高齢者の続発性自然気胸に対する
自己血注入による胸膜癒着療法の有用性
門 脇
晋, 尾 形 敏 郎, 五十嵐 清 美
野 田 大 地, 井 上 昭 彦, 池 田 憲 政
佐 藤 尚 文
要 旨 【背景・目的】 続発性自然気胸に対する自己血注入による胸膜癒着療法について, 当科での成績を報告する. 【対象と方法】 胸腔内に自己血を注入した 9 症例を対象とした. 注入量は患者の全身状態や 血の程度に応 じて決定した. 【結 果】 9 例に合計 19 回 (平 2回) 注入した. 平 年齢 : 74.4±8.7歳, 全て男性であっ た. 8例で喫煙歴を認めた. 奏効率は 78%であり, 2例が改善せず衰弱死した. 【結 語】 自己血による胸膜 癒着療法は安全で効果的な治療方法であり, 高齢者の続発性自然気胸に対する治療の第一選択として検討す べきと えられた.(Kitakanto Med J 2014;64:237∼242) キーワード:気胸, COPD, 高齢者, 胸膜癒着療法, シルバーケア は じ め に 胸腔ドレナージで改善しない気胸に対する治療は手術 が一般的であるが, 高齢化社会の進行に伴い高度の呼吸 機能障害のため全身麻酔が困難な高齢患者が増加してい る. そのような症例では胸膜癒着療法を行う. 胸膜癒着療法に用いられる薬剤は様々なものがあるが 自己血も有効とされており, 他の薬剤のような注入に よる発熱や疼痛が少ないとされる. 当科でも胸腔ドレ ナージのみで改善しない難治性気胸を発症した高齢者数 例に自己血による癒着療法を施行したため, その成績と 有用性を報告する. 対 象 2011年 4月から 2013年 9 月の期間に気胸で当科に入 院し, 胸膜癒着療法として自己血注入を行った 9 例を対 象とした. 方 法 受診時の段階で手術適応がない, または可能性が低い と判断された場合に, 20Frのダブルルーメンチューブを 患側の胸腔内に挿入し, チェストドレーンバックに接続 した. -10cm H Oで持続吸引をした状態で数日経過観察 し, air leakが持続するようであれば胸膜癒着療法を 慮した. 自己血は通常は正中肘静脈, 確保困難であれば 橈骨動脈や大 動静脈より採取し, 直ちにダブルルーメ ンチューブより注入した. 注入量は患者の全身状態や 血の程度に応じて増減した. 他の薬剤を用いる場合は OK432 (ピシバニール) 10kE+ミノサイクリン塩酸塩 (ミノマイシン) 200mg を生理食塩水に溶いて 50mlとし たものを注入した. 注入後は患者の状態や病変の位置に 応じて体位変換やチューブの拳上を一定時間 (15∼30 ) 行った. 結 果 9 症例 (表 1) に合計 19 回 (平 2回) 注入した. 平 年齢 : 74.4±8.7歳 (57-84歳),全て男性であった.8例で 喫煙歴を認めた. 基礎疾患の内訳は慢性閉塞性肺疾患 (Chronic Obstructive Pulmonary Disease: COPD) 7例, 間質性肺炎 2例であった. 合計の自己血注入量の平 は1 群馬県富岡市富岡2073-1 立富岡 合病院外科 平成26年4月9日 受付
346±317ml (100-1070ml) であった. 自己血のみ注入した症例は 4例で, いずれも癒着療法 が成功した. OK432 (ピシバニール) 10kE+ミノサイク リン塩酸塩 (ミノマイシン) 200mg を併用した症例は 5 例であった. 全体の奏効率は 78%であり, 2例が繰り返 す癒着療法に反応せず衰弱死した. 主な症例 (表 1の症例 1, 3, 4) について提示する. 症 例 1 患 者:57歳, 男性. 主 訴:咳嗽, 呼吸困難感, 発熱 既往歴:うつ病, アルコール性肝障害 生活歴:喫煙 8本/日, 20年 現病歴:一週間前より咳嗽, 微熱あり. 歩行時の呼吸困 難感と咳嗽の増悪のため近医受診. 胸部レントゲンで左 気胸を指摘され当科紹介された. CT:左気胸を認め, 縦隔は右方に shiftしていた. 左上 肺野には複数の bullaを認めた.右肺にも bullaを多数認 めた (図 1). 経 過:胸腔ドレナージを施行し入院した. 全身麻酔下 の bulla切除術を 慮したが,右側に大きな bullaがあり 術中に右側気胸が発生する可能性があることから保存的 治療を行う方針となった. 一旦 air leakは消失したため 胸腔ドレーンを抜去し入院 12日目に退院したが, 退院 後 3日目に左気胸再燃し再入院した. 再度胸腔ドレーン を留置し胸膜癒着療法を 慮した. 肺の虚脱による胸腔 内の空間が広く,OK432(ピシバニール)+ミノサイクリ ン塩酸塩 (ミノマイシン)ではなく,ある程度の容量の投 与が可能である自己血による癒着療法を計画した. 補液 をしながら自己血 400mlを 1回, 後日 100mlを 2回注入 し air leak消失を確認, ドレーン抜去し退院した. 症 例 3 患 者:83歳, 男性. 主 訴:心窩部および背部痛 既往歴:間質性肺炎, 肺線維症, 心筋梗塞 生活歴:喫煙 20本/日, 40年 現病歴:朝から特に誘引なく心窩部痛, 背部痛を自覚し 当院受診. 胸部レントゲンで右気胸を認め胸腔ドレナー ジ後に当科入院した. CT(胸腔ドレナージ後):両側の著明な肺気腫あり.右 肺の拡張はドレナージ後にも関わらず不十 であった (図 2). 経 過:入院後も air leakは改善しなかった. 全身麻酔 表1 当科における胸膜癒着療法 自己血注入例 症例 年齢 性別 気胸既往 基礎疾患 喫煙 喫煙指数 注入回数自己血 注入量(ml) 他薬剤併用 転帰 1 57 M − COPD + 320 3 600 − 治癒 2 71 M + COPD + 1000 1 100 + 治癒 3 83 M − 間質性肺炎 + 800 3 450 − 治癒 4 77 M − 間質性肺炎 − 0 3 1070 + 死亡 5 68 M − COPD + 940 2 200 + 治癒 6 71 M + COPD + 720 1 100 − 治癒 7 84 M − COPD + 640 2 200 + 治癒 8 82 M + COPD + 800 2 200 + 死亡 9 77 M − COPD + 860 2 200 − 治癒 図1 胸部 CT 検査所見(症例 1) 左気胸を認め, 縦隔は右方に shiftしていた. 左上肺野には複数の bullaを認めた. 右 肺にも bullaを多数認めた.
は困難と判断し, 胸膜癒着療法を計画した. 当初 OK432 (ピシバニール)10kE+ミノサイクリン塩酸塩 (ミノマイ シン) 200mg を 4回行ったが, 発熱などの反応にも乏し く air leakは改善しなかった. 5回目の胸膜癒着療法と して自己血を 200ml注入した. その後 air leakは続くも のの leakの勢いは減少した. 後日 50ml, 200mlずつ注入 した段階で air leak消失を確認, ドレーン抜去し退院し た. 症 例 4 患 者:77歳, 男性. 主 訴:息切れ 既往歴:脳梗塞, 間質性肺炎のため在宅酸素療法導入後 生活歴:喫煙無し. 現病歴:息切れを認め当院内科受診. 胸部レントゲンで 右気胸を指摘され胸腔ドレナージ施行後に当科入院し た. 胸部レントゲン:右気胸あり. 胸腔ドレナージ後は右肺 の拡張を認めるものの右肺野全体の透過性が低下してい た (図 3). 経 過:OK432 (ピシバニール) 10kE+ミノサイクリン 塩酸塩 (ミノマイシン) 200mg による胸膜癒着療法を 1 度試みたが, 効果はなかった. チューブの位置を修正し, 再度 OK432 (ピシバニール)10kE+ミノサイクリン塩酸 塩 (ミノマイシン)200mg を注入したが,同様に効果を認 めなかった. 発熱や胸痛による全身状態悪化を認めたた め, 3回目は自己血注入を計画した. 肺の虚脱による胸腔 内の空間が広いため, 補液を行いながら自己血 300mlを 注入,一週間後に 400mlを注入した.Air leakは改善なく 血が進行してきたため, 赤血球濃厚液の輸血後にさら に自己血 370mlを注入したが改善しなかった. 衰弱が 徐々に進みこれ以上癒着療法は困難と判断. 症状緩和に 徹し, 入院 37日目に永眠した. 察 気胸は胸膜腔内の空気と定義され, 部 的または完全 な肺虚脱を引き起こす病態である. 気胸は自然に起こる こともあれば, 肺の基礎疾患, 外傷, または医療行為が原 因で起こることもある. COPD など肺の基礎疾患を伴 う患者に発生する場合は続発性自然気胸と称するが, 喫 図2 胸部 CT 検査所見(症例 3) 両側の著明な肺気腫あり. 右肺の拡張はドレナージ後にも関わらず不十 であった. 図3 胸部レントゲン検査所見(症例 4) 右気胸あり (左側). 胸腔ドレナージ後は右肺の拡張を認めるものの右 肺野全体の透過性が低下している (右側).
煙や社会の高齢化を背景に我々の日常診療において高齢 の続発性気胸患者が増加していると実感している. 筆者らは, 全国や群馬県平 と比較して当院の医療圏 は約 10年高齢化が進んでいること, 当科における入院 患者の平 年齢が 2002年は約 66歳, 2012年は約 70.5 歳と高齢化が急激に進行していることを提示し, 医療を 取り巻く環境の変化について述べた. 高齢者の増加に 伴い若年者と同様に検査・治療することで思わぬ合併症 が生じる可能性がある. そのため気胸に対しても高齢者 ならではの対応が要求される. 気胸の初期治療は安静, 胸腔穿刺または胸腔ドレナー ジが基本である. 気胸の治療は保存的治療, 手術治療に けられる. 肺虚脱が高度な場合や症状を有する場合は 胸腔ドレナージにより排気し, 若年者で胸腔ドレナージ を行ったにも関わらず治癒しない場合は全身麻酔下に bullaまたは bleb を切除し根治を目指す. 当科では何 らかの理由で全身麻酔が困難な症例が胸腔ドレナージの みで改善しない場合は, 胸膜癒着療法を行っている. 胸膜癒療法は胸腔ドレーンより薬剤を注入し, 胸膜と 肺実質とを癒着させることで気胸を改善させる治療法で ある. 胸膜癒着療法に用いられる薬剤にはテトラサイ クリン系抗菌薬, OK432, フィブリン糊, 自己血などが 用されている. 肺尖部を中心に癒着剤が胸腔に広がるよ うに体位変換することが重要である. 我々は難治性気胸に対する癒着剤として, 自己血に注 目した. 岡田らは自己血による胸膜癒着療法として 17 例中 13例 (76.4%) に成功したと報告している. さらに 自己血注入は間質性肺炎を基礎疾患に持つ症例において も安全性があり, 肺切除後の air leakに対しても有用と されている. 当科では胸膜癒着療法の第一選択として, OK432 (ピシバニール) 10 kE+ミノサイクリン塩酸塩 (ミノマイシン)200mg を投与してきた.OK432とミノサ イクリン塩酸塩による胸膜癒着療法を行うと発熱, 強い 疼痛を発症することが多いため, 癒着効果は高いものの 手術不能の気胸患者にとっては体力の低下が無視できな い. さらに OK432は胸膜癒着療法への 用は保険適用 外であることも問題である. そこで当科は自己血を用い た胸膜癒着療法を数例に行った. 複数回投与例も含める と当科における自己血注入例の奏効率は 78%であり, 合 併症を特に認めなかったことから, 有用な方法であると 実感した. 自己血の注入量に関して一定の見解はない. 一回の注入量は 50mlとする報告があるが, 肺切除後の air leak に対し 0ml, 50ml, 100mlとの比較では有意に 100mlが効果的であったとされており, 岡田らの施設で は注入量を 200mlと報告している. 提示した症例 1,3,4 などのように肺が虚脱したことによる胸腔内のスペース が大きい場合は 50 mlという投与量では癒着の効果とし ては不十 であり, ある程度の容量が必要と我々は え た. 当科では一回の最大注入量として, 日本赤十字社が 指定する全血献血の一回献血量 (200mlまたは 400ml) を参 とした. 一度に 200ml以上採血する場合は輸液 を行いながら時間をかけて採血し, 全身状態や 血の状 態を確認しながら安全性に配慮したことで, 処置に伴う 合併症は幸い認めなかった. 当科では良性疾患であっても全身状態が悪い高齢者に 対し, 標準治療に捉われず緩和治療を行っており, その ような医療理念, 哲学をシルバーケアと呼称している. 現在のところ 9 例という少数の経験であるが, 中でも高 度な呼吸機能低下症例にとっては自己血による胸膜癒着 療法は①副作用がない② 血がなければ繰り返し行える ③薬剤コストがかからない④注入量も制限がないといっ たメリットがあると えられ, まさにシルバーケアの理 念を体現するシンプルかつ有用な治療手段であると え られる. 自己血による胸膜癒着療法は, OK432などの薬 剤で改善しない, または処置後の体力低下が懸念され 用できない場合の選択肢として検討すべきと えられ た. 癒着成功後の症例では現在のところ合併症や再発は 認めていないが, 今後 に症例を重ねることで至適な自 己血注入量や再発率などを 慮した適応についても検討 していきたい. お わ り に 気胸に対する胸膜癒着療法における自己血注入は一定 の効果を認め, 特に全身状態の悪い症例や肺虚脱による 胸腔内の空間が広い症例への選択肢のひとつとして検討 すべきと えられた. 文 献 1. 自然気胸治療ガイドライン編集委員会 自然気胸治療ガ イドライン編. http://www.marianna-u.ac.jp/gakunai/chest/kikyou/ guaidline.htm. 2. 岡田尚也, 成田吉明, 井上 玲ら. 難治性気胸に対する胸 膜癒着療法の臨床的検討. 臨床と研究 2012; 89 : 1251-1255.
3. Aihara K, Handa T, Nagai S, et al. Efficacy of blood-patch pleurodesis for secondary spontaneous pneumothor-ax in interstitial lung disease. Intern Med 2011; 50: 1157-1162.
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9. 呉屋朝幸編. 一般外科医のための呼吸器外科の要点と盲 点, 文光堂 2008.
10. 日本赤十字社ホームページ
Efficacy of Pleurodesis with an Autologous Blood Patch
for Secondary Spontaneous Pneumothorax
in Elderly Patients
Susumu Kadowaki,
Toshiro Ogata,
Kiyomi Igarashi,
Daichi Noda,
Akihiko Inoue,
Norimasa Ikeda
and Naohumi Sato
1 Department of Surgery, Tomioka Public General Hospital, 2073-1 Tomioka, Tomioka, Gunma 370-2393, Japan
Background: We herein report our findings of a study on the performance of pleurodesis by means of placing an autologous blood patch into the refractory pneumothorax. M ethods: We retrospectively reviewed 9 cases who had an autologous blood patch injected into thoracic cavity. The injection rate was determined according to the level of the patients overall status and anemia. Results: Autologous blood patches were thus injected 19 times in a total of 9 cases. The average age was 74.4±8.7years old, and all cases were males. Eight of the 9 patients reported a history of smoking. The response rate was 78%, and 2 cases did not show an improvement in pneumothorax and died. Conclusion : The perfor-mance of autologous blood patch pleurodesis is therefore considered to be a safe and effective treatment method. This method should therefore be used as a first line treatment for secondary spontaneous pneumothorax in elderly patients.(Kitakanto Med J 2014;64:237∼242)