特集にあたって (特集 イメージと実態の中間層)
著者
濱田 美紀
権利
Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア
経済研究所 / Institute of Developing
Economies, Japan External Trade Organization
(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp
雑誌名
アジ研ワールド・トレンド
巻
204
ページ
2-3
発行年
2012-09
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
URL
http://hdl.handle.net/2344/00003868
この特集は、 ﹁﹃中間層﹄につい て書いて下さい﹂というごく簡単 な依頼に応じて書き集められた一 五カ国の﹁中間層﹂に関するエッ セイ集である。最近﹁中間層﹂と いう言葉が 、新興経済 、購買力 、 ボリュームゾーンなどと何かしら ビジネスの色を帯びたものに固定 化されてきたように思われたた め、世界各国の中間層を横並びで みることで、さまざまな中間層の 様子をみてみようということに なった 。﹁中間層﹂というお題に 対して 、一五カ国それぞれで異 なった視点から様々な中間層像が 描かれており、この違いこそ各国 の﹁いま﹂を表しているのだとい える。興味深いのは、多くの筆者 が中間層について書きながらも ﹁中間層内部には大きなばらつき がある﹂ことを指摘していること である。中間層という言葉で、何 かしらの人々をひとくくりにする ことの違和感を、研究者たちが感 じている表れであるともいえる。
●ビジネスとしての中間層
中間層という言葉を頻繁に耳に するようになったのは、二〇〇九 年くらいからではないだろうか 。 そのころはBOP ︵ Base of the Pyramid ︶という言葉がまだ耳新 しく、巷ではBOPビジネスの特 集がそこかしこで組まれていた 。 それまで援助対象としてしか映ら なかった途上国を日本企業がビジ ネス対象とみなし始めた時期であ る。途上国の貧困層も購買力をも つというあたりまえの事実の発見 によって、途上国が市場となった が、貧困層より購買力をもつ中間 層を市場ととらえる方が、日本の ハイエンドな製品を売り込むうえ では、よりクリアーなビジネスモ デルを描ける。そこで、さらなる ビジネスチャンスとして ︵富裕︶ 中間層が 、﹁アジアを内需に﹂と いう掛け声とともに注目され始め た。二〇〇九年版通商白書で示さ れた中間層の定義は﹁世帯可処分 所得が五〇〇一ドル以上三万五〇 〇〇ドル以下﹂であった。●中間層とは誰か?
Middle C lass に 対 応 す る 中 間 層、 中流、 中 産階級が指すも の は、 時代 や分野よ っ て 変化する 。 従 来、 自営業者などが中間層とし て定義 され て い たが、 経 営 ・ 管理職、 専門 ・ 技術職など の ホ ワ イトカ ラ ー の 存 在が大きくなる に つ れ 、 従来 の中 間層と区別され新中間層と し て 位 置づ けられるようにな っ た 。 で は、 各国の中間層はど のくら い の割合 だろ うか ︵ 図 1参照 。 比 較 の ため に日 本とアメリカも 加 えて いる︶ 。 ホ ワ イトカ ラ ー に 相当する職業 の 割合 の 多 い 順 に並 べ て い る が 、 お およそ経済規模 ︵ 一 人 当たり 名 目 GDP︶ と 対 応している 。 経 済 発 展の レ ベ ル に 応じて経 済 構 造 も 変 化し 、 ホ ワイトカラーとグ レーカ ラーが過半とな っ て い る国 で は 、 もは や中間層とな る こ と は 目的 で はなく な り 、 関心は中 間 層 のなか でいかに 上に 浮 上 す る か 、 も し く は い か に 中間層から脱 落 しな い か、 と い う 二 方 向 に 分 化 し て い る と思われる。 特に中間層の瓦解は、 アメリカをはじめとした先進国で 問題 にな っ て おり、 本 特集 でも ﹁中 間層は い ま 、 崩壊 の危機 に 直面し ている ﹂ で 始 ま る 台 湾 で は 、創 業 機 会 を失 っ た 自営 業者からなる旧 中間層が減少し 、 さ ら に 新中間層 も失業と所得 の低迷 に 不安を抱 い ている 。 韓 国 も 同 様 で 、中 間 層 は 厚い層 を なしている も のの 、 ア ジ ア通貨危機後階層分化が進 み 、 雇 用に対 す る不 安が付きまと っ て い る。 階 層 維 持 の 決 め 手 と な る は ず の高学歴も熾烈な学歴競争社会 の なかでは ︵図 2参照︶ 、 有 効 な 手 立てで は な く な っ て い る 。 ベトナム 中国 インドネシア タイ フィリピン メキシコ ブラジル サウジ エジプト 南アフリカ マレーシア 韓国 台湾 アメリカ 日本 シンガポール 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 (%) 60,000 50,000 40,000 30,000 20,000 10,000 − (米ドル) ■1.立法議員、上級行政官、管理的職業 ■4.事務的職業 ■7.熟練職業および関連職業 ◆ 一人当たり名目GDP(2011:右軸) ■3.技術者および準専門的職業 ■6.熟練の農林漁業 ■9.初級の職業 ■2.専門的職業 ■5.サービス職業、店舗および市場での販売 ■8.装置・機械操作員および組立工 図1 職業別就業者割合と一人当たり名目GDP (注) 1) インドはデータなし。 2) 中国・ベトナムは2005年、エジプトは2006年、ブラジルは2007年、その他 は2008年の数値。(出所)ILO, Labour Statistics Database.