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自然災害と障害者 (特集 東日本大震災と国際協力)

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自然災害と障害者 (特集 東日本大震災と国際協力)

著者

森 壮也

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

192

ページ

15-17

発行年

2011-09

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00004153

(2)

●はじめに

  東日本大震災とその後に起きた 数々の被害は、私たち日本人の多 くに改めて、自分達がいつなんど き 災 害 に 遭 う と も 限 ら な い こ と、 そしてその被害は時には目に見え ない形で襲ってくることなど、 「震 災前」には思いもよらなかった多 くのことを教えてくれた。この震 災で命を落とされた方々のご冥福 と被害に遭われた皆さんの一日も 早い復興 ・ 回復を心より祈りたい。   と こ ろ で、 こ う し た 自 然 災 害、 そしてそれを時に増幅させかねな い人的災害といった問題は、開発 途上国においては日常的な問題と して存在している。このことが国 際社会に改めて認識されるように なったのは、アジア太平洋地域を 例にとれば、やはり二〇〇四年一 二月のM 9超のスマトラ沖大地震 による津波被害だろう。この津波 被害への対応をきっかけに国際社 会 で は、 「 災 害 と 障 害( Disaster an dD isa bil ity )」 と い う 新 し い テ ー マが産まれた。このテーマは「国 連障害者の権利条約」でも第一一 条に、国際社会が取り組むべき課 題として具体化されている。 障害者の権利条約   第一一条   危 険 な 状 況 及 び 人 道 上 の 緊 急 事 態 (外務省仮訳)   締約国は、国際法(国際人道法 及 び 国 際 人 権 法 を 含 む。 ) に 基 づ く自国の義務に従い、危険な状況 ( 武 力 紛 争、 人 道 上 の 緊 急 事 態 及 び 自 然 災 害 の 発 生 を 含 む。 ) に お いて障害者の保護及び安全を確保 するためのすべての必要な措置を とる。

●自然災害と障害者

  二 〇 一 一 年 の 三 月 に も オ ス ロ で、 「最も脆弱なひとたちにも(支 援が)届くように:紛争や緊急時 における障害」という会議が、ノ ルウェイの障害当事者団体である Atlas 連 合 の 主 催、 ノ ル ウ ェ イ 外 務省の共催で、 各国政府の担当者、 国連、国際NGOの参加により開 催され、各国関係者の間での調整 が図られた。また具体的な災害支 援でも、二〇一〇年一月のハイチ での大地震の際に被災障害者に関 心が向けられたのもこうした国際 的 動 向 を 反 映 し て い る と 言 え る。 ハイチでの震災では、約二〇万人 が地震による被災で障害者となっ たという推計もある ⑴ 。

●大きな災害と障害の周縁化

  こうした自然災害がもたらす大 きな被害を考える時、私たちが忘 れてはならないのは、大きな全体 的被害という名目のもとに周縁化 されるマイノリティの被害者のこ とである。その筆頭にあげられる のは、障害者だろう。今回の東日 本大震災でも障害のある被害者の 把握は、未だ遅れているのみなら ず ⑵ 、 避 難 勧 告 が あ っ て も 彼 ら に は聞こえなかったり、避難のため の道筋が分からなかったり、また 避難そのものが不可能な重度障害 者であったりした人たちが、被災 者には多数含まれているはずであ る。幸いにして難を逃れた人たち のストーリーは報道の対象にもな るが、不幸にして被害に遭ったこ うした障害当事者の人たちの置か れていた状況などは、死者は語ら ずのことばどおり、埋もれてしま いかねない。このことが如実に現 れているのが震災後に設立された 東日本大震災の復旧・復興計画の 青写真を描くための「復興構想会 議 」( 議 長・ 五 百 旗 頭 真 防 衛 大 学 校長)のメンバー構成である。同 会議には、こうした障害当事者の 人たちの声を代表できるメンバー は、 ひ と り も 入 っ て い な か っ た。 震災後の復興は、ある意味で障害 バリアフリー社会を築く機会でも あったはずであり、だれでも障害 者になりえるということが意識さ れ て い な い( 高 齢 者 に な っ て も、

自然災害と障害者

特集

東日本大震災と国際協力

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高齢であることが問題なのではな く、加齢による障害の発生こそが 取り組まれるべき課題のはずであ る )。 W H O と 世 界 銀 行 が 先 般 出 版した「障害についての世界報告 書」 ⑶ もこのことを課題として挙げ ている) 。震災から半年近くがたっ た 現 在 で も、 障 害 当 事 者 た ち は、 最も元の生活への復帰が遅れてい る人たちである事実に変わりはな い。

●国際開発と「障害と災害」

  また「障害についての世界報告 書」は、障害の社会モデル(杉野 [ 二 〇 〇 七 ] や 森[ 二 〇 〇 八 ] な どを参照)を念頭におくと、自然 災害は社会環境の激変を意味する ため、障害の程度にも大きな影響 を及ぼすと述べている(六一ペー ジ )。 ま た 災 害 に よ っ て 障 害 者 と なった人たちの問題はもちろんの こと、災害後の避難所でも障害を 考慮した運営、災害復興時におけ る障害アクセシビリティを考慮し た復興政策策定などが必要だとさ れている。   また国際赤十字・赤新月社連盟 が毎年出版している『世界災害報 告』の二〇〇七年度版は、第四章 で特に「障害と災害―包摂的なア プローチに向けて」と題した章を 設けて、障害と災害の問題につい て触れている。同章ではバングラ デシュの事例が紹介され、障害者 の場合には、その三%しか洪水に よる被災者支援を受けられなかっ たという調査結果が紹介されてい る。これは、避難所がアクセシブ ルではなく、支援物資の配給プロ グラムも障害者を排除したものに なっていたためである(九二〜九 三 ペ ー ジ )。 こ れ ら は バ ン グ ラ デ シュに特有の問題ではなく、ハリ ケーン・カトリーナの災害に見舞 われたアメリカのような先進国で も起きていた問題である。 そして、 こうした問題の原因として指摘さ れているのは、人道支援のための 国連決議で設立された機関間常設 委員会(IASC)が発行した人 権・自然災害での運営ガイドライ ン 二 〇 〇 六 年 度 版 ⑷ で も 指 摘 さ れ ているように、障害被災者につい ての「不適切な政策や単純な見落 とし」である。災害時の支援でも 常に周縁化や差別の危険にさらさ れ て い る 障 害 者 に つ い て の 支 援 は、特に関心を払ってしかるべき ものであり、IASCはそうした 特 に 関 心 を 寄 せ る べ き 領 域 と し て、   ①  避難所のセキュリティ(キャ ン プ 設 営 位 置 や レ イ ア ウ ト、 また設営状況)   ②  人道支援が利用できるような 安全で非差別的なアクセス状 況   ③  差別なく財やサービスの配給 が利用でき、受け取れ、また 障害状況にも合っていること   ④  再建・復興での長期計画策定 に障害当事者も参加すること   ⑤  マイクロクレジットのような 生計手段の利用者に障害当事 者も含まれること   ⑥  救済支援、復興、再建での回 答がフィードバックされる適 切なメカニズム を 挙 げ て い る( 九 一 ペ ー ジ )。 ま た 各 国・ 各 地 位 置 の 社 会 的 障 害 ( Disability ) の 状 況 に 通 暁 し た 障 害当事者団体の育成とそのネット ワークの利用も、このガイドライ ンの実施には欠かせないものとし て指摘されている。

●おわりに

  国際社会がこれまで経験してき た 大 き な 自 然 災 害 か ら の 教 訓 は、 障害包摂的リスク・マネジメント である。我が国の東日本大震災に お い て も 事 情 は 同 じ は ず で あ る。 途上国の障害者支援に携わった経 験を持つNGOによる現場支援と いった現実的かつ緊急の支援はも ちろんのこと、今後の復興対策を 考える際にも、震災によって被害 を受けた障害者の支援で障害当事 者の団体の持つ知識の活用、復興 支援での障害当事者の参加、復興 計画での障害面でもアクセシブル な街作りなど、国際開発の経験か ら日本が学べるものは数多いはず である。そうした教訓が活用され た、排除される人のない支援、復 興を切に願いたい。 ( も り   そ う や / ア ジ ア 経 済 研 究 所   貧困削減 ・ 社会開発研究グループ) 《注》 ⑴  ハイチでの被災者全般について は、“ Hait isix months on 13 Jul  2 0 1 0 ”, C B M In te rn at io n al ( h ttp :/ /w w w .a le rt n et .o rg / th e n e w s/ fr o m th e fi e ld / CB M % 20 In t/ 12 79 01 67 91 14 . htm 、 二 〇 一 〇 年 七 月 一 四 日 ダ ウンロード)によれば、二二万 人が死亡、三〇万人が負傷、一 五 〇 万 人 が 家 を 失 っ た と い う。 ここで引用した障害者の被災者 に つ い て の 記 述 は、 Disability ,

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na tu ra ld isa ste rs an de m erg en -cy situat ions 、 国 連 Unable HP ( ht tp :// w w w .u n.o rg /d isa bil i-ties/default.asp?id=1546 、 二 〇一一年八月一〇日ダウンロー ド)の数字である。この他にも “H ait i's R isin gU rg en cy ”,W or ld  P re ss R ev ie w ( ht tp :/ /w w w . w o rl d p re ss .o rg / A m e ri -cas/3514.cfm 、 二 〇 一 〇 年 三 月一八日ダウンロード)によれ ば、同国には八〇万人の障害者 がもともといて、震災のために 足を失った人たちが少なくとも 六〇〇〇から八〇〇〇人はいる という数字も出ていた。 ⑵  二〇一一年五月二四日の朝日新 聞( 「沿岸の死亡 ・ 不明者の割合、 障害者は二%   内閣府が聞き取 り、 推 定 」) で は、 内 閣 府 の 障 害者制度改革推進会議で、非障 害者の震災・津波での死亡率が だいたい一%くらいだったのに 対して、 障害者の場合は二 ・ 五% と高率だったという報告が政府 からあったという。障害のある 被災者が多かった可能性は否定 できないものの、障害者手帳の 保持者による数字ではなく、各 障害当事者団体からの報告を合 計した数字を現地の住民の人口 で割って出た数字である。従っ て、日本の東北大震災でも障害 被災者の実態は正確には得られ ていないことになる。 ⑶ W orld Health Org anizat ion and  W or ld B an k[ 20 11 ]W or ld R e-port on Disability ,WHO . ⑷ IA SC ,P RO TE CT IN G P ER SO N S A FF EC TE D B Y N AT U RA L D IS -A ST ER S-IA SC O p er at io n al G uid eli ne s on H um an R ig ht s an d N atu ra lD isa ste rs ,B ro ok -in gs -B er n Pr oje ct on In te rn al Displacement. 《参考文献》 ①  杉 野 昭 博[ 二 〇 〇 七 ]『 障 害 学 ― 理 論 形 成 と 射 程 』、 東 京 大 学 出版会。 ②  森 壮 也[ 二 〇 〇 八 ]『 障 害 と 開 発 ― 途 上 国 の 障 害 当 事 者 と 社 会』 、アジ研研究双書№五六七。

南アジアの障害当事者と障害者政策

―障害と開発の視点から―

第 1 章  南アジアにおける「障害と開発」   /森 壮也  第 2 章  インドの障害当事者運動       ――二つのろう者の運動の対比から  /森 壮也  第 3 章  インドの障害児教育の可能性       ――「インクルーシブ教育」に向けた現状と課題  /辻田 祐子  第 4 章  新しい時代を迎えたネパールの障害者・障害者団体と障害者政策  /井上 恭子  第 5 章  ネパールの障害当事者運動と権利擁護       ――公益訴訟をとおした発展  /小林 昌之  第 6 章  バングラデシュの障害当事者と障害者政策

      ――Community Approaches to Handicap in Development (CAHD)       の意義と課題  /山形 辰史  第 7 章  パキスタンにおける障害者の自立生活運動       ――受け手から担い手へ  /奥平 真砂子

アジ研選書近日刊行

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自然災害と障害者

アジ研ワールド・トレンドNo.192 (2011. 9)

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