中米の福祉国家コスタリカ (特集 新自由主義時代
のコスタリカ)
著者
宇佐見 耕一
権利
Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア
経済研究所 / Institute of Developing
Economies, Japan External Trade Organization
(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp
雑誌名
アジ研ワールド・トレンド
巻
218
ページ
16-18
発行年
2013-11
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
URL
http://hdl.handle.net/2344/00003587
●はじめに
コスタリカは、ラテンアメリカ のなかでは乳幼児死亡率が低く識 字率が高いなど、良好な社会指数 を示しており、長らく中米の福祉 国家と呼ばれていた。コスタリカ の社会保障制度の整備は一九四〇 年代に始まったが、その拡大は第 二次世界大戦後になってからのこ とであった。第二次世界大戦後、 社会民主主義政党である国民解放 党が度々政権に就き、社会保障制 度の拡充が行われた。しかし、一 九九〇年代になると経済的には新 自由主義政策が採用され、所得分 配も不平等化が進むなど、コスタ リカの福祉国家は岐路に立たされ ている。一.良好な社会指標
コスタリカが中米の福祉国家と 呼ばれるゆえんは、第二次世界大 戦後に整備された教育・社会保障 制度に支えられた、良好な社会指 標のゆえんである。一九九〇年か ら九五年にかけてのコスタリカの 平均余命は七六・三歳であり、こ れは表 1にあるラテンアメリカ主 要国のなかで最高である。同様に 同期の乳幼児死亡率は、域内主要 国で最低であり、長い平均余命と 低い乳幼児死亡率は、医療制度が 広く国民に普及していることを物 語っている。また、同期における 非識字率は、キューバ、アルゼン チン、チリおよびウルグアイと同 程度で、域内で低いグループに属 している。こうした良好な社会指 標は、医療や教育制度が広く普及 していることの反映であることに 加えて、数十年の単位で整備が進 んできたことの反映でもある。国 民に広く医療や教育が普及してい るという点において、コスタリカ の社会保障制度は普遍主義的性格 を持っているといえる。 他 方 、 高 齢 者 の 生活 を 支 え る年 金 制 度 を み る と 、 二 〇 〇 〇 年 で は 六 五歳 以 上 の 高 齢 者 で 保 険 料 を 支 払 う 拠 出 制 年 金受 給 者 の 割 合は 三 五 ・ 三 % で あ り 、 ま た 貧 困 層 を 対 象 と し た保 険 料 を 支 払 わ な い 非 拠 出 制 年 金 の 受 給 者 は二 〇 ・ 二 % で 表 1 ラテンアメリカ主要国の社会指標 地域 国名 平均余命 乳幼児死亡率 非識字率(%) 1970-75 1980-85 1990-95 1970-75 1980-85 1990-95 1970 1980 1990 メキシコ メキシコ 62.6 67.1 70.3 68.4 48.8 35.2 25.8 16.0 12.7 中米・カリブ コロンビア 61.6 67.2 69.3 73.0 41.2 37.0 19.2 12.2 13.3 コスタリカ 68.1 73.8 76.3 52.6 19.2 13.7 11.6 7.4 7.2 キューバ 71.0 74.2 75.7 38.5 17.1 14.2 n.d. 2.2 6.0 エクアドル 58.9 64.3 66.6 95.0 69.6 57.4 25.8 16.5 14.2 エル・サルバドル 58.8 57.2 66.3 99.0 77.0 45.6 42.9 32.7 27.0 グアテマラ 54.0 59.0 64.8 95.1 70.4 48.5 54.0 44.2 44.9 ハイチ 48.5 52.7 56.6 134.9 108.2 86.2 78.9 62.5 47.0 ホンジュラス 54.0 61.9 65.8 100.6 78.4 59.7 43.1 n.d. 26.9 ニカラグア 55.2 59.3 66.6 100.0 85.6 52.1 42.5 n.d. n.d. パナマ 66.3 71.0 72.8 42.8 25.7 20.8 18.7 12.9 11.9 ドミニカ共和国 60.0 64.1 67.6 93.5 74.5 56.5 33.0 31.4 16.7 アンデス ボリビア 46.7 56.2 61.1 151.3 108.6 84.8 36.8 n.d. 22.5 コロンビア 61.6 67.2 69.3 73.0 41.2 37.0 19.2 12.2 13.3 ペルー 55.5 58.6 64.6 110.3 98.6 75.8 27.5 18.1 14.9 ベネズエラ 66.2 69.0 70.3 48.6 38.7 33.2 23.5 15.3 11.9 南米 アルゼンチン 67.3 69.7 71.4 49.0 36.0 28.8 7.4 6.1 4.7 ブラジル 59.8 63.4 66.3 90.5 70.7 56.4 33.8 25.5 18.9 チリ 63.6 71.0 72.0 69.9 23.7 16.9 11.0 8.9 6.6 ウルグアイ 68.8 70.9 72.4 46.3 33.5 20.0 6.1 5.0 3.8 (出所)CEPAL[1992]p.15 p.49 p.54. (注) 1)乳幼児死亡率は 1 歳以下の乳幼児の 1000 人当たりの死亡率。 2)非識字率 15 歳以上の人口に占める割合。宇
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新自由主義時代のコスタリカ特集
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アジ研ワールド・トレンド No.218 (2013. 11)あ っ た [ V alv er d e 2 0 0 2 , 2 0 6 ]。 す な わ ち 、 五 五 % の 高 齢 者 が 年 金 を 受 給 し 、 残 り の 四 五 % の 高 齢 者 は 年 金 を 受 給 し て い な い こ と に な る 。 医 療 や 教 育 制 度 が 全 国 民 を カ バ ー す る 普 遍 的 な 制 度で あ っ た の に 対 し て 、 年 金 は 普 遍 的 制 度 に な っ て い な い 。 資 産 の な い 高 齢 者 は 通 常 家 族 が 扶 養 す る こ と に な る 。 こ の よ う に 福 祉 で 家 族 の 役 割 を 重 視 す る 立 場 を 家 族 主 義 と い う 。 コ スタ リ カ の 高 齢 者 福 祉に 関 し て は 、 家 族 主 義 的 な 側 面 を 持 っ てい る と い え る 。 こ の 家 族 主 義 を 支 え る の が 女 性 で あ る 。 図 1に あ る よ う に 、 コ ス タ リ カ の 女 性 労 働 力 率 は 一 九 六 〇 年 か ら 九 〇 年 に か け て 上 昇 し て い る が 、 ラ テ ン ア メ リ カ 主 要 国 の な か で 突 出 し て い る わ け で も な く 、 一 九 九 〇 年 に お い て も 二 五 % 弱 で あ り 、 大 多 数 の 成 人 女 性 が 家 庭 に と ど まっ て い た こ と に な る 。
二.
コスタリカにおける福祉
国家の形成
コスタリカにおいて社会保障制 度の整備が始まったのは一九四〇 年 代 の カ ル デ ロ ン =グ ア ル デ ィ ア 政権の下であった。しかし、社会 保障制度が拡大したのは第二次世 界大戦後、社会民主主義政党と自 らを規定する国民解放党政権下の ことであった。国民解放党は、一 九 五 三 年 に フ ィ ゲ ー レ ス・ フ ェ レールを大統領とする政権を発足 させて以来、現在のラウラ・チン チージャ政権に至るまで、九度政 権に就いている。そして同党は、 そ の 政 党 登 録 の な か で 食 料、 住 居、医療、健康および教育といっ た社会政策の拡充を謳っている。 また、一九六〇年には憲法が改正 され、そこで社会保険の普遍主義 化が規定され、社会保険を担うコ スタリカ社会保険公社の対象が、 大幅に拡大した。 今 日 ま で の コ スタ リ カ の 社 会 保 障 制 度の 中 核 を な し て い る のが コ ス タリ カ 社 会 保 険 公 社 に よ る医 療 保 険 とサ ー ビ ス の 提 供で あ ろ う 。 医 療 保 険の カ バ ー 率 は 一 九 六 〇 年 代 か ら 七〇 年 代に かけて 拡 大 し 、 二 〇 一 〇 年 に は 九 〇 % を 超 え る よ う に な っ た [ C C S S 2 0 1 0 , 2 4 ]。 ま た 、 同 公 社 は 貧 困 層や 農 村 部 で の プラ イ マ リ ー ケ ア ー も 担 当 し て いる 。 こ の よ う に 、 公 的 医 療 は 国 民 のすべ て が 受 給できる 普 遍 的 な も の と な っ てい る 。 他 方 一 九 九 五 年 の世 界 銀 行 の報 告 書 に よ ると年 金 制 度 は 一 九 九 〇 年 ま で に 職 域 別 に 多 くの 制 度 が 並 立し 、 就 労 人口 の 五 〇 % が カバ ー さ れ て い た 。 そ のため 、 年 金 制 度 は 普 遍 的 制 度 と は い え ず 、 職 域 連 動 型 の 制 度 で あ っ た [ D em irg ü ç-K u n t an d S ch w ar z 1 9 9 5 , 1 -5 ]。三.
社会保障制度の新自由主
義的改革
他のラテンアメリカの諸国同様 に、コスタリカも一九八〇年代に 経済危機を経験し、その打開策と して一九九〇年代には新自由主義 経済改革がなされ、それは社会保 障制度にも及んだ。二〇〇〇年か ら施行された新年金制度は、世界 銀行の推奨する年金改革案にほぼ 沿った形のものとなった。そこで は第一の柱に既存の老齢年金、第 二の柱に強制加入の積み立て方式 年金、第三の柱に個人積み立て年 金という三層構造になっている。 一九九七年から九八年にかけて実 施された医療保険改革は、社会保 険公社と各医療機関が経営契約を 結び、ファイナンスとサービスが 分離され、効率化が目指されるこ ととなった[丸岡二〇〇八、二〇 八 ― 二 一 七 ]。 こ の よ う に 社 会 保 険部門では、市場機能を導入し、 社会保障制度の効率化が図られる こととなった。他方、貧困緩和政 策でもターゲティングを実施し政 策 の 効 率 化 が 追 求 さ れ た。 そ の 後、貧困緩和政策には、支給に子 どもの就学を条件とした条件付現 1960 1970 1980 1990 アルゼンチン ブラジル チリ コスタリカ キューバ メキシコ 40.0 35.0 30.0 25.0 20.0 15.0 10.0 5.0 0.0 (出所)CEPAL[1992, 21; 1997, 21]. 図 1 ラテンアメリカ主要国の女性労働参加率中米の福祉国家コスタリカ
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アジ研ワールド・トレンド No.218 (2013. 11)金給付政策「前進しよう」が実施 されている。これにより貧困緩和 と貧困の世代間連鎖を断ち切るこ とが期待されている。