家のデザイン手法の調査. 実際に玩具で遊ぶ子どもにとってどのような効果が期待されるのかは不. 4.1.事例1. 明であり、これを参照しても、造形や色彩など意匠上の特徴的な要素を. 工房童の若林孝典氏(岡山県美作市) (図 1)は,構造的で緻密な動. 玩具のデザインに反映する以外には考えが及ばないと思われたからであ. きをするおもちゃ制作を得意とする。東京おもちゃ美術館公式トイショ. る。そのため、子どもや保護者側に立脚した価値を具体化し、消費者や. ップ,APTY(アプティ)の,KItoTEto(キトテト)シリーズ(図2)で多. 製造側にとって有用なデザイン方法論の研究が必要であると考えられ、. 数の作品を提供している。2017 年 6 月に初めて工房を訪問し、その後. 子どもの発育・発達を促すような教育的な木製玩具のデザイン手法を提. 調査を実施した。若林氏は、幼少期より機械、構造に関心があり、子息. 案し、一般化することを目的とした。. のための玩具制作が契機となりクラフト作家に転身した。 4.2.事例2. 3.研究の方法 本研究で提案するデザイン手法は以下の方法によって導出されている。 3.1.木製玩具の教育効果体系の構築(先行研究) 筆者による木製玩具による遊びと教育効果の関係指標(表 1)[注2]、 子どもの成長に効果的な遊びと木育玩具の年齢別対応表(表 2)[注 3] は、木製玩具の教育効果体系の基礎資料である。これは子どもの能力の 開発目標が明示されており、デザインガイドとして活用され、プロトタ イプの評価結果も必要に応じて適宜反映される。 3.2.玩具作家のデザイン手法の調査分析 グッド・トイ賞受賞作家、2 名の工房を訪問し、玩具のデザインに関 する訪問調査を実施した。制作の経緯、アイディアの発想方法、表現技 術などの聞き取りや、ワークショップに一般参加し、子どもの興味・関 心を高めるために行われている作家の知見やノウハウの特徴を把握した。. 2 12. B U L L E T I N O F JS S D Vol. 67 No. 4. 2021 デザイン学研究. mori no oto 代表の石川 照男氏(岡山県英田郡西粟倉村) (図 3)は, 音のなる木の玩具の制作活動を行う。代表作の「kan pon pon」 (図4) は,グッド・トイ賞2016 林野庁長官賞,キッズデザインアワード 2017, 「小さな森のおと」 , 「森のおとはじめ」の 2 点はグッド・トイ賞 2018 を受賞している。 2017 年6 月の調査では,演奏家として楽器への思い 入れと造詣が深いことや、楽器博物館などでの世界の楽器の調査よりイ ンプットするなど、音のなる道具についての知識や経験が豊富であるこ とが分かった。なお、石川氏は元プロダクトデザイナーとしての技術を 生かし,優れた作品を毎年発表している。 4.3.玩具の創作までの経緯 2 名の作家へのインタビューやワークショップでの調査に基づき、玩 具の創作に対する内発的動機づけへ至るまでの経緯を表 3 に整理した。 何れも幼少時代の楽しい遊びの体験や記憶などが心に刻まれて熟成され,.

(3) ⓪HCDのプロセス. デザインに. を基に実施計画. よる解決案は 要求事項に. ①利用状況の. 適合. 把握と明示. 適切な段階へ反復. ④要求事項に対する. ②ユーザ要求事項の. デザインの評価. 図1:若林孝典氏(工房童)調査(2017 年 6. 明確化. 図2:KItoTEto エリプス. ③ユーザの要求事項を 満足させるデザインによ る解決策の作成. 図5:人間中心設計のプロセス図(ISO9241-210). ①利用状況の 把握と明示 子どもの発達段階に適合する デザイン仮説の見直し. 図3:石川照男氏(mori no oto)調査(2017 年6 月). 図4:kan pon pon. 表3:若林孝典氏(左) 、石川照男氏(右)の玩具創作に至った経緯 若林孝典氏 •自身は子どもの頃カラクリおもちゃに興味が. 記憶 体験. あった。. 石川照男氏 •子どもの頃から音の鳴るおもちゃに強い興 味を持っていた。. •子どもが誕生し玩具の自作を始めた。. •楽器の演奏を楽しんだ。. •子どもが喜んで遊ぶ姿を見て嬉しかった。. •ギターを自作した。. ④要求事項に対する デザインの評価. 子どもの発達段階に適合する デザイン. 木製玩具デザインガイド. 子どもの発達段階とデザイン仮説 の検証. ②ユーザ要求事項の 明確化. 子どもの発達を促すデザイン仮説. ③ユーザの要求事項を 満足させるデザインによる解 決策の作成. 図6:木製玩具のデザインプロセスにおけるデザインガイドの位置付け. •大学では心理学を専攻し発達心理学を学んだ。 •構造的なおもちゃへの関心が高まった。. 思考. •楽器のようなおもちゃを考え続けた。. •機械の複雑な構造と動作をおもちゃで再現する •楽器博物館などで、世界の楽器の調査し、 ため、機械工学の洋書を個人輸入して研究した。 楽器の構造しくみを研究した。 •クラフト展のコンクールにカラクリおもちゃを •おもちゃのギターを自作した。 出展し受賞、自信をつけた。. 行為. •木工玩具作家としてスタートした。. •西粟倉村地域協力隊に参加し、木工玩具制 作をスタートさせた。. •ワークショップでカラクリおもちゃの制作を子 •ワークショップで音の鳴るおもちゃ制作を どもに教えている。. 子どもに教えている。. 5.子どもの教育効果を考えた玩具デザイン手法 5.1.人間中心設計を応用した玩具デザインプロセス 人間中心設計(Human Centered Design,以下 HCD)は、1999 年に ISO13407 で規格化され,2010 年に ISO9241-210 に改訂さ れた[注 6]。2019 年には,JIS Z 8530:2019「人間工学-インタ ラクティブシステムの人間中心設計」として JIS 化された。HCD は,製品やシステムやサービスを,人間工学やユーザビリティ. 後の創作活動のための源泉となっていた。そして玩具への絶え間ない興 味・関心や,持続的な思考により徐々に創造的エネルギーが高まり,内 発的動機が具体的な行為を誘発し,さらに活動が活発化した。両名を比 較すると,記憶・体験,思考,行為の流れの共通点が分かった。また, 玩具創作のプロセスで、ユーザ調査などを通じた客観的な指標に基づい た分析に代わり,子どもを対象とした木工ワークショップを定期的に実 施していた。そこで,子どもの様子を絶えず観察し,子どもの興味や関 心を引くおもちゃに対しその理由を敏感に感じ取り,自身の体験価値と 照合して得られた気付きを発想につなげている。このような現場での洞 察(観察調査)により得られた実体験をインプットし,独自の深い思考 からアイディアを投影して表出させ,高度なプロトタイピング技術で作 品を創出すると推察された。つまり,両名の作家は,定期的な木工ワー クショップにおいて,子どもに玩具制作を指導しながら,子どもの手先 の動き,知能の発達など、成長段階と玩具との関係や,興味・関心など, ニーズを極めて的確に把握できており、意図せずとも,人間中心設計(ユ ーザ価値の把握―要求分析と仕様化―プロトタイプによるアイディアの 可視化―デザイン案の設計-評価プロセス)が実践されていると考えら れる。この2 名の作家の玩具創造プロセスを言い換えるならば,子ども 中心設計と言えるだろう。卓越した熟練の技術は,子ども中心設計プロ セスの構築で支えられ,専門家でも絶えず注目されるような新作を継続 的に生み出すことが可能となっていると推察できる。. の知識や技法を使ってそのシステムをより使いやすくすること を目指すシステム設計のアプローチであるとされた[注 7]。 D.A. ノーマン(Donald Norman, 1935-) (ノーマン,2013)は, 「HCD とは哲学と進め方であり,インダストリアルデザイン,インタ ラクションデザイン,エクスペリエンスデザインの 3 つのデザ イン分野が注目する領域のことである。HCD の哲学と進め方は, 製品やサービスが何であれ,主な注力点がどこであれ,デザイ ンプロセスに人間のニーズについての深い考慮と検討を付け加 えるものである。」[注 8]と説明した。HCD の基本プロセスを図 5 に示す。前章で考察した玩具作家らの創作活動は、子どものための HCD が実践されていると述べたが、本研究の手法は HCD を基礎に、 木製玩具のデザインガイドとして表 1,表 2 の指標を加え、玩具 作家並みの創作ができないかと考えられた。高度な専門領域の創 造プロセスを可視化し,質の高い提案を一般化できるシステムの構築を 目指している。2 つの指標には,玩具作家の長い経験や知見の類似内容 が包含されており,玩具デザインの経験のない初学者にとって有用な参 考資料として活用できる。また、評価基準が明確となり製造側と使 用者側の共通の客観的視座が構築できると考えた。この資料は, HCD プロセスに当てはめると図 6 のような中心的役割を果たし, ①~④の各段階において,子どもの教育効果を踏まえた提案の 根拠や基本情報を参照されるガイドとして位置付けている。. デザイン学研究 B U L L E T I N O F JS S D Vol. 67 No. 4. 2021. 13. 3.

(4) 図7-1、図7-2:基礎情報の共有. 図8-1、図8-2:パズルバスでの遊び(保育園調査1歳クラス). この資料を土台に新たな発想を付加し,今までの玩具に見られ. 極めて重要な意味を持つ。. なかったような新しい提案に発展することを期待している。. 5.3. ニーズの探索. 5.2.木製玩具のデザインガイドの参照. 本研究における,ユーザ価値とは,子どもと保護者の欲求(ニ. 本研究では、過去 3 回大学生が参画するプロジェクトを実施. ーズ)を満たし満足感を与えることや,理想の状態を実現する. した。2、3 回目のプロジェクトでは初期の段階で、過去のプロ. ことである。子どもにとっての価値とは,興味、関心、満足感. トタイプ作品とその評価結果、デザインガイドを照合し、子ど. を得られることであるが,保護者にとってそれは価値の一部で. もの認知、身体能力の発育発達と遊び方について新しく参画し. あり子どもの成長に役立つ,教育的に良いおもちゃであること. たメンバーと基礎情報を共有した(図 7-1.図 7-2)。. がより重要だと考えられる。「おもちゃは子どもにとって心と. 5.2.観察調査による確認. 体の栄養である。」と、東京おもちゃ美術館館長、多田千尋(2012). デザインガイドは,対象ユーザを絞り込み,提案目的の指針. [注 10]が述べたように,子どもの成長の補助となるおもちゃを. を明確にするための資料である。よって,観察調査で得られた. 与えることが保護者の考える理想や価値であると考える。この. 定性的な情報とデザインガイドを比較し,子どもの認知発達段. ように,両者を満足させられるような玩具が理想であり,共通. 階と遊びの関係をよりリアルに把握しながら気づきを得て,発. した要求事項を明示することが必要となる。. 想に繋げて行くことが望ましい。本研究のデザインプロジェク. ニーズの探索は、 GTA(Grounded Theory Approach)[注 11]. トにおける観察調査では保育園児(0 歳、1 歳、2 歳、3~6 歳、. を参考にした。観察調査の記録映像を前節のラピッドエスノグ. 約 70 名)を対象にグッド・トイ作品 9 点を用いた遊びの観察. ラフィ法により切片化し、同じ教育効果のカテゴリに分類した。. 調査を行った。各年齢での遊びの特徴や比較も容易にできるほ. 次に、ニーズの抽出には KA 法[注 12]を用いた。KA 法は、ユー. か、デザインガイドの文字情報だけでは得られない子どもの表. ザ調査による定性情報から、本質的ニーズや体験価値を導出す. 情や興味,関心,微妙な心の動き,体を動かすスピード,でき. るための手法である。ユーザの行為の背後にある理由や動機な. ないことに挑戦する意欲的な姿勢,友達と会話しながらグルー. どを解釈し行為の価値を KA カードで抽出することを目的とし. プで遊ぶ様子などを直接観察できた。また,教育の専門家であ. ている。安藤(2011)は,ユーザの行為は小さなものでもそこ. る保育士へ行為の理由などをその場で質問することができ,デ. には意味や価値が存在すると考え,「~する価値」というコー. ザインガイドの内容と照合しながら、能力の発達と遊びについ. ドに変換すると述べている[注 13]。本研究の KA カード(図 9). てさらに理解が深まった。観察調査では,全ての子どもの行動. は、「出来事」には,知能や身体機能の発達上,重要と思われ. 文脈を一度に観察することが難しいため、観察者はプロトタイ. る子どもの遊びが記述されている。 「心の声(子ども・保護者) 」. プで遊ぶ様子を録画しながら観察した。そして録画記録を後日. 欄には、出来事を解釈し子どもや保護者の心境が端的に記述さ. レビューし,気になるフレームを静止画でクリップしコメント. れ、最後に出来事と心の声を手掛かりに、その背景にある教育. を加えて保存した。これを繰り返し見返しつつ,子どもの能力. 上の効果(ユーザ価値)を右下欄に記述されている。木製玩具. 開発のための要求事項を明示し,コンセプトへ成長させるラピ. の KA カードは出来事に対し 1 枚ずつ生成されるが,共通の価. ッドエスノグラフィ法 (櫛,2011)[注 9]を取り入れた。これ. 値に注目し,より抽象度の高い概念構造を分析できると同時に,. は創造的な活動を開発グループ内で組織的に共有し協働的にプ. 図 10 のように KJ 法[注 14]でマップ化し、概念の構造を図示化. ロセスを進行させる特徴がある。下記、図 8-1,図 8-2 の例で. することが可能である。. は,のりものとパズル遊びがセットになったバスで1歳の女児 が遊んでいる様子の動画から2枚の静止画をクリップしたもの. 1. 玩具による子どもの遊び観察カード. である。幾何形体の穴へ同じ外形の積み木をパズルのように合. 年齢(クラス). わせて遊ぶ様子であるが,双方の形の認識ができずパズルがう. 玩具による遊び、できごと. まく入らないため,少しふてくされた表情をしている。積み木. 音が鳴ったので、強く振ったりして遊んでいる. 0歳クラス. を手で扱うことまでは可能だが, 形状認識力を発達させるには, このような遊びを導入することが有効と思われる事例である。. 心の声(子ども・保護者). 教育上の効果(ユーザ価値). ラピッドエスノグラフィ法はこういった出来事を開発メンバー. 面白い音が鳴る. 音の種類が分かるようになる. どんな音が鳴るんだろう. 価値. で共有し,成長につながるニーズの探索を通じ仮説構築ができ る点に大きなメリットがある。観察調査で得られた情報のデー. 音が聞き分けられるの? 10. タベースを構築することも,ユーザの要求事項を抽出する上で 図9:木製玩具のKA カードの例. 4 14. B U L L E T I N O F JS S D Vol. 67 No. 4. 2021 デザイン学研究.

(5) 0-1歳児の 発育 発達. 視覚を発達させる価値 • 色を認識する価値 • 動いているものを認識できる価値 • (未充足). 聴力を発達させる価値 • 音を楽しむ価値 • 音の種類が分かる価値. 図12:ラフプロトタイプ (COROCCO) 外界を認識する価値. 手の動きを発達させる価値. 図13:ラフプロトタイプ (TWISTICK). • 物をつかめる価値 • 思った通りに手や指が動かせる価値 • 左右に持ち替えることができる価値. • 物を舐めて確かめる価値 • 感触を確かめる価値 • 外の世界を理解できる価値. 図10:木製玩具KA カードの価値マップ(0-1 歳の例). 5.4. ペルソナ、仮説シナリオ、コンセプトの作成 価値マップによって抽象化された概念に基づき,ユーザの要 求事項を定義する。 HCD におけるユーザの定義では,アラン・ クーパー(Alan Cooper, 2000)によって提唱されたペルソナ. 図14:プロトタイプ(COROCCO). 図15:プロトタイプ(TWISTICK). 法[注 15]が多く用いられる。ペルソナ法とは検討対象となる商. コンセプトとの整合性,部品構造、組み立て構造,サイズは適. 品,サービスなどから仮想の人物を想定しシナリオを作成する. 切であるかなどをチェックし,ユーザの要求を満たす理想のデ. 手法である。家族などの属性,生活習慣,興味の対象,子ども. ザイン案として問題がないと判断できればプロトタイプを制作. の成長の現状,今後開発したい能力などの情報を記述し,保護. する。図 14,図 15 は、0 歳~2 歳、2 歳~6 歳を対象に制作さ. 者目線で理想のシナリオとゴールを仮説として作成する。そし. れたプロトタイプの例である。. て理想の状態を満たすコンセプトを導出するという手順である。. 5.6.デザイン案の検証、デザイン手法の評価. 本研究では,観察調査で導出した価値マップとデザインガイド. 本研究では,保育園でプロトタイプのデザイン検証を行った。. を併用し,発達段階との関係性を確認しながら,対象ユーザと. 0 歳~(10 名),1 歳~(17 名) ,2 歳~(17 名),3 歳~6 歳(2. 仮説シナリオを検討した。図 11 は、1 歳 5 か月の子どもが,指. 9 名)の 4 クラスを対象とした。方法はプロジェクトメンバー. 先の器用さ、握力、集中力、創造力の発達や、家族とのコミュ. が全員参加し,プロトタイプを使って園児と一緒に遊びながら. ニケーション促進のために玩具を購入するというシナリオであ. 子どもの様子を詳細に観察した。記録はスマートフォンや GoP. った。このシナリオには図 10 の価値マップや表 1、表2の指標. roHERO6 で行った(図 16-1、図 16-2)。観察調査の後,画像や. を基に作成された例である。これよりコンセプトを導出し,音. 映像を見ながらデザインレビューを行う。そこでコンセプトや. の鳴る積み木(COROCCO)が発案された。. デザイン意図の達成度を定性的に評価し問題点を抽出する。. ユーザタイプ 父母とこどもの3人家族で都内のマンション暮らし 職業は、父はメーカー勤務、母は病院の事務職 駿は都内の保育園に通っている。(1歳クラス) 保育園へは父が出勤前に送り届け. 帰りは母が迎えに行く. 育児と家事は基本的に夫婦で分担。父は休日に子どもと一緒によく遊んでいる。 母:永山恭子(30) 子:永山駿(1歳5か月) 子どもは活発で家の外で遊ぶのが好きな方である。. シナリオ 休日は父が一人っ子の駿といつもよく遊ぶ。いつもはマンションの公園でブランコや滑り台、砂場で遊んでいるが 雨が降ったり暑い夏は家の中で遊ぶことが多い。最近幼児の誘拐事件などもあり、できれば室内で遊ばせたい。 平日は自分ひとりで遊ぶ時間が多い。一人の時は絵本を眺めたりしまじろうのおもちゃで遊んでいる。集中力は あるほうで、LEGOで遊ぶのも好きな方だがまだ自分で立体的に組み立てられないので、父や母が作ったもので 遊んでいる。指先の細かい動きや、握力が備わってくると、一人でもLEGOで遊べるようになるので、運動能力や. 図16-1、図16-2:プロトタイプの検証(2019 年6 月26 日). 知育を促進させる簡単なブロックや積み木のおもちゃを買ってあげようと検討中である。. ゴール. 表 4、表 5 は、図 14、図 15 のプロトタイプの検証結果であ. 小さな部品を組み立て、大きなものを作る動きの中で、指先の器用さ、握力、集中力、達成感、創造性、立体把握 などの能力が養われることを期待している。家族とも一緒に作ったりして遊びながら、親子のコミュニケーション. る。検証項目は、デザイン指標(表 1、表 2)、図 10 価値マッ. がさらに良くなる。 Copyright c. Hayashi design lab.2020. 77. 図11:ペルソナとシナリオシート. 5.5.アイディア発想からプロトタイピング. プに明示された教育効果(対象年齢の発達段階との適合性)で あった。図 14 のプロトタイプは狙った教育効果が確認できた が、図 15 のプロトタイプは部品の接続方法や遊び方の理解度. 仮説ユーザとコンセプトが定義された後、アイディアを発想. に問題点が見られたため後日修正案を作成した。なお、玩具の. する。複数名が参加するプロジェクトの場合,ブレインストー. 安全性については、特定非営利活動法人キッズデザイン協議会. ミングを取り入れるとアイディアの量を確保できる。アイディ. の指標[注 16]や、誤飲防止ルーラー[注 17]を参照し、設計の. アの表現方法は,スケッチやラフモデル(図 12,図 13)など、. 初期段階からチェックを行っている。2017 年~2019 年まで、. 考え方,構成部品組み立て方などが確認できる状態であればよ. 実際に作品を制作するプロジェクトを運営し、仮説検証のプロ. い。実際に触れられるものであればサイズ感やデザインの意図. セスを 3 度実施してきたが,学生が制作した各プロトタイプ作. が理解されやすい。アイディアの評価は,ペルソナ,シナリオ,. 品は幼児教育の専門家である保育士からも高い評価を得られ,. デザイン学研究 B U L L E T I N O F JS S D Vol. 67 No. 4. 2021. 15. 5.

(6) 表4:プロトタイプ(COROCCO)の検証結果. 保育園の検証結果からも適合性や教育効果が実証された。以上 のことから、子どもための HCD を考えた木製玩具のデザイン手 法は、その有効性が評価されたと考えられ、玩具のデザインの 知見のない、デザイン初学者にとって有効な手法であると推測 される。. 基いた深い思考を経てアイディアを発想し,熟練した技術によ り製品としての完成度を高めていた。客観的な指標となるユー ザニーズ調査は実施されていないが、それに代わりワークショ ップを行い,子どもの興味や関心のある遊び、行動を理解し作 品の検証も行われていた。つまり,玩具作家の創造プロセスは, 子どものための HCD プロセスが実践されていることが分かった。 本研究の玩具デザイン手法は,こうした熟練した作家の経験や ノウハウと同等レベルの教育効果体系のデザイン指標と、子ど ものための HCD が組み合わさり提案されたものであり、一般化 することを目的とした。要点は以下の通りである。 (0)教育効果体系の指標により子どもの発達段階の特徴を把握 (1)保育園など教育現場で子どもの遊びを観察調査 (2)調査データ分析、ユーザニーズの探索(ラピッドエスノグ ラフィ法,KA 法、ペルソナシートによる仮説構築) (3)ニーズに適合するアイディアを可視化(プロトタイピング) (4)デザインの適合性を評価検証 (5)(4)の結果を木製玩具の教育効果体系へ反映 本研究の特徴は,子どもの発育、発達を促す要求事項を導出 するために、教育効果体系の指標と子どもの遊びの観察調査に より 2 段階行っている点にある。これにより,子どもの発達段 階の遊びの特徴が明確に理解でき,教育的視点で対象ユーザの 成長を促す玩具のデザイン要件を定義することが容易となった。 大学生を対象に実施したプロジェクトでは、デザイン発想と評価 の基準が明確になり、プロトタイプの評価でも、子どもの成長を促す効 果が確認され、回を追うごとに、その精度の向上が分かっている。しか しまだ実践事例が少なく、今後さらなる検証が必要である。木 製玩具の教育効果体系が明示されたデザイン指標は,利用者が 必要に応じてカスタマイズし,アップデートされることを期待 している。この手法の精度をさらに向上し,木製玩具のデザ イン技術と知見を蓄積して行くことが今後の課題と考える。. 2018 3) 林秀紀,櫛勝彦,井上勝雄:木育玩具による遊びと子ども の発達の対応分析,日本感性工学会論文誌,18 巻,4 号,. デザイン学研究作品集,24 巻 1 号 1_24-1_29,2019 5) 林秀紀,櫛勝彦,志水瞭斗:子どもの発達を促す木製玩具 のデザイン開発,デザイン学研究作品集,25 巻 1 号 1_64-1_69,2020 6) ウィキペディア日本語版 ISO9241-210:https://ja.wikipe dia.org/wiki/ISO_9241-210.2019(最終閲覧 2020.8.21) 7) 山崎和彦,松原幸行,竹内公啓:人間中心設計入門,近代 科学社,2016 8) ノーマン,Norman D.A.:誰のためのデザイン?増補・改 訂版―認知科学者のデザイン言論,岡本明也(訳),新曜 社.2013 9) 櫛勝彦: HCD のためのラピッドエスノグラフィ,デザイ ン学研究特集号,18.2.pp. 2-6, 2011 10) 多田千尋:おもちゃと子どもの発達,CHILD RESEARCH NET,2012 11)戈木クレイグヒル滋子:実践グラウンデッド・セオリー・ アプローチ,新曜社,2008 12) 浅田和美:図解で分かる商品開発マーケティング―小ヒ ット&ロングセラー商品を生み出すマーケティング・ノウ ハウ,日本能率協会マネジメントセンター,2006 13) 安藤昌也:システム開発のための質的研究アプローチの 試み,KA 法による行為価値の抽出,ヒューマンインタフェ ース学会研究報告集,13(13) .pp.5-10.2011 14) 川喜田二郎:発想法,第 65 版,中公新書,1992 15)浅野智,上平崇仁,木村博之,櫛勝彦,小池星多,島村 隆一,小路晃嗣,寺沢英雄,根巣透,山崎和彦:情報デザ インの教室,丸善出版,2010 16) 独立行政法人. 産業技術総合研究所デジタルヒューマン. 工学研究センターほか,:子どものからだ図鑑. 1) グッド・トイとは:認定 NPO 法人 芸術と遊び創造協会, https://goodtoy.jp/about/(最終閲覧 2020.8.21). 2021 デザイン学研究. キッズデザ. イン実践のためのデータブック,株式会社ワークスコーポレ ーション,2013 17)一般社団法人日本家族計画協会:誤飲防止ルーラー誤飲・ 窒息防止用スケー2019.https://hsmk.jp/products/detail. php?product_id=3305(最終閲覧 2020.8.21). 注および参考文献. B U L L E T I N O F JS S D Vol. 67 No. 4. 果の調査分析,日本感性工学研究論文誌, 17, 4, pp. 489-497,. 4) 林秀紀,櫛勝彦:教育効果のある木育玩具のデザイン開発,. 本研究で比較した玩具作家の事例では,身近な記憶や体験に. 6. 2) 林秀紀,櫛勝彦,井上勝雄:木育玩具の分類とその教育的効. pp. 321-329,2019. 6.まとめと今後の課題. 16. 表5:プロトタイプ(TWISTICK)の検証結果.

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参照

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