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読みへの橋渡しを目指した日本語支援の提案 : ダブル・リライト教材使用の試み

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─研究論文─

読みへの橋渡しを目指した日本語支援の提案

─ダブル・リライト教材使用の試み─

平田 昌子 要 旨  JSL の子どもたちが、学習言語としての読む力を獲得しようとする際、認知的にも精神 的にも大きな負担となる。そのため、日本語で書かれた読み物を前にすると、固まってし まったり、拒絶したりするなど読みへのアレルギーを抱えている子どもたちは少なくない のではないだろうか。そこで、彼らの負担を軽減し、スムーズに読みの活動に移行できる よう何らかの支援が必要となる。  本研究では、「母語リライト」と「易しい日本語リライト」の 2 種類を用いた二言語併用 リライト教材(国語科編)を使用し、子どもたちとのやり取りから読みの姿勢の変化を観 察するとともに、「予測」「再生(要約)」「内容理解度」の観点から「読む力」について調査・ 分析を行った。また、ダブル・ダブルリライト教材(算数編)を用い、子どもたちの得意 科目に読みの活動を取り入れた実践を行い、学習言語としての読みへの橋渡しとなるよう な支援を提案する。  【キーワード】 読む力、JSL の子ども、リライト教材、国語科、算数科 1.はじめに  日本語支援の初日に、学校での様子や友だちのこと、日本での生活について、子どもた ちと色々な話をするようにしている。その中でも、学校での授業について質問すると、ど の子どもたちからも「国語」「社会」「理科」が嫌いだという声が上がる。しかし、これらの 教科が以前から苦手だったというわけではない。「国語や社会、理科が得意だったのに、 日本に来たら苦手科目になって悲しい。(韓国人女子生徒)」という発言にあるように、教 科自体は得意であったのに、言語への依存が強い教科の為、移住し、学習言語が変わった 途端、不得意になってしまった。さらに言えば、嫌いになってしまったという子どもたち も少なくない。  本研究で協力を得た子どもたちは、日本に永住、または少なくとも独立するまでは日本 に滞在する予定の子どもたちである。そのため、早急な学習言語能力の習得が求められる。 学習言語能力の習得には、5 年∼ 7 年かかるといわれているが、学習言語能力が身につく まで、教科学習に参加できないとなると、発達途上の子どもたちにとって、学習が断絶さ れる可能性が高くなる。それを避けるためにも、一刻も早く読みの力1)をつける必要があ る。しかし、筆者の今までの経験・失敗を踏まえると、第二言語の読みの入り口で躓いて

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しまうと読みに対するアレルギーを抱えてしまう子どもが少なくない。  そこで、読みの活動への入り口及び教科学習を視野に入れた活動への橋渡しとなるよう な日本語支援の方法を探るため、「ダブル・リライト教材」を使用した支援を行った。なお、 「ダブル・リライト教材」とは、イメージ図や母語を用いて概念を理解するものと、原文 を易しい日本語にリライトしたものをダブルで使用する教材を指す。本研究では、ダブル・ リライト教材の中の「二言語併用リライト教材(国語編)」及び「ダブル・リライト教材(算 数編)」を用いた実践を取り上げ、子どもたちが学習言語を視野に入れた読みの活動へス ムーズに移行できるような支援方法を提案することを目的とする。   2.先行研究  JSL の子たちにとって、日本語の習得もさることながら、学習言語能力の習得が大変重 要である。石井(2006 : 6)で述べられているように、年少者日本語教育が成人を対象とし た日本語教育と決定的に異なる点は、「新しい言葉の習得が、言語形式と同時に新しい概 念の獲得であり、それは同時に新しい概念を学んでいくための言語能力を獲得する過程」 であり、移動や学習言語が日本語に変わったからといって、学習の断絶を起こすわけには いかない。彼らは、発達途上の段階であり、日本語はもちろん学ぶべきことは山積みであ る。H 市の日本語支援教室に来る子どもたちは、口頭コミュニケーション上では、何ら問 題なく意思疎通が可能だが、在籍学級の授業を理解することには大変困難を感じている。 石井(2006 : 6)では、このような子どもたちに必要なのは、「体験的に理解した言葉によっ て明確化、精密化し、既存の知識や経験と関係づけ、構造化するための言葉となりえる日 本語の力」だとし、学習言語能力の獲得の必要性が挙げられている。しかし、学習言語能 力を習得するまで、教科学習が進められないとなると、発達途上にある子どもたちの学習 が断絶され、学習における「空白の時間」が生じてしまう。このような「空白の時間」は最 小限に抑えなければならない。池上(1998)では、日本語と教科を統合することの重要性 を挙げ、学習に必要となる言語を学習が行われる文脈から極力切り離さない日本語指導が 提案されている。さらに齊藤(1999 : 73)では「教師やクラスメートとの意味のある自然な コミュニケーションが展開される内容重視の日本語教育」が教科学習に適していると述べ られている。以上により、初期の段階から、教科学習の橋渡しとなるような活動を取り入 れることが重要だと考えられる。  松田(2009)では、入国後の早い時期から教科学習に参加できるようリライト教材を用 いた支援が提案されている。中田(2009)では、様々な日本語レベルを有する JSL の子ど 1) 通常学級に参加する場合、ただ単に教科書の内容が理解できればいいというものではない。教科書か ら読み取った内容を自分の中に吸収し、主人公の気持ちになったり、著者の言おうとしていることを 汲み取ったりしなければならない。そして、自分の考えや経験と結びつけ、その考えをまとめ、表現 する力が必要となる。よって、本研究における「読む力」とは内容の読み取りから産出までの力を意味 する。

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もたちに対し、あらすじをリライトした教材を用いた実践が行われている。また、柴崎 (2005)では、第二言語読解において、テキスト内容の背景知識とともに語彙知識が大き く影響していると述べられている。  これらの先行研究より、入国後なるべく早い時期から教科学習につながる読みの力を獲 得するため、母語やリライト教材を用いて背景知識を活性化させ、スキャホールディング を行いながら、語彙知識を補う読みの活動が重要だと考える。また、このような読みの活 動を通し、子どもたちと様々なやり取りを行い、意味のある文脈の中での言語使用が学習 言語への橋渡しになると思われる。 3.二言語併用リライト教材使用の試み ─国語科3.1 二言語併用リライト教材とは  二言語併用リライト教材では、母語リライト教材と易しい日本語リライト教材の2種類 を使用する。母語リライト教材とは、物語の大枠だけを抜き出したものを母語に翻訳した 教材である。易しい日本語リライト教材とは、なるべく原文の表現を生かしつつ、難しい 表現を取り除き、易しい日本語にリライトした教材を指す。初めに母語リライト教材を読 み、その後、易しい日本語教材をスキャホールディングしながら読み進める。以上のよう に 2 種類のリライトを用いたものを二言語併用リライト教材という。  この二言語併用リライト教材を使用すると、物語の大枠を母語で捉えている為、読み間 違いが生じても、大きく脱線する可能性が低くなる。その上、母語リライト教材が既有知 識となり、読むことに対する認知的負担は減少すると考えられる。しかし、母語リライト 教材は、全訳や要約ではなく、原文の「誰が、何を、どうした」というような大枠しか抜 き出していない為、急に話が飛んだり、説明不足により話がつながらなかったりする箇所 が出てくる。話がつながらない箇所を予測させたり、枠と枠の間にどのようなことが書か れているのかを焦点化させてから、易しい日本語リライト教材を読み始めると、母語リラ イト教材を読んだ際に感じた疑問点や自分が予測した箇所に意識が集まるため、さらに読 みが深まると思われる。  二言語併用リライト教材は、日本語の力が十分に達していなくても、母語とリライトと いう手段使い、JSL の子どもたちの認知的レベルになるべく近づけた教材を読めるように することを目的としている。   3.2 調査協力者プロフィール  筆者は、H 市立の小学校および在宅で二言語併用リライト教材を使用した日本語支援を 行ってきた。本研究では、これらの活動を通して得られたデータを基に分析を行う。表 1 に調査協力者のプロフィールをまとめる。調査協力者を示す記号として、それぞれ国籍、 性別、名前を表すアルファベット 3 文字を使用した。

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表 1 調査協力者プロフィール 協力者 VFN CMH CMT 母 語 ベトナム語 中国語 中国語 家庭内言語 日本語(ベトナム語) 中国語 日本語(中国語) 両 親 父:日本人 母:ベトナム人 父母:中国人 父母:中国人 義父:日本人 年齢・在籍学年 11 歳・小 5 11 歳・小 5 14 歳・中 1 来日時期 (来日年齢) 2010 年 4 月 10 歳 7 カ月 2009 年 3 月 9 歳 4 カ月 2009 年 7 月 13 歳 0 カ月 ※本来の学年より  1学年下に在籍 来日前の 日本語学習歴 なし なし なし 読み書き能力 ひらがな◎ カタカナ○ 漢字 小1レベル ひらがな◎ カタカナ◎ 漢字△(意味は取れる が読み方に苦戦) ひらがな◎ カタカナ◎ 漢字△(意味は取れる が読み方に苦戦) 日本語支援期間 2010 年 6 月─現在 2010 年 6 月─現在 2010 年 10 月─現在 支援形態 取りだし授業 週 2 回 1 回 45 分 取りだし授業 週 1 回 1 回 45 分 在宅支援 週 1 回 1 回 60 分 3.3 調査方法  本研究では、取り出し授業および在宅支援における二言語併用リライト教材を用いた活 動を通して得られたデータと、調査協力者と筆者とのやり取りを基に、教科学習への橋渡 しとなるような読みの支援方法を探る。  まず、母語リライト教材を読み、わからなかった点や疑問に感じた点を確認する。その 後、易しい日本語教材をスキャホールディングしながら、読み進める。理解を促進させる ため、ワークシートや筆者とのやり取りをしながら、意味や内容の確認をする。以下に、 実施時期、時間及び取り上げたテキストを記す。   【VFN】 実施時期:2010 年 11 月 9 日、12 日、16 日、19 日、26 日   所要時間:150 分 使用教材:「わらぐつの中の神様」 『光村図書 5 年下』 【CMH】 実施時期:2010 年 10 月 20 日、27 日、11 月 3 日、10 日、17 日 所要時間:125 分

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使用教材:「わらぐつの中の神様」 『光村図書 5 年下』 【CMT】 実施時期:12 月 7 日、14 日、21 日 所要時間:120 分 使用教材:「未来をひらく微生物」『光村図書 中学 1 年』  読後、彼らの読む力の変化を観察するため、Beaver(2006)が提唱した「Developmental Reading Assessment」を参考に、予測・再生(要約)・内容理解度の観点から読む力の評 価及び分析を行った。評価方法は以下の通りである。   (1)予測  表紙・または冒頭部分で、その後のストーリーが予測できるかを測定する。 レベル 1:教師に促された時にのみ、本の中で何が起きるのか短くコメントできる レベル 2:教師の促しとともに、本の中で何が起きるのか説明できる レベル 3:重要なシーンを並べ、「はじめ・なか・おわり」が説明できる レベル 4:これから起こりうる出来事を順序立てて説明でき、詳細なシーンを描写できる       (2)再生(要約)  小学 1 年から 6 年については、一通り本を読み終えたら、本を見ずに話を再生できるか を測定する。 レベル 1:教師に促された時にのみ、短くコメントすることができる レベル 2:教師の促しとともに、内容を説明できる レベル 3:重要事項を並べ、「はじめ・なか・おわり」が説明できる レベル 4:順序どおり正確かつ細部にわたり説明できる  中学1年では、扱う内容が長いこと、さらに学習指導要領において「中心的な部分と付 加的な部分の読み分け」が求められていることより、「再生」ではなく「要約」とする。 レベル 1:教師に促された時にのみ、短くコメントすることができる レベル 2:教師の促しとともに、内容を説明することができる レベル 3:重要事項を並べ、まとまりはないが内容を説明することができる レベル 4:中心的な部分をしっかりと捉え、内容をまとめて説明することができる (3)内容理解度  平田(2010)では、内容理解度の評価方法として、Raphael(1986)の「Question Answer Relationships(以下 QAR)」を援用し、内容理解度を測る質問文を作成した。口頭にて質 疑応答を行い、その回答を評価基準に従い内容理解度を測定した。「QAR」を枠組みとして、 作成した評価項目は以下の通りである。

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表 2 評価項目(Raphael(1986)の枠組みを援用し筆者作成) 直接的手がかり型 (Right There) 解答がテキストの中にあり、たいていたやすく見つけられるもの。解答 には単語や語句が、設問を表す文の中に含まれているもの。 分散的手がかり型 (Think and Search)

解答がストーリーの中にあり、回答者がいろいろな話の部分を集める必 要があるもの。

示唆的手がかり型 (Author and You)

解答はストーリーの中にはない。読者がすでに知っていることや作者が 述べていることの両方をいかに統合するかが問われている。 独立的手がかり型 (On My Own) 解答は、ストーリーの中にはない。テキストを読まなくても解答するこ とができる。自分自身の経験を用いる必要がある。  しかし、上記の枠組みでは、子どもたちの認知能力に関しては、十分に考慮されていた とは言えない。そのため、項目によっては、日本語の力が十分ではないために評価が低い のか、認知能力が十分に発達していないため、評価が低いのか判断することができない。 また、Raphael(1986)の枠組みを用いると、学習指導要領で求められている能力以上の ものに質問項目が及んでしまう恐れがある。  そこで、平田(2011)では、小学校学習指導要領(2008)と照らし合わせ、各学年でどの ような認知的能力が求められているのかを把握し、QAR と組み合わせた新たな枠組みの 作成を試みた。本研究では、2010 年 10 月より CMT(中 1)を調査協力者として得たため、 さらに中学校学習指導要領(2008)と照らし合わせ、評価項目を修正した。  以下に、学習指導要領国語科国語編に記載されている「文学的な文章の解釈に関する指 導事項」に照らし合わせ、学年ごとに新たに筆者が作成した評価項目を示す。なお、「独 立的手がかり型」については表 5 に別記する。 表 3 文学的な文章における学年別評価項目 学年 QAR 質 問 内 容 小 1・2 直接的手がかり型 1つの場面内に限った変化や登場人物の行動を中心に質問を作成 小 3・4 直接的手がかり型 登場人物の性格、気持ちの変化、情景などに関することを中心に 質問 分散的手がかり型 場面と場面を結び付けて、答えるような質問 小 5・6 直接的手がかり型 中心となる登場人物について、その相互関係をとらえ、それらに 基づいて心情や場面の描写をとらえる質問 分散的手がかり型 登場人物の相互関係から人物像やその役割をとらえ、そのことに よって、内面にある深い心情も合わせてとらえる質問 示唆的手がかり型 暗示的に表現されている部分に関する質問 中 1 直接的手がかり型 場面の展開や登場人物について、その相互関係をとらえ、それら に基づいて心情や場面の描写をとらえる質問 分散的手がかり型 場面の展開や登場人物の相互関係から人物像やその役割をとらえ、 そのことによって、内面にある深い心情も合わせてとらえる質問 示唆的手がかり型 暗示的に表現されている部分に関する質問  

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 以下に、学習指導要領国語科国語編に記載されている「説明的な文章の解釈に関する指 導事項」と照らし合わせ、学年ごとに新たに筆者が作成した評価項目を示す。なお、「独 立的手がかり型」については表 5 に別記する。 表 4 説明的な文章における学年別評価項目 学年 QAR 質 問 内 容 小 1・2 直接的手がかり型 順序や手順に沿って、理解できているかを問う質問 小 3・4 直接的手がかり型 筆者がどのような事実を、原因や理由として挙げているのか。ま た、それについてどのような考えや意見を述べているのかを捉え る質問 分散的手がかり型 小 5・6 直接的手がかり型 筆者がどのような事実を、原因や理由として挙げているのか。ま た、それについてどのような考えや意見を述べているのかを捉え る質問 分散的手がかり型 示唆的手がかり型 筆者の意図や思考を想定し、自分の考えを明確に述べるような質 問 中 1 直接的手がかり型 中心的な部分と付加的な部分、事実と意見などを読み分け、内容 をとらえる質問 分散的手がかり型 示唆的手がかり型 筆者の意図を推論したりしながら、自分の目的や意図に応じて考 えをまとめたり、深めたりするような質問  以下に、「独立的手がかり型」に対する学年ごとの評価内容を示す。 表 5 質問項目「独立的手がかり型」に関する学年別評価内容 学年 評 価 内 容 小 1・2 想像力を駆使して答えることができるか? 小 3・4 自身の経験と結び付けて、具体的に答えることができるか? 小 5・6 自身の経験と結び付け、自分の考えをまとめることができるか? テキストの表 現や内容について評価したり、自分の表現に生かしたりすることができるか? 中 1 経験や体験を踏まえ、分析、比較、推論し、考えをまとめることができるか?

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 上記の評価項目の出題数を「直接的手がかり型」5 問、「分散的手がかり型」5 問、「示唆 的手がかり型」3 問、「独立的手がかり型」2 問と定めた。「直接的手がかり型」「分散的手 がかり型」の解答は、櫻井(2007)に従い、「正答」が 100%、「不十分な解答」が 50%、「誤答」 が 0%として、内容理解度の正答率を計算した。評価基準に照らし合わせ、各項目のレベ ルを判定した。評価基準は以下の通りである。 表 6 評価基準(Raphael(1986)の枠組みを援用し筆者作成) 直接的手がかり型 レベル 1:正答率が 30%未満 レベル 2:正答率が 30%以上 60%未満 レベル 3:正答率が 60%以上 90%未満 レベル 4:正答率がほぼ 90%以上 分散的手がかり型 示唆的手がかり型 レベル 1:全く関係のないことを答える。または答えない。 レベル 2:短く答える。理由などは、はっきり説明できない。 レベル 3:なぜ、そう思ったのか理由までしっかりと説明できる。 レベル 4:理由を詳細に説明し、共感したり、推測したりできる。 独立的手がかり型 3.4 調査結果及び分析 (1)VFN  来日後 1 カ月半から、日本語支援を開始したため、あいさつや文字などの初期指導から 始めた。10 月に入り、読みへの第一歩としてクラスメートとの交換日記を通した日本語 支援を行っていた。毎日、VFN が友人と交わしている交換日記を読んだり、コメントを 書いたりするうちに、だいぶ読みへの抵抗が少なくなってきた様子が見られたので、11 月より二言語併用リライト教材を用いた活動に入ることにした。  産出面では、依然単語を並べるか、短い単文が話せる程度であった。そのため、一段落 を読み終えるごとに、丁寧に意味を確認していった。その際、非常に有効だったのは、筆 者と VFN とリレー方式2)で内容を一文ずつ再生していくことであった。VFN は実体験で あっても、因果関係を捉えて、話すことがまだできない状態だったが、このリレー方式の 再生を行うと、出来事や因果関係を押えながら、読み進めることができた。さらに、産出 量も増え、驚かされることが多々あった。以下に、VFN の調査結果を示す。 2) VFN 一人の力では、再生を行うことが困難なため、筆者と VFN と一文ずつ交代をしながら、物語の再 生を行った。このような再生方法をリレー方式と呼ぶ。

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表 7 VFN 読む力の調査結果 物語文 「わらぐつの中の神様」 予      測 ─ 再      生 2 内 容 理解度 直接的手がかり型 4(正答率 90%) 分散的手がかり型 2(正答率 50%) 示唆的手がかり型 1 独立的手がかり型 2  タイトルから物語の予測、挿絵から物語の予測を試みたが、答えることができなかった。 再生では、筆者のスキャホールディングとともに、物語内で起きた出来事を順序通りに並 べることはできたが、登場人物の心情などを描写することはできなかった。「直接的手が かり型」「分散的手がかり型」では、回答が不十分な部分があったものの、なんとか答える ことができている。しかし、「示唆的手がかり型」の登場人物の心情を問うような質問に なると、全く答えることができていない。物語の中で何が起こったのかという事実は、読 み取れていても、登場人物の心情などは読み取れていないことが明らかになった。一見、 母語リライト教材の事実部分を回答しているように見えるが、母語リライト教材では省略 された箇所に関する質問にも答えられていることから、母語リライト教材のみに頼ってい るわけではないことがわかる。さらに、読後の感想を聞くと、主人公の家は、貧しくて雪 下駄を買ってもらえなかったため、自分で藁靴を作って売る場面が一番好きだと答えた。 どうして、その場面が好きなのか尋ねると、「おみつさん(主人公)と私、同じ。小さい弟 いる。お父さんとお母さん大変。」と答えている。主人公の家は貧しく、さらに小さな弟 や妹がいるため、両親にわがままが言えず、我慢する描写があるが、その場面を自らの体 験と結びつけられていることが分かる。以上により、二言語併用リライト教材を用いれば、 初期指導を終えたばかりの VFN であっても、教科学習で取り上げられる教材の内容を捉 え、自身の体験に密接な場面に対しては、登場人物の心情にも共感できるようになるとい うことが明らかになった。 (2)CMH  CMH とは、以前から二言語併用リライト教材を用い、様々な読み物を取り上げてきた が、在籍学級における授業と同じ内容を扱ったのは、「わらぐつの中の神様」が初めてで ある。平田(2011)の調査結果「五色のしか」「みつばちのダンス」とも併せて、縦断的に

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CMH の読みがどのように変化してきたのかを分析する。  まず、読みに対する姿勢の変化を分析する。平田(2011)によると、CMH は予測や「独 立的手がかり型」の質問や、理由や根拠を求められると、すぐに「わからない」とあきらめ てしまったり、急に声が小さくなり、落ち着きがなくなるというような傾向があった。し かし、二言語併用リライト教材 3 作品目にあたる「わらぐつの中の神様」では、理由や根拠 についても、説明しようとする姿勢が見受けられ、さらに「わからない」と口に出しても、 あきらめずに答えを探し続ける様子が見られた。また、筆者がスキャホールディングしよ うとすると、「ちょっと待って!」と遮り、自分で答えを導き出そうとする様子も見られた。  次に、1 回の支援で読める量の変化について見ていく。「五色のしか」では、A4 用紙に 14 フォントで書かれた文章 500 ∼ 550 文字を読み切るのがやっとという状態だった。「み つばちのダンス」では、同様の用紙・フォントで 626 文字を読み切るようになった。「わら ぐつの中の神様」では、最終的に 1000 文字以上のまとまりを読めるようになった。支援を 開始した当初、筆者は一度に全ての教材を CMH に渡してしまい、CMH に恐怖心を与え てしまった。その失敗を踏まえ、支援を始める前に、今日は何枚読めるのか本人に決めて もらってから読むように支援方法を変更した。その結果、だんだんと読める量が増えるよ うになった。この変化は、読む力がついてきたことはもちろんだが、CMH の読むことに 対する自信が強く影響していると思われる。後日談として、CMH から「はじめて鹿の話 を渡された時、こんなに(教材が)厚くて、日本語がいっぱい書いてあって、頭がグルグ ルになった。」という話を聞いた。やはり、読みの活動は、子どもたちにとって精神的に 負担が大きいものなのだということを改めて痛感させられた。また、「読めた」という自 信が読みの姿勢および量に大きな変化をもたらすということが明らかになった。  最後に、どの程度読みが深まったのかという点について、分析する。3 作品の読む力の 調査結果を以下に示す。 表 8 CMH 読む力の調査結果 物語文 『五色のしか』 説明文 「みつばちのダンス」 物語文 「わらぐつの中の神様」 予    測 2 2 2 ∼ 3 再    生 2 3 2 ∼ 3 内 容 理解度 直接的手がかり型 2(正答率 50%) 4(正答率 100%) 4(正答率 100%) 分散的手がかり型 2(正答率 50%) 3(正答率 70%) 3(正答率 70%) 示唆的手がかり型 3 3 3 独立的手がかり型 2 2 3

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一見、あまり変化していないように見えるが、扱っている内容が全く違う。「五色のしか」 及び「みつばちのダンス」は小学校低学年用の教材であるのに対し、「わらぐつの中の神様」 は在籍学級で扱われている内容にもかかわらず、物語の中で起こった出来事を的確に捉え られている。教材を読み進める中で、CMH とのやり取りを文字起こししたものを合計す ると 683 回3)に及ぶ。その中でも、行間から登場人物の心理を読みとることが求められる 「なぜ大工が主人公から藁靴を買ったのか」、「なぜ主人公を好きになったのか」について 何度も話し合った。残念ながら、タイトルにあるように、「心を込めて作ったものには神 様が宿る」という所までは内容理解度調査で出てこなかったものの、教材を読み、自分の 言葉で理由や根拠を説明できるようになったことは大きな進歩だと言えよう。このよう に、読後のやりとりは、単に文型や語彙を教えるのとは異なり、意味のある生きた文脈の 中での言語使用となり、学習言語能力の発達に大いに役立つと思われる。  また、「わらぐつの中の神様」は、他の 2 作品とは異なり、CMH にとって難しいが「頑張 らなくてはならないもの」と認識しており、読後「次のテストは 80 点取る!」と宣言して いる。このように、クラスメートと同じ本が「読めた」という自信が、学習意欲の向上に つながっていると言えよう。 (3)CMT  日本語支援を始めた当初、CMT から国語や社会は勉強したくないという意見が出た。 そのため、CMT の興味を持つような映画や好きな歌手の生い立ちなどをリライトしたも のを中心に、読みの活動を始めた。CMH や VFN に比べると、読むスピードが速く、分量 もかなり多くのものが読める。しかし、CMT の読みを観察すると、漢字のみを拾い読み していることが分かった。また、プリントやワークシートなどの宿題を手伝っていると、 問題文の言葉を拾って、該当箇所を見つけ、書き写す様子が見られた。一見、読む力があ るように見えるが、書かれている意味を問うと全く理解していないということが明らかに なった。そのため、文章を短く区切り、口頭でやり取りをしながら、意味を確認していく 支援方法をとるようになった。  12 月に入ると、CMT 本人から学校の国語の勉強をしたいという申し出があった。そこ で、二言語併用リライト教材を使用した「未来をひらく微生物」を取り上げた。以下に、 読みの力の調査結果を示す。 3) CMH と支援者との会話のターンが変わるごとに 1 回と数える。そのため、683 回とは CMH と支援者両 者の会話を含む。

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表 9 CMT 読みの力の調査結果 説明文「未来をひらく微生物」 予      測 2 ∼ 3 要      約 2 内 容 理解度 直接的手がかり型 4(正答率 100%) 分散的手がかり型 3(正答率 70%) 示唆的手がかり型 3 独立的手がかり型 3  教材を読みながら、口頭でやりとりをしながら、意味を確認していく作業を 618 回4) っている。CMT には、それが楽しく感じられてきたようで、支援の終わりには、「たくさ ん話して、のどが渇いた」という感想を毎回のように言うようになった。  「直接的手がかり型」では、細かいところまで覚えており、「この問題は難しくない。全 部教科書に書いてあるでしょ。教科書にない問題は難しい。」と述べている。しかし、「要約」 「分散的手がかり型」「示唆的手がかり型」などでは、文章を理解しているけれども、言葉 が出てこないようで、歯痒そうにジェスチャーや「バーン」「ブーン」という表現を用いて、 なんとか説明しようとする。中学校学習指導要領によると、体験や経験を踏まえ、考えを まとめることが求められているため、「独立的手がかり型」では、環境問題を解決するた めに何か発明品を考え、Word を使ってレポートを作成するという課題を出した。すると、 最近テレビで騒がれている異常気象を取り上げ、天気をコントロールする機械を発明する というレポートを作成した。どのようにコントロールするのかという根拠は述べられてい なかったが、なぜそのような機械が必要なのかという理由をしっかりと自分の言葉でまと めることができていた。  読後の感想では、読む前と考えが変わったと話してくれた。まず、CMT は環境問題に 関する勉強が嫌いだったという。学校でよく取り上げられるが、自分には関係のないこと だと考えていたようだ。現に、課題を出した際、研究者が考えればいいことで、CMT の ような一般人には関係のないことだという発言をしている。しかし、文章中の具体例を読 み、さらに筆者と話し合ううちに、「1 人 1 人が努力すれば環境を守れるようになるかもし れない。特に中国人は人口が多いから責任も大きい」と思うようになったという。以上の ように、日本語の読む力だけではなく、CMT の関心や他教科の学習にも結び付く活動だ ったと思われる。  また、授業中、教科書の内容が理解できず、宿題やテストのことを考えると、憂鬱だっ たが、筆者と具体例や意見などをやり取りするうちに、理解が深まり、授業も積極的に聞 4) 注釈3と同様に、会話のターンが変わるごとに 1 回と数える。

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いてみようという気持ちになったという。さらに、国語はテスト勉強をしても無駄だと思 っていたが、次回のテストは是非がんばりたいとやる気を見せている。 4.ダブル・リライト教材 (算数編)への試み  CMH から日本語支援の時間に算数の授業が当たってしまうため、変更することはでき ないかという申し出があった。その理由として、算数の時間を休むと、唯一得意だと思え る教科さえわからなくなってしまうからというものだった。さらに、H 市の日本語指導教 室の教員から、算数の文章問題をどう教えていいかわからないと相談されたことをきっか けに、支援内容を初期指導や国語科だけにとどまらず、算数も取り上げることにした。実 際に、算数の教科書(教育出版)から文章問題を抽出すると、以下の点が特徴として挙げ られた。   特定の表現が使われている。   例) 「ぜんぶで」 「あわせると」 「のこりは」 「等分すると」など   日本語教育の教科書ではあまり目にしない名詞が使われているが、小学校生活を送る 上では、頻出の名詞が多く使われている。    例)しおり、おはじき、針金 など   文章問題では、基本的な動詞が多く使われている。   例)食べる、作る、入れる、あげる、行く、帰る、飛んでいく など  以上の特徴より、初期指導の段階から、算数の文章問題を取り上げることにより、基本 動詞および学校生活を送る上で必要となる単語の習得にもつながると考える。また、比較 的ことばへの依存度が低い算数を伸ばすことにより、子どもたちの自己有能感5)を高める ことにもつながるだろうと考え、算数の支援を始めることにした。   4.1 ダブル・リライト教材(算数編)とは  ダブル・リライト教材(算数編)とは、そのまま原文を読ませるのではなく、文章問題 を「イメージ図」「易しい日本語にリライトした文章問題(以下、リライト文章問題)」にリ ライトしたものを使用する。その後、教科書の原文に挑戦するというものである。  母語話者が文章問題を解く際、「文章問題⇒イメージ⇒公式」という流れになると思わ れるが、JSL の子どもたちの場合、文章問題を読み取ることに苦戦し、なかなかイメージ を形成できないのではないかと考えた。そこで、以下のような手順を踏むことにより、文 章問題を解くことが可能になると思われる。なお、この活動は、すでに計算ができるとい う前提で、計算方法の導入に用いるわけではない。あくまで計算能力は身についているが、 文章問題になると、躓いてしまうという場合を想定している。 5) 自己の環境を効果的に処理することができる能力、または特定の行動を行う自らの能力に関する自己評 価のこと(縫部 2001:147)

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  以下に、ダブル・リライト教材(算数編)の手順を記す。 4.2 調査協力者プロフィール  調査協力者として、表 1 に記載した CMH, VFN に以下3名を加え、ダブル・リライト 教材(算数編)を利用した活動を行った。なお、VMN, VMK は VFN の弟で双子である。 以下に新たに加えた3名についてのプロフィールを記す。 表 10 ダブル・リライト教材(算数編)における調査協力者プロフィール 協 力 者 VMN VMK FFH 母     語 ベトナム語 タガログ語 家 庭 内 言 語 日本語(ベトナム語) タガログ語(英語) 両     親 父:日本人 母:ベトナム人 父母:フィリピン 年齢・在籍学年 7 歳・小 1 年 7 歳・小 1 年 来日時期(来日年齢) 2010 年 4 月 6 歳 7 カ月 2010 年 4 月 6 歳 2 カ月 来日前の日本語学習歴 なし なし 読 み 書 き 能 力 ひらがな◎ カタカナ○漢字 10 ∼ 15 個程度 ひらがな△ カタカナ△漢字 5 ∼ 10 個 日本語支援期間 2010 年 6 月─現在 2010 年 4 月─ 2010 年 9 月 支 援 形 態 取りだし授業 週 2 回 1 回 45 分 取り出し授業 週 1 回 1 回 60 分 ①「イメージ図」を見せ、いくつかある「公式」 カードの中から該当するカードを選ぶ。 ②「イメージ図」を見せ、いくつかある 「リライ ト文章問題」カードの中から該当 するカード を選ぶ。 ③ 「イメージ図」「公式」「リライト文章問題」そ れぞれのカードを裏返し、答えを確認。  正しいカードを選んでいれば、裏に書かれて いる絵がつながる仕掛けになっている。 ④全ての問題を③までこなし、最後のまとめと して、「リライト文章問題」だけを使って、も う一度問題を解く。解き終わったら、キーワ ードや単語の意味を確認する。 ⑤教科書の原文を解く。 クッキー ? クッキー ? 12÷4 12÷5 12×4 12+5 12−4 易しい日本語 リライト問題 1 易しい日本語 リライト問題 2 易しい日本語 リライト問題 3 易しい日本語 リライト問題 4 絵・図 公式 易しい日本語リライト 原文

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4.3 調査方法  まず、文章問題中に含まれる計算能力を確認する。その後、原文を読ませ、解けないよ うであれば、ダブル・リライト教材(算数編)を用いる。CMH は、教科書原文の文章問題 であっても正答することができたため、リライト教材を使用しなかった。また、VFN は ベトナムと日本で使用される記号の違いから混乱し、2 ケタの引き算や九九でも躓いてし まったため、文章問題よりも日本式の計算に慣れるよう支援方法を変更した。よって、ダ ブル・リライト教材(算数編)を用いたのは、VMN・VMK・FFH の 3 名である。以下に 活動スケジュールを示す。   2010 年 10 月 5日 計算能力の確認(10 問)   2010 年 10 月 12 日 ダブル・リライト教材を使用し、文章問題を解く(8 問)   2010 年 10 月 19 日 教科書の原文を解く(8 問)    4.4 調査結果及び分析  以下に、計算問題及び文章問題の正答数を示す。 表 11 調査協力者別正答数 VMN VMK FFH 計算問題(全 10 問) 8 9 9 イメージ図から適切な公式を選ぶ(全 8 問) 8 8 8 イメージ図から適切なリライト文章問題を選ぶ(全 8 問) 5 6 5 リライト文章問題から答えを求める(全 8 問) 6 4 8 教科書原文の文章問題(全 8 問) 7 8 6  計算問題では、間違いを指摘すると、すぐに自己修正することができた。また、イメー ジ図から適切な公式を選びだす作業は 3 名とも全問正解だった。しかし、イメージ図から 適切なリライト文章問題を選ぶ作業に入ると、それぞれ違った様子が観察された。VMK はイメージ図に書かかれている対象物を数え、その数と文章問題の数字が一致するものを 選ぼうとしている様子が観察された。それに対し、VMN・FFH はイメージ図に書かれて いる絵(例:おにぎり)から、文章問題中に「おにぎり」と書かれているカードを選ぼうと する様子が観察された。さらに、リライト文章問題のみを用いて答えを求める作業になる と、VMK は全て足し算をして答えを出し、VMN・FFH はリライト文章問題中の言葉から、 前の作業で使用したイメージ図を思い出そうとする姿が見られた。いずれの場合も、文章 問題を読み解き、答えを導いているとは言い難い。そこで、リライト文章問題に出てくる 言葉や表現を説明し、最後に「全部で」は「足し算」、「残りは」は「引き算」というキーワー ドを教えた。翌週、今度は教科書原文を読み、答えを求める作業を行うと、VMN は 1 問、 FFH は 2 問単純な計算間違いをしたが、3 名ともキーワードを基に答えを導き出すことが

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できた。  以上のように 3 日間にわたり、ダブル・リライト教材(算数編)を用いた活動を行ってき たが、結局キーワードを教えるや否や、原文でさえも答えを導き出せるようになったとい う事実に、イメージ図やリライト文章問題を作成する意義があるのかどうかという疑問を 抱くようになった。  しかし、リライト教材を使用しなくても正答することのできた CMH との以下のやりと りから、やはりダブル・リライト教材の必要性を感じた。以下に、CMH とのやり取りを 示す。 筆者 算数の文章問題を解くとき、どうやってるの? CMH 問題読むの面倒くさいし、わかんないから読まない。 筆者 え? じゃあ、どうやって解くの? CMH 問題の最初に出てきた数字が大きくて、次に出てきた数字が小さかったら、割り算 だよ。あとは、文の最後を読む。  CMH なりにキーワードやストラテジーを見つけ、答えを求めている。しかし、CMH が 中学や高校に進学することを考えると、このような方法を続けていては、いずれ壁にぶつ かるのではないだろうか。学年が上がるにしたがい、文章問題も複雑になり、このような キーワードやストラテジーだけでは通用しなくなるだろう。また、日本語の問題だけでは なく、文章から問題の意図を読み取り、答えを導き出すという思考力を養うことが、この 先、途切れてしまう恐れがある。唯一得意科目だと思っていた算数さえ、躓いてしまうと なると、子どもの自尊心をも傷つける可能性も否めない。やはり、一見無駄なように思え る作業でも、丁寧にステップを踏むことが大切なのではないだろうか。  また、日本語支援教室の指導員から、普段は自ら言葉を発することのない VMK が算数 の問題をやらせようとすると、「できるよ!」と自ら発言し、「全部で」「残りは」という言 葉にアンダーラインを引き、その下に「+」「−」を書いた。さらに、指導員が褒めると「簡 単、簡単」と得意げに答えたというエピソードを聞くことができた。自力で文章問題が解 けたということが VMK の自信につながったと考えられる。  日本語支援を始めた当初、VMK・VMN は沈黙を続け、うなずくのがやっとという状 態が続いていた。支援を続けるうちに、少しずつ話せるようになってきたものの、読みに 対しては、かたくなに拒んできた。国語の教科書はもちろん、日本語で書かれた文章を読 むことを拒絶してきた。しかし、本教材を用いると、得意な算数ということもあり、進ん で教材を手に取るようになった。第二言語で書かれた文章を読むことは大変負担が大き く、とくに母語の読む力も十分についていない彼らにとって、日本語での読みは大変な苦 痛が伴うことは想像に難くない。そんな彼らに、無理やり日本語を読ませようとするのは 酷である。そこで、彼らの得意な教科を通し、日本語の読みへの第一歩を踏み出すことが

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できるという点からも、このダブル・リライト教材(算数編)は有効であると考える。 5.おわりに  JSL の子どもたちにとって、読む力がまだ十分に育っていないうちに、教材を読まされ るということは苦痛に違いない。やはり、読みへの入り口は、子どもたちが心から読みた いと思うもの、興味のあるもの、得意とする分野から始めることが重要であると考える。 ほぼ自ら日本語を発することのない VMN や VMK が、算数の計算式などを解き、筆者に 見せにくる姿をみると、自分を認めて欲しいという気持ちが伝わってくる。彼らの得意な 分野を使って、読みの活動への扉を開くことが読みのアレルギーを植え付けない有効な支 援方法だと思われる。また、学習言語能力としての読む力の習得は、内容も一段と難しく なり、躓きやすい。やはり、大人であれ、子どもであれ、分からないものはつまらないと 感じるのが自然であろう。そのため、いつまでもこのようなリライト教材に頼るわけには いかないが、橋渡しとして、子どもたちに「読めた」「分かった」という経験をさせ、自信 を持たせることが彼らの読みの活動を促進し、豊かなものにしていくことにつながると思 われる。  CMH・CMT に今後、どんな本が読みたいか尋ねると、「物語は嘘、説明文は知らなか ったことが分かるから、説明文がいい。」と答えている。彼らの発言より、彼らは、新情 報を得ることに価値を見出しており、二言語併用リライトが社会科や理科へ応用できる可 能性を示していると言えよう。そのため、今後は国語科・算数科だけではなく、同じく言 語依存度の高い社会科や理科の分野においても在籍学級への橋渡しとなるようなリライト 教材の作成が求められるであろう。 参考文献 池上摩希子(1998)「教科に結びつく初期日本語指導の試み─教材『文型算数』を用いた実践 例報告」 『日本語教育』97 号 pp.118-129 石井恵理子(2006)「年少者日本語教育の構築に向けて─子どもの成長を支える言語教育と して─」 『日本語教育』128 号 pp.3-12 齊藤ひろみ(1999)「教科と日本語の統合教育の可能性 内容重視のアプローチを年少者日 本語教育へどのように応用するか」『中国帰国者定着促進センター紀要』7 号 pp.70-93 櫻井千穂(2007)「渡日直後の外国人児童の在籍学級参加への取り組み」 『日本語・日本文 化研究』(17),155-164. 日本文化研究会 柴崎秀子(2005)「第二言語のテキスト理解要因としての背景知識と語彙知識」 『日本第二 言語習得学会』4 号 pp.51-73 中田敏夫(2009)「リライト教材を用いた外国人児童の国語科学習支援の実践 ─ 0 時間学習 での導入」 『愛知教育大学教育実践総合センター紀要』12 号 pp.159-165 平田昌子(2010)「韓国人 JSL 児童生徒を取り巻く学習環境と読書力─ダブル・リライト教 材使用の試み─」 桜美林大学大学院 修士論文

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平田昌子(2011)「二言語併用リライト教材を取り入れた日本語支援の提案」 『言語教育研 究科紀要』印刷中 松田文子・光元聰江・湯川順子(2009)「JSL の子どもが在籍学級の学習に積極的に参加す るための工夫─リライト教材を用いた「日本語による学ぶ力」の育成─」 『日本語教育』 142 号 pp.145-155 Beaver, J.M.(2006) Celebration Press, Inc.

Taff y E. Raphael. (1986.) Teaching question-answer relationships revised. 39, pp.516-523.

表 1 調査協力者プロフィール 協力者 VFN CMH CMT 母 語 ベトナム語 中国語 中国語 家庭内言語 日本語(ベトナム語) 中国語 日本語(中国語) 両 親 父:日本人 母:ベトナム人 父母:中国人 父母:中国人義父:日本人 年齢・在籍学年 11 歳・小 5 11 歳・小 5 14 歳・中 1 来日時期 (来日年齢) 2010 年 4 月10 歳 7 カ月 2009 年 3 月9 歳 4 カ月 2009 年 7 月13 歳 0 カ月 ※本来の学年より  1学年下に在籍 来日前の 日本語学習歴 なし
表 2 評価項目(Raphael(1986)の枠組みを援用し筆者作成) 直接的手がかり型 (Right There) 解答がテキストの中にあり、たいていたやすく見つけられるもの。解答には単語や語句が、設問を表す文の中に含まれているもの。 分散的手がかり型 (Think and Search) 解答がストーリーの中にあり、回答者がいろいろな話の部分を集める必要があるもの。 示唆的手がかり型 (Author and You) 解答はストーリーの中にはない。読者がすでに知っていることや作者が述べていることの両方を
表 7 VFN 読む力の調査結果 物語文 「わらぐつの中の神様」 予      測 ─ 再      生 2 内 容 理解度 直接的手がかり型 4(正答率 90%)分散的手がかり型2(正答率 50%) 示唆的手がかり型 1 独立的手がかり型 2  タイトルから物語の予測、挿絵から物語の予測を試みたが、答えることができなかった。 再生では、筆者のスキャホールディングとともに、物語内で起きた出来事を順序通りに並 べることはできたが、登場人物の心情などを描写することはできなかった。 「直接的手が かり型」 「分散
表 9 CMT 読みの力の調査結果 説明文「未来をひらく微生物」 予      測 2 〜 3 要      約 2 内 容 理解度 直接的手がかり型 4(正答率 100%)分散的手がかり型3(正答率 70%) 示唆的手がかり型 3 独立的手がかり型 3  教材を読みながら、口頭でやりとりをしながら、意味を確認していく作業を 618 回 4) 行 っている。CMT には、それが楽しく感じられてきたようで、支援の終わりには、「たくさ ん話して、のどが渇いた」という感想を毎回のように言うようになった。  「直接

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