原 著
牛乳房炎乳汁の保存温度および転倒混和
による細菌数の変動と塗布器材の検証
宮崎珠子
1, 2)角 真次
2)河合一洋
2)岡田啓司
1) 1)岩手大学農学部
2)十勝NOSAI
Effects of Sample Storage Temperature and Inversion-Mixing
of Sample on Colony Counts of Specific Bacteria Isolated in
Bovine Mastitis and an Examination of Inoculation Tools
T. Miyazaki
1, 2), S. Kaku
2), K. Kawai
2), K.Okada
1)1)
Faculty of Agriculture, Iwate University
2)
Tokachi NOSAI
要 約 乳汁検体の保存温度、検体塗布前の転倒混和の有無が培養法による細菌数算定に与える影 響を明らかにする目的で、1,000∼3,000(103 ∼ 3.48 )CFU/mℓに調製した大腸菌液と乳房炎乳汁12検体 を用いて、保存前の検体と4℃、20℃、37℃で3時間保存した検体の細菌数、3時間静置した検体と転 倒混和した検体の細菌数を比較した。また定量ループおよび綿棒で塗布する方法の精度を検証する目的 で、大腸菌液と乳房炎乳汁を用いて、従来のマイクロピペットとコンラージ棒で定量および塗布する方 法と検査結果を比較した。その結果、大腸菌液では4℃保存で細菌数が有意に(P<0.05)減少し、大腸 菌液、乳房炎乳汁ともに37℃保存で細菌数が有意に(P<0.05)増加した。静置した乳房炎乳汁検体では、 転倒混和した検体より細菌数が有意に(P<0.01)少なく算定された。また定量ループを用いて塗布し た場合、細菌数は従来法に比べ大腸菌液で有意に(P<0.01)多く算定され、乳房炎乳汁では有意に(P <0.05)少なく算定された。綿棒を用いて塗布した場合、大腸菌液、乳房炎乳汁ともにコロニー数が従 来法に比べ有意に(P<0.01)少なかった。以上から、乳房炎乳汁の細菌検査を行う際には、採材後低 温で保存し、塗布直前に検体を転倒混和することが必要で、定量ループや綿棒で塗布する方法は、精度 に問題があった。 ――キーワード:乳房炎、細菌検査、保存温度、転倒混和、塗布器材 家畜臨床誌 32 :109-114, 2009ABSTRACT This study investigated whether the storage temperature and mixing by repeated inversion of the container before sample inoculation for culturing affected the colony counts of specific bacteria, using milk containing , and 12 quarter milk samples from cows with clinical mastitis. The inoculation tools were also examined by comparing loops and swabs with the traditional method of using a micropipette and spreader. The colony counts given by milk samples kept at 4℃ for 3 hours decreased significantly(p<0.05)and the colony counts of both the milk and mastitis milk samples kept at 37℃ for 3 hours increased significantly(p<0.05)compared
Received 26 January 2009/ Accepted 25 June 2009
*Correspondence to : K. Okada, Department of Clinical Veterinary Medicine, Faculty of Agriculture, Iwate University, Morioka, Iwate 020-8550, Japan(〒020-8550 盛岡市上田3丁目18-8 岩手大学農学部臨床獣医学講座)
緒 言 乳房炎の治療方針や防除方法は原因となる細菌の種類 によって異なるため、乳汁の細菌検査で原因菌を特定す ることは重要である。臨床現場では、乳汁の採材時に環 境や牛体等から細菌が誤って混入する危険性があるた め、乳汁から原因菌以外の細菌が検出される場合があ る。このため乳汁培養で検出された細菌は、菌種の同定 のみならず細菌数の測定を行い、菌種ごとに定められた 細菌数を目安に乳房炎の原因菌を特定することが推奨さ れている[5]。一般的に、 は1コ ロニーの発育で、それ以外の細菌は250(102.4)CFU/m ℓ以上で有意とし、乳房炎の原因菌と判断される[1, 4]。また1検体あたり3菌種以上が同定された場合、 環境等からの細菌混入があったと判断する基準が用いら れている[1]。 乳汁の細菌検査で正確な細菌数を求めることは、乳房 炎の原因菌を特定するために必要不可欠である。そのた めには、採材時の乳汁に含まれる細菌数を検査に正確に 反映させることが重要であり、検体保存時の適切な温度 管理、塗布直前の検体中濃度を均一にするための転倒混 和、塗布時の正確な定量などが求められる。しかし、こ れらが細菌数にどの程度反映するかを実際に調べた報告 はない。そこで本研究では、検体の保存温度と塗布直前 に乳汁を転倒混和する作業の有無が、細菌数に及ぼす影 響について検討した。また臨床現場で普及している定量 ループや綿棒による定量および塗布方法の精度について 検証した。 材料および方法 大腸菌液および乳房炎乳汁:大腸菌液は、大腸菌 ( DH 5α、タカラバイオ、大津)を リン酸緩衝液(pH7.4)で段階希釈し、最終段階で市販 のノンホモジナイズ牛乳を用いて1,000∼3,000(103∼3.48 ) CFU/mℓに調製した。乳房炎乳汁は、2003年4月から 2005年3月に採材した乳房炎発症乳牛由来の乳汁検体の うち、12検体を用いた(表1)。菌種の同定は定法[6, 9, 10]に従って行い、発育したコロニー数を測定し、細菌 数(CFU/mℓ)を算定した。 保存温度の比較:大腸菌液および乳房炎乳汁を1.5mℓ 容器3本に200μℓずつ分注し、4℃、20℃および37℃で 3時間保存した。この保存時間は臨床獣医師が往診時に 乳汁を採取してから塗布するまでの平均的な所要時間か ら設定した。対照として、保存前の大腸菌液および乳房 炎乳汁を用いた。各容器を5回転倒混和し、マイクロピ ペットで大腸菌液50μℓ、乳房炎乳汁10μℓを、5%羊血 液寒天培地(トリプチケースソイ5%ヒツジ血液寒天培 地、日本ベクトン・ディッキンソン、東京)に滴下後、 コンラージ棒を用いて塗布した。これらの培地を37℃で 18時間培養後、細菌数を算定した。大腸菌液の場合は、 1検体あたり5回反復測定した。乳房炎乳汁については with the colony counts of those inoculated without storing. The inversion-mixed mastitis samples gave significantly(p<0.01)higher colony counts than the samples left standing for 3 hours. When inoculated using loops, the milk samples gave significantly(p<0.01)higher and the mastitis milk samples gave significantly(p<0.05)lower colony counts than those inoculated by the traditional method. The colony counts of both milk and mastitis milk samples inoculated using swabs were significantly(p<0.01)lower than those inoculated by the conventional method. Therefore, it is recommended that milk samples be kept at a low temperature and inversion-mixed before inoculation. The inadequacy of loops and swabs as inoculation tools was demonstrated.
――Key Words:Bovine mastitis, Bacteriological examination, Storage temperature, Inversion-mixing, Inoculation tool Jpn. J. Vet. Clinics 32 :109-114, 2009 表1.乳房炎乳汁検体から検出された原因菌と細菌数 検体番号 菌種 細菌数(log10CFU/mℓ) 1 OS 2.91 2 OS 3.00 3 OS 3.54 4 OS 3.98 5 OS 4.04 6 OS 4.15 7 OS 4.28 8 SA 3.67 9 SA 3.87 10 CO 3.00 11 CO 3.71 12 PA 3.00 SA, 黄色ブドウ球菌
OS, other streptococci 環境性レンサ球菌 CO, coliforms 大腸菌群
1検体1回の測定を行った。 転倒混和の有無による比較:10mℓの大腸菌液と2∼ 4mℓの乳房炎乳汁を、15mℓ試験管(15mℓ ポリプ ロピレン コニカル・チューブ、べクトン・ディッキン ソン、USA)に加え、4℃で3時間静置後、上部50μℓ をマイクロピペットを用いて、血液寒天培地に滴下し、 コンラージ棒で塗布した(静置検体)。また、同検体を 5回転倒混和後、同様に血液寒天培地に塗布した(混和 検体)。これらの培地を37℃で18時間培養後、細菌数を 測定した。大腸菌液の場合は、1検体あたり10回反復測 定した。乳房炎乳汁については1検体1回の測定を行っ た。 定量および塗布方法の検証:大腸菌液と乳房炎乳汁 を、5回転倒混和後にマイクロピペットで50μℓを血液 寒天培地に滴下し、コンラージ棒で塗布した(従来法)。 再度5回転倒混和後に、10μℓ定量ループ(スティック メート、小野薬品工業、大阪)を用いて5回同培地に塗 布し、総量で50μℓ塗布した(ループ法)。さらに5回転 倒混和後に綿棒(ピュアスティックス、大三、高知)に 乳汁を充分浸して同培地に塗布した(綿棒法)。これら を37℃で18時間培養した。従来法とループ法の比較では 1mℓ中の細菌数を算定し、従来法と綿棒法の比較では 発育したコロニー数を測定し比較した。大腸菌液での従 来法とループ法の比較は同試験を1検体あたり10回反復 し、従来法と綿棒法の比較は5回反復した。乳房炎乳汁 については1検体1回の測定を行った。 統計解析:細菌数のデータは対数変換(log10CFU/mℓ) し、平均±標準偏差を算出した。データの正規性は、 Shapiro-Wilk検定を用いて確認した。データが正規分 布している場合、3群以上の比較では、一元配置分散 分析後、Tukeyの方法を用いて多重比較し、2群の比 較では対応のあるt検定を行った。またデータが正規分 布しない場合、3群以上の比較では、Kruskal-Wallis検 定後、Steel-Dwass検定で多重比較し、2群の比較では Wilcoxonの符号不順位検定を行った。P<0.05で有意と した。また定量および塗布方法の検証については、定量 の再現性を比較するために、従来法とループ法の比較で は大腸菌液の細菌数から、従来法と綿棒法の比較では大 腸菌液のコロニー数から変動係数を求めた。データは SPSS ソフトウェア version 11.0.1. for Windowsを用い て解析した。 結 果 試験1:保存温度による細菌数の変動 大腸菌液では、対照群は3.21±0.04、4℃保存群で3.09 ±0.03、20℃保存群で3.16±0.06、37℃保存群で3.50±0.06 で、対照群に対し4℃保存群は有意(P<0.05)に低く、 20℃保存群では有意差は認められず、37℃保存群は有意 (P<0.01)に高かった。 乳房炎乳汁では、対照群が3.60±0.50、4℃保存群が3.54 ±0.45、20℃保存群が3.77±0.66、37℃保存群が3.98±0.62 であり、対照群に対し4℃保存群、20℃保存群では有意 差は認められず、37℃保存群は有意(P<0.05)に高かっ た(表2)。 表2.保存温度による細菌数の比較(乳房炎乳汁) 検体番号 菌種 保存なし 4℃ 20℃ 37℃
log10CFU/mℓ log10CFU/mℓ log10CFU/mℓ log10CFU/mℓ
1 OS 2.91 2.90 2.30 2.48 2 OS 3.00 3.00 3.00 3.00 3 OS 3.54 3.45 3.81 3.63 4 OS 3.98 3.99 4.03 4.30 5 OS 4.04 4.05 4.18 4.30 6 OS 4.15 4.18 4.27 4.30 7 OS 4.28 3.89 4.28 4.30 8 SA 3.67 3.54 3.96 4.30 9 SA 3.87 3.67 4.01 4.30 10 CO 3.00 3.08 4.25 4.30 11 CO 3.71 3.74 2.95 4.30 12 PA 3.00 3.00 4.26 4.30 平均値 3.60a 3.54a 3.77 3.98b 標準偏差 0.50 0.45 0.66 0.62 ab 異文字間で有意差あり(p<0.05)
試験2:転倒混和の有無による細菌数の変動 大腸菌液では、静置検体群が3.26±0.06、混和検体群 が3.27±0.09であり、転倒混和の有無で有意な差は認め られなかった。 乳房炎乳汁では、静置検体群が3.04±0.64、混和検体 群が3.61±0.50であり、静置検体群の方が混和検体群よ りも有意(P<0.01)に少なかった(表3)。3検体(Nos.2, 3, 11)では、静置した場合有意細菌数の下限値である2.40 未満であったが、混和した場合2.40以上であった。 試験3:定量および塗布方法の検証 大腸菌液を定量塗布した場合、従来法群が3.46±0.05、 ループ法群が3.60±0.08であり、ループ法群が従来法群 よりも有意(P<0.01)に高い値を示した。変動係数は、 従来法群が12.8%であったのに対し、ループ法群では 17.7%と変動が大きかった。 乳房炎乳汁を定量塗布した場合、従来法群が3.60± 0.50、ループ法群が3.31±0.71であり、ループ法群が従 来法群よりも有意(P<0.05)に低い値を示した(表4)。 また1検体(No.10)で、従来法では2.40以上であったが、 ループ法では2.40未満であった。 従来法と綿棒法のコロニー数の比較は、大腸菌液を用 いて行った場合、従来法群が146±17コロニー、綿棒法 群が56±14コロニーで、綿棒法群が従来法群よりも有意 (P<0.01)に低い値を示した。また変動係数は、従来 法群で11.3%であったのに対し、綿棒法群では25.3%と 変動が大きかった。 乳房炎乳汁を用いて行った場合、従来法群が326±294 コロニー、綿棒法群が83±66コロニーで、綿棒法群で従 来法群よりも有意(P<0.01)に低い値を示した(表5)。 考 察 病原菌の多くは発育に適する温度が25∼40℃の中温菌 に属し、至適温度は37℃付近である[7]。乳房炎の原 因菌である黄色ブドウ球菌、レンサ球菌、大腸菌なども 中温菌に属するため、往診先で採材した乳汁の保存は、 数時間であれば冷蔵、数日であれば冷凍保存することが 推奨されている[3, 5, 6, 9, 10]。しかし臨床現場で 表3.転倒混和の有無による細菌数の比較(乳房炎乳汁) 検体番号 菌種 静置検体 混和検体
log10CFU/mℓ log10CFU/mℓ
1 OS 2.45 2.78 2 OS 2.30 3.05 3 OS 2.15 3.52 4 OS 3.57 3.98 5 OS 3.41 3.99 6 OS 3.81 4.09 7 OS 3.13 4.30 8 SA 3.73 3.85 9 SA 3.93 3.99 10 CO 2.86 3.10 11 CO 2.38 3.67 12 PA 2.81 3.04 平均値 3.04a 3.61b 標準偏差 0.64 0.50 ab 異文字間で有意差あり(p<0.01) 表5.従来法と綿棒法の発育したコロニー数の比較(乳房炎乳汁) 検体番号 菌種 従来法 綿棒法 コロニー数 コロニー数 1 OS 41 7 2 OS 50 27 3 OS 175 42 4 OS 482 113 5 OS 543 167 6 OS 712 198 7 OS 944 145 8 SA 234 48 9 SA 367 83 10 CO 50 3 11 CO 258 128 12 PA 50 34 平均値 326a 83b 標準偏差 294 66 ab 異文字間で有意差あり(p<0.01) 表4.従来法とループ法の細菌数の比較(乳房炎乳汁) 検体番号 菌種 従来法 ループ法
log10CFU/mℓ log10CFU/mℓ
1 OS 2.91 2.88 2 OS 3.00 3.00 3 OS 3.54 2.97 4 OS 3.98 3.48 5 OS 4.04 4.17 6 OS 4.15 4.19 7 OS 4.28 4.02 8 SA 3.67 3.36 9 SA 3.87 3.44 10 CO 3.00 1.60 11 CO 3.71 3.57 12 PA 3.00 3.03 平均値 3.60a 3.31b 標準偏差 0.50 0.71 ab 異文字間で有意差あり(p<0.05)
は、様々な事情により適正な温度で保存されない検体も しばしば見受けられる。本研究では、乳汁の推奨保存温 度である4℃、通常の往診車内の温度を想定した20℃、 そして真夏の往診車内の温度を想定した37℃で、往診時 間に相当する3時間保存した検体の細菌数を、保存前の 同検体の細菌数と比較した。その結果、大腸菌液では、 保存前の対照群に対し、4℃保存群では有意(P<0.05) に低く、37℃保存群では有意(P<0.01)に高い細菌数 を示した。乳房炎乳汁では、保存前の対照群に対し、 37℃保存群で有意(P<0.05)に高い細菌数を示した。 すなわち3時間の4℃保存では、一部の細菌が死滅した 可能性を、また37℃保存では、細菌が増殖した可能性を 示した。これらのことから、乳汁採材後3時間の保存中 に乳汁に含まれる細菌数を変動させないためには、乳汁 検体を低温で保存する必要があることが示唆された。し かし保存温度がこれまで推奨されてきた4℃が至適条件 であるか否かについては、今後更に検討する必要がある と考えられた。 細菌は静置した溶液中では時間の経過と共に沈殿する ため、乳汁を採材してから検査するまで数時間静置して いる間に、乳房炎原因菌も乳汁中で沈殿することが考え られる。そこで3時間の静置後に転倒混和の有無による 細菌数の変動を検討した。大腸菌液では転倒混和の有無 で細菌数に有意な差は認められなかったが、乳房炎乳汁 では静置検体群が混和検体群より有意(P<0.01)に細 菌数が少なかった。乳房炎では乳汁の合成機能が著しく 阻害されるため、脂肪含有量が低下し、乳汁の粘度も低 い異常な乳汁性状になる[7]。このように変化した乳 房炎乳汁中では、正常乳汁中と比較して細菌が沈みやす い可能性があり、3時間の静置中でも細菌が沈殿したた め、結果として静置検体群で混和検体群より細菌数が少 なくなったと考えられた。実際、乳房炎乳汁を用いた 本試験では、混和した場合の細菌数が250(102.4)CFU/ mℓ以上であった12検体のうち3検体において、3時間 静置した場合の細菌数が250(102.4 )CFU/mℓ未満とな り、乳房炎の原因菌として判定できないという検査結果 となった。したがって原因菌と診断されるべき細菌が正 確に検出されない可能性があるため、塗布直前に乳汁を 転倒混和することは不可欠な操作であることが明らかに なった。 臨床現場では日常的に多数の検体を処理するため、よ り迅速かつ正確な細菌検査の手技が求められている。一 般的な生菌数測定法は、マイクロピペットを用いて検体 を50∼100μℓ定量し、コンラージ棒で寒天培地上に均等 に塗布する方法(従来法)[8]であるが、マイクロピ ペットを使用せずに定量塗布ができる定量ループを用い た方法(ループ法)[3, 5, 6]や、綿棒を用いた方法 (綿棒法)[5, 6]が簡便かつ迅速な方法として普及し ている。本研究では、同一検体を用いて従来法とループ 法、綿棒法における検査結果の比較を行った。大腸菌液 では、従来法群に比べループ法群は有意(P<0.01)に 細菌数が多く、変動係数も大きい結果となり、塗布量が 一定でない可能性が示唆された。乳房炎乳汁では従来法 群に比べループ法群は有意(P<0.05)に細菌数が低く、 1検体(No.10)で従来法では250(102.4)CFU/mℓ以 上であった細菌数が、ループ法では250(102.4)CFU/m ℓ未満であり、乳房炎の原因菌として判定できない結果 となった。マイクロピペットに比べ、ループによる定量 は、粘度など溶液の性質に影響を受けるため、正常乳で 調製した大腸菌液では過大に、乳房炎乳汁においては過 少に定量されていた可能性が示唆された。また乳汁検体 は多く塗布することで検出率が向上するといわれている [2]。今回のように50μℓの塗布量を確保するため、10 μℓ定量ループで繰り返し定量塗布することは、採取量 が不安定になるリスクが高まることが考えられた。した がって、ループ法では乳汁を正確に定量できていない可 能性が高く、10μℓ以上の乳汁を繰り返して定量するこ とは避けるべきであることが示唆された。 大腸菌液および乳房炎乳汁を綿棒法で塗布し、培地上 に発育したコロニー数を従来法と比較した結果、大腸菌 液、乳房炎乳汁ともにコロニー数は有意(P<0.01)に 少なく、綿棒法は従来法に比べ明らかに塗布量の少ない ことが示された。綿棒法では検体の定量が行えない上 に、塗布量が少ないため、乳房炎の原因菌検索には不適 当であることが示唆された。 以上より、乳房炎乳汁の細菌検査において、採材時の 細菌数を変動させないためには、検体は低温で保存する こと、検体を塗布直前に転倒混和することが必要である ことが明らかになった。また定量ループおよび綿棒を用 いた方法は、精度に問題があることが明らかになった。 謝 辞 本研究に対する貴重なご意見をいただいた岩手大学農 学部獣医学課程の重茂克彦教授に深甚の謝意を表す。ま た乳汁の採材にご協力いただいた十勝NOSAIの獣医師 の皆様に謝意を表す。
文 献
1. Ariznabarreta A, Gonzalo C and San Primitivo F (2002)Microbiological quality and somatic cell count
of ewe milk with special reference to staphylococci. J Dairy Sci, 85:1370-1375
2. Farnsworth JR(1993)Microbiologic examination of bulk tank milk. Vet Clin North Am Food Anim Pract 9:469-474
3. International Dairy Federation(1981)Laboratory methods for use in mastitis work. IDF Bull No 132. Int Dairy Fed, Brussels.
4. 金子一幸,内田直也,川上静夫(2004)乳牛におけ る乳汁中アミロイドAタンパクによる潜在性乳房炎の 診断.日獣会誌, 57:515-518
5. National Mastitis Council, Inc(1987)Laboratory
and Field Handbook on Bovine Mastitis. WD Hoard & Sons Co, Wisconsin.
6. National Mastitis Council, Inc(1999)Laboratory and Field Handbook on Bovine Mastitis. Revised Edition. NMC, Wisconsin. 7. 高井伸二(1995)細菌感染症の検査法.獣医微生物 学(見上彪編).53-56,文永堂出版,東京 8. 東京大学医科学研究所学友会(1995)菌量の測定法. 微生物学実習提要.102-105,丸善株式会社,東京 9. 全国農業共済協会(1997)臨床型乳房炎に関わる細 菌検査.家畜共済における臨床病理検査要領(農林水 産省経済局編).63-79,東京 10. 全国農業共済協会(2003)乳房炎の診療指針.家畜 共済の診療指針Ⅱ.187-207,東京