中国企業の変化 -- 起業を通じたイノベーション (
トレンド・リポート)
著者
木村 公一朗
権利
Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア
経済研究所 / Institute of Developing
Economies, Japan External Trade Organization
(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp
雑誌名
アジ研ワールド・トレンド
巻
258
ページ
38-42
発行年
2017-03
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
URL
http://hdl.handle.net/2344/00048879
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はじめに
中国の事業環境が賃金高騰等に よって急変するなか、中国企業は 今後どのように成長していくのだ ろ う か ⑴ 。 付 加 価 値 の よ り 高 い 製 品を市場に投入するため、多くの 既存企業が研究開発(R&D)を 行うようになっている。これに加 え、最近は起業家によるイノベー ションにも期待が寄せられている。 「 世 界 の 工 場 」 を 代 表 す る 中 国 家 電・エレクトロニクス産業の変化 を追うため、 本稿では深 シ ェン 圳 ヂェン 市(広 東省)で増えているハードウェア 系 の 新 興 企 業( ス タ ー ト ア ッ プ ) を取り上げたい。 もちろん、起業はこれまでも経 済成長に大きな役割を果たしてき た。一九七八年末の改革開放以降、 公有制企業の改革やその新規設立 のみならず、無数の民間企業の参 入も経済成長の原動力となってき た( 参 考 文 献 ③ )。 本 稿 が 取 り 上 げるテクノロジー系の起業に限っ ても、大学が経営に関わる「校弁 企業」の設立や、留学帰国組の起 業が相次いだ。 しかし、最近のスタートアップ には、これまでの中国企業と違っ た 特 徴 も あ る。 そ こ で 本 稿 で は、 これらの企業の背景と事業の特徴 を紹介する。まず、起業増加の第 一の背景として、既存企業の変調 を示す。中国の事業環境の変化と ともに、起業を通じたイノベーシ ョンに期待が寄せられるようにな った様子を述べる。つぎに、第二 の背景として、国際的な事業環境 の変化を示す。起業の増加は、国 内要因のみならず、世界の変化も 関係している点が特徴だ。国内外 に起因する背景を紹介した後、既 存企業と比べたスタートアップの 特徴も二点述べる。●
既存企業の変調
中国家電・エレクトロニクス企 業は、製品の開発から製造、販売 にいたるバリューチェーンのなか でも、川下重視型の成長パターン を歩む傾向があった。川上に位置 する製品やコア機能の開発は、高 度な技術を要し、リスクも高いた め、外部の企業に依存することが 多 か っ た( 参 考 文 献 ④、 ⑤ 等 )。 そ れ と 比 べ て 部 品・ 素 材 の 加 工・ 組立は、製造設備とその関連技術 を海外から導入したり、大量の製 品の製造をこなすことで、技術と 経験を蓄積していった。一方で川 下 の 販 売・ マ ー ケ テ ィ ン グ 面 は、 地場企業としての優位性を活かし、 全国規模の販売網を効率よく構築 したり、製品の外観や機能を中国 市場向けに若干手を加えることで、 外資系企業に対する強みを形成し ていった(参考文献⑥) ⑵ 。 し か し、 二 〇 〇 〇 年 代 半 ば に、 賃金の高騰や国内市場の飽和が起 こると、従来の成長パターンの課 題が浮き彫りになり始めた。中国 企業は豊富で廉価な労働力と、巨 大で多様な国内市場を足がかりに 急成長したが、同質的な製品の価 格 競 争 と、 急 拡 大 す る 地 方 都 市・ 農村市場への拡販競争も限界に達 するようになった。 そこで、付加価値のより高い製 品を市場に投入するため、製品や コア機能の開発といった川上の能 力もある程度必要となった。技術 能力形成のため大手企業のなかに は、R&Dを行ったり、先進国企 業の立ち行かなくなった事業を買 収したり、試行錯誤を続けている (参考文献⑦) 。その結果、海外で の市場拡大に成功している企業も 増えつつある。 ただし、従来の事業環境に適応 することで形成してきた成長パタ ーンを転換することは容易でない。 事業を長らく営んでいたとしても、 製 品 開 発 の 経 験 は 乏 し く、 ま た、 国内市場向けの経営リソースと海 外市場向けのそれは違いもあるた め、既存大手のすべてが事業環境 の変化に素早く適応できるわけで はない(参考文献⑥、⑧) 。 そのため中国政府は、産業構造 の転換や高度化を目指して、各種 政策を打ち出している。二〇一五 年には、 「大衆創業、 万衆創新」 (大 衆の創業、 万人のイノベーション) (「 双 創 」) 政 策 を 発 表 し、 起 業 を 通じたイノベーションを促進する ようにもなった。 なかでもハードウェア系に関し ては、充実したサプライチェーン が存在する深圳に注目が集まって いる。深圳は、一九七九年に輸出 特区、一九八〇年に経済特区の一 つに指定されてから、豊富な労働 力を求めて多くの製造業者が集積 する街となった。その過程で華強中国企業
の
変化
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北には巨大な電気街も形成された (参考文献⑨) 。また、この集積に は、 高 価 な 新 製 品 の コ ピ ー 品 (「山 シ ャン 寨 ヂャイ 」製品)を素早く製造・販 売することを可能にする、高度な 分業体制が含まれていることでも 有 名 だ。 「 山 寨 」 製 品 は、 た だ の 安価な粗悪品ばかりではなく、 「山 寨」業者間の競争が激しいことも あり、消費者の利便性を向上させ たアイディア商品が多いこともユ ニークな特徴となっている。また、 深圳には移住者が多いため、この ことが都市の多様性を増し、イノ ベーションの原動力になっている こ と も 重 要 な 特 徴 だ( 参 考 文 献 ⑩ )。 多 く の 起 業 家 が 深 圳 を 活 用 しながら製品開発するようになっ ている。 ただし、最近のスタートアップ 増加は、中国だけの現象ではなく 世界的なものでもある(参考文献 ⑪ )。 次 節 で は 世 界 的 な 事 業 環 境 の変化を紹介する。
●
世
界
の
変
化
①:
新
し
い
市
場
の誕生
世界的な事業環境の変化は、新 し い 市 場 の 誕 生 と い う 需 要 面 と、 新しい生産システムの普及という 供 給 面( 次 節 ) か ら 成 る。 ま ず、 需要面をみると、近年、モノのイ ンターネット(IoT)やウェア ラブル・デバイス、ロボット等を はじめとした新市場の急拡大が期 待されるようになった。中国企業 が 一 定 程 度 の ス ペ ッ ク で あ れ ば 様々な製品を製造できるようにな り、また、それらが国内市場で普 及した今、先進国企業とあまり時 間差なく新しいコンセプトの製品 を開発することで、新市場をリー ドできるかもしれないチャンスが 大きくなった。一方で、先進国企 業の製品を廉価にしたり、中国市 場に適したものにすることで、確 実に利益をあげることができる余 地は小さくなっている。中国企業 にとって、新市場の創出に関わる というのは諸刃の剣だ。 そのようななか、二〇〇〇年ご ろから一〇年以上継続したケータ イ/スマホ・ブームの後を継いで、 比較的大きな市場に成長したのは ドローンだ。電池の軽量化等を背 景に、仏パロット社等が二〇一〇 年以降、商用ドローン市場を急拡 大 さ せ た( 参 考 文 献 ⑫ )。 そ の な かで、杭州出身の 汪 フランク・ワン 滔 氏が二〇 〇六年に創業した大疆創新(DJ I)は、主要機能の性能を向上さ せることで、商用ドローン市場に お い て 最 大 の シ ェ ア( 約 七 〇 %) を獲得するにいたった。汪氏は香 港科技大学在学中に友人とフライ トコントローラを開発した後、深 圳に拠点を構え、事業を急拡大さ せてきた。ドローンは多くのスマ ホ部品から構成されるため、充実 したサプライチェーンが存在する 深圳で事業を営むことの優位性は 大きい。DJIは、飛行の安定性 を向上させるため、フライトコン トローラを継続的に開発してきた 他、ドローンの最大用途である空 撮機能の向上のため、カメラやカ メラを水平に保つジンバル等も開 発 し、 製 品 の 魅 力 を 高 め て き た。 最近は農薬散布事業も展開してお り( 参 考 文 献 ⑬ )、 よ り 大 き な 市 場を見込める用途から順に注力し ているようだ。ドローン産業の今 後は依然未知数だが、DJIは市 場創出を通じて急成長してきた。 インターネットの普及によって 多くのオンライン・ビジネスが生 まれるなか、モノとインターネッ トを結合させる試行錯誤も続いて いる。そのため、まずはスタート アップ/メイカー向け製品・サー ビ ス へ の 需 要 増 大 が 目 立 っ て い る ⑶ 。 潘 エリック・パン 昊 氏が二〇〇八年に創 業 し た 矽 递 ( Seeed ) は、 世 界 の スタートアップ/メイカー向けに、 製品の開発・製造・販売という全 過程を支援する事業を展開してい る( 参 考 文 献 ⑭ )。 潘 氏 は 大 学 卒 業 後 に 就 職 し た イ ン テ ル を 辞 め、 北京でエレクトロニクス製品の販 売をしていた時、多くの製品が深 圳から送られてくることに興味を 持ち、深圳に拠点を移した(参考 文献⑨) 。プリント基板(PCB) の 製 造 受 託 か ら 事 業 を 始 め た が、 現在、IoTデバイスやウェアラ ブル・デバイスを開発するための モジュールやキットの販売が収益 の柱となっている。また、最近は 世界的に科学・技術・工学・数学 ( S T E M ) 教 育 熱 が 高 ま っ て い るため、教育用のキット販売にも 注力している。 王 ジェイソン・ワン 建 軍 氏が二〇一一年に創業 し た 創 客 工 場( Makeblock ) は、 ロボットや3Dプリンター等を組 立・コントロールできるロボット キ ッ ト Makeblock を 販 売 す る こ と で 急 成 長 し て き た( 写 真 ① )。 欧米市場が売上の約七〇%を占め ており、先進国在住のユーザーも 多い。とくにSTEM教育用キッ ト mBot が 売 れ て い る。 し か し、 退職社員の起業や、模倣品も増え て お り、 競 争 は 激 し い。 Makeblock 事 業 に 加 え、 プ ロ グ ラ ミ ン グ を 学 ぶ こ と の で き る Codeybot や、 ド ロ ー ン を 組 み 立 て る こ と の で き る Airblock も 開 発しており、ラインナップ拡充に よって一層の成長を遂げようとし ている。 他にも一般消費者向けではない製品としては、二〇一四年創業の 楽 美 客( LeMaker ) が Banana Pi 等 の 小 型 コ ン ピ ュ ー タ( S B C ) を世界で販売している。先発製品 で あ る 英 国 の Raspberry Pi と ス ペック等は異なるが、互換性も備 えているようだ。また、消費者向 け の 製 品 と し て は、 香 港 出 身 の 林 ラム・ティンロン 天 麟 氏が二〇一五年に創想未 来 機 器 人( NXROBO ) を 創 業 し、 家 庭 用 ロ ボ ッ ト BIG-i を 開 発 し た。 コア機能となる音声プログラミン グ等のソフトウェアの多くは自ら 開発したが、ハードウェアについ ては深圳のサプライチェーンを活 用することで、開発期間一年とい うスピード開発を実現した。どの 企業が生き残るのかを判断するこ とはできないが、多くの企業が新 製品開発に取り組んでいる。
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世
界
の
変
化
②:
新
し
い
生
産
システムの普及
スタートアップ増加の背景には、 起業のハードルが下がったことも 関係している。オープンソースの ソフトウェアやハードウェア、3 D プ リ ン タ ー、 Kickstarter 等 の クラウドファンディング、アマゾ ン・ ウ ェ ブ・ サ ー ビ ス( A W S ) 等のクラウド・コンピューティン グ・ サ ー ビ ス 等 の 登 場 に よ っ て、 世界的に事業立ち上げのコストが 低 下 し た( 参 考 文 献 ⑭、 ⑮ )。 こ れに加え、深圳でもスタートアッ プ・エコシステムが充実し始めて いる。 Cy ril Eb ers w eile r 氏 や Be nja m in Joffe 氏らは二〇一一年、 中国の製 造業がさらに発展するためには新 製品を生み出していくことが必要 になったため、アメリカのベンチ ャ ー キ ャ ピ タ ル( V C ) SOSV の 一部門として、ハードウェア専門 の ア ク セ ラ レ ー タ ー HAX を 設 立 し た。 HAX は 半 年 ご と に 一 五 社 を選び、各社に資金を提供すると ともに、事業を軌道に乗せるため、 プロトタイピングやサプライチェ ーン管理、マーケティング等に関 わる各種アドバイスを一一一日間 にわたって行う。一〇万米ドルの 資金提供に対して九%の株式を取 得することで、各社が新規株式公 開(IPO)か合併・買収(M& A)でエグジットする際に大きな 収益をあげることを目指す。卒業 企業の出自と割合は、北米が約六 〇%、欧州が約二〇%、アジアが 約 二 〇 %( 中 国 が 多 い ) で あ り、 世界中の起業家が深圳のサプライ チェーンを活用しながら、新製品 を 開 発 し て い る。 前 出 の Makeblock も卒業企業の一つだ。 また、中国でも起業やモノ作り のための支援スペースが急増して いる。 前出の Seeed は二〇一〇年、 メイカースペースの柴火創客空間 (「創客」はメイカーの意)を開設 した。スタートアップ/メイカー の イ ベ ン ト で あ る Maker Faire Shenzhen は 同 所 が 中 心 と な っ て 開催してきた。また、深圳市南山 区と中国科学院深圳先進技術研究 院は二〇一四年、深圳国際創客中 心と中科創客学院を、深圳市等が 共同で二〇一五年、深圳開放創新 実験室(SZOIL)を設立した。 S Z O I L は 同 年、 「 全 国 大 衆 創 業万衆創新活動周」の深圳会場の 運営にも関わった。また、深圳市 は二〇一五年、 中央政府の「双創」 政 策 を 受 け て、 「 深 圳 市 促 進 創 客 発展三年行動計画(二〇一五―二 〇 一 七 年 )」 を 発 表 し、 二 〇 一 七 年末までにメイカースペースやフ ァブラボを二〇〇カ所に増やすこ とを目標としている。 深圳大手による起業支援のスペ ースの開設も相次いでいる。華強 集団は二〇一五年、電気街の中心 に華強北国際創客中心を開設した。 二〇一六年一〇月末時点で三四社 ( う ち 四 社 は 海 外 か ら ) が 活 動 し ている。同時点までに八〇~一〇 〇社が入居したが、すでに半数が 退去しており入れ替わりは激しい。 開所当初は多くの問い合わせがあ ったが、起業スペースの急増とと も に、 少 し ず つ 落 ち 着 い て き た。 同所には、知財権関係のオフィス の他、投資家や製造業者等と起業 家 を 仲 介 す る Troublemaker 等 も 入居している。 深圳市所管の国有企業・賽格集 団( S E G ) も 二 〇 一 五 年、 DMM.make AKIBA (東京都) も 参 考 に し な が ら、 起 業 ス ペ ー ス・ 賽 格 創 客 中 心( SegMaker+ ) を 電気街に設立した。二〇一六年四 月の訪問時は、六社のみの入居で 空 き ス ペ ー ス が 目 立 っ て い た が、 同年一〇月には三〇社に増えてい た。 国 有 企 業 に よ る 経 営 の た め、 写真① Makeblock の mBot(筆者撮影)中国企業の変化 ―起業を通じたイノベーション― 入居企業は政府からの支援金が得 やすい、というメリットがあるよ うだ。起業スペース間の差別化も 重要になっている。
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中
国
企
業
の
変
化
①:
イ
ノ
ベ
ーターの増加
中国の変化と世界の変化が組み 合わさり、新しいタイプの中国企 業が層の厚みを増す可能性がある。 第一の変化は、新製品開発に取り 組む企業が増えていることだ。国 全体でみればGDPに対するR& D支出の割合は年々増加し、既存 の家電・エレクトロニクス企業も R&D活動に注力するようになっ たが、大企業や国有企業などが主 で、企業の規模や所有制に偏りが あった(参考文献⑯) 。 しかし、スタートアップが増加 したことで、既存企業群の外にも 中国経済を変容させる担い手が形 成されつつある。爆発的な普及を みせる製品はまだないものの、複 数の技術を組み合わせ、新しい機 能や市場を生み出すタイプのイノ ベーションへの取り組みが続いて いる。ちょうど深圳が輸出特区や 経済特区に指定されたころに開発 されたウォークマンのような、ラ イフスタイルを変える新しいコン セプトの製品が誕生するかもしれ ない。 その際、競争や模倣はイノベー ションにどのような影響をあたえ るのだろうか。新しい生産システ ムの普及は、すべての起業家の参 入ハードルを引き下げるものであ るため、製品開発をめぐる競争は 激 し さ を 増 す こ と に な る。 ま た、 模倣行為も多いため、開発から得 られるはずの利益が一部漏出する 可能性も高い。そのため、起業家 は競争や模倣にも耐え得る強みを 構築しなければならない。そのた め、 前 出 の Joffe 氏( HAX ) は、 ハードウェアとしての製品そのも のをコピーすることは容易なため、 複数の機能を組み合わせたり、ユ ーザーとのコミュニティを構築す ることで、模倣の難易度を上げる 必要がある、と指摘していた。た とえば、DJIによれば、同社は ドローンのコア部品を外販してい るが、そのすべてを組み合わせた ドローンはDJI製より割高にな ってしまうため、同等のものであ れば競争力の維持は可能とのこと で あ っ た。 ま た、 Makeblock に よれば、高品質のハードウェアに 加えて、 使いやすいコントロール ・ システムやユーザーとのコミュニ ティ等も製品の価値を高める重要 な要素であるため、すべてを模倣 することは困難とのことであった。 しかし、ドローンやロボットキ ット、家庭用ロボット等、あらゆ る製品カテゴリーで参入が相次ぎ、 競争は激化している。したがって、 事業が成功すればするほど追われ る 立 場 に も な っ て い く。 そ の 際、 価格帯や品質の高低で棲み分けが 進むのなら、先発企業が先進国市 場や中国国内のハイエンド市場を 牽 引 し、 「 山 寨 」 を 含 む 後 発 企 業 が中国国内のボリュームゾーンを 攻略することになるかもしれない。 外資系企業のみならず、一部の地 場企業も模倣の対象となることで、 中国地場のスタートアップといっ ても、二つのグループに分ける必 要が出てくるようになるだろう。●
中
国
企
業
の
変
化
②:
中
国
発
ボ
ー
ン・
グ
ロ
ー
バ
ル
企
業
の
増加
第二の変化は、創業当初からグ ローバル市場を狙う企業が増えた ことだ。中国企業の成長プロセス を市場からみると、国内市場でシ ェア上位となってから、海外に進 出する流れが一般的だった。また、 海外市場も、先進国市場ではなく、 発展途上国や新興国市場であるこ とが多かった。比較的新しい製品 であるスマホでも同じパターンだ。 また、 中国政府による 「走出去」 (海 外進出)政策の後押しもあって海 外進出は増えたが、一部の企業を 除けば、まだそれほどグローバル 市場を獲得しているわけではない。 し か し、 D J I や Seeed 、 Makeblock 等 は、 大 き な 国 内 市 場を擁する家電やスマホ等とタイ プが異なる製品を扱っているとい う面もあるが、いずれもが海外市 場、とりわけ欧米市場から開拓を 始めている。グローバル化やスタ ートアップ・エコシステムの充実 を背景に、創業当初から海外展開 を果たす、生まれながらのグロー バル企業―ボーン・グローバル企 業―が世界的に増えているが、中 国でも注目を集める時代になった。 中国の製造業とその市場がある程 度成熟したタイミングで、新しい 市場の誕生と新しい生産システム の普及を迎えたため、初めからグ ローバル市場に適応したかたちで 事業を営む企業が増えるようにな ったようだ。 また、深圳で製品開発や量産化 する外国人起業家が増えているこ とも、深圳のスタートアップの海 外展開を一層加速させる要因にな るかもしれない。外国人起業家と の交流を通じて、中国人起業家に 海外の市場やパートナーに関する より多くの情報が伝わる可能性が ある。●おわりに
中国経済のさらなる成長のため、 スタートアップへの期待が高まっ ているが、政策や投資の動向にも 注意する必要がある。二〇一五年 の「双創」政策以降、起業に対す る 政 府 の 後 押 し が 大 き く な っ た。 また、これにともない、VC等を 通じた投資も勢いづいている。深 圳等の大都市の起業熱については、 政策が実態を後追いしている部分 もあるが、中国全土で起業熱が過 熱しているのであれば、政策が下 火になった時の影響を見極める必 要がある。 それでも、中国経済のさらなる 成長にとって、起業を通じたイノ ベーションは重要だ。今後、どの ようなスタートアップが急成長す るのか、引き続き注目していく必 要がありそうだ。 ( き む ら こ う い ち ろ う / ア ジ ア 経済研究所 技術革新・成長研究 グループ) 《注》 ⑴ 本稿は参考文献①および②を加 筆・修正したものである。執筆 のため、 自身の現地調査(随時) に加え、高須正和氏(チームラ ボ)企画の第四~六回ニコニコ 技術部深圳観察会(それぞれ二 〇 一 六 年 四 月、 八 月、 一 〇 月 ) や A m er ic an C h am b er o f Commerce in Hong Kong の 調 査ミッション (二〇一六年六月) に参加した。 ⑵ 外資系企業に対する地場企業の 優位性については、中国のWT O加盟(二〇〇一年)まで、国 内市場がある程度保護されてい た こ と も 大 い に 関 係 し て い る。 しかし、多くの地場企業が参入 し、激しい競争を展開したこと で、地場企業共通の強みが形成 されたことも過小評価できない (参考文献⑥) 。 ⑶ メ イ カ ー( maker ) と は、 3 D プ リ ン タ ー や オ ー プ ン ソ ー ス・ ハードウェア等の新しいツール や サ ー ビ ス を 活 用 す る こ と で、 多くの経営リソースを持つ製造 企業(メーカー)にしかできな かったモノ作りを、一人や少人 数で行う人たちのことである。 《参考文献》 ① 木 村 公 一 朗「 中 国: 『 創 新( イ ノベーション) 』政策が広がり、 『 創 新 』 は 広 が る か?」 海 外 研 究員レポート(アジ研ウェブサ イト) 、二〇一六年。 ② ―――「中国:深圳のスタート ア ッ プ と そ の エ コ シ ス テ ム ( Ver. 3 )」『アジアの出来事』 (ア ジ研ウェブサイト) 、二〇一六年。 ③ 丸川知雄『チャイニーズ・ドリ ーム――大衆資本主義が世界を 変える――』ちくま新書、二〇 一三年。 ④ ―――『現代中国の産業――勃 興 す る 中 国 企 業 の 強 さ と 脆 さ ――』中公新書、二〇〇七年。 ⑤ 渡邉真理子編『中国の産業はど のように発展してきたか』勁草 書房、二〇一三年。 ⑥ K im ur a, K ., T he G ro w th o f C hin es e E le ct ro nic s F irm s: G lo b a li z a t io n a n d O rg an iz at io ns , N ew Y or k: Palgrave Macmillan, 2014. ⑦ ― ― ― "O ve rs ea s E xp an sio n an d T ec hn olo gic al C ap ab ilit y,"IDE Interim Report
, 2017. ⑧ 木村公一朗「中国経済の変化と グローバル経済への影響:AS E A N の ケ ー ス 」『 東 亜 』 No. 589 (七月号) 、二〇一六年。 ⑨ 深圳市福田区委区政府編『解碼 深圳・華強北』広州:広東科技 出版社、二〇一五年。 ⑩ 丸川知雄「深圳・中国イノベー ションの首都」第六六回日本現 代中国学会全国学術大会での報 告、二〇一六年。 ⑪ 木村公一朗「香港のスタートア ップ」海外研究員レポート(ア ジ研ウェブサイト) 、二〇一五年。 ⑫ 鈴 木 真 二 監 修・ ( 一 社 ) 日 本 U AS産業振興協議会編集『トコ トンやさしいドローンの本』日 刊工業新聞社、二〇一六年。 ⑬ 伊藤亜聖『中国ドローン産業報 告書――一四億人の「空の産業 革命」――』 (草稿版) 、二〇一 六年。 ⑭ 高須正和+ニコニコ技術部深圳 観察会編『メイカーズのエコシ ステム 新しいモノづくりがと まらない。 』インプレスR&D、 二〇一六年。 ⑮ アンダーソン、クリス著・関美 和訳『MAKERS:二一世紀 の産業革命が始まる』NHK出 版、二〇一二年。 ⑯ 木村公一朗「技術開発環境とR &D : 電機 ・ 電子産業のケース」 加藤弘之・梶谷懐編『二重の罠 を 超 え て 進 む 中 国 型 資 本 主 義: 「 曖 昧 な 制 度 」 の 実 証 分 析 』 ミ ネルヴァ書房、二〇一六年。