身近な魚類の耳石の教材化について
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身近な魚類の耳石の教材化について
教育デザインコース 理科領域
伊東眞由子
平野 幸希
要旨 神奈川県で購入した食用魚(鮮魚と干物を含む)と 通信販売を用いて購入した食用魚を対象とし,2016 年 12 月から 2017 年 3 月にかけて 14 目 50 科 81 種 153 個体の解剖を行った。各魚種の耳石の形態について報告 するとともに,耳石摘出実験の教材として,容易に耳石 を摘出できる魚種とその解剖方法を提案し,魚類解剖実 験を行う際の要点や注意点について述べた。 耳石の摘出は,基本的に一対の耳石(扁平石)をそれ ぞれ魚の腹側と背側から摘出する方法をとった。完全に 乾燥されている干物に関しては,一度熱湯に浸漬し,固 くなった魚の頭部を柔らかくしてから耳石を摘出した。 摘出した耳石は熱湯に浸けた後,漂白剤に浸けて耳石の 周囲に付着した筋肉や膜等を除去し,保存した。解剖し た魚のうち 35 種の魚の耳石の長さ(耳石長)と高さ(耳 石高)を測定した。耳石摘出実験の際に,教材化が容易 であると考えられた 5 種に関しては,耳石を含めた頭 蓋骨標本の作製を行った。 耳石の大きさ(耳石長や耳石長比)は魚種により異な るものの,魚体の長さとはほとんど相関がなく,耳石の 摘出にあたっては,大型の魚種を用意する必要はないと 考えられる。また,耳石摘出実験の教材として適する魚 種は,大量に入手することや解剖することが容易であり, 相対耳石サイズ(全長に対する耳石長の比)が 40 以上 のものであると考えられる。一方,大量に入手しにくい もの,骨が固いなど解剖が容易ではないもの,耳石が小 さい(通常,2 mm 以下)もの,相対耳石サイズが 10 未満のものといった条件の魚種は,教材として適さない と考えられる。 耳石摘出は内臓の観察と異なり,魚類から出る血液の 量が少ないことや実験にかかる時間が短いことから,魚 類解剖実験の入り口として取り入れやすい。魚類解剖実 験における耳石摘出の意義は,解剖実験が苦手な生徒で も宝探しのような感覚で実物に触れることができ,から だの構造を理解することができる点にある。 はじめに 魚類には耳介,外耳,中耳はなく,内耳のみがある(川 村・安楽,1998)。また,硬骨魚類の内耳は頭骨の中に あり,半規管と卵形嚢,球形嚢,壺嚢からなる(中江・佐々 木,2010)。そして,卵形嚢,球形嚢,壺嚢それぞれの 内部に一対ずつ礫石,扁平石,星状石が入っている(中 江・佐々木,2010)。これらの耳石は,内耳にある炭酸 カルシウムの結晶からなる組織(Popper et al,1988) であり,聴覚および平行感覚の機能を担っている(小林, 1987; Popper & Fay,1993)。耳石の中でも扁平石が 最も大きく,海洋学や水産資源学の分野では,魚の年齢, 成長,食性,回遊経路などの解析をするため(久保・吉 原,1986;麦谷,1997;渡邊,1997;塚本,1999; Buckel et al. 2004)や耳石の形態から魚種を分類するた め(Ohe,1985; Lin & Chiang, 2012)の研究対象とし て扱われている。一般的にマグロ類のような外洋性の魚 類では扁平石が小さく,カサゴ類のような沿岸の底生性 の魚類では扁平石が大きい。特に大きな耳石をもつ分類 群(ニベ科など)は,「イシモチ」と称されることがあ る(中江・佐々木,2010)。ここでいう「イシモチ」と は,東京などの関東圏におけるシログチの地方名である (藤原,2016)。 現在,中学校理科の教科書では,感覚と運動のしくみ の中で,耳の構造について学習する。また,高等学校理 科の教科書でも,動物の反応と行動の学習の中でヒトの 耳石について解説(嶋田他,2015;浅島他,2015;本 川他,2015;庄野他,2015;吉里他,2015)がされ ており,耳石を教材とした様々な実験授業の提案がなさ れている。例えば,簡単に耳石を取り出す実験(滝川, 1999),耳石を用いた魚の年齢と成長を調べる実験(伊 藤,1998)や耳石に含まれている成分を調べる実験(安 倍・曽田,2006),耳石と骨を構成する成分の違いを生また,限られた時間内で耳石を容易に取り出すための手 法の検討(安倍他,2002)も行われている。 そこで,本研究では神奈川県で購入可能な魚類のなか から,耳石摘出実験の教材として容易に耳石を摘出でき る魚種を選定し,その解剖方法を提案するとともに,各 種の耳石の形態について報告する。最後に魚類解剖実験 における耳石摘出の意義について述べる。 材料と方法 本研究では,神奈川県で購入した食用魚(鮮魚と干物 を含む)と通信販売を用いて購入した食用魚を対象とし, 14 目 50 科 81 種 153 個体の解剖を行った。解剖実験は, 2016 年 12 月から 2017 年 3 月に行った。解剖を行っ た魚種の中には,1個体として販売されていたものだけ ではなく,頭部のみや頭部の右(または左)半分のみの ものもあった。 耳石を摘出する前に,阿部(1963)を参考にし,魚 体の測定を行った。測定した部位は,魚体の全長(吻端 より尾鰭末端までの長さ),尾叉長(吻端より尾鰭上下 葉付け根あたりにある最後の鱗の遠心端までの長さ), 耳石の摘出方法は,安倍他(2002)に記載されてい る「縦割り法」と「折り曲げ法」,さらに Panfili(2002) や Secor et al. (1991,1992) を参考にした。耳石の摘 出に関しては,腹側から前耳骨を探し,左右どちらか一 方から耳石を取り出し,その後,頭蓋骨上部を切断して, 脳の下側にあるもう一方を摘出した。このことで,二通 りの摘出法の試行が可能である。ただし,腹側から前耳 骨の位置がわからない個体に関しては,頭蓋骨上部から 1対の耳石を摘出した。1個体ではなく,頭部の右(ま たは左)半分のみの個体に関しては,切断面から脳を搔 き出し,耳石を摘出した。さらに,完全に乾燥している 干物に関しては,一度熱湯で浸漬し,固くなった魚の頭 部を柔らかくしてから耳石を摘出した。 使用した器具は,魚の切断を行うためのメス,調理用 バサミ,解剖する魚を入れるためのバット,耳石を摘出 するためのピンセット,柄付き針,竹串,摘出した耳 石を保存するためのシャーレ,付着した血液を拭くため のティッシュ,キムタオル,解剖する際に手が汚れない ようにするための解剖用手袋,熱湯を使用する際の鍋, カセットコンロ,解剖実験が終了した魚を廃棄するため
図
1 シログチの耳石摘出過程.A:腹側から観察した頭部. B:前耳骨を割った内
部.
C:頭部左側面.眼上部を矢印で示したように切断した.D: C の頭蓋骨上部を
図 1 シログチの耳石摘出過程.A:腹側から観察した頭部. B:前耳骨を割った内部. C:頭部左側面.眼上部を 矢印で示したように切断した.D: C の頭蓋骨上部を切断した頭部上面. E: D より腹側を切断した上面. c は小脳, n は前耳骨,ol は視葉,s は耳石.身近な魚類の耳石の教材化について
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のビニール袋である。 今回,提案する耳石の摘出方法は以下の通りである。 魚の腹側から耳石を摘出するために,魚の鰓蓋後縁あ たりから胴部を切り落とした(安倍他,2002)。残った 頭部の腹側を観察者側に向けて持ち,下顎の先端を押し て鰓蓋を開いた。喉部の鰓蓋骨に調理用バサミで切り込 みを入れ,鰓全体を手で除去した。このとき,鰓を除去 した上顎内面は,血液で汚れているため濡らしたキムタ オルやティッシュで拭き取り,前耳骨を見ることができ るようにした(図 1 A)。前耳骨が膨らんでいる部分の 左右どちらか一方を,ハサミもしくはピンセットで割っ た(図 1 B)。前耳骨を割った側の内部から耳石をピン セットで摘出した。また,実験を行う際,腹側から前耳 骨の膨らみを観察し,膨らみが小さいと判断した魚種に 関しては,背側から耳石を1対摘出した。 魚の腹側から摘出を行わなかった耳石を,魚の背側か ら摘出するために,魚の頭部の背側を観察者側に向けて 持ち,眼上部を尾部から頭部にかけて横に切断した(図 1 C)。頭頂骨上部を薄く切断できると脳を観察すること が可能である(図 1 D)。頭骨内部にある脳を搔き出し, 脳(小脳と視葉)よりも腹側に位置する耳石を摘出した (図 1 E)。魚種によっては,背側から観察した際に耳石 の存在する場所が,小脳・視葉の真下に位置するのでは なく,小脳・視葉の側部(正中線から鰓蓋側に離れた場 所)に位置しているため,脳を搔き出さなくても摘出す ることが可能である。調理用バサミで頭蓋骨を割ること や前耳骨を切断することが困難な魚種に関しては,包丁 やペンチ等を用いて切断した。 今回耳石を摘出する方法として,腹側からと背側から の二通りを提案したのは,背側から耳石を摘出する場合, 脳と耳石の色がどちらも白に近い色であるため,区別す ることが困難であり,耳石を確実に摘出できない可能性 があるためである。そのため,一度腹側にある前耳骨の 膨らみから耳石を摘出することで耳石の位置を確認する ことができ,背側から耳石を摘出することが容易となる。 摘出した耳石は熱湯に浸けた後,漂白剤に浸けて耳石 の周囲に付着した筋肉や膜等を除去し,乾燥させ,ラベ ルとともに保存した。ラベルには,解剖実験を行った日 付と魚種名,産地名を記載した。 耳石摘出実験の際に,教材化が容易であると考えられ た7種(マアジ,シログチ,イボダイ,キチジ,カサゴ, キンメダイ,ミシマオコゼ)に関しては,耳石を含めた 頭骨標本の作成を試みた。まず,魚の頭部を切り落とし, 熱湯中に浸漬し筋肉や膜等を取り除いた。頭頂骨上部を ハサミで切断し,耳石周囲の膜等を取り除いた後に,耳 石を元の位置に戻し,教材として保管した。 保存した耳石は,飯塚・片山(2008)を参考に,本 研究で解剖した魚のうち 35 種の魚の耳石の長さ(耳石 長)と高さ(耳石高)を測定した。耳石の長さ(耳石長) と高さ(耳石高)は,実体顕微鏡に取り付けた描画装置 を用いて耳石を 10 倍の大きさにスケッチし,その図を デジタルノギスで計測した。この耳石高に対する耳石長 の比(耳石長比 , length:height ratio)を求め , 耳石の 丸みと細長さの度合いを表した(飯塚・片山,2008)。 魚種間で耳石サイズを比較する際には,体長に対する相 対的なサイズを求める必要があるため,全長に対する 耳石長の比(耳石長 / 体長× 1000)を相対耳石サイズ (relative otolith size)とした(飯塚・片山,2008)。 結果 解剖した 81 種の魚の体長,標準体長を測定した結果 が表1である。アオメエソ,ハタハタ,ムツゴロウ,ワ ラスボに関しては,鮮魚ではなく干物として1個体が販 売されているものを測定した(表1)。前者 2 種は,半 分生の状態の干物であり,後者 2 種は,完全に乾燥さ せた状態の干物であった。マサバに関しては,鮮魚と半 分生の状態の干物,両方について測定したものをまとめ て記載した(表1)。1 種の魚種に対して複数個体解剖 した魚は,全て体長,標準体長を測定した。表 1 では, 複数個体解剖した魚種について全長,標準体長の平均値 を記載した。 解剖した魚種の耳石は,飯塚・片山(2008)で分類 されているようにほとんどのものが楕円形であったが, 長四角や三角形に近いもの,細長いものもあった(図2)。 さらに,シログチやクログチのように,立体的なものも あった。 解剖を行った 81 種の魚のうち 35 種について,魚体 の大きさと耳石のサイズの関係性を明らかにするため に耳石高に対する耳石長の比と標準体長(図 3),相対 耳石サイズと体長(図 4)を示した。耳石高に対する耳 石長の比と体長の関係は,図 3 の比と標準体長の関係 とほぼ同様の結果が得られた。図 3,図 4 の結果より, 各魚種の体長と耳石のサイズには相関関係はみられな かった(図 3 相関係数 0.30,p = 0.08,図4相関係数身近な魚類の耳石の教材化について
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図 .耳石の外部形態.
マアジ
イボダイ
キンメダイ
シログチ(イシモ
チ)
キチジ(キンキ)
カサゴ
マアナゴ
‒ ヒラメ
イサキ
アユ
ハタハタ
‒ アイナメ
ホウボウ
‒ ヤナギガレイ
‒ タチウオ
‒ ニシン
‒ イワシ
‒ ワカサギ
ブリ(イナダ)
‒ サンマ
‒ シロギス
‒ ミシマオコ
ゼ
マゴチ
カツオ
キアンコウ
‒ ウマヅラハギ
‒ マトウダイ
‒ エ
ゾイソアイナメ
‒ キハダマグロ.スケールは
図 2.耳石の外部形態.A - マアジ , B - イボダイ , C - キンメダイ , D - シログチ(イシモチ), E - キチジ(キンキ), F - カサゴ , G - マアナゴ , H – ヒラメ , I - イサキ , J - アユ , K - ハタハタ , L – アイナメ , M - ホウボウ , N – ヤナギガレイ , O – タチウオ , P – ニシン , Q – イワシ , R – ワカサギ , S - ブリ(イナダ), T – サンマ , U – シロギス , V – ミシマオコゼ , W - マゴチ , X - カツオ , Y - キアンコウ , Z – ウマヅラハギ , AA – マトウダイ , AB – エゾイソアイナメ , AC – キハダマ グロ.スケールは 1mm.ど差はなかった。耳石長比が最も大きかったのはエゾイ ソアイナメであり,耳石長比は 3.86 であった(図 3)。 耳石長と耳石高の関係においては,ウマヅラハギやマト ウダイはほぼ 1.0 で高さと横幅がほぼ同じであり,その 他のほとんどの種は高さと幅の比が 1.5 ~ 2.5 であった (図 2 AA,図 3)。高さに対して横幅が長い(高さと長 さの比が 2.5 以上)耳石は,マゴチやトビウオ,エゾイ ソアイナメであった(図 2X,図 2 AB,図 3)。 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 0 100 200 300 400 500 600 700 耳 石 長 比 標準体長(mm) 図 3 耳石を摘出した魚類の標準体長と耳石長比 (耳石高に対する耳石長の比) 0 10 20 30 40 50 60 0 100 200 300 400 500 600 700 800 相 対 耳 石 サ イ ズ 全長(mm) 図 4 耳石を摘出した魚類の全長と相対耳石サイズ (耳石長/全長 x1000) シログチ,キチジ,カサゴ,キンメダイ等は,相対耳 石サイズが 40 を超えており,標準体長に対して,耳石 が大きいことが明らかとなった。また,相対耳石サイズ が 40 以上の魚種は,耳石の摘出が容易であった。この 中で,耳石の摘出が容易で,入手が容易な魚種 5 種(マ アジ,カサゴ,シログチ,キチジ,イボダイ)を教材化 に適しているとした(マアジは,相対耳石サイズが 40 未満だが,汎用性があるため教材化に適しているとし 大きさに対して小さいアカヤガラ,サンマ等は,耳石の 摘出が困難であったため,教材化に適していないとした。 アオメエソ,ハタハタ,サバ,ムツゴロウ,ワラスボ などの干物を扱った魚種については,前者 3 種は半分 生の状態の干物であったため,鮮魚と同様に扱うことが 可能であることが明らかとなった。しかし,後者 2 種 は完全に乾燥した干物であったため,耳石を取り出す前 に熱湯中に浸漬することが必要であり,浸漬したことで 頭部が柔らかくなってしまうので,身が崩れやすく扱い づらい。また,摘出した耳石に乾燥した筋肉や膜等が固 着し,耳石の付着物を除去することが困難であるため, 教材化に適していないとした。 背腹方向に扁平なマゴチやホウボウ,トクビレなどは, 背側から観察した際に耳石の存在する場所が,中脳・小 脳の真下に位置するのではなく,中脳・小脳の側部(正 中線から鰓蓋側に離れた場所)に位置しているため,一 般的な魚種(マアジ,シログチ,キチジ等)とは耳石の 位置が異なっていた。また,これらの魚種は頭蓋骨が硬 く,調理バサミを用いて頭蓋骨上方の切り出すことが難 しいため,耳石摘出実験には適さないとした。 体制が背腹方向に扁平なカレイ目は,耳石が眼に対し て垂直に並んで位置しているため,マゴチやホウボウ, トクビレなどと同様に一般的な魚種(マアジ,シログチ, キチジ等)とは異なっていた。そのため,教材化の際に は耳石の位置を把握しておく必要がある。 図 5 は,耳石の摘出と頭蓋骨標本の作成が容易な魚 種 7 種(マアジ,イボダイ,キンメダイ,シログチ, キチジ,カサゴ,ミシマオコゼ)をサンプルとして保存 したものである。マアジ,イボダイ,キンメダイ,シロ グチ,キチジ,カサゴ,ミシマオコゼの頭骨を腹側から 観察すると前耳骨の膨らみが大きいということがわかる (図 5 右段 C,F,I,L,O,R,U)。また,図 5 中段に 示されているマアジ,キンメダイ,シログチ,カサゴ, ミシマオコゼの頭骨を背側から観察すると,頭骨内部の どの位置に耳石が存在しているかが明らかである(図 5 右段 B,H,K,N,Q,T)。 考察 耳石を破損させず素早く摘出するには,頭部における 耳石の位置,頭骨と脳,魚体の大きさ等を考慮に入れる
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図5.教材用頭蓋骨標本.マアジ(A-C),イボダイ(D-F),キンメダイ(G-I),シログチ(J-L),キチジ(M-O),
カサゴ(P-R),ミシマオコゼ(S-U).左段は耳石の写真,中段は頭蓋骨上面(上部割断),右段は頭蓋骨下
「頭部を切断し,頭部の頭頂骨を削り取り,現れた脳を 除去しその下の耳石を上部から採取する」,「鰓を除去し, 現れた前耳骨を削り取り,耳石を下面より採取する」と いった 2 つの方法を採用した。これらの方法は,Secor et al.(1991, 1992) に あ る Open-the-hatch method, Up-through-the gills method とほぼ同じである。前者は, ほぼすべての魚種に適用可能であるが,脳を掻き出す必 要があり,耳石が小さい魚種では脳に耳石が紛れてしま うため,耳石の摘出が困難となる場合がある。後者は, 耳石を含む膨らみの位置が認識できれば,耳石の摘出は 容易である。ただし,後者の方法は耳石が比較的大きく, 膨らみも大きいシログチやクログチ,キチジなどの魚種 に限り,適用可能だと思われる。特に,キチジにおいて は,下面から見た膨らみが半透明であり(図 5),白色 の耳石が確認できることからも,耳石の位置を示す教材 として最適だと思われる。 今回,摘出された耳石の中では,キンメダイやシログ チ,クログチなどが他種の耳石に比べて大きく,耳石そ のものを教材として提供する場合には,有用であると考 えられる。しかし,キンメダイにおいては値段が高く, 大量に購入することが困難であるため,演示用として使 用することが最適である。これらのことより,耳石摘出 を学生実験等で行う際に,使用する教材として最適な魚 種は,マアジ,カサゴ,シログチ,キチジ,イボダイで あるとした。マアジは,頭部を切り,頭蓋骨内の脳を掻 き出し,耳石を採取する方法が有効であり,後者 4 種 は腹側から鰓を取り除き,前耳骨を探し当て,耳石を採 取する方法が有効であると考えられる。ここで紹介した 後者 4 種に関しては,耳石相対サイズが 40 以上であり, 耳石が大きいことと,安価で大量に購入することが可能 であるため,教材として適していると考えられる。マア ジに関しては,相対耳石サイズが 40 以下であるが,購 入することが容易であることや三半規管の摘出(福本, 2015)や内臓の観察(例えば楳田,1987)などに多く 用いられており,汎用性が高いことから教材として適し ていると思われる。 マアジ,カサゴ,シログチ,キチジ,イボダイ以外で, 耳石相対サイズが 40 以上のキンメダイやムツなどにつ いては,購入する際に値段が高いことや市場に出回るこ とが少ないことから教材として最適ではないと思われる。 摘出にあたっては,大型の魚種を用意する必要はないと 考えられる。 マグロやカツオ,アンコウなどの大型魚種については, 耳石が体長に比して小さく,耳石摘出の実験教材には適 さないと考えられる。しかし,これらの大型魚種では, 三半規管が大きく,そのため摘出が容易であり,三半規 管とともに,内包された耳石を摘出することが可能であ る。通常の耳石摘出では扁平石のみ取り出すことが多い が,三半規管そのものが摘出できると,星状石や礫石も 採取が可能で,耳の構造の一部を観察することが可能で ある。 アオメエソ,ハタハタ,サバなどの干物を扱った魚種 については,鮮魚と同様に扱うことが可能であり,学生 実験等でも使用することが可能であると考えられる。こ れに対し,ムツゴロウ,ワラスボなど完全に乾燥した干 物は,解剖前の段階で熱湯に漬ける必要があり,身が崩 れやすく扱いづらい。また,摘出した耳石表面の付着物 を除去することが困難であり,学生実験等で使用するこ とは難しい。 各個体の耳石の大きさは,種内では体長(または全長) に比例すること(飯塚・片山,2008)が報告されており(例 えばマアジやヒラメ等),解剖実験の際は,大きな個体 ほど大きな耳石を持っていると考えられるため,児童・ 生徒や学生の年代によっては,大きな個体を使用した方 が耳石の発見はより容易になると思われる。 また,マアジに関しては,小アジや中アジなどに瀬付 きの群と回遊する群があり,それぞれで耳石の中心部に ある不透明な楕円域の発達度合いが異なることが知られ ている(落合,1965)。このような生態の違いと耳石の 違いを対比させて,教材化することも可能であると考え られる。 耳石摘出の実験に際して,教材として適さない魚種は, フグ科のカワハギやウマヅラハギなど,魚体が左右方向 に扁平な魚種である。これらの種は,頭蓋骨を露出させ ることや鰓を除去することなどが難しく解剖が容易では ないことと,耳石が小さく(通常,2 mm 以下),相対 耳石サイズが 10 未満であることから教材としては適さ ないと考えられる。また,カワハギやウマヅラハギなど と同様に相対耳石サイズが 10 未満のタチウオも教材と しては適さないと考えられる。
身近な魚類の耳石の教材化について
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食用魚として流通量の多いサンマやサバ,イワシ類に 関しては,前耳骨が膨らんでいないため,頭部を切り, 頭蓋骨内の脳を掻き出し,耳石を採取する方法が有効で ある。しかし,脳を掻き出す際に耳石が紛れてしまうた め,耳石の摘出が困難であることから,耳石摘出実験に は適さないと考えられる。 今回解剖実験で使用した魚種の中で,耳石の形態がユ ニークなものとしては,キアンコウ(図 2 Y),エゾイ ソアイナメ(図 2),マトウダイ(図 2 AA)カツオ(図 2 X)などがあり,耳石の形態の多様性の説明の際には 有効な教材になると考えられる。また,稀に変形した耳 石が採取されることがあり(Mugiya,1972),正常な 耳石の形態が観察されない可能性もあることを念頭に置 いて実験を行う必要がある。 耳石を摘出する際には,図 5 にあるような頭蓋骨標 本があると説明が容易である。特に,前耳骨の位置や, 頭蓋骨内の耳石の位置をあらかじめ示すためには,取り 出した耳石を頭蓋骨内に戻しておき,その位置を確認し てから実験に入ると,失敗が少なくなると思われる。 耳石摘出は内臓の観察と異なり,魚類から出る血液の 量が少ないことや実験を行うのにかかる時間が少ないこ とから,魚類解剖実験の入り口として取り入れやすいと 考えられる。また,教師や生徒が耳石の摘出を行うこと に慣れてくると 5 分から 10 分程で耳石を摘出できるた め,耳石そのものや耳の構造の理解だけに留まらず,頭 蓋骨から魚類の骨格や内臓などの魚類のからだのつくり まで,1 時間の授業内で展開することが可能となる。 耳石摘出の教材として作成した頭蓋骨標本(図 3)は, 実験授業を行う前もしくは行った後,子どもたちに耳石 が魚の頭部のどこに位置しているかや実際の耳石の大き さを説明するために利用することが可能だと思われる。 また,頭蓋骨標本から魚の骨格についての説明から内臓 の観察へ授業を展開することが可能となり,耳石そのも のの理解だけでなく,魚類のからだのつくりを理解させ るきっかけとなることが見込まれる。これらのことより, 魚類解剖実験における耳石摘出の意義は,解剖実験が苦 手な生徒でも宝探しのような感覚で実物に触れることが でき,からだの構造を理解することができる点にあると 考えられる。 本教材は,中学校理科第 2 学年の「感覚と運動のし くみ」や高等学校生物の「動物の刺激の受容と反応」 を学習する際に活用できることが想定される。特に, 高等学校生物では,本単元で受容器による刺激の受容 から効果器による反応までの仕組みを理解させること がねらい(文部科学省,2015a)となっている。耳石は, 聴覚および平衡感覚の機能を担っているため,本教材 を取り入れることで,受容器による刺激の受容から効 果器による反応までの仕組みを理解することが容易に なると考えられる。また,耳石摘出実験を行う事前の 授業で,ヒトの耳の構造について学習させる。本教材 を取り入れて授業を展開する場合,導入時に前時の学 習内容を復習し,魚類とヒトの耳の構造を比較しなが ら観察させる。展開時に耳石の摘出実験を行い,魚の 頭部や耳石,耳石の位置などをスケッチさせることで, 耳の構造の理解につながる。時間に余裕があれば,耳 だけでなく,魚の骨格や脳・目の構造まで展開するこ とが可能である。まとめでは,魚類とヒトの耳の構造 の共通点・相違点について記述させることによって, より正確に耳の構造を理解することができると考えら れる。 中学校理科においては,第2分野「動物の生活と生物 の変遷」—動物の体のつくりと働き,の中の「刺激と反 応について」の単元で,運動・感覚器官の働きを「動物 が,外界の刺激に反応していることに気づかせるととも に…」(文部科学省,2015b)とある。「感覚器官としては, 目,耳などを取り上げ」(文部科学省,2015b)とあり, 本研究の成果は,耳石の役割とともに,耳の構造の理解 の助けにもなるであろう。さらに,頭骨内の解剖図(図 1参照)に示すように,耳石を探す過程で脳(特に小脳 や中脳,延髄)の構造やそれらの位置,鼻や耳などとの 位置関係にも気づかせることができる。吉川他(2012) や有馬他(2012)の中学校理科の教科書においても, 脳と神経系,目や耳などの感覚器が関連づけて図示され ており,耳石摘出実験を行うことによって,脳の近くに 眼や耳があり,神経系でつながっていることの理解への 一助になると考えられる。 謝辞 本研究を進めるにあたりご指導ご助言頂いた横浜国立 大学の西栄二郎氏,調査に協力していただいた横浜国立 大学学校教育課程理科専攻の菅原実氏,内藤芽生氏,森 田遥氏,三羽達也氏,川村美南氏,有益なコメントをい ただいた査読者の方々に深く感謝する。東京 浅島誠 他 (2015).生物.479 pp.東京書籍,東京. 阿部宗明 (1963).原色魚類検索図鑑.358 pp.北隆館, 東京. 安倍 弘・吉村舞・山本陽子・富永和美・関根麻希子 (2002).学生実験のための耳石摘出法の検討.環境 教育研究,6,101-108. 安倍 弘・曽田泰宏 (2006).魚類の耳石と骨を用いた 学生実験―生物学と化学の境界領域の探求―.環境 教育研究,9,13-20. Buckel, J. A., Sharck, B. L., Zdanowicz, V. S. (2004).Effect of diet on otolith composition in Pomtomus saltatrix, an estuarine piscivore. Journal of Fish Biology 64, 1469–1484. 藤原昌高 (2016).からだにおいしい魚の便利帳.207 pp.高橋書店,東京. 福本伊都子 (2015).魚の半規管の観察.原島広至(監修) 生物の科学 遺伝 別冊 実験単 生物の授業やクラブ活 動で使える実験集.pp.42-46.昭栄印刷,東京. 伊藤康夫 (1998).耳石で調べる魚の年齢と成長.とっ ておき生物学実験-生徒と考え、生徒と創る-遺伝 (別冊),10,44-48. 飯塚景記・片山知史 (2008).日本産硬骨魚類の耳石の 外部形態に関する研究.水研センター研報,25, 1 - 222. 川村軍蔵・安樂和彦 (1998).魚類の聴側線器の構造と 機能.添田秀男・畠山良己・川村軍蔵(編)魚類の 聴覚生理.pp.1-62.恒星社厚生閣,東京. 久保伊津男・吉原友吉 (1986).第 4 章年齢形質.久保 伊津男・吉原友吉(編)水産資源学.pp.57-99. 共立出版,東京 Lin, C. -H., Chiang C. -W. (2012). Otolith Atlas of Taiwan Fishes. National Museum of Marine Biology & Aquarium.415 pp. 本川達雄 他(2015).生物.472 pp.啓林館,東京. Mugiya, Y. (1972). On aberrant sagittas of teleostean fishes. Japanese Journal of Ichthyology, 19,11-14. 麦谷泰雄 (1997) .魚類年齢形質の形成と輪紋性状1. 年齢形質.赤嶺達郎・麦谷泰雄(編)水産物の成長 解析.pp.9-16.恒星社厚生閣,東京. 文部科学省 (2015b).中学校学習指導要領解説 理科編. 149pp.実教出版,東京. 中江雅典・佐々木邦夫 (2010).感覚器.木村清志(編) 新魚類解剖図鑑.pp.67-68.緑書房,東京. 落合 明(1965).アジ類・イボダイ類.松原喜代松・ 落合 明(編)魚類学.pp. 721-762.恒星社厚生閣, 東京.
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