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新たな脳機能制御システムを求めて

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Academic year: 2021

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新たな脳機能制御システムを求めて

西

脳では神経細胞やグリア細胞など, 多様な細胞が高次 細胞間コミュニケーションを形成しています. この細胞 間コミュニケーションを制御する 子シグナルは脳機能 を支える 子基盤であり, その変化・異常は脳機能の低 下や喪失, 脳疾患に直結します. 私の現在の研究テーマ の 1つは, このような細胞間コミュニケーションの制御 メカニズムを新たに見出し, 脳を 全に保つための知見 とすることです. 私は大学院でタンパク質工学を学んだ後, 1993年より 三菱化学生命科学研究所で神経系の研究を開始しまし た.ここでは高橋正身先生 (現 北里大学医学部)の下,研 究テーマの 1つとして神経伝達物質放出過程におけるタ ンパク質チロシンキナーゼの機能解析に取り組みまし た. 細胞の機能制御に関わる様々な 子シグナルの中で, タンパク質チロシンリン酸化は基本的に多細胞動物に特 徴的なシグナルで, 酵母などの単細胞生物には明確なタ ンパク質チロシンリン酸化シグナルのシステムは存在し ません. すなわち, チロシンリン酸化シグナルは, 多細胞 動物の特徴である生物個体内での細胞間コミュニケー ションの制御に関連して発達したシステムである可能性 があります. このような観点から, タンパク質チロシン リン酸化を手がかりに, シナプス伝達という細胞間コ ミュニケーションを制御する新しいシグナルシステムを 見出そうという方針は, 現在の私の研究にもつながって います. タンパク質チロシンキナーゼである Srcファミ リーは細胞の増殖や 化を制御するがん遺伝子ですが, 増殖・ 化を終えた成熟神経細胞における機能, 特にシ ナプス前部における機能はほとんど知られていませんで した. 解析の結果, Srcファミリーが Ca 依存性の神経 伝達物質放出を抑制的に制御することを新たに発見し, Srcファミリーチロシンキナーゼによる神経伝達物質放 出の抑制的制御として報告することができました. また同じ時期に藤田忍, 佐野慎一郎 両先生と共に取り 組 ん だ Srcファミ リーの 基 質 子 SIRPα (Signal-regulatory protein α) の機能解析は, 現在も重要な研究 テーマとなっています. SIRPαは私たちのグループが独 自に見いだしたイムノグロブリンスーパーファミリーに 属する膜タンパク質で, 細胞内領域にはチロシンリン酸 化を受ける ITIM (immunoreceptor tyrosine-based inhibi-tion motif) と呼ばれるモチーフをもちます.SIRPαの 子構造は免疫系の細胞間コミュニケーションに重要な T 細胞受容体や B細胞受容体と高いホモロジーを示すこ とから, このような膜型 子が神経系の新しい細胞間コ ミュニケーションシグナルとして機能することが期待さ れました. それ以降, SIRPαの下流シグナル 子として チロシンホスファターゼ Shp2を同定するなど, シグナ ル伝達経路の解析を進めてきましたが, 2001年からは, それまで全く独立に SIRPαの研究に取り組んでおられ た的崎尚先生 (現 神戸大学医学部) からお声がけをいた だき, 群馬大学生体調節研究所で研究を継続する機会を 得ました. 群馬大学では遺伝子改変動物の行動解析など を取り入れた解析を進め, この 子を中心とする脳内シ グナルが動物のストレス応答行動を制御することなどを 明らかにしてきました. 一方,的崎先生のご指導の下,免 疫系や内 泌系などでの機能解析にも携わり, 貪食作用 の抑制, 免疫系樹状細胞の寿命制御, インスリンの恒常 性制御 など, 私が予想していなかった様々な機能が明 349 Kitakanto Med J 2014;64:349∼350 1 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院保 学研究科生体情報検査科学講座 平成26年8月21日 受付 論文別刷請求先 〒371-8514 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院保 学研究科生体情報検査科学講座 大西浩

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らかになる過程に立ち会い, 研究のおもしろさを改めて 実 感 す る こ と が で き ま し た. こ れ ら の 研 究 領 域 は, SIRPαのリガンドとなる 子標的医薬の開発などに注 目されており, 今後, 実践的な臨床応用が期待されてい ます. 2013年からは群馬大学大学院保 学研究科に異動さ せていただき, 現在は特に, 脳内免疫系の恒常性を制御 するシグナルシステムとしての SIRPα役割に着目して 研究を進めています. この研究テーマは, これまで免疫 系と神経系で別々に行ってきた研究が融合する中で浮か び上がってきたものであり, 脳の老化や病態にかかわる ミクログリアを中心として脳内炎症反応の制御機構を解 明することを目標としています. また SIRPαの下流シ グナル 子 Shp2や, SIRPαのリガンドである CD47に ついても, 遺伝子改変動物を用いて脳高次機能における 機能解析を進めており, これらの成果を統合して脳内細 胞間コミュニケーションシステム理解の一助となる知見 を得たいと えています. これまで私は, 研究を通じて多くの師に恵まれ, また 学内外の多くの先生方からのご支援に支えられてまいり ました. さらに保 学科に異動後は学部・大学院教育に 深く関わらせていただき, その面でも多くの先生方から 常に温かいご指導を頂戴しており, 深く感謝いたしてお ります. 自らの研究・教育活動を医学保 学 野の発展 にどのように結びつけていくか, まだまだ模索中ではあ りますが, 学生達のあふれるエネルギーに鼓舞されなが ら, さらに精進を続ける覚悟を日々新たにしております. どうか今後ともご指導, ご支援の程, よろしくお願いい たします. 文 献

1. Ohnishi H, Yamamori S, Ono K, et al. A src family tyrosine kinase inhibits neurotransmitter release from neuronal cells. Proc Nat Acad Sci, USA 2001; 98: 10930-10935.

2. Ohnishi H, Sato K, Ohtake A, et al. Activation of protein tyrosine phosphatase SH-PTP2 by a tyrosine-based activation motif of a novel brain molecule. J Biol Chem 1996; 271: 25569-25574.

3. Ohnishi H, Murata T, Kusakari S, et al. Stress-evoked tyrosine phosphorylation of SIRPα regulates behavioral immobility in the forced swim test. J Neurosci 2010; 30: 10472-10483.

4. Matozaki T, Murata Y, Okazawa H, et al. Functions and molecular mechanisms of the CD47-SIRPα signal-ling pathway. Trends Cell Biol 2009 ; 19 : 72-80. 5. Saito Y, Iwamura H, Kaneko T, et al. Regulation by

SIRPα of dendritic cell homeostasis in lymphoid tissues. Blood 2010; 116: 3517-3525.

6. Koshimizu H,Takao K,Matozaki T,et al. Comprehen-sive behavioral analysis of cluster of differentiation 47 knockout mice. PLoS ONE 2014; 9 : e89584.

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